はとのなかの猫
Cat Among the Pigeons

放送履歴

日本

オリジナル版(94分00秒)

  • 2010年09月14日 21時00分〜 (NHK衛星第2)
  • 2012年08月14日 17時00分〜 (NHK BSプレミアム)
  • エンディング途中の画面上部に「第三の女」放送予告、画面左下にNHKオンデマンドでの配信案内の字幕表示あり

ハイビジョンリマスター版(93分30秒)

  • 2016年12月10日 16時00分〜 (NHK BSプレミアム)
  • 2017年05月24日 16時00分〜 (NHK BSプレミアム)
  • 2021年06月26日 16時26分〜 (NHK BSプレミアム)
  • 2021年12月30日 09時00分〜 (NHK BS4K)
  • 2023年07月26日 21時00分〜 (NHK BSプレミアム・BS4K)※1 ※2
  • ※1 BSプレミアムでの放送は、オープニング冒頭の画面左上にBS4K同時放送のアイコン表示あり
  • ※2 エンディングの画面下部に次回の放送日案内の字幕表示(帯付き)あり

海外

  • 2008年09月08日 20時00分〜 (典・TV4)
  • 2008年09月21日 21時00分〜 (英・ITV1)
  • 2009年06月21日 21時00分〜 (米・WGBH)

原作

邦訳

  • 『鳩のなかの猫』 クリスティー文庫 橋本福夫訳
  • 『鳩のなかの猫』 ハヤカワミステリ文庫 橋本福夫訳

原書

  • Cat Among the Pigeons, Collins, 2 November 1959 (UK)
  • Cat Among the Pigeons, Dodd Mead, March 1960 (USA)

オープニングクレジット

日本

オリジナル版

名探偵ポワロ / AGATHA CHRISTIE'S POIROT / はとのなかの猫 // DAVID SUCHET / Agatha Christie POIROT / CAT AMONG THE PIGEONS based on the novel by Agatha Christie / Screenplay MARK GATISS / AMANDA ABBINGTON, ELIZABETH BERRINGTON, ADAM CROASDELL / PIPPA HAYWOOD, ANTON LESSER, NATASHA LITTLE / CAROL MACREADY, MIRANDA RAISON, CLAIRE SKINNER / HARRIET WALTER, SUSAN WOOLDRIDGE / LOIS EDMETT, AMARA KARAN, KATIE LEUNG, JO WOODCOCK / Producer KAREN THRUSSELL / Director JAMES KENT

ハイビジョンリマスター版

名探偵ポワロ / DAVID SUCHET / AGATHA CHRISTIE'S POIROT / はとのなかの猫 // DAVID SUCHET / Agatha Christie POIROT / CAT AMONG THE PIGEONS based on the novel by Agatha Christie / Screenplay MARK GATISS / AMANDA ABBINGTON, ELIZABETH BERRINGTON, ADAM CROASDELL / PIPPA HAYWOOD, ANTON LESSER, NATASHA LITTLE / CAROL MACREADY, MIRANDA RAISON, CLAIRE SKINNER / HARRIET WALTER, SUSAN WOOLDRIDGE / LOIS EDMETT, AMARA KARAN, KATIE LEUNG, JO WOODCOCK / Producer KAREN THRUSSELL / Director JAMES KENT

エンディングクレジット

日本

オリジナル版

原作 アガサ・クリスティー  脚本 マーク・ゲイティス 演出 ジェームズ・ケント 制作 ITV プロダクション/WGBHボストン アガサ・クリスティー・リミテッド (イギリス・アメリカ 2008年)  声の出演 ポワロ(デビッド・スーシェ) 熊倉 一雄  バルストロード(ハリエット・ウォルター) 弥永 和子 アン・シャプランド(ナターシャ・リトル) 田中 敦子  アダム(アダム・クローズデル) 家中  宏 アップジョン夫人(ピッパ・ヘイウッド) 藤生 聖子  チャドウィック 増子 倭文江 ブレイク 葛󠄀城 七穂 スプリンガー つかもと 景子 ブランシュ むた あきこ  小島 敏彦 八十川 真由野 武田  華 下川 江那  嶋村  侑 藤本 教子 安田 奈緒子 松本  忍  三上  哲 山内 健嗣 大澤 洋子 三浦 綾乃 片貝  薫  <日本語版制作スタッフ> 翻訳・台本 中村 久世 演出 佐藤 敏夫 調整 田中 直也 録音 岡部 直紀 プロデューサー 武士俣 公佑 間瀬 博美  制作統括 柴田 幸裕 小坂  聖

ハイビジョンリマスター版

原作 アガサ・クリスティー 脚本 マーク・ゲイティス 演出 ジェームズ・ケント 制作 ITVプロダクション WGBHボストン アガサ・クリスティー Ltd. (イギリス・アメリカ)  出演 ポワロ(デビッド・スーシェ) 熊倉 一雄  バルストロード(ハリエット・ウォルター) 弥永 和子 アン・シャプランド(ナターシャ・リトル) 田中 敦子 アダム(アダム・クローズデル) 家中 宏 アップジョン夫人(ピッパ・ヘイウッド) 藤生 聖子  チャドウィック 増子 倭文江 ブレイク 葛󠄀城 七穂 スプリンガー つかもと 景子 ブランシュ むた あきこ  小島 敏彦 八十川 真由野 武田 華 下川 江那 嶋村 侑 藤本 教子 安田 奈緒子 松本 忍 三上 哲 山内 健嗣 大澤 洋子 三浦 綾乃 片貝 薫  日本語版スタッフ 翻訳 中村 久世 演出 佐藤 敏夫 音声 田中 直也 プロデューサー 武士俣 公佑 間瀬 博美

海外

オリジナル版

Hercule Poirot: DAVID SUCHET; Miss Bulstrode: HARRIET WALTER; Prince Ali: RAJI JAMES; Bob Rawlinson: ADAM DE VILLE; Mr Forbes: DON GALLAGHER / Mrs Forbes: GEORGIE GLENN; Patricia Forbes: GEORGIA CORNICK; Miss Johnson: CAROL MACREADY; Miss Rich: CLAIRE SKINNER; Miss Chadwick: SUSAN WOOLDRIDGE / Ann Shapland: NATASHA LITTLE; Princess Shaista: AMARA KARAN; Adam: ADAM CROASDELL; Miss Blake: AMANDA ABBINGTON; Mlle Blanche: MIRANDA RAISON; Miss Springer: ELIZABETH BERRINGTON / Jennifer Sutcliffe: JO WOODCOCK; Julia Upjohn: LOIS EDMETT; Mrs Upjohn: PIPPA HAYWOOD; Lady Veronica: JANE HOW; Hsui Tai: KATIE LEUNG; Inspector Kelsey: ANTON LESSER / (中略) / Casting: SUSIE PARRISS; Editor: MICHAEL HARROWES; Production Designer: JEFF TESSLER; Director of Photography: CINDERS FORSHAW BSC; Line Producer: MATTHEW HAMILTON / Executive Producer for WGBH Boston: REBECCA EATON / Executive Producer for Chorion: PHIL CLYMER / Executive Producer: MICHELE BUCK; Executive Producer: DAMIEN TIMMER; © Agatha Christie Ltd. (a Chorion Company) 2008 / A Co-Production of Granada and WGBH BOSTON in association with Agatha Christie Ltd (a Chorion Company)

あらすじ

 名門女子校メドウバンク学園を訪れたポワロは、引退を考えるバルストロード校長から後継者について相談を受け、しばらく学園に留まることに。そんな中、メドウバンク学園では中東のラマットで起きた革命に関係するとおぼしき事件が立てつづけに発生する……

事件発生時期

1937年11月中旬

主要登場人物

エルキュール・ポワロ私立探偵
オノリア・バルストロードメドウバンク学園校長
レティス・チャドウィックメドウバンク学園数学教師、愛称チャディ
アイリーン・リッチメドウバンク学園英語教師
ブレイクメドウバンク学園芸術・ダンス教師
エリーズ・ブランシュメドウバンク学園フランス語教師
グレース・スプリンガーメドウバンク学園体育教師
アン・シャプランドメドウバンク学園校長秘書
ジョンスンメドウバンク学園寮母
アダム・グッドマンメドウバンク学園庭師
ジュリア・アップジョンメドウバンク学園生徒
ジェニファー・サットクリフメドウバンク学園生徒、愛称ジェン
スイ・タイメドウバンク学園生徒
シャイスタ中東の王女
アリ・ユースフラマット国王子、シャイスタ王女の婚約者
ボブ・ローリンスンアリ王子の友人、ジェニファーの叔父
アップジョン夫人ジュリアの母
ケルシー警部

解説、みたいなもの

 原作は1959年刊行。フーダニットの形式を取ってはいるものの、革命の起きた中東の国から消えた宝石や暗躍する諜報員、名門女子校の生徒の活躍など、どちらかといえばトミーとタペンス物を思わせる要素がちりばめられた、いつものポワロ物とは趣を異にするエピソード。そんな本作の脚本を手がけるのは「シャーロック」や「ドクター・フー」などのドラマでも知られるマーク・ゲイティスで、エグゼクティブ・プロデューサーのダミアン・ティマーと仕事をしていた縁で参加の打診を受けたという。このあと「ハロウィーン・パーティー」「ビッグ・フォー」とつづくゲイティス脚本の第一作として本作が選ばれたのはテレビ局側からの提案によるもので、ゲイティスが最初に希望していたのは「ビッグ・フォー」だったそうだ。[1]
 原作でのポワロの登場は遅く、アップジョン親子が「マギンティ夫人は死んだ」のモーリン・サマーヘイズの知り合いという縁だったが、ドラマではポワロ自身がバルストロード校長の友人という設定で冒頭からメドウバンク学園に姿を現す形となり、連続して撮影されたにもかかわらず、「マギンティ夫人は死んだ」と関連した描写はなくなっている。また、ドラマではそのままメドウバンク学園を舞台に物語が進み、原作では冒頭に語られていた革命直前のラマット国の出来事は、登場人物の会話などであとから明らかにされていく形に物語構成が反転された。なお、この中東の革命という事件の背景は原作発表当時の1950年代の情勢を反映したものだが、1937年に時代を移したドラマでもそのまま用いられている。登場人物では、有力な後継候補のヴァンシッタート先生が削られたほか、トミーとタペンス物の『運命の裏木戸』にも登場するパイクアウェイ大佐やロビンソン氏といった顔ぶれも登場しない。ブランシュ先生のファーストネームが原作のアンジェール (Angele) から変更されたのは、容疑者のドラマオリジナルのコードネーム〈エンジェル (The Angel)〉との兼ね合いからか。なお、この〈エンジェル〉というコードネームは、日本語音声だとアップジョン夫人によって序盤から言及されるが、原語音声では中盤の取り調べのなかでアダムが初めて口にする。
 物語は夏休み明けの新年度が始まったところから幕を開けるが、撮影時期は2007年11月頃で、劇中の季節は晩秋もしくは初冬。1930年代のイギリスの教育制度には詳しくないけれど、こんな季節に新年度が始まるのはちょっと不思議な印象を受ける。また、「ラマット 革命勢力 政権を樹立」という記事が掲載された新聞の日付も11月の中旬だが、その右にある MYSTERY OF FRANK BILLINGS (フランク・ビリングスのなぞ) という記事は、小見出しに俳優クラーク・ゲーブルの名前が見えるように、在英の女性が、自分の娘の父親はフランク・ビリングスと名乗ったゲーブルであると主張した事件を報じたものと見られる。この事件の裁判は1937年の5月に結審しており[2]、やはり11月時点でこのような記事が載るとは考えにくい。なお、原作では夏学期の出来事として設定されており、ジュリアたちがしていたテニスも、こうした女子校で夏におこなわれるスポーツだった[3]
 フォーブス夫妻が言及する「セント・ウィニフレッド」は架空の学校の名前と見られるが、その名前が由来する聖ウィニフレッドは7世紀ウェールズの聖人である。その斬首された頭部が落ちた場所に湧いたという聖ウィニフレッドの井戸はカトリックの巡礼地となっており、またその遺骨を祀るシュルーズベリ修道院はエリス・ピーターズの小説「修道士カドフェル」シリーズの舞台として知られる。
 メドウバンク学園にポワロが乗りつける車は、「葬儀を終えて」でポワロがエンダビー・ホールなどに乗っていったのと同一ナンバーの同じ車だが、運転手は代わったようだ。つづく「第三の女」でも、ポワロは同じ車を利用している。
 バルストロード校長が授与式の冒頭に「ここは議会ではありません」と言ったのは、原語だと 'This isn't assembly.' という表現で、確かに assembly には「議会」という意味もあるものの、ここでは「朝礼」のこと。つまり、「これは朝礼ではありません」と言っており、校長が前に立ってのスピーチという状況と合わせ、ジョークとして成り立つ。また、その後ポワロが言葉を引用した「アーノルド博士」とは、19世紀の教育者、トーマス・アーノルドのこと。アーノルドはラグビー校の校長としてその改革をおこない、同校以外のパブリックスクールにも広く影響を及ぼした。
 ブレイク先生がバレエの授業でかけていた音楽はショパンのワルツ 作品64-2。リッチ先生が授業で朗読しているのは英国の詩人、クリスティーナ・ロセッティの詩である。
 フランス語の授業ではスイ・タイが entrer (入る), venir (来る), rester (とどまる), naître (生まれる), arriver (着く) を「アントレール、ヴェニール、レステール、ネッテール、……アリヴェール?」と発音していくが、 -er で終わるフランス語の第一群規則動詞の原形はいずれも末尾の r を発音せず、また naître は t のあとに母音がないので「テール」と延ばすことはない。本来の発音は /ɑ̃tre/, /v(ə)nir/, /rεste/, /nεtr/, /arive/ である。一方、原語音声でもスイ・タイは語末の -er を /eɪ/ と発音しているが、英語では一般に語末を「エ」の音で終わらせることはなく、そのような外来語はしばしば /eɪ/ あるいは /i/ の音で発音されるので(日本では「スーシェ」と表記される Suchet も、英語での発音は /súːʃeɪ/ になる)、彼女の発音にはそうした母語の癖が出てしまっている。加えて、 venir もやはり英語読みの影響を受けて /venir/ と発音している。劇中はまだ新年度が始まったばかりであり、また原作にもジュリアがまだブランシュ先生からフランス語の発音を直されていないと指摘される場面があるので、それらを踏まえた意図的な演出だろうか。また、デジタル放送の切換式字幕では、ブランシュ先生が指し棒を強くたたいた音に対して「(机をたたく音)」と表示されるが、たたいた対象は見えず、そのあとには指し棒が振り下ろされているので、実際にたたいたのはおそらく黒板である。
 ポワロがバルストロード校長に勧められたアモンティリャードを断る場面は原作に登場しないが、ドラマでは「西洋の星の盗難事件」に「アペリティフに辛口というのは感心しませんからね」と断る台詞があり、それを踏まえた過去作への、ゲイティスらしいマニアックなオマージュだろうか。
 皆が授与式に向かう様子や、チャドウィック先生の部屋の窓から見えた景色からすると、体育館は校舎の裏側、芝生の向こうにあるように見受けられるのだが、体育館で見えた明かりを確かめに行くチャドウィック先生たちは、どうして校舎正面に出てきたのだろう。その後ポワロも、そちらに事件現場があるかのように校舎正面の向かいを見つめている。
 初日にバルストロード校長が着ている襟元の特徴的なブラウスは、「アクロイド殺人事件」でファラーズ夫人が自殺した翌日にキャロラインが着ていたのと同じもの。また、アンが着ている、胸元にリボン状の飾りをあしらったカーディガンは、「コックを捜せ」「夢」でミス・レモンが着ていたのと同じものである。
 アダム・グッドマンがリンゴをかじるのを見てアンが「ぴったりだわ」と言ったのは、聖書でアダムが食べた禁断の果実が俗にリンゴとされることによる。
 ケルシー警部が日本語で「諜報員が自分の素性を明かすはずはないし」と言ったところは、原語だと 'without being some sort of female Bulldog Drummond (別に女快傑ドラモンドみたいなものじゃなくてもね)' という台詞で、 Bulldog Drummond (快傑ドラモンド) とは、英国の作家H・C・マクニールがサッパーというペンネームで発表した冒険小説の主人公である。第一次大戦で活躍したという退役軍人で、クリスティーの『おしどり探偵』収録「怪しい来訪者」ではトミーにも言及される。快傑ドラモンドの日本での馴染みの薄さから別の意味の日本語が当てられたと思われるが、本作でも、のちの「死との約束」「複数の時計」でも、このドラマシリーズの諜報員はむしろあっさり素性を明かしているし、そもそもグッドマンもアップジョン夫人もすでに自分から素性を明かした状況下で、警部はどうしたらそう思えるのだろう。
 ジュリアが自室で読んでいる The Murder at Maybury Manor は実在の書籍ではないようだが、部屋に置かれた The Girls' Budget は実在する少女小説のオムニバス短篇集。同短篇集は収録作と表紙を変えて繰り返し刊行されており、本作の舞台である1937年にも新刊が出ていたらしいが、ジュリアの部屋にあったのは1924年版である。
 ブレイク先生から話を聞いているときにポワロが見かけたアンとアダムの様子は、アンの服の模様などから、映像が左右反転されていることがわかる。
 ケルシー警部がアップジョン夫人について「てっきり旅行会社のツアーにでも参加していると思っていたんです」と言った台詞の「旅行会社」は、原語だと Thomas Cook (トーマス・クック) という実在の大手旅行代理店の名前が挙げられている。このトーマス・クック社は世界で最初の近代的な旅行代理店と言われ、話題に挙がっているツアーのような団体旅行を始めたのも同社とされる。クリスティーの中東旅行の手配をおこなったり、「ナイルに死す」でカルナック号として撮影に使われたスーダン号を建造・所有していたりしたのもこの会社であったが[4]、2019年に破産し、現在は中国企業がその商標を引き継いでいる。
 リッチ先生への襲撃事件に際し、ブランシュ先生が「目覚ましが鳴るまで何も聞かなかった」と言われているところは、原語だと 'heard nothing until the alarm was given (危急を報されるまで何も聞かなかった)' という表現で、ここでの alarm は目覚まし時計のアラームではなく、危急の報せの意と取れる。したがって、その報せがあった時刻は不明ながら、さすがに事件があっても知らずに朝まで寝ていたわけではないと思われる。
 メドウバンク学園の校舎内外として撮影に使われたのは、「杉の柩」でもウェルマン夫人の邸宅、ハンタベリー・ハウスとして使われたジョイス・グローブ。ただし、ロビーなど校舎内の一部とボート小屋はオックスフォードシャーのモングウェルにある元カーメル・カレッジのもので、ここはかつてクリスティーの本宅であったウィンターブルック・ハウスのごく近くであり、校舎のモングウェル・マナー・ハウスは、世界一のロングラン公演をつづける『ねずみとり』の舞台、モンクスウェル・マナーのモデルと言われる。加えて、ヘメル・ヘムステッドにあるヘメル・ヘムステッド・スクールでも体育館や生物実験室で撮影がおこなわれ、劇中には同校の実際の女子生徒も出演しているという[5][6]。学生寮の部屋はスタジオ内セット。エイクリフ・コロニー精神療養所の門は学園と同じジョイス・グローブのもので、やはり「杉の柩」ではハンタベリー・ハウスの門として使われていた。ラマットの宮殿の撮影がおこなわれたのもイギリス国内で、サフォーク州にあるエルヴデン・ホール。リッチ先生たちが入院した病院は、「スズメバチの巣」ではジャップ警部が入院した元王立マソニック病院。同所は「コックを捜せ」「クラブのキング」「黄色いアイリス」「五匹の子豚」でも撮影に使われており、病室は「黄色いアイリス」のカーターのオフィスと同じ部屋である。ポワロが「遠足と洒落込」んだ歓楽街の場面冒頭では、ロンドンのピカデリー・サーカスにある通称エロス像(実際は、その双子の弟であるアンテロスの像)が背景に見えるが、十中八九ロケではなく合成と見られる。台詞に名前だけが登場するクラリッジ・ホテルは、1974年公開の映画「オリエント急行殺人事件」のプレミア後のパーティーがひらかれたロンドンに実在の高級ホテルで、そのパーティーは生前のクリスティーが最後に姿を見せた公の場となった[7]
 ミス・ジョンスン役のキャロル・マクレディは、「エンドハウスの怪事件」のミルドレッド・クロフト役以来の「名探偵ポワロ」再出演。その吹替は、前田敏子さんから下川江那さんへ交代している。レディー・ベロニカを演じたジェーン・ハウも、「青列車の秘密」の冒頭でヴァン・オールデンの噂をしている女性の役につづく再出演。ジェラルディン・マクイーワンおよびジュリア・マッケンジー主演の「ミス・マープル」シリーズでは、バルストロード校長役のハリエット・ウォルターを「スリーピング・マーダー」のマルフィ公爵夫人役(演じる女優の役名としてはスーザン・デイヴィーズ役?)、リッチ先生役のクレア・スキナーを「予告殺人」のエイミー役、フォーブス氏役のドン・ギャラガーを「鏡は横にひび割れて」のゴシントン館の執事(?)役、ジェニファー・サットクリフ役のジョー・ウッドコックを「ゼロ時間へ」のメイドのアリス役、アップジョン夫人役のピッパ・ヘイウッドを「無実はさいなむ」のプライス夫人役で見ることができる。ブランシュ先生役のミランダ・レゾンは、ケネス・ブラナー主演の映画「オリエント急行殺人事件」にソニア・アームストロング役で出演。ブレイク先生役のアマンダ・アビントンは、マックス・アイアンズ主演「ねじれた家」のクレメンシー・レオニダス役のほか、ベネディクト・カンバーバッチ主演「シャーロック」シリーズのメアリー役でも見ることができる。
 » 結末や真相に触れる内容を表示
  1. [1] Investigating Agatha Christie's Poirot: Adapting Poirot: Q&A with Ian Hallard
  2. [2] Chrystopher J. Spicer, Clark Gable: Biography, Filmography, Bibliography, McFarland & Company, Inc., Publishers, 2002, p. 151
  3. [3] 新井潤美, 『パブリック・スクール ――イギリス的紳士・淑女のつくられかた』, 岩波書店(岩波新書), 2016, pp. 153-154
  4. [4] Voyage sur le Nil | Steam Ship sudan
  5. [5] Filming at Hemel School. - Hemel Gazette
  6. [6] Double exposure for school as TV crews capture the drama - Hemel Gazette
  7. [7] グエン・ロビンス (訳: 吉野美恵子), 『アガサ・クリスチィの秘密』, 東京創元社, 1980, pp. 276-277

カットされた場面

なし

映像ソフト

  • ※1 「名探偵ポワロ NEW SEASON DVD-BOX 3」に収録
  • ※2 吹替は大塚智則さん主演の新録で、映像もイギリスで販売されているDVDと同じバリエーションを使用
2024年2月17日更新