グランド・メトロポリタンの宝石盗難事件
Jewel Robbery at the Grand Metropolitan

放送履歴

日本

オリジナル版(44分00秒)

  • 1994年06月11日 21時30分〜 (NHK総合)
  • 1995年09月08日 17時15分〜 (NHK総合)
  • 1996年03月29日 17時15分〜 (NHK総合)
  • 1999年01月26日 15時10分〜 (NHK総合)
  • 2003年09月25日 18時00分〜 (NHK衛星第2)

ハイビジョンリマスター版(49分30秒)

  • 2016年08月06日 16時00分〜 (NHK BSプレミアム)※1
  • 2017年01月11日 17時00分〜 (NHK BSプレミアム)※2
  • 2021年01月16日 17時10分〜 (NHK BSプレミアム)※3
  • 2021年12月06日 09時00分〜 (NHK BS4K)
  • 2023年03月22日 21時00分〜 (NHK BSプレミアム・BS4K)※4
  • ※1 エンディング前半の画面上部に次回以降の放送案内の字幕表示(帯付き)あり
  • ※2 エンディング前半の画面下部に次回以降の放送時間案内の字幕表示(帯付き)あり
  • ※3 エンディング最後の画面下部に次回の放送時間案内の字幕表示(帯付き)あり
  • ※4 BSプレミアムでの放送は、オープニング冒頭の画面左上にBS4K同時放送のアイコン表示あり

海外

  • 1993年03月07日 (英・ITV)

原作

邦訳

  • 「グランド・メトロポリタンの宝石盗難事件」 - 『ポアロ登場』 クリスティー文庫 真崎義博訳
  • 「グランド・メトロポリタンの宝石盗難事件」 - 『ポアロ登場』 ハヤカワミステリ文庫 小倉多加志訳
  • 「グランド・メトロポリタンの宝石盗難事件」 - 『ポワロの事件簿1』 創元推理文庫 厚木淳訳
  • 「グランド・メトロポリタンの宝石盗難事件」 - 『クリスティ短篇集2』 新潮文庫 井上宗次・石田英二訳

原書

雑誌等掲載

  • The Curious Disappearance of the Opalsen Pearls, The Sketch, 31 October 1923 (UK)
  • Mrs. Opalsen's Pearls, The Blue Book Magazine, October 1923 (USA)

短篇集

  • The Jewel Robbery at the Grand Metropolitan, Poirot Investigates, The Bodley Head, 21 March 1924 (UK)
  • The Jewel Robbery at the Grand Metropolitan, Poirot Investigates, Dodd Mead, 1925 (USA)

オープニングクレジット

日本

オリジナル版

名探偵ポワロ / DAVID SUCHET // HUGH FRASER / PHILIP JACKSON / PAULINE MORAN / グランド・メトロポリタンの宝石盗難事件, JEWEL ROBBERY AT THE GRAND METROPOLITAN / Dramatized by ANTHONY HOROWITZ

ハイビジョンリマスター版

名探偵ポワロ / DAVID SUCHET / AGATHA CHRISTIE'S POIROT / グランド・メトロポリタンの宝石盗難事件 // HUGH FRASER / PHILIP JACKSON / PAULINE MORAN / JEWEL ROBBERY AT THE GRAND METROPOLITAN / Dramatized by ANTHONY HOROWITZ

エンディングクレジット

日本

オリジナル版

原作 アガサ・クリスティー 脚本 アンソニー・ホロウィッツ 監督 ケン・グリーブ 制作 LWT(イギリス) / 出演 ポワロ(デビッド・スーシェ) 熊倉一雄 ヘイスティングス(ヒュー・フレイザー) 富山 敬 ジャップ警部(フィリップ・ジャクソン) 坂口芳貞 ミス・レモン 翠 準子  オパルセン 滝口順平 マーガレット 谷 育子 ソーンダース 家弓家正 ホール 中尾隆聖  小宮和枝 井上 瑤 八代 駿 小山武宏 辻󠄁村真人 西村知道 掛川裕彦 荒川太郎 岸野一彦 小林優子 / 日本語版 宇津木道子  山田悦司 福岡浩美 南部満治 金谷和美

ハイビジョンリマスター版

原作 アガサ・クリスティー 脚本 アンソニー・ホロヴィッツ 演出 ケン・グリーブ 制作 LWT (イギリス)  出演 ポワロ(デビッド・スーシェ) 熊倉 一雄 ヘイスティングス(ヒュー・フレイザー) 富山 敬/安原 義人 ジャップ警部(フィリップ・ジャクソン) 坂口 芳貞 ミス・レモン(ポーリン・モラン) 翠 準子  オパルセン 滝口 順平 マーガレット 谷 育子 ソーンダース 家弓 家正 ホール 中尾 隆聖  小宮 和枝 井上 瑤 八代 駿 小山 武宏 辻󠄁村 真人 西村 知道 掛川 裕彦 荒川 太郎 岸野 一彦 小林 優子 元井 須美子 伊藤 亜矢子 大鐘 則子 木下 尚紀 出村 貴  日本語版スタッフ 翻訳 宇津木 道子 演出 山田 悦司 音声 金谷 和美 プロデューサー 里口 千

海外

オリジナル版

Hercule Poirot: DAVID SUCHET; Captain Hastings: HUGH FRASER; Chief Inspector Japp: PHILIP JACKSON; Miss Lemon: PAULINE MORAN; Ed Opalsen: TREVOR COOPER; Margaret Opalsen: SORCHA CUSACK; Saunders: KARL JOHNSON; Grace: ELIZABETH RIDER; Andrew Hall: SIMON SHEPHERD; Celestine: HERMIONE NORRIS; Bell Boy: TIM STERN; Hubert Devine: ANDREW CARR; Manager: GRAHAM ROWE; Journalist: JAMES McCUSKER; Dr. Hawker: ARTHUR COX; Holidaymakers: EILEEN DUNWOODIE, SIMON MOLLOY, JO POWELL; Lucky Len: PETER KELLY; Guest: COLIN STEPNEY; Stunts: PAUL WESTON / Developed for Television by Carnival Films; (中略) Production Designer: ROB HARRIS; Director of Photography: CHRIS O'DELL; Music: CHRISTOPHER GUNNING; Executive Producer: NICK ELLIOTT; Producer: BRIAN EASTMAN; Director: KEN GRIEVE

あらすじ

 ドクターから転地療養を勧められたポワロは、ヘイスティングスと南海岸へ休養に訪れる。ところが、滞在先のホテルで有名な真珠の盗難事件が発生、結局は調査に乗り出すことに。容疑は真珠の持ち主オパルセン夫人のメイドと、ホテルのメイドの2人にかかるが……

事件発生時期

不詳

主要登場人物

エルキュール・ポワロ私立探偵
アーサー・ヘイスティングスポワロの探偵事務所のパートナー、陸軍大尉
ジェームス・ジャップスコットランド・ヤード主任警部
フェリシティ・レモンポワロの秘書
エド・オパルセン演劇プロデューサー
マーガレット・オパルセンエドの妻、女優
セレスティーヌオパルセン夫人のメイド
アンドルー・ホール劇作家、セレスティーヌのボーイフレンド
ソーンダースオパルセンの運転手
グレース・ウィルスングランド・メトロポリタン・ホテルのメイド

解説、みたいなもの

 「名探偵ポワロ」最後の短篇作品。残った短篇原作のうち、短篇集『ヘラクレスの冒険』収録作品群は最終シリーズで「ヘラクレスの難業」という1つの長篇に仕立てて映像化されたが、それ以外の短篇作品は映像化されることなく終わった。ただし、同様のプロットを持つ中篇や長篇が映像化されている作品も多く、映像化されなかった短篇は実質的に、「呪われた相続人」(『教会で死んだ男』所収)と、「ポワロとレガッタ」(邦訳は雑誌『EQ』1994年5月号(光文社)および『十人の小さなインディアン』(論創社)所収。探偵役をパーカー・パインが務めるバージョンの「レガッタ・デーの事件」は『黄色いアイリス』に所収)の2篇。「呪われた相続人」は第1および第2シリーズの候補作として挙げられていたのだが結果的に採用されず、この第5シリーズでも再度俎上に載せられながら選ばれることなく終わった。なお、第5シリーズは当初6話の予定だったのが途中で8話に拡張されたそうで、その2話追加の際に「呪われた相続人」を抑えて採用されたのは、本作と「黄色いアイリス」だったという。[1]
 原作はポワロ物の短篇としては2番目に発表されたごく初期の作品で、旅行先のホテルでの盗難事件を扱ったシンプルな小品だった。それがドラマでは、オパルセンがヘイスティングスの友人の株式仲買人から演劇プロデューサーに変更され、舞台「豚に真珠」に絡んだ華やかな事件に仕立て直されている。したがって、オパルセン夫妻以外の演劇関係者はドラマオリジナルであり、また運転手のソーンダースもドラマオリジナルの登場人物である。なお余談ながら、「豚に真珠」は日本のことわざにもなっているが、その由来は新約聖書マタイ伝第7章第6節にあるイエスの言葉である。
 原作の舞台は南海岸の有名な保養地であるブライトンで、スーシェの自伝にもブライトンで撮影したと書かれているが[2]、実際の撮影はそれよりやや東のソルトディーンやイーストボーンでおこなわれ、グランド・メトロポリタン・ホテルの外観にはソルトディーンの元グランド・オーシャン・ホテルが、「豚に真珠」の公演がおこなわれたデボンシャー・パーク劇場の外観やピアはイーストボーンに実在のものがそのまま使われている(原作の舞台であるブライトンは、代わりに「24羽の黒つぐみ」で見ることができる)。ただし、「ロンドンを離れ」たはずの駅の場面は南海岸どころかロンドンのメリルボーン駅で撮影されており、これはジョーン・ヒクソン主演の「ミス・マープル」シリーズ「バートラム・ホテルにて」冒頭でミス・マープルが下車したロンドンの駅と同じ駅であり、同「復讐の女神」でマイケル・ラフィールがキングミンスターまでの切符を買った駅や、「パディントン発4時50分」のパディントン駅とも同じである。そして、芝居初日のあとのパーティー会場外観はステインズ・アポン・テムズの旧タウンホール、ジャップ警部がホールを逮捕した競馬場はウィンザー競馬場で撮影された。また、デボンシャー・パーク劇場の屋内が撮影されたのはロンドン西部郊外ウィンブルドンにあるニュー・ウィンブルドン劇場内であり、グランド・メトロポリタン・ホテルのロビーや客室周辺は、「ABC殺人事件」以降使用されてきたホワイトヘイブン・マンションの玄関のセットを改装・増築して利用していると見られる。そのため、左右対称の形状をした外観に対し、ホテルのエレベーターに向かって左側の廊下が不自然に短く終わっていたり、おそらくは1階と2階に同じセットを利用していて、2階のエレベーター周辺に1階への下り階段が見当たらなかったりする。また、ホテル地下のエレベーター周辺は「愛国殺人」でアンベリオティスの検死結果を聞いたのと同じ場所で、現ローズウッド・ホテル・ロンドン内であり、エレベーターの内装がロビーから見えるものと異なるのもそのためである。グレースが以前に働いていた「ホルボーンのバー」こと〈ドッグ・アンド・ダック〉はロンドンに実在するパブの名だが(ただし、その所在はソーホー)、その外観の撮影に使われたのは、地下鉄ホルボーン駅のすぐそばにあるシップ・タヴァーン。ミス・レモンが訪ねた宝石商の所在はラムズ・コンドイット・パッセージである。デボンシャー・パーク劇場は、ジェラルディン・マクイーワン主演の「ミス・マープル」シリーズの一篇「書斎の死体」にもちょっとだけ登場する。
 冒頭の記者会見では、日本語音声だとオパルセンが「〔真珠が盗まれるのは〕そのとおりですが、それは舞台の上だけ」と言い終える前になぜか笑い声が起こる。これは原語音声と同じタイミングだが、原語音声だとそのときにはもう 'Yes, they do! That's in the play. (そのとおりです。舞台の上でね)' という台詞が言い終えられている。
 序盤、病床にあるポワロが映る際、手前のベッドサイドテーブルでいちばんカメラ寄りに置かれているのは、「チョコレートの箱」でブローチを贈られたときのケースである。
 ポワロがまちがえられる〈ラッキー・レン〉のように、新聞で紹介された人物を見つけて声をかけると賞金をもらえるという企画は、1927年にウェストミンスター・ガゼット紙が始めた〈ロビー・ラッド〉が起こり。これは前年の1926年に起きたクリスティーの失そう事件の際、発見者に賞金を出すという企画に人々が熱狂したことに着想を得て始まったもので、〈ロビー・ラッド〉捜索の背景説明においても同紙はクリスティーの失そう事件を引き合いに出していたが、本作の脚本を担当したアンソニー・ホロウィッツはそれを知らず、脚色に同様の企画を導入したのはまったくの偶然であったという。ウェストミンスター・ガゼット紙は1928年に吸収されてしまったものの、企画はその後も継続され、他紙の類似の企画を含めると1980年代までつづいていた。[3][4]なお、この〈ラッキー・レン〉にまつわる脚色は、同様のユーモアを取り入れる改変に概して反対だったクリスティーの娘のロザリンドにも好評だったとのことである[5]
 事件当夜、ホテルの外へ漏れ聞こえるセレスティーヌとグレースの会話は、日本語だと直前の「このホテル、いかがですか?」というグレースの台詞を受けて「とてもいいホテルだわ」「それはよかったですわ」となっているが、原語だとグレースが 'Not here, no, but...' と言っているだけで、話がつながらない。これは、もともとこのあいだに別の会話があったのを「名探偵ポワロ」オリジナル版ではカットしているためで、吹替のみ別の台詞を当てて辻褄を合わせている。
 「名探偵ポワロ」オリジナル版では、パーティーから帰ってからジャップ警部に会うまでのあいだ、ポワロたちは外出していないように見えるが、この間に差し込まれるホテルの外観のショットでは、よく見るとポワロとヘイスティングスが立っている。これはもともと、直前にポワロたちがイーストボーン・ピアへ行っていた場面があり、そこからの帰りにホテル前で会ったホールを見送る場面だったため。のちに警察署で、パーティーへ行かなかった理由をポワロが訊ねたのに対し、ホールが 'I told you. (言ったでしょう)' と応じた台詞が日本語だと「別に意味は……」となっているのも、その前に一度答えた場面がここでカットされたからである。
 ホテルの厨房でポワロに会ったジャップ警部が「こちらには休養で来てるとか」と言うところは、原語だと 'Thought that you were sitting this one out. (今回は手を出さないのかと思いましたよ)' という表現である。これは、その前にホテルに到着したジャップ警部がポワロに声をかけたがすげなく対応されたことを受けての反応だったが、「名探偵ポワロ」オリジナル版ではその場面がカットされているため、日本語はそれを踏まえる必要のない内容に差し替えたと見られる。しかしそのために、ヘイスティングスがそこで「それは……」と訂正あるいは説明しかけたり、のちに「本当は休養に来たんですよ」と打ち明けるように言ったりするのが不自然になっている。また、ポワロが休暇中だからとオパルセンの依頼を断った場面も同様にオリジナル版ではカットされており、警部の認識の出所はわからない。
 ホールについてソーンダースとジャップ警部が「あの人も関係あるんですか」「あるかもしれんが」とやりとりするところは、原語だと 'Is he in some sort of trouble, sir? (あの人が何かまずいことに?)' 'He could be in a lot of trouble. (非常にまずい可能性があるが)' という会話で、ソーンダースはホールがトラブルに遭っていることを案じたのに対し、警部は彼が逮捕される可能性を言っている。また、ホールが慌てていたと聞いたジャップ警部が「おかしいですな」と言うところは、原語だと 'I'm not surprised. (やっぱりですな)' と逆の反応。この時点でジャップ警部はホールの犯行を疑っているので原語の反応が素直だが、日本語も、不審な行動だという評価と受け取れなくもない。
 ハイビジョンリマスター版の競馬場の場面では、ゴールの瞬間以外のレースの映像や、ジャップ警部が部下に「ようし、みんな散らばれ」と指示するカットの解像度が低く、色合いも淡い。これらはイギリスでのハイビジョンリマスター時に省かれた部分で、それを日本で SD 素材から補ったと見られる。警部が指示を出すカットまで省かれたのは、レースの映像が取り除かれた場合に、前の場面との映像のつながりが特に不自然になるためだろう。
 ジャップ警部がホールの取り調べを行う警察署の入り口が映る場面は、「ベールをかけた女」でウィンブルドン警察が映る場面の使いまわしである。
 ミス・レモンがロンドンで聞き込みをする場面で、画面手前に大きく映る3つの金の玉が吊り下げられたオブジェは質屋のサインである。
 グレースがオパルセン夫妻の部屋でホールを見たという日は、日本語では盗難の2日前だが、原語では前日である。
 「豚に真珠」の渡米前最終公演を観るヘイスティングスが「どうして二度も観に来たんですか」とポワロに言うが、ほかの観客にも、服装や席位置は変わっているものの、初日と同じ顔ぶれが複数見受けられる。そのリピーターのなかには「クラブのキング」のオグランダー氏、あるいは「消えた廃坑」の7号車運転手、あるいは「あなたの庭はどんな庭?」のカメラマン、あるいは「ABC殺人事件」のドンカスター競馬場でドンの隣にいた客、あるいは「チョコレートの箱」の〈黄金の枝〉授賞式後の食事会参加者の顔も。また、「死人の鏡」冒頭のオークションで、鏡の向かって右側を支えていた男性も初日に観劇していたが、楽日の終演後には同じ男性がボーイとして客のグラスを回収している。そして、ポワロたちのいるボックス席の奥、2階席の観客は、初日も最終公演も、1階席にも同じ姿が見える。
 最後にマーガレットが言う「ポワロを利用しようとした」とはオパルセンが、ポワロが劇場に来ることを報道陣に知らせて舞台の宣伝にしようとしたことを指しているが、それにまつわる場面は「名探偵ポワロ」オリジナル版だとすべてカットされて見られない。オパルセン逮捕時の「あなたの立場ではすべて宣伝に利用できるでしょう?」というポワロの台詞も、その経緯を受けてのものである。
 セレスティーヌ役のハーマイオニ・ノリスは、コリン・ブキャナン主演の「蒼ざめた馬」のハーミア・レドクリフ役や、ジュリア・マッケンジー主演「ミス・マープル6」の「カリブ海の秘密」でのイブリン・ヒリンドン役でも見ることができる。また、同「ミス・マープル5」の一篇となった「蒼ざめた馬」では、グレース・ウィルスン役のエリザベス・ライダーがデイビス夫人を演じている。アンドルー・ホール役のサイモン・シェパードは、ジョーン・ヒクソン主演の「ミス・マープル」シリーズ「予告殺人」ではパトリック・シモンズ役を演じていた。ホテルのボーイ役のティム・スターンは、ジェラルディン・マクイーワン主演の「ミス・マープル」の一篇、「パディントン発4時50分」の車掌役、エド・オパルセン役のトレバー・クーパーは、デビッド・ウォリアムズとジェシカ・レイン主演「トミーとタペンス ―2人で探偵を―」シリーズ「NかMか」のボブ・ハリソン役や、マックス・アイアンズ主演「ねじれた家」の諜報部のカイロ駐在員役、ウィル・ポールターとルーシー・ボイントン主演「なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?」の検視官役でも見ることができる。オパルセン夫人役のソラカ・キューザックは、「クラブのキング」でバレリー・サンクレアを演じたニーヴ・キューザックの姉である。ハイビジョンリマスター版のみで見られる、ピアでポワロを〈ラッキー・レン〉とまちがえる観光客役のアイリーン・ダンウッディは、ベネディクト・カンバーバッチ主演「シャーロック4」の「臥せる探偵」では、悪魔と通じたと夫に言われる妻役を演じている。
 冒頭でポワロに転地療養を勧めるドクター・ホーカーは「イタリア貴族殺害事件」に登場したのと同一人物ながら、吹替は上田敏也さんから交代した。なお、原作のドクター・ホーカーは「イタリア貴族殺害事件」にしか登場しない。
 タクシーで駅からホテルへ向かう際に奥に見える建物には、テレビのアンテナが立っているのが見える。また、ポワロたちがホテルの厨房をあとにした際、扉の向こうに蛍光灯のカバーらしき設備が見える。劇中の正確な時期は不明ながら、蛍光灯の商業生産が始まったのは1937年のことで、おそらくわずかに時代に合わない。さらにハイビジョンリマスター版では、ポワロたちがイーストボーン・ピアのデッキチェアに腰を下ろしている場面で、奥のガラスの模様の隙間から、おそらく現代の自動車が海沿いの道を走っているのが見える。
 ハイビジョンリマスター版では、冒頭の映写機が投影する映像の明滅が抑えられている。この加工はハピネット・ピクチャーズの BD 収録の映像にはなく、放送やインターネットでの配信に当たり加えられたものと見られる。またハイビジョンリマスター版では、冒頭にグランド・メトロポリタン・ホテルを正面から映したのにあわせて「グランド・メトロポリタン・ホテル」、初めてデボンシャー・パーク劇場が映った際に「デヴォンシャー・パーク劇場」、競馬場の HARRY WAX という看板にあわせて「ハリー・ワックス」という字幕が追加された。ただ、「デヴォンシャー・パーク劇場」という劇場名は劇中で台詞として発音されることはないものの、この時期のエピソードでは、原語での v 音には日本語だとバ行の音を当てるのが通例だった。一方、ハイビジョンリマスター版の切換式字幕では、台詞での「ペティコート」という発音に対し「ペチコート」という表記が当てられている。また、ハイビジョンリマスター版で番組内容として放送データに載っているあらすじには、宝石箱から「ネックレスだけがなくなっ」たと書かれているが、宝石箱にはネックレス以外の宝石は入っておらず、一方ネックレスを包んだ袋が一緒になくなっていて、袋はホールのポケットから発見されて彼への容疑を強める。
 » 結末や真相に触れる内容を表示
  1. [1] Mark Aldridge, Agatha Christie's Poirot: The Greatest Detective in the World, HarperCollinsPublishers, 2020, pp. 385-386
  2. [2] David Suchet and Geoffrey Wansell, Poirot and Me, headline, 2013, p. 144
  3. [3] ジャレッド・ケイド (訳: 中村妙子), 『なぜアガサ・クリスティーは失踪したのか? 七十年後に明かされた真実』, 早川書房, 1999, p. 192
  4. [4] Lobby Lud | Secret London | Paul Slade
  5. [5] Mark Aldridge, Agatha Christie's Poirot: The Greatest Detective in the World, HarperCollinsPublishers, 2020, p. 382

ロケ地写真

カットされた場面

日本

オリジナル版

[08:05/1:09]ホテルでマーガレットに電話をかけるオパルセン 〜 セレスティーヌと劇場へ向かうポワロとヘイスティングス
[10:14/0:19]劇場でポワロが記者に囲まれる場面 〜 憤然と座席につくポワロ
[13:00/0:41]パーティでのポワロ、ヘイスティングス、オパルセン夫妻の会話 〜 部屋でのセレスティーヌとグレースの会話
[15:43/1:42]ポワロの部屋へオパルセンが依頼に来る場面 〜 ポワロとヘイスティングスがホテルのロビーでジャップ警部に会う場面
[16:50/1:16]ピアでのポワロとヘイスティングス 〜 ホテル前でのポワロとホールの会話
[23:15/0:11]競馬場に入っていくポワロ、ヘイスティングス、ジャップ警部

ハイビジョンリマスター版

なし

映像ソフト

  • [VHS] 「名探偵エルキュール・ポアロ 第33巻 グランド・メトロポリタンの宝石盗難事件」(字幕) 日本クラウン
  • [DVD] 「名探偵ポワロ 23 死人の鏡, グランド・メトロポリタンの宝石盗難事件」(字幕・吹替) ビームエンタテインメント(現ハピネット・ピクチャーズ※1
  • [DVD] 「名探偵ポワロ [完全版] 23 死人の鏡, グランド・メトロポリタンの宝石盗難事件」(字幕・吹替) ハピネット・ピクチャーズ※2
  • [DVD] 「名探偵ポワロ DVDコレクション 65 グランド・メトロポリタンの宝石盗難事件」(字幕・吹替) デアゴスティーニ・ジャパン※3
  • [BD] 「名探偵ポワロ Blu-ray BOX Disc 12 死人の鏡, グランド・メトロポリタンの宝石盗難事件, ポワロのクリスマス」(字幕/吹替) ハピネット・ピクチャーズ※4
  • ※1 「名探偵ポワロ DVD-BOX3」にも収録
  • ※2 「名探偵ポワロ [完全版] DVD-BOX2」「名探偵ポワロ [完全版] 全巻 DVD-SET」「名探偵ポワロ [完全版] DVD-SET 6」にも収録
  • ※3 吹替は大塚智則さん主演の新録で、映像もイギリスで販売されているDVDと同じバリエーションを使用
  • ※4 「名探偵ポワロ Blu-ray BOX vol. 2」に収録

同原作の映像化作品

  • [アニメ] 「アガサ・クリスティーの名探偵ポワロとマープル 第1話 グランド・メトロポリタンの宝石盗難事件」 2004年 監督:高橋ナオヒト 出演:里見浩太朗、折笠富美子、野島裕史、屋良有作
2024年3月21日更新