杉の柩 Sad Cypress
放送履歴
日本
オリジナル版(94分00秒)
- 2005年08月24日 20時00分〜 (NHK衛星第2)
- 2006年01月10日 24時30分〜 (NHK衛星第2)
ハイビジョンリマスター版(94分00秒)
- 2016年10月15日 16時00分〜 (NHK BSプレミアム)
- 2017年03月22日 16時00分〜 (NHK BSプレミアム)
- 2021年05月01日 16時26分〜 (NHK BSプレミアム)※1
- 2021年12月20日 09時00分〜 (NHK BS4K)
- 2023年05月31日 21時00分〜 (NHK BSプレミアム・BS4K)※2
- ※1 エンディングの画面下部に次回の放送時間案内の字幕表示(帯付き)あり
- ※2 BSプレミアムでの放送は、オープニング冒頭の画面左上にBS4K同時放送のアイコン表示あり
海外
- 2003年12月26日 21時00分〜 (英・ITV1)
- 2004年07月18日 20時30分〜 (豪・ABC)
- 2004年09月19日 22時00分〜 (米・A&E)
原作
邦訳
- 『杉の柩』 クリスティー文庫 恩地三保子訳
- 『杉の柩』 ハヤカワミステリ文庫 恩地三保子訳
原書
- Sad Cypress, Collins, March 1940 (UK)
- Sad Cypress, Dodd Mead, 1940 (USA)
オープニングクレジット
日本
オリジナル版
名探偵ポワロ / AGATHA CHRISTIE'S POIROT / 杉の柩 // DAVID SUCHET / Agatha Christie POIROT / SAD CYPRESS based on the novel by Agatha Christie / Screenplay by DAVID PIRIE / ELISABETH DERMOT WALSH, RUPERT PENRY-JONES / KELLY REILLY, PAUL MCGANN / PHYLLIS LOGAN, MARION O'DWYER / with DIANA QUICK / Producer MARGARET MITCHELL / Director DAVID MOORE
ハイビジョンリマスター版
名探偵ポワロ / DAVID SUCHET / AGATHA CHRISTIE'S POIROT / 杉の柩 // DAVID SUCHET / Agatha Christie POIROT / SAD CYPRESS based on the novel by Agatha Christie / Screenplay by DAVID PIRIE / ELISABETH DERMOT WALSH, RUPERT PENRY-JONES / KELLY REILLY, PAUL MCGANN / PHYLLIS LOGAN, MARION O'DWYER / with DIANA QUICK / Producer MARGARET MITCHELL / Director DAVID MOORE
エンディングクレジット
日本
オリジナル版
原作 アガサ・クリスティー 脚本 デビッド・ピリ 演出 デビッド・ムーア 制作 LWT A&E テレビジョン ネットワークス アガサ・クリスティー Ltd. (イギリス 2003年) / 出演 ポワロ(デビッド・スーシェ) 熊倉 一雄 エリノア(エリザベス・ダーモット・ウォルシュ) 麻生 侑里 ロディ(ルパート・ペンリー・ジョーンズ) 寺杣 昌紀 ドクター・ロード(ポール・マクガン) 田中 秀幸 ホプキンズ 弥永 和子 ウェルマン夫人 中西 妙子 メアリ 岡 寛恵 マーズデン警部 坂部 文昭 宮寺 智子 瀬畑 奈津子 伊藤 和晃 佐藤 祐四 秋間 登 大西 健晴 山門 久美 高階 俊嗣 / 日本語版スタッフ 宇津木 道子 金谷 和美 浅見 盛康 里口 千 西亀 泰 蕨南 勝之
ハイビジョンリマスター版
原作 アガサ・クリスティー 脚本 デビッド・ピリ 演出 デビッド・ムーア 制作 LWT A&E テレビジョン ネットワークス アガサ・クリスティー Ltd. (イギリス) 出演 ポワロ(デビッド・スーシェ) 熊倉 一雄 エリノア(エリザベス・ダーモット・ウォルシュ) 麻生 侑里 ロディ(ルパート・ペンリー・ジョーンズ) てらそま まさき ドクター・ロード(ポール・マクガン) 田中 秀幸 ホプキンズ 弥永 和子 ウェルマン夫人 中西 妙子 メアリ 岡 寛恵 マーズデン警部 坂部 文昭 宮寺 智子 瀬畑 奈津子 伊藤 和晃 佐藤 祐四 秋間 登 大西 健晴 山門 久美 高階 俊嗣 日本語版スタッフ 翻訳 宇津木 道子 演出 蕨南 勝之 音声 金谷 和美 プロデューサー 里口 千
海外
オリジナル版
Hercule Poirot: DAVID SUCHET; Elinor Carlisle: ELISABETH DERMOT WALSH; Roddy Winter: RUPERT PENRY-JONES; Mary Gerrard: KELLY REILLY; Dr. Peter Lord: PAUL McGANN / Nurse Hoplins: PHYLLIS LOGAN; Nurse O'Brien: MARION O'DWYER; Mrs. Welman: DIANA QUICK; Ted Horlick: STUART LAING; Marsden: JACK GALLOWAY / Seddon: GEOFFREY BEEVERS; Prosecuting Counsel: ALISTAIR FINDLAY; Mrs. Bishop: LINDA SPURRIER; Shopkeeper: IAN TAYLOR; Judge: TIMOTHY CARLTON; Hunterbury Maid: LOUISE CALLAGHAN / (中略)Location Manager: PETER TULLO; 1st Assistant Director: TERRY BAMBER; 2nd Assistant Director: DAVID CAIN; Script Editor: KAREN THRUSSELL; Production Co-ordinator: DIANE CHITTELL; Script Supervisor: CAROLINE O'REILLY / Camera Operator: MIKE MILLER; Focus Puller: MIKE GREEN; Grip: JIM BOORER; Lighting Gaffer: LARRY PRINZ; Best Boy: PHILIP PENFOLD; Art Director: MALCOLM STONE / Set Decorator: MARK RIMMELL; Prop Master: MIKE FOWLIE; Construction Manager: KEN HAMBLING; Make-Up Artists: SIAN TURNER, RUPERT SIMON; Asst. Costume Designer: TAMAR ZAIG / Sound Recordist: TONY JACKSON; Sound Maintenance: MIKE REARDON; Dubbing Mixer: BILLY MAHONEY; Supervising Sound Editor: JOHN DOWNER; Dialogue Editor: SARAH MORTON / Post Production Supervisor: KATE STANNARD; Assistant Editor: ANYA DILLON; Assistant Co-ordinator: PHOEBE MASTERS; Telecine Colourist: CHRIS BEETON; Visual Effects/Titles: ALAN CHURCH, SIMON GILES / Publicist: MARIETTE MASTERS; Picture Publicist: PATRICK SMITH; A & E Senior Publicist: GINA NOCERO; Casting Assistant: CLARIE SAUNDERS / Production Accountant: NUALA ALEN-BUCKLEY; Script Executive: DEREK WAX; Associate Producer: DAVID SUCHET; Executive in Charge of Production: FIONA McGUIRE / Casting: GAIL STEVENS, MAUREEN DUFF; Costume Designer: SHEENA NAPIER; Make-Up Designer: CAROL COOPER; Line Producer: LEILA KIRKPATRICK / Director of Photography: MARTIN FUHRER, BSC; Production Designer: MICHAEL PICKWOAD; Editor: MELANIE VINER-CUNEO; Original Music: CHRISTOPHER GUNNING / Executive Producer for A & E Television Networks: DELIA FINE; Supervising Producer for A & E Television Networks: EMILIO NUNEZ / Executive Producer for Chorion plc: PHIL CLYMER / Executive Producer: MICHELE BUCK; Executive Producer: DAMIEN TIMMER; © Agatha Christie Ltd (a Chorion Company) 2003 / LWT in association with A & E Television Networks and Agatha Christie Ltd (a Chorion Company) GRANADA
あらすじ
エリノアとロディは婚約中の間柄だった。だが、ドイツから帰国していた幼なじみのメアリ・ジェラードに出会ってロディは心を奪われる。エリノアはメアリへの激しい憎悪に苛まれ、そしてメアリが死んだ。ポワロの眼にもエリノアの有罪は自明と思われたが……
事件発生時期
1937年6月下旬 〜 9月下旬
主要登場人物
エルキュール・ポワロ | 私立探偵 |
ローラ・ウェルマン | 富裕な老婦人 |
エリノア・カーライル | ウェルマン夫人の姪 |
ロディ・ウィンター | ウェルマン夫人の義理の甥、エリノアの婚約者 |
メアリ・ジェラード | ウェルマン夫人が面倒を見てきた娘 |
ピーター・ロード | ウェルマン夫人の主治医 |
ホプキンズ | 看護師 |
オブライエン | 看護師 |
ビショップ | 家政婦 |
テッド・ホーリック | 庭師 |
セドン | ウェルマン夫人の顧問弁護士 |
マーズデン | 警部 |
解説、みたいなもの
原題 Sad Cypress はシェークスピアの『十二夜』第二幕第四場で道化が歌う、絶望的で激しい恋を歌った歌の一節で、エリノアの心情を思わせるその歌詞は、劇中ではウェルマン夫人が言及する。 Sad Cypress を逐語訳すれば「悲しいイトスギ」だが、英国においてイトスギは、喪や哀悼、死後の生命などを象徴して葬儀で添えられたり墓地に植えられたりする木で、ここではその象徴的な意味を踏まえつつ、イトスギ材でつくられた柩のことと解釈するのが主流のようである[1][2][3]。原典『十二夜』の日本語訳でも、坪内逍遙や松岡和子、小田島雄志がこれに「杉の柩」や「杉の棺」という日本語を当てている。ただし、 cypress の分類は実はヒノキ科である。
原作小説は3部構成で、第一部でメアリ死亡までのエリノアの心理が克明に描かれ、第二部でドクター・ロードの懇願によってポワロが乗り出し、第三部でエリノアの裁判が描かれる。しかしドラマでは、これまでの多くの作品同様、冒頭からポワロが登場する脚色が加えられた。その脚色の内容は、ドクター・ロードの知人としてポワロを村に滞在させるというもの。これによって事件発生までの経緯をポワロが間近で目撃することになり、自分の考えを最後まで明かしたがらない彼がめずらしくエリノアの有罪を強く確信している様子を描いて、エリノアの置かれた絶望的な状況を強調している。一方、この脚色に伴って、ドクターが一度はポワロを事件に関わらせまいとする場面も加えられたため、彼がエリノアの無実を信じてポワロの元へ依頼に向かう、というドクターの思いを強く印象づける場面の効果が弱くなってしまった。そのためか、エリノアが匿名の手紙に関してドクターに意見を求めようとするなど、彼女が実はロディよりもドクターを信頼していると匂わせたり、原作では単に柔弱な青年だったロディが傲慢さや不実さを垣間見せて、相対的にドクターの人柄を持ち上げるような変更が加えられている。そのロディの名字がウェルマンからウィンターに変更されているのは、ウェルマン夫人の遺産がロディに行かないことを視聴者に納得させやすくするためだろうか(もっとも、ウェルマン夫人の亡夫と同じ名字であるほうが、夫人本人とは血縁がない可能性は高いのだけど)。一方、メアリに想いを寄せるテッド・ビッグランドの名字がホーリックになり、職業も庭師に変わったのは、原作で庭師だったホーリックとまとめられたためである。
エリノアから「変なものが届いて」と言われて、ロディが「請求書?」と推測するのはやや突飛だが、原語だとエリノアは something (あるもの) としか言っておらず、「変な」というニュアンスはない。ロディが「変なものって?」と訊いた台詞も、原語は 'I'm intrigued. (気になるね)' という反応である。また、ロディがつづけて「だいたい妖精たちがダンスをして、いやらしい請求書が舞い込んでくるのは夏 (the height of summer) と決まってるんだ」と言うのは、夏至の夜には妖精が姿を現して森でダンスをするという言い伝えを踏まえたもの。妖精もさすがに請求書は送らないと思うけれど、梅雨がないイギリスでは日も長く、開放的な気分になるこの季節に請求書が多く届きがちになることを、いたずら好きとされる妖精の仕業にしておどけてみせたと思われる。なお、当時の、特に彼らの階級の買い物は通例、信用に基づいたあと払いであり、後日、店から請求書が届く。
エリノアたちがハンタベリー・ハウスへ出発する際、ハイビジョンリマスター版では、駐められたロディの車の側面に現代の車と人影が映り込んでいるのが見える。
エリノアがウェルマン夫人の部屋から出た際に聞こえる看護師たちの会話は、日本語だと「エリノアさんにおばさんは何を言ったのかしらねえ」と始まるが、原語だと 'And now Miss Carlisle's here with her fiance. (そして今度はエリノアさんが婚約者連れでやってきたでしょう)' という表現で、つづく会話同様にエリノアへの不信を表したものであり、「まだ二人っきりでおばさんの部屋にいるのよ」という台詞につながるように内容を置き換えるにしても、日本語の台詞とは逆に、エリノアからウェルマン夫人へ話した内容をうたがうほうが自然ではないかしら。
テッドがメアリを誘った「ガルボ主演で、パリの話」という映画はおそらく、グレタ・ガルボ主演で1936年に公開された「椿姫」。なお、劇中の舞台は「椿姫」公開翌年の1937年だが、これは1940年に発表された原作にもあった台詞である。
ウェルマン夫人が無遺言で亡くなったため、「いちばん近い血族」ということでエリノアがその遺産を相続するが、劇中当時も原作の執筆・発表当時も、甥や姪に相続権はない[4]。イングランドにおいて、一定条件下で甥や姪に相続権が生じるよう法改正がなされたのは1952年のことである[5]。
メアリがホプキンズ看護師から言われる「それもいいけど、メアリ、あなたならもっとましなことができるわ。特別な教育を受けているんですもの」という台詞は、原語だと 'Aye, he's nice enough, Mary dear, but I'm sure your can do better. Yes, with your education especially. (彼も悪くはないけど、メアリ、あなたならもっと上を目指せるわ。特別な教育を受けているんですもの)' という表現で、 he (彼) の名前は明示されないが、テッドではメアリの相手に不足だと言っていると思われる。また、それにつづく「その成果を見せてちょうだいな」も、原語では 'Now, do let us see what your aunt sent. (さあ、おばさんが送ってくれたものを見せてちょうだいな)' で、ここでの aunt (おばさん) はメアリをドイツの学校へ送ったウェルマン夫人ではなく、ニュージーランドからプレゼントを送ってきたメアリの叔母のこと。
オリジナル版では、夜の図書室でエリノアとロディが話す場面で、ロディの肩越しに映すカットの画面下方に糸のようなものが映り込んでいる。
ポワロに「雪のように真っ白な羊を飼っていたのは誰でしたか?」と訊かれてエリノアが「メアリ?」と思い至ったのは、童謡「メリーさんのひつじ」の歌詞を踏まえた結果。この童謡の1番の歌詞の後半は、原語だと Mary had a little lamb. Its fleece was white as snow. (メリー〔メアリ〕さんは小さな羊を飼っていました。その毛は雪のように真っ白でした) となっている。
ハンタベリー・アームズの外壁にかけられた看板に書かれた AA and RAC recommended (AA および RAC 推薦) という文言の AA と RAC とはそれぞれ Automobile Association と Royal Automobile Club の略称。これらはイギリスにおける、日本の JAF に近い組織のことで、ロードサービスや自動車保険の提供に加え、自動車旅行振興の趣旨でホテルの格付けをおこなっている。また、 5/-, 3/6 などの表記は料金で、 x/y で「xシリングyペンス」の意味になる。 - は 0 を表す。
エリノアがロディの浮気を目撃した際に蓄音機が奏でていたのは 'Body and Soul' という曲である。
新聞に載っていたウェルマン夫人の命日は1937年9月16日だが、同じ新聞で特集されているガーシュイン死去は同年の7月11日のことで、その翌日には実際に新聞各紙で報じられており、死後2ヶ月も経ってからあらためて複数の新聞がその記事を載せるとは考えにくく思える。
ポワロがタクシーに「大英図書館までお願いします」と言う台詞があるが、大英図書館という組織は1972年の大英図書館法で規定され、1973年に発足した。加えて、タクシーに行き先として告げられるような大英図書館の建物ができたのは1998年のことで、それまでその蔵書の大半は大英博物館内に収蔵されていた。
村の教会前でポワロがメアリを呼び止めた際、画面奥の屋根の上にテレビのアンテナが見える。なお、「白昼の悪魔」でもほぼ同じ場所からのほぼ同じアングルでテレビのアンテナが見えていたが、今回見えているのは別のアンテナである。
エリノアがサンドイッチペーストを買う場面で口にする「プトマイン中毒」とは食中毒の古い言い方。プトマインとは動物性蛋白質が腐敗して発生する毒素の総称で、かつては食中毒の原因と考えられていたが、現在は食中毒の原因の多くは細菌性毒素であることがわかっている。
エリノアがサンドイッチを食べながら言及する「おやかんをかけて (Polly put the kettle on)」という歌は、それがそのまま題名になっている 'Polly Put the Kettle On' という童謡の一節。この童謡はお茶の時間の様子を歌ったもので、その連想によって言及されたと見られる。
ポワロがロディに引用したワーズワースの詩は 'Lucy (ルーシー)' の一節である。
メアリが死んだ日のことを、ロディが「〔メアリを〕驚かせないように待つことにしたんです」と言うが、彼はフランスから予定外に帰国していたのだから、ロッジで待とうとメアリが驚くことは変わらないはず。前半部分に対応する原語は 'You see, she wasn't expecting me, (会う約束をしていなかったので)' となっており、礼儀の問題である。また、そのあとにポワロが言う「エリノアが犯罪を免れたら」とは、エリノアは犯罪の直接の被害者ではないのですこし違和感のある表現だが、原語は 'So, if she escapes the gallows, (エリノアが絞首刑を免れたら)' という台詞で、ひょっとすると「エリノアが有罪を免れたら」の誤読だろうか。
エリノアの有罪確定の新聞記事に重ねて「5日以内に絞首刑」という字幕が表示されるが、紙上に見える HANGING IN FIVE DAYS は「5日後に絞首刑」の意味で、このような場合の in は未来の時間一点を指し、「以内」の意味はない(「以内」の意味では within を用いる)。そのため、のちのポワロやドクター・ロードも執行日が確定しているかのように話す。
夢に出てきたメアリの姿を、ポワロが「初めてホテルの前で会ったときのまま」と言うが、夢のなかでも再現された、ホテルの前でポワロがメアリに「会った」のは、メアリが遺産相続のことを知らせに行く途中のことで、それより前にハンタベリー・ハウスのガーデンパーティーでメアリに紹介されて会っている。ポワロの台詞は原語だと 'as she was at first on the street outside of my hotel (最初にホテルの外の通りにいたときのまま)' で、ドクター・ロードがポワロに手紙の相談を持ち込んだ際、テッドと話すメアリを見かけたときのことを言っている。
エリノアが言及する薔薇戦争とは、1455年から1485年にかけて起こったイングランドの王位をめぐる内乱のこと。薔薇戦争の名前の由来は、争いの一方であるランカスター家が赤薔薇、他方のヨーク家が白薔薇を紋章としていたためで、そこからかつてのエリノアとロディの赤い薔薇と白い薔薇についての言い争いにつながる。
メアリ役のケリー・ライリーは、ケネス・ブラナー主演の映画「名探偵ポアロ:ベネチアの亡霊」ではロウィーナ・ドレイク役を演じている。一方、ロディ役のルパート・ペンリー・ジョーンズは、「ABC殺人事件」でカーター署長を演じたピーター・ペンリー・ジョーンズの息子。本作撮影時の彼は、同時に出演中だった舞台の関係で髪を剃ってしまっていたため、カツラを着用しているという。ドクター・ロード役のポール・マクガンは、ジェラルディン・マクイーワン主演の「ミス・マープル」の一篇、「スリーピング・マーダー」にもアースキン大佐役で出演。一方、マーズデン警部役のジャック・ギャロウェイは、ジョーン・ヒクソン主演の「ミス・マープル」の一篇、「牧師館の殺人」でビル・アーチャー役を演じていた。ウェルマン夫人役のダイアナ・クイックは、ジェラルディン・マクイーワン主演「ミス・マープル3」の「バートラム・ホテルにて」でブリジット役を演じたメアリ・ナイの母で、そのメアリの父は、 BBC 制作「無実はさいなむ」でレオ・アーガイル役を演じたビル・ナイである。ホプキンズ看護師役のフィリス・ローガンは、ジョン・ソウ主演の「主任警部モース」の一篇、「カインの娘たち」のジュリア・スティーブンス役や、ジョン・ネトルズ主演の「バーナビー警部」の一篇、「カラスの森が死を招く」のケイト・メリル役でも見ることができるほか、ジョン・マルコヴィッチ主演の「ABC殺人事件」でのジャップ警部や、ジュリア・マッケンジー主演「ミス・マープル5」の「青いゼラニウム」でサマーセット警部を演じたケヴィン・マクナリーの妻でもある。また、エリノアの裁判の判事を演じたティモシー・カールトンは、ベネディクト・カンバーバッチ主演「シャーロック」シリーズではシャーロックの父親役を演じ、実際にカンバーバッチの父親でもある。セドン弁護士役のジョフリー・ビーバーズは「海上の悲劇」のトリバー役につづく「名探偵ポワロ」2度目の出演。
冒頭のエリノアとロディの逢瀬の場所はロンドンのブラマム・ガーデンズ。また、ポワロが新聞を買ってタクシーに乗るのもその近くのコリンガム・ガーデンズで、地下鉄の看板や路線図は撮影のために設置されたものであり、ここに地下鉄駅は存在しない。一方、ウェルマン夫人の邸宅、ハンタベリー・ハウスとして撮影に使われたのは、オックスフォードシャーのネトルベッドにあるジョイス・グローブ。ここはかつて、「007」シリーズの作者イアン・フレミングの祖父母の邸宅であったが、撮影時には介護施設として使われていた。ガーデンパーティーの場面冒頭、建物の横手に見えるマナーハウスらしからぬ外階段は、その転用の際につけられたものだろうか。一方、ロディが参る以外ほとんど物語に絡まないホールのエレベーター(一応、その稼働音が登場人物の注意を引いたりはするけど)は、撮影のために設えられたものだという。このジョイス・グローブは、マックス・アイアンズ主演「ねじれた家」ではエジプトのホテル屋内として撮影に使われているほか、序盤にエリノアとロディが車でくぐる門も、ジュリア・マッケンジー主演「ミス・マープル4」の「魔術の殺人」でストーニーゲイツの門として使用されている。エリノアの裁判がおこなわれた法廷はサリー州庁舎内のもので、ジェラルディン・マクイーワン主演「ミス・マープル」の「牧師館の殺人」でプロズロウ大佐が判事を務めたり、ジュリア・マッケンジー主演「ミス・マープル5」の「青いゼラニウム」でジョージ・プリチャードの公判がひらかれたりしたのも同所。ハンタベリーの村は、前述のとおり「白昼の悪魔」でもブラックリッジ村として使われたハンブルデン。ただし、ポワロが泊まっているハンタベリー・アームズ・ホテルの建物は、「西洋の星の盗難事件」のヤードリー・チェイスと同じドーニー・コートが使われており、教会前の広場に面して建っているロングショットや、ホテル内でポワロとオブライエン看護師が向かい合う奥の、窓の外の様子は合成である。そのため、村の広場の場面では周辺の建物や道の形が遠景とは異なったり、舗装されていたはずのホテルの前の道が、ポワロとオブライエン看護師がホテルの前で話す場面では土がそのまま見えていたりする。ドーニー・コートの内部は、「スタイルズ荘の怪事件」でもベルギー人亡命者の住まいとして使われていた。エリノアが投獄された牢獄の外観は、エイルズベリーのビアトン・ロードにあるエイルズベリー・プリズン。現在は青少年犯罪者の収容所だが、劇中の1937年には実際に女性犯罪者の収容所として使われていたという[6]。
ハンタベリー・ハウスでのガーデンパーティーの席で、ポワロが2階のウェルマン夫人に会釈する際の声は日本語のみ。墓地でドクター・ロードとの別れ際に「では」と言ったり、テッドやロディのメアリ評を聞いて「うむ」とうなずいたり、オブライエン看護師に「エリノアさんは死刑ですか?」と訊かれて「いや」と言いかけたりするのも同様。また、メアリに「どうぞこの先、気をつけて」と言う際、原語の 'Please be careful as you go.' は「どうぞこの先」の箇所ですべて言い終わっており、「気をつけて」と言ったときには原語の台詞はない。
ハイビジョンリマスター版の切換式字幕では、ドクター・ロードにポワロが「〔あなたは〕わたしに手を出すなと言った!」と詰め寄る台詞に「『私に手を出すな』と言った。」と表示されるが、「私に」まで括弧でくくると、「私」がポワロではなくドクター・ロードになってしまう。また、そもそも「手を出すな」とはドクター・ロードの直接の発言ではなく、ウェルマン夫人の死が殺人ではないという見解を友人として尊重するようドクターが求めたのに対し、ポワロが「では、わたしに手を出すなと?」と解釈したものであって、引用符でくくるのはその範囲によらず不適切である。
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ウェルマン夫人が亡くなる晩、メアリが「今夜はオブライエンさんとホプキンズさんが泊まってくれるけど」と言った台詞は、原語だと 'Nurse Hopkins is happy to stay tonight and take over from Nurse O'Brien. (今夜はホプキンズさんがオブライエンさんの代わりに泊まってくれるって)' という表現で、住み込みのオブライエン看護師に代わって、通いのホプキンズ看護師が夜勤を引き受けた夜にウェルマン夫人の容態が急変して死亡したことがわかる。しかし、その因果関係については最後まで言及されないどころか、のちにオブライエン看護師が「〔当夜はウェルマン夫人のそばに〕ずっとわたしひとりでした」と言うなど、オブライエン看護師も(が?)宿直していたことに話が変わるので、それとの整合性を取るために、日本語ではメアリの台詞の内容を変えたのかもしれない。なお、オブライエン看護師がウェルマン夫人死去の夜について語るのはドラマオリジナルで、その変更により、原作の設定どおりだったメアリの台詞と矛盾を生じることになった。
ホプキンズ看護師への2度目の訪問の際、ポワロが「そして、そのあとメアリのことでまた『当然』という言葉を聞きました」と言うが、ホプキンズ看護師以外も含め、ウェルマン夫人のメアリに対するかわいがり方について「当然」という言い方がなされたのは、前の訪問時の1回のみ。原語は 'And then I think again of Mary, and I hear that word again, "natural." (そして、そのあとふたたびメアリのことを考えると、また「当然」という言葉が聞こえるのです)' という表現で、動詞が現在形であるように、ポワロがメアリのことを考えると、その言葉があらためて気になると言っている。
エリノアが薔薇戦争に関する昔の口論を思い起こして「ロディの心はわたしから離れてしまった」と言ったところは、原語だと 'because Roddy would never have stayed with me. (ロディがわたしに寄り添っていたことは一度もなかったのですもの)' という台詞。つまり原語では、かつての薔薇の好みの違いから、ロディと自分は、実は昔から反りが合っていなかったことに気づいたという趣旨である。
パントリーでポワロがホプキンズ看護師に「ニュージーランドの叔母さんです」「あなた殺したんです」と言う際、声と口の動きが合っていない。これは原語音声でも同様。
ポワロが毒入りのお茶を飲み干した振りをする場面では、お茶のカップをテーブルへ持ってきた時点で、バラの花をそちらのカップへ移し替えているのがちゃんと画面下方に写っている。したがって、ポワロがカップの中身に口をつける前に躊躇を見せたのも、それが毒入りと知っていたからでもお茶が嫌いだからでもなく、バラの挿してあった水だからである。なお、このあとの「実は、私は嫌いで、飲んだことがないんです、お茶は」という台詞の「お茶」は原語だと tea で、紅茶、特にイギリスでは通例ミルクティーを指す。普段のポワロが日本語で「お茶」と呼んで愛飲しているのは tisane で、これはカモミールなどを煎じたハーブティーのこと。「〔ポワロは〕ハーブティーが好みで」という序盤のドクター・ロードの台詞も、この場面への伏線として入れられたものと思われる。加えてそれ以降も、ホプキンズ看護師に差し出されたお茶は口をつけずに置いているし、オブライエン看護師との会話の席で口をつけたのも、金属製のポットの形状からコーヒーであることがわかるようになっており、紅茶を飲まないポワロの習慣が一貫して示されている。この習慣については、スーシェの、ポワロを演じるにあたっての93項目のメモでも2番目に「紅茶 (tea) はまず飲まない」と書かれているとおりだが[7]、一方で「24羽の黒つぐみ」や「ダベンハイム失そう事件」、「ヒッコリー・ロードの殺人」などの過去のエピソードでは、出された紅茶の(あるいは、紅茶と思しき)カップに口をつける場面があった。また、のちの「マギンティ夫人は死んだ」では紅茶からミルクだけを断ったり、「死との約束」でレモンティーを注文したりするのを見ると、ここでいう tea はやはり狭義にミルクティーを指し、ミルク入りでなければ紅茶を飲むこともあるようだ。一方、毒を入れた紅茶でメアリだけを殺すのに必要な、エリノアが紅茶を飲まないという習慣も、ドラマではホプキンズ看護師の前で事前に言及される(早川書房の原作邦訳では、エリノアが紅茶を断る台詞が「わたし、結構よ」などとすべて遠慮するニュアンスで訳されているが、原文だと最初に 'I won't have any. (紅茶は飲まないの)' と言っており、普段から飲まないことを示すニュアンスがある)。もっとも、ホプキンズ看護師の目的においては、エリノアがメアリと一緒に死んでも特に不都合はなさそうだけど。
釈放されたエリノアにポワロが「外にいる人が説明してくれます、最初にあの手紙を私のところへ持ってきた人」と言う台詞の後半部分は、原語だと 'amongst other things who it was who wrote to you your letter (なかんずく、あの手紙をあなたに書いたのが誰なのか)' という表現で、説明してくれる人ではなく内容を言っている。
原作小説は3部構成で、第一部でメアリ死亡までのエリノアの心理が克明に描かれ、第二部でドクター・ロードの懇願によってポワロが乗り出し、第三部でエリノアの裁判が描かれる。しかしドラマでは、これまでの多くの作品同様、冒頭からポワロが登場する脚色が加えられた。その脚色の内容は、ドクター・ロードの知人としてポワロを村に滞在させるというもの。これによって事件発生までの経緯をポワロが間近で目撃することになり、自分の考えを最後まで明かしたがらない彼がめずらしくエリノアの有罪を強く確信している様子を描いて、エリノアの置かれた絶望的な状況を強調している。一方、この脚色に伴って、ドクターが一度はポワロを事件に関わらせまいとする場面も加えられたため、彼がエリノアの無実を信じてポワロの元へ依頼に向かう、というドクターの思いを強く印象づける場面の効果が弱くなってしまった。そのためか、エリノアが匿名の手紙に関してドクターに意見を求めようとするなど、彼女が実はロディよりもドクターを信頼していると匂わせたり、原作では単に柔弱な青年だったロディが傲慢さや不実さを垣間見せて、相対的にドクターの人柄を持ち上げるような変更が加えられている。そのロディの名字がウェルマンからウィンターに変更されているのは、ウェルマン夫人の遺産がロディに行かないことを視聴者に納得させやすくするためだろうか(もっとも、ウェルマン夫人の亡夫と同じ名字であるほうが、夫人本人とは血縁がない可能性は高いのだけど)。一方、メアリに想いを寄せるテッド・ビッグランドの名字がホーリックになり、職業も庭師に変わったのは、原作で庭師だったホーリックとまとめられたためである。
エリノアから「変なものが届いて」と言われて、ロディが「請求書?」と推測するのはやや突飛だが、原語だとエリノアは something (あるもの) としか言っておらず、「変な」というニュアンスはない。ロディが「変なものって?」と訊いた台詞も、原語は 'I'm intrigued. (気になるね)' という反応である。また、ロディがつづけて「だいたい妖精たちがダンスをして、いやらしい請求書が舞い込んでくるのは夏 (the height of summer) と決まってるんだ」と言うのは、夏至の夜には妖精が姿を現して森でダンスをするという言い伝えを踏まえたもの。妖精もさすがに請求書は送らないと思うけれど、梅雨がないイギリスでは日も長く、開放的な気分になるこの季節に請求書が多く届きがちになることを、いたずら好きとされる妖精の仕業にしておどけてみせたと思われる。なお、当時の、特に彼らの階級の買い物は通例、信用に基づいたあと払いであり、後日、店から請求書が届く。
エリノアたちがハンタベリー・ハウスへ出発する際、ハイビジョンリマスター版では、駐められたロディの車の側面に現代の車と人影が映り込んでいるのが見える。
エリノアがウェルマン夫人の部屋から出た際に聞こえる看護師たちの会話は、日本語だと「エリノアさんにおばさんは何を言ったのかしらねえ」と始まるが、原語だと 'And now Miss Carlisle's here with her fiance. (そして今度はエリノアさんが婚約者連れでやってきたでしょう)' という表現で、つづく会話同様にエリノアへの不信を表したものであり、「まだ二人っきりでおばさんの部屋にいるのよ」という台詞につながるように内容を置き換えるにしても、日本語の台詞とは逆に、エリノアからウェルマン夫人へ話した内容をうたがうほうが自然ではないかしら。
テッドがメアリを誘った「ガルボ主演で、パリの話」という映画はおそらく、グレタ・ガルボ主演で1936年に公開された「椿姫」。なお、劇中の舞台は「椿姫」公開翌年の1937年だが、これは1940年に発表された原作にもあった台詞である。
ウェルマン夫人が無遺言で亡くなったため、「いちばん近い血族」ということでエリノアがその遺産を相続するが、劇中当時も原作の執筆・発表当時も、甥や姪に相続権はない[4]。イングランドにおいて、一定条件下で甥や姪に相続権が生じるよう法改正がなされたのは1952年のことである[5]。
メアリがホプキンズ看護師から言われる「それもいいけど、メアリ、あなたならもっとましなことができるわ。特別な教育を受けているんですもの」という台詞は、原語だと 'Aye, he's nice enough, Mary dear, but I'm sure your can do better. Yes, with your education especially. (彼も悪くはないけど、メアリ、あなたならもっと上を目指せるわ。特別な教育を受けているんですもの)' という表現で、 he (彼) の名前は明示されないが、テッドではメアリの相手に不足だと言っていると思われる。また、それにつづく「その成果を見せてちょうだいな」も、原語では 'Now, do let us see what your aunt sent. (さあ、おばさんが送ってくれたものを見せてちょうだいな)' で、ここでの aunt (おばさん) はメアリをドイツの学校へ送ったウェルマン夫人ではなく、ニュージーランドからプレゼントを送ってきたメアリの叔母のこと。
オリジナル版では、夜の図書室でエリノアとロディが話す場面で、ロディの肩越しに映すカットの画面下方に糸のようなものが映り込んでいる。
ポワロに「雪のように真っ白な羊を飼っていたのは誰でしたか?」と訊かれてエリノアが「メアリ?」と思い至ったのは、童謡「メリーさんのひつじ」の歌詞を踏まえた結果。この童謡の1番の歌詞の後半は、原語だと Mary had a little lamb. Its fleece was white as snow. (メリー〔メアリ〕さんは小さな羊を飼っていました。その毛は雪のように真っ白でした) となっている。
ハンタベリー・アームズの外壁にかけられた看板に書かれた AA and RAC recommended (AA および RAC 推薦) という文言の AA と RAC とはそれぞれ Automobile Association と Royal Automobile Club の略称。これらはイギリスにおける、日本の JAF に近い組織のことで、ロードサービスや自動車保険の提供に加え、自動車旅行振興の趣旨でホテルの格付けをおこなっている。また、 5/-, 3/6 などの表記は料金で、 x/y で「xシリングyペンス」の意味になる。 - は 0 を表す。
エリノアがロディの浮気を目撃した際に蓄音機が奏でていたのは 'Body and Soul' という曲である。
新聞に載っていたウェルマン夫人の命日は1937年9月16日だが、同じ新聞で特集されているガーシュイン死去は同年の7月11日のことで、その翌日には実際に新聞各紙で報じられており、死後2ヶ月も経ってからあらためて複数の新聞がその記事を載せるとは考えにくく思える。
ポワロがタクシーに「大英図書館までお願いします」と言う台詞があるが、大英図書館という組織は1972年の大英図書館法で規定され、1973年に発足した。加えて、タクシーに行き先として告げられるような大英図書館の建物ができたのは1998年のことで、それまでその蔵書の大半は大英博物館内に収蔵されていた。
村の教会前でポワロがメアリを呼び止めた際、画面奥の屋根の上にテレビのアンテナが見える。なお、「白昼の悪魔」でもほぼ同じ場所からのほぼ同じアングルでテレビのアンテナが見えていたが、今回見えているのは別のアンテナである。
エリノアがサンドイッチペーストを買う場面で口にする「プトマイン中毒」とは食中毒の古い言い方。プトマインとは動物性蛋白質が腐敗して発生する毒素の総称で、かつては食中毒の原因と考えられていたが、現在は食中毒の原因の多くは細菌性毒素であることがわかっている。
エリノアがサンドイッチを食べながら言及する「おやかんをかけて (Polly put the kettle on)」という歌は、それがそのまま題名になっている 'Polly Put the Kettle On' という童謡の一節。この童謡はお茶の時間の様子を歌ったもので、その連想によって言及されたと見られる。
ポワロがロディに引用したワーズワースの詩は 'Lucy (ルーシー)' の一節である。
メアリが死んだ日のことを、ロディが「〔メアリを〕驚かせないように待つことにしたんです」と言うが、彼はフランスから予定外に帰国していたのだから、ロッジで待とうとメアリが驚くことは変わらないはず。前半部分に対応する原語は 'You see, she wasn't expecting me, (会う約束をしていなかったので)' となっており、礼儀の問題である。また、そのあとにポワロが言う「エリノアが犯罪を免れたら」とは、エリノアは犯罪の直接の被害者ではないのですこし違和感のある表現だが、原語は 'So, if she escapes the gallows, (エリノアが絞首刑を免れたら)' という台詞で、ひょっとすると「エリノアが有罪を免れたら」の誤読だろうか。
エリノアの有罪確定の新聞記事に重ねて「5日以内に絞首刑」という字幕が表示されるが、紙上に見える HANGING IN FIVE DAYS は「5日後に絞首刑」の意味で、このような場合の in は未来の時間一点を指し、「以内」の意味はない(「以内」の意味では within を用いる)。そのため、のちのポワロやドクター・ロードも執行日が確定しているかのように話す。
夢に出てきたメアリの姿を、ポワロが「初めてホテルの前で会ったときのまま」と言うが、夢のなかでも再現された、ホテルの前でポワロがメアリに「会った」のは、メアリが遺産相続のことを知らせに行く途中のことで、それより前にハンタベリー・ハウスのガーデンパーティーでメアリに紹介されて会っている。ポワロの台詞は原語だと 'as she was at first on the street outside of my hotel (最初にホテルの外の通りにいたときのまま)' で、ドクター・ロードがポワロに手紙の相談を持ち込んだ際、テッドと話すメアリを見かけたときのことを言っている。
エリノアが言及する薔薇戦争とは、1455年から1485年にかけて起こったイングランドの王位をめぐる内乱のこと。薔薇戦争の名前の由来は、争いの一方であるランカスター家が赤薔薇、他方のヨーク家が白薔薇を紋章としていたためで、そこからかつてのエリノアとロディの赤い薔薇と白い薔薇についての言い争いにつながる。
メアリ役のケリー・ライリーは、ケネス・ブラナー主演の映画「名探偵ポアロ:ベネチアの亡霊」ではロウィーナ・ドレイク役を演じている。一方、ロディ役のルパート・ペンリー・ジョーンズは、「ABC殺人事件」でカーター署長を演じたピーター・ペンリー・ジョーンズの息子。本作撮影時の彼は、同時に出演中だった舞台の関係で髪を剃ってしまっていたため、カツラを着用しているという。ドクター・ロード役のポール・マクガンは、ジェラルディン・マクイーワン主演の「ミス・マープル」の一篇、「スリーピング・マーダー」にもアースキン大佐役で出演。一方、マーズデン警部役のジャック・ギャロウェイは、ジョーン・ヒクソン主演の「ミス・マープル」の一篇、「牧師館の殺人」でビル・アーチャー役を演じていた。ウェルマン夫人役のダイアナ・クイックは、ジェラルディン・マクイーワン主演「ミス・マープル3」の「バートラム・ホテルにて」でブリジット役を演じたメアリ・ナイの母で、そのメアリの父は、 BBC 制作「無実はさいなむ」でレオ・アーガイル役を演じたビル・ナイである。ホプキンズ看護師役のフィリス・ローガンは、ジョン・ソウ主演の「主任警部モース」の一篇、「カインの娘たち」のジュリア・スティーブンス役や、ジョン・ネトルズ主演の「バーナビー警部」の一篇、「カラスの森が死を招く」のケイト・メリル役でも見ることができるほか、ジョン・マルコヴィッチ主演の「ABC殺人事件」でのジャップ警部や、ジュリア・マッケンジー主演「ミス・マープル5」の「青いゼラニウム」でサマーセット警部を演じたケヴィン・マクナリーの妻でもある。また、エリノアの裁判の判事を演じたティモシー・カールトンは、ベネディクト・カンバーバッチ主演「シャーロック」シリーズではシャーロックの父親役を演じ、実際にカンバーバッチの父親でもある。セドン弁護士役のジョフリー・ビーバーズは「海上の悲劇」のトリバー役につづく「名探偵ポワロ」2度目の出演。
冒頭のエリノアとロディの逢瀬の場所はロンドンのブラマム・ガーデンズ。また、ポワロが新聞を買ってタクシーに乗るのもその近くのコリンガム・ガーデンズで、地下鉄の看板や路線図は撮影のために設置されたものであり、ここに地下鉄駅は存在しない。一方、ウェルマン夫人の邸宅、ハンタベリー・ハウスとして撮影に使われたのは、オックスフォードシャーのネトルベッドにあるジョイス・グローブ。ここはかつて、「007」シリーズの作者イアン・フレミングの祖父母の邸宅であったが、撮影時には介護施設として使われていた。ガーデンパーティーの場面冒頭、建物の横手に見えるマナーハウスらしからぬ外階段は、その転用の際につけられたものだろうか。一方、ロディが参る以外ほとんど物語に絡まないホールのエレベーター(一応、その稼働音が登場人物の注意を引いたりはするけど)は、撮影のために設えられたものだという。このジョイス・グローブは、マックス・アイアンズ主演「ねじれた家」ではエジプトのホテル屋内として撮影に使われているほか、序盤にエリノアとロディが車でくぐる門も、ジュリア・マッケンジー主演「ミス・マープル4」の「魔術の殺人」でストーニーゲイツの門として使用されている。エリノアの裁判がおこなわれた法廷はサリー州庁舎内のもので、ジェラルディン・マクイーワン主演「ミス・マープル」の「牧師館の殺人」でプロズロウ大佐が判事を務めたり、ジュリア・マッケンジー主演「ミス・マープル5」の「青いゼラニウム」でジョージ・プリチャードの公判がひらかれたりしたのも同所。ハンタベリーの村は、前述のとおり「白昼の悪魔」でもブラックリッジ村として使われたハンブルデン。ただし、ポワロが泊まっているハンタベリー・アームズ・ホテルの建物は、「西洋の星の盗難事件」のヤードリー・チェイスと同じドーニー・コートが使われており、教会前の広場に面して建っているロングショットや、ホテル内でポワロとオブライエン看護師が向かい合う奥の、窓の外の様子は合成である。そのため、村の広場の場面では周辺の建物や道の形が遠景とは異なったり、舗装されていたはずのホテルの前の道が、ポワロとオブライエン看護師がホテルの前で話す場面では土がそのまま見えていたりする。ドーニー・コートの内部は、「スタイルズ荘の怪事件」でもベルギー人亡命者の住まいとして使われていた。エリノアが投獄された牢獄の外観は、エイルズベリーのビアトン・ロードにあるエイルズベリー・プリズン。現在は青少年犯罪者の収容所だが、劇中の1937年には実際に女性犯罪者の収容所として使われていたという[6]。
ハンタベリー・ハウスでのガーデンパーティーの席で、ポワロが2階のウェルマン夫人に会釈する際の声は日本語のみ。墓地でドクター・ロードとの別れ際に「では」と言ったり、テッドやロディのメアリ評を聞いて「うむ」とうなずいたり、オブライエン看護師に「エリノアさんは死刑ですか?」と訊かれて「いや」と言いかけたりするのも同様。また、メアリに「どうぞこの先、気をつけて」と言う際、原語の 'Please be careful as you go.' は「どうぞこの先」の箇所ですべて言い終わっており、「気をつけて」と言ったときには原語の台詞はない。
ハイビジョンリマスター版の切換式字幕では、ドクター・ロードにポワロが「〔あなたは〕わたしに手を出すなと言った!」と詰め寄る台詞に「『私に手を出すな』と言った。」と表示されるが、「私に」まで括弧でくくると、「私」がポワロではなくドクター・ロードになってしまう。また、そもそも「手を出すな」とはドクター・ロードの直接の発言ではなく、ウェルマン夫人の死が殺人ではないという見解を友人として尊重するようドクターが求めたのに対し、ポワロが「では、わたしに手を出すなと?」と解釈したものであって、引用符でくくるのはその範囲によらず不適切である。
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ウェルマン夫人が亡くなる晩、メアリが「今夜はオブライエンさんとホプキンズさんが泊まってくれるけど」と言った台詞は、原語だと 'Nurse Hopkins is happy to stay tonight and take over from Nurse O'Brien. (今夜はホプキンズさんがオブライエンさんの代わりに泊まってくれるって)' という表現で、住み込みのオブライエン看護師に代わって、通いのホプキンズ看護師が夜勤を引き受けた夜にウェルマン夫人の容態が急変して死亡したことがわかる。しかし、その因果関係については最後まで言及されないどころか、のちにオブライエン看護師が「〔当夜はウェルマン夫人のそばに〕ずっとわたしひとりでした」と言うなど、オブライエン看護師も(が?)宿直していたことに話が変わるので、それとの整合性を取るために、日本語ではメアリの台詞の内容を変えたのかもしれない。なお、オブライエン看護師がウェルマン夫人死去の夜について語るのはドラマオリジナルで、その変更により、原作の設定どおりだったメアリの台詞と矛盾を生じることになった。
ホプキンズ看護師への2度目の訪問の際、ポワロが「そして、そのあとメアリのことでまた『当然』という言葉を聞きました」と言うが、ホプキンズ看護師以外も含め、ウェルマン夫人のメアリに対するかわいがり方について「当然」という言い方がなされたのは、前の訪問時の1回のみ。原語は 'And then I think again of Mary, and I hear that word again, "natural." (そして、そのあとふたたびメアリのことを考えると、また「当然」という言葉が聞こえるのです)' という表現で、動詞が現在形であるように、ポワロがメアリのことを考えると、その言葉があらためて気になると言っている。
エリノアが薔薇戦争に関する昔の口論を思い起こして「ロディの心はわたしから離れてしまった」と言ったところは、原語だと 'because Roddy would never have stayed with me. (ロディがわたしに寄り添っていたことは一度もなかったのですもの)' という台詞。つまり原語では、かつての薔薇の好みの違いから、ロディと自分は、実は昔から反りが合っていなかったことに気づいたという趣旨である。
パントリーでポワロがホプキンズ看護師に「ニュージーランドの叔母さんです」「あなた殺したんです」と言う際、声と口の動きが合っていない。これは原語音声でも同様。
ポワロが毒入りのお茶を飲み干した振りをする場面では、お茶のカップをテーブルへ持ってきた時点で、バラの花をそちらのカップへ移し替えているのがちゃんと画面下方に写っている。したがって、ポワロがカップの中身に口をつける前に躊躇を見せたのも、それが毒入りと知っていたからでもお茶が嫌いだからでもなく、バラの挿してあった水だからである。なお、このあとの「実は、私は嫌いで、飲んだことがないんです、お茶は」という台詞の「お茶」は原語だと tea で、紅茶、特にイギリスでは通例ミルクティーを指す。普段のポワロが日本語で「お茶」と呼んで愛飲しているのは tisane で、これはカモミールなどを煎じたハーブティーのこと。「〔ポワロは〕ハーブティーが好みで」という序盤のドクター・ロードの台詞も、この場面への伏線として入れられたものと思われる。加えてそれ以降も、ホプキンズ看護師に差し出されたお茶は口をつけずに置いているし、オブライエン看護師との会話の席で口をつけたのも、金属製のポットの形状からコーヒーであることがわかるようになっており、紅茶を飲まないポワロの習慣が一貫して示されている。この習慣については、スーシェの、ポワロを演じるにあたっての93項目のメモでも2番目に「紅茶 (tea) はまず飲まない」と書かれているとおりだが[7]、一方で「24羽の黒つぐみ」や「ダベンハイム失そう事件」、「ヒッコリー・ロードの殺人」などの過去のエピソードでは、出された紅茶の(あるいは、紅茶と思しき)カップに口をつける場面があった。また、のちの「マギンティ夫人は死んだ」では紅茶からミルクだけを断ったり、「死との約束」でレモンティーを注文したりするのを見ると、ここでいう tea はやはり狭義にミルクティーを指し、ミルク入りでなければ紅茶を飲むこともあるようだ。一方、毒を入れた紅茶でメアリだけを殺すのに必要な、エリノアが紅茶を飲まないという習慣も、ドラマではホプキンズ看護師の前で事前に言及される(早川書房の原作邦訳では、エリノアが紅茶を断る台詞が「わたし、結構よ」などとすべて遠慮するニュアンスで訳されているが、原文だと最初に 'I won't have any. (紅茶は飲まないの)' と言っており、普段から飲まないことを示すニュアンスがある)。もっとも、ホプキンズ看護師の目的においては、エリノアがメアリと一緒に死んでも特に不都合はなさそうだけど。
釈放されたエリノアにポワロが「外にいる人が説明してくれます、最初にあの手紙を私のところへ持ってきた人」と言う台詞の後半部分は、原語だと 'amongst other things who it was who wrote to you your letter (なかんずく、あの手紙をあなたに書いたのが誰なのか)' という表現で、説明してくれる人ではなく内容を言っている。
- [1] cypress, n.¹ meanings, etymology and more | Oxford English Dictionary
- [2] 池上賀英子, 杉の柩に托されしもの ――『十二夜』のバラードの周辺(Ⅰ)――, 1988
- [3] シェイクスピア (訳: 松岡和子), 『十二夜』, ちくま文庫(筑摩書房), 1998, p. 70
- [4] Administration of Estates Act 1925
- [5] Intestates' Estates Act 1952
- [6] Aylesbury Prison information
- [7] David Suchet and Geoffrey Wansell, Poirot and Me, headline, 2013, p. 291
ロケ地写真
カットされた場面
なし
映像ソフト
- [DVD] 「名探偵ポワロ 33 杉の
柩 」(字幕・吹替) ハピネット・ピクチャーズ※1 - [DVD] 「名探偵ポワロ DVDコレクション 52 杉の柩」(字幕・吹替) デアゴスティーニ・ジャパン※2
- ※1 「名探偵ポワロ NEW SEASON DVD-BOX 1」に収録
- ※2 吹替は大塚智則さん主演の新録で、映像もイギリスで販売されているDVDと同じバリエーションを使用