カーテン 〜ポワロ最後の事件〜
Curtain: Poirot's Last Case

放送履歴

日本

オリジナル版(90分30秒)

  • 2014年10月06日 21時00分〜 (NHK BSプレミアム)※1
  • 2015年03月29日 15時30分〜 (NHK BSプレミアム)
  • 2016年02月02日 23時45分〜 (NHK BSプレミアム)※2
  • 2017年03月04日 15時00分〜 (NHK BSプレミアム)※3
  • 2017年08月09日 16時00分〜 (NHK BSプレミアム)
  • 2021年09月11日 16時29分〜 (NHK BSプレミアム)※4
  • 2022年01月07日 09時00分〜 (NHK BS4K)※5
  • 2023年10月18日 21時00分〜 (NHK BSプレミアム・BS4K)※6 ※7
  • ※1 エンディング後半の画面上部に25年間の視聴感謝の字幕表示あり
  • ※2 エンディング前半の画面上部にハイビジョンリマスター版放送および番組ホームページ案内の字幕表示あり
  • ※3 エンディング前半の画面下部に「刑事フォイル」再放送予告の字幕表示(帯付き)あり
  • ※4 エンディング前半の画面下部に「刑事コロンボ」の放送開始案内の字幕表示(帯付き)あり
  • ※5 エンディング前半の画面下部に「大草原の小さな家」の放送開始案内の字幕表示(帯付き)あり
  • ※6 BSプレミアムでの放送は、オープニング冒頭の画面左上にBS4K同時放送のアイコン表示あり
  • ※7 エンディング後半の画面下部に「ロング・ナイト 沈黙的真相」の放送開始案内の字幕表示あり

海外

  • 2013年11月13日 20時00分〜 (英・ITV1)
  • 2014年01月03日 20時10分〜 (波・Ale Kino+)

原作

邦訳

  • 『カーテン ―ポアロ最後の事件―』 クリスティー文庫 田口俊樹訳
  • 『カーテン ―ポアロ最後の事件―』 クリスティー文庫 中村能三訳
  • 『カーテン ―ポアロ最後の事件―』 ハヤカワミステリ文庫 中村能三訳

原書

  • Curtain: Poirot's Last Case, Collins, September 1975 (UK)
  • Curtain: Poirot's Last Case, Dodd Mead, 1975 (USA)

オープニングクレジット

日本

オリジナル版

名探偵ポワロ / AGATHA CHRISTIE'S POIROT / カーテン 〜ポワロ最後の事件〜 // DAVID SUCHET / Agatha Christie POIROT / CURTAIN: POIROT'S LAST CASE / based on the novel by AGATHA CHRISTIE / SCREENPLAY KEVIN ELYOT / HELEN BAXENDALE, SHAUN DINGWALL / CLAIRE KEELAN, ANNA MADELEY / AIDAN MCARDLE, MATTHEW MCNULTY / ALICE ORR-EWING, JOHN STANDING / with HUGH FRASER as Captain Hastings / and ANNE REID / and PHILIP GLENISTER / Producer DAVID BOULTER / Director HETTIE MACDONALD

エンディングクレジット

日本

オリジナル版

原作 アガサ・クリスティー Agatha Christie  脚本 ケヴィン・エリオット 演出 ヘティ・マクドナルド 制作 ITVスタジオズ/エーコン・プロダクションズ マスターピース/アガサ・クリスティー・リミテッド (イギリス 2013年)  声の出演 ポワロ(デビッド・スーシェ) 熊倉 一雄  アーサー・ヘイスティングス大尉(ヒュー・フレイザー) 安原 義人 ジュディス・ヘイスティングス(アリス・オル=ユーイング) 安藤 麻吹  ジョン・フランクリン博士(ショーン・ディングウォール) 世古 陽丸 バーバラ・フランクリン(アンナ・マデリー) 勝生 真沙子  スティーブン・ノートン(エイダン・マカードル) 渡辺 穣 ウィリアム・ボイド・キャリントン卿󠄁(フィリップ・グレニスター) 田中 正彦  エリザベス・コール(ヘレン・バクセンデイル) 泉 晶子 トービー・ラトレル(ジョン・スタンディング) 佐々木 敏  デイジー・ラトレル(アン・リード) 山本 与志恵 アラートン少佐(マシュー・マクナルティー) 高橋 広樹  ジョージ 坂本 大地 クレイブン 上田 ゆう子 検視官 増山 浩一  <日本語版制作スタッフ> 翻訳 澤口 浩介 演出 佐藤 敏夫 音声 小出 善司

DVD版

原作 アガサ・クリスティー Agatha Christie  脚本 ケヴィン・エリオット 演出 ヘティ・マクドナルド 制作 ITVスタジオズ/エーコン・プロダクションズ マスターピース/アガサ・クリスティー・リミテッド (イギリス 2013年)  声の出演 ポワロ(デビッド・スーシェ) 熊倉 一雄  アーサー・ヘイスティングス大尉(ヒュー・フレイザー) 安原 義人 ジュディス・ヘイスティングス(アリス・オル=ユーイング) 安藤 麻吹  ジョン・フランクリン博士(ショーン・ディングウォール) 世古 陽丸 バーバラ・フランクリン(アンナ・マデリー) 勝生 真沙子  スティーブン・ノートン(エイダン・マカードル) 渡辺 穣 ウィリアム・ボイド・キャリントン卿󠄁(フィリップ・グレニスター) 田中 正彦  エリザベス・コール(ヘレン・バクセンデイル) 泉 晶子 トービー・ラトレル(ジョン・スタンディング) 佐々木 敏  デイジー・ラトレル(アン・リード) 山本 与志恵 アラートン少佐(マシュー・マクナルティー) 高橋 広樹  ジョージ 坂本 大地 クレイブン 上田 ゆう子 検視官 増山 浩一  <日本語版制作スタッフ> 翻訳・台本 澤口 浩介 演出 佐藤 敏夫 調整 小出 善司 録音 黒田 賢吾 プロデューサー 武士俣 公佑  制作統括 小坂  聖

海外

オリジナル版

Hercule Poirot: DAVID SUCHET; Elizabeth Cole: HELEN BAXENDALE; Captain Hastings: HUGH FRASER; Dasy Luttrell: ANNE REID; Colonel Toby Luttrell: JOHN STANDING / Stephen Norton: AIDAN McARDLE; Sir William Boyd Carrington: PHILIP GLENISTER; Curtis: ADAM ENGLANDER; Judith Hastings: ALICE ORR-EWING; Doctor Franklin: SHAUN DINGWALL / Major Allerton: MATTHEW MCNULTY; Barbara Franklin: ANNA MADELEY; Nurse Craven: CLAIRE KEELAN; Coroner: GREGORY COX; George: DAVID YELLAND; Stunt Co-ordinator: TOM LUCY / (中略) / Composer: CHRISTIAN HENSON; Poirot Theme: CHRISTOPHER GUNNING; Editor: TANIA REDDIN; Production Designer: JEFF TESSLER; Director of Photography: ALAN ALMOND BSC; Line Producer: MATTHEW HAMILTON / Executive Producer for Masterpiece: REBECCA EATON / Executive Producer for Acorn Productions Limited: HILARY STRONG; Executive Producer for Agatha Christie Limited: MATHEW PRICHARD / Executive Producers: MICHELE BUCK, KAREN THRUSSELL, DAMIEN TIMMER; © Agatha Christie Ltd 2013 / A Co-Production of itv STUDIOS, MASTERPIECE™, Agatha Christie™ in association with Acorn Productions: An RLJ | Entertainment, Inc. Company

あらすじ

 ポワロからの誘いを受けたヘイスティングスは、かつて二人で殺人事件を解決したスタイルズ荘を訪れる。ところが再会を喜ぶのも束の間、ポワロはふたたびここが殺人現場になると告げた。車椅子に乗って動けないというポワロに代わり、ヘイスティングスは彼の耳目となって一緒に調査をしてほしいと頼まれるが……

事件発生時期

1949年10月上旬 〜 1950年2月

主要登場人物

エルキュール・ポワロ私立探偵
アーサー・ヘイスティングスポワロの旧友、陸軍大尉
トービー・ラトレルスタイルズ荘経営者、陸軍大佐
デイジー・ラトレルスタイルズ荘経営者、ラトレル大佐の妻
ジョン・フランクリンスタイルズ荘宿泊客、医学博士
バーバラ・フランクリンスタイルズ荘宿泊客、フランクリン博士の妻、愛称バブス
ジュディス・ヘイスティングススタイルズ荘宿泊客、フランクリン博士の秘書、ヘイスティングス大尉の娘
スティーブン・ノートンスタイルズ荘宿泊客
ウィリアム・ボイド・キャリントン卿スタイルズ荘宿泊客、バーバラの友人、準男爵、愛称ビル
エリザベス・コールスタイルズ荘宿泊客
アラートンスタイルズ荘宿泊客、陸軍少佐
クレイブンフランクリン夫人付の看護師
カーティスポワロの世話係
ジョージポワロの元執事

解説、みたいなもの

 最終回である本作の舞台となるのは、ポワロがイギリスで初めて解決した殺人事件の現場であるスタイルズ荘。かつてベルギーで知りあったヘイスティングスと偶然の再会を果たし、ともに殺人事件の捜査に当たった「スタイルズ荘の怪事件」の原作は、1920年に刊行されたポワロのデビュー作であると同時にクリスティー自身のデビュー作でもあった。一方、副題の示すとおりポワロ最後の事件を描いた本作の原作は1975年刊行。翌1976年の1月12日にはクリスティーも後を追うように亡くなり、『カーテン』を生前最後の刊行として85年の生涯を閉じた。だが執筆は1940年から1941年3月までのあいだにおこなわれており、クリスティーの死後に出版される予定でずっと金庫に保管されていたものが、娘のロザリンド・ヒックスの提案により翻意されて生前の発表となった[1][2][3][4][5][6]。ドラマの撮影も、2012年10月中旬から11月下旬と第13シリーズで最初に撮影され[7][8][9]、残り4作品の撮影と放送が済むまで寝かされていた。これは、ポワロの撮影の最後を明るく終えたいというスーシェの希望のほか、ポワロがすっかり体重を落としていたという原作の描写にあわせるべく、スーシェが減量をする期間が必要だったためで、実際に彼は9か月で10キロ以上の体重を落としたという[10][11]。吹替の収録は2014年4月上旬[12]。ただし、熊倉一雄さんによるポワロの台詞は事前の別収録であり[13]、また撮影順と異なり最後の収録であったという[14]
 原作のヘイスティングスは、長篇第2作であった「ゴルフ場殺人事件」のあとまもなく南米に移住し、その後もしばしばイギリスに帰国してはポワロが手がける事件の語り手を務めていたものの、「もの言えぬ証人」での登場を最後に読者の前から姿を消し、本原作で再登場するまで40年近い空白があった。ドラマでも、2002年放送の「白昼の悪魔」以降、最終シリーズの「ビッグ・フォー」と本作で再登場するまで、12年という期間が空いている。これまで1930年代に固定されてきた舞台設定は、本作では1949年の10月に設定されており、この時代の跳躍は、劇中の世界で第二次世界大戦をまたぐのと同時に、ちょうど現実の世界で視聴者がヘイスティングスの姿を見ていなかった期間とも重なる。ただ、ヘイスティングスの娘のジュディスはどう見ても成人女性なのに、ベラ夫人との出会いは「ゴルフ場殺人事件」の1936年のはずで、そちらは計算が合わない。もっとも、「ゴルフ場殺人事件」原作の刊行は1923年なので、ヘイスティングスの結婚を原作どおりにその頃とすれば大きな齟齬はない。なお、原作でのジュディスの年齢は21歳、ジュディスを演じたアリス・オル=ユーイングは撮影当時23歳とのこと。
 物語の全体的な流れとしては、過去の殺人事件が早々にポワロからまとめて呈示されるのではなく、関係者の発言から一つずつ明らかにされていき、その数も減らされている以外、おおよそ原作に忠実な映像化。ただ、ポワロの執事との名前の重複を避けるためか、ラトレル大佐のファーストネームは、ジョージからトービーに変更されている。
 本作の日本語音声ではヘイスティングスの主な一人称は「わたし」、ポワロからヘイスティングスへの二人称は「あなた」だが、かつての宇津木道子さんの台本ではヘイスティングスの一人称は「ぼく」、ポワロからヘイスティングスへの二人称は「君」だった。また、かつてヘイスティングスがポワロのことを二人称代名詞で呼ぶことはなく、「ポワロさん」と名前で呼んでいた。加えて、ヘイスティングスとポワロのあいだでは、原則として丁寧語は用いても、尊敬語や謙譲語を用いることはほとんどなかった。ただし、「スタイルズ荘の怪事件」での再会直後や、「ダベンハイム失そう事件」での、熊倉一雄さんのアドリブとも思われる箇所などのほか、多少の例外はある。また、ハイビジョンリマスター版での、瀬尾明日香さんによる追加翻訳部分はその限りではない。
 エリザベス・コールがピアノで弾いているのは、「雨だれ」として知られるショパンの24の前奏曲の一つ(作品28-15)である。
 ポワロがスタイルズ荘への不満として「生ぬるい水 (the water, always so tepid)」と言うが、「ぺらぺらのタオル」と並べられていることからも、冷たくあるべき水が生ぬるいのではなく、熱くあるべき浴室のお湯がぬるい話をしていると思われる(原作の、より詳細な台詞では明確に浴室の話である)。また直前に「料理を除いては〔昔と変わらない〕」と料理のみが昔より劣化したように言っていたはずなのに不満の話がつづいているのは、原語だと 'The food, it is disgust. (料理は最低)' という表現で、料理だけが例外というニュアンスがなかったためである。
 ポワロが自分をスタイルズ荘へ呼び寄せた真意はほかにあるはずだとヘイスティングスが指摘し、「ああいう、忌まわしい事件の現場に戻ってくる理由は」とつづけた台詞は、原語だと 'I know it! (だと思った) Otherwise why come back to the scene of our first murder? (そうでなくて、ぼくらの最初の殺人事件の現場には戻らないでしょう?)' と言っているが、ドラマではベルギーでの出会いも殺人事件だったことになっており、「スタイルズ荘の怪事件」は our first murder (ぼくらの最初の殺人事件) ではない。ただ、ベルギーの事件では自分がうたがわれているかと思ったとヘイスティングスが言っており、捜査に同行したわけではなさそうなので、「ぼくらの」と言えないのかもしれない。
 ヘイスティングス到着の日の夜にジュディスが「会えて嬉しいわ。どうせエルキュールおじさまに口説かれたんでしょうけど。心配だものね」と言い、ポワロが「またわがままを言いました」とコメントするところは、原語だと 'I'm so glad you're here. (来てくれて嬉しいわ) Uncle Hercule always manages to bring you out of yourself. (エルキュールおじさまはいつもお父さんを殻から引っ張り出してくれるのね) He gets so sad. (父はふさぎ込んでしまうから)' というジュディスの台詞にポワロが 'Ah, well, you must allow him that, ma chérre. (ああ、でもそれは許してあげなくては)' と言っており、つまり妻を亡くしたヘイスティングスが哀しみに沈むのは当然だと言っている。
 かつてスタイルズ荘で起きた殺人事件についてポワロが「主人が毒殺されました。厳格な上に極端な吝嗇家で、子供たちが将来を悲観したのです」と言うが、あまり「スタイルズ荘の怪事件」の状況には聞こえない。原語は 'The lady of the house, she was poisoned. (屋敷の女主人が毒殺されました) She controlled, as you say, the purse strings, but her stepchildren felt they had no life of their own. (彼女はいわゆる財布の紐を握り、義理の子供たちは自分の人生を送れていないと感じていました)' という表現で、必ずしも厳格や吝嗇、人生の悲観といったニュアンスはなく、生活に不自由はなくとも、自分の金銭を持たないがゆえに何事も母親の意向に沿わざるをえなかった自己決定権のなさを言っている。また、音声では下手人に関する言及がないにもかかわらず、映像ソフトなどの日本語字幕では台詞の最後の部分に「絶望した子供が凶行を」と表示される。なお、「スタイルズ荘の怪事件」におけるイングルソープ夫人の息子たちは、原作だとこの台詞のように義理の息子(前夫の連れ子)だが、ドラマでは実子に設定が変更されていた。
 ……と書いてきたものの、実は日本語音声だと舞台の屋敷の名前は劇中で最後まで明言されず、原語音声でも終盤の謎解きになって初めて言及される。加えて日本語音声では、前述のとおり、同じ場所でかつて起きた事件が「スタイルズ荘の怪事件」だとは受け取りにくい表現になっており、撮影地も代わっているので、事前知識なく観た人は、舞台がスタイルズ荘であると気づかないかもしれない。もっとも、番組内容として放送データに載っているあらすじを見れば、舞台がスタイルズ荘であることが明記されているのだけど。
 ジュディスが悪影響を受けた相手としてヘイスティングスがフランクリン博士やアラートンの名前を挙げ、「うさんくさい連中だ」と言ったところは、原語だと 'I don't like that man. (あの男は好きませんよ)' という表現で、そのときジュディスと談笑しているアラートン一人のことを言っている。したがって、つづけてポワロが言う、女性が魅力を感じる「ああいう手合い」も、フランクリン博士を含まずアラートンのことを指している。
 バーバラがボイド・キャリントンとのつきあいについて、日本語では「わたしの実家の近くに、彼ったらわざわざ引越してきたんですよ」と言うが、原語は 'My family used to live in this part of the world. (わたしの実家がこのあたりにあったんです) Bill would come to stay with his uncle at Knatton Hall. (ビルは〔その近くの〕ナットン・ホールのおじさまのところへよく泊まりに来ていたの)' という表現で、ボイド・キャリントンは別に引越しはしていない。
 バーバラの部屋をヘイスティングスと出たボイド・キャリントンが、最後に「かわいそうに」と言うところは、原語だと 'Fancy a rubber? (〔ブリッジの〕三番勝負でもどうだ?)' と言っており、そのためにブリッジの場面につながる。そのブリッジでラトレル大佐がダイヤの7を出し、夫人が「ハートでしょ、そこは!」と叱責したのは、日本語だと大佐の下手な手に夫人が激昂したようにも聞こえるが、ブリッジではその回の最初に出されたカード(ここではハートの2)と同じスート(記号)のカードを出さなければならないルールがある。手札に同じスートがなければほかのスートのカードを出してもよく、大佐がハートのカードを持っていないかは夫人からはわからないはずだが、まだ各人ともクラブを1枚出しただけなので、すでにハートを1枚も持っていないとは考えにくい状況ではある。そして、その出しまちがいから夫人がやり直しを求めたのは、大佐がダイヤの7を持っていることがわかってしまうと、のちの駆け引きに影響し、パートナーである自分も不利になるためか。なお、出しまちがいについて大佐は「6か7〔のカード〕しか来ないんだ」と弁解するが、ブリッジでは最初に各人へ13枚のカードが配られるので、それぞれ4枚ずつしかない6と7しか手札に来ないという状況はありえない。原語だと大佐は 'I'm all at sixes and sevens.' と言っており、 at sixes and sevens とは「混乱している」という意味の慣用句である。
 ヘイスティングスにいつも夜更かしをするのかと訊かれたアラートンは、日本語だと「スポーツのライブ中継があるときはね。もったいなくて寝てなんかいられませんよ」と答えるが、原語では 'I never go to bed when there's sport abroad. (外で愉しみのあるときはベッドになんて入りませんよ) These moonlit evenings aren't made to be wasted. (月明かりのある夜を無駄にはできませんからね)' という表現で、 sport abroad は外国でのスポーツではなく屋外での遊興のこと。つまりは女性と外にいたと暗に言っている。また、アラートンが睡眠薬を手に入れるコネがあると言って、「でも、これを手配してくれた友人は死にました」と言うところは、現在はもうその薬を入手できなくなっているようにも聞こえるが、 'An old friend of mine gave me a few useful introductions. (旧友が重宝な伝手をすこし紹介してくれましてね)' という表現で、その旧友ことエサリントンが直接薬を手配したのではなく、薬を手配してくれる人物を紹介してくれたということ。
 フランクリンがカラバル豆を「フィゾスチグマ属です」と説明するところは、原語だと 'Physostigma venenosum.' と言っており、カラバル豆の学名を言っている。
 クレイブン看護師の「大戦の折にはこちらに?」という質問に対し、ヘイスティングスが「スタイルズ荘の怪事件」のときのことを踏まえて「ええ、療養のために。ポワロさんと知りあったのもここです」と答えるが、今作の舞台である1949年は第二次大戦終結の4年後であり、ただ「大戦」と言われて第一次大戦中のことを答えるのは不自然に感じられる。また、前述のとおり、ヘイスティングスとポワロの初対面は第一次大戦前のベルギーにおいてであり、スタイルズ荘では再会だった。原語でのやりとりは 'I gather you were here in the First War. (第一次大戦の折、こちらにいらしたとか)' 'Yes, in 1916, I came here to convalesce. (ええ、1916年です。療養でここに) That's when I met Poirot. (そのときポワロさんに会ったんです)' という表現で、ちゃんと the First War (第一次大戦), met (会った) と言っているのでそこに不都合はないが、「スタイルズ荘の怪事件」の時代設定は1916年ではなく1917年6月。ただし、ヘイスティングスのスタイルズ荘訪問が「スタイルズ荘の怪事件」では1917年なのに、本作では1916年と回想されるのは原作同様である。
 原作で描かれていた、ラトレル大佐による夫人射撃事件によって夫妻の関係が修復される様子は、ドラマではその後の晩餐で前より和やかな会話が交わされるくらいに見えるが、原語では事件直後に「意図的な行為でしょうか?」と訊かれたヘイスティングスが 'Well, I did until I saw them together—now I'm not so sure. (そう思いましたが、一緒にいる二人を見ると……いまはわかりませんね)' と答えていて、一言だけながら、この時点で具体的に関係修復が示されている。
 ヘイスティングスがボイド・キャリントンとの交代(原語では捜査への勧誘)をポワロに提案して「わたしの数倍賢い人だ」と言ったのに対し、ポワロが「可能性はあります」と応じたところは、原語だと 'That would no be difficult. (それは難しいことではありません)' と言っており、原語はもっと辛辣である。また、ポワロが提案を退けて「これから先、この件については口外無用。いいですね?」と言うところは、ボイド・キャリントンを捜査に引き込む提案を二度としないよう求めているようにも聞こえるが、原語は 'Now I forbid you to speak of this matter to anyone, do you understand? (このことについては誰にも口外無用。いいですね?)' という表現で、殺人鬼の暗躍を察知して捜査していることを、ボイド・キャリントンに限らず誰にも明かしてはならないと言っている。
 部屋で独りになったポワロが、犯人について「戻ってきたか……懲りないやつめ」と言うのは、犯人がどこからか舞い戻ったために犯行が再開されたように聞こえるが、原語では 'At it again, are you... at your deadly exercise? (また始めたか……危険な活動を)' という表現で、犯人が戻ったニュアンスはない。
 エリザベス・コールとヘイスティングスの「いろいろ見てまわられました?」「いや、そんなに動けません。脚をやられました。職業病というやつです。だが、あなたの人生は希望に満ちている」という会話は、原語だと 'Did you see much action, Captain Hastings? (たくさん戦われましたの?)' 'Oh, not allowed to this time round. Gammy leg... (いや、今回は許可されませんでした。脚のせいで) And, let's face it, I'm pushing it a bit. (しかし、年寄りの冷や水だと認めなければ) But your life's just beginning. Anything might happen. (だが、あなたの人生はまだ始まったばかりだ。何か起こるかも)' という、第二次大戦での従軍の話題に始まる、主に年齢を意識したやりとり。だから、ミス・コールが「結婚のことですか?」と受ける。そして、彼女が言う「わたしをご存じでしょう、たぶん?」という質問は、原語だと 'You have no idea who I am, have you? (わたしが何者なのかご存じないでしょう?)' という質問で、逆の意味である。
 フランクリンとジュディスがタドミンスターへ薬剤など買いに出かけたと言ったあと、バーバラが「科学の心も、こんな陽気の日にはたわいないものね。そう思いません?」と言うので、フランクリンたちが陽気につられて外出したくなったようにも聞こえるが、原語は 'I'm so glad I don't have a scientific mind. (わたしは科学の心を持っていなくてよかったわ) On a day like this it all seems so puerile. (こんな日には、そんなものたわいなく思えるもの)' という表現で、むしろよい陽気なのに薬剤などの買出しで相変わらず研究に心を砕いていることを冷やかしている。
 ヘイスティングスを自室に呼んだポワロが、すきま風は命取りだと言い、日本語では「わたしもやられました」と言うが、原語は 'But I have just the thing. (でも、いいものがあります)' と言っており、そのためにココア(原語ではホットチョコレート)が出てくる(日本語はおそらく、 the thing を頭痛ととらえて訳されている)。
 ヘイスティングスの到着初日と見られる寝付けなかった夜と、温室でアラートンの逢引を目撃した夜は、いずれも満月らしく見えるが、この間にひと月経過したのだろうか。なお、1949年10月の満月は7日であり、のちにポワロがバーバラを目撃した日として審問で証言する10月10日の3日前である。
 ノートンがジュディスに言う「ホロフェルネスの首をはねたユディットのようだ」という台詞は、聖書の『ユディット記』を踏まえてのもので、ユディットを英語読みするとジュディスになる。そして、そのあとのボイド・キャリントンとノートンの、「ずいぶんと古い話だ」「でも、彼女は……大義のためにあれをやった」というやりとりは、逆接の接続詞でつながるのが若干不自然だが、ボイド・キャリントンの台詞は原語だと 'A bit grim, old boy. (いささか残酷だな)' で、「古い (old)」という単語を含む old boy の部分はノートンへの呼びかけである。加えて、ここでの old に必ずしも「古い」の意味はなく、呼びかけに対して親しみのニュアンスを加えている。
 ヘイスティングスが『オセロー』の本から読み上げるイアーゴの台詞「ああ、気をつけよ、嫉妬とは緑目の怪物なり」は、日本語ではそのニュアンスが感じ取りにくいが、原語で 'O, beware, my lord, of jealousy; It is the green-eyed monster (ああ、嫉妬にどうかご用心を。あれは緑目の怪物です)' となっているように、上官である将軍オセローへ呼びかけたもの。なお、この台詞があるのは第3幕第3場で、戯曲のちょうど中程に当たるが、ヘイスティングスが本をひらいている箇所は、ずいぶん前のほうに見える。
 流れ星を見たあとにバーバラが言う「ドロップがほしいの」の「ドロップ (drop)」は、そのあとジュディスが小瓶を持ってきているように、西洋風の飴ではなく滴剤のこと。ヘイスティングスが序盤にバーバラの部屋を訪ねたときにもクレイブン看護師が滴剤を用意していた。
 バーバラの死因について検視官が「バーバラ・フランクリンは硫酸フィゾスチグミン、およびカラバル豆に含まれるアルカロイド物質をもって毒殺されたと認定される」と言うので、カラバル豆由来の成分のほかにも毒物を盛られたようにも聞こえるが、原語は 'It is established that Barbara Franklin died as a result of poisoning by physostigmine sulphate and other alkaloids of the Calabar bean. (バーバラ・フランクリンはカラバル豆の硫酸フィゾスチグミンおよびその他アルカロイドの中毒により死亡したものと認定される)' という表現で、硫酸フィゾスチグミンは、その名にフィゾスチグマ・ヴェネノスムというカラバル豆の学名の一部を含むように、「カラバル豆に含まれるアルカロイド物質」の一つと受け取れる。また、原語は中毒死であることは認定したものの、それが毒殺(他殺)であるかはまだ認定しておらず、そのためにその後ポワロへの聴取がある。
 ポワロがバーバラの検死審問の裁定を意図的に誘導したと告げ、ヘイスティングスに「これ以上に何が?」と問われて「もうりょうです、モ・ナミ、魑魅魍魎」と答えるのは何が言いたいのかよくわからないが、原語は 'What are you playing at, Poirot? (いったいどういうつもりなんです?)' 'This is not a game, mon ami, I assure you. (これはゲームではありません、モ・ナミ、はっきりと言っておきます)' というやりとりで、ポワロは妥当な理由があってのことだと主張している。
 ポワロの発作を目の当たりにしたヘイスティングスから医者に診せるよう言われたポワロの「医者……医者……」「手は尽くしたのです」「医者なら……医者なら……フランクリンがいる」という台詞は、原語だと 'Doctors! Doctors! (医者など)' 'They have done all they can for me. (医者にこれ以上できることはありません)' 'Very well, very well, I will see Dr Franklin. (いいでしょう、それならフランクリンに診てもらいます)' と言っており、当初は医者に診せても何もならないという主張をしていたのが、ヘイスティングスに食い下がられて、それならフランクリンに診てもらうと譲歩している。また、ポワロを診たフランクリンが「しかし、〔ポワロは〕あることにけりをつけるおつもりです」とポワロの懸念の内容を把握しているように言うが、原語は 'I gather he's worried about getting something finished. (あの人は何かにけりをつけるおつもりのようだ)' という表現で、推察であり、その内容を知っているニュアンスはない。そして、日本語では「ただ激痛には亜硝酸アミルが効くでしょう」と新たなアドバイスに聞こえる台詞も、原語は 'Just his ampoules of amyl nitrite when he feels angina coming on. (発作が来そうだと思ったら、お持ちの亜硝酸アミルをただ使うだけです)' と言っており、すでに処方済みの薬を対症療法として用いるしかないと言っている。なお、その亜硝酸アミルとは発作時にポワロが鼻に当てていた嗅ぎ薬のことで、筋肉を弛緩させて心臓の痛みを抑える効果がある。
 バーバラが亡くなってスタイルズ荘を出たはずのクレイブン看護師が戻ってきた際、日本語ではボイド・キャリントンが「男ができたんだな」と言うが、原語は 'She's back for the night between engagements. (仕事の合間に一晩だけ戻ってきたんだ)' と言っているだけで、戻ってきた理由については(彼女の様子から推察はつくが)触れていない。
 ノートンの死についてヘイスティングスが、「あれは自殺なのか? 誰が自分の額の真ん中を撃ち抜くんだと検視官は言ったそうだ」と言うが、ヘイスティングスは検死審問に出席しており、検視官の発言を伝聞のように言うのは不自然である。原語は 'Bad investments, so they say. (〔ノートンは〕投資が思わしくなかったらしいな) The coroner did think it strange that he would shoot himself through the centre of his forehead. (検視官は額の真ん中を撃ち抜いて自殺するのは奇妙だと考えていたぞ)' という表現で、ヘイスティングスの直接の認識を言っている。日本語はおそらく、原語の so they say と the coroner did think 以下を連続した一文ととらえて訳されているが、ノートンの投資の不調と検視官の疑念は順接でつながる内容ではなく、その解釈はやはり不自然である。
 ポワロがヘイスティングスに宛てた手紙が画面に映る際、いずれも途中までは同じアルファベットの字形が完全に一致しており、スーシェの手書き文字をサンプリングして組みあわせた印刷と思われる。なお、その字形は、「ビッグ・フォー」のメトセラ劇団の関係者リスト(書き上がっているほう)と同一である。
 ノーラ・シャープルズ殺害事件を報じた新聞記事では、その容疑者である姪のフリーダ・クレイを、メドウバンク学園で10年間英語教師をしていたと紹介している。このメドウバンク学園は「鳩のなかの猫」の舞台となった女子校と同一と思われるが、彼女の職歴は原作にないドラマオリジナルの設定である。
 スタイルズ荘の撮影地は、前述のとおり「スタイルズ荘の怪事件」撮影時に使われたチャベネージ・ハウスではなく、「第三の女」で門の近くが撮影に使われたシャバーン城。しかし、ポワロの寝室などはスタジオ内セット。マーガレット・リッチフィールドの裁判がおこなわれた法廷は「杉の柩」「五匹の子豚」「複数の時計」と同じサリー州庁舎のもので、検死審問の会場や、ヘイスティングスがエリザベス・コールに真相を伝える場所も、同庁舎の内外である。ヘイスティングスがポワロからの手紙を読む部屋は、パインウッド・スタジオ内ヘザーデン・ホールのボードルーム。同所のボールルームは、「象は忘れない」「死者のあやまち」でティーラウンジとして使われていた。ヘイスティングスとジョージが会うイーストボーンの海岸は現地で、画面奥には「グランド・メトロポリタンの宝石盗難事件」で舞台になったイーストボーン・ピアが見える。
 ジェラルディン・マクイーワン主演の「ミス・マープル」シリーズでは、ノートン役のエイダン・マカードルを「スリーピング・マーダー」のホーンビーム役、ラトレル夫人役のアン・リードを「復讐の女神」のシスター・アグネス役で見ることができる。また、主演をジュリア・マッケンジーに交代した同シリーズ「ポケットにライ麦を」では、バーバラ・フランクリン役のアンナ・マデリーをアデール・フォーテスキュー役、エリザベス・コール役のヘレン・バクセンデイルをメアリー・ダブ役で見ることができ、ウィリアム・ボイド・キャリントン卿を演じたフィリップ・グレニスターは、同「グリーンショウ氏の阿房宮」でブロフィー神父を演じたロバート・グレニスターの弟である。加えてヘレン・バクセンデイルは、英チャンネル5制作のドラマ「アガサと深夜の殺人者」では、アガサ・クリスティー役で主演を務めている。
 外出から帰ってきたときにバーバラが着ているのは、ジェラルディン・マクイーワン主演「ミス・マープル3」の「バートラム・ホテルにて」で謎解きの際にセリーナが着ているのと同じ服である。
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  1. [1] 早川書房編集部, 「エルキュール・ポアロの死の謎」, 『カーテン ―ポアロ最後の事件―』, 早川書房, 1975, p. 261
  2. [2] フランシス・ウィンダム (訳: 浅羽莢子), 「クリスティー語る」, 『アガサ・クリスティー読本』, 早川書房, 1978, p. 42
  3. [3] 中島河太郎, 「解説」, 『カーテン ―ポアロ最後の事件―』, 早川書房(ハヤカワミステリ文庫), 1982, p. 281
  4. [4] ジャネット・モーガン (訳: 深町眞理子, 宇佐川晶子), 『アガサ・クリスティーの生涯 下』, 早川書房, 1987, pp. 94-97, 333
  5. [5] John Curran, Agatha Christie's Murder in the Making: Stories and Secrets from her Archive, HarperCollinsPublishers, 2011, pp. 211-212
  6. [6] Mark Aldridge, Agatha Christie's Poirot: The Greatest Detective in the World, HarperCollinsPublishers, 2020, pp. 170, 314-316, 464
  7. [7] David_Suchet on Twitter: "Filming starts Oct 15th. We start with CURTAIN. I can't believe that this will be the last series. Will be talking about this today."
  8. [8] Surrey County Council News on Twitter: "Film crews are at County Hall today filming scenes for new Poirot TV episodes http://t.co/fq0SInLd http://t.co/qggScDCW"
  9. [9] David_Suchet on Twitter: "Curtain has now finished :( Just finished the first week of filming a documentary on Agatha Christie"
  10. [10] David Suchet and Geoffrey Wansell, Poirot and Me, headline, 2013, p. 269
  11. [11] さよならポワロ! ~世界が愛した名探偵・25年の軌跡~, 2014
  12. [12] 田中正彦司令・代理さんはTwitterを使っています: "NHK BSプレミアムで放送予定、アガサ・クリスティー原作の人気シリーズ、『名探偵ポワロ』 ついに最終回を迎えます。 名作の最後を飾れて、司令も感慨深げ。 これもロンドンが舞台のお話ですね。 放送日がわかったら、またお知らせします! http://t.co/wMAMQ0U6Yf"
  13. [13] 「ドラマ『名探偵ポワロ』声優陣インタヴュー」, 『ハヤカワミステリマガジン』 No. 714 2016年1月号, 早川書房, 2015, p. 184
  14. [14] 「熊倉一雄インタヴュー」, 『ハヤカワミステリマガジン』 No. 705 2014年11月号, 早川書房, 2014, p. 42

ロケ地写真

カットされた場面

なし

映像ソフト

  • 「名探偵ポワロ NEW SEASON DVD-BOX 5」に収録
2025年2月25日更新