ビッグ・フォー
The Big Four

放送履歴

日本

オリジナル版(88分30秒)

  • 2014年09月15日 21時00分〜 (NHK BSプレミアム)※1
  • 2015年03月08日 16時00分〜 (NHK BSプレミアム)※2
  • 2016年01月12日 23時45分〜 (NHK BSプレミアム)※3
  • 2017年02月11日 16時00分〜 (NHK BSプレミアム)
  • 2017年07月19日 16時00分〜 (NHK BSプレミアム)
  • 2021年08月21日 16時31分〜 (NHK BSプレミアム)※4
  • 2021年01月12日 09時00分〜 (NHK BS4K)
  • 2023年09月27日 21時00分〜 (NHK BSプレミアム・BS4K)※5
  • ※1 エンディング途中の画面上部に「死者のあやまち」放送予告の字幕表示あり
  • ※2 エンディング途中の画面上部に「死者のあやまち」放送予告の字幕表示あり
  • ※3 エンディング前半の画面上部に「死者のあやまち」放送予告の字幕表示あり
  • ※4 エンディング前半の画面下部に次回の放送時間案内の字幕表示(帯付き)あり
  • ※5 BSプレミアムでの放送は、オープニング冒頭の画面左上にBS4K同時放送のアイコン表示あり

海外

  • 2013年10月04日 20時10分〜 (波・Ale Kino+)
  • 2013年10月23日 20時00分〜 (英・ITV1)
  • 2014年07月27日 21時00分〜 (米・PBS)

原作

邦訳

  • 『ビッグ4』 クリスティー文庫 中村妙子訳
  • 『ビッグ4』 ハヤカワミステリ文庫 田村隆一訳
  • 『謎のビッグ・フォア』 創元推理文庫 厚木淳訳

原書

  • The Big Four, Collins, 27 January 1927 (UK)
  • The Big Four, Dodd Mead, 1927 (USA)

オープニングクレジット

日本

オリジナル版

名探偵ポワロ / AGATHA CHRISTIE'S POIROT / ビッグ・フォー // DAVID SUCHET / Agatha Christie POIROT / THE BIG FOUR based on the novel by AGATHA CHRISTIE / SCREENPLAY MARK GATISS, IAN HALLARD / TOM BROOKE, NICHOLAS BURNS / JACK FARTHING, PATRICIA HODGE / SIMON LOWE, SARAH PARISH / with HUGH FRASER as Captain Hastings / PAULINE MORAN as Miss Lemon / and PHILIP JACKSON as Assistant Commissioner Japp / Producer DAVID BOULTER / Director PETER LYDON

エンディングクレジット

日本

オリジナル版

原作 アガサ・クリスティー Agatha Christie  脚本 マーク・ゲイティス イアン・ハラード 演出 ピーター・ライドン 制作 ITVスタジオズ/エーコン・プロダクションズ マスターピース/アガサ・クリスティー・リミテッド (イギリス 2013年)  声の出演 ポワロ(デビッド・スーシェ) 熊倉 一雄  アーサー・ヘイスティングス大尉(ヒュー・フレイザー) 安原 義人 ジャップ警視監(フィリップ・ジャクソン) 坂口 芳貞  ミス・レモン(ポーリーン・モラン) 翠 準子 ジョージ(デビッド・イェランド) 坂本 大地  ドクター・クエンティン(ビッグ4) 吉見 一豊 ローレンス・タイソー 清水 明彦  マダム・オリヴィエ 小宮 和枝 ダイアナ・ペインター 古坂 るみ子  フロッシー 渡辺 真砂子 アンドリュース夫人 久保田 民絵  メドーズ警部補 落合 弘治 イングルス 竹本 和正  エイブ・ライランド 西村 太佑 スティーブン・ペインター 尾花 かんじ ジェラルド・ペインター 藤原 堅一  及川 ナオキ 井上 カオリ 武田 幸史 井之上 順  <日本語版制作スタッフ> 翻訳 坂内 朝子 演出 佐藤 敏夫 音声 小出 善司

DVD版

原作 アガサ・クリスティー Agatha Christie  脚本 マーク・ゲイティス イアン・ハラード 演出 ピーター・ライドン 制作 ITVスタジオズ/エーコン・プロダクションズ マスターピース/アガサ・クリスティー・リミテッド (イギリス 2013年)  声の出演 ポワロ(デビッド・スーシェ) 熊倉 一雄  アーサー・ヘイスティングス大尉(ヒュー・フレイザー) 安原 義人 ジャップ警視監(フィリップ・ジャクソン) 坂口 芳貞  ミス・レモン(ポーリーン・モラン) 翠 準子 ジョージ(デビッド・イェランド) 坂本 大地  ドクター・クエンティン(ビッグ4) 吉見 一豊 ローレンス・タイソー 清水 明彦  マダム・オリヴィエ 小宮 和枝 ダイアナ・ペインター 古坂 るみ子  フロッシー 渡辺 真砂子 アンドリュース夫人 久保田 民絵  メドーズ警部補 落合 弘治 イングルス 竹本 和正  エイブ・ライランド 西村 太佑 スティーブン・ペインター 尾花 かんじ ジェラルド・ペインター 藤原 堅一  及川 ナオキ 井上 カオリ 武田 幸史 井之上 順  <日本語版制作スタッフ> 翻訳・台本 坂内 朝子 演出 佐藤 敏夫 調整 小出 善司 録音 黒田 賢吾 プロデューサー 武士俣 公佑  制作統括 小坂  聖

海外

オリジナル版

Hercule Poirot: DAVID SUCHET; Captain Hastings: HUGH FRASER; Miss Lemon: PAULINE MORAN; Assistant Commissioner Japp: PHILIP JACKSON; George: DAVID YELLAND; Tysoe: TOM BROOKE; Ingles: NICK DAY / Abe Ryland: JAMES CARROLL JORDAN; Madame Olivier: PATRICIA HODGE; Stephen Paynter: STEVEN PACEY; Dr Quentin: SIMON LOWE; Savaranoff: MICHAEL CULKIN; Mabel: LOU BROADBENT; Flossie Monro: SARAH PARISH / Jonathan Whalley: PETER SYMONDS; Mrs Andrews: BARBARA KIRBY; Inspector Meadows: NICHOLAS BURNS; Robert Grant: ALEX PALMER; Diana Paynter: TERESA BANHAM; Gerald Paynter: JACK FARTHING; Stunt Co-ordinator: TOM LUCY / (中略) / Composer: CHRISTIAN HENSON; Poirot Theme: CHRISTOPHER GUNNING; Editor: RICHARD ELSON; Production Designer: RICHARD ELSON; Production Designer: JEFF TESSLER; Director of Photography: NIELS REEDTZ JOHANSEN; Line Producer: MATTHEW HAMILTON / Executive Producer for Masterpiece: REBECCA EATON / Executive Producer for Acorn Productions Limited: HILARY STRONG; Executive Producer for Agatha Christie Limited: MATHEW PRICHARD / Executive Producers: MICHELLE BUCK, KAREN THRUSSELL, DAMIEN TIMMER; © Agatha Christie Ltd 2013 / A Co-Production of itv STUDIOS, MASTERPIECE™, Agatha Christie™ in association with Acorn Productions: An RLJ | Entertainment, Inc. Company

あらすじ

 中国人リー・チャン・イェンを指導者とする平和党。新聞記者タイソーによれば、その陰にはビッグ・フォーと呼ばれる国際秘密結社があるという。平和党員ライランドと対戦したチェスのグランドマスター急死事件に端を発し、ポワロはその闇に迫る……

事件発生時期

1939年3月下旬 〜 4月下旬

主要登場人物

エルキュール・ポワロ私立探偵
アーサー・ヘイスティングスポワロの探偵事務所の元パートナー、陸軍大尉
ジェームス・ジャップスコットランド・ヤード警視監
フェリシティ・レモンポワロの元秘書
ジョージポワロの執事
ローレンス・ボズウェル・タイソーアソシエイテッド新聞記者
リー・チャン・イェン平和党指導者、中国人
エイブ・ライランド平和党幹部、アメリカの富豪
レジーヌ・オリヴィエ平和党幹部、科学者、フランス人
アイヴァン・サヴァロノフチェスのグランドマスター、博士、ロシア人
ジョナサン・ウォーリーリー・チャン・イェンの伝記作家
ロバート・グラントウォーリー家住み込みの下働き
ベッツィー・アンドリュースウォーリー家の家政婦兼コック
メドーズホッパトン所轄署の警部補
スティーブン・ペインターイギリス外交団員、平和党支持者
ダイアナ・ペインタースティーブンの妻
ジェラルド・ペインタースティーブンの甥
アー・リンペインター家の下男、中国人
クエンティンペインターの家庭医
フロッシー・モンロー女優
イングルス外務官僚

解説、みたいなもの

 「白昼の悪魔」以来、日本では約13年ぶりにヘイスティングス、ジャップ警部、ミス・レモンが集結。加えて第10シリーズから登場したジョージも姿を見せ、ポワロを含めた新旧のレギュラーメンバー5人が一堂に会することになった。ジャップ警部は警視監 (Assistant Commissioner) に出世しており、これは警視庁のトップである警視総監 (Commissioner) に次ぐ、数名しかいない階級である。しかし、そのジャップ警視監とミス・レモン、そしてホワイトヘイブン・マンションのポワロの部屋は、これが最後の登場となる。
 原作は1927年刊行の長篇。しかしその内容は、「アクロイド殺人事件」原作刊行に先駆けて1924年に『ザ・スケッチ』紙に発表された、「ナンバー・フォーだった男」というシリーズタイトルの連載に筆を加えてまとめたもので、個々の小さな事件を解決しながら秘密結社ビッグ・フォーに迫っていく連作短篇集の趣を持つ(といっても、独立した短篇群にビッグ・フォー要素を加えて長篇化したわけではなく、ビッグ・フォーは連載時から登場している)。ドラマではそのうち、ウォーリー殺害事件、ペインター殺害事件、サヴァロノフ殺害事件、ポワロ爆死事件、フロッシー・モンローとクロード・ダレルの関係などの要素を原作から抜き出して再構成しており、最後は意外な真相へ着地する。原作を細かい要素に分解し、原作になかった要素も加えて新たな作品として再構築する手法は、本作の脚本家マーク・ゲイティスが共同制作総指揮と一部脚本を手がける「シャーロック」と同様のもの。ドラマ過去作へのオマージュも豊富で、アルゼンチンのラ・パンパにあるヘイスティングスの住所(「黄色いアイリス」)、冒頭と最後で物語をはさむように口にされるヘイスティングスの口癖 'Good Lord!' (本作の日本語では「ありえん」、かつての宇津木道子さんの台本では「なんてことだ」など)、猫を飼っているミス・レモン(「エジプト墳墓のなぞ」「イタリア貴族殺害事件」)、ジャップ警視監の書いている手紙の宛先のミス・バルストロード(「鳩のなかの猫」)、日曜新聞〈サンデー・コメット〉と同系列の日刊紙と見られる新聞〈デイリー・コメット〉(「マギンティ夫人は死んだ」)、タイソーがイングルスに言及する「特急プリマス号 (The Plymouth Express)」(「プリマス行き急行列車」)、再会に感激して抱きつこうとするポワロと身を引くジャップ警視監が結局握手するシーケンス(「アクロイド殺人事件」)、捜査道具を入れた鞄を持ち運ぶポワロ(「スタイルズ荘の怪事件」)、ジャップ警視監のくだけた口語表現の数々や夫人への言及、「大富豪ゲーム」こと〈モノポリー〉のカード(「消えた廃坑」)などなど。また、自身をフランス人に間違えられて怒るのではなく、フランス人であるマダム・オリヴィエをベルギー人と間違えられて怒るポワロという、一段ひねったオマージュも。撮影は2013年2月中旬に始まり、3月中旬までおこなわれた[1][2]
 原作ではヘイスティングスが語り手を務め、捜査にも共に当たっていたが、ドラマではジャップ警視監がポワロの相棒となってビッグ・フォーの謎に迫り、ヘイスティングスの出番はわずかとなった。これは、ジャップ警部にも最後のエピソードを用意したかったという制作陣の意向によるもので、「カーテン 〜ポワロ最後の事件〜」でのポワロとヘイスティングスの再会の衝撃を減じないために、一時はヘイスティングスをまったく登場させないことも検討されたという[3]
 ジョージとジャップ警視監の「では、それで最後ですか? よろしければ、わたくしが……」「いや、自分の手で書きたい」という会話は、すべての手紙を書き上げようとしているタイミングとしては不自然なやりとりだが、原語は 'Is that the last of them, then, sir? I would have been quite happy to... (では、それで最後ですか? わたくしがいたしましたのに)' 'No. I wanted to write them myself. (いや、自分の手で書きたかったんだ)' と過去の話をしている。また、葬儀のあとポワロの部屋でヘイスティングスが一言求められて、言葉を探したあとに「わが友に」と言うところは、日本語だとポワロに献杯しているように聞こえるが、原語は 'My friends. (では皆さん)' と複数形で、ほかの3人に呼びかけている。しかし、その後が言葉にならなくなったため、ジョージが気を利かせてポワロのデスクに向けて率先して献杯をおこない、それを受けてヘイスティングスも実は初回の献杯をおこなうのである。
 タイソーがイングルスに持ち込んだ警告文の最後は、「警戒せよ。ビッグ・フォー」と差出人がビッグ・フォーであるかのようにも聞こえるが、内容を考えればビッグ・フォーが自らこのような警告文を送るのはおかしい。原語も 'Beware. Beware. —The Big Four' ではなく 'Beware. Beware the Big Four.' のイントネーションで発音されており、2番目の beware は他動詞なので、日本語は「警戒せよ、ビッグ・フォーを」と聞くべきか。タイソーがポワロのマンションに持ち込んだメッセージ末尾の「警戒されたし。ビッグ・フォー(を)」も、紙面に 'Beware. Beware the Big Four.' とタイプされているのが読める。
 チェス対局の会場でジャップ警視監がポワロに言う「あなたにその言葉〔引退〕は似合わない」は、原語だと 'You attract mayhem, you always have done. (あなたは事件を引きつける。これまでずっとそうだった)' という表現で、名探偵が高頻度で事件に遭遇することを揶揄した、マーク・ゲイティス脚本らしいメタな発言となっている。
 ライランドがサヴァロノフとの対局に先立って言う「東西結束の象徴を目の当たりにするわけですから。古くから伝わるこの美しきゲームを通して、我らの友人であるソ連大使が今日のゲストを口説き落としてくれました」という台詞は、原語だと 'To witness this demonstration of unity between East and West via this ancient and beutiful game. (東西結束の実演を目の当たりにするわけですから。古くから伝わるこの美しきゲームを通してね) Now, I'd like to thank our friend the Russian ambassador for coaxing our guest out of retirement. (ここで我らの友人であるソ連大使にお礼を申し上げたいと思います。今日のゲストを引退から誘い出してくれました)' となっており、「古くから伝わるこの美しきゲームを通して」なされるのは東西結束を目の当たりにするほうであって、サヴァロノフを誘い出す口実ではない。実際、長く隠居の身だったサヴァロノフがわざわざライランドとの対局に出向いてきたのは、多額の謝礼を受け取ったためだろうとのちに推測されている。
 日本語音声で、チェスの対局前にライランドがサヴァロノフに「ご注意を。アマチュアといえども不戦敗は一度もありません」と伝えるのは、むしろ「不戦勝」のほうが意味が通りそうにも聞こえる。原語音声では 'I warn you, sir. I may be an amateur, but I won't be beat without fight. (ご注意を。わたしはアマチュアかもしれませんが、戦わずしてやられはしませんよ)' という台詞で、過去に自らが原因で対局をせずに負けた「不戦敗」の話ではなく、今からの対局のなかであっさり負けるつもりはないという趣旨である。
 タイソーが言う「やつ〔ライランド〕がクロゼットに隠しているもの」は、原語だと 'the skeletons he's got hiding in his closet (やつがクロゼットの中に隠している骸骨)' という表現だが、 a skeleton in the closet (クロゼットの中の骸骨) とは字義通りの意味ではなく、「外に言えない隠し事」という意味の慣用句である。のちにポワロが「ライランド氏はアーモア (armoire) に隠し事を?」と言って、タイソーに「ああ、戸棚 (cupboard) ね」と反応されたのは、この慣用句はイギリスでは a skeleton in the cupboard とも言い、 armoire が英語の cupboard に対応するフランス語であることによる。おそらくはこのやりとりがあるために、当初のタイソーの台詞でも慣用句の「クロゼット」という字義的な表現を残したのだろう。ただし、フランス語における armoire の発音は /armwar/ で、カタカナにすべての音素を転写すれば「アルムワール」に近く、原語音声のポワロはそのように発音している。
 チェスのグランドマスター、サヴァロノフのファーストネームは、ライランド邸での対局時は「アイヴァン」と発音されていたが、マダム・オリヴィエがポワロのマンションを訪ねた場面では「イヴァン」と発音される。これは日本語音声も原語音声も同様である。
 ウォーリーの部屋にあったリー・チャン・イェンの伝記を示したポワロが、日本語音声では「やはり興味を惹かれますね、見てください」とその場でビッグ・フォーとの関連を発見したように言うが、原語音声では 'And this is the reason for our interest in this case, Inspector Medoes. (そして、これがこの事件にわれわれが興味を惹かれる理由です、メドーズ警部補)' という台詞で、これは「あなた〔方〕の興味を惹く事件とは思えません」というその前のメドーズ警部補の見解への返答であって、あらかじめビッグ・フォーとの関連がうたがわれたからこそ、ポワロとジャップ警視監が出向いてきたのである。なお、タイソーと面会した際にポワロは伝記の表紙を目に留めており、そこでジョナサン・ウォーリーの名前を認識したと見られる。
 ジョナサン・ウォーリーの家族について、すでに亡くなった姉 (sister) と、両親を亡くして引き取った甥がいたとアンドリュース夫人が言うが、甥のアルバート・ウォーリーが姉の子だとすると、婚外子などの事情がなければ名字が同じにはならないはずで、ほかにも亡くなった兄か弟がいそうである。
 ウォーリー邸のキッチンでポワロが「羊の脚です」と言ったのに対して、ベドーズ警部補が「マトンですか?」と言わずもがなの質問をするのは、原語だとポワロの台詞が « Une jambe de mouton. (マトンの脚です) » とフランス語だったからである(ただし、本来 jambe は人間の脚をいう言葉で、もも肉の趣旨なら gigot である。なお、動物の脚は patte という)。また、切換式字幕では、そのメドーズ警部補の質問が水色(ジャップ警視監の台詞の色)で表示される。
 メドーズ警部補がウォーリー殺害現場の足跡を示して「それと、血まみれの足跡。つまり、その……」となぜかためらい、ジャップ警視監が「わかるぞ、言葉どおりだろう」と応じたところは、原語だと 'And this bloody footprint here. (それと、ここに血まみれの足跡が) Oh, begging your pardon, sir. (ああ、失礼しました)' 'It's all right, Meadows. (大丈夫だ) We know what you mean. (言いたいことはわかってる)' というやりとり。英語の bloody は字義どおりの「血まみれの」という意味のほかに罵りのニュアンスを加えるために用いられることがあり、警部補は意図せず失礼とも取れる表現になったことを詫びたのである。また、その足跡がグラントの証言と矛盾することを受けて、ポワロが「犯行時刻は特定されましたが、動機を裏付けるものが見当たらない。物証です」と言うのは、犯行後の血痕からついた足跡でどのように犯行時刻を特定したのかよくわからないが、原語は 'So now you have the opportunity and motive. (これで機会と動機はそろいました) All that you require now is that also illusive element—proof. (あと必要なのは、まぎらわしくもあるもの――物証です)' という表現で、あくまでグラントが遺体のそばにいたタイミングがあったと裏付けられただけである。
 ウォーリー殺害事件の犯行方法を解明したあと、ポワロが「ノン、深い闇が見えます。そして今ゲームは始まりました。長丁場ですぞ」と言うが、原語では 'Non, this is a business most dark, mes amis, and I fear we are only at the beginning of a long, long game. (ノン、これは闇の深い事件です。わたしが不安なのは、まだ長い長いゲームの始まりに過ぎないのではないかということです)' という表現で、その瞬間にゲームが始まったのではなく、ウォーリー殺害事件やその前のサヴァロノフ殺害事件も含めて、大事件のまだほんの始まりに過ぎないのではないかという懸念を表明している。
 タイソーがホワイトヘイブン・マンションを訊ねたときにマンションの外観が映る場面は「象は忘れない」とまとめて撮影されたようで、完全に同一の映像ではないものの、「象は忘れない」のバートンコックス夫人がポワロを訪ねた場面の前にマンションの外観が映る場面とカメラの位置やアングルがまったく一緒であり、そこでマンションへ入っていった女性がちょうど出てくるところが映っている。
 背中を刺されて死んだ男が持っていたカードをジャップ警視監が「トランプカード?」と言い、ポワロも「ウィ、その一種です」と応じるが、どう見ても 3 と書かれたカード以外はトランプカードではない。ジャップ警視監は原語だと 'Playing cards? (ゲームのカード?)' と言っており、英語の playing card はよくトランプカードを指すが、必ずしもトランプに限らないゲーム用のカードを広く表せる言葉である。日本語音声では、謎解きの途中にもこれらのカードをタイソーが「トランプカード」と呼ぶ。
 ジャップ警視監が死神のタロットカードを見て「前にかみさんがジプシー・メグに占ってもらったとき、それが出た」と言った台詞は、原語音声だと 'Mrs Japp got dealt one like that on Southend Pier. Gypsy Meg. (サウスエンド・ピアでかみさんがそんなのを引いたな。ジプシー・メグで)' という表現。ピアとは「グランド・メトロポリタンの宝石盗難事件」でジャップ警部が射的をしたような、海に張り出した桟橋の上に築かれた娯楽施設で、そうした場所ではしばしば座興としてジプシー(らしい恰好をした人物)による占いが提供された。つまり、ジャップ警視監は夫人と海岸へ行楽に出かけ、そこで夫人が占いをしてもらい、タロットカードを目にしたのだろう。同様の占いは、場所がピアではないが、「死者のあやまち」のお祭りでサリーが提供するのを見ることができるほか、「スズメバチの巣」の夏祭りでも占いのテントが出ていた。
 楽屋にフロッシーを呼びに来る劇団仲間(『ロミオとジュリエット』のマーキューシオ役らしい)は、本作の脚本をマーク・ゲイティスと共同で手がけたイアン・ハラードのカメオ出演[4]。彼は「ハロウィーン・パーティー」にもエドムンド・ドレイク役で出演しているほか、ゲイティスが脚本を担当した「鳩のなかの猫」「ハロウィーン・パーティー」でも脚本助手を務めている。
 服のラベルの切れ端にあった erman という字の並びを見たジャップ警視監が「ハーマン? ジャーマン?」と言うところは、切換式字幕だと「『Hermanハーマン』? 『Jermanジャーマン』?」と表示されるが、蓋然性からすれば、警視監の意図した「ジャーマン」はおそらく German (ドイツの) である。
 アルバート・ウォーリーの持ち物にあった The Cleverest Chap in the SchoolPlay Pictorial 誌は実在の書籍および雑誌。 Play Pictorial 誌は、「ホロー荘の殺人」でもヘンリエッタがホロー荘で読んでいた。
 ポワロがメトセラ劇団の関係者を列挙して話を聞いていく場面では、最初に書き上がった関係者のリストが映ったあとに、なぜかポワロがリストに名前を書き加えていく様子が映される。また、関係者の名前に打ち消し線を引いていく際、 Violet Briggs と Henry Agar に線を引く順番もおかしい。そして、最初に書き上がっていたリストと、ポワロが名前を書き加えたり線を引いたりしているリストは、筆跡が異なっている。前者は各アルファベットの字形が完全に一致しており、後者が実際のスーシェの手書きであるのに対し、前者はおそらくスーシェの自筆の文字をサンプリングして組みあわせた印刷なのだろう。
 フロッシーが「まばゆいばかりだ」と好評を博したという「イライザ・ドゥーリトル」とは、バーナード・ショーの戯曲『ピグマリオン』の主役の名で、のちにその戯曲を原作として制作されたミュージカルが「マイ・フェア・レディ」である。また、『真面目が肝心』は、「グランド・メトロポリタンの宝石盗難事件」でも話題に上る、オスカー・ワイルド作の喜劇。一方、ポワロがフロッシーに「どの役ですか? (What did you play?)」と訊いたのに対し、フロッシーが「アコーディオン」と答えて気まずい雰囲気になるのは、ポワロが女優としての出演 (play) を訊いたのに、実際は裏方である楽器の演奏 (play) だったという流れ。アルバート・ウォーリーのコレクションにあったメトセラ劇団の『ピグマリオン』に関する記事は1920年(おそらく1924年にも再演)、『真面目が肝心』の上演も1926年で、彼女が当たり役として挙げる例はいずれも劇中から10~20年ほど前のことであり、最近は不遇の身であることが推察される。序盤に共演者の女優が彼女と交わした「〔『ロミオとジュリエット』の〕ジュリエット、やったことある?」「ええ。つい最近やったわ」「あら……そうなの」という会話も、フロッシーが共演者から大役を演じる女優と思われていないことや、10年以上前に演じたであろう役を「つい最近」と表現するなど、過去の栄光を心のよりどころとしていることが窺える。
 アルバート・ウォーリーがメトセラ劇団の熱烈な支持者だったと思われる理由として、ポワロが「彼は1924年シーズンの記念グッズを集めていました」と言うのはややにわかファンの行動らしく聞こえるが、原語は 'In fact he collected mementoes from the repertory season in 1924. (1924年シーズンの想い出の品をコレクションしていました)' という表現で、ポワロが見つけたメトセラ劇団に関するスクラップ帳のことを言っている。
 エイブ・ライランド失踪を報じる2つの新聞記事「エイブ・ライランド氏失踪 チェス王死亡直後」と「ビッグ・フォーとは?」は記事本文がまったく同じで、「ビッグ・フォーとは?」の写真はサヴァロノフ急死を報じた「ロシアのチェス王、対局中に死亡 モスクワが調査を要請」と同一である。また、ジョナサン・ウォーリー殺害を報じる2つの新聞記事「ホッパトンで殺人」と「リー・チャン・イェンとつながり?」は、見出しは異なるが記事本文も写真もまったく一緒である。しかも、「リー・チャン・イェンとつながり?」は上部の号数と値段の印刷がずれているうえ、あろうことか An Exclusive (独占記事) と銘打たれている。「ナンバー3と断定か テロの脅威 続く中」では、マダム・オリヴィエが最後に目撃されたのを前日の午後3時と書いているが、ポワロたちが彼女に尋問を始めた時点で背後の時計は4時を指していた。ポワロの死亡を伝える「ポワロ氏 爆死 ビッグ・フォーの犯行か」には the First World War (第一次世界大戦) という表現が使われているが、劇中が第二次世界大戦勃発前の1939年であることを考えると、これはおかしい。なお、日本語の字幕で「リー・チャン・イェンとつながり?」と表示される記事の見出しは 'LI CHANG YEN CONNECTION (リー・チャン・イェンのつながり)' で疑問のニュアンスはなく、その趣旨はサヴァロノフ殺害事件とウォーリー殺害事件にリー・チャン・イェンという共通項があるという指摘である(もっとも、記事本文ではこの共通項をもって、2つの事件に関連があるのだろうかと問うているので、日本語字幕はその要素を組み入れたのかもしれない)。また、「ナンバー3と断定か」と表示される記事も、 'NUMBER THREE IDENTIFIED! (ナンバー3の正体判明!)' という見出しにはやはり疑問のニュアンスはない。
 ポワロの死亡記事に書かれた彼の経歴によると、ベルギー警察隊でそのキャリアをスタートした後、1904年のアバークロンビー偽造事件でジャップ警部と出会ったことになっている。この偽造事件でジャップ警部とポワロが初めて共同捜査に当たったことは「スタイルズ荘の怪事件」「チョコレートの箱」でも触れられてきたとおりだが、事件の発生年は今回初めて明かされた設定である。これは「スタイルズ荘の怪事件」原作での言及に従ったものだが、「名探偵ポワロ」では「チョコレートの箱」事件の9年も前に当たり、二人は相当若い頃からの知りあいということになる。
 イングルスなどが言う「快傑ドラモンド (Bulldog Drummond)」とは、英国の作家H・C・マクニールがサッパーというペンネームで発表した冒険小説の主人公で、クリスティーの『おしどり探偵』収録「怪しい来訪者」ではトミーにも言及される、第一次大戦で活躍した退役軍人の名前である。原語音声では、序盤にイングルスがタイソーに言う「荒唐無稽な話だと思わんかね、タイソーさん」という台詞も 'All a bit "Bulldog Drummond", don't you think, Mr Tysoe? (まるで快傑ドラモンドだと思わんかね、タイソーさん)' という表現だったほか、やはりマーク・ゲイティスが脚本を担当した「鳩のなかの猫」でも言及されていた。ゲイティスは自らの小説 The Devil in Amber に掲載した架空の本の広告でも、オリヴァ夫人の著作 With Vinegar and Brown Paper と並べて、スラッパーという作家による "Terrior" Masterson Hit Out という快傑ドラモンドをオマージュした本を創作しており、その愛情の強さが窺える。
 ジョージがヘイスティングスたちに出したグリーンのティーカップとソーサーは〈ファイヤーキング〉ブランドの〈ジェーン・レイ〉シリーズの品と見られ、劇中の1930年代にはまだ存在しないはずである。また、メトセラ劇場前の道路の端には駐停車禁止(時間帯指定有)の黄色いラインが引かれているが、これも劇中の時代に合わない。
 本作の日本語音声ではジャップ警視監からヘイスティングスへの口調が敬語だが、かつての宇津木道子さんの台本では、ヘイスティングスからジャップ警部が常に敬語(丁寧語)で、警部からヘイスティングスは敬語でないことも多かった。また、ヘイスティングスからミス・レモンも同様に敬語ではないことが多かった。加えて、ミス・レモンはヘイスティングスを「大尉」という敬称で呼ぶことはあまりなく、たいてい「ヘイスティングスさん」と呼んでいた。
 ポワロの葬儀が営まれた墓地はケンサル・グリーン共同墓地。タイソーがイングルスを訪ねたり、ポワロがタイソーと会ったり、タイソーの背後で人が刺されたり、ポワロが電話で呼び出されて向かったりした屋外の場面はすべてリンカーンズ・イン内で撮影されている(ポワロが呼び出されたウィルバーフォース・ロード41番は実在の地名だが、撮影がおこなわれたのは現地ではない)。このリンカーンズ・イン「スペイン櫃の秘密」「葬儀を終えて」でもロケ地になった場所である。タイソーがイングルスを訊ねた外務省とおぼしき屋内や、チェス会場となったライランド邸は、「五匹の子豚」のレディー・ディティシャンの邸宅と同じサイアン・ハウスで、同所はジェラルディン・マクイーワン主演の「ミス・マープル3」の一篇、「復讐の女神」でもフォレスター卿の邸宅として使われており、ライランドとマダム・オリヴィエが話していたレッド・ドローイング・ルームも登場する。フロッシーが出演している劇場の外観は、「ダベンハイム失そう事件」「マギンティ夫人は死んだ」「複数の時計」に登場のリッチモンド劇場。ジョナサン・ウォーリー邸の外観はリトル・ミッセンデン村のマナーハウス、邸内はハイ・ウィカムのヒューエンデン・マナーで、グラントが出所する場面もヒューエンデン・マナーの厩舎で撮影された。ヒューエンデン・マナーは「ミス・マープル5」の一篇「蒼ざめた馬」のベネブルズ邸や、マックス・アイアンズ主演「ねじれた家」のスリー・ゲイブルズの一部としても撮影に使われている。スティーブン・ペインター邸はヘンリー・オン・テムズ近郊のナフィールド・プレース。メトセラ劇場の内部は「24羽の黒つぐみ」「スペイン櫃の秘密」に登場のハックニー・エンパイアだが、入り口の外観はノエル・カワード劇場で、「盗まれたロイヤル・ルビー」でもチョコレートを買ったポワロが車に連れ込まれる場面の画面右側にすこしだけ映っている。
 ジェラルディン・マクイーワン主演の「ミス・マープル」シリーズでは、フロッシー・モンローを演じるセアラ・パリッシュを「スリーピング・マーダー」のイーヴィ・バレンタイン役、マダム・オリヴィエを演じるパトリシア・ホッジを「シタフォードの秘密」のウィレット夫人役、ジョナサン・ウォーリーを演じるピーター・シモンズを「ゼロ時間へ」のハーストール役、メドーズ警部補を演じるニコラス・バーンズを「バートラム・ホテルにて」のジャックおよびジョエルのブリッテン兄弟役で見ることができる。また、ジョン・マルコヴィッチ主演の「ABC殺人事件」では、ジェラルド・ペインター役のジャック・ファージングがドナルド・フレイザー役を演じている。ジェレミー・ブレット主演の「シャーロック・ホームズの冒険」シリーズには、前出のパトリシア・ホッジが「第二の血痕」のレディー・ヒルダ役、ダイアナ・ペインターを演じるテレサ・バーナムが「マスグレーヴ家の儀式書」のジャネット役で出演。タイソーを演じるトム・ブルックは、ベネディクト・カンバーバッチ主演の「シャーロック3」シリーズにビル・ウィギンズ役で出演している。ジョン・ソウ主演「主任警部モース」シリーズには、サヴァロノフ役のマイケル・カルキンが「オックスフォード運河の殺人」のウィリアムズ検事役、アンドリュース夫人役のバーバラ・カービーが「悔恨の日」のチャリティーショップの店員役で出演。
 遺体安置所の職員の吹替は、ジョージと掛け持ちの坂本大地さんか。
 タイソーとポワロの面会で、タイソーが去ったあとにポワロがため息をつくのは日本語音声のみである。
 ドラマ本篇とは関係ないが、下で紹介している DVD では、ライランドの失踪が判明するチャプターに「失踪した党首」というタイトルがついている。しかし、ライランドが平和党の「党首」であるかどうかは本篇を見るかぎり判然としない。なお、ライランドが日本語音声で「私どもの夕べの集いへようこそ。我らの導き手であるリー・チャン・イェンは……」と言っていた台詞は、原語だと 'May I welcome you to our informal little soiree on behalf of our guiding light and founder, Li Chang Yen. (我々〔平和党〕の導き手であり設立者であるリー・チャン・イェンに代わって、この非公式な夕べの集いへ皆さんを歓迎いたします)' という表現で、設立者であるリー・チャン・イェンの代理として振る舞う立場であることはわかる。
 » 結末や真相に触れる内容を表示
  1. [1] David_Suchet on Twitter: "THE BIG FOUR has now begun filming! It is all going too Quickly!!"
  2. [2] David_Suchet on Twitter: "Filming today in central London. Cold but such fun"
  3. [3] Investigating Agatha Christie's Poirot: Adapting Poirot: Q&A with Ian Hallard
  4. [4] Poirot ITV The Big Four

ロケ地写真

カットされた場面

なし

映像ソフト

  • 「名探偵ポワロ NEW SEASON DVD-BOX 5」に収録
2024年4月11日更新