スズメバチの巣 Wasps' Nest
放送履歴
日本
オリジナル版(44分00秒)
- 1992年03月30日 22時25分〜 (NHK総合)
- 1992年05月26日 17時05分〜 (NHK総合)
- 1994年03月30日 17時05分〜 (NHK総合)
- 1998年12月08日 15時10分〜 (NHK総合)
- 2003年07月08日 18時00分〜 (NHK衛星第2)
ハイビジョンリマスター版(50分00秒)
- 2016年04月09日 16時00分〜 (NHK BSプレミアム)
- 2016年09月14日 17時00分〜 (NHK BSプレミアム)
- 2020年09月12日 17時10分〜 (NHK BSプレミアム)※1
- 2021年11月08日 09時00分〜 (NHK BS4K)
- 2022年03月03日 13時00分〜 (NHK BS4K)
- 2022年11月16日 21時00分〜 (NHK BSプレミアム・BS4K)※2
- ※1 エンディング最後の画面下部に次回の放送時間案内の字幕表示(帯付き)あり
- ※2 BSプレミアムでの放送は、エンディング前半の画面下部に次回の放送日時案内の字幕表示(帯付き)あり
海外
- 1991年01月27日 (英・ITV)
原作
邦訳
- 「スズメ蜂の巣」 - 『教会で死んだ男』 クリスティー文庫 宇野輝雄訳
- 「スズメ蜂の巣」 - 『教会で死んだ男』 ハヤカワミステリ文庫 宇野輝雄訳
- 「スズメ蜂の巣」 - 『砂に書かれた三角形』 創元推理文庫 宇野利泰訳
原書
雑誌等掲載
- The Wasps' Nest, Daily Mail, 20 November 1928 (UK)
- The Worst of All, Detective Story Magazine, 9 March 1929 (USA)
短篇集
- Wasps' Nest, Double Sin and Other Stories, Dodd Mead, 1961 (USA)
- Wasps' Nest, Poirot's Early Cases, Collins, September 1974 (UK)
オープニングクレジット
日本
オリジナル版
名探偵ポワロ / AGATHA CHRISTIE'S POIROT / DAVID SUCHET // HUGH FRASER / PHILIP JACKSON / PAULINE MORAN / スズメバチの巣, WASPS' NEST / Dramatized by DAVID RENWICK
ハイビジョンリマスター版
名探偵ポワロ / DAVID SUCHET / AGATHA CHRISTIE'S POIROT / スズメバチの巣 // HUGH FRASER / PHILIP JACKSON / PAULINE MORAN / WASPS' NEST / Dramatized by DAVID RENWICK
エンディングクレジット
日本
オリジナル版
原作 アガサ・クリスティー 脚本 デビッド・レンウィック 監督 ブライアン・ファーナム 制作 LWT(イギリス) / 出演 ポワロ(デビッド・スーシェ) 熊倉一雄 ヘイスティングス(ヒュー・フレイザー) 富山 敬 ジャップ警部(フィリップ・ジャクソン) 坂口芳貞 ミス・レモン 翠 準子 ハリスン 津嘉山正種 モリー 高島雅羅 三ツ矢雄二 山田礼子 沢田敏子 斉藤 昌 糸 博 篠原恵美 / 日本語版 宇津木道子 山田悦司 福岡浩美 南部満治 金谷和美
ハイビジョンリマスター版
原作 アガサ・クリスティー 脚本 デビッド・レンウィック 演出 ブライアン・ファーナム 制作 LWT (イギリス) / 出演 ポワロ(デビッド・スーシェ) 熊倉 一雄 ヘイスティングス(ヒュー・フレイザー) 富山 敬/安原 義人 ジャップ警部(フィリップ・ジャクソン) 坂口 芳貞 ミス・レモン(ポーリン・モラン) 翠 準子 ハリスン 津嘉山 正種/世古 陽丸 モリー 高島 雅羅 三ツ矢 雄二 山田 礼子 沢田 敏子 斉藤 昌 糸 博 篠原 恵美 飯富 和子 設楽 麻美 石川 千鶴 日本語版スタッフ 翻訳 宇津木 道子 演出 山田 悦司 音声 金谷 和美 プロデューサー 里口 千
海外
オリジナル版
Hercule Poirot: DAVID SUCHET; Captain Hastings: HUGH FRASER; Chief Inspector Japp: PHILIP JACKSON; Miss Lemon: PAULINE MORAN; John Harrison: MARTIN TURNER; Molly Deane: MELANIE JESSOP; Claude Langton: PETER CAPALDI; Dr Belvedere: JOHN BOSWALL; Mrs Henderson: KATE LYNN-EVANS; Model Girl: SERENA SCOTT THOMAS; Commere at Fashion Show: HILARY TINDALL; Waiter: JULIAN FORSYTH / Developed for Television by Carnival Films / (中略)Assistant Directors: EDWARD BRETT, ADAM GOODMAN, GILLY RADDINGS; Production Manager: KIERON PHIPPS; Production Co-ordinator: MONICA ROGERS; Accounts: JOHN BEHARRELL, PENELOPE FORRESTER; Locations: PAUL SHERSBY, SCOTT ROWLATT; Script Supervisor: SAM DONOVAN; Camera Operators: STEVEN ALCORN, BEN SERESIN; Focus Pullers: HUGH FAIRS, RICHARD PHILPOTT; Clapper/Loader: RAY COOPER; Grip: JOHN ETHERINGTON; Boom Operator: MARTIN TREVIS; Sound Assistant: RICHIE FINNEY; Gaffer: JOHN HUMPHREY; Art Director: CAROLINE SMITH; Set Dresser: CHRYSOULA SOFITSI; Production Buyer: DAVID BORDEWEY; Property Master: MICKY LENNON; Construction Manager: LES PEACH; Wardrobe: JOHN SCOTT, KIRSTEN WING, VERNON WHITE, NIGEL EGERTON; Assistant Costume Designer: MICHAEL PRICE; Make up Artists: KATE BOWER, PATRICIA KIRKMAN; First Assistant Editor: NIGEL PARKES; Dubbing: PETER LENNARD, MIKE MURR, RUPERT SCRIVENER; Post Production Supervisor: DEREK BAIN; Panaflex 16(R) Camera by Panavision(R); Grip Equipment by Grip House Ltd; Lighting & Generators by Samuelson Lighting Ltd; Made at Twickenham Studios, London, England; Costume Designer: ELIZABETH WALLER; Make up Supervisor: HILARY MARTIN; Sound Recordist: PETER GLOSSOP; Titles: PAT GAVIN; Casting: REBECCA HOWARD; Production Supervisor: DONALD TOMS; Editor: FRANK WEBB / Production Designer: MIKE OXLEY / Director of Photography: JASON LEHEL / Music: CHRISTOPHER GUNNING / Executive Producer: NICK ELLIOTT / Producer: BRIAN EASTMAN / Director: BRIAN FARNHAM
あらすじ
夏祭りの席上で旧友の息子ジョン・ハリスンに出会ったポワロ。ハリスンは婚約者のモリー・ディーンと一緒で、それは喜ぶべきことのはずだった。しかし、二人の前途に不吉な予兆を感じ取ったポワロは、まだ起きぬ犯罪を防ぐべく捜査を始める……
事件発生時期
1934年8月上旬?
主要登場人物
エルキュール・ポワロ | 私立探偵 |
アーサー・ヘイスティングス | ポワロの探偵事務所のパートナー、陸軍大尉 |
ジェームス・ジャップ | スコットランド・ヤード主任警部 |
フェリシティ・レモン | ポワロの秘書 |
ジョン・ハリスン | 作家、ポワロの旧友の息子 |
モリー・ディーン | ファッションモデル、ハリスンの婚約者 |
クロード・ラングトン | 彫刻家、ハリスンの友人、モリーの元婚約者 |
H・A・ベルベディア | 外科医 |
解説、みたいなもの
ポワロの穏やかな友情と静かなラストが心に残るエピソード。原作で描かれているのはその最後15分程度のポワロとハリスンの場面で、それより前はほとんどドラマオリジナル。そのオリジナルの部分では、ドラマで追加された各レギュラー陣にそれぞれ事件解決に貢献する箇所が用意されている。
全篇を通じてセピア色の映像で描かれる(のはオリジナル版だけだけど)物憂い夏の情景が印象的な本作の舞台は、ロンドンよりやや上流のテムズ河畔で、ハリスンの家があるのはシェパートン。夏祭りの会場とされるマーブル・ヒル・パークはトゥイッケナムのテムズ川沿いに実在する公園で、ジョージ2世が愛人のサフォーク伯爵夫人のために建てたマーブル・ヒル・ハウスという館があるが、撮影がおこなわれたのは現地より南の、ハンプトン・コート近くにあったウィルダネスという邸宅である。ただ、劇中で見られる邸宅はすでに取り壊されて存在しない。また、パブのリバーサイド・アームズやヘンダーソン夫人の薬局があるのは、そのさらにすこし南のウェストン・グリーン近くのアルマ・ロードからチェスナット・アベニュー。ただし、リバーサイド・アームズは実際にはアルマ・アームズ(現マーニーズ・ビレッジ・イン)というパブで、ヘンダーソン夫人の薬局の外観は路上に組まれたセットのようだ。冒頭に登場するマーブル・ヒルという地下鉄の駅も実在せず、撮影に使われたのは、地下鉄ピカデリー線をマーブル・ヒルとは反対方向に行ったアーノス・グローブ駅。ただし、駅の側から道路の方向を撮したカットは、駅前のボウズ・ロードをすこし東へ行ったアーノス・プール前で撮影されており、違う場所で撮った映像を編集で同じ場所のように見せている(そのため、タクシーに乗ろうと歩きだしたポワロは歩道を下りてからもすこし歩くのに、カットが切り替わると、タクシーは歩道にぴったり寄って停まっている)。駅の建物はチャールズ・ホールデンの設計によって1932年に建てられたもので[1]、このホールデンは同時期に多くの地下鉄駅をデザインしており、現在でも似た外観の地下鉄駅をよく目にすることができるほか、「ベールをかけた女」のアシーナ・ホテルことロンドン大学のセナト・ハウスなども彼の手による[2]。ミス・レモンの通うフィットネスクラブやドクター・ベルベディアの医院があるというデボンシャー街はリージェンツ・パーク南側に実在する通りだが、撮影がおこなわれたのはメイフェアのサウス・ストリートで、フィットネスクラブの建物は実際にはトーマス・グッド食器店。ポーチェスター(・ホテル?)ということになっているファッションショーの会場や楽屋は、「西洋の星の盗難事件」のホテル・マグニフィセントや「あなたの庭はどんな庭?」のソ連大使館に使われたフリーメイソンズ・ホールだが、入り口の階段があるホールはサウス・ストリートのアバーコンウェイ・ハウスで撮影されており、通りの向かいにはドクター・ベルベディアの医院が見える(入り口のポーターがかぶっている茶色のトップハットも、「西洋の星の盗難事件」のホテル・マグニフィセントのポーターとおそろいである)。ジャップ警部が入院した病院は、ハマースミスに近い元王立マソニック病院。この王立マソニック病院は、「コックを捜せ」のベルグラビア銀行や、「クラブのキング」のパレード・フィルムのオフィスとしても撮影に使われていた。ポワロがハリスン邸を再訪した日に午後6時半の刻を告げるのは、サンベリー・オン・テムズのサンベリー・クロスにある時計台で、映像では時計塔のように見えるが、実際の高さは5メートル程度である。モリーが事故を起こした場所は、チャートシー・ミーズのミード・レーンとダムジー・スタンプの丁字路か。
ハイビジョンリマスター版では冒頭の駅前の場面に、腹痛を訴えるジャップ警部に対して「食べ過ぎたんですか?」とヘイスティングスが訊き、警部がうなずいて「昼に食べたサンドイッチが妙な味がしたんですよ」と答えるやりとりがあるが、警部のうなずきと返答は噛み合わない。ヘイスティングスの台詞は原語だと 'Stomach still giving you gyp? (まだお腹が痛むんですか?)' という質問である。
モリーがその表紙を飾った Vogue 誌は現存する実在のファッション誌。1892年にアメリカで創刊され、イギリスでは1916年より刊行された。
日本語ではポワロが「ムッシュウ・ハリスンの父上はわたしの親しい友人でした」と説明するが、原語ではさらに詳しく 'The father of Monsieur Harrison was my first and dearest friend in this country. (ムッシュウ・ハリスンの父上は、この国での最初でいちばん親しい友人でした)' と言っている。ポワロが第一次大戦の影響でイギリスへ亡命し、スタイルズ・セント・メリーの村でヘイスティングスと再会したことは「スタイルズ荘の怪事件」で描かれているとおりだが、ハリスンの父親と知りあったのは、スタイルズ・セント・メリーの前に別の亡命先があったのか、それともスタイルズ・セント・メリーでヘイスティングスと再会する前に知りあったのだろうか。もしくは、ベルギー時代に知りあっていたヘイスティングスは勘定に入っていないのだろうか。あるいは、まさかヘイスティングスがいちばん親しい友人ではない可能性も……?
当初、夏祭りの会場でポワロがヘイスティングスに大声で呼びかける場面があったが、スーシェの、ポワロはそのようなことはしないという意見により現場で撮影計画が変更され、ヘイスティングスに歩み寄って話しかける形になったという[3]。
ハリスンがつけているスケジュール帳から劇中は8月上旬であることがわかり、またその日付と曜日の関係から年は1934年と推測されるが、モリーが表紙を飾る Vogue 誌には September 19, 1935 (1935年9月19日) と書かれており、辻褄が合わない。モリーの乗っている MG PA も1936年製である。特段の理由がなければ1935年に時代設定されることが多いこの時期のエピソードにおいて、劇中に織り交ぜられた史実との兼ね合いもなく1934年に設定されるのはめずらしいが、1934年と1990年は日付と曜日の関係が同じなので、スケジュール帳は単に、撮影がおこなわれた1990年の曜日にそのまま従っただけかもしれない。
モリーが「北のほうのホテル」へ車を走らせる場面では、カットによって太陽が車の正面にあったり後ろにあったりする。昼食時であることや影の長さからは、太陽はほぼ南にあると思われるので、太陽が正面にあると目的地とは反対の方角へ進んでいることになる。もっとも、一時的に反対の方角へ進むことも、あるかもしれないけれど。なお、モリーが前を走っていた車を追い越すカットだけは太陽が車の進行方向左手にあり、また影がだいぶ長くなっている。
日本語だとモリーが事故による怪我を「膝をすこしすりむいただけ」と言うが、原語では 'Just a few scratches under my right knee. (右膝の下をすこしすりむいただけ)' と言っており、怪我の場所が異なる。つづけて「今年はスカート丈が長くてよかったわ」と言うように、1920年代後半にはすでにスカート丈の流行が膝上まで短くなることもあったが、1930年代半ばは膝下まで覆うスカートが流行で、そのために原語では膝から上に怪我をしないで済んだのだろう。
ヘンダーソン夫人がハリスンとモリーの関係を「アインシュタインとジンジャー・ロジャースみたい」と喩えるジンジャー・ロジャースとは、当時一世を風靡していた映画女優で、フレッド・アステアと共演で多くのミュージカル映画に出演したことで知られる。そのうちの一作「トップ・ハット」(1935年)は、「安いマンションの事件」冒頭の映画館にもポスターが貼られていた。
クロード・ラングトンの家についてヘンダーソン夫人が「この先の角にある新しい家」と言うが、そのあとに映る彼の家は曲がり角にない。ヘンダーソン夫人の台詞は、原語だと 'You'll find him in the new house round the corner. (角を曲がったところの新しい家ですわ)' となっている。また、その家のアトリエでラングトンが制作中のオブジェは、ウラジーミル・タトリンによる第三インターナショナル記念塔の模型がモデルと見られる。
ファッションショーでモリーの着ているドレスについて、司会の女性が「襟足を深くカットした大胆なバックがポイントです」と紹介するが、「襟足」はうなじの髪の生え際を指す言葉。原語では décolletage と言っており、これは深い「襟ぐり」のことである。
ミス・レモンがポワロにフィットネスを案内する際、日本語では「毎日3クラスありますの」と言うが、そのときに出したカードには月曜・水曜・金曜にしか開講していないように書かれている。また、以前にミス・レモンが「じゃあ、ちょっと早めにお昼休みよろしいですね (So it's all right if I take an early lunch then, Mr Poirot.)」と言ってフィットネスに出かけたのは金曜日だったが、金曜日のクラスは9時~10時半、11時~12時半、2時~3時半で、どれも「ちょっと早めに昼休み」をとって昼食を兼ねて受講するには合わないように見受けられる(なお、ポワロのマンションからフィットネスクラブのあるデボンシャー街までの距離は1~2キロメートルほどと思われる)。フィットネスから帰るミス・レモンが、ポワロたちとランチを共にする予定のハリスンと出会ったことからは、11時~12時半のクラスがもっともそれらしいが、フィットネスクラブ前の場面は、8月上旬の正午過ぎにしては影がだいぶ長く見える(実際の地理に照らせば、太陽は西南西にある)。一方、フィットネスクラブを出るときにミス・レモンが言う「じゃ来週また、さよなら」という台詞は、原語だと 'Well, see you on Wednesday, then. (じゃ水曜日にまた)' となっており、月曜日が飛ばされているが、これは1930年代当時、8月の第1月曜日が銀行休日(公休日)であったことを反映したのだろう。
青酸カリの瓶のラベルには Potasii. Cyanide と書かれているが、青酸カリは英語で potassium cyanide なので、省略して書くなら Potassi. Cyanide である。
ファッションショーの会場で、ポワロが老人を指さし「ヘイスティングス、カメラで!」と言ったあとの、「え?」「ほら!」「あ」というやりとりは日本語のみの台詞である。
ハリスンが自宅で険しい表情をしている場面などの劇伴は、「戦勝舞踏会事件」のメインテーマの流用である。
マーブル・ヒルの駅前の路面には道路標示を隠した跡が見え、通過するバスの窓にも現代の街灯が映り込んでいる。一方、ジャップ警部が入院した病院では、廊下の天井に火災感知器のようなものが見えるほか、廊下やエレベーターに蛍光灯と思しき照明が用いられているが、蛍光灯の商業生産が始まったのは1937年のことだった。
本篇とは関係ないが、下で紹介している DVD のあらすじにある「ハリー」はハリスンの間違い。ちなみに、ハリーはヘンリーの愛称で、ジョンの愛称ならジョニーやジャックである。原語音声では実際に、モリーやラングトンがハリスンのことを「ジョニー」と呼んでいる。
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事故のあとに帰ってきたモリーの車はまだ左のヘッドライトとフロントフェンダーが破損していたが、車のブレーキにそもそも異常がなかったとすると、月曜日までかかった修理は内部の破損だけを直すものだったのだろうか。それとも、修理の話も嘘だったのだろうか。また、その2日後にハリスンのもとから去っていくモリーの車はヘッドライトもフロントフェンダーも直っていたが、帰ってすぐに追加で修理したのだろうか。
謎解きの途中、ラングトンがアトリエに飾っていたモリーの写真についてポワロが「古い写真で、彼女はもう自分を何とも思っていないとラングトンは言いました」と言うが、アトリエ訪問時にラングトンがそのように言った場面は「名探偵ポワロ」オリジナル版ではカットされて見られない。
モリーがドクター・ベルベディアにハリスンの余命のことを知らされていたとポワロに告げられたハリスンが、日本語だと「それで……彼女の様子がおかしかったのか」と気づきを得たかのようにつぶやくが、そのあとの回想ではモリー本人がハリスンに「ドクター・ベルベディアから昨夜ぜんぶ聞いたの」と告白しており、ハリスンはそのことをすでに知っていたはずである。ハリスンの独白は原語だと 'That's... why she was in such a state when she came here. (それが……彼女の様子がおかしかった理由ですよ)' と言っており、モリーが家のなかで休んでいた本当の理由を明かしている。なお、モリーの状態について、日本語だとハリスンは当初「頭痛がすると言って」と言っていたが、原語は 'Got a migraine or something. (頭痛か何かで)' という表現で、頭痛を理由と断定していなかった。
「洗濯ソーダを飲んで死ぬことは滅多にありませんからね」というポワロの台詞があるように、洗濯ソーダこと炭酸ナトリウムは中華麺の食感を高める鹹 水 にも用いられる物質で、その推定経口致死量は30グラムと言われる。対する青酸カリことシアン化カリウムの致死量は0.15〜0.30グラムで、その差は100倍以上。
全篇を通じてセピア色の映像で描かれる(のはオリジナル版だけだけど)物憂い夏の情景が印象的な本作の舞台は、ロンドンよりやや上流のテムズ河畔で、ハリスンの家があるのはシェパートン。夏祭りの会場とされるマーブル・ヒル・パークはトゥイッケナムのテムズ川沿いに実在する公園で、ジョージ2世が愛人のサフォーク伯爵夫人のために建てたマーブル・ヒル・ハウスという館があるが、撮影がおこなわれたのは現地より南の、ハンプトン・コート近くにあったウィルダネスという邸宅である。ただ、劇中で見られる邸宅はすでに取り壊されて存在しない。また、パブのリバーサイド・アームズやヘンダーソン夫人の薬局があるのは、そのさらにすこし南のウェストン・グリーン近くのアルマ・ロードからチェスナット・アベニュー。ただし、リバーサイド・アームズは実際にはアルマ・アームズ(現マーニーズ・ビレッジ・イン)というパブで、ヘンダーソン夫人の薬局の外観は路上に組まれたセットのようだ。冒頭に登場するマーブル・ヒルという地下鉄の駅も実在せず、撮影に使われたのは、地下鉄ピカデリー線をマーブル・ヒルとは反対方向に行ったアーノス・グローブ駅。ただし、駅の側から道路の方向を撮したカットは、駅前のボウズ・ロードをすこし東へ行ったアーノス・プール前で撮影されており、違う場所で撮った映像を編集で同じ場所のように見せている(そのため、タクシーに乗ろうと歩きだしたポワロは歩道を下りてからもすこし歩くのに、カットが切り替わると、タクシーは歩道にぴったり寄って停まっている)。駅の建物はチャールズ・ホールデンの設計によって1932年に建てられたもので[1]、このホールデンは同時期に多くの地下鉄駅をデザインしており、現在でも似た外観の地下鉄駅をよく目にすることができるほか、「ベールをかけた女」のアシーナ・ホテルことロンドン大学のセナト・ハウスなども彼の手による[2]。ミス・レモンの通うフィットネスクラブやドクター・ベルベディアの医院があるというデボンシャー街はリージェンツ・パーク南側に実在する通りだが、撮影がおこなわれたのはメイフェアのサウス・ストリートで、フィットネスクラブの建物は実際にはトーマス・グッド食器店。ポーチェスター(・ホテル?)ということになっているファッションショーの会場や楽屋は、「西洋の星の盗難事件」のホテル・マグニフィセントや「あなたの庭はどんな庭?」のソ連大使館に使われたフリーメイソンズ・ホールだが、入り口の階段があるホールはサウス・ストリートのアバーコンウェイ・ハウスで撮影されており、通りの向かいにはドクター・ベルベディアの医院が見える(入り口のポーターがかぶっている茶色のトップハットも、「西洋の星の盗難事件」のホテル・マグニフィセントのポーターとおそろいである)。ジャップ警部が入院した病院は、ハマースミスに近い元王立マソニック病院。この王立マソニック病院は、「コックを捜せ」のベルグラビア銀行や、「クラブのキング」のパレード・フィルムのオフィスとしても撮影に使われていた。ポワロがハリスン邸を再訪した日に午後6時半の刻を告げるのは、サンベリー・オン・テムズのサンベリー・クロスにある時計台で、映像では時計塔のように見えるが、実際の高さは5メートル程度である。モリーが事故を起こした場所は、チャートシー・ミーズのミード・レーンとダムジー・スタンプの丁字路か。
ハイビジョンリマスター版では冒頭の駅前の場面に、腹痛を訴えるジャップ警部に対して「食べ過ぎたんですか?」とヘイスティングスが訊き、警部がうなずいて「昼に食べたサンドイッチが妙な味がしたんですよ」と答えるやりとりがあるが、警部のうなずきと返答は噛み合わない。ヘイスティングスの台詞は原語だと 'Stomach still giving you gyp? (まだお腹が痛むんですか?)' という質問である。
モリーがその表紙を飾った Vogue 誌は現存する実在のファッション誌。1892年にアメリカで創刊され、イギリスでは1916年より刊行された。
日本語ではポワロが「ムッシュウ・ハリスンの父上はわたしの親しい友人でした」と説明するが、原語ではさらに詳しく 'The father of Monsieur Harrison was my first and dearest friend in this country. (ムッシュウ・ハリスンの父上は、この国での最初でいちばん親しい友人でした)' と言っている。ポワロが第一次大戦の影響でイギリスへ亡命し、スタイルズ・セント・メリーの村でヘイスティングスと再会したことは「スタイルズ荘の怪事件」で描かれているとおりだが、ハリスンの父親と知りあったのは、スタイルズ・セント・メリーの前に別の亡命先があったのか、それともスタイルズ・セント・メリーでヘイスティングスと再会する前に知りあったのだろうか。もしくは、ベルギー時代に知りあっていたヘイスティングスは勘定に入っていないのだろうか。あるいは、まさかヘイスティングスがいちばん親しい友人ではない可能性も……?
当初、夏祭りの会場でポワロがヘイスティングスに大声で呼びかける場面があったが、スーシェの、ポワロはそのようなことはしないという意見により現場で撮影計画が変更され、ヘイスティングスに歩み寄って話しかける形になったという[3]。
ハリスンがつけているスケジュール帳から劇中は8月上旬であることがわかり、またその日付と曜日の関係から年は1934年と推測されるが、モリーが表紙を飾る Vogue 誌には September 19, 1935 (1935年9月19日) と書かれており、辻褄が合わない。モリーの乗っている MG PA も1936年製である。特段の理由がなければ1935年に時代設定されることが多いこの時期のエピソードにおいて、劇中に織り交ぜられた史実との兼ね合いもなく1934年に設定されるのはめずらしいが、1934年と1990年は日付と曜日の関係が同じなので、スケジュール帳は単に、撮影がおこなわれた1990年の曜日にそのまま従っただけかもしれない。
モリーが「北のほうのホテル」へ車を走らせる場面では、カットによって太陽が車の正面にあったり後ろにあったりする。昼食時であることや影の長さからは、太陽はほぼ南にあると思われるので、太陽が正面にあると目的地とは反対の方角へ進んでいることになる。もっとも、一時的に反対の方角へ進むことも、あるかもしれないけれど。なお、モリーが前を走っていた車を追い越すカットだけは太陽が車の進行方向左手にあり、また影がだいぶ長くなっている。
日本語だとモリーが事故による怪我を「膝をすこしすりむいただけ」と言うが、原語では 'Just a few scratches under my right knee. (右膝の下をすこしすりむいただけ)' と言っており、怪我の場所が異なる。つづけて「今年はスカート丈が長くてよかったわ」と言うように、1920年代後半にはすでにスカート丈の流行が膝上まで短くなることもあったが、1930年代半ばは膝下まで覆うスカートが流行で、そのために原語では膝から上に怪我をしないで済んだのだろう。
ヘンダーソン夫人がハリスンとモリーの関係を「アインシュタインとジンジャー・ロジャースみたい」と喩えるジンジャー・ロジャースとは、当時一世を風靡していた映画女優で、フレッド・アステアと共演で多くのミュージカル映画に出演したことで知られる。そのうちの一作「トップ・ハット」(1935年)は、「安いマンションの事件」冒頭の映画館にもポスターが貼られていた。
クロード・ラングトンの家についてヘンダーソン夫人が「この先の角にある新しい家」と言うが、そのあとに映る彼の家は曲がり角にない。ヘンダーソン夫人の台詞は、原語だと 'You'll find him in the new house round the corner. (角を曲がったところの新しい家ですわ)' となっている。また、その家のアトリエでラングトンが制作中のオブジェは、ウラジーミル・タトリンによる第三インターナショナル記念塔の模型がモデルと見られる。
ファッションショーでモリーの着ているドレスについて、司会の女性が「襟足を深くカットした大胆なバックがポイントです」と紹介するが、「襟足」はうなじの髪の生え際を指す言葉。原語では décolletage と言っており、これは深い「襟ぐり」のことである。
ミス・レモンがポワロにフィットネスを案内する際、日本語では「毎日3クラスありますの」と言うが、そのときに出したカードには月曜・水曜・金曜にしか開講していないように書かれている。また、以前にミス・レモンが「じゃあ、ちょっと早めにお昼休みよろしいですね (So it's all right if I take an early lunch then, Mr Poirot.)」と言ってフィットネスに出かけたのは金曜日だったが、金曜日のクラスは9時~10時半、11時~12時半、2時~3時半で、どれも「ちょっと早めに昼休み」をとって昼食を兼ねて受講するには合わないように見受けられる(なお、ポワロのマンションからフィットネスクラブのあるデボンシャー街までの距離は1~2キロメートルほどと思われる)。フィットネスから帰るミス・レモンが、ポワロたちとランチを共にする予定のハリスンと出会ったことからは、11時~12時半のクラスがもっともそれらしいが、フィットネスクラブ前の場面は、8月上旬の正午過ぎにしては影がだいぶ長く見える(実際の地理に照らせば、太陽は西南西にある)。一方、フィットネスクラブを出るときにミス・レモンが言う「じゃ来週また、さよなら」という台詞は、原語だと 'Well, see you on Wednesday, then. (じゃ水曜日にまた)' となっており、月曜日が飛ばされているが、これは1930年代当時、8月の第1月曜日が銀行休日(公休日)であったことを反映したのだろう。
青酸カリの瓶のラベルには Potasii. Cyanide と書かれているが、青酸カリは英語で potassium cyanide なので、省略して書くなら Potassi. Cyanide である。
ファッションショーの会場で、ポワロが老人を指さし「ヘイスティングス、カメラで!」と言ったあとの、「え?」「ほら!」「あ」というやりとりは日本語のみの台詞である。
ハリスンが自宅で険しい表情をしている場面などの劇伴は、「戦勝舞踏会事件」のメインテーマの流用である。
マーブル・ヒルの駅前の路面には道路標示を隠した跡が見え、通過するバスの窓にも現代の街灯が映り込んでいる。一方、ジャップ警部が入院した病院では、廊下の天井に火災感知器のようなものが見えるほか、廊下やエレベーターに蛍光灯と思しき照明が用いられているが、蛍光灯の商業生産が始まったのは1937年のことだった。
本篇とは関係ないが、下で紹介している DVD のあらすじにある「ハリー」はハリスンの間違い。ちなみに、ハリーはヘンリーの愛称で、ジョンの愛称ならジョニーやジャックである。原語音声では実際に、モリーやラングトンがハリスンのことを「ジョニー」と呼んでいる。
» 結末や真相に触れる内容を表示
事故のあとに帰ってきたモリーの車はまだ左のヘッドライトとフロントフェンダーが破損していたが、車のブレーキにそもそも異常がなかったとすると、月曜日までかかった修理は内部の破損だけを直すものだったのだろうか。それとも、修理の話も嘘だったのだろうか。また、その2日後にハリスンのもとから去っていくモリーの車はヘッドライトもフロントフェンダーも直っていたが、帰ってすぐに追加で修理したのだろうか。
謎解きの途中、ラングトンがアトリエに飾っていたモリーの写真についてポワロが「古い写真で、彼女はもう自分を何とも思っていないとラングトンは言いました」と言うが、アトリエ訪問時にラングトンがそのように言った場面は「名探偵ポワロ」オリジナル版ではカットされて見られない。
モリーがドクター・ベルベディアにハリスンの余命のことを知らされていたとポワロに告げられたハリスンが、日本語だと「それで……彼女の様子がおかしかったのか」と気づきを得たかのようにつぶやくが、そのあとの回想ではモリー本人がハリスンに「ドクター・ベルベディアから昨夜ぜんぶ聞いたの」と告白しており、ハリスンはそのことをすでに知っていたはずである。ハリスンの独白は原語だと 'That's... why she was in such a state when she came here. (それが……彼女の様子がおかしかった理由ですよ)' と言っており、モリーが家のなかで休んでいた本当の理由を明かしている。なお、モリーの状態について、日本語だとハリスンは当初「頭痛がすると言って」と言っていたが、原語は 'Got a migraine or something. (頭痛か何かで)' という表現で、頭痛を理由と断定していなかった。
「洗濯ソーダを飲んで死ぬことは滅多にありませんからね」というポワロの台詞があるように、洗濯ソーダこと炭酸ナトリウムは中華麺の食感を高める
- [1] Arnos Grove Underground Station - 1358981 | Historic England
- [2] SENATE HOUSE AND INSTITUTE OF EDUCATION (UNIVERSITY OF LONDON) AND ATTACHED RAILINGS - 1113107 | Historic England
- [3] David Suchet and Geoffrey Wansell, Poirot and Me, headline, 2013, pp. 111-112
ロケ地写真
カットされた場面
日本
オリジナル版
[01:47/0:31] | 駅前でのポワロ、ヘイスティングス、ジャップ警部の会話の一部 |
[03:49/0:11] | 夏祭りでのピエロと子供たちのやりとり |
[08:12/0:06] | 夏祭りの場面の最後 |
[08:15/0:33] | ジャップ警部の病室での盲腸の手術についての会話 |
[09:01/0:33] | 鏡を見つめていたハリスンが机に向かう場面 |
[11:06/0:32] | ヘイスティングスがバスルームに現像器具を運び込む場面の後半 |
[21:38/1:40] | アトリエでのラングトンとのやりとりの後半 〜 ポワロのマンションでのポワロとヘイスティングスのやりとりの前半 |
[25:25/0:56] | ハリスンの家でのハリスンとモリーの様子 |
[26:46/0:07] | 病院のテラスをポワロとヘイスティングスがあとにする場面 |
[33:29/0:26] | ポワロがハリスンの家に入っていく場面 |
ハイビジョンリマスター版
なし映像ソフト
- [VHS] 「名探偵エルキュール・ポアロ 第23巻 スズメ蜂の巣」(字幕) 日本クラウン
- [DVD] 「名探偵ポワロ 13 プリマス行き急行列車, スズメバチの巣」(字幕・吹替) ビームエンタテインメント(現ハピネット・ピクチャーズ)※1
- [DVD] 「名探偵ポワロ [完全版] 13 プリマス行き急行列車, スズメバチの巣」(字幕・吹替) ハピネット・ピクチャーズ※2
- [DVD] 「名探偵ポワロ DVDコレクション 47 スズメバチの巣」(字幕・吹替) デアゴスティーニ・ジャパン※3
- [BD] 「名探偵ポワロ Blu-ray BOX Disc 7 プリマス行き急行列車, スズメバチの巣, マースドン荘の惨劇, 二重の手がかり」(字幕/吹替) ハピネット・ピクチャーズ※4
- ※1 「名探偵ポワロ DVD-BOX2」にも収録
- ※2 「名探偵ポワロ [完全版] DVD-BOX1」「名探偵ポワロ [完全版] 全巻 DVD-SET」「名探偵ポワロ [完全版] DVD-SET 4」にも収録
- ※3 吹替は大塚智則さん主演の新録で、映像もイギリスで販売されているDVDと同じバリエーションを使用
- ※4 「名探偵ポワロ Blu-ray BOX vol. 1」に収録