ナイルに死す Death on the Nile
放送履歴
日本
オリジナル版(99分00秒)
- 2005年08月23日 20時00分〜 (NHK衛星第2)
- 2006年01月09日 25時00分〜 (NHK衛星第2)
ハイビジョンリマスター版(98分30秒)
- 2016年10月22日 16時00分〜 (NHK BSプレミアム)
- 2017年03月29日 16時00分〜 (NHK BSプレミアム)
- 2021年05月08日 16時21分〜 (NHK BSプレミアム)※1
- 2021年12月21日 09時00分〜 (NHK BS4K)
- 2023年06月07日 21時00分〜 (NHK BSプレミアム・BS4K)※2
- ※1 エンディングの画面下部に次回の放送時間案内の字幕表示(帯付き)あり
- ※2 BSプレミアムでの放送は、オープニング冒頭の画面左上にBS4K同時放送のアイコン表示あり
海外
- 2004年04月12日 21時00分〜 (英・ITV1)
- 2004年07月04日 20時30分〜 (豪・ABC)
- 2004年09月19日 20時00分〜 (米・A&E)
原作
邦訳
- 『ナイルに死す』 クリスティー文庫 黒原敏行訳
- 『ナイルに死す』 クリスティー文庫 加島祥造訳
- 『ナイルに死す』 ハヤカワミステリ文庫 加島祥造訳
- 『ナイルに死す』 新潮文庫 西川清子訳
原書
- Death on the Nile, Collins, 1 November 1937 (UK)
- Death on the Nile, Dodd Mead, 1938 (USA)
オープニングクレジット
日本
オリジナル版
名探偵ポワロ / AGATHA CHRISTIE'S POIROT / ナイルに死す // DAVID SUCHET / Agatha Christie POIROT / DEATH ON THE NILE based on the novel by Agatha Christie / Screenplay KEVIN ELYOT / JAMES FOX, JUDY PARFITT / ALASTAIR MACKENZIE, EMMA MALIN, JJ FEILD / BARBARA FLYNN, STEVE PEMBERTON, DANIEL LAPAINE / DAISY DONOVAN, EMILY BLUNT, ZOE TELFORD / with DAVID SOUL / and FRANCES DE LA TOUR / Producer MARGARET MITCHELL / Director ANDY WILSON
ハイビジョンリマスター版
名探偵ポワロ / DAVID SUCHET / AGATHA CHRISTIE'S POIROT / ナイルに死す // DAVID SUCHET / Agatha Christie POIROT / DEATH ON THE NILE based on the novel by Agatha Christie / Screenplay KEVIN ELYOT / JAMES FOX, JUDY PARFITT / ALASTAIR MACKENZIE, EMMA MALIN, JJ FEILD / BARBARA FLYNN, STEVE PEMBERTON, DANIEL LAPAINE / DAISY DONOVAN, EMILY BLUNT, ZOE TELFORD / with DAVID SOUL / and FRANCES DE LA TOUR / Producer MARGARET MITCHELL / Director ANDY WILSON
エンディングクレジット
日本
オリジナル版
原作 アガサ・クリスティー 脚本 ケビン・エリオット 演出 アンディ・ウィルスン 制作 LWT A&E テレビジョン ネットワークス アガサ・クリスティー Ltd. (イギリス 2004年) / 出演 ポワロ(デビッド・スーシェ) 熊倉 一雄 ジャクリーン(エマ・マリン) 小島 聖 サイモン(JJ・フィールド) 関 俊彦 リネット(エミリー・ブラント) 森永 明日夏 アラートン夫人 牧野 和子 ティム 難波 圭一 ヴァン・シュワイラー 大方 斐紗子 コーネリア 藤本 喜久子 巴 菁子 阿部 桐子 小山 力也 山野 史人 阪 脩 佐々木 梅治 魏 涼子 沢 りつお 薬師寺 種子 船木 真人 小林 由美子 / 日本語版スタッフ 宇津木 道子 金谷 和美 賀古 勝利 里口 千 西亀 泰 蕨南 勝之
ハイビジョンリマスター版
原作 アガサ・クリスティー 脚本 ケビン・エリオット 演出 アンディ・ウィルスン 制作 LWT A&E テレビジョン ネットワークス アガサ・クリスティー Ltd. (イギリス) 出演 ポワロ(デビッド・スーシェ) 熊倉 一雄 ジャクリーン(エマ・マリン) 小島 聖 サイモン(JJ・フィールド) 関 俊彦 リネット(エミリー・ブラント) 森永 明日夏 アラートン夫人 牧野 和子 ティム 難波 圭一 ヴァン・シュワイラー 大方 斐紗子 コーネリア 藤本 喜久子 巴 菁子 阿部 桐子 小山 力也 山野 史人 阪 脩 佐々木 梅治 魏 涼子 沢 りつお 薬師寺 種子 船木 まひと 小林 由美子 日本語版スタッフ 翻訳 宇津木 道子 演出 蕨南 勝之 音声 金谷 和美 プロデューサー 里口 千
海外
オリジナル版
Hercule Poirot: DAVID SUCHET; Colonel Race: JAMES FOX; Jacqueline De Bellefort: EMMA MALIN; Simon Doyle: JJ FEILD; Linnet Ridgeway: EMILY BLUNT / Miss Van Schuyler: JUDY PARFITT; Cornelia Robsoon: DAISY DONOVAN; Mrs Allerton: BARBARA FLYNN; Tim Allerton: DANIEL LAPAINE / Andrew Pennington: DAVID SOUL; Salome Otterbourne: FRANCES DE LA TOUR; Rosalie Otterbourne: ZOE TELFORD; Ferguson: ALASTAIR MACKENZIE / Dr Bessner: STEVE PEMBERTON; Cruise Manager: GEORGE YIASOUMI; Joanna Southwood: ELODIE KENDALL; Louise Bourget: FELICITE DU JEU / (中略)Location Manager: PETER TULLO; 1st Assistant Director: ROBERT FABBRI; 2nd Assistant Director: GILES BUTLER; Script Editor: KAREN THRUSSELL; Production Co-ordinator: DIANE CHITTELL; Script Supervisor: CAROLINE O'REILLY / Camera Operator: XANDY SAHLA; Focus Puller: MIKE GREEN; Grip: JIM BOORER; 2nd Unit Camera Operator: MIKE MILLER; Lighting Gaffer: LARRY PRINZ; Best Boy: PHILIP PENFOLD / Art Director: MALCOLM STONE; Set Decorator: MARK RIMMELL; Prop Master: MIKE FOWLIE; Construction Manager: KEN HAMBLING; Make-up Artists: SIAN TURNER, CARLI MATHER; Assistant Costume Designer: TAMAR ZAIG / Sound Recordist: TONY JACKSON; Sound Maintenance: MIKE REARDON; Assistant Editor: ANYA DILLON; Dubbing Mixer: BILLY MAHONEY; Supervising Sound Editor: JOHN DOWNER; Dialogue Editor: SARAH MORTON / Post Production Supervisor: KATE STANNARD; Telecine Colourist: CHRIS BEETON; VFX Supervision: ALAN CHURCH, SIMON GILES; VFX Post Production/Titles: SIMON HUHTALA, BEN STALLARD; Casting Assistants: CLAIRE SAUNDERS, WILL DAVIES / Publicity: MARIETTE MASTERS, PATRICK SMITH, SIMONE LE LIEVRE; A & E Senior Publicist: GINA NOCERO; Production Services in Egypt provided by: EGYPTIAN MEDIA PRODUCTION CITY / Production Accountant: NUALA ALEN-BUCKLEY; Assistant Co-ordinator: PHOEBE MASTERS; Script Executive: DEREK WAX; Associate Producer: DAVID SUCHET; Executive in Charge of Production: FIONA MCGUIRE / Casting: GAIL STEVENS, MAUREEN DUFF; Costume Designer: SHEENA NAPIER; Make-up Designer: CAROL COOPER; Line Producer: LEILA KIRKPATRICK / Director of Photography: MARTIN FUHRER BSC; Production Designer: MICHAEL PICKWOAD; Editor: JOHN MAYES; Composer: CHRISTOPHER GUNNING / Executive Producer for A & E Television Networks: DELIA FINE; Supervising Producer for A & E Television Networks: EMILIO NUNEZ / Executive Producer for Chorion plc: PHIL CLYMER / Executive Producer: MICHELE BUCK; Executive Producer: DAMIEN TIMMER; © Agatha Christie Ltd (a Chorion Company) 2004 / LWT in association with A & E Television Networks and Agatha Christie Ltd (a Chorion Company) GRANADA
あらすじ
若き資産家リネット・リッジウェイは親友ジャクリーンの婚約者だったサイモンを奪って結婚、二人はハネムーンへと出発した。しかし、行く先々ではいつもジャクリーンが待ち受けていた。彼らのあいだの緊張は次第に高まり、ポワロも乗り合わせた船でついに……
事件発生時期
1935年10月 ~ 1936年1月
主要登場人物
エルキュール・ポワロ | 私立探偵 |
リネット・ドイル | 資産家の娘、旧姓リッジウェイ |
サイモン・ドイル | リネットの夫 |
ジャクリーン・ド・ベルフォール | リネットの親友、サイモンの元婚約者 |
マリー・ヴァン・シュワイラー | 旧家の老婦人 |
コーネリア・ロブスン | ミス・ヴァン・シュワイラーの親戚 |
サロメ・オタボーン | 小説家 |
ロザリー・オタボーン | サロメの娘 |
ティモシー・アラートン | リネットの友人、愛称ティム |
アラートン夫人 | ティムの母 |
アンドルー・ペニントン | リネットの財産管理人 |
コンラッド・ファーガスン | 進歩思想の青年 |
ベスナー | 医師、オーストリア人 |
ルイーズ・ブールジェ | リネットのメイド |
ジョアナ・サウスウッド | リネットの友人、アラートン親子の親戚 |
レイス | 陸軍大佐、ポワロの知人 |
解説、みたいなもの
第1シリーズよりこのドラマシリーズの制作実務を手がけてきたカーニバル・フィルムとそのプロデューサーのブライアン・イーストマンが制作から離れ、グラナダ・プロダクション(現 ITV スタジオズ)による新体制で制作された第1話(イギリスの放送順では3話めで、撮影順では4話め)。この新体制への移行に関しては、かねてより制作側の一部でシリーズのマンネリ化が懸念されていたものの、1998年にアガサ・クリスティー・リミテッドの株式を取得し、当時クリスティーの版権を掌握していたコリオン plc が、ここにいたってシリーズの仕切り直しの必要性を強く主張したことが大きいという。これは、海外での売り上げを伸ばしつづけていたシリーズに、さらに予算を投入して成長を加速させたいテレビ局側の意向とも合致したようで、シリーズ開始当初からの立役者であった制作陣の交代を含む大幅な路線変更が断行された。新しい制作陣はかつてのアットホームな雰囲気を歓迎せず、また原作に登場しないキャラクターを挿入することを望まなかったため、登場する原作がほとんど残っていないヘイスティングスたちはこれ以降、最終シリーズの「ビッグ・フォー」まで姿を消すことになった。また、日本の「名探偵ポワロ」では継続して従来どおりのオープニングとエンディングが付与されているが、イギリスの Agatha Christie's Poirot あらため Agatha Christie: Poirot ではこれらも排除された。これは、それぞれのエピソードをシリーズの一部とするのではなく、個々に独立した単体の作品として成立させることを目指した新制作陣の意向の表れであると見られる。そして、この新制作陣には主演のデビッド・スーシェもアソシエイト・プロデューサーとして参加するようになった。これは無報酬のポジションながら、脚本やキャスティングへ意見を出せるだけでなく、監督の見解を否定することも認められたもので、スーシェ自身の意見が以降の作品の方向性に影響を及ぼすようになっていく。[1][2][3]なお、制作体制や作風の刷新に伴ってタイトルやクレジットに用いるフォントも変更されたが、その中でも本作はタイトルに他作品と異なるフォントが使用されており、かつての「スタイルズ荘の怪事件」のように、それによって他作品とは一線を画していることが演出されている。そんな本作の制作費は、200万ポンドにも上ったという[4]。
ナイル河クルーズの遊覧船上を主な舞台とするエキゾチックな本作は、ピーター・ユスチノフ主演の映画「ナイル殺人事件」や、ケネス・ブラナー主演の映画「ナイル殺人事件」と原作を同じくするエピソードで、スーシェもいちばん映像化したかった一作を問われた際に本作を挙げた[5]。原作小説はのちにクリスティー自身によって戯曲化されているが、戯曲の方にはポワロは登場せず、ポワロとペニントンを足しあわせたような役どころのペニファーザー司祭が探偵役をつとめる。また、小説には同名の「ナイル河上の死 (Death on the Nile)」(『パーカー・パイン登場』所収)という短篇も存在するが、舞台がナイル河を航行する遊覧船上であること以外に本作と内容上の共通点はなく、むしろこの短篇は〔» エピソードの題名を表示〕「コーンワルの毒殺事件」の別バージョンといった内容である。
原作小説がポワロ物の作品の中でも屈指の長さを誇ることもあり、本作の放送時間は第9シリーズのほかの作品よりも5分長い、99分となっている(オリジナル版の場合。ハイビジョンリマスター版では4分30秒長い98分30秒だが、本篇部分の長さは同じ)。しかし、それでも登場人物がエジプトに集まるまでのエピソードはほとんどがカットされ、船客からは考古学者のリケティと弁護士のファンソープ、看護師のミス・バワーズが削られた。
本作の撮影に当たっては「メソポタミア殺人事件」の撮影でチュニジアの暑さに悩まされたスーシェが現地ロケに抵抗感を示していたものの[4]、最終的にはエジプトロケが敢行された。このドラマシリーズ中、エジプトを舞台にした作品は今回で3作目だが、「海上の悲劇」はギリシャで、「エジプト墳墓のなぞ」はスペインで撮影されており、実際にエジプトで撮影がおこなわれたのは今回が初めて。しかし、予算・スケジュール上の都合なのか撮影許可の問題なのか、ロケ地は原作に描かれたナセル湖の周辺(厳密には、原作当時にナセル湖はなかったけれど)ではなくルクソール近辺となっており、クリスティー自身も滞在し、その部屋で本原作の執筆がおこなわれたというアスワンのカタラクト・ホテルは、やはりクリスティーが滞在し、本原作の執筆もなされたルクソールのオールド・ウィンター・パレス・ホテルに(ただしホテル内のダンスホールは、かつてゲズィーラ・パレスという宮殿だったカイロ・マリオット・ホテル内で撮影)、エル・セブア神殿はルクソール神殿に、アブ・シンベル神殿はデンデラのハトホル神殿(劇中の日本語音声では、ジャクリーンの台詞中の一度だけは「ホトホル」と発音)に置き換えられている。一方、カルナック号として撮影に使われた客船は、実際には1885年建造のスーダン号という船。これもやはり1933年にクリスティー本人が実際に乗船し、本作の着想を得たとされる船で[6]、現在もナイル河クルーズに使用されている。なお、スーシェのインタビューや自伝ではずっと、この船は映画「ナイル殺人事件」で使われたのと同じ船と語られているが[7][8]、映画で使われたのは1904年建造のメモン号という別の船である[9]。また、船内の場面の大半は、イギリスのシェパートン・スタジオ内に再現されたセットで撮影された[4]。冒頭で映るリネットのイギリスの邸宅は、ロンドン南東部のエルタム・パレスで、その邸内は、ジェラルディン・マクイーワン主演「ミス・マープル」シリーズ「パディントン発4時50分」でもノエル・カワードの家として撮影に使われている。
撮影時期は2003年12月頃[10]。スーシェの自伝には、本作の撮影を2003年の初秋に終えたという記述があるが、リネットの邸宅外観が明らかに晩秋以降の様子であるのみならず、本作の撮影が「ホロー荘の殺人」よりもあとだったという同書内の記述とも矛盾し(イギリスの秋は一般に9月~11月を指すが、「ホロー荘の殺人」の撮影時期は2003年10月)、誤りと思われる[11]。一方、劇中の時期は、ダンスフロアでのオタボーン夫人の台詞「冬のロンドン (London in January)」から1月、ペニントンのノルマンディー号の乗船券に書かれた日付も1936年1月だが、サロンでファーガスンが読んでいる『ライフ』誌は1937年1月4日号(表紙に写っているのは、当時のアメリカ大統領フランクリン・ローズベルト)。さらに甲板でジャクリーンが読んでいる『ヴォーグ』誌は1938年12月15日号である。
ジャクリーンの心情の象徴のように使われている挿入歌は、冒頭のものが 'Mad about the Boy'、ラストのものが 'Love is the Sweetest Thing'。後者は「エンドハウスの怪事件」のエンドハウスでも同じ音源のレコードがかけられていたほか、事件の晩にジャクリーン自身も口ずさむ。しかし日本語音声では、2節目の What else on the earth could ever bring を、 What else on the earth could have a bring と歌っている。ホテルのダンスホールで演奏されていた曲は 'I Won't Dance', 'Zing! Went the Strings of My Heart', 'Smoke Gets in Your Eyes'。事件翌朝、身支度中のポワロが口ずさむ歌は日本語音声と原語音声でメロディーが異なるが、日本語の方の前半は 'Row, Row, Row Your Boat' のようだ。
日本語音声において、ゴシップ記事でリネットが結婚間近と書かれていると言われるウィンドルシャム卿の名は、原語の台詞にもクレジットにも登場せず、原作から名前を持ってきて補ったと見られる。一方、ジョアナがティムを評して言った「マザコン」は1930年代らしからぬ言い様だが、原語では Sophoclean という表現で、ソフォクレスの代表作『オイディプス王』の主人公オイディプスが(それと知らずに)実母と結婚したことを踏まえた言葉である。また、ルイーズが「マドモワゼル・ド・ベルフォールがお見えになりました」と伝えにきたのは昼間だが、オリジナル版でリネットとジャクリーンが再会を喜ぶのは夜になってから。ルイーズの台詞は原語だと 'Mademoiselle de Bellefort will be here for supper. (マドモワゼル・ド・ベルフォールがお夕食にお見えになるそうです)' で、報告の時点ではまだ到着していない。しかし、ハイビジョンリマスター版ではリネットとジャクリーンの再会の場面の前に差し込まれる屋敷の外観のカットが昼間になっていて、日本語でも大きな齟齬はなくなっている。ただ、時間の経過がないとすれば、わざわざ屋敷の外観のカットが差し込まれるのがいささか不自然ではある。一方、サイモンのいたエントランスホールの窓の外は、オリジナル版では夜だが(といっても、画面左上に一時見える窓は明るいけど)、ハイビジョンリマスター版ではまだ明るい。そして、その前の客間の窓の外は、オリジナル版でもハイビジョンリマスター版でもまだ明るい。
エジプトへ場面が切り替わった際に遠景に見えるピラミッドは、三大ピラミッドと呼ばれるうちの2つ、カフラー王(手前)とクフ王(奥)のものらしく見えるが、両者とも実際にはナイル河からこのように見える位置にはなく、その手前の河沿いの建物なども含めて CG による合成と見られる。また、ここで表示される英語の字幕は、オリジナル版だと Egypt. Three months later (エジプト。3か月後) だったが、ハイビジョンリマスター版ではただ Three months later (3か月後) に変わった。一方、それに併記された日本語の字幕はいずれも「エジプト 3か月後」と表示されるが、オリジナル版では英語のセリフ体の書体を意識したのか、めずらしく教科書体だったフォントが、ハイビジョンリマスター版では丸ゴシック体に変わっている。
日本語だとコーネリアはミス・ヴァン・シュワイラーを「おばさま」と呼ぶが、原語では Cousin Marie と呼んでいる。英語の cousin はよく「いとこ」と訳されるが実際には同世代の親族や特定の呼称がない遠戚を広く指すことができ、日本語で言う「またいとこ」なども含む。しかし、日本語にはこの関係を表す呼びかけに使える言葉がないため、便宜上「おばさま」という訳語が当てられたのだろう。
オッタボーン夫人が「わたし、婦人参政権運動に大賛成」と言うが、イギリスではすでに1928年から女性を含む21歳以上の非貴族全員に選挙権と被選挙権が認められている。彼女の台詞は原語だと 'I was a great supporter of the Suffragettes, you know. (わたし、婦人参政権運動をとても支持していましたのよ)' となっており、過去の話である。また、ファーガスンが「ドイツでは独裁者が権力を握ろうとしてるのに」と言うが、ヒトラーが総統に就任して全権を掌握したのは1934年のことであり、劇中が1936年ならすでに「権力を握」っているはずである。こちらは原語でも 'a lunatic about to take power in germany (ドイツでは異常者が権力を握ろうとしてる)' と言っている。
ポワロがロザリーに言った「光るものすべて……」は、「光るものすべてが黄金とは限らない (All that glitters is not gold.)」ということわざの一部である。
船室を見たオッタボーン夫人が言う「カルカッタの穴蔵」とは、18世紀半ばに同地でイギリス人の守備隊員たちが閉じ込められ、その多数が暑さと酸欠で死亡したと言われる地下牢のこと。転じて一般に、暑くて狭苦しい部屋の形容に使われる。
ハイビジョンリマスター版の原語音声だと、クルーズ初日の夜の場面で劇伴として鳴っている音楽が、日本語音声と異なる。ハピネット・ピクチャーズの DVD 「名探偵ポワロ NEW SEASON DVD-BOX 1」に収録された「完全版」の原語音声も、ハイビジョンリマスター前の素材が使用されているが、やはり「名探偵ポワロ」ハイビジョンリマスター版の原語音声と同じ音楽が使用されている。また、席に着いたアラートン夫人が「何だか無愛想ね、ボーイさんたち」と言った台詞は、原語だと 'The way some of them look! After all we've done for them. (あの目つき。といっても、お互いさまだわね)' という内容で、無愛想というよりは異質なものとして見ているというニュアンスであり、加えて自分たちのことも相対化する視点がある。
クルーズ初日の夜、ポワロがジャクリーンと話す直前の場面の河岸では、その暗さにもかかわらず木の影が出ており、昼間に撮影した映像を加工して夜に見せていると思われる。また、ジャクリーンと別れたあと、甲板にたたずむポワロを映した場面では、手すりに張られた布を光点が移動する。しかし、その次の場面を見るかぎり、岸にその光源があるような場所を航行中には見えない。
遊覧船の屋上デッキでポワロが読んでいる The Nile: Notes for Travellers in Egypt は実在の書籍である。
スフィンクスのことをジャクリーンが「もともとはギリシャ神話の怪物で」と説明するが、実際のところはエジプトが起源であり、カフラー王のピラミッドに並ぶ大スフィンクスは、第4王朝期の紀元前26世紀の建立である。一方、ギリシャ神話にも登場するのはそれがギリシャに伝わったからで、紀元前9~7世紀頃にはキプロスなどで装飾として用いられた。[12]劇中でスフィンクスの像が置かれていたルクソール神殿は、第18王朝のアメンホテップ三世が建立し、第19王朝のラムセス二世らが増築したもので[13]、像は紀元前14~13世紀頃の制作か。
オッタボーン夫人の「コイやナマズにかじられるのよ」という台詞の「コイやナマズ」は原語だと haddock and carp (タラやコイ)。タラは海水魚なので、淡水魚のナマズに置き換えたのだろうか。なお、遊覧船に乗り込む際に彼女が「んん、そんなに押さないで!」と言った台詞も、原語だと 'Don't push me into the sea! (海に落とさないで!)' となっており、ナイル河を sea (海) と表現していた。
王家の谷で記念撮影をしているカメラマンが言う台詞は 'Keep as still as you can. (できるだけ動かないでください)' という英語だが、日本語音声でも吹き替えられていない。また、その前を横切るときポワロも 'Oh, monsieur. Ah.' と言っており、これもスーシェの声がそのまま聞こえる。そのあと、ポワロが目から望遠鏡を離したときに聞こえる 'Keep still! (動かないで)' という台詞も同様である。
レイス大佐と出会ったときにポワロが「アラビア語はわかりません」と言うが、「メソポタミア殺人事件」では滞在中に聞き覚えたアラビア語を話して、ヘイスティングスを驚かせていた。また、ターバンを解いた大佐にポワロが言う「なんと、あなただったんですね」という台詞は、原語だと 'I can't believe my eyes! (自分の目が信じられません)' という表現で、これは変装の見事さに驚いたというより、予想外の場所で知人に出会った驚きを表したものに思われる。
リネットにブリッジのスコアを訊かれたサイモンが、日本語だと「ええと、ぼくら120点負けてる」と言うが、原語では 'Er, we made a handred and twenty below the line... (ええと、線より下で120点取ってるから……)' と言っており、ブリッジのスコアシートは真ん中の線より上にボーナス点、下に基本点を記録し、一般的な三番勝負では基本点100点先取で1勝となるので、むしろ勝っている。なお、ブリッジは向かい合った2人がペアになってプレーし、スコアを共有するので、リネットがサイモンに自分たちのスコアを確認したのである。
事件当夜に停泊中の船が映る場面では、深夜と見られる時刻なのになぜか画面右の河岸に人集りがあるほか、船尾の奥の木のあいだを現代のトラックらしき明かりが通過するのが見える。なお、その場面は事件前と後に1回ずつ出てくるが、いずれも同じ映像である。
事件翌朝、被害者のかたわらの壁に血で書かれた J の文字を見て、ポワロが「彼女は数日前わたしに言いました。『このピストルをリネットの頭に、押しつけて、ゆっくり引き金を引くの』 (A young lady who less than a week ago decleared to me that 'I would like nothing better than to place my gun against her head, and gently pull the trigger.')」と言うが、実際にジャクリーンが言ったのは「彼女を痛めつけてやりたい――この拳銃を彼女の頭に押しつけて、ゆっくりと、引き金を、引くの (And I want to hurt her—to put my gun against her head and gently pull the trigger.)」であった。
遊覧船の責任者から「できましたら、ひとつなるべく内密に……」と言われたレイス大佐が「そりゃもちろんそのつもりだよ」と答えた台詞は、原語だと 'Well, that's our specialty, old chap. (そりゃわれわれの専門だよ)' という表現で、大佐が情報機関に所属していることを踏まえたジョークである。
ファーガスンが「そう、〔ドイルは〕彼女〔ジャクリーン〕がばかな真似をするんじゃないかって心配してた。ほっとくと自殺するんじゃないかって」と言った台詞の後半部は、原語だと 'She even said that she wanted to kill herself. (彼女、自殺したいとまで言ったんだ)' という表現で、実際にも自殺について口にしたのはドイルでなくジャクリーン本人だった。
ポワロがファーガスンとコーネリアに事情を聞いているとき、ジャクリーンのことを複数回「ジャクリーヌ」と呼ぶ。これは Jacqueline のフランス語読みである。
凶器の銃が河から発見される際の、船の責任者の台詞はアラビア語と思われ、日本語音声でも原語音声と変わらないが、ハイビジョンリマスター版の切換式字幕では「あった…?」と表示される。
ポワロがサイモンにリネットの敵を訊く際、「実は、ムッシュウ・ドイル、クルーズの最初の日、奥さんとちょっと話したんですが」と言うが、そのやりとりはサイモンの眼前でおこなわれていた。「実は」に対応する原語は 'You see, (ほら)' で、「実は」のように相手にとって未知の事柄を明らかにするニュアンスはなく、既知である前提で話題を持ち出す際に使われる。
事件後にティムがジャクリーンのことを「まるでアニー・オークリー気取りだ」と評するが、このアニー・オークリーとは、ミュージカル「アニーよ銃をとれ」の主人公のモデルとしても知られる、実在の女性射撃手。ショーでその腕前を披露し、一躍スターになったという。またその前後の場面では、窓の向こうの景色の動く方向が、アラートン夫人を正面から見た向きのみ、ほかの向きでの動きとあわない。さらに、ジャクリーンが食堂に入ってきた直後には、窓の外の景色が静止しており、船が一瞬停まっていたかのように見える。
ポワロが真珠の首飾りを歯に当てるのは、真珠の表面の摩擦を感じる鑑定法。本物は摩擦があり、模造品は摩擦がない。
ルイーズの死因をドクター・ベスナーが「心臓を一突き」と言うが、のちに謎解きのなかで明らかにされる殺害の様子は滅多刺しである。原語では 'Stabbed to the heart. (心臓を刺されて)' という表現で、刺した回数は限定されていない。また、ポワロがメモから読み上げるルイーズの発言は「何か見聞きするなんて不可能です。眠れずに上の階に戻ってきたんなら、何か見たかもしれません。犯人が奥さまの部屋に入る、あるいは出るのを (It is not possible that I should hear anything, unless I could not sleep and came back up. Then, perhaps, I see something—this monster enter or leave my mistress's cabin.)」となっているが、実際にルイーズが言ったのは「何か見聞きするなんて不可能です。もちろん、眠れずに上の階に上がってきたのなら、何か見たかもしれません。その殺人犯が奥さまの部屋に入る、あるいは出るのを (It is not possible I should hear anything, unless I could not sleep and came back up. Then, perhaps, I see something—this monster enter or leave my mistress's cabin,)」で、日本語音声も原語音声もわずかに異なる。
ミス・ヴァン・シュワイラーがファーガスンのコーネリアへの求婚を一蹴した理由を、日本語だと「外見から判断して」とファーガスンが言うが、原語は in the natural order of things (物事の秩序として) という表現で、先にミス・ヴァン・シュワイラーが言ったように、社会的地位に鑑みてという趣旨である。もっとも、そのファーガソンの社会的地位は、外見から判断したのだろうけど。
ドクター・ベスナーがリネットの死因を説明する場面では、遺体のはずのリネットの瞼がわずかに動いているのが見える。また、ハイビジョンリマスター版のルイーズの遺体が発見される場面では、やはり死んでいるはずのルイーズのお腹が大きく上下している。これはオリジナル版だと映像の処理によって修正されていたが、その代わり、ルイーズのエプロンを横切るポワロの腕の影が不自然に短くなっていた。その後ベッドに寝かされたルイーズの遺体や、謎解きのプレイバックで映されるリネットの遺体もやはり穏やかに息をしており、これはオリジナル版もハイビジョンリマスター版も同様。加えて、オタボーン夫人が撃たれた際、右手を床につき、倒れたあとに体の向きと右腕の位置を動かしている。
アンドルー・ペニントン役のデビッド・ソウルは、ピーター・ユスチノフ主演の映画「死海殺人事件」でジェファーソン・コープ役を、レイス大佐役のジェームス・フォックスは、ジェラルディン・マクイーワン主演の「ミス・マープル」の一篇、「書斎の死体」でバントリー大佐役を演じている。また、同「ミス・マープル」シリーズでは、サロメ・オタボーン役のフランシス・デ・ラ・チュアも「動く指」でカルスロップ牧師夫人役、ロザリー・オタボーン役のゾーイ・テルフォードも「シタフォードの謎」でエミリー・トレフュシス役を演じているほか、「シタフォードの謎」でジェームズ・ピアソン役を演じたローレンス・フォックスはジェームス・フォックスの息子である。主演がジュリア・マッケンジーに交代してからは、「殺人は容易だ」にドクター・ベスナー役のスティーブ・ペンバートンがヘンリー・ウェイク牧師役で、「魔術の殺人」にジャクリーン・ド・ベルフォール役のエマ・マリンがジーナ・ハッド役(エマ・グリフィス・マリン名義)で、「蒼ざめた馬」にサイモン・ドイル役のJJ・フィールドがポール・オズボーン役で、「グリーンショウ氏の阿房宮」にミス・ヴァン・シュワイラー役のジュディ・パーフィットがシスリー・ボークラーク役で出演。フランシス・デ・ラ・チュアはヘレン・ヘイズ主演「魔術の殺人」にもミス・ベレーバー役で出演している。このほか、ゾーイ・テルフォードはベネディクト・カンバーバッチ主演「シャーロック」シリーズのサラ役、ジュディ・パーフィットは「ER 緊急救命室」シリーズのイザベル・コーデイ役、アラートン夫人役のバーバラ・フリンはジョン・ソウ主演の「主任警部モース」の一篇、「ニコラス・クインの静かな世界」のモニカ・ハイト役でも見ることができる。
本作でレイス大佐の吹替を務めた阪脩さんは、ユスチノフ主演の映画「ナイル殺人事件」にも船長役や道路工事夫(左のほう)役の吹替で出演している。また、アンドルー・ペニントンの吹替を務めた佐々木梅治さんは、2023年の舞台「ホロー荘の殺人」ではガジョン役を演じている。
ルクソール神殿を訪れた日にコーネリアが着ていたワンピースは、「メソポタミア殺人事件」で事件発生時にライドナー夫人が着ていたのと同じもの。また、クルーズ初日の夜のディナーの席でロザリーがかぶっている帽子は、フランセスカ・アニスとジェームス・ワーウィック主演の「二人で探偵を」シリーズ「サニングデールの怪事件」でタペンスがかぶっていたのと同じものである。
ジャクリーンが拳銃を落としたのに気づいてポワロが「ん?」と言ったり、同じく彼女から「あなたのおっしゃるようにはできませんわ」と言われて「ええ?」と言ったり、クルーズ初日にリネットから「わたしの周りは敵だらけよ」と言われて大きく息をついたり、アラートン夫人がミス・ヴァン・シュワイラーを遺跡から掘り出した骨董品みたいと評したのに笑い声を立てたり、ファーガスンの持ち物の指輪を調べて「ほう」と言ったり、ペニントンの船のチケットを見て「ふうん」と言ったり、犯人の最後の頼みに「うむ」とうなずいたりするのは日本語音声のみ。また、ハトホル神殿での石像が落ちてきたあと、立ち去るリネットにティムが「リネット? サイモン、リネットが…… リネット、待って!」と言ったり、そのあとアラートン夫人の「ティム、何があったの?」という質問に「大変だよ! いきなり石像が落ちてきて……」と答えたりしたのも同様。一方、デンデラに上陸する際に土産物を勧められてペニントンが「いらないよ」という前に、原語だとジャクリーンも 'Oh, ah... no, thank you. (ああ、えっと……いらないわ)' と言っているのだが、日本語には対応する台詞がない。また、ポワロがアラートン夫人とオッタボーン夫人にレイス大佐を紹介したあと、大佐が 'How do you do? (どうぞよろしく)' と言う台詞も、日本語音声には存在しない。
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サインをする前に書類を全部確認しようとしたリネットにサイモンが「〔サインを〕しろと言われりゃすりゃいいんだ」と言ったのに対して、ペニントンが「いやあ、そりゃ危険ですよ、時によっちゃ」とたしなめたのは、ペニントンが財産管理上の問題を隠蔽するためにリネットにサインをさせようとしていたことがのちに明らかになると、不思議に感じられるかもしれない。ペニントンの台詞は原語だと 'Now that could be quite risky, don't you think? (さすがにそれは危険すぎると思いませんか?)' という表現で、財産の権利者がサイモンに移れば隠蔽が容易になることに、ここで気づいたことがわかる。サイモンが手にした書類をペニントンが取り上げる際の「だめだ」という台詞も日本語音声だけのもので、原語音声では書類の内容をサイモンに見られるのを阻止したニュアンスはなく、サイモンの発言を受けて、必ず事前に書類の内容を確認するリネットにサインさせる方針を転換したのである。
事件の晩にミス・ヴァン・シュワイラーとコーネリアが交わす「どこ行ってたの、わたしに断りもなく。まあ、ドレス汚して」「あらいやだ、ごめんなさい、おばさま、わたし今ちょっと……」というやりとりは、原語だと 'Where have you been? You're unusually breathless. Oh, and blotchy. (どこ行ってたの、めずらしく息なんか切らして。まあ、〔肌が〕しみだらけよ)' 'Oh dear, I'm sorry, Cousin Marie, I was just outside... (あらいやだ、ごめんなさい、おばさま、外に出ていたから〔日に焼けて〕)' という会話で、確かにコーネリアのドレスの模様は汚れにも見えるがそうではなく、ミス・ヴァン・シュワイラーの杖もドレスではなく首の下の肌を指しているように、問題にされているのはコーネリアの肌の日焼けの跡である。しかし、それでもドクター・ベスナーには彼女が好意的に見られている様子や、またドクターの前ではコーネリアも平常心を失っている様子がここで描かれている。
ポワロがミス・ヴァン・シュワイラーに、ファーガスンがドウリッシュ卿 (Lord Dawlish) であることを伝えたうえで、「こう爵家の紋章入りの指輪を持ってることも知っています」と言う台詞に対し、ハイビジョンリマスター版の切換式字幕は「公爵家の紋章入りの指輪を持ってることも知っています」と表示されるが、「卿 (Lord)」は侯爵以下の貴族に対する敬称で、公爵に使うことはできないので、ドウリッシュ卿の「こう爵」は侯爵でなければならない。ただ、この台詞は原語だと 'I discovered his signet ring with the Dawlish coat-of-arms on it (ドウリッシュ家の紋章入りの印章指輪も見つけました)' という表現で、具体的な爵位への言及はない。また、その情報を聞いてミス・ヴァン・シュワイラーが「それは実にいいことを伺ってよかったですわ、ポワロさん」と言ったのに対し、ポワロが「はい」と頭を下げたときに片方の眉を上げてみせるのは、原語だとミス・ヴァン・シュワイラーがポワロの名前を「ポロー」と呼びまちがえていることも関係していそうである。ポワロの「はい」も、原語では特に音がなく、ポワロは口を動かしているだけである。
謎解きのなかで、拳銃が蹴り込まれた先をポワロが「長椅子」の下と言うが、実際には長椅子の隣の、一人がけの肘掛け椅子の下であり、原語も chair (椅子) と言っている。
ナイル河クルーズの遊覧船上を主な舞台とするエキゾチックな本作は、ピーター・ユスチノフ主演の映画「ナイル殺人事件」や、ケネス・ブラナー主演の映画「ナイル殺人事件」と原作を同じくするエピソードで、スーシェもいちばん映像化したかった一作を問われた際に本作を挙げた[5]。原作小説はのちにクリスティー自身によって戯曲化されているが、戯曲の方にはポワロは登場せず、ポワロとペニントンを足しあわせたような役どころのペニファーザー司祭が探偵役をつとめる。また、小説には同名の「ナイル河上の死 (Death on the Nile)」(『パーカー・パイン登場』所収)という短篇も存在するが、舞台がナイル河を航行する遊覧船上であること以外に本作と内容上の共通点はなく、むしろこの短篇は〔» エピソードの題名を表示〕「コーンワルの毒殺事件」の別バージョンといった内容である。
原作小説がポワロ物の作品の中でも屈指の長さを誇ることもあり、本作の放送時間は第9シリーズのほかの作品よりも5分長い、99分となっている(オリジナル版の場合。ハイビジョンリマスター版では4分30秒長い98分30秒だが、本篇部分の長さは同じ)。しかし、それでも登場人物がエジプトに集まるまでのエピソードはほとんどがカットされ、船客からは考古学者のリケティと弁護士のファンソープ、看護師のミス・バワーズが削られた。
本作の撮影に当たっては「メソポタミア殺人事件」の撮影でチュニジアの暑さに悩まされたスーシェが現地ロケに抵抗感を示していたものの[4]、最終的にはエジプトロケが敢行された。このドラマシリーズ中、エジプトを舞台にした作品は今回で3作目だが、「海上の悲劇」はギリシャで、「エジプト墳墓のなぞ」はスペインで撮影されており、実際にエジプトで撮影がおこなわれたのは今回が初めて。しかし、予算・スケジュール上の都合なのか撮影許可の問題なのか、ロケ地は原作に描かれたナセル湖の周辺(厳密には、原作当時にナセル湖はなかったけれど)ではなくルクソール近辺となっており、クリスティー自身も滞在し、その部屋で本原作の執筆がおこなわれたというアスワンのカタラクト・ホテルは、やはりクリスティーが滞在し、本原作の執筆もなされたルクソールのオールド・ウィンター・パレス・ホテルに(ただしホテル内のダンスホールは、かつてゲズィーラ・パレスという宮殿だったカイロ・マリオット・ホテル内で撮影)、エル・セブア神殿はルクソール神殿に、アブ・シンベル神殿はデンデラのハトホル神殿(劇中の日本語音声では、ジャクリーンの台詞中の一度だけは「ホトホル」と発音)に置き換えられている。一方、カルナック号として撮影に使われた客船は、実際には1885年建造のスーダン号という船。これもやはり1933年にクリスティー本人が実際に乗船し、本作の着想を得たとされる船で[6]、現在もナイル河クルーズに使用されている。なお、スーシェのインタビューや自伝ではずっと、この船は映画「ナイル殺人事件」で使われたのと同じ船と語られているが[7][8]、映画で使われたのは1904年建造のメモン号という別の船である[9]。また、船内の場面の大半は、イギリスのシェパートン・スタジオ内に再現されたセットで撮影された[4]。冒頭で映るリネットのイギリスの邸宅は、ロンドン南東部のエルタム・パレスで、その邸内は、ジェラルディン・マクイーワン主演「ミス・マープル」シリーズ「パディントン発4時50分」でもノエル・カワードの家として撮影に使われている。
撮影時期は2003年12月頃[10]。スーシェの自伝には、本作の撮影を2003年の初秋に終えたという記述があるが、リネットの邸宅外観が明らかに晩秋以降の様子であるのみならず、本作の撮影が「ホロー荘の殺人」よりもあとだったという同書内の記述とも矛盾し(イギリスの秋は一般に9月~11月を指すが、「ホロー荘の殺人」の撮影時期は2003年10月)、誤りと思われる[11]。一方、劇中の時期は、ダンスフロアでのオタボーン夫人の台詞「冬のロンドン (London in January)」から1月、ペニントンのノルマンディー号の乗船券に書かれた日付も1936年1月だが、サロンでファーガスンが読んでいる『ライフ』誌は1937年1月4日号(表紙に写っているのは、当時のアメリカ大統領フランクリン・ローズベルト)。さらに甲板でジャクリーンが読んでいる『ヴォーグ』誌は1938年12月15日号である。
ジャクリーンの心情の象徴のように使われている挿入歌は、冒頭のものが 'Mad about the Boy'、ラストのものが 'Love is the Sweetest Thing'。後者は「エンドハウスの怪事件」のエンドハウスでも同じ音源のレコードがかけられていたほか、事件の晩にジャクリーン自身も口ずさむ。しかし日本語音声では、2節目の What else on the earth could ever bring を、 What else on the earth could have a bring と歌っている。ホテルのダンスホールで演奏されていた曲は 'I Won't Dance', 'Zing! Went the Strings of My Heart', 'Smoke Gets in Your Eyes'。事件翌朝、身支度中のポワロが口ずさむ歌は日本語音声と原語音声でメロディーが異なるが、日本語の方の前半は 'Row, Row, Row Your Boat' のようだ。
日本語音声において、ゴシップ記事でリネットが結婚間近と書かれていると言われるウィンドルシャム卿の名は、原語の台詞にもクレジットにも登場せず、原作から名前を持ってきて補ったと見られる。一方、ジョアナがティムを評して言った「マザコン」は1930年代らしからぬ言い様だが、原語では Sophoclean という表現で、ソフォクレスの代表作『オイディプス王』の主人公オイディプスが(それと知らずに)実母と結婚したことを踏まえた言葉である。また、ルイーズが「マドモワゼル・ド・ベルフォールがお見えになりました」と伝えにきたのは昼間だが、オリジナル版でリネットとジャクリーンが再会を喜ぶのは夜になってから。ルイーズの台詞は原語だと 'Mademoiselle de Bellefort will be here for supper. (マドモワゼル・ド・ベルフォールがお夕食にお見えになるそうです)' で、報告の時点ではまだ到着していない。しかし、ハイビジョンリマスター版ではリネットとジャクリーンの再会の場面の前に差し込まれる屋敷の外観のカットが昼間になっていて、日本語でも大きな齟齬はなくなっている。ただ、時間の経過がないとすれば、わざわざ屋敷の外観のカットが差し込まれるのがいささか不自然ではある。一方、サイモンのいたエントランスホールの窓の外は、オリジナル版では夜だが(といっても、画面左上に一時見える窓は明るいけど)、ハイビジョンリマスター版ではまだ明るい。そして、その前の客間の窓の外は、オリジナル版でもハイビジョンリマスター版でもまだ明るい。
エジプトへ場面が切り替わった際に遠景に見えるピラミッドは、三大ピラミッドと呼ばれるうちの2つ、カフラー王(手前)とクフ王(奥)のものらしく見えるが、両者とも実際にはナイル河からこのように見える位置にはなく、その手前の河沿いの建物なども含めて CG による合成と見られる。また、ここで表示される英語の字幕は、オリジナル版だと Egypt. Three months later (エジプト。3か月後) だったが、ハイビジョンリマスター版ではただ Three months later (3か月後) に変わった。一方、それに併記された日本語の字幕はいずれも「エジプト 3か月後」と表示されるが、オリジナル版では英語のセリフ体の書体を意識したのか、めずらしく教科書体だったフォントが、ハイビジョンリマスター版では丸ゴシック体に変わっている。
日本語だとコーネリアはミス・ヴァン・シュワイラーを「おばさま」と呼ぶが、原語では Cousin Marie と呼んでいる。英語の cousin はよく「いとこ」と訳されるが実際には同世代の親族や特定の呼称がない遠戚を広く指すことができ、日本語で言う「またいとこ」なども含む。しかし、日本語にはこの関係を表す呼びかけに使える言葉がないため、便宜上「おばさま」という訳語が当てられたのだろう。
オッタボーン夫人が「わたし、婦人参政権運動に大賛成」と言うが、イギリスではすでに1928年から女性を含む21歳以上の非貴族全員に選挙権と被選挙権が認められている。彼女の台詞は原語だと 'I was a great supporter of the Suffragettes, you know. (わたし、婦人参政権運動をとても支持していましたのよ)' となっており、過去の話である。また、ファーガスンが「ドイツでは独裁者が権力を握ろうとしてるのに」と言うが、ヒトラーが総統に就任して全権を掌握したのは1934年のことであり、劇中が1936年ならすでに「権力を握」っているはずである。こちらは原語でも 'a lunatic about to take power in germany (ドイツでは異常者が権力を握ろうとしてる)' と言っている。
ポワロがロザリーに言った「光るものすべて……」は、「光るものすべてが黄金とは限らない (All that glitters is not gold.)」ということわざの一部である。
船室を見たオッタボーン夫人が言う「カルカッタの穴蔵」とは、18世紀半ばに同地でイギリス人の守備隊員たちが閉じ込められ、その多数が暑さと酸欠で死亡したと言われる地下牢のこと。転じて一般に、暑くて狭苦しい部屋の形容に使われる。
ハイビジョンリマスター版の原語音声だと、クルーズ初日の夜の場面で劇伴として鳴っている音楽が、日本語音声と異なる。ハピネット・ピクチャーズの DVD 「名探偵ポワロ NEW SEASON DVD-BOX 1」に収録された「完全版」の原語音声も、ハイビジョンリマスター前の素材が使用されているが、やはり「名探偵ポワロ」ハイビジョンリマスター版の原語音声と同じ音楽が使用されている。また、席に着いたアラートン夫人が「何だか無愛想ね、ボーイさんたち」と言った台詞は、原語だと 'The way some of them look! After all we've done for them. (あの目つき。といっても、お互いさまだわね)' という内容で、無愛想というよりは異質なものとして見ているというニュアンスであり、加えて自分たちのことも相対化する視点がある。
クルーズ初日の夜、ポワロがジャクリーンと話す直前の場面の河岸では、その暗さにもかかわらず木の影が出ており、昼間に撮影した映像を加工して夜に見せていると思われる。また、ジャクリーンと別れたあと、甲板にたたずむポワロを映した場面では、手すりに張られた布を光点が移動する。しかし、その次の場面を見るかぎり、岸にその光源があるような場所を航行中には見えない。
遊覧船の屋上デッキでポワロが読んでいる The Nile: Notes for Travellers in Egypt は実在の書籍である。
スフィンクスのことをジャクリーンが「もともとはギリシャ神話の怪物で」と説明するが、実際のところはエジプトが起源であり、カフラー王のピラミッドに並ぶ大スフィンクスは、第4王朝期の紀元前26世紀の建立である。一方、ギリシャ神話にも登場するのはそれがギリシャに伝わったからで、紀元前9~7世紀頃にはキプロスなどで装飾として用いられた。[12]劇中でスフィンクスの像が置かれていたルクソール神殿は、第18王朝のアメンホテップ三世が建立し、第19王朝のラムセス二世らが増築したもので[13]、像は紀元前14~13世紀頃の制作か。
オッタボーン夫人の「コイやナマズにかじられるのよ」という台詞の「コイやナマズ」は原語だと haddock and carp (タラやコイ)。タラは海水魚なので、淡水魚のナマズに置き換えたのだろうか。なお、遊覧船に乗り込む際に彼女が「んん、そんなに押さないで!」と言った台詞も、原語だと 'Don't push me into the sea! (海に落とさないで!)' となっており、ナイル河を sea (海) と表現していた。
王家の谷で記念撮影をしているカメラマンが言う台詞は 'Keep as still as you can. (できるだけ動かないでください)' という英語だが、日本語音声でも吹き替えられていない。また、その前を横切るときポワロも 'Oh, monsieur. Ah.' と言っており、これもスーシェの声がそのまま聞こえる。そのあと、ポワロが目から望遠鏡を離したときに聞こえる 'Keep still! (動かないで)' という台詞も同様である。
レイス大佐と出会ったときにポワロが「アラビア語はわかりません」と言うが、「メソポタミア殺人事件」では滞在中に聞き覚えたアラビア語を話して、ヘイスティングスを驚かせていた。また、ターバンを解いた大佐にポワロが言う「なんと、あなただったんですね」という台詞は、原語だと 'I can't believe my eyes! (自分の目が信じられません)' という表現で、これは変装の見事さに驚いたというより、予想外の場所で知人に出会った驚きを表したものに思われる。
リネットにブリッジのスコアを訊かれたサイモンが、日本語だと「ええと、ぼくら120点負けてる」と言うが、原語では 'Er, we made a handred and twenty below the line... (ええと、線より下で120点取ってるから……)' と言っており、ブリッジのスコアシートは真ん中の線より上にボーナス点、下に基本点を記録し、一般的な三番勝負では基本点100点先取で1勝となるので、むしろ勝っている。なお、ブリッジは向かい合った2人がペアになってプレーし、スコアを共有するので、リネットがサイモンに自分たちのスコアを確認したのである。
事件当夜に停泊中の船が映る場面では、深夜と見られる時刻なのになぜか画面右の河岸に人集りがあるほか、船尾の奥の木のあいだを現代のトラックらしき明かりが通過するのが見える。なお、その場面は事件前と後に1回ずつ出てくるが、いずれも同じ映像である。
事件翌朝、被害者のかたわらの壁に血で書かれた J の文字を見て、ポワロが「彼女は数日前わたしに言いました。『このピストルをリネットの頭に、押しつけて、ゆっくり引き金を引くの』 (A young lady who less than a week ago decleared to me that 'I would like nothing better than to place my gun against her head, and gently pull the trigger.')」と言うが、実際にジャクリーンが言ったのは「彼女を痛めつけてやりたい――この拳銃を彼女の頭に押しつけて、ゆっくりと、引き金を、引くの (And I want to hurt her—to put my gun against her head and gently pull the trigger.)」であった。
遊覧船の責任者から「できましたら、ひとつなるべく内密に……」と言われたレイス大佐が「そりゃもちろんそのつもりだよ」と答えた台詞は、原語だと 'Well, that's our specialty, old chap. (そりゃわれわれの専門だよ)' という表現で、大佐が情報機関に所属していることを踏まえたジョークである。
ファーガスンが「そう、〔ドイルは〕彼女〔ジャクリーン〕がばかな真似をするんじゃないかって心配してた。ほっとくと自殺するんじゃないかって」と言った台詞の後半部は、原語だと 'She even said that she wanted to kill herself. (彼女、自殺したいとまで言ったんだ)' という表現で、実際にも自殺について口にしたのはドイルでなくジャクリーン本人だった。
ポワロがファーガスンとコーネリアに事情を聞いているとき、ジャクリーンのことを複数回「ジャクリーヌ」と呼ぶ。これは Jacqueline のフランス語読みである。
凶器の銃が河から発見される際の、船の責任者の台詞はアラビア語と思われ、日本語音声でも原語音声と変わらないが、ハイビジョンリマスター版の切換式字幕では「あった…?」と表示される。
ポワロがサイモンにリネットの敵を訊く際、「実は、ムッシュウ・ドイル、クルーズの最初の日、奥さんとちょっと話したんですが」と言うが、そのやりとりはサイモンの眼前でおこなわれていた。「実は」に対応する原語は 'You see, (ほら)' で、「実は」のように相手にとって未知の事柄を明らかにするニュアンスはなく、既知である前提で話題を持ち出す際に使われる。
事件後にティムがジャクリーンのことを「まるでアニー・オークリー気取りだ」と評するが、このアニー・オークリーとは、ミュージカル「アニーよ銃をとれ」の主人公のモデルとしても知られる、実在の女性射撃手。ショーでその腕前を披露し、一躍スターになったという。またその前後の場面では、窓の向こうの景色の動く方向が、アラートン夫人を正面から見た向きのみ、ほかの向きでの動きとあわない。さらに、ジャクリーンが食堂に入ってきた直後には、窓の外の景色が静止しており、船が一瞬停まっていたかのように見える。
ポワロが真珠の首飾りを歯に当てるのは、真珠の表面の摩擦を感じる鑑定法。本物は摩擦があり、模造品は摩擦がない。
ルイーズの死因をドクター・ベスナーが「心臓を一突き」と言うが、のちに謎解きのなかで明らかにされる殺害の様子は滅多刺しである。原語では 'Stabbed to the heart. (心臓を刺されて)' という表現で、刺した回数は限定されていない。また、ポワロがメモから読み上げるルイーズの発言は「何か見聞きするなんて不可能です。眠れずに上の階に戻ってきたんなら、何か見たかもしれません。犯人が奥さまの部屋に入る、あるいは出るのを (It is not possible that I should hear anything, unless I could not sleep and came back up. Then, perhaps, I see something—this monster enter or leave my mistress's cabin.)」となっているが、実際にルイーズが言ったのは「何か見聞きするなんて不可能です。もちろん、眠れずに上の階に上がってきたのなら、何か見たかもしれません。その殺人犯が奥さまの部屋に入る、あるいは出るのを (It is not possible I should hear anything, unless I could not sleep and came back up. Then, perhaps, I see something—this monster enter or leave my mistress's cabin,)」で、日本語音声も原語音声もわずかに異なる。
ミス・ヴァン・シュワイラーがファーガスンのコーネリアへの求婚を一蹴した理由を、日本語だと「外見から判断して」とファーガスンが言うが、原語は in the natural order of things (物事の秩序として) という表現で、先にミス・ヴァン・シュワイラーが言ったように、社会的地位に鑑みてという趣旨である。もっとも、そのファーガソンの社会的地位は、外見から判断したのだろうけど。
ドクター・ベスナーがリネットの死因を説明する場面では、遺体のはずのリネットの瞼がわずかに動いているのが見える。また、ハイビジョンリマスター版のルイーズの遺体が発見される場面では、やはり死んでいるはずのルイーズのお腹が大きく上下している。これはオリジナル版だと映像の処理によって修正されていたが、その代わり、ルイーズのエプロンを横切るポワロの腕の影が不自然に短くなっていた。その後ベッドに寝かされたルイーズの遺体や、謎解きのプレイバックで映されるリネットの遺体もやはり穏やかに息をしており、これはオリジナル版もハイビジョンリマスター版も同様。加えて、オタボーン夫人が撃たれた際、右手を床につき、倒れたあとに体の向きと右腕の位置を動かしている。
アンドルー・ペニントン役のデビッド・ソウルは、ピーター・ユスチノフ主演の映画「死海殺人事件」でジェファーソン・コープ役を、レイス大佐役のジェームス・フォックスは、ジェラルディン・マクイーワン主演の「ミス・マープル」の一篇、「書斎の死体」でバントリー大佐役を演じている。また、同「ミス・マープル」シリーズでは、サロメ・オタボーン役のフランシス・デ・ラ・チュアも「動く指」でカルスロップ牧師夫人役、ロザリー・オタボーン役のゾーイ・テルフォードも「シタフォードの謎」でエミリー・トレフュシス役を演じているほか、「シタフォードの謎」でジェームズ・ピアソン役を演じたローレンス・フォックスはジェームス・フォックスの息子である。主演がジュリア・マッケンジーに交代してからは、「殺人は容易だ」にドクター・ベスナー役のスティーブ・ペンバートンがヘンリー・ウェイク牧師役で、「魔術の殺人」にジャクリーン・ド・ベルフォール役のエマ・マリンがジーナ・ハッド役(エマ・グリフィス・マリン名義)で、「蒼ざめた馬」にサイモン・ドイル役のJJ・フィールドがポール・オズボーン役で、「グリーンショウ氏の阿房宮」にミス・ヴァン・シュワイラー役のジュディ・パーフィットがシスリー・ボークラーク役で出演。フランシス・デ・ラ・チュアはヘレン・ヘイズ主演「魔術の殺人」にもミス・ベレーバー役で出演している。このほか、ゾーイ・テルフォードはベネディクト・カンバーバッチ主演「シャーロック」シリーズのサラ役、ジュディ・パーフィットは「ER 緊急救命室」シリーズのイザベル・コーデイ役、アラートン夫人役のバーバラ・フリンはジョン・ソウ主演の「主任警部モース」の一篇、「ニコラス・クインの静かな世界」のモニカ・ハイト役でも見ることができる。
本作でレイス大佐の吹替を務めた阪脩さんは、ユスチノフ主演の映画「ナイル殺人事件」にも船長役や道路工事夫(左のほう)役の吹替で出演している。また、アンドルー・ペニントンの吹替を務めた佐々木梅治さんは、2023年の舞台「ホロー荘の殺人」ではガジョン役を演じている。
ルクソール神殿を訪れた日にコーネリアが着ていたワンピースは、「メソポタミア殺人事件」で事件発生時にライドナー夫人が着ていたのと同じもの。また、クルーズ初日の夜のディナーの席でロザリーがかぶっている帽子は、フランセスカ・アニスとジェームス・ワーウィック主演の「二人で探偵を」シリーズ「サニングデールの怪事件」でタペンスがかぶっていたのと同じものである。
ジャクリーンが拳銃を落としたのに気づいてポワロが「ん?」と言ったり、同じく彼女から「あなたのおっしゃるようにはできませんわ」と言われて「ええ?」と言ったり、クルーズ初日にリネットから「わたしの周りは敵だらけよ」と言われて大きく息をついたり、アラートン夫人がミス・ヴァン・シュワイラーを遺跡から掘り出した骨董品みたいと評したのに笑い声を立てたり、ファーガスンの持ち物の指輪を調べて「ほう」と言ったり、ペニントンの船のチケットを見て「ふうん」と言ったり、犯人の最後の頼みに「うむ」とうなずいたりするのは日本語音声のみ。また、ハトホル神殿での石像が落ちてきたあと、立ち去るリネットにティムが「リネット? サイモン、リネットが…… リネット、待って!」と言ったり、そのあとアラートン夫人の「ティム、何があったの?」という質問に「大変だよ! いきなり石像が落ちてきて……」と答えたりしたのも同様。一方、デンデラに上陸する際に土産物を勧められてペニントンが「いらないよ」という前に、原語だとジャクリーンも 'Oh, ah... no, thank you. (ああ、えっと……いらないわ)' と言っているのだが、日本語には対応する台詞がない。また、ポワロがアラートン夫人とオッタボーン夫人にレイス大佐を紹介したあと、大佐が 'How do you do? (どうぞよろしく)' と言う台詞も、日本語音声には存在しない。
» 結末や真相に触れる内容を表示
サインをする前に書類を全部確認しようとしたリネットにサイモンが「〔サインを〕しろと言われりゃすりゃいいんだ」と言ったのに対して、ペニントンが「いやあ、そりゃ危険ですよ、時によっちゃ」とたしなめたのは、ペニントンが財産管理上の問題を隠蔽するためにリネットにサインをさせようとしていたことがのちに明らかになると、不思議に感じられるかもしれない。ペニントンの台詞は原語だと 'Now that could be quite risky, don't you think? (さすがにそれは危険すぎると思いませんか?)' という表現で、財産の権利者がサイモンに移れば隠蔽が容易になることに、ここで気づいたことがわかる。サイモンが手にした書類をペニントンが取り上げる際の「だめだ」という台詞も日本語音声だけのもので、原語音声では書類の内容をサイモンに見られるのを阻止したニュアンスはなく、サイモンの発言を受けて、必ず事前に書類の内容を確認するリネットにサインさせる方針を転換したのである。
事件の晩にミス・ヴァン・シュワイラーとコーネリアが交わす「どこ行ってたの、わたしに断りもなく。まあ、ドレス汚して」「あらいやだ、ごめんなさい、おばさま、わたし今ちょっと……」というやりとりは、原語だと 'Where have you been? You're unusually breathless. Oh, and blotchy. (どこ行ってたの、めずらしく息なんか切らして。まあ、〔肌が〕しみだらけよ)' 'Oh dear, I'm sorry, Cousin Marie, I was just outside... (あらいやだ、ごめんなさい、おばさま、外に出ていたから〔日に焼けて〕)' という会話で、確かにコーネリアのドレスの模様は汚れにも見えるがそうではなく、ミス・ヴァン・シュワイラーの杖もドレスではなく首の下の肌を指しているように、問題にされているのはコーネリアの肌の日焼けの跡である。しかし、それでもドクター・ベスナーには彼女が好意的に見られている様子や、またドクターの前ではコーネリアも平常心を失っている様子がここで描かれている。
ポワロがミス・ヴァン・シュワイラーに、ファーガスンがドウリッシュ卿 (Lord Dawlish) であることを伝えたうえで、「こう爵家の紋章入りの指輪を持ってることも知っています」と言う台詞に対し、ハイビジョンリマスター版の切換式字幕は「公爵家の紋章入りの指輪を持ってることも知っています」と表示されるが、「卿 (Lord)」は侯爵以下の貴族に対する敬称で、公爵に使うことはできないので、ドウリッシュ卿の「こう爵」は侯爵でなければならない。ただ、この台詞は原語だと 'I discovered his signet ring with the Dawlish coat-of-arms on it (ドウリッシュ家の紋章入りの印章指輪も見つけました)' という表現で、具体的な爵位への言及はない。また、その情報を聞いてミス・ヴァン・シュワイラーが「それは実にいいことを伺ってよかったですわ、ポワロさん」と言ったのに対し、ポワロが「はい」と頭を下げたときに片方の眉を上げてみせるのは、原語だとミス・ヴァン・シュワイラーがポワロの名前を「ポロー」と呼びまちがえていることも関係していそうである。ポワロの「はい」も、原語では特に音がなく、ポワロは口を動かしているだけである。
謎解きのなかで、拳銃が蹴り込まれた先をポワロが「長椅子」の下と言うが、実際には長椅子の隣の、一人がけの肘掛け椅子の下であり、原語も chair (椅子) と言っている。
- [1] David Suchet and Geoffrey Wansell, Poirot and Me, headline, 2013, pp. 203-209
- [2] Barbara Roisman Cooper, Great Britons of Stage and Screen, Rowman & Littlefield, 2015, p. 337
- [3] Mark Aldridge, Agatha Christie on Screen, Palgrave Macmillan, 2016, pp. 268-270
- [4] Hercule Poirot Neuvième Saison
- [5] David_Suchet on X: "@aspie83 Death on the Nile 😊" / X
- [6] Luxury Cruising on the Nile, Egypt | Steam Ship sudan
- [7] 番組ピックアップ, ミステリチャンネル, 2004
- [8] David Suchet and Geoffrey Wansell, Poirot and Me, headline, 2013, p. 215
- [9] 「ナイル殺人事件」 映画パンフレット, 東宝, 1978, p. 4
- [10] David Suchet, Behind the Lens: My Life, Constable, 2019, p. 299
- [11] David Suchet and Geoffrey Wansell, Poirot and Me, headline, 2013, p. 216
- [12] 月本昭男, 「スフィンクス」, 『日本大百科全書 13』, 小学館, 1987, pp. 130-131
- [13] 藤井宏志, 「ルクソール」, 『日本大百科全書 24』, 小学館, 1988, p. 244
カットされた場面
なし
映像ソフト
- [DVD] 「名探偵ポワロ 34 ナイルに死す」(字幕・吹替) ハピネット・ピクチャーズ※1
- [DVD] 「名探偵ポワロ DVDコレクション 1 ナイルに死す」(字幕・吹替) デアゴスティーニ・ジャパン※2
- ※1 「名探偵ポワロ NEW SEASON DVD-BOX 1」に収録
- ※2 吹替は大塚智則さん主演の新録で、映像もイギリスで販売されているDVDと同じバリエーションを使用
同原作の映像化作品
- [映画] 「ナイル殺人事件」 1978年 監督:ジョン・ギラーミン 出演:ピーター・ユスチノフ(田中明夫)
- [映画] 「ナイル殺人事件」 2022年 監督:ケネス・ブラナー 出演:ケネス・ブラナー(広瀬彰勇)