白昼の悪魔 Evil Under the Sun
放送履歴
日本
オリジナル版(99分00秒)
- 2002年01月02日 16時00分〜 (NHK総合)
- 2004年02月08日 24時40分〜 (NHK総合)
ハイビジョンリマスター版(99分00秒)
- 2016年10月01日 16時00分〜 (NHK BSプレミアム)
- 2017年03月08日 16時00分〜 (NHK BSプレミアム)
- 2021年04月17日 16時21分〜 (NHK BSプレミアム)※1
- 2021年12月16日 09時00分〜 (NHK BS4K)
- 2023年05月17日 21時00分〜 (NHK BSプレミアム・BS4K)※2
- ※1 エンディングの画面下部に次回の放送時間案内の字幕表示(帯付き)あり
- ※2 BSプレミアムでの放送は、オープニング冒頭の画面左上にBS4K同時放送のアイコン表示あり
海外
- 2002年12月15日 (英・ITV)
- 2003年07月13日 (米・A&E)
原作
邦訳
- 『白昼の悪魔』 クリスティー文庫 鳴海四郎訳
- 『白昼の悪魔』 ハヤカワミステリ文庫 鳴海四郎訳
原書
- Evil Under the Sun, Collins, June 1941 (UK)
- Evil Under the Sun, Dodd Mead, October 1941 (USA)
オープニングクレジット
日本
オリジナル版
海外ドラマ // 名探偵ポワロ / AGATHA CHRISTIE'S POIROT / 白昼の悪魔 // DAVID SUCHET / HUGH FRASER / PHILIP JACKSON / PAULINE MORAN / EVIL UNDER THE SUN / Based on the novel by AGATHA CHRISTIE / Dramatized by ANTHONY HOROWITZ
ハイビジョンリマスター版
名探偵ポワロ / DAVID SUCHET / AGATHA CHRISTIE'S POIROT / 白昼の悪魔 // DAVID SUCHET / HUGH FRASER / PHILIP JACKSON / PAULINE MORAN / EVIL UNDER THE SUN / Based on the novel by AGATHA CHRISTIE / Dramatized by ANTHONY HOROWITZ
エンディングクレジット
日本
オリジナル版
原 作 アガサ・クリスティー 脚 本 アンソニー・ホロウィッツ 演 出 ブライアン・ファーナム 制 作 カーニバル・フィルム(イギリス 2000年) / 出 演 ポワロ(デビッド・スーシェ) 熊倉 一雄 ヘイスティングス(ヒュー・フレイザー) 安原 義人 ジャップ警部(フィリップ・ジャクソン) 坂口 芳貞 ミス・レモン(ポーリーン・モラン) 翠 準子 ケネス・マーシャル 津嘉山 正種 アレーナ・スチュアート 山像 かおり パトリック・レッドファーン 家中 宏 クリスティーン・レッドファーン 金沢 映子 藤田 淑子 泉 晶子 佐々木 敏 平野 稔 後藤 哲夫 三木 敏彦 高橋 ひろ子 鶴 博幸 小島 敏彦 小山 武宏 目黒 光祐 野々村 のん 緒方 愛香 青木 誠 坂口 周平 平川 大輔 / 日本語版スタッフ 宇津木 道子 金谷 和美 南部 満治 浅見 盛康 佐藤 敏夫
ハイビジョンリマスター版
原作 アガサ・クリスティー 脚本 アンソニー・ホロヴィッツ 演出 ブライアン・ファーナム 制作 カーニバル・フィルム (イギリス) / 出演 ポワロ(デビッド・スーシェ) 熊倉 一雄 ヘイスティングス(ヒュー・フレイザー) 安原 義人 ジャップ警部(フィリップ・ジャクソン) 坂口 芳貞 ミス・レモン(ポーリン・モラン) 翠 準子 ケネス・マーシャル 津嘉山 正種 アレーナ・スチュアート 山像 かおり パトリック・レッドファーン 家中 宏 クリスティーン・レッドファーン 金沢 映子 藤田 淑子 泉 晶子 佐々木 敏 平野 稔 後藤 哲夫 三木 敏彦 高橋 ひろ子 鶴 博幸 小島 敏彦 小山 武宏 目黒 光祐 野々村 のん 岡田 吉弘 青木 誠 坂口 周平 平川 大輔 日本語版スタッフ 翻訳 宇津木 道子 演出 佐藤 敏夫 音声 金谷 和美 プロデューサー 里口 千
海外
オリジナル版
Director: BRIAN FARNHAM / Producer: BRIAN EASTMAN / For A&E Television Networks; Exective Producer: DELIA FINE; Supervising Producer: KRIS SLAVA; For Chorion plc; Exective Producer: PHIL CLYMER / Director of Photograohy: FRED TANNES; Production Designer: ROB HINDS; Costume Designer: CHARLOTTE HOLDICH; Make-up: SARAH GRUNDY / Music: CHRISTOPHER GUNNING; Editor: CHRIS WINBLE; Sound Recordist: SANDY MacRAE; Associate Producer: SIMON CRAWFORD COLLINS / Poirot: DAVID SUCHET; Hastings: HUGH FRASER; Chief Inspector Japp: PHILIP JACKSON; Miss Lemon: PAULINE MORAN; Patrick Redfern: MICHAEL HIGGS; Christine Redfern: TAMZIN MALLESON; Arlena Stuart: LOUISE DELAMERE; Stephen Lane: TIM MEATS / Rosamund Darnley: MARSHA FITZALAN; Emily Brewster: CAROLYN PICKLES; Kenneth Marshall: DAVID MALLINSON; Lionel Marshall: RUSSELL TOVEY; Major Barry: IAN THOMPSON; Horace Blatt: DAVID TIMSON; Mrs Castle: ROSALIND MARCH; William: PAUL READY; Gladys Narracott: REBECCA JOHNSON; Barman: GUY VINCENT / Chief Constable Weston: ROGER ALBOROUGH; Coroner: KEVIN MOORE; Nathan Lloyd: JASON DAVIES; Mr Applegood: KENNETH GILBERT; Simon Kelso: LAWRENCE McGRANDLES Jnr; Jack Lovett: GRANT GILLESPIE; Librarian: HARRIET EASTCOTT; Waiter: ANDREW MACBEAN; Policeman: STEVE BENNETT; Officer: ANDREW ASHBY / (中略)Casting: ANNE HENDERSON; 1st Assistant: ROGER SIMONS; 2nd Assistant: DANNY PRUETT; 3rd Assistant: MARIOS HAMBOULIDES; Script Supervisor: MARISSA COWELL; Location Manager: JOEL HOLMES; Co-ordinator: KORA McNULTY; Location Assistant: JOE HAINES; Accountant: JOHN BEHARRELL; Assistant Accountant: PENNY BEHARRELL / Camera Operator: JAMIE HARCOURT; Focus Puller: JASON WRENN; Loader: CHRIS SAMWORTH; Grip: IAN BUCKLEY; Boom Operator: MIKE REARDON; Gaffer: KENNY SYKES; Art Directors: HENRY JAWORSKI, NIGEL EVANS, PAUL BOOTH; Buyer: MARSHALL AVER; Property Master: MIKE KILLMAN / Make Up Artists: KATE HODGSON, TERESA KELLY, ALISON DAVIES; Wardrobe: PAT WILLIAMSON, DEL COLLEY, MANDY DUNN; Construction: STEVE BOHAN; Stunts: PETER DIAMOND; Assistant Editor: HERMIONE BYRT; Sound Editing: OLIVER TARNEY, PETER BOND; Dubbing Mixer: IAN TAPP / CARNIVAL FILMS in association with A&E TELEVISION NETWORKS and CHORION plc; © Carnival Films MM
あらすじ
静養のため、ポワロはヘイスティングスとともに南海岸の島にあるホテルを訪れる。だが、そこでもポワロは邪悪を感じ取った。そして、殺人を防がなければというポワロの思いも空しく、滞在客のアレーナ・スチュアートが殺されてしまう……
事件発生時期
1936年8月上旬 〜
主要登場人物
エルキュール・ポワロ | 私立探偵 |
アーサー・ヘイスティングス | ポワロの探偵事務所のパートナー、陸軍大尉 |
ジェームス・ジャップ | スコットランド・ヤード主任警部 |
フェリシティ・レモン | ポワロの秘書 |
ケネス・マーシャル | ホテル滞在客、陸軍大尉 |
アレーナ・スチュアート | ホテル滞在客、ケネスの妻、女優 |
ライオネル・マーシャル | ホテル滞在客、ケネスと先妻の息子 |
パトリック・レッドファーン | ホテル滞在客、アレーナの友人、ジャーナリスト |
クリスティーン・レッドファーン | ホテル滞在客、パトリックの妻 |
ロザモンド・ダーンリー | ホテル滞在客、マーシャル大尉の幼なじみ、ドレスメーカー |
エミリー・ブルースター | ホテル滞在客 |
スティーブン・レーン | ホテル滞在客、元牧師 |
バリー | ホテル滞在客、陸軍少佐 |
ホレース・ブラット | ホテル滞在客 |
カースル夫人 | ホテルの主人 |
チャールズ・ウェストン | 主任警部、アリス・コリガン事件担当者 |
解説、みたいなもの
「エッジウェア卿の死」につづく、ピーター・ユスチノフ主演で一度映像化された作品の再映像化作品。ユスチノフ版では、「地中海殺人事件」という邦題が示すように、舞台が地中海の孤島(ロケ地はスペインのマヨルカ島)に置き換えられていたが、本作の撮影は、クリスティーが実際に滞在し、小説を執筆する際にモデルにしたとされるバラ・アイランドで行われた。この島は『そして誰もいなくなった』のインディアン島のモデルとも言われるほか、ジョーン・ヒクソン主演の「ミス・マープル」シリーズの一篇、「復讐の女神」の冒頭でも、ラフィール氏の邸宅があるラ・ロシュベルト島として撮影に使用されている。撮影時期は2000年9月だが、主演のスーシェは、撮影の数年前にもこの島を訪れたことがあったという[1]。
状況設定は短篇「砂に書かれた三角形」によく似ているが、ドラマ化にあたってバリー少佐に加えられた変更も、「砂に書かれた三角形」でバーンズ少佐(原作では将軍)に加えられた変更を思わせる。また、ポワロが体調を崩し、ドクターとミス・レモンによって転地療養に行かされるという冒頭、そして別行動で事件の調査をしたミス・レモンが後半になって合流するという展開が「グランド・メトロポリタンの宝石盗難事件」を思わせるのは、両方の脚本を担当したアンソニー・ホロウィッツの好みだろうか。その他の変更点では、ガードナー夫妻がカットされた一方でスティーブン・レーンの過去が増強されたほか、マーシャル大尉と前妻の子供が娘から息子に変更され、名前もリンダからライオネルに変更された(ドラマでは、前妻の名前がリンダ)。この変更によって、アレーナ殺害の動機と能力の両方を持った容疑者を増やしている反面、同性の継母への嫉妬という構図は崩れている。原作では「エンドハウスの怪事件」にも登場していたウェストン警視正は、ドラマでは気の毒にも警部に格下げされてアリス・コリガン事件の担当者へ。
冒頭のアリス・コリガン事件の検死法廷では、被害者の死亡時刻について、日本語だと「ウェストン巡査部長も、これと同じ見解を示しています」と言われるが、原語で同じ見解を示したのは the police surgeon (警察医)。おそらく日本語は、その台詞が言われる際にカメラがウェストン警部をとらえていることから、 surgeon (外科医) を sergeant (巡査部長) と取り違えて訳してしまったものと思われる。また、その検死法廷は「当検死法廷は、本殺人事件は被疑者不詳という結論に達しました」と締めくくられるが、検死法廷の目的は不審死の死因や事件性を検証・判定することで、被疑者の特定はその主目的ではない。検死官の台詞は原語だと 'This inquest therefore returns a verdict of murder by person or persons unknown. (当検死法廷は、被疑者不詳の殺人という結論に達しました)' という表現で、その結論の主眼はあくまで、被害者の死を殺人と判断したことである。
〈エル・ランチェーロ〉(スペイン語で牧場主の意)のディナーパーティーの招待状には SATURDAY THE 3RD OF AUGUST 1936 (1936年8月3日土曜日) と書かれているが、1936年の8月3日は月曜日で、8月3日が土曜日なのは前年の1935年である。ほかではネイサンからアレーナへの電報の日付が1936年8月12日となっており、招待状の日付は曜日の方がまちがっていると見るのが妥当か。ところでこの電報をヘイスティングスが音読したとき、原語では 'Send the money now, or your will lose a great deal.' と言っているが、画面に映る電報の文面に now の語はない。
アルゼンチンワインについてヘイスティングスが「ぼくも詳しくはありませんが。でも悪くないです。結構いけますよ」と言うところは、原語だと 'No, I wasn't until I went out there. (ぼくも向こうへ行くまではそうでした) An acquired taste, but actually I think it travels rather well, don't you? (癖はあるけど、遠くから運んでも悪くないでしょう?)' という表現で、南米在住のあいだに詳しくなった口ぶりである。
ポワロたちがホテルの対岸まで乗ってきたタクシーの運賃2ポンド9ペンスは、原語では 'That'll be two and nine pence.' と請求されており、これは2シリング9ペンスのことである。
最初にトラクターで出会ったときにレッドファーンが島を指して言った「監獄島」の原語 the Island of the Lost Souls は、H・G・ウェルズの小説『モロー博士の島』が1932年に映画化されたときのタイトル (Island of Lost Souls) を踏まえたもので、映画の邦題は「獣人島」。レッドファーンの意図は、「徹底した食餌療法と運動、あふれる太陽と海」を謳うホテルリゾートを、博士によって人間化され、獣性を矯正される獣たちが暮らす島に皮肉を込めて喩えたものと思われるが、おそらく「獣人島」ではそのニュアンスが伝わらないと判断されて、いかにも人間性が抑圧されていそうな「監獄島」という訳語が当てられたのだろう。なお、ウェルズの小説は「もの言えぬ証人」でもウィルミーナが読んでおり、ウェルズ作品が当時の大衆の共通の話題であった(と現在のスタッフにとらえられている)ことが窺える。ちなみに、映画「獣人島」でモロー博士を演じたのは、「アクロイド殺人事件」を舞台化した「アリバイ」でポワロ役を演じたチャールズ・ロートンである。
原作にも「ナイルに死す」の登場人物や出来事への言及はあるが、ロザムンド・ダーンリーがポワロとエジプトで面識があったという設定はドラマオリジナル。ヘイスティングスとの面識はないようだが、ドラマでは「海上の悲劇」にもヘイスティングスが追加されており、これまでにエジプトを舞台とした「海上の悲劇」と「エジプト墳墓のなぞ」のいずれでもヘイスティングスがポワロに同行していた。のちに映像化された「ナイルに死す」にはヘイスティングスは登場しないが、いずれにもロザムンド・ダーンリーの登場はない。
エミリー・ブルースターが、サンディ・コーブ・ホテルを人を殺すのにぴったりな場所だとして「海岸のリゾート」と言うのは、原語だと 'People away from home. (みんな家を離れて)' という表現で、つまり自分や相手のことをよく知る人物のすくない場所という趣旨である。
日本語では「このスチームバスというのは、アメリカでは全国的に使われているんですよ」とカースル夫人が説明するが、原語だとその使われている範囲は throughout the Americas (南北アメリカ大陸の全土で) と言われており、もっと普及している。また、ポワロの入れられたスチームバスの温度の華氏91度は、摂氏にすれば約32.8度である。
事件当日に殺人が報されたのはほぼ正午のはずだが太陽がだいぶ傾いており、実際の地理に照らせば西から日が差していて、夕方の撮影だったことがわかる。また、それ以外の場面もしばしば太陽の高さが不連続に変化し、時々の時刻らしからぬ陽光の入射角になることがある。この太陽の低さが目立つのは、8月という劇中設定に対して、撮影が前述のように9月であったことも影響していると見られるが、南デヴォンでの撮影は12日間に及んだとのことで[1]、行楽のハイシーズンを避けておこなわなければならない都合もあっただろうか。
「あなたは昨日、マーシャル夫人がピクシー・コーブにいることを予想してましたか?」とポワロに訊かれたパトリック・レッドファーンが、「いや。本当のことを言えば、彼女を捜してたんですが」と言うところは、日本語だとエミリー・ブルースターとピクシー・コーブへ向かったときのことを言っているようにも聞こえるが、原語だと 'No. As a matter of fact I was looking for her when I met you on the terrace. (いや。本当のことを言えば、テラスであなたたちに会ったとき、彼女を捜してたんです)' という表現で、テニスの仕度に向かうヘイスティングスと行き会ったときのことを言っているのがわかる。しかし、その場は厳密にはテラスではなく、テラス近くの芝生の上だった。
本土のレストランでジャップ警部がポワロに言った「デザートをおかわりすれば全部解けるんじゃないですか?」という台詞の「デザート」は原語だと spotted dick で、これは「ヒッコリー・ロードの殺人」で警部がポワロにご馳走しようとした「ぶちプディング」である。ただ、原語に「おかわり」の意味はないので、「ヒッコリー・ロードの殺人」では拒否したデザートを、「黄色いアイリス」のように、空腹のポワロが喜んで食べていたわけではない。なお、「ヒッコリー・ロードの殺人」と「黄色いアイリス」も、やはり本作と同じくホロウィッツによる脚本であった。
ウェストン警部が、アリス・コリガン事件の発生時刻を「教会のミサの最中」と言うが、日本語の「ミサ」はカトリックにおいてのみ用いる呼び方である一方、セント・マシュー教会は英国国教会の所属と見られる。なお、原語では morning church service (朝の教会の礼拝) と言っている。
ポワロたちが図書館から出てきた際、画面奥の建物の屋根にテレビのアンテナが見えるほか、道路の端には標示のラインを隠した跡がわかる。また、ミス・レモンがブラックリッジ村に到着する場面では、駅の改札の奥に現代的な出で立ちの男性が立っており、スタッフの一人が写り込んでしまったようだ。そして、ジャップ警部がバリー少佐に呼びかけられて話をする場面では、奥の角に出番を待つヘイスティングスがわずかに見えてしまっている上、スタッフが彼に出の合図をしたらしき影が壁に映ってしまっている。加えてハイビジョンリマスター版では、冒頭に警察の車がブラックリッジ村を走り抜ける際、車が来た方向の画面右端奥にある屋根の上にテレビのアンテナが見える。
サンディ・コーブ・ホテルのロケ地は前述のように南デヴォンのバラ・アイランドだが、その屋内やバルコニーはスタジオ内セットのようで、しかもフロント周辺とバーラウンジとレストランは、それぞれ一部を使いまわして撮影されているように見受けられる。また、対岸という設定の本土の町も、実際の対岸であるビッグベリー・オン・シーではなく、「エンドハウスの怪事件」のロケ地でもあったソルコムで撮影された。ポワロが図書館から出てきた場面の通りはフォア・ストリートで、薬局前でレーンと話す場面ではレーンの背後に〈マジェスティック・ホテル〉が見える。一方、サンディ・コーブ・ホテルへ向かうポワロたちを乗せたタクシーが通っていた道は、ビッグベリー・オン・シーからエイヴォン川をさかのぼった先で、その支流を渡るタイダル・ロードである。
ミス・レモンがブラックリッジ村へ向かう汽車は、ホーステッド・ハウス・ファームの私道内の陸橋から見下ろしたブルーベル鉄道で、「プリマス行き急行列車」でもパディントン駅を出た汽車が同じ場所とアングルで撮影されており、その映像は「負け犬」でも再利用されていた。一方、ケント州にあるというブラックリッジ村のロケ地は、ジェラルディン・マクイーワン主演の「ミス・マープル」第1シリーズでセント・メアリー・ミード村のロケ地にもなっている、バッキンガムシャーのハンブルデン。ここはジュリア・マッケンジー主演「ミス・マープル5」の「青いゼラニウム」でもリトル・アンブローズ村として撮影に使われ、スティーブン・レーンが牧師を務めていたセント・マシュー教会も「書斎の死体」や「牧師館の殺人」、「青いゼラニウム」に登場する。また、「ナイルに死す」と同原作のピーター・ユスチノフ主演の映画、「ナイル殺人事件」冒頭に登場するイギリスの村や、コリン・ブキャナン主演「蒼ざめた馬」のマッチ・ディーピング村が撮影されたのも同所である。村の集会所のロケ地は、ハンブルデンから4キロほど北にあるフリース・ビレッジ・ホール。
ホテルのボーイのウィリアム役のポール・レディは、トビー・ジョーンズ主演の「検察側の証人」にもトリップ検察官役で出演。ケネス・マーシャル役のデビッド・モーリンソンは、ジェレミー・ブレット主演の「シャーロック・ホームズの冒険」の一篇、「犯人は二人」のドーキング大佐役でも見ることができる。また、ジョン・ネトルズ主演の「バーナビー警部」シリーズでは、ロザモンド・ダーンリー役のマーシャ・フィッツアランを「人形の手に血のナイフ」のローラ・ブライアリー役で、バリー少佐役のイアン・トンプソンを「流浪の馬車がやってくる」のピーター・フェアファックス役で、エミリー・ブルースター役のキャロライン・ピックルズを「ラストダンスは天国で」のシスター・ラブレース役で、それぞれ見ることができる。キャロライン・ピックルズは、アンジェラ・ランズベリー主演の映画「クリスタル殺人事件」にもミス・ジャイルズ役で出演。ライオネル・マーシャル役のラッセル・トヴィーは、ベネディクト・カンバーバッチ主演の「シャーロック2」の一篇、「バスカヴィルの犬 」にはヘンリー・ナイト役で出演している。
サンディ・コーブ・ホテルのレストランで使われている椅子は、「黄色いアイリス」の〈ル・ジャルダン・デ・シーニュ〉で使われていたのと同じもの。また、ホテルの廊下に複数置かれたアールデコのテーブルランプは、「アクロイド殺人事件」のアクロイド邸ファーンリー・パークでも、同じものがリビングの窓際やアクロイドの書斎前に置かれていた。
ポワロがスチームバスを勧められる場面で、カースル夫人に「きっとお気に召しますよ」や「さあ、お入りなさいな」と言われて、ポワロが愛想笑いで出す声は日本語音声のみである。
本作でブラットの吹替を担当した後藤哲夫さんは、映画「セイブ・ザ・ワールド」ではデビッド・スーシェの吹替を担当している。
映画「地中海殺人事件」の日本語版も、やはり佐藤敏夫さんの演出によるもので、本作ではミス・レモン役の翠準子さんがシルビア・マイルズ演ずるガードナー夫人役、ケネス・マーシャル役の津嘉山正種さんがニコラス・クレイ演ずるパトリック・レッドファーン役で出演している。
2004年2月8日に(厳密には9日に日が変わってから)「ミッドナイトチャンネル」内で本作が再放送された際、番組内容を紹介する冒頭のスポットでは、タイトルが「白昼の悪夢」と誤記されていた。
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ホテルに来た理由をポワロが「静養 (health) のためです」と説明したのに対し、バリー少佐が「今現在、この島はけして健康にいい場所 (the healthiest place) とは言えんですよ」と伝えたところは、原語だと healthy にある「健全な」という意味をかけて、実は麻薬取引という重大犯罪の現場になっていると言っていたことがわかる。 health や healthy の多義性にかけたやりとりは「ヒッコリー・ロードの殺人」にも存在し、前述のとおり、本作と同じアンソニー・ホロウィッツの脚本担当作であった。
アレーナが殺害されるより前にポワロがレッドファーンに「どうしてあなたはこんな小さな島で、奥さんの目の前でアレーナ・スチュアートと浮気をしなければならないんですか!」と言った台詞は、原語だと 'I wonder why, if it is necessary for you to conduct an affair, here on this island, with Arlena Stuart, you choose to do it before the very eyes of your wife! (この島でアレーナ・スチュアートと浮気をするにしても、どうして奥さんの目の前を選んでするのか、私には疑問です)' という表現で、本当に浮気が目的だとしたら不自然な行動に疑念を抱いていることを伝え、その背後にある意図に気づいて事前に警告を発したとも解釈しやすい言い方になっている。一方、のちにポワロがパトリック・レッドファーンに「あなたは〔マーシャル〕夫人に恋をしてた」と言うところは、その時点でポワロがレッドファーンの真意に気づいていなかったようにも聞こえるが、先の台詞はおおよそ原作同様であるのに対し、こちらは原作だとレッドファーンが自分から言う台詞で、発言者の変更によりドラマではポワロの認識に不整合が生じている。
二人の〈バードウォッチャー〉を逮捕したあとのバリー少佐の台詞は、「ヒッコリー・ロードの殺人」のキャスタマン氏のオフィスでの台詞を思わせる。バリー少佐が秘密捜査をおこなっている設定も、またキャスタマン氏の存在もドラマオリジナルのもので、双方の脚本を担当したホロウィッツの傾向がここでも窺える。
謎解きのなかでポワロが「まず〔レッドファーン夫人は〕時計を正確な時刻に戻します」と言った際、夫人は時計を11時29分頃に戻すが、彼女が事前に進めたのは15分で、ライオネルが確認したときに時計が指していたのがすでに11時46分なので、戻しすぎである。
謎解きのなかでヘイスティングスが「〔レッドファーン夫人は自分が〕教師だと言いましたね」と言うが、事前に彼女がそのように言った場面は存在しない。なお、原作だとヘイスティングスは例外的な後日談で局所的に登場するのみで、レッドファーン夫人が教師だったという情報はロザムンド・ダーンリーからもたらされていたが、その場面もドラマには存在しない。
謎解きのなかでポワロが、アレーナが洞窟に隠れたところで「洞窟の入り口はとてもせまく、外から入り口は見えにくく、またレッドファーン夫人が着替えている場所も岩の陰になって中からは見えません」と言うが、原語では 'The mouth of this cave it is very narrow. It has no view of the entrance to the cove or that part of the beach where Madame Redfern is changing, hidden by the rocks. (洞窟の入り口はとてもせまく、湾の入り口も、またレッドファーン夫人が着替えている砂浜の場所も、岩の陰になって見えません)' という表現で、外から入り口が見えにくい話はしておらず、一貫して中から外が見えない話をしている(おそらく日本語は cove (湾) を cave (洞窟) と取り違えて訳されている)。実際、ここで大事なのは、アレーナが洞窟の外の状況を認識できず、エミリー・ブルースターがいるあいだに外へ出てもよいと思われないことで(もちろん、洞窟にいる本物のアレーナをブルースターに見られても困るけど)、映像でも洞窟の中から外が見えない様子を示している。
謎解き中のプレイバックでレッドファーンが「〔アレーナの〕脈がない!」と言った際、彼はまだ脈を取っていない。原語ではこのタイミングでは 'Well...' と言っているだけで、日本語で「息もしてないよ!」と言ったところで 'There's no pulse! She's not breathing. (脈がない。息もしてないよ)' と言っている。なお、この場面はリアルタイムのときとは映像も吹替音声も別個に撮り直されているようで、リアルタイムのときには問題はない。
保健所による〈エル・ランチェーロ〉の検査に際し、警視庁に要請があったという「見張り」は、原語だと armed guard (武装した警護) という表現で、〈エル・ランチェーロ〉を、検査にあたって身の危険を感じる相手と保健所が見なしているニュアンスが明確である。また、ポワロがヘイスティングスをなぐさめて言う「過ぎたことは過ぎたこと。くよくよしても仕方ないですよ」という台詞も、原語は 'What is done is done. And what is underdone is underdone. (過ぎたことは過ぎたこと。でも、生煮えのものは生煮えなんです)' という表現で、後半部は前半部の What is done is done. という定型表現にかけて、きちんと調理ができない店が食中毒を出すのは必然だと言っている。
状況設定は短篇「砂に書かれた三角形」によく似ているが、ドラマ化にあたってバリー少佐に加えられた変更も、「砂に書かれた三角形」でバーンズ少佐(原作では将軍)に加えられた変更を思わせる。また、ポワロが体調を崩し、ドクターとミス・レモンによって転地療養に行かされるという冒頭、そして別行動で事件の調査をしたミス・レモンが後半になって合流するという展開が「グランド・メトロポリタンの宝石盗難事件」を思わせるのは、両方の脚本を担当したアンソニー・ホロウィッツの好みだろうか。その他の変更点では、ガードナー夫妻がカットされた一方でスティーブン・レーンの過去が増強されたほか、マーシャル大尉と前妻の子供が娘から息子に変更され、名前もリンダからライオネルに変更された(ドラマでは、前妻の名前がリンダ)。この変更によって、アレーナ殺害の動機と能力の両方を持った容疑者を増やしている反面、同性の継母への嫉妬という構図は崩れている。原作では「エンドハウスの怪事件」にも登場していたウェストン警視正は、ドラマでは気の毒にも警部に格下げされてアリス・コリガン事件の担当者へ。
冒頭のアリス・コリガン事件の検死法廷では、被害者の死亡時刻について、日本語だと「ウェストン巡査部長も、これと同じ見解を示しています」と言われるが、原語で同じ見解を示したのは the police surgeon (警察医)。おそらく日本語は、その台詞が言われる際にカメラがウェストン警部をとらえていることから、 surgeon (外科医) を sergeant (巡査部長) と取り違えて訳してしまったものと思われる。また、その検死法廷は「当検死法廷は、本殺人事件は被疑者不詳という結論に達しました」と締めくくられるが、検死法廷の目的は不審死の死因や事件性を検証・判定することで、被疑者の特定はその主目的ではない。検死官の台詞は原語だと 'This inquest therefore returns a verdict of murder by person or persons unknown. (当検死法廷は、被疑者不詳の殺人という結論に達しました)' という表現で、その結論の主眼はあくまで、被害者の死を殺人と判断したことである。
〈エル・ランチェーロ〉(スペイン語で牧場主の意)のディナーパーティーの招待状には SATURDAY THE 3RD OF AUGUST 1936 (1936年8月3日土曜日) と書かれているが、1936年の8月3日は月曜日で、8月3日が土曜日なのは前年の1935年である。ほかではネイサンからアレーナへの電報の日付が1936年8月12日となっており、招待状の日付は曜日の方がまちがっていると見るのが妥当か。ところでこの電報をヘイスティングスが音読したとき、原語では 'Send the money now, or your will lose a great deal.' と言っているが、画面に映る電報の文面に now の語はない。
アルゼンチンワインについてヘイスティングスが「ぼくも詳しくはありませんが。でも悪くないです。結構いけますよ」と言うところは、原語だと 'No, I wasn't until I went out there. (ぼくも向こうへ行くまではそうでした) An acquired taste, but actually I think it travels rather well, don't you? (癖はあるけど、遠くから運んでも悪くないでしょう?)' という表現で、南米在住のあいだに詳しくなった口ぶりである。
ポワロたちがホテルの対岸まで乗ってきたタクシーの運賃2ポンド9ペンスは、原語では 'That'll be two and nine pence.' と請求されており、これは2シリング9ペンスのことである。
最初にトラクターで出会ったときにレッドファーンが島を指して言った「監獄島」の原語 the Island of the Lost Souls は、H・G・ウェルズの小説『モロー博士の島』が1932年に映画化されたときのタイトル (Island of Lost Souls) を踏まえたもので、映画の邦題は「獣人島」。レッドファーンの意図は、「徹底した食餌療法と運動、あふれる太陽と海」を謳うホテルリゾートを、博士によって人間化され、獣性を矯正される獣たちが暮らす島に皮肉を込めて喩えたものと思われるが、おそらく「獣人島」ではそのニュアンスが伝わらないと判断されて、いかにも人間性が抑圧されていそうな「監獄島」という訳語が当てられたのだろう。なお、ウェルズの小説は「もの言えぬ証人」でもウィルミーナが読んでおり、ウェルズ作品が当時の大衆の共通の話題であった(と現在のスタッフにとらえられている)ことが窺える。ちなみに、映画「獣人島」でモロー博士を演じたのは、「アクロイド殺人事件」を舞台化した「アリバイ」でポワロ役を演じたチャールズ・ロートンである。
原作にも「ナイルに死す」の登場人物や出来事への言及はあるが、ロザムンド・ダーンリーがポワロとエジプトで面識があったという設定はドラマオリジナル。ヘイスティングスとの面識はないようだが、ドラマでは「海上の悲劇」にもヘイスティングスが追加されており、これまでにエジプトを舞台とした「海上の悲劇」と「エジプト墳墓のなぞ」のいずれでもヘイスティングスがポワロに同行していた。のちに映像化された「ナイルに死す」にはヘイスティングスは登場しないが、いずれにもロザムンド・ダーンリーの登場はない。
エミリー・ブルースターが、サンディ・コーブ・ホテルを人を殺すのにぴったりな場所だとして「海岸のリゾート」と言うのは、原語だと 'People away from home. (みんな家を離れて)' という表現で、つまり自分や相手のことをよく知る人物のすくない場所という趣旨である。
日本語では「このスチームバスというのは、アメリカでは全国的に使われているんですよ」とカースル夫人が説明するが、原語だとその使われている範囲は throughout the Americas (南北アメリカ大陸の全土で) と言われており、もっと普及している。また、ポワロの入れられたスチームバスの温度の華氏91度は、摂氏にすれば約32.8度である。
事件当日に殺人が報されたのはほぼ正午のはずだが太陽がだいぶ傾いており、実際の地理に照らせば西から日が差していて、夕方の撮影だったことがわかる。また、それ以外の場面もしばしば太陽の高さが不連続に変化し、時々の時刻らしからぬ陽光の入射角になることがある。この太陽の低さが目立つのは、8月という劇中設定に対して、撮影が前述のように9月であったことも影響していると見られるが、南デヴォンでの撮影は12日間に及んだとのことで[1]、行楽のハイシーズンを避けておこなわなければならない都合もあっただろうか。
「あなたは昨日、マーシャル夫人がピクシー・コーブにいることを予想してましたか?」とポワロに訊かれたパトリック・レッドファーンが、「いや。本当のことを言えば、彼女を捜してたんですが」と言うところは、日本語だとエミリー・ブルースターとピクシー・コーブへ向かったときのことを言っているようにも聞こえるが、原語だと 'No. As a matter of fact I was looking for her when I met you on the terrace. (いや。本当のことを言えば、テラスであなたたちに会ったとき、彼女を捜してたんです)' という表現で、テニスの仕度に向かうヘイスティングスと行き会ったときのことを言っているのがわかる。しかし、その場は厳密にはテラスではなく、テラス近くの芝生の上だった。
本土のレストランでジャップ警部がポワロに言った「デザートをおかわりすれば全部解けるんじゃないですか?」という台詞の「デザート」は原語だと spotted dick で、これは「ヒッコリー・ロードの殺人」で警部がポワロにご馳走しようとした「ぶちプディング」である。ただ、原語に「おかわり」の意味はないので、「ヒッコリー・ロードの殺人」では拒否したデザートを、「黄色いアイリス」のように、空腹のポワロが喜んで食べていたわけではない。なお、「ヒッコリー・ロードの殺人」と「黄色いアイリス」も、やはり本作と同じくホロウィッツによる脚本であった。
ウェストン警部が、アリス・コリガン事件の発生時刻を「教会のミサの最中」と言うが、日本語の「ミサ」はカトリックにおいてのみ用いる呼び方である一方、セント・マシュー教会は英国国教会の所属と見られる。なお、原語では morning church service (朝の教会の礼拝) と言っている。
ポワロたちが図書館から出てきた際、画面奥の建物の屋根にテレビのアンテナが見えるほか、道路の端には標示のラインを隠した跡がわかる。また、ミス・レモンがブラックリッジ村に到着する場面では、駅の改札の奥に現代的な出で立ちの男性が立っており、スタッフの一人が写り込んでしまったようだ。そして、ジャップ警部がバリー少佐に呼びかけられて話をする場面では、奥の角に出番を待つヘイスティングスがわずかに見えてしまっている上、スタッフが彼に出の合図をしたらしき影が壁に映ってしまっている。加えてハイビジョンリマスター版では、冒頭に警察の車がブラックリッジ村を走り抜ける際、車が来た方向の画面右端奥にある屋根の上にテレビのアンテナが見える。
サンディ・コーブ・ホテルのロケ地は前述のように南デヴォンのバラ・アイランドだが、その屋内やバルコニーはスタジオ内セットのようで、しかもフロント周辺とバーラウンジとレストランは、それぞれ一部を使いまわして撮影されているように見受けられる。また、対岸という設定の本土の町も、実際の対岸であるビッグベリー・オン・シーではなく、「エンドハウスの怪事件」のロケ地でもあったソルコムで撮影された。ポワロが図書館から出てきた場面の通りはフォア・ストリートで、薬局前でレーンと話す場面ではレーンの背後に〈マジェスティック・ホテル〉が見える。一方、サンディ・コーブ・ホテルへ向かうポワロたちを乗せたタクシーが通っていた道は、ビッグベリー・オン・シーからエイヴォン川をさかのぼった先で、その支流を渡るタイダル・ロードである。
ミス・レモンがブラックリッジ村へ向かう汽車は、ホーステッド・ハウス・ファームの私道内の陸橋から見下ろしたブルーベル鉄道で、「プリマス行き急行列車」でもパディントン駅を出た汽車が同じ場所とアングルで撮影されており、その映像は「負け犬」でも再利用されていた。一方、ケント州にあるというブラックリッジ村のロケ地は、ジェラルディン・マクイーワン主演の「ミス・マープル」第1シリーズでセント・メアリー・ミード村のロケ地にもなっている、バッキンガムシャーのハンブルデン。ここはジュリア・マッケンジー主演「ミス・マープル5」の「青いゼラニウム」でもリトル・アンブローズ村として撮影に使われ、スティーブン・レーンが牧師を務めていたセント・マシュー教会も「書斎の死体」や「牧師館の殺人」、「青いゼラニウム」に登場する。また、「ナイルに死す」と同原作のピーター・ユスチノフ主演の映画、「ナイル殺人事件」冒頭に登場するイギリスの村や、コリン・ブキャナン主演「蒼ざめた馬」のマッチ・ディーピング村が撮影されたのも同所である。村の集会所のロケ地は、ハンブルデンから4キロほど北にあるフリース・ビレッジ・ホール。
ホテルのボーイのウィリアム役のポール・レディは、トビー・ジョーンズ主演の「検察側の証人」にもトリップ検察官役で出演。ケネス・マーシャル役のデビッド・モーリンソンは、ジェレミー・ブレット主演の「シャーロック・ホームズの冒険」の一篇、「犯人は二人」のドーキング大佐役でも見ることができる。また、ジョン・ネトルズ主演の「バーナビー警部」シリーズでは、ロザモンド・ダーンリー役のマーシャ・フィッツアランを「人形の手に血のナイフ」のローラ・ブライアリー役で、バリー少佐役のイアン・トンプソンを「流浪の馬車がやってくる」のピーター・フェアファックス役で、エミリー・ブルースター役のキャロライン・ピックルズを「ラストダンスは天国で」のシスター・ラブレース役で、それぞれ見ることができる。キャロライン・ピックルズは、アンジェラ・ランズベリー主演の映画「クリスタル殺人事件」にもミス・ジャイルズ役で出演。ライオネル・マーシャル役のラッセル・トヴィーは、ベネディクト・カンバーバッチ主演の「シャーロック2」の一篇、「バスカヴィルの
サンディ・コーブ・ホテルのレストランで使われている椅子は、「黄色いアイリス」の〈ル・ジャルダン・デ・シーニュ〉で使われていたのと同じもの。また、ホテルの廊下に複数置かれたアールデコのテーブルランプは、「アクロイド殺人事件」のアクロイド邸ファーンリー・パークでも、同じものがリビングの窓際やアクロイドの書斎前に置かれていた。
ポワロがスチームバスを勧められる場面で、カースル夫人に「きっとお気に召しますよ」や「さあ、お入りなさいな」と言われて、ポワロが愛想笑いで出す声は日本語音声のみである。
本作でブラットの吹替を担当した後藤哲夫さんは、映画「セイブ・ザ・ワールド」ではデビッド・スーシェの吹替を担当している。
映画「地中海殺人事件」の日本語版も、やはり佐藤敏夫さんの演出によるもので、本作ではミス・レモン役の翠準子さんがシルビア・マイルズ演ずるガードナー夫人役、ケネス・マーシャル役の津嘉山正種さんがニコラス・クレイ演ずるパトリック・レッドファーン役で出演している。
2004年2月8日に(厳密には9日に日が変わってから)「ミッドナイトチャンネル」内で本作が再放送された際、番組内容を紹介する冒頭のスポットでは、タイトルが「白昼の悪夢」と誤記されていた。
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ホテルに来た理由をポワロが「静養 (health) のためです」と説明したのに対し、バリー少佐が「今現在、この島はけして健康にいい場所 (the healthiest place) とは言えんですよ」と伝えたところは、原語だと healthy にある「健全な」という意味をかけて、実は麻薬取引という重大犯罪の現場になっていると言っていたことがわかる。 health や healthy の多義性にかけたやりとりは「ヒッコリー・ロードの殺人」にも存在し、前述のとおり、本作と同じアンソニー・ホロウィッツの脚本担当作であった。
アレーナが殺害されるより前にポワロがレッドファーンに「どうしてあなたはこんな小さな島で、奥さんの目の前でアレーナ・スチュアートと浮気をしなければならないんですか!」と言った台詞は、原語だと 'I wonder why, if it is necessary for you to conduct an affair, here on this island, with Arlena Stuart, you choose to do it before the very eyes of your wife! (この島でアレーナ・スチュアートと浮気をするにしても、どうして奥さんの目の前を選んでするのか、私には疑問です)' という表現で、本当に浮気が目的だとしたら不自然な行動に疑念を抱いていることを伝え、その背後にある意図に気づいて事前に警告を発したとも解釈しやすい言い方になっている。一方、のちにポワロがパトリック・レッドファーンに「あなたは〔マーシャル〕夫人に恋をしてた」と言うところは、その時点でポワロがレッドファーンの真意に気づいていなかったようにも聞こえるが、先の台詞はおおよそ原作同様であるのに対し、こちらは原作だとレッドファーンが自分から言う台詞で、発言者の変更によりドラマではポワロの認識に不整合が生じている。
二人の〈バードウォッチャー〉を逮捕したあとのバリー少佐の台詞は、「ヒッコリー・ロードの殺人」のキャスタマン氏のオフィスでの台詞を思わせる。バリー少佐が秘密捜査をおこなっている設定も、またキャスタマン氏の存在もドラマオリジナルのもので、双方の脚本を担当したホロウィッツの傾向がここでも窺える。
謎解きのなかでポワロが「まず〔レッドファーン夫人は〕時計を正確な時刻に戻します」と言った際、夫人は時計を11時29分頃に戻すが、彼女が事前に進めたのは15分で、ライオネルが確認したときに時計が指していたのがすでに11時46分なので、戻しすぎである。
謎解きのなかでヘイスティングスが「〔レッドファーン夫人は自分が〕教師だと言いましたね」と言うが、事前に彼女がそのように言った場面は存在しない。なお、原作だとヘイスティングスは例外的な後日談で局所的に登場するのみで、レッドファーン夫人が教師だったという情報はロザムンド・ダーンリーからもたらされていたが、その場面もドラマには存在しない。
謎解きのなかでポワロが、アレーナが洞窟に隠れたところで「洞窟の入り口はとてもせまく、外から入り口は見えにくく、またレッドファーン夫人が着替えている場所も岩の陰になって中からは見えません」と言うが、原語では 'The mouth of this cave it is very narrow. It has no view of the entrance to the cove or that part of the beach where Madame Redfern is changing, hidden by the rocks. (洞窟の入り口はとてもせまく、湾の入り口も、またレッドファーン夫人が着替えている砂浜の場所も、岩の陰になって見えません)' という表現で、外から入り口が見えにくい話はしておらず、一貫して中から外が見えない話をしている(おそらく日本語は cove (湾) を cave (洞窟) と取り違えて訳されている)。実際、ここで大事なのは、アレーナが洞窟の外の状況を認識できず、エミリー・ブルースターがいるあいだに外へ出てもよいと思われないことで(もちろん、洞窟にいる本物のアレーナをブルースターに見られても困るけど)、映像でも洞窟の中から外が見えない様子を示している。
謎解き中のプレイバックでレッドファーンが「〔アレーナの〕脈がない!」と言った際、彼はまだ脈を取っていない。原語ではこのタイミングでは 'Well...' と言っているだけで、日本語で「息もしてないよ!」と言ったところで 'There's no pulse! She's not breathing. (脈がない。息もしてないよ)' と言っている。なお、この場面はリアルタイムのときとは映像も吹替音声も別個に撮り直されているようで、リアルタイムのときには問題はない。
保健所による〈エル・ランチェーロ〉の検査に際し、警視庁に要請があったという「見張り」は、原語だと armed guard (武装した警護) という表現で、〈エル・ランチェーロ〉を、検査にあたって身の危険を感じる相手と保健所が見なしているニュアンスが明確である。また、ポワロがヘイスティングスをなぐさめて言う「過ぎたことは過ぎたこと。くよくよしても仕方ないですよ」という台詞も、原語は 'What is done is done. And what is underdone is underdone. (過ぎたことは過ぎたこと。でも、生煮えのものは生煮えなんです)' という表現で、後半部は前半部の What is done is done. という定型表現にかけて、きちんと調理ができない店が食中毒を出すのは必然だと言っている。
ロケ地写真
カットされた場面
日本
オリジナル版
[0:55:20/0:29] | マンションでポワロの電話に答えるミス・レモン |
ハイビジョンリマスター版
なし映像ソフト
- [DVD] 「名探偵ポワロ [完全版] 31 白昼の悪魔」(字幕・吹替) ハピネット・ピクチャーズ※1
- [DVD] 「名探偵ポワロ DVDコレクション 65 グランド・メトロポリタンの宝石盗難事件」(字幕・吹替) デアゴスティーニ・ジャパン※2
- [BD] 「名探偵ポワロ Blu-ray BOX Disc 17 白昼の悪魔」(字幕/吹替) ハピネット・ピクチャーズ※3
- ※1 「名探偵ポワロ [完全版] DVD-BOX2」「名探偵ポワロ [完全版] 全巻 DVD-SET」「名探偵ポワロ [完全版] DVD-SET 8」にも収録
- ※2 吹替は大塚智則さん主演の新録で、映像もイギリスで販売されているDVDと同じバリエーションを使用
- ※3 「名探偵ポワロ Blu-ray BOX vol. 2」に収録
同原作の映像化作品
- [映画] 「地中海殺人事件」 1982年 監督:ガイ・ハミルトン 出演:ピーター・ユスチノフ(田中明夫)