エッジウェア卿の死 Lord Edgware Dies
放送履歴
日本
オリジナル版(99分00秒)
- 2000年12月31日 16時05分〜 (NHK総合)
- 2004年02月07日 24時50分〜 (NHK総合)
ハイビジョンリマスター版(99分30秒)
- 2016年09月17日 15時00分〜 (NHK BSプレミアム)※1
- 2017年02月22日 16時00分〜 (NHK BSプレミアム)
- 2021年04月03日 16時20分〜 (NHK BSプレミアム)※2
- 2021年12月14日 09時00分〜 (NHK BS4K)
- 2023年05月03日 21時00分〜 (NHK BSプレミアム・BS4K)※3
- ※1 エンディング冒頭の画面上部に次回以降の放送時間案内の字幕表示(帯付き)あり
- ※2 エンディングの画面下部に次回の放送時間案内の字幕表示(帯付き)あり
- ※3 BSプレミアムでの放送は、オープニング冒頭の画面左上にBS4K同時放送のアイコン表示あり
海外
- 2000年02月19日 (英・ITV)
原作
邦訳
- 『エッジウェア卿の死』 クリスティー文庫 福島正実訳
- 『エッジウェア卿の死』 ハヤカワミステリ文庫 福島正実訳
- 『晩餐会の13人』 創元推理文庫 厚木淳訳
- 『エッジウェア卿殺人事件』 新潮文庫 蕗沢忠枝訳
原書
- Lord Edgware Dies, Collins, September 1933 (UK)
- 13 at Dinner, Dodd Mead, 1933 (USA)
オープニングクレジット
日本
オリジナル版
海外ドラマ // 名探偵ポワロ / AGATHA CHRISTIE'S POIROT / エッジウェア卿󠄂の死 // DAVID SUCHET / HUGH FRASER / PHILIP JACKSON / PAULINE MORAN / LORD EDGWARE DIES / Based on the novel by AGATHA CHRISTIE / Dramatized by ANTHONY HOROWITZ
ハイビジョンリマスター版
名探偵ポワロ / DAVID SUCHET / AGATHA CHRISTIE'S POIROT / エッジウェア卿󠄁の死 // DAVID SUCHET / HUGH FRASER / PHILIP JACKSON / PAULINE MORAN / LORD EDGWARE DIES / Based on the novel by AGATHA CHRISTIE / Dramatized by ANTHONY HOROWITZ
エンディングクレジット
日本
オリジナル版
原 作 アガサ・クリスティー 脚 本 アンソニー・ホロウィッツ 演 出 ブライアン・ファーナム 制 作 カーニバル・フィルム(イギリス 1999年) / 出 演 ポワロ(デビッド・スーシェ) 熊倉 一雄 ジャップ警部(フィリップ・ジャクソン) 坂口 芳貞 ヘイスティングス(ヒュー・フレイザー) 安原 義人 ミス・レモン(ポーリーン・モラン) 翠 準子 ジェーン 塩田 朋子 エッジウェア卿󠄂 勝部 演之 ブライアン 佐々木 勝彦 カーロッタ 野沢 雅子 石塚󠄀 理恵 駒塚󠄀 由衣 神保 共子 仲野 裕 石塚󠄀 運昇 岩崎 ひろし 関 俊彦 大木 民夫 斉藤 昌 佐藤 しのぶ 久保田 民恵 寺内 よりえ 岩田 安生 水野 龍司 北川 勝博 清水 敏孝 柳 知樹 / 日本語版スタッフ 宇津木 道子 金谷 和美 南部 満治 浅見 盛康 佐藤 敏夫
ハイビジョンリマスター版
原作 アガサ・クリスティー 脚本 アンソニー・ホロヴィッツ 演出 ブライアン・ファーナム 制作 カーニバル・フィルム (イギリス) / 出演 ポワロ(デビッド・スーシェ) 熊倉 一雄 ヘイスティングス(ヒュー・フレイザー) 安原 義人 ジャップ警部(フィリップ・ジャクソン) 坂口 芳貞 ミス・レモン(ポーリン・モラン) 翠 準子 ジェーン 塩田 朋子 エッジウェア卿󠄁 勝部 演之 ブライアン 佐々木 勝彦 カーロッタ 野沢 雅子 石塚󠄀 理恵 駒塚󠄀 由衣 神保 共子 仲野 裕 石塚󠄀 運昇 岩崎 ひろし 関 俊彦 大木 民夫 斉藤 昌 佐藤 しのぶ 久保田 民恵 寺内 よりえ 岩田 安生 水野 龍司 北川 勝博 清水 敏孝 矢薙 直樹 日本語版スタッフ 翻訳 宇津木 道子 演出 佐藤 敏夫 音声 金谷 和美 プロデューサー 里口 千
海外
オリジナル版
Director: BRIAN FARNHAM / Producer: BRIAN EASTMAN / For A&E Television Networks; Exective Producer: DELIA FINE; Supervising Producer: KRIS SLAVA / Director of Photography CHRIS O'DELL; Production Designer: ROB HARRIS; Costume Designer: CHARLOTTE HOLDICH; Make-up: PAM MEAGER / Music: CHRISTOPHER GUNNING; Editor: FRANK WEBB; Sound Recordist: SANDY MACRAE; Associate Priducer: PETER HIDER / Poirot: DAVID SUCHET; Hastings: HUGH FRASER; Chief Inspector Japp: PHILIP JACKSON; Miss Lemon: PAULINE MORAN; Jane Wilkinson: HELEN GRACE; Lord Edgware: JOHN CASTLE; Carlotta Adams: FIONA ALLEN; Bryan Martin: DOMINIC GUARD / Penny Driver: DEBORAH CORNELIUS; Geraldine Marsh: HANNAH YELLAND; Ronald Marsh: TIM STEED; Miss Carroll: LESLEY NIGHTINGALE; Alton: CHRISTOPHER GUARD; Donald Ross: IAIN FRASER; Duke of Merton: TOM BEARD; Alice: VERGINIA DENHAM / Sir Montagu Corner: JOHN QUENTIN; Lady Corner: JANET HARGREAVES; Lucie Adams: ALIZA JAMES; Addison: MARK BRIGNAL; Ellis: FENELLA WOOLGAR; Thompson: JOHN HART DYKE; Receptionist: JONATHAN ARIS; Pageboy: RORY FIRTH; Airport Clerk: NICOLA MICHAELS / (中略)Casting: ANNE HENDERSON; 1st Assistant: MICHAEL MALLINSON; 2nd Assistant: BEN BURT; 3rd Assistant: CHRIS HIDER; Script Supervisor: LIZ WEST; Locations: RONALD CAINE; Unit Manager: NICK GIRVAN; Co-ordinator: DAWN MORTIMER; Accounts: JEFFREY BROOM, JEFFREY BRUCE; Scretary: TRACEY NICHOLLS / Camera Operator: JAMIE HARCOURT; Focus Puller: DAVE HEDGES; Loader: LORRAINE LUKE; Grip: RICKY HALL; Boom Operator: MIKE REARDON; Gaffer: VINCE GODDARD; Art Director: KATIE BUCKLEY; Set Dresser: TINA JONES; Buyer: KATIE LEE; Property Master: MICKY LENNON / Make-up Artists: SARAH GRUNDY, KATE HODGSON; Wardrobe: STEVEN KIRKBY, LEZLI EVERITT; Construction: DAVE CHANNON; Stunts: JASON WHITE; Post Production: BRUCE EVERETT; Assistant Editor: TONY TROMP; Sound Editing: SARAH MORTON, OLIVER TARNEY; Dubbing Mixer: IAN TAPP / CARNIVAL FILMS in association with A&E TELEVISION NETWORKS and AGATHA CHRISTIE LTD; © Carnival Films MCMXCIX
あらすじ
ポワロがふたたびロンドンに事務所をひらいたその日、ヘイスティングスも南米から帰国した。二人は物真似の名人カーロッタ・アダムスのディナーショーで、女優のジェーン・ウィルキンソンと出会う。その後、夫のエッジウェア卿が殺害され、彼女に容疑がかかるが……
事件発生時期
1936年5月 〜 8月上旬
主要登場人物
エルキュール・ポワロ | 私立探偵 |
アーサー・ヘイスティングス | ポワロの探偵事務所のパートナー、陸軍大尉 |
ジェームス・ジャップ | スコットランド・ヤード主任警部 |
フェリシティ・レモン | ポワロの秘書 |
ジェーン・ウィルキンスン | 女優 |
ジョージ・アルフレッド・セント・ビンセント・マーシュ | ジェーンの夫、第4代エッジウェア男爵 |
カーロッタ・アダムス | アメリカ人の女優、物真似の名人 |
ブライアン・マーチン | 俳優、ジェーンの元恋人 |
ペニー・ドライバー | カーロッタの友人、帽子デザイナー |
ジェラルディン・マーシュ | エッジウェア卿と先妻の娘 |
ロナルド・マーシュ | エッジウェア卿の甥、演劇プロデューサー |
ジョイス・キャロル | エッジウェア卿の秘書 |
オルトン | エッジウェア卿の執事 |
ドナルド・ロス | 劇作家 |
パーシー | ジェーンの婚約者、マートン公爵 |
ルーシー・アダムス | カーロッタの妹 |
エリス | ジェーンのメイド |
アリス | カーロッタのメイド |
サー・モンタギュー・コーナー | 晩餐会の主催者 |
エリノア・コーナー | サー・モンタギューの妻 |
解説、みたいなもの
ポワロが現役復帰を決意するまでを描いた前作につづき、レギュラーメンバーの再結集を描く。前シリーズではレギュラーメンバーの4人全員が共演する作品がなかったため、4人が一堂に会するのは第5シリーズの「グランド・メトロポリタンの宝石盗難事件」以来となる。ただし、「もの言えぬ証人」までヘイスティングスの吹替を担当した富山敬さんは1995年9月に亡くなっており、ポワロの吹替を務める熊倉一雄さんと同じ劇団テアトル・エコーに所属する安原義人さんに交代した。冒頭で触れられるヘイスティングス夫妻のなれそめは〔» エピソードの題名を表示〕「ゴルフ場殺人事件」のこと。
今回は長篇原作のエピソードにはめずらしく登場人物にほとんど省略がなく、せいぜいマートン公爵の母親やウィドバーン夫人がカットされた程度。また、事件にまつわる本筋上のストーリーの変更点も、執事のオルトン死亡にいたるアクションシーンが追加されたほかは、出来事の順番が入れ替わっていたり、5つの疑問の内容が一部変更されていたり、薬入れのイニシャルが D から P になって、ジェニーがペニーに改名されていたり(ジェーンと同じイニシャルになるのを避けるためか)、と細々した変更が多い。
本作は、かつてピーター・ユスチノフ主演で映像化されたことがある原作の、このドラマシリーズ初めての再映像化となった。このユスチノフ版「エッジウェア卿の死」ではデビッド・スーシェがジャップ警部を演じているが、そのときの演技についてスーシェは、おそらく人生で最悪の演技だったとくり返し回顧している一方、その結果として自分にジャップ警部のイメージがつかなかったことが、のちのポワロ役のオファーに幸いしたとも述べている。また、そのユスチノフ版「エッジウェア卿の死」の撮影の合間にスーシェは、ユスチノフから「君ならポワロをとてもうまく演じられるだろうね」と言われていたという。[1][2][3]一方、ユスチノフは劇作家としても知られ、その戯曲『四人の隊長の恋』の劇団テアトル・エコーによる上演(1959年および1964年)には、ポワロの吹替の熊倉一雄さんやミス・レモンの吹替の翠準子さん(当時は翠潤子名義)も出演していた。
冒頭の「シェークスピアのお芝居」は『マクベス』の第二幕第二場で、ジェーンがマクベス夫人、ブライアン・マーチンがマクベス役。一方、ジェラルディンとロナルドがオペラ「ドン・ジョバンニ」の第二幕と第三幕の幕間にエッジウェア邸に向かったことになっているが、「ドン・ジョバンニ」は二幕ものである。また、ロナルドがこの「幕間」を「まくま」と読むが、これは慣用読みで、本来は「まくあい」と読む。
空港でミス・レモンが「たぶん〔ヘイスティングスさんは〕まだ税関を通ってませんわ」と言うのに対してポワロが「いや、わかりませんよ」と言うところは、原語だと 'Ah, qu'il y a tant de monde! (でも、人が大勢いますからね)' と言っており、建物から出てくる人の多さで、飛行機の乗客がすでに入国を済ませている可能性があると判断していることがわかる。
ヘイスティングスが投資したという「パンパス・フェルナンデス間公共鉄道」は、原語だと Panpas to Fernandez Consolidated Railway (パンパス・フェルナンデス間統合鉄道) という名前で、複数の鉄道会社が合併してできたことを思わせる。「公共どころか鉄道すら通っていなくて」という台詞も、原語だと 'Well, they weren't consolidated, they did't have a railway. (それが、統合もしていなければ、鉄道も保有していなかったんです)' という表現で、既存の鉄道会社が統合したのだろうから当然一定の実体のある会社かと思いきや、まったく実体のない会社だったという趣旨である。また、日本語だとパンパスとフェルナンデスをヘイスティングスが「二つの町」と表現するが、パンパス (Pampas) とはブエノスアイレスの西から南に広がる草原地帯のこと。フェルナンデスがどこかはよくわからないが、「あいだには巨大な山脈がそびえている」ということは、アンデス山脈を越えたチリのどこかだろうか。
空港で滞在先を訊かれたヘイスティングスが、ホテルの名前を略して「とりあえず今はパレスに」と答えたときにポワロが軽く驚いたような表情を見せ、それに気づいたヘイスティングスの補足を聞いたあとに微笑するのは、原語 'Well, I'm booked into The Palace.' が「とりあえず今は宮殿に」という意味にも受け取れるためである。
カーロッタ・アダムスの、物真似が得意なアメリカ人女優という設定は、ルース・ドレーパーという実在のアメリカ人女優に着想を得たという[4][5]。そのカーロッタの物真似でアメリカ帰りの人物が「ぼくはこの13年間、実に一滴も〔酒を〕飲んでいないんだ」と言うのは、禁酒法の実施期間(1920年~1933年)を踏まえたもの。また、ベルリンでの「新しい首相」ことヒトラーがドイツ首相に就任したのも1933年。日本語だとつづけて「ヒトラー総統」と言われるが、ヒトラーが「総統」と呼ばれるのは1934年に大統領の権限も継承して以降のこと(「総統」に対応して用いられる Führer という言葉は「指導者」「リーダー」を表すドイツ語で、ヒトラーは1921年にナチ党党首となって以降そのように呼ばれるようになったが、日本語の「総統」は国家元首として全権を掌握してからの地位に用いる言葉である)。しかし、地位を人名につなげて敬称として用いるケースが日本語よりも限定的な原語では 'Herr Hitler (ヒトラー氏)' と言われており、「総統」という地位を示す表現ではないため、やはり1933年の首相就任後まもなくを想定していると思われる。ところで、このカーロッタのショーのあいだに聞こえる音楽は、ドラマとしての劇伴でなく劇中の現場で実際に流れているように思われるが、ポワロの物真似をしている際のドラマのテーマ曲をアレンジした曲も、劇中世界で演奏あるいは再生されているのだろうか。
ショーのあとカーロッタがジェーンと一緒のポワロを見かけて「あら、何よ、本物のエルキュール・ポワロじゃないの」と驚くが、ポワロがそこにいるのはカーロッタ側から(かどうかは厳密にはわからないけれど)招待を出したからのはず。原語は 'Hey! And the real Hercule Poirot! (あら、それに本物のエルキュール・ポワロ)' という表現で、その後に「二人が友だちだとは知らなかったわ」とつづくように、ジェーンとポワロが一緒にいたことに驚いている趣旨である。
ヘイスティングスが言う「ホースショー (horse shows)」と「家畜ショー (cattle shows)」とは、馬術競技会および畜牛の品評会のこと。対する「本物のショー (actual shows)」は演芸のショーを指していると思われる。
エッジウェア卿の書斎に立てられた薄いオレンジ色のドレスの女性の肖像画は、「クラブのキング」でリードバンの書斎に飾られていたのと同じ絵である。
ポワロがミス・レモンに「それもベルギーのおばさま直伝のレシピ?」と訊かれるのは、同じくホロウィッツが脚本を手がけた「ヒッコリー・ロードの殺人」で「昔、学生だった頃に母から教わった自慢の一品」を披露したことを受けてのようにも聞こえるが、ここでの「おばさま」の原語は aunt で、話者以外の母親の意味はなく、狭義に「伯母さま」ないしは「叔母さま」である。
ヴァン・デューゼン夫人について、日本語だとジェーンが「アメリカ人の女流作家にお会いしたんです――ヴァン・デューゼンって方。彼女の戯曲、あまりよくないんですけど」と言うので、彼女が以前から相手のことを知っていたように聞こえるが、原語では 'I had a meeting with an American lady—a Mrs Van Dusen. (アメリカ人女性にお会いしたんです――ヴァン・デューゼンって方) She's written a play—not a very good one, (彼女、戯曲を書いて――出来はいまいちでしたけど)' という表現で、最近戯曲を書いたアメリカ人女性と会ったという以上のニュアンスはない。また、のちにジェーンがあらためて「〔ヴァン・デューゼン夫人は〕作家で」と言うところは、原語だと 'She was a writer. (作家でしたわ)' と言っており、こちらでは writer (作家) とされているが、過去形を用いているように、やはり継続的に相手のことを知っていたわけではないニュアンスがある。
ドナルド・ロスはずっと「劇作家」と言われているが、原語だと彼のトロイ戦争の戯曲を、のちにロナルド・マーシュが his first play (初めての戯曲) と言っており、まだ言わばデビュー前。サー・モンタギュ・コーナーが晩餐会の席で「ドナルド・ロスの名はまもなく有名になりますよ。執筆中のトロイ戦争の戯曲が完成次第」と言ったのも、これまでの作品が振るわなかったわけではなく、まだ作品がないからである。
同じ貴族でも、ジェーンの現在の夫であるエッジウェア男爵は劇中で「エッジウェア卿 (Lord Edgware)」と呼ばれるのに対し、新しい恋人のマートン公爵は常に「マートン公爵 (the Duke of Merton)」と爵位で呼ばれる。これは「卿」に対応する英語 Lord が、侯爵以下の貴族にしか用いることができないため。一方、男爵 (Baron) に対しては逆に、子爵以上の貴族と異なり、爵位を敬称として Baron Edgware (エッジウェア男爵) のように呼ぶことはしない。ただし、冒頭にエッジウェア卿がジェーンに「わたしはジョージ・アルフレッド・セント・ビンセント・マーシュ・エッジウェア男爵」と名乗るところは、原語だと 'Because I am George Alfred St. Vincent Marsh, fourth Baron Edgware. (わたしは第4代エッジウェア男爵、ジョージ・アルフレッド・セント・ビンセント・マーシュ)' という表現で、呼びかけではなく自らの爵位を説明しているので可である。なお、原語の表現だとより明確であるように、イギリスの貴族の爵位号と姓は別物で、エッジウェア卿の姓はマーシュ(つまり、娘のジェラルディンや甥のロナルドと同じ)である。ロナルド・マーシュが次のエッジウェア卿になるときも、エッジウェアという姓の家に養子に入るわけではなく、マーシュという姓を維持したままエッジウェア男爵の称号を継ぐことになる。また、イギリスの世襲貴族は原則として男系男子が爵位と資産を継承するため、エッジウェア卿の死後は、ジェラルディンが女男爵となるのではなく、エッジウェア卿の弟の子と見られるロナルドに爵位が行く。
ミス・レモンがヘイスティングスに紹介した物件は「地下室」ということだが、ロンドンの建物はしばしば道路とのあいだが一段掘り下げられており、本来なら地下になる高さにも窓や出入り口がある。原語の basement flat はそうした一室を貸し出したもので、「ビッグ・フォー」でポワロが向かったダレルのフラットがそれ。こうした部屋や入り口はもともと使用人のためのものではあるが、日本語の「地下室」という言葉が感じさせるような、窓もなく外光も届かない特殊な物件というニュアンスは必ずしもない。
ポワロがヘイスティングスに言った「ジャップ警部が、君の言葉によると〔エッジウェア夫人に〕つきまとっているそうですからね (With the Chief Inspector, as you say, Hastings, breathing down the neck,)」という台詞の、「つきまとう」に対応する breathe down one's neck (~の首に息を吹きかける) は、「~にまとわりつく」「~をしつこく監視する」という意味の英語の慣用句。つまり、「君の言葉によると (as you say)」とは、原語の動詞 say が現在形であるように、ヘイスティングスがポワロにそう報告したわけではなく、「ヘイスティングス(たち)のような英語のネイティブ話者が慣用表現として言うところの」という趣旨である。
カーロッタの死因についてジャップ警部が「〔睡眠薬の〕量をまちがえたんですよ」と言った台詞は、原語だと 'Of course, it could have been accidental. (もちろん、たまたまかもしれませんがね)' という表現で、必ずしも過誤があったとは言っていない。ルーシーが言う「量をまちがえたなんて嘘よ」という台詞も、原語は 'It couldn't have been an overdose. (過剰摂取なんてありえないわ)' という表現で、こちらも過誤とは限らない。ヴェロナールに代表されるバルビツール酸系の睡眠薬は恒常的な服用で耐性ができ、同じ効果を得るための必要量が増加する一方、安全域があまり広くなく、しばしば死亡事故が起きた。前回の「アクロイド殺人事件」でファラーズ夫人の死が自殺かと訊ねられたドクター・シェパードが予断を控えたのも、そうした事情が理由の一つになっていたと思われる。
ポワロに「そのあと、あなたは彼女に2000ドルという金を支払った」と言われたロナルドが、日本語だと「ええ」といったんそれを肯定するように返事をするが、この反応は直後の否定とうまくつながらない。このとき原語では 'What? (何ですって?)' と言っており、日本語は本来「ええ?」と聞き返すイントネーションで発音されることを想定していたと思われる。なお、ハイビジョンリマスター版の切換式字幕でも、音声のイントネーションにもかかわらず「ええ?」と表示される。
日本語で「わたしに代わって目と鼻と」とポワロが言ったのをヘイスティングスが「耳で」と受けるところは、原語だと eyes and ears (目と耳で) という言いまわしをポワロがまちがえたのをヘイスティングスが訂正している。
ロナルド・マーシュの昼食会の席上、ドナルド・ロスが「目下のところぼくが熱くなっているのはパリスの審判ですね」と言ったのに対してジェーンが「でもファッションでしたら、パリはもう審判の立場にないわ」と応じる場面があるのは、英語だとフランスの首都「パリ (Paris)」も s を発音し、パリスの審判の「パリス」と同じ発音になるため。なお、日本語でフランスの首都を「パリ」と呼ぶのは Paris のフランス語発音に基づく。また、ハイビジョンリマスター版で、エッジウェア卿殺害犯に祝杯を挙げるのにジェーンが反対した理由は、日本語だと「でも、ここにいる全員が彼を殺すことができたのよ」と説明されるが、原語は 'But anyone of us sitting at this table could have killed him. (でも、ここにいる全員、犯人の可能性があるのよ)' という表現で、つまり親しい人が犯人かもしれないという事実に祝杯を挙げる気にならないという趣旨である。
謎解きのなかでポワロが「最初から、わたしを悩ませたのが、5つの疑問でした」と言うが、5つの疑問がそろったのはカーロッタがルーシーに宛てた手紙の内容を把握したタイミングで、捜査がある程度進展してからのことである。なお前述のとおり、この5つの疑問の内容は原作から一部変更されているが、この齟齬はその変更によるものではなく、原作のポワロは特に「最初から」とは言っていない。
ジェーンの住むマンションは、「100万ドル債券盗難事件」のエズミーや「戦勝舞踏会事件」のココが住んでいたマンションで、「死人の鏡」ではモダンアートの美術館としても使われたハイポイント。ジェーンの部屋があるのはその南棟ハイポイントIIの最上階である。また、カーロッタの住むマンションは、「イタリア貴族殺害事件」でフォスカティーニ伯爵の住まいとして登場したアディスランド・コート。その玄関のドアの A と C を組みあわせたモノグラムは、前回の「アクロイド殺人事件」で見られたアクロイド化学 (Ackroyd Chemicals) のロゴによく似ているが、アディスランド・コート (Addisland Court) は実名で、ドアのロゴも現地に実在のもの。しかし、その屋内の様子は「イタリア貴族殺害事件」で見られたものとは異なり、セットと思われる。クロイドン空港は「西洋の星の盗難事件」や「雲をつかむ死」にも登場したショアハム空港(現ブライトン・シティ空港)だが、外観がすこし変更されている。ディナーショー〈カーロッタ・アダムスとの夕べ〉がひらかれ、解決篇の舞台ともなるゲイエティ劇場は、ロンドンに実在した大衆演芸で知られる劇場だが現存せず、「安いマンションの事件」冒頭でポワロたちが映画を観たアストリア劇場(現 O2 アカデミー・ブリクストン)で撮影された。ミス・レモンが宝石店を訪ねたボンド・ストリートのバーリントン・アーケードは、「ベールをかけた女」の冒頭で宝石強盗のあった場所。新たなロケ地では、リージェント・ゲートにある設定のエッジウェア邸の外観はケンジントンのアディソン・ロードにあるデベナム・ハウスで、その屋内はジェラルディン・マクイーワン主演「ミス・マープル」シリーズ「予告殺人」のロイヤル・スパ・ホテルとしても撮影に使われているが、本作で邸内の撮影がおこなわれたのはテンプルにあるテンプル・プレース2番地。このテンプル・プレース2番地は、「二重の手がかり」でロサコフ伯爵夫人が宿泊したホテルのエントランスの撮影をおこなったエレクトラ・ハウスの隣にあたり、ジョーン・ヒクソン主演「ミス・マープル」シリーズの「魔術の殺人」では、クリスチャンがガルブランドセン・ハウスに到着する場面の画面奥に、その外観を見ることができる。ただしジェラルディンの部屋はスタジオ内セットで、「アクロイド殺人事件」のファラーズ夫人の部屋に使ったセットを、壁の色を塗り直して再利用していると見られる。冒頭のリージェンシー劇場は、ロンドンの劇場街ウェスト・エンドにあるアポロ劇場。ヘイスティングスが滞在したピカデリー・パレス・ホテルはベスナル・グリーンのタウン・ホール・ホテルで、ポワロがジェーンと歩いていた公園はマウント・ストリート・ガーデンズ。ペニーの帽子店の所在は、ユーストン駅に程近いデュークス・ロードである。
エッジウェア卿役のジョン・カースルは、ジョーン・ヒクソン主演の「ミス・マープル」シリーズでクラドック警部を演じているほか、ジェレミー・ブレット主演の「シャーロック・ホームズの冒険」の一篇、「美しき自転車乗り」でもカラザース役を演じている。「シャーロック・ホームズの冒険」シリーズには、オルトン役のクリストファー・ガードも「金縁の鼻眼鏡」のウィロビー・スミス役で出演。彼はピーター・ユスチノフ主演の「死者のあやまち」ではアレック・レッグ役を演じていた。また、ジェラルディン・マーシュ役のハンナ・イェランドは、「ミューズ街の殺人」でウェスト下院議員を演じ、「満潮に乗って」以降ポワロの執事のジョージを演じているデビッド・イェランドの娘。パレス・ホテルの受付役のジョナサン・アリスも、「海上の悲劇」でファウラー船長を演じたビル・アリスの息子で、ベネディクト・カンバーバッチ主演の「シャーロック」シリーズにはアンダーソン役で準レギュラー出演している。エリスを演じたフェノラ・ウルガーは、デビッド・テナント主演「ドクター・フー」の一篇、「アガサ・クリスティ失踪の謎」でアガサ・クリスティを演じている。
オルトンの吹替の仲野裕さんは、映画「パトリオット・ゲーム」(吹替の主演が磯部勉さんのもの)ではヒュー・フレイザーの吹替を担当している。
ディナーショーの会場で使われている椅子は、「コックを捜せ」のカフェや、「100万ドル債券盗難事件」の銀行およびカフェ、「エジプト墳墓のなぞ」のフォスウェル博士のテント、そして「黄色いアイリス」のロンドンの〈ル・ジャルダン・デ・シーニュ〉のバックヤードと、劇中世界でとても広く普及している。また、会場に置かれたラッパ形の照明と台座も、「戦勝舞踏会事件」で舞踏会場に置かれていたのと同じもの。その台座部分は「アクロイド殺人事件」でもやはりレストランの照明の台座として、また照明部分は「チョコレートの箱」ではレストランの天井から吊り下げられる形で使われていた。カーロッタの遺体を運んでいく救急車も、「アクロイド殺人事件」でアクロイドの遺体を運んでいったのと同じ救急車である。
ジェーンからエッジウェア卿殺害の動機がないことを示されてポワロが「うむ」と言ったり、ヘイスティングスから一つ目の疑問の内容を確認されて「はあ」と言ったり、ヘイスティングスを昼食会に送り出して「よろしく」と言ったりするのは日本語のみである。
コーナー邸のある「ホールバン (Holborn)」とは、「グランド・メトロポリタンの宝石盗難事件」でグレースがかつて働いていたバーがあったという、ロンドンの「ホルボーン」と同じ場所で、英語での発音は /hə́ʊbən/ である。また、ルーシーがカーロッタのマンションまで乗ってきたタクシーの運転手の「1ポンド6ペンスです」という台詞は、原語では 'One and six, please, madam.' となっていて、これは1シリング6ペンスのことである。
ポワロのマンションでは、キッチンで壁の下半分に設えられたパネルやゴミ出し用リフトの扉がなくなって家具の配置も変わっているほか、玄関のドアの錠の位置が高くなり、ドア横に電気のスイッチが増えている。また、玄関前の共用部の床からは青い絨緞がなくなり、向かいの部屋の番号が 54 から 56A に変わった。一方、ジャップ警部のオフィスからも、その部屋が替わってもたいてい傍らに置かれていた扇風機が姿を消している。
帰国したヘイスティングスと空港のレストランで話している際、ポワロが「つまらないものに決まってます」と言った後ろで、右の窓の奥を現代の自動車が行き交うのが見える。また、ジェーンの部屋でマートン公爵を待っているときにも、画面左上の遠景をおそらく現代の自動車が通り過ぎる。一方、ポワロのマンションの外観を正面から映したカットでは、玄関のひさしの、向かって左側の壁にある監視カメラを、ベージュ色の四角形で塗りつぶして隠しているほか、警察署の廊下や空港のロビーでも、現代的な設備を隠したと思われる白い箱が壁や天井に見える。
オルトンが乗ろうとしたアルゼンチン航空の飛行機は〈ダグラス C-47〉だが、これは「雲をつかむ死」に登場した〈ダグラス DC-3〉の軍用型で、第二次大戦で使われたのち、戦後に多く民間へ払い下げられた機体である[6]。また、空港での追跡劇では、滑走するセスナ機が写っているほか、やはり遠景におそらく現代の自動車が走っているのが写ってしまっている。加えてオリジナル版では、オルトンが空港のロビーに落下する際、衝撃吸収マットが跳ね上がるのが見えてしまう。これはハイビジョンリマスター版だと映像の加工により修正されているが、一緒に落ちたトランクが床からだいぶ高い位置でバウンドしていることや、左側の壁に映った影に名残が見える。なお Agatha Christie's Poirot では、映像の画面比が 4:3 のバージョンではマットが見えているが、 16:9 のバージョンでは修正後の映像が使われており、この修正は HD 化より前の段階でおこなわれたようだ。
» 結末や真相に触れる内容を表示
ポワロの引退期間は、「アクロイド殺人事件」によって1年弱キングズ・アボット村で暮らしていたことがわかっているので、すくなくともそれ以上と考えられるが、カーロッタの手紙に書かれた日付は相変わらず1936年の6月29日で、マートン公爵の小切手の日付は同年8月1日。たとえば「ABC殺人事件」では、同じ1936年の8月21日に、ヘイスティングスが6ヶ月ぶりに南米から帰国したことになっていたはずなのだけれど…… また、本作のジャップ警部のデスクには週の2日目から始まって31日まであるカレンダーが置かれており、曜日は小さくて読み取れないものの、イギリスで一般的な月曜始まりの配置だとすると、事件のあった1936年でこれに合致するのは12月のみとなって、本作のなかだけでも辻褄が合わない。
解決篇のなかでポワロが、ブライアン・マーチンとオルトンのことを「確かに、そう、二人は似てます」と言うが、この二人を演じるドミニク・ガードとクリストファー・ガードは実の兄弟。なお彼らは、「ABC殺人事件」でミーガンを演じたピッパ・ガードのいとこでもある。
「クラブのキング」や「安いマンションの事件」では通俗映画に興味のなさそうだったポワロが、金歯の男の話について日本語で「映画からの借り物です。わたしも見てる」と言ったところは、原語だと 'It was like something from the cinema. I saw that at once. (まるで映画から持ってきたみたいだ。わたしはすぐにそれに気づきました)' という台詞である。
エッジウェア卿殺害時に卿があげる声は日本語音声も原語音声も同じだが、ドナルド・ロス殺害時のロスの声は吹き替えられている。
「ノーザン・イギリス鉄道」が新しい鉄道を作る「リバプールからカーライルまで」がイギリスとしてあまり北でないのは、原語の社名が Northan England Railway Corporation (北イングランド鉄道会社) で、イギリス全体ではなくイングランドとしての北部を指すため。また、開通にあたり鉄橋を架けなければいけない6マイルは約9.6キロメートル、越えなければいけないカンブリア山脈のスコーフェル山の高さ3000フィートは約915メートル(実際の高さは978メートル)である。
今回は長篇原作のエピソードにはめずらしく登場人物にほとんど省略がなく、せいぜいマートン公爵の母親やウィドバーン夫人がカットされた程度。また、事件にまつわる本筋上のストーリーの変更点も、執事のオルトン死亡にいたるアクションシーンが追加されたほかは、出来事の順番が入れ替わっていたり、5つの疑問の内容が一部変更されていたり、薬入れのイニシャルが D から P になって、ジェニーがペニーに改名されていたり(ジェーンと同じイニシャルになるのを避けるためか)、と細々した変更が多い。
本作は、かつてピーター・ユスチノフ主演で映像化されたことがある原作の、このドラマシリーズ初めての再映像化となった。このユスチノフ版「エッジウェア卿の死」ではデビッド・スーシェがジャップ警部を演じているが、そのときの演技についてスーシェは、おそらく人生で最悪の演技だったとくり返し回顧している一方、その結果として自分にジャップ警部のイメージがつかなかったことが、のちのポワロ役のオファーに幸いしたとも述べている。また、そのユスチノフ版「エッジウェア卿の死」の撮影の合間にスーシェは、ユスチノフから「君ならポワロをとてもうまく演じられるだろうね」と言われていたという。[1][2][3]一方、ユスチノフは劇作家としても知られ、その戯曲『四人の隊長の恋』の劇団テアトル・エコーによる上演(1959年および1964年)には、ポワロの吹替の熊倉一雄さんやミス・レモンの吹替の翠準子さん(当時は翠潤子名義)も出演していた。
冒頭の「シェークスピアのお芝居」は『マクベス』の第二幕第二場で、ジェーンがマクベス夫人、ブライアン・マーチンがマクベス役。一方、ジェラルディンとロナルドがオペラ「ドン・ジョバンニ」の第二幕と第三幕の幕間にエッジウェア邸に向かったことになっているが、「ドン・ジョバンニ」は二幕ものである。また、ロナルドがこの「幕間」を「まくま」と読むが、これは慣用読みで、本来は「まくあい」と読む。
空港でミス・レモンが「たぶん〔ヘイスティングスさんは〕まだ税関を通ってませんわ」と言うのに対してポワロが「いや、わかりませんよ」と言うところは、原語だと 'Ah, qu'il y a tant de monde! (でも、人が大勢いますからね)' と言っており、建物から出てくる人の多さで、飛行機の乗客がすでに入国を済ませている可能性があると判断していることがわかる。
ヘイスティングスが投資したという「パンパス・フェルナンデス間公共鉄道」は、原語だと Panpas to Fernandez Consolidated Railway (パンパス・フェルナンデス間統合鉄道) という名前で、複数の鉄道会社が合併してできたことを思わせる。「公共どころか鉄道すら通っていなくて」という台詞も、原語だと 'Well, they weren't consolidated, they did't have a railway. (それが、統合もしていなければ、鉄道も保有していなかったんです)' という表現で、既存の鉄道会社が統合したのだろうから当然一定の実体のある会社かと思いきや、まったく実体のない会社だったという趣旨である。また、日本語だとパンパスとフェルナンデスをヘイスティングスが「二つの町」と表現するが、パンパス (Pampas) とはブエノスアイレスの西から南に広がる草原地帯のこと。フェルナンデスがどこかはよくわからないが、「あいだには巨大な山脈がそびえている」ということは、アンデス山脈を越えたチリのどこかだろうか。
空港で滞在先を訊かれたヘイスティングスが、ホテルの名前を略して「とりあえず今はパレスに」と答えたときにポワロが軽く驚いたような表情を見せ、それに気づいたヘイスティングスの補足を聞いたあとに微笑するのは、原語 'Well, I'm booked into The Palace.' が「とりあえず今は宮殿に」という意味にも受け取れるためである。
カーロッタ・アダムスの、物真似が得意なアメリカ人女優という設定は、ルース・ドレーパーという実在のアメリカ人女優に着想を得たという[4][5]。そのカーロッタの物真似でアメリカ帰りの人物が「ぼくはこの13年間、実に一滴も〔酒を〕飲んでいないんだ」と言うのは、禁酒法の実施期間(1920年~1933年)を踏まえたもの。また、ベルリンでの「新しい首相」ことヒトラーがドイツ首相に就任したのも1933年。日本語だとつづけて「ヒトラー総統」と言われるが、ヒトラーが「総統」と呼ばれるのは1934年に大統領の権限も継承して以降のこと(「総統」に対応して用いられる Führer という言葉は「指導者」「リーダー」を表すドイツ語で、ヒトラーは1921年にナチ党党首となって以降そのように呼ばれるようになったが、日本語の「総統」は国家元首として全権を掌握してからの地位に用いる言葉である)。しかし、地位を人名につなげて敬称として用いるケースが日本語よりも限定的な原語では 'Herr Hitler (ヒトラー氏)' と言われており、「総統」という地位を示す表現ではないため、やはり1933年の首相就任後まもなくを想定していると思われる。ところで、このカーロッタのショーのあいだに聞こえる音楽は、ドラマとしての劇伴でなく劇中の現場で実際に流れているように思われるが、ポワロの物真似をしている際のドラマのテーマ曲をアレンジした曲も、劇中世界で演奏あるいは再生されているのだろうか。
ショーのあとカーロッタがジェーンと一緒のポワロを見かけて「あら、何よ、本物のエルキュール・ポワロじゃないの」と驚くが、ポワロがそこにいるのはカーロッタ側から(かどうかは厳密にはわからないけれど)招待を出したからのはず。原語は 'Hey! And the real Hercule Poirot! (あら、それに本物のエルキュール・ポワロ)' という表現で、その後に「二人が友だちだとは知らなかったわ」とつづくように、ジェーンとポワロが一緒にいたことに驚いている趣旨である。
ヘイスティングスが言う「ホースショー (horse shows)」と「家畜ショー (cattle shows)」とは、馬術競技会および畜牛の品評会のこと。対する「本物のショー (actual shows)」は演芸のショーを指していると思われる。
エッジウェア卿の書斎に立てられた薄いオレンジ色のドレスの女性の肖像画は、「クラブのキング」でリードバンの書斎に飾られていたのと同じ絵である。
ポワロがミス・レモンに「それもベルギーのおばさま直伝のレシピ?」と訊かれるのは、同じくホロウィッツが脚本を手がけた「ヒッコリー・ロードの殺人」で「昔、学生だった頃に母から教わった自慢の一品」を披露したことを受けてのようにも聞こえるが、ここでの「おばさま」の原語は aunt で、話者以外の母親の意味はなく、狭義に「伯母さま」ないしは「叔母さま」である。
ヴァン・デューゼン夫人について、日本語だとジェーンが「アメリカ人の女流作家にお会いしたんです――ヴァン・デューゼンって方。彼女の戯曲、あまりよくないんですけど」と言うので、彼女が以前から相手のことを知っていたように聞こえるが、原語では 'I had a meeting with an American lady—a Mrs Van Dusen. (アメリカ人女性にお会いしたんです――ヴァン・デューゼンって方) She's written a play—not a very good one, (彼女、戯曲を書いて――出来はいまいちでしたけど)' という表現で、最近戯曲を書いたアメリカ人女性と会ったという以上のニュアンスはない。また、のちにジェーンがあらためて「〔ヴァン・デューゼン夫人は〕作家で」と言うところは、原語だと 'She was a writer. (作家でしたわ)' と言っており、こちらでは writer (作家) とされているが、過去形を用いているように、やはり継続的に相手のことを知っていたわけではないニュアンスがある。
ドナルド・ロスはずっと「劇作家」と言われているが、原語だと彼のトロイ戦争の戯曲を、のちにロナルド・マーシュが his first play (初めての戯曲) と言っており、まだ言わばデビュー前。サー・モンタギュ・コーナーが晩餐会の席で「ドナルド・ロスの名はまもなく有名になりますよ。執筆中のトロイ戦争の戯曲が完成次第」と言ったのも、これまでの作品が振るわなかったわけではなく、まだ作品がないからである。
同じ貴族でも、ジェーンの現在の夫であるエッジウェア男爵は劇中で「エッジウェア卿 (Lord Edgware)」と呼ばれるのに対し、新しい恋人のマートン公爵は常に「マートン公爵 (the Duke of Merton)」と爵位で呼ばれる。これは「卿」に対応する英語 Lord が、侯爵以下の貴族にしか用いることができないため。一方、男爵 (Baron) に対しては逆に、子爵以上の貴族と異なり、爵位を敬称として Baron Edgware (エッジウェア男爵) のように呼ぶことはしない。ただし、冒頭にエッジウェア卿がジェーンに「わたしはジョージ・アルフレッド・セント・ビンセント・マーシュ・エッジウェア男爵」と名乗るところは、原語だと 'Because I am George Alfred St. Vincent Marsh, fourth Baron Edgware. (わたしは第4代エッジウェア男爵、ジョージ・アルフレッド・セント・ビンセント・マーシュ)' という表現で、呼びかけではなく自らの爵位を説明しているので可である。なお、原語の表現だとより明確であるように、イギリスの貴族の爵位号と姓は別物で、エッジウェア卿の姓はマーシュ(つまり、娘のジェラルディンや甥のロナルドと同じ)である。ロナルド・マーシュが次のエッジウェア卿になるときも、エッジウェアという姓の家に養子に入るわけではなく、マーシュという姓を維持したままエッジウェア男爵の称号を継ぐことになる。また、イギリスの世襲貴族は原則として男系男子が爵位と資産を継承するため、エッジウェア卿の死後は、ジェラルディンが女男爵となるのではなく、エッジウェア卿の弟の子と見られるロナルドに爵位が行く。
ミス・レモンがヘイスティングスに紹介した物件は「地下室」ということだが、ロンドンの建物はしばしば道路とのあいだが一段掘り下げられており、本来なら地下になる高さにも窓や出入り口がある。原語の basement flat はそうした一室を貸し出したもので、「ビッグ・フォー」でポワロが向かったダレルのフラットがそれ。こうした部屋や入り口はもともと使用人のためのものではあるが、日本語の「地下室」という言葉が感じさせるような、窓もなく外光も届かない特殊な物件というニュアンスは必ずしもない。
ポワロがヘイスティングスに言った「ジャップ警部が、君の言葉によると〔エッジウェア夫人に〕つきまとっているそうですからね (With the Chief Inspector, as you say, Hastings, breathing down the neck,)」という台詞の、「つきまとう」に対応する breathe down one's neck (~の首に息を吹きかける) は、「~にまとわりつく」「~をしつこく監視する」という意味の英語の慣用句。つまり、「君の言葉によると (as you say)」とは、原語の動詞 say が現在形であるように、ヘイスティングスがポワロにそう報告したわけではなく、「ヘイスティングス(たち)のような英語のネイティブ話者が慣用表現として言うところの」という趣旨である。
カーロッタの死因についてジャップ警部が「〔睡眠薬の〕量をまちがえたんですよ」と言った台詞は、原語だと 'Of course, it could have been accidental. (もちろん、たまたまかもしれませんがね)' という表現で、必ずしも過誤があったとは言っていない。ルーシーが言う「量をまちがえたなんて嘘よ」という台詞も、原語は 'It couldn't have been an overdose. (過剰摂取なんてありえないわ)' という表現で、こちらも過誤とは限らない。ヴェロナールに代表されるバルビツール酸系の睡眠薬は恒常的な服用で耐性ができ、同じ効果を得るための必要量が増加する一方、安全域があまり広くなく、しばしば死亡事故が起きた。前回の「アクロイド殺人事件」でファラーズ夫人の死が自殺かと訊ねられたドクター・シェパードが予断を控えたのも、そうした事情が理由の一つになっていたと思われる。
ポワロに「そのあと、あなたは彼女に2000ドルという金を支払った」と言われたロナルドが、日本語だと「ええ」といったんそれを肯定するように返事をするが、この反応は直後の否定とうまくつながらない。このとき原語では 'What? (何ですって?)' と言っており、日本語は本来「ええ?」と聞き返すイントネーションで発音されることを想定していたと思われる。なお、ハイビジョンリマスター版の切換式字幕でも、音声のイントネーションにもかかわらず「ええ?」と表示される。
日本語で「わたしに代わって目と鼻と」とポワロが言ったのをヘイスティングスが「耳で」と受けるところは、原語だと eyes and ears (目と耳で) という言いまわしをポワロがまちがえたのをヘイスティングスが訂正している。
ロナルド・マーシュの昼食会の席上、ドナルド・ロスが「目下のところぼくが熱くなっているのはパリスの審判ですね」と言ったのに対してジェーンが「でもファッションでしたら、パリはもう審判の立場にないわ」と応じる場面があるのは、英語だとフランスの首都「パリ (Paris)」も s を発音し、パリスの審判の「パリス」と同じ発音になるため。なお、日本語でフランスの首都を「パリ」と呼ぶのは Paris のフランス語発音に基づく。また、ハイビジョンリマスター版で、エッジウェア卿殺害犯に祝杯を挙げるのにジェーンが反対した理由は、日本語だと「でも、ここにいる全員が彼を殺すことができたのよ」と説明されるが、原語は 'But anyone of us sitting at this table could have killed him. (でも、ここにいる全員、犯人の可能性があるのよ)' という表現で、つまり親しい人が犯人かもしれないという事実に祝杯を挙げる気にならないという趣旨である。
謎解きのなかでポワロが「最初から、わたしを悩ませたのが、5つの疑問でした」と言うが、5つの疑問がそろったのはカーロッタがルーシーに宛てた手紙の内容を把握したタイミングで、捜査がある程度進展してからのことである。なお前述のとおり、この5つの疑問の内容は原作から一部変更されているが、この齟齬はその変更によるものではなく、原作のポワロは特に「最初から」とは言っていない。
ジェーンの住むマンションは、「100万ドル債券盗難事件」のエズミーや「戦勝舞踏会事件」のココが住んでいたマンションで、「死人の鏡」ではモダンアートの美術館としても使われたハイポイント。ジェーンの部屋があるのはその南棟ハイポイントIIの最上階である。また、カーロッタの住むマンションは、「イタリア貴族殺害事件」でフォスカティーニ伯爵の住まいとして登場したアディスランド・コート。その玄関のドアの A と C を組みあわせたモノグラムは、前回の「アクロイド殺人事件」で見られたアクロイド化学 (Ackroyd Chemicals) のロゴによく似ているが、アディスランド・コート (Addisland Court) は実名で、ドアのロゴも現地に実在のもの。しかし、その屋内の様子は「イタリア貴族殺害事件」で見られたものとは異なり、セットと思われる。クロイドン空港は「西洋の星の盗難事件」や「雲をつかむ死」にも登場したショアハム空港(現ブライトン・シティ空港)だが、外観がすこし変更されている。ディナーショー〈カーロッタ・アダムスとの夕べ〉がひらかれ、解決篇の舞台ともなるゲイエティ劇場は、ロンドンに実在した大衆演芸で知られる劇場だが現存せず、「安いマンションの事件」冒頭でポワロたちが映画を観たアストリア劇場(現 O2 アカデミー・ブリクストン)で撮影された。ミス・レモンが宝石店を訪ねたボンド・ストリートのバーリントン・アーケードは、「ベールをかけた女」の冒頭で宝石強盗のあった場所。新たなロケ地では、リージェント・ゲートにある設定のエッジウェア邸の外観はケンジントンのアディソン・ロードにあるデベナム・ハウスで、その屋内はジェラルディン・マクイーワン主演「ミス・マープル」シリーズ「予告殺人」のロイヤル・スパ・ホテルとしても撮影に使われているが、本作で邸内の撮影がおこなわれたのはテンプルにあるテンプル・プレース2番地。このテンプル・プレース2番地は、「二重の手がかり」でロサコフ伯爵夫人が宿泊したホテルのエントランスの撮影をおこなったエレクトラ・ハウスの隣にあたり、ジョーン・ヒクソン主演「ミス・マープル」シリーズの「魔術の殺人」では、クリスチャンがガルブランドセン・ハウスに到着する場面の画面奥に、その外観を見ることができる。ただしジェラルディンの部屋はスタジオ内セットで、「アクロイド殺人事件」のファラーズ夫人の部屋に使ったセットを、壁の色を塗り直して再利用していると見られる。冒頭のリージェンシー劇場は、ロンドンの劇場街ウェスト・エンドにあるアポロ劇場。ヘイスティングスが滞在したピカデリー・パレス・ホテルはベスナル・グリーンのタウン・ホール・ホテルで、ポワロがジェーンと歩いていた公園はマウント・ストリート・ガーデンズ。ペニーの帽子店の所在は、ユーストン駅に程近いデュークス・ロードである。
エッジウェア卿役のジョン・カースルは、ジョーン・ヒクソン主演の「ミス・マープル」シリーズでクラドック警部を演じているほか、ジェレミー・ブレット主演の「シャーロック・ホームズの冒険」の一篇、「美しき自転車乗り」でもカラザース役を演じている。「シャーロック・ホームズの冒険」シリーズには、オルトン役のクリストファー・ガードも「金縁の鼻眼鏡」のウィロビー・スミス役で出演。彼はピーター・ユスチノフ主演の「死者のあやまち」ではアレック・レッグ役を演じていた。また、ジェラルディン・マーシュ役のハンナ・イェランドは、「ミューズ街の殺人」でウェスト下院議員を演じ、「満潮に乗って」以降ポワロの執事のジョージを演じているデビッド・イェランドの娘。パレス・ホテルの受付役のジョナサン・アリスも、「海上の悲劇」でファウラー船長を演じたビル・アリスの息子で、ベネディクト・カンバーバッチ主演の「シャーロック」シリーズにはアンダーソン役で準レギュラー出演している。エリスを演じたフェノラ・ウルガーは、デビッド・テナント主演「ドクター・フー」の一篇、「アガサ・クリスティ失踪の謎」でアガサ・クリスティを演じている。
オルトンの吹替の仲野裕さんは、映画「パトリオット・ゲーム」(吹替の主演が磯部勉さんのもの)ではヒュー・フレイザーの吹替を担当している。
ディナーショーの会場で使われている椅子は、「コックを捜せ」のカフェや、「100万ドル債券盗難事件」の銀行およびカフェ、「エジプト墳墓のなぞ」のフォスウェル博士のテント、そして「黄色いアイリス」のロンドンの〈ル・ジャルダン・デ・シーニュ〉のバックヤードと、劇中世界でとても広く普及している。また、会場に置かれたラッパ形の照明と台座も、「戦勝舞踏会事件」で舞踏会場に置かれていたのと同じもの。その台座部分は「アクロイド殺人事件」でもやはりレストランの照明の台座として、また照明部分は「チョコレートの箱」ではレストランの天井から吊り下げられる形で使われていた。カーロッタの遺体を運んでいく救急車も、「アクロイド殺人事件」でアクロイドの遺体を運んでいったのと同じ救急車である。
ジェーンからエッジウェア卿殺害の動機がないことを示されてポワロが「うむ」と言ったり、ヘイスティングスから一つ目の疑問の内容を確認されて「はあ」と言ったり、ヘイスティングスを昼食会に送り出して「よろしく」と言ったりするのは日本語のみである。
コーナー邸のある「ホールバン (Holborn)」とは、「グランド・メトロポリタンの宝石盗難事件」でグレースがかつて働いていたバーがあったという、ロンドンの「ホルボーン」と同じ場所で、英語での発音は /hə́ʊbən/ である。また、ルーシーがカーロッタのマンションまで乗ってきたタクシーの運転手の「1ポンド6ペンスです」という台詞は、原語では 'One and six, please, madam.' となっていて、これは1シリング6ペンスのことである。
ポワロのマンションでは、キッチンで壁の下半分に設えられたパネルやゴミ出し用リフトの扉がなくなって家具の配置も変わっているほか、玄関のドアの錠の位置が高くなり、ドア横に電気のスイッチが増えている。また、玄関前の共用部の床からは青い絨緞がなくなり、向かいの部屋の番号が 54 から 56A に変わった。一方、ジャップ警部のオフィスからも、その部屋が替わってもたいてい傍らに置かれていた扇風機が姿を消している。
帰国したヘイスティングスと空港のレストランで話している際、ポワロが「つまらないものに決まってます」と言った後ろで、右の窓の奥を現代の自動車が行き交うのが見える。また、ジェーンの部屋でマートン公爵を待っているときにも、画面左上の遠景をおそらく現代の自動車が通り過ぎる。一方、ポワロのマンションの外観を正面から映したカットでは、玄関のひさしの、向かって左側の壁にある監視カメラを、ベージュ色の四角形で塗りつぶして隠しているほか、警察署の廊下や空港のロビーでも、現代的な設備を隠したと思われる白い箱が壁や天井に見える。
オルトンが乗ろうとしたアルゼンチン航空の飛行機は〈ダグラス C-47〉だが、これは「雲をつかむ死」に登場した〈ダグラス DC-3〉の軍用型で、第二次大戦で使われたのち、戦後に多く民間へ払い下げられた機体である[6]。また、空港での追跡劇では、滑走するセスナ機が写っているほか、やはり遠景におそらく現代の自動車が走っているのが写ってしまっている。加えてオリジナル版では、オルトンが空港のロビーに落下する際、衝撃吸収マットが跳ね上がるのが見えてしまう。これはハイビジョンリマスター版だと映像の加工により修正されているが、一緒に落ちたトランクが床からだいぶ高い位置でバウンドしていることや、左側の壁に映った影に名残が見える。なお Agatha Christie's Poirot では、映像の画面比が 4:3 のバージョンではマットが見えているが、 16:9 のバージョンでは修正後の映像が使われており、この修正は HD 化より前の段階でおこなわれたようだ。
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ポワロの引退期間は、「アクロイド殺人事件」によって1年弱キングズ・アボット村で暮らしていたことがわかっているので、すくなくともそれ以上と考えられるが、カーロッタの手紙に書かれた日付は相変わらず1936年の6月29日で、マートン公爵の小切手の日付は同年8月1日。たとえば「ABC殺人事件」では、同じ1936年の8月21日に、ヘイスティングスが6ヶ月ぶりに南米から帰国したことになっていたはずなのだけれど…… また、本作のジャップ警部のデスクには週の2日目から始まって31日まであるカレンダーが置かれており、曜日は小さくて読み取れないものの、イギリスで一般的な月曜始まりの配置だとすると、事件のあった1936年でこれに合致するのは12月のみとなって、本作のなかだけでも辻褄が合わない。
解決篇のなかでポワロが、ブライアン・マーチンとオルトンのことを「確かに、そう、二人は似てます」と言うが、この二人を演じるドミニク・ガードとクリストファー・ガードは実の兄弟。なお彼らは、「ABC殺人事件」でミーガンを演じたピッパ・ガードのいとこでもある。
「クラブのキング」や「安いマンションの事件」では通俗映画に興味のなさそうだったポワロが、金歯の男の話について日本語で「映画からの借り物です。わたしも見てる」と言ったところは、原語だと 'It was like something from the cinema. I saw that at once. (まるで映画から持ってきたみたいだ。わたしはすぐにそれに気づきました)' という台詞である。
エッジウェア卿殺害時に卿があげる声は日本語音声も原語音声も同じだが、ドナルド・ロス殺害時のロスの声は吹き替えられている。
「ノーザン・イギリス鉄道」が新しい鉄道を作る「リバプールからカーライルまで」がイギリスとしてあまり北でないのは、原語の社名が Northan England Railway Corporation (北イングランド鉄道会社) で、イギリス全体ではなくイングランドとしての北部を指すため。また、開通にあたり鉄橋を架けなければいけない6マイルは約9.6キロメートル、越えなければいけないカンブリア山脈のスコーフェル山の高さ3000フィートは約915メートル(実際の高さは978メートル)である。
- [1] Hilary Bonner, 'David Suchet as Poirot', Sherlock Holmes: The Detective Magazine Issue 40, SHERLOCK Magazine, 2000, p. 11
- [2] David Suchet and Geoffrey Wansell, Poirot and Me, headline, 2013, pp. 16-17
- [3] Poirot: David Suchet bids a fond farewell - BBC News
- [4] アガサ・クリスティー (訳: 乾信一郎), 『アガサ・クリスティー自伝 〔下〕』, 早川書房(ハヤカワミステリ文庫), 1995, p. 295
- [5] ジャネット・モーガン (訳: 深町真理子, 宇佐川晶子), 『アガサ・クリスティーの生涯 下』, 早川書房, 1987, pp. 49-50
- [6] 久世紳二, 『形とスピードで見る 旅客機の開発史 ライト以前から超大型機・超音速機まで』, 日本航空技術協会, 2006, pp. 73-74, 101
ロケ地写真
カットされた場面
日本
オリジナル版
[0:13:47/0:21] | ジェーンと別れた直後のポワロとヘイスティングスの会話 |
[0:26:45/0:06] | エッジウェア邸の門から玄関へ向かうポワロとヘイスティングス |
[0:28:40/0:06] | ミス・キャロルに先導されて階段上へ向かう一同 |
[1:10:59/0:14] | ロナルド・マーシュ主催のパーティーでのジェーンとブライアンのやりとり |
ハイビジョンリマスター版
なし映像ソフト
- [VHS] 「名探偵エルキュール・ポアロ 第47巻 エッジウェア卿の死」(字幕) 日本クラウン
- [DVD] 「名探偵ポワロ 29 エッジウェア卿の死」(字幕・吹替) ビームエンタテインメント(現ハピネット・ピクチャーズ)※1
- [DVD] 「名探偵ポワロ [完全版] 29 エッジウェア卿の死」(字幕・吹替) ハピネット・ピクチャーズ※2
- [DVD] 「名探偵ポワロ DVDコレクション 19 エッジウェア卿の死」(字幕・吹替) デアゴスティーニ・ジャパン※3
- [BD] 「名探偵ポワロ Blu-ray BOX Disc 15 エッジウェア卿の死, メソポタミア殺人事件」(字幕/吹替) ハピネット・ピクチャーズ※4
- ※1 「名探偵ポワロ DVD-BOX3」にも収録
- ※2 「名探偵ポワロ [完全版] DVD-BOX2」「名探偵ポワロ [完全版] 全巻 DVD-SET」「名探偵ポワロ [完全版] DVD-SET 8」にも収録
- ※3 吹替は大塚智則さん主演の新録で、映像もイギリスで販売されているDVDと同じバリエーションを使用
- ※4 「名探偵ポワロ Blu-ray BOX vol. 2」に収録
同原作の映像化作品
- [映画] 「Lord Edgware Dies」 1934年 監督:ヘンリー・エドワーズ 出演:オースティン・トレバー
- [TV] 「エッジウェア卿の死」 1985年 監督:ルー・アントニオ 出演:ピーター・ユスチノフ(福田豊土)、ジョナサン・セシル(羽佐間道夫)、デビッド・スーシェ(池田勝)