ゴルフ場殺人事件
Murder on the Links

放送履歴

日本

オリジナル版(99分00秒)

  • 1996年12月31日 17時05分〜 (NHK総合)
  • 1997年07月27日 16時15分〜 (NHK総合)
  • 1997年11月14日 25時05分〜 (NHK総合)

ハイビジョンリマスター版(102分00秒)

  • 2016年08月27日 15時00分〜 (NHK BSプレミアム)※1
  • 2017年02月01日 16時00分〜 (NHK BSプレミアム)
  • 2021年02月06日 16時18分〜 (NHK BSプレミアム)
  • 2021年12月09日 09時00分〜 (NHK BS4K)
  • 2023年04月12日 21時00分〜 (NHK BSプレミアム・BS4K)※2
  • ※1 エンディング前半の画面上部に次回の放送時間案内の字幕表示(帯付き)あり
  • ※2 BSプレミアムでの放送は、オープニング冒頭の画面左上にBS4K同時放送のアイコン表示あり

海外

  • 1996年02月11日 (英・ITV)

原作

邦訳

  • 『ゴルフ場殺人事件』 クリスティー文庫 田村義進訳
  • 『ゴルフ場殺人事件』 クリスティー文庫 田村隆一訳
  • 『ゴルフ場殺人事件』 ハヤカワミステリ文庫 田村隆一訳
  • 『ゴルフ場の殺人』 創元推理文庫 中村能三訳
  • 『ゴルフ場殺人事件』 新潮文庫 蕗沢忠枝訳

原書

  • Murder on the Links, The Bodley Head, May 1923 (UK)
  • Murder on the Links, Dodd Mead, 1923 (USA)

オープニングクレジット

日本

オリジナル版

海外ドラマ // 名探偵ポワロ / AGATHA CHRISTIE'S POIROT / DAVID SUCHET // DAVID SUCHET / HUGH FRASER / ゴルフ場殺人事件, MURDER ON THE LINKS / Based on the novel by AGATHA CHRISTIE / Dramatized by ANTHONY HOROWITZ

ハイビジョンリマスター版

名探偵ポワロ / DAVID SUCHET / AGATHA CHRISTIE'S POIROT / ゴルフ場殺人事件 // DAVID SUCHET / HUGH FRASER / MURDER ON THE LINKS / Based on the novel by AGATHA CHRISTIE / Dramatized by ANTHONY HOROWITZ

エンディングクレジット

日本

オリジナル版

原 作 アガサ・クリスティー 脚 本 アンソニー・ホロウィッツ 監 督 アンドリュー・グリーブ 制作 LWT(イギリス) / 声の出演 ポワロ(デビッド・スーシェ) 熊倉 一雄 ヘイスティングス(ヒュー・フレイザー) 富山 敬  ジロー 大平 透 エロイーズ 寺田 路恵 ベラ 小山 茉美 ジャック 宮本 充  日野由利加 矢田 稔 麦   人 達 依久子 佐々木智恵 梅津 秀行 松岡 文雄 村松 康雄 巴 菁子 石井 隆夫 石黒 久也 / 日本語版スタッフ 宇津木道子  兼子 芳博 南部 満治 原田 裕文  山田 悦司

ハイビジョンリマスター版

原作 アガサ・クリスティー 脚本 アンソニー・ホロヴィッツ 演出 アンドリュー・グリーブ 制作 LWT (イギリス) / 出演 ポワロ(デビッド・スーシェ) 熊倉 一雄 ヘイスティングス(ヒュー・フレイザー) 富山 敬/安原 義人  ジロー 大平 透 エロイーズ 寺田 路恵 ベラ 小山 茉美 ジャック 宮本 充  日野 由利加 矢田 稔 麦人 達 依久子 佐々木 智恵 梅津 秀行 松岡 文雄 村松 康雄 巴 菁子 石井 隆夫 石黒 久也 嶋崎 伸夫  日本語版スタッフ 翻訳 宇津木 道子 演出 山田 悦司 音声 兼子 芳博 プロデューサー 里口 千

海外

オリジナル版

Directed by: ANDREW GRIEVE / Produced by: BRIAN EASTMAN / Exective Producer: SARAH WILSON / Assosicate Producer: CHRISTOPHER HALL; Music: CHRISTOPHER GUNNING / Director of Photography: CHRIS O'DELL; Editor: DEREK BAIN; Sound Recordist: KEN WESTON / Production Designer: ROB HARRIS; Costume Designer: ANDREA GALER; Make up: SUZAN BROAD / Hercule Poirot: DAVID SUCHET; Hastings: HUGH FRASER; Eloise Renauld: DIANE FLETCHER; Paul Renauld: DAMIEN THOMAS; Jack Recauld: BENJAMIN PULLEN; Bernadette Daubreuil: KATE FAHY; Marthe Daubreuil: SOPHIE LINFIELD; Bella Deveen: JACINTA MULCAHY; Stonor: TERENCE BEESLEY; Giraud: BILL MOODY; Bex: BERNARD LATHAM; Dr Hautet: ANDREW MELVILLE; Leonie: HENRIETTA VOIGTS; Adam Letts: JAMES VAUGHAN; News Commentator: RICHARD BEBB; Dubbing Secretary: BELINDA STEWART WILSON; Projectioninst: SIMON HOLMES; Station Master: RAY GATENBY; Judge: RANDAL HERLEY; Lawyer: PETER YAPP; Tramp: TERRY RAVEN; Concierge: MARGARET CLIFTON; Golfers: TIM BERRINGTON, HOWARD LEE; Policemen: CHRISTOPHER HAMMOND, JOSEPH MORTON / (中略) / A CARNIVAL FILMS PRODUCTION in assosiation with LWTP; © LWT PRODUCTIONS MCMXCIV

あらすじ

 休暇でドービルを訪れたポワロは、富豪のルノー氏から詐欺にあっていると相談を受けるが、氏はゴルフ場で死体となって発見された。この事件の解決を、ポワロは警視庁のジロー警部と競うことに。一方、ヘイスティングスは一人の女性と知りあって……

事件発生時期

1936年5月中旬? 〜

主要登場人物

エルキュール・ポワロ私立探偵
アーサー・ヘイスティングスポワロの探偵事務所のパートナー、陸軍大尉
ポール・ルノーゴルフ場近くに住む富豪
エロイーズ・ルノーポールの妻
ジャック・ルノーエロイーズと前夫の息子
ベルナデット・ドブレールノー家の隣人
マルト・ドブレーベルナデットの娘
イザベル・デュビーヌヘイスティングスがホテルで知りあった女性
ゲイブリエル・ストーナールノーの秘書
レオニールノー家のメイド
ローレンスルノー家の運転手
ルシアン・ベクスドービル警察署長
オート警察医
ジロー警視庁警部

解説、みたいなもの

 ヘイスティングスにとって、人生の大きな転機となる事件を描いたエピソード。原作はクリスティーおよびポワロの長篇第2作で、ヘイスティングスに早々に飽いたクリスティーはこれで彼を片付けることも考えていたというが[1]、ドラマではこれまでのエピソードの積み重ねが効いて、その結末への感慨も大きい。しかし初期段階では、イギリスで第1シリーズが放送された1989年のクリスマススペシャルとして(おそらくは最終的に1990年年始に放送された「エンドハウスの怪事件」の代わりに)制作・放送する検討もおこなわれていたという[2]。そんな本作と「もの言えぬ証人」は、シリーズ開始当初よりヘイスティングスの吹替を務めてきた富山敬さんが1995年9月に逝去したあとに放送されたが、吹替の収録は同年の3月におこなわれており、ヘイスティングスの吹替はどちらもまだ富山さんが担当している。
 ポワロ物の作品の中でも特に込み入った筋を持つ原作を100分ほどの枠に収めるためか、ダルシーとベラの姉妹はベラ一人にまとめられている。その結果、ジャック・ルノーの扱いは原作よりも手厳しいものになった。また、ドラマでの時代設定と第一次大戦の期間との兼ね合いからか、原作では約20年前とされていたベロルディ事件が10年前の出来事に変更され、ジャックはマダム・ルノーと前夫とのあいだにできていた子ということになって、ポールとは義理の親子とされた。ポワロのライバルとして登場するジロー警部は、カリカチュアライズしたシャーロック・ホームズを思わせた原作とは性格や風采も変更され、パイプというトレードマークが用意されて、ポワロの口髭と対照させる演出が加えられた。また、彼が容疑者を逮捕する際の「わたしにまちがいはない!」という台詞が、原語だと 'Giraud is never wrong.' と三人称になっているところなども、同様の話し方をするポワロとの対比を意図したものだろうか。原作の舞台であるメルランビルは架空の土地で、ドラマではフランスのノルマンディー地方に実在する有名な行楽地のドービルに舞台を置き換えている。このドービルには、実際にゴルフ・ホテル(フランス語では、オテル・デュ・ゴルフ)という名のホテルが存在するが、ポワロたちが泊まったゴルフ・ホテルの外観として撮影に使われたのは、1966年公開のフランス映画「男と女」の舞台にもなっている、同系列のオテル・ノルマンディー。また、撮影は川をはさんだ対岸のトルービル・スール・メールやエヌクビルでもおこなわれており、トルービル・スール・メールでは、印象的なラストシーンなどが撮影されたレオン・エ・ロベール・モラーヌ通りのほか、カルノー通り、シャレ・コルディエ通り、フォルムビル通り、ティエール通り、ロシニ通り、オルレアン通りが、エヌクビルでは、ジュヌビエーブ荘としてヴィラ・ル・プレ・ラ・ブリュイエール、マルグリット荘としてル・プティ・マノワールが撮影に使われている。しかし、フランスが舞台の場面も屋内はほぼイギリスで撮影されており、ゴルフ・ホテルの内部はバッキンガムシャーのメントモア・タワーズ、ジュヌビエーブ荘内部は、「黄色いアイリス」でオテル・グランデ内部が撮影されたサリー州のイーシャー・プレース、ドービル警察署内は、「エジプト墳墓のなぞ」ではニューヨークという設定の、ルパート・ブライブナーの住んでいたマンションと同じニュー・リバー・ヘッドのニュー・ビルディング、予審がひらかれた法廷は、「ベールをかけた女」のアシーナ・ホテルや、「二重の手がかり」の美術館などとしても使われたロンドン大学セナト・ハウスにあるセナト・ルーム。ゴルフ・ホテルやジュヌビエーブ荘については、入り口のドアやその周辺が内外で異なることから、劇中映像からも別の場所で撮影したことが窺える。また、ローレンスがジャックの荷物を運び出すときにドアを不自然に細くしか開けていないのも、ドアの外の景色が写らないようにするためと思われる。一方、ポール・ルノーが取引をしていた銀行もフランスにある設定と見られるが、「愛国殺人」「イタリア貴族殺害事件」「グランド・メトロポリタンの宝石盗難事件」「ヒッコリー・ロードの殺人」でも撮影に使われた、現ローズウッド・ホテル・ロンドンで内外ともに撮影された。ヘイスティングスとイザベルが2度目に会ったレストランはセットと見られ、「24羽の黒つぐみ」のビショップ・レストランや、「二重の手がかり」のステーション・ホテル内のカフェで使われていたのと同じ椅子が置かれている。
 冒頭に紹介されるベロルディ事件の顛末は、クリスティーが以前に見聞きした、実際にフランスで起きた事件がモデルになっているという[3]。そのニュース映像(「夢」冒頭と同様にパテ・ガゼットを模している)でベロルディ事件の裁判がひらかれたのは、「スタイルズ荘の怪事件」にも登場したロンドンの中央刑事裁判所だが、登場人物たちが映る箇所の多くは現ローズウッド・ホテル・ロンドンで撮影されている。ポワロがレッツ氏を訪ねたときに映写されていた映像は、ロンドンのピカデリー・サーカスおよびセント・ポール大聖堂周辺の様子である。それにしても、冒頭のニュース映画の制作で、ナレーションを読み終えたあとにアシスタントの女性が「85秒です」と報告しているものの、映像の開始からナレーションを読み終わるまでは約115秒、ナレーションのキューからも約100秒経っており、「85秒」とは何にかかった時間なのだろう。また、これは1936年の10年前なので1926年ということになるが、その頃のニュース映画はまだサイレントのはずである。
 ゴルフ・ホテルの看板を見てポワロが「ゴルフ・ホテル?」とヘイスティングスに詰め寄るのは日本語のみの台詞である。一方、ポワロたちがホテルの中に入ったあと、「それから社長、設計技師ができたら明日、お会いしたいと言ってますが」というストーナーの台詞の前に、原語音声だと 'Here are the options on the land adjoining the golf course. (こちらがゴルフ場に隣接する土地のオプションです)' というやはりストーナーの台詞があるのだが、日本語音声には台詞がない。ハピネット・ピクチャーズの映像ソフトでもこの台詞には日本語字幕が表示されず、翻訳にあたって提供される原語台本から台詞が抜け落ちてでもいたのだろうか。
 オリジナル版では、ポール・ルノーと秘書のストーナーがゴルフ・ホテルからジュヌビエーブ荘へ戻る途中の車内の映像が左右反転されている。このことは、服のあわせが逆になっていることや、前後の場面と車のハンドルの向きが変わっていることなどからわかる。これはおそらく、左ハンドルが標準のフランスが舞台なのに右ハンドルの車を撮影に使用し、それが目立つ部分のみ映像を反転して左ハンドルに見せたのだろう。なお、ハイビジョンリマスター版にこの対応はない。
 ハイビジョンリマスター版の日本語音声では、ポワロが「バンカー」をフランス語としても「バンカー」と発音するが、 bunker の実際の発音は /bœnkœr/ で語末の r を発音し、あえてカタカナにすれば「バンカール」に近い。なお、フランス語の bunker が英語と同じなのは、それが英語由来の単語だからである。また、その後ヘイスティングスが「ええ、何人かと一緒に〔ラウンドをまわる予定です〕」と言ったのに対し、ポワロが「ボン」と応じるのは日本語音声のみである。
 事件の日の朝、レオニーが朝食を持って階段を上がっていく際、途中で平たいものをたたきつけたような音がするのは何の音なのだろう。
 ベクス署長との初対面時、ポワロは左手にステッキを持ち、右手で名刺を取り出すが、カットが変わると左手で名刺を差し出す。これは単にそれぞれのカットが分けて撮影されているというだけでなく、前述のとおりその撮影地がフランスとイギリスに離れ、まったく別のタイミングで撮影されたのも要因だろうか。また、それにつづくジロー警部との初対面時、彼に名乗られたポワロが日本語では「ジロー……いえ、存じませんが」と言うが、ポール・ルノーの遺体発見現場を立ち去る際にはヘイスティングスに「ジローについてはいろいろ聞いてますよ」と逆のことを言う。原語だと前者は 'Giraud... it is a name that is known to me. (ジロー……その名前は聞き覚えが)' となっていた。また、後者の台詞につづく「彼〔ジロー〕は自分がフランスいちの刑事だと思っているんですよ」「そうなんでしょう?」「ノンノン、ヘイスティングス、ポワロがフランスに来てますよ」という会話は、ポワロが刑事でないために不自然に聞こえるかもしれない。ここでの「刑事」に対応する原語 detective は捜査者を広く表す言葉で私立探偵を含む。ポワロのように警察官でない探偵を、わざわざ private detective (私立探偵) と呼んで公的な捜査官と区別するのもそのためである。マダム・ドブレーの「それで警部さんと探偵さんと二人いるんですの?」という台詞も、原語では 'Is that why it requires the services of two detectives? (それで detective が二人必要なんですの?)' となっている。
 ヘイスティングスがカフェで勘定を支払う際、紙幣を1枚取り落とす。
 警察署の部屋に置かれたジュヌビエーブ荘の見取り図は、玄関のドアを入ってすぐ左手が壁になっておらず、劇中で見られる実際と一致しない。外観の撮影に使われたヴィラ・ル・プレ・ラ・ブリュイエールと比べても、玄関側の形状が厳密に一致しないだけでなく、反対側に存在しないテラスも描かれているので、その間取りというわけでもないようである。
 ハイビジョンリマスター版で、ポワロとヘイスティングスがホテルで食事中に「若いご婦人」の来訪を告げられてなされる、「ヘイスティングス、きっとあなたのお知りあいですね」「なぜぼく……」「そうでしたね、名前をまだ知らないんですね」というやりとりは、日本語だと最後のポワロの反応がいささか噛みあっていないが、原語ではその前のヘイスティングスの台詞が 'You mean... (というと……)' となっていて、その「お知りあい」の名前を口にしそうになったのを、ポワロがおそらく意識的に聞かなかったふりをしている。またその後、ポワロに会いにホテルへ訪ねてきたマルトが、「急にお呼び立てしてごめんなさい」と言う場面があるが、「呼び立てる」はわざわざ自分のところへ呼び寄せる意なので、(ホテルのロビーまで呼び出してはいるけど)状況にそぐわない。原語は 'I hope you'll forgive me coming here. I had to see you. (押しかけてごめんなさい。どうしてもお会いしたくて)' という表現で、行動どおりにマルトのほうからやってきたことを詫びる趣旨である。
 ジャックの部屋に置かれたベラの写真は、アップになったとき、表に写ったベラのポーズが変わり、また裏のサインが1行から2行になる。
 ジャックの逮捕について「〔ジロー〕警部が言ってましたね」「ゴールラインで逮捕するって」というやりとりがあるが、「名探偵ポワロ」オリジナル版では、「警部が言って」いた場面はカットされている。なお、原語だと the finish line (ゴールライン) という表現はカットされたジロー警部の台詞でしか使われておらず、このやりとりの日本語はそのカット部分を踏まえた日本語になっていたが、ハイビジョンリマスター版で聞けるジロー警部のその台詞の日本語は「ゴールしたところで逮捕するぞ」とされていて、「ゴールライン」という表現は使われていない。また、同じ場面でレースの終了予定時刻を「4時です」とベクス署長が言うが、ゴール直前に見える現地の時計は5時16分ごろを指している。
 ポワロがゴルフの「ハンディ (handicap)」を「不都合 (disability)」と言いまちがえたのは、原語がいずれも「〔身体的・精神的な〕障碍」の意味を持つことによる。加えて、その用途では disability が handicap よりもニュアンスがニュートラルな言葉として好まれる傾向にあり(日本語で言えば「不都合」より「不自由」に近いニュアンス)、ゴルフの「ハンディ」にまで配慮をした表現を用いたポワロの物言いが、ヘイスティングスの軽い失笑を誘ったのである。
 ナイフの証拠品ラベルに Mardi 17 Mai 1936 (1936年5月17日火曜日) とあるので、事件は1936年5月16日月曜日の夜に起きたと思われるが、ヘイスティングスが駅で聞き込みをする場面では、犯行当夜を「一昨日の夜」と言ったのに対し、駅長が「火曜日ですね」と受ける。また、ロンドンへ向かうポワロの荷物や駅での会話、ドービル帰還時のポワロの台詞などからは、ロンドンでの調査が日帰りのようにはあまり思われないが、ポワロがロンドンから戻った日の警察署のカレンダーが Mercredi/18/MAI (5月18日水曜日) となっているだけでなく、自転車レースのポスターにも MERCREDI 18 MAI (5月18日水曜日) とあるので、ヘイスティングスが海水浴場でイザベルと出会ってからポワロがロンドンへ往復し、自転車レースが開催されるまでがすべて同日ということになる。しかし、そのあいだにヘイスティングスがイザベルと警察署を訪ねた際には、カレンダーの日付はなぜか 30 になっている。そして、劇中が1936年であることは、自転車レースのポスターや横断幕、アナウンスからもわかるが、実は1936年の5月17日と18日は日曜日と月曜日。1930年代なら1932年か1938年、あるいは1994年であれば日付と曜日の関係が一致するのだが、撮影時の日付にあわせたのだろうか。一方、イザベルがホテルで歌った J'attendrai (待ちましょう) は1937年に書かれた曲だとか。
 冒頭のニュースのナレーターを演じたリチャード・ベブは、これまでも複数の作品で劇中のニュース番組のナレーションを担当していたが、顔出しの出演は「コックを捜せ」でベルグラビア銀行のキャメロン氏を演じて以来。吹替もキャメロン氏のときと同じ村松康雄さんが担当した。また、原作では判事だったオート氏がなぜか警察医に変更されて、ドラマでは別の判事が登場するが、吹替はドクター・オートも判事もともに松岡文雄さんが担当している。ルノー夫妻の吹替の麦人さんと寺田路恵さんは実の姉弟である[4]
 ジョーン・ヒクソン主演の「ミス・マープル」の一篇、「バートラム・ホテルにて」には、レオニー役のヘンリエッタ・ヴォイトがホテルの客室係のアリス役、予審判事役のランダル・ハーリーがエジャートン弁護士役(このときの吹替は、本作では冒頭のナレーターやドービル駅長、ドービル市長の吹替を務める村松康雄さん)で出演している。また、ジェレミー・ブレット主演の「シャーロック・ホームズの冒険」シリーズでは、ポール・ルノー役のデイミアン・トマスを「悪魔の足」のモーティマー・トレゲニス役、ジャック・ルノー役のベンジャミン・プレンを「三破風館」のローモンド公爵役で見ることができる。エロイーズ・ルノー役のダイアン・フレッチャーは、ジョン・ネトルズ主演の「バーナビー警部」の一篇、「狩りの角笛が死を誘う」のマーシャ・トランター役や、イアン・リチャードソン主演の「野望の階段」シリーズでのエリザベス・アーカート夫人役(II、IIIでの吹替は、本作と同じく寺田路恵さんが担当)でも出演。ジロー警部役のビル・ムーディは、ジョン・ソウ主演の「主任警部モース」の一篇、「死者たちの礼拝」に巡査部長役(このときの吹替は、本作ではポール・ルノー役の麦人さん)で出演している。
 冒頭のフランスを駆ける汽車の映像は、場面によって機関車の前に書かれた番号が変化する。
 ハイビジョンリマスター版でのみ見られる、ポワロが初めてジュヌビエーブ荘を訪ねた場面では、雨上がりのように地面や車の表面が濡れているが、そのあとの遺体発見現場のバンカーなどは、雨に降られた様子はない。ほかの場面でも、ところどころ撮影中に雨に見舞われたと思われる箇所があり、なかでもヘイスティングスとイザベルがレストランから警察署に向かう場面では、実際に雨が降っている。
 ゴルフ・ホテルに差しかかる場面などで海沿いの道が映る際、奥の建物の煙突や屋根にテレビアンテナが立っているのがわかる。また、自転車レースの最中に選手たちがこの道を走る際、奥の砂浜にいる人々はエキストラでない現代の一般の人たちと見られる。一方、ポワロたちがマルグリット荘をあとにする場面では、警察の車の右のフロントフェンダーにマイクのアームが映ってしまっている。また、先にロンドンへ帰るポワロを見送ったヘイスティングスがズボンのポケットに両手を入れた際、右のポケットから撮影機材と思われるケーブルが伸びているのが見えてしまう。さらに、そのあと「まわり道」をしたポワロがドアをノックし、下がって上を見あげるところで、画面右上の家のあいだを現代の自動車が通りすぎる。
 原語音声において、ジロー警部が駅長に写真を見せたりヘイスティングスに激昂する場面では警部の声と口がわずかにあっておらず、アフレコであることが窺える。
 ハイビジョンリマスター版でも、Cパート(ポワロがロンドンに出かけてからジャックが逮捕されるまで)や、謎解きの際に差し込まれる、ルノー夫妻が会話を立ち聞きされる場面は、なぜかほかの部分と同様のリマスター処理がおこなわれておらず、オリジナル版に近い画質と色合いである。しかし、そのCパートのなかでも、ポワロがイギリスから戻ってくるときの、バンク映像と思しき汽車の映像でピクセルがいっそう目立つのは、その部分がイギリスでリマスターの対象とならず、それを日本で SD 素材からアップコンバートして補ったためと見られ、海外のハイビジョンリマスター版や、その元となった原板を使用していると見られるイギリスの市販 DVD などでは、音声はそのままに、ヘイスティングスが駅で汽車を待つ場面が前に長くなっている。さらに加えて、「名探偵ポワロ」のハイビジョンリマスター版では、自転車レースでスタートしていく選手たちをうしろから写したあと、ジュヌビエーブ荘へ舞台が切り替わるまでの部分は、映像の明るさが落とされている。ここでは色彩豊かな服の選手がカメラ近くを多数横切るので、輝度の頻繁な変化を抑えるための措置か。この明るさの加工は、ハピネット・ピクチャーズの BD 収録の映像や CS 等で放送されている「HD完全吹替版」などにはなく、 NHK での放送に当たり加えられたものと見られる。
 ハイビジョンリマスター版4K放送の切換式字幕では、単発ゲストであるジロー警部の台詞が緑色で表示される一方、ヘイスティングスの台詞は引きつづきその他の登場人物と同じ白色で表示される。このあと、「もの言えぬ証人」のチャールズや「メソポタミア殺人事件」のライドナー博士の台詞も、ヘイスティングスを差し置いて緑色で表示されることになる。また、ホテルのバーでイザベルが紹介されるときの « Je vous présente— (ご紹介します) » という台詞には、切換式字幕が表示されない。なお、その前後を含むイザベル紹介の台詞は、日本語音声でも原語音声をそのまま使用している。
 » 結末や真相に触れる内容を表示
  1. [1] アガサ・クリスティー (訳: 乾信一郎), 『アガサ・クリスティー自伝 〔上〕』, 早川書房(ハヤカワミステリ文庫), 1995, p. 521
  2. [2] Mark Aldridge, Agatha Christie's Poirot: The Greatest Detective in the World, HarperCollinsPublishers, 2020, p. 380
  3. [3] アガサ・クリスティー (訳: 乾信一郎), 『アガサ・クリスティー自伝 〔上〕』, 早川書房(ハヤカワミステリ文庫), 1995, pp. 519-520
  4. [4] 麦人 公式ホームページ

ロケ地写真

カットされた場面

日本

オリジナル版

[0:11:25/1:06]歌が始まる前のバーでのポワロとヘイスティングスの会話
[0:18:22/0:12]ジュヌビエーブ荘前に到着するポワロ
[0:56:39/0:43]死体置き場を出たあとのジャック逮捕に関する会話
[0:57:51/0:39]告げられた訪問者に関するポワロとヘイスティングスの会話 〜 ラウンジでのマルトとのやりとりの前半
[1:00:12/0:43]マルトが去ったあとのポワロとヘイスティングスの会話後半 〜 自転車レース会場の様子

ハイビジョンリマスター版

なし

映像ソフト

  • ※1 「名探偵ポワロ DVD-BOX3」にも収録
  • ※2 「名探偵ポワロ [完全版] DVD-BOX2」「名探偵ポワロ [完全版] 全巻 DVD-SET」「名探偵ポワロ [完全版] DVD-SET 7」にも収録
  • ※3 吹替は大塚智則さん主演の新録で、映像もイギリスで販売されているDVDと同じバリエーションを使用
  • ※4 「名探偵ポワロ Blu-ray BOX vol. 2」に収録

同原作の映像化作品

  • [TV] 「名探偵赤富士鷹 愛しのサンドリヨン」 2005年 演出:渡辺一貴 脚本:藤本有紀 出演:伊東四朗、塚本高史、益岡徹
2024年3月8日更新