言及・オマージュ
References

紙媒体

[コミック] フォーチュン・クエスト ツミレの花咲く里

 深沢美潮原作・迎夏生作画によるファンタジーコミック。連載は1992年から1993年にかけて。単行本では初出の電撃コミックスEX版が1冊(2巻)にまとまっているが、のちに再発売された電撃コミック版では2巻と3巻の2冊にまたがって収録。本作に登場する花好きのおじさん、マイヤーさんについて、「モデルは名探偵ポアロのデビッド・スーシェ」という記述がある。

[英文化解説書] イギリスの窓文化

 三谷康之著、開文社出版、1996年。イギリスの多様な窓を、それが登場する文学や映画などと絡めて写真とともに紹介する一冊。そのなかで、弓形出窓の事例として「スズメバチの巣」のヘンダーソン夫人の薬局のショーウィンドーが言及されている。ただ、そのショーウィンドーは、文中で「見事なこしらえ」と評されているものの、おそらくセットである。

[ミニ百科] エニックスミニ百科⑧ 完全保存版 名探偵大百科

 エニックス(現スクウェア・エニックス)、1997年。テレビゲームの情報などをまとめたエニックスミニ百科シリーズの第8弾で、アニメやドラマ、コミックで活躍する名探偵・大怪盗を紹介する一冊。 Agatha Christie's Poirot は日本クラウンから発売されていたVHSビデオに拠って「名探偵エルキュール・ポアロ」のタイトルで掲載されており、ポワロとヘイスティングスの紹介のほか、「スタイルズ荘の怪事件」のあらすじやクリスティーが小説家になった経緯が紹介されている。なお、「人物ファイル」や「名ゼリフはコレだ!」に書かれている内容に、おそらく厳密な典拠はない。

[伝記] なぜアガサ・クリスティーは失踪したのか? 七十年後に明かされた真実

 ジャレッド・ケイド著、中村妙子訳、早川書房、1999年。クリスティーの親友の娘夫婦から新証言を得て、失そう事件の真相とその後をつまびらかにまとめた伝記 Agatha Christie and the Eleven Missing Days の邦訳で、原著刊行は1998年。クリスティーの失そう事件に着想を得て始まった新聞の人捜し企画に関連して、「グランド・メトロポリタンの宝石盗難事件」への言及がある。

[エッセイ] 天声美語

 美輪明宏著、講談社、2000年。新装版は2021年。同社の雑誌『VOCE』での連載に加筆修正し、書き下ろしを加えてまとめた一冊。その特別付録として収録された「美へ誘う『美輪リスト』」の「見ておくべき洋画」の項に、劇場映画以外では唯一の選出として「テレビ映画では、英国の探偵モノで『ポワロ』シリーズ。音楽、衣装、美術、カメラ、照明がアール・デコの時代の雰囲気をじつによく出しています」という記述がある。なお、著者の美輪明宏さんは、自身のラジオ番組「美輪明宏の薔薇色の日曜日」でも、好きなテレビドラマとして「名探偵ポワロ」を紹介し、テーマ曲である Hercule Poirot - The Belgian Detective を流したことがある。

[評論] 越境する本格ミステリ―映画・TV・漫画・ゲームに潜む本格を探せ!

 小山正・日下三蔵監修、扶桑社、2003年。小説以外の本格ミステリ作品を広く紹介する一冊。1ページを割いた「名探偵ポワロ」の記事は吉田淳さんの担当で、ドラマ制作の経緯などが紹介され、ジェレミー・ブレット主演の「シャーロック・ホームズの冒険」と比較するのは酷だがきわめて良質の本格ミステリシリーズであるとの評。また、巻末の「見巧者十七人が薦める私のジャンル別ベスト3&隠し玉」では、若竹七海さんがTVの第3位として「ポワロのクリスマス」を挙げ、「原作ものとしては最良の脚色」と評価している。

[コミック] チムニーズ館の秘密

 榛野なな恵作、クイーンズコミックス(集英社)、2006年。クリスティーの『チムニーズ館の秘密』、『忘られぬ死』、『ゼロ時間へ』を原作とする、「チムニーズ館の秘密」、「追憶のローズマリー」、「ソルトクリークの秘密の夏」の3篇を収めたコミック。描き下ろしのあとがきの中で、「名探偵ポワロ」やその中のミス・レモンへの言及がある。

[インタビュー] 落第忍者乱太郎 50

 尼子騒兵衛作、あさひコミックス(朝日新聞出版)、2011年。朝日小学生新聞で連載されてきた、戦国時代を舞台に忍者の卵〈忍タマ〉たちの騒動を描くコミックの第50巻。巻末の著者インタビューのなかで、好きな海外ドラマの一つとして「名探偵ポワロ」を挙げ、「熊倉一雄さんの語り口がすばらしい」との評。アニメ化タイトルは「忍たま乱太郎」。

[回顧録] 表裏井上ひさし協奏曲

 西舘好子著、牧野出版、2011年。劇作家井上ひさしさんの元夫人、西舘好子さんによる回顧録。井上さんが劇作家としてデビューを飾った劇団テアトル・エコーとの関係を回想するなかで、熊倉一雄さんとの想い出や、熊倉さんとポワロの印象の共通点などが語られる。

[評論] ミステリ映画の大海の中で

 小山正著、アルファベータ、2012年。タイトルには「ミステリ映画」とあるものの、映画に限らず映像ミステリについて広く扱った一冊で、早川書房の『ミステリ・マガジン』誌に掲載された原稿を中心にまとめたもの。「名探偵ポワロ」についても、同誌2012年7月号に掲載された「やっぱりすごい、名探偵ポワロ」のほか、複数回言及されている。

[小説] フェリシティの面接

 津村記久子作、『群像』2013年12月号(講談社)に発表、のち『名探偵登場!』(講談社・2014年)、同(講談社文庫・2016年)に収録。職業安定所の年1回の面接を受けるミス・レモンを描いたパスティーシュの短篇小説で、彼女が戦争中に死体置き場で働いていたという設定は、「あなたの庭はどんな庭?」で言及されたドラマ独自の設定が反映されている。

[エッセイ] 三谷幸喜のありふれた生活 (735・884・885・965)

 三谷幸喜さんが朝日新聞で連載している連載エッセイ。三谷幸喜さんが脚色したドラマと絡め、第735回では「ポアロの髪の毛は?」と題してポワロの体型や髪の毛について、第884回では「ポワロ映像化あれこれ」と題して「オリエント急行の殺人」の映像化作品に言及し、スーシェ演じるポワロや「名探偵ポワロ」での脚色について語られる。第885回も三谷幸喜さん脚色の「黒井戸殺し」(「アクロイド殺人事件」と同原作)に関する話題だが、「名探偵ポワロ」への言及は前回の訂正のみ。第965回「探偵小説の醍醐味を満喫」では、アンソニー・ホロヴィッツの小説『メインテーマは殺人』を紹介し、最初にホロヴィッツの名前を知った経緯として「名探偵ポワロ」が言及される。新聞掲載はそれぞれ2015年1月15日、2018年2月15日、2018年2月22日、2019年10月24日の夕刊で、第735回は単行本第14巻『いくさ上手』、第884回および第885回は単行本第16巻『予測不能』に収録されているが、第965回は単行本未収録。なお、三谷さん脚色「死との約束」放送に際しては、「名探偵ポワロ」への直接の言及はない。
  • 題名や回数、新聞掲載日はいずれも関東版のものです。

[評論] このミステリーがひどい!

 小谷野敦著、飛鳥新社、2015年。古今東西のミステリーをめったやたらに切り捨てる一冊で、クリスティー作品もその例外ではないが、ドラマとしては「エッジウェア卿の死」「アクロイド殺人事件」のアレンジが評価されている。なお、原作やほかの映像化作品も含めて、前述の2作のほかに「オリエント急行の殺人」「カーテン ~ポワロ最後の事件~」の真相や重要な手がかりへの言及があるので注意。

[旅行ガイド] ブルーガイド わがまま歩き6 ロンドン

 ブルーガイド編集部編集、実業之日本社、2016年ほか。観光ガイドブック「わがまま歩き」シリーズのロンドン篇。2016年に刊行された第11版では、クラーケンウェル地域のおすすめスポットに、「名探偵ポワロ」でポワロの住むホワイトヘイブン・マンションとして撮影に使われたフローリン・コートが紹介されるようになった。ただし、2012年刊行の第9版から「チャーターハウスの中庭から臨むグレート・ホール」として紹介されていた写真は、実際にはそのキャプションのとおりではなく、チャーターハウス・スクエアのガーデン越しに望むフローリン・コートのものだった。また第11版では、「ミステリーの女王の輝かしい軌跡を辿る」という半ページの特集があり、クリスティーのかつての家や銅像などが紹介されているほか、ハリー・ポッターのロケ地として挙げられている2代目ニュー・スコットランド・ヤードの紹介でも、「名探偵ポワロ」にもしばしば登場した旨が言及されている。

[小説] シャーロック・ホームズの十字架

 似鳥鶏作、講談社タイガ(講談社)、2016年。超人的な集中力と独創性を発揮するホームズ遺伝子群保有者を見つけるためだけに不可能犯罪をお膳立てする「機関(シンクタンク)」と戦う主人公たちの活躍を描く、御子柴シリーズの第2巻。第3話「象になる罪」に登場する福岡県警の古賀警部補が、作中で「口髭をカイゼルにしたら完全にデヴィッド・スーシェのポワロだな」と評される。古賀警部補からは「灰色の脳細胞ちゅうやつですか」との発言も。

[イラスト] ミステリマガジン No. 721 2017年3月号

 早川書房、2017年。特集「そしてクリスティーはいなくならない」掲載号。その特集のなかの創作エッセイ「黒猫の付髭あるいはクリスティー講義」の丹地陽子さんによる挿絵では、「名探偵ポワロ」のポワロの部屋にある椅子が描かれている。なお、(人間の)黒猫が座っているのが前期の56B号室の食事用テーブルに据えられた椅子で、付き人が脇に立っているのが後期の203号室のリビングに置かれた椅子である。

[評論] 21世紀本格ミステリ映像大全

 千街晶之編著、原書房、2018年。映像における本格ミステリ作品を幅広く紹介したガイドブック。「名探偵ポワロ」については「海外ドラマ」の章の劈頭で2ページを割いて紹介されており、紹介文の執筆者は本書の編者でもある千街晶之さん。熊倉一雄さんについても言及あり。

[小説] カーテンコール

 法月綸太郎作、『メフィスト』2018年 Vol. 1 および Vol. 2 (講談社)に発表、のち『法月綸太郎の消息』(講談社・2019年)に収録。作者と同名の推理作家、法月綸太郎が登場するシリーズの短篇小説の一作にして、登場人物がクリスティーのポワロ作品の再解釈に挑む一篇で、「名探偵ポワロ」でのキャスティングや、「ビッグ・フォー」での原作からの改変などにも言及される。なお作中には、「ビッグ・フォー」の原作単行本について、「雑誌に発表したままの短編をつなぎ合わせて一冊にまとめたもの」とあるが、実際には単行本化に際して加筆や章立ての再構成がおこなわれている。また、ポワロの執事、ジョージの原作での初登場についても「一九二八年の『青列車の秘密』」と書かれているが、実際は1926年の「負け犬」の雑誌掲載時である。加えて、ポワロが敬虔なカトリック教徒であることが「作中に明記されたのは『ヘラクレスの冒険』と翌四八年の『満潮に乗って』だった」とあるが、該当の記述がある『ヘラクレスの冒険』所収の短篇「ヘスペリスたちのリンゴ」の発表は1940年であり、また1923年発表の「チョコレートの箱」原作に、すでにポワロが自らを敬虔なカトリックと自認する台詞がある。

[英語学習書] LONDON WALK イギリス英語とロンドンの歴史・文化を一緒に学ぶ

 ロイ・ヒギンズ、小川・ヒギンズ・美穂子、臼井俊雄著、ベレ出版、2018年。ロンドンの名所や歴史、文化を、イギリス英語の文章や会話で学ぶ一冊。そのトピックに Agatha Christie's Poirot に関するものがあり、ポワロの住むホワイトヘイブン・マンションとして使われたフローリン・コートや、「白昼の悪魔」の舞台となったバー・アイランドへの言及があるほか、スーシェ演じるポワロの写真を参考にしたと見られるポワロのイラスト(手の指が6本になっているけど)が載っている。ほかのトピックでは、 Agatha Christie's Poirot にも登場する大英博物館自然史博物館サマセット・ハウス、チェルシー・フラワー・ショーやアルバート・ブリッジなどの紹介も。なお、本書中で「ホワイトヘイブン・マンション」は英語で Whitehaven Mansion と書かれているが、本来は Whitehaven Mansions と複数形である。

[イラスト] アガサ・クリスティーとコーヒー

 井谷善惠著、いなほ書房、2018年。クリスティーの長篇作品とコーヒーの関連を横断的にまとめた一冊で、季刊誌『珈琲と文化』に掲載された原稿に加筆修正をおこなって単行本化したもの。本文にはドラマ「名探偵ポワロ」への言及はほとんどないが、表紙を飾る奥山義人さんの木版画は「名探偵ポワロ」をモチーフとしている。

[小説] カササギ殺人事件 上・下

 アンソニー・ホロヴィッツ作、山田蘭訳、創元推理文庫(東京創元社)、2018年(原書刊行は2016年)。「100万ドル債券盗難事件」以降、「名探偵ポワロ」11作品の脚本を手がけたアンソニー・ホロヴィッツによるオリジナルミステリ小説。クリスティー作品へのオマージュがふんだんに詰め込まれた作中作では、ポワロを思わせる外国人探偵の住まいが、「名探偵ポワロ」でホワイトヘイブン・マンションとして撮影に使われたフローリン・コートをモデルにしていたり、その助手の苗字フレイザーが、「名探偵ポワロ」でヘイスティングスを演じたヒュー・フレイザーから取られたりしている。なお、下巻には「《オテル・ジュヌヴィエーヴ》だけど、『ゴルフ場殺人事件』にはこれと同じ名のホテルが登場する」という記述があるが、ドラマの「ゴルフ場殺人事件」を見てもわかるように、ジュヌヴィエーヴ荘はポール・ルノーの自宅の名であって、ホテルの名ではない。原文は正しく villa (ヴィラ) である。

[逸話集] 奇譚百物語 死海

 丸山政也著、竹書房文庫(竹書房)、2019年。世界各地の怪異にまつわる奇譚を集めた一冊で、その「三十九 ポアロのマンション」では「名探偵ポワロ」でポワロの住むホワイトヘイブン・マンションの所在地として撮影に使われたチャーターハウス・スクエアに関するエピソードが紹介されている。

[インタビュー] kotoba 2019年夏号

 集英社、2019年。「シャーロック・ホームズとコナン・ドイル」特集号。シャーロック・ホームズの公式続篇である『絹の家』や『モリアーティ』を手がけたアンソニー・ホロヴィッツへのインタビューのなかで、ドラマ「シャーロック・ホームズの冒険」でホームズを演じたジェレミー・ブレットと対比して、「私にとってスーシェは最も原作に近いベスト・ポアロです」という発言が出る。

[小説] メインテーマは殺人

 アンソニー・ホロヴィッツ作、山田蘭訳、創元推理文庫(東京創元社)、2019年(原書刊行は2017年)。「100万ドル債券盗難事件」以降、「名探偵ポワロ」11作品の脚本を手がけたアンソニー・ホロヴィッツによるオリジナルミステリ小説。作者のホロヴィッツがワトスン役として作中に登場し、「名探偵ポワロ」や「刑事フォイル」など、かつて自身が手がけた作品への言及がある。

[インタビュー] 忍たま乱太郎キャラクター語録一〇〇

 玄光社、2019年。アニメ「忍たま乱太郎」の台詞を、解説や、原作者の尼子騒兵衛さんのコメントともに紹介する本。その巻末の尼子騒兵衛さんへのインタビューで、「印象に残っている好きなセリフ」として紹介されている伏木蔵の台詞の元ネタは、「もの言えぬ証人」のイザベル・トリップの台詞である。

[小説] その裁きは死

 アンソニー・ホロヴィッツ作、山田蘭訳、創元推理文庫(東京創元社)、2020年(原書刊行は2018年)。前掲『メインテーマは殺人』につづく、著者のホロヴィッツ自身がワトスン役を務めるミステリ小説シリーズの第2作。ホロヴィッツが脚本を担当した〔» 作品の題名を表示〕のことと見られる手がかりへの言及があるが、実際にはその手袋は女性用ではなく、またイニシャルがついていたのは手袋と同時に発見されたシガレットケースのほうであり、さらにその文字は H ではなく BP であって、おそらく〔» 作品の題名を表示〕のハンカチと混同されている。

[小説] ヨルガオ殺人事件 下

 アンソニー・ホロヴィッツ作、山田蘭訳、創元推理文庫(東京創元社)、2021年(原書刊行は2020年)。前掲『カササギ殺人事件』の続篇。ドラマ「名探偵ポワロ」への直接の言及やオマージュは前作ほどには出てこないものの、真相の披露にあたって「わたし自身、デイヴィッド・スーシェ演じるエルキュール・ポワロ(中略)がこんな場面を演じるのを、合計で百回は観てきたはずだ。一室に集めた容疑者に、ひとりずつ順々に焦点を当てていき、最後に犯人を暴くという形式」という記述が登場する。ところで、作中では「ナイルに死す」原作を「短めの小説」とし、その長さを「六万語強」と書いているが、これは Goodreads の情報に依拠した誤りのようで[1]、実際は8万語以上の長さがあって、クリスティーの小説のなかでも最も長い部類の作品である。
  1. [1] How long is an average Christie book? — The Agatha Christie Community Forum Archive

[エッセイ] イギリスの飾らないのに豊かな暮らし365日―英国の人たちから学びたい毎日を心地よく過ごすための鍵

 江國まゆ著、自由国民社、2022年。イギリスの日々の暮らしに1年365日を通じて触れるというコンセプトで、1日あたり1ページずつ、イギリスの文化や生活を紹介する一冊。その10月6日の記事で、「イギリス人自身による英国観を知るのにもってこいのドラマ」として Agatha Christie's Poirot が紹介されている。

[ブックガイド] やりなおし世界文学

 津村記久子著、新潮社、2022年。小説家の津村記久子さんによる世界文学案内。そのなかで『パーカー・パイン登場』を紹介する「レモンの上司がパインとは」は、「好きな架空のキャラクターというと、今はミス・レモンをいちばんに挙げる」と始まって、ドラマ「名探偵ポワロ」を交えた彼女の人物造形が語られ、演じるポーリーン・モランにも言及される。当該回の初出は、『本の雑誌』(毎日新聞社)2013年9月号。

[小説] 殺しへのライン

 アンソニー・ホロヴィッツ作、山田蘭訳、創元推理文庫(東京創元社)、2022年(原書刊行は2021年)。前掲『メインテーマは殺人』『その裁きは死』につづく、著者のホロヴィッツ自身がワトスン役を務めるミステリ小説シリーズの第3作。前2作と比べてホロヴィッツの実際の仕事への言及は抑えられているが、主役のホーソーンが文芸フェスのトークショーで紹介される際に、「これから聞かせていただくお話は、『名探偵ポワロ』、あるいは『バーナビー警部』のエピソードではなく」という発言が出る。なお、作中には〈エルキュール・プログラム〉なるものも登場するが、こちらに「名探偵ポワロ」との関連はない。

[イラスト] 少年エース 2023年12月号

 KADOKAWA、2023年。その表紙イラストでは、あらゐけいいちさんによるマンガ『日常』のキャラクターたちが名探偵の恰好に扮しており、そのなかでポワロに扮した東雲なのが、「名探偵ポワロ」でポワロが旅行先などで手にしている、持ち手部分が望遠鏡になったステッキに手を置いている。

[伝記] アガサ・クリスティー とらえどころのないミステリの女王

 ルーシー・ワースリー著、大友香奈子訳、原書房刊、2023年。失そう事件やその生涯について、個人としてのクリスティーに焦点を当てて再評価をおこなった伝記 AGATHA CHRISTIE: A Very Elusive Woman の邦訳で、原著刊行は2022年。クリスティー作品の「伝統のノスタルジア」というイメージや、現在のヘイスティングスの大きな存在感について、 Agatha Christie's Poirot などのテレビドラマの影響を指摘している。

[医学誌] BRAIN and NERVE 2023年12月号

 医学書院、2023年。脳・神経を専門とする医学誌の「アガサ・クリスティーと神経毒」特集号。酒井邦嘉氏による論文「コニイン『五匹の子豚』」において、ドラマの「五匹の子豚」にも言及があり、「原作を読んでから観ても,観てから読んでも楽しめるだろう」との評。

[ブックガイド] クリスティを読む! ミステリの女王の名作入門講座

 大矢博子著、東京創元社、2024年。クリスティー作品の巻末解説を多く手がけ、カルチャー講座「アガサ・クリスティを読む」の講師も務める書評家の大矢博子さんが、各章のテーマごとにおすすめ作品の魅力を語る一冊。クリスティーの小説の紹介と解説がメインだが、ちょこちょこ「名探偵ポワロ」への言及もある。また、嶽まいこさんによるカバーイラストでは、「名探偵ポワロ」でポワロが使っている、持ち手が望遠鏡になったステッキらしき杖も描かれている。ということは、そのそばに置かれた時計も「夢」の……?

[イギリスガイド] 伝統と文化から世界が見える! イギリスを知る教科書

 君塚直隆監修、ナツメ社、2024年。イギリスという国について、歴史・社会・文化・芸術・生活といった様々な観点から紹介する一冊。「英国の推理小説」の項にはクリスティーも取り上げられており、ポワロの紹介に「チョコレートの箱」の一場面の写真が添えられている。

映像作品

[アニメ] 氷菓

 米澤穂信原作・京都アニメーション制作で2012年に放送された TV アニメシリーズで、 DVD と Blu-ray が発売されている(Blu-ray はボックスもあり)。第12話からの後期エンディングでは、登場人物の一人である伊原摩耶花が、襟のブローチや白鳥の柄をしたステッキなど「名探偵ポワロ」でのポワロを意識した恰好をしているほか、ヘイスティングスの愛車と同じラゴンダ社の車に乗っている。ただし「名探偵ポワロ」でヘイスティングスが乗っている車とは型が異なり、当時 lagonda で画像検索すると上位に表示されていた別の型の車の画像を参考にしたと思われる。

[アニメ] 遊☆戯☆王ARC-V

 高橋和希原作、ぎゃろっぷ制作で放送された TV アニメシリーズ。その3代目のエンディングテーマ「ARC of Smile!」の映像には登場人物たちが探偵の恰好をしているカットがあり、権現坂昇の恰好は「名探偵ポワロ」のポワロの影響を感じさせる。

[アニメ] 3月のライオン 第2シリーズ第1話(通算第23話)

 羽海野チカ原作・シャフト制作で放送された TV アニメシリーズの2017年10月14日放送回。 DVD および Blu-ray では第5巻に収録。午後4時から開始される将棋名人戦の放送に備えてテレビをつけた場面で「オリエント急行の殺人」と思しき映像が流れ、その後チャンネルが切り替えられる。しかし、一部場面の映像や台詞、場面の並びは「オリエント急行の殺人」そのままではない。

[アニメ] クラシカロイド 第2シリーズ第9話「○のない世界」

 バンダイナムコピクチャーズ制作で放送された TV アニメシリーズの2017年12月2日放送回。登場人物の一人である神楽奏助が、襟のブローチや白鳥の柄をしたステッキなど「名探偵ポワロ」でのポワロを意識した恰好をする。作中では、「カーテン ~ポワロ最後の事件~」で印象的に使われたショパンの「雨だれ」のメロディーを使った歌も流れる。

[イラスト] 小林さんちのメイドラゴン Blu-ray & DVD Vol. 6

 クール教信者原作・京都アニメーション制作で2017年に放送された TV アニメシリーズの Blu-ray/DVD 第6巻の特典イラストカードに、ポワロを思わせる恰好をしたカンナが描かれている。上着の襟はコートに隠れていてブローチをつけているかわからないが、手にしたステッキは金属製と見られる柄がドラゴンをかたどっていて、「名探偵ポワロ」でポワロが持つ白鳥の柄のステッキを思わせる。なお、このイラストでは上着の上に懐中時計の鎖をつけているが、ポワロが(というか、一般に)懐中時計の鎖をつけるのはベストである。

[映画] パディントン2

 マイケル・ボンドの児童文学を原案に、ポール・キング監督・脚本、ベン・ウィショー主演で2017年に公開(日本での公開は2018年)された映画。ヒュー・グラント演じる俳優のフェニックス・ブキャナンが「名探偵ポワロ」のポワロを思わせる衣装を自宅に所持しており、またスーシェの演技を思わせる口調でポワロの台詞を話す場面がある。ただし、日本語版の斉藤工さんによる吹替は、熊倉一雄さんの演技を思わせる口調ではなく、原語の雰囲気をそのまま日本語に移したような口調である。
 なお、本作でブラウンさんを演じるヒュー・ボネヴィルは「オリエント急行の殺人」にもマスターマン役で出演。同じ「オリエント急行の殺人」でドラゴミノフ公爵夫人役を演じたアイリーン・アトキンスや、「スズメバチの巣」でクロード・ラングトン役を演じたピーター・カパルディも出演している。

[TV] アガサ・クリスティーの世界

 英 Knickerbockerglory 制作、 Channel 5 放送、2019年。クリスティーの人生や社会情勢を辿り、その創作の秘密にせまるドキュメンタリー番組。日本での初放送は NHK BS1 「BS世界のドキュメンタリー」枠で、その後、Eテレの「ドキュランドへようこそ」枠で地上波放送された。日本語版ナレーションは「五匹の子豚」のエルサ役や「ヘラクレスの難業」のアリス役の吹替も務めた深見梨加さん。法医学の視点がもっとも顕著に表れている作品として「ナイルに死す」が紹介され、上下をトリミングしたハイビジョンリマスター版のドラマ映像(英語音声・独自の日本語字幕)も流れる。

[TV] グレーテルのかまど「名探偵ポアロのチョコレート」

 NHKエデュケーショナル制作、NHK放送、2021年。ヘンゼルと魔法のかまどのやりとりでお菓子にまつわる物語を紹介しながら、そのお菓子を実際につくってみる教養料理番組の2021年2月1日放送回。「名探偵ポアロのチョコレート」と題して「チョコレートの箱」がフィーチャーされ、その英語音声・日本語字幕のドラマ映像(ハピネット・ピクチャーズの DVD を用いたと見られる)も流れるほか、一部の BGM には「名探偵エルキュール・ポアロ オリジナル・TVサウンドトラック」収録楽曲が用いられた。ほかに「三幕の殺人」「杉の柩」「葬儀を終えて」も紹介されるが、こちらにドラマ映像の利用はない。なお、番組で紹介された「チョコレートの箱」の内容は、原作とドラマオリジナルの要素が混ざっている。

[アニメ] アリス・ギア・アイギス Expansion 第6話

 株式会社ピラミッド開発のゲームを原作に、ノーマッドが制作した TV アニメシリーズの2023年5月8日ほか放送回。登場人物たちが金田一耕助やシャーロック・ホームズなどの推理小説のキャラクターに扮するなか、その一人リタ・ヘンシェルがポワロに扮する。その際、上着の襟にアクセサリーを留めていることや、手にしたステッキの持ち手の形状(カットごとに変化するけど)に、「名探偵ポワロ」のポワロの恰好の影響が感じられる。

ラジオ

[インターネットラジオ] セブン-イレブン presents 佐倉としたい大西 第265回

 声優の佐倉綾音さんと大西沙織さんがパーソナリティを務めるインターネットラジオ番組の第265回。超A&G!および音泉で2021年4月27日配信。佐倉綾音さんに似た人物として「鳩のなかの猫」のジュリア・アップジョンを挙げるリスナーの投稿が紹介され、「あ、待って、なんか特徴捉えてない? わたしの」「え、似てんだけど!」とのご本人の評。なお、「名探偵ポワロ」でジュリア・アップジョンの声を吹き替えたのは、佐倉綾音さんとも共演作品のある嶋村侑さんである。

[ラジオ] まいラバ ~My Life's Bible~ 2023年10月15日放送回

 声優のまぶち凛恵さん・中村繪里子さん・伊藤成秀さんによる、人生のバイブルになるかもしれない作品を紹介するラジオ番組の2023年10月15日放送回(市川うららFM)。ドラマシリーズ全体や原作、その他のメディアミックス作品にも触れながら、中村繪里子さんが「オリエント急行の殺人」を紹介する。
2024年6月22日更新