スタイルズ荘の怪事件
The Mysterious Affair at Styles

放送履歴

日本

オリジナル版(103分30秒)

  • 1990年11月24日 20時14分〜 (NHK衛星第2)
  • 1993年07月17日 21時15分〜 (NHK総合)
  • 1993年12月18日 15時05分〜 (NHK総合)

ハイビジョンリマスター版(103分30秒)

  • 2016年03月12日 15時00分〜 (NHK BSプレミアム)
  • 2016年08月17日 16時00分〜 (NHK BSプレミアム)
  • 2020年08月16日 16時16分〜 (NHK BSプレミアム)
  • 2021年11月05日 09時00分〜 (NHK BS4K)
  • 2022年10月19日 21時00分〜 (NHK BSプレミアム・BS4K)
  • エンディング最後の画面下部に次回の放送時間案内の字幕表示(帯付き)あり

海外

  • 1990年09月16日 (英・ITV)

原作

邦訳

  • 『スタイルズ荘の怪事件』 クリスティー文庫 矢沢聖子訳
  • 『スタイルズ荘の怪事件』 ハヤカワミステリ文庫 田村隆一訳
  • 『スタイルズ荘の怪事件』 創元推理文庫 山田蘭訳
  • 『スタイルズの怪事件』 創元推理文庫 田中西二郎訳
  • 『スタイルズ荘の怪事件』 新潮文庫 真野明裕訳

原書

  • The Mysterious Affair at Styles, John Lane, October 1920 (USA)
  • The Mysterious Affair at Styles, The Bodley Head, January 1921 (UK)

オープニングクレジット

日本

オリジナル版

名探偵ポワロ ♦︎ スペシャル / AGATHA CHRISTIE'S POIROT // アガサ・クリスティー, スタイルズ荘の怪事件 / DAVID SUCHET / HUGH FRASER / PHILIP JACKSON / The Mysterious Affair at Styles / by AGATHA CHRISTIE / Dramatized by CLIVE EXTON

ハイビジョンリマスター版

名探偵ポワロ / DAVID SUCHET / AGATHA CHRISTIE'S POIROT / スタイルズ荘の怪事件 // DAVID SUCHET / HUGH FRASER / PHILIP JACKSON / The Mysterious Affair at Styles / by AGATHA CHRISTIE / Dramatized by CLIVE EXTON

エンディングクレジット

日本

オリジナル版

原作 アガサ・クリスティー 脚本 クライブ・エクストン 製作総指揮 ニック・エリオット 撮影 バーノン・レイトン 監督 ロス・デベニッシュ 制作 LWT(イギリス) / 出演 ポワロ(デビッド・スーシェ) 熊倉一雄 ヘイスティングス(ヒュー・フレイザー) 富山 敬 ジャップ警部(フィリップ・ジャクソン) 坂口芳貞  ジョン(デビッド・リントゥール) 樋󠄁浦 勉 イングルソープ(マイケル・クロウニン) 銀河万丈 エミリー(ジリアン・バーグ) 阿部寿美子 イビー(ジョアンナ・マカラム) 野沢雅子 ローレンス(アンソニー・カルフ) 田中正彦 メアリ(ビーティ・エドニー) 幸田直子 シンシア(アリ・バーンズ) 安達 忍 山内雅人 沼波輝枝 辻󠄀村真人 田浦 環 糸  博 池水通洋 仲木隆司 森田育代 中村秀利 丸山詠二 篠原恵美 / 日本語版 宇津木道子  福岡浩美 南部満治 金谷和美 山田悦司

ハイビジョンリマスター版

原作 アガサ・クリスティー 脚本 クライブ・エクストン 演出 ロス・デベニッシュ 制作 LWT (イギリス) / 出演 ポワロ(デビッド・スーシェ) 熊倉 一雄 ヘイスティングス(ヒュー・フレイザー) 富山 敬 ジャップ警部(フィリップ・ジャクソン) 坂口 芳貞  ジョン(デビッド・リントゥール) 樋󠄁浦 勉 イングルソープ(マイケル・クローニン) 銀河 万丈 エミリー(ジリアン・バージ) 阿部 寿美子 イビー(ジョアンナ・マッカラム) 野沢 雅子 ローレンス(アンソニー・カーフ) 田中 正彦 メアリ(ビーティ・エドニー) 幸田 直子 シンシア(アリ・バーン) 安達 忍  山内 雅人 沼波 輝枝 辻󠄁村 真人 田浦 環 糸 博 池水 通洋 仲木 隆司 森田 育代 中村 秀利 丸山 詠二 篠原 恵美  日本語版スタッフ 翻訳 宇津木 道子 演出 山田 悦司 音声 金谷 和美 プロデューサー 里口 千

海外

オリジナル版

Hercule Poirot: DAVID SUCHET; Lieutenant Hastings: HUGH FRASER; Inspector Japp: PHILIP JACKSON / Mary Cavendish: BEATIE EDNEY; John Cavendish: DAVID RINTOUL; Mrs Inglethorp: GILLIAN BARGE; Alfred Inglethorp: MICHAEL CRONIN; Evie Howard: JOANNA McCALLUM; Lawrence Cavendish: ANTHONY CALF; Cynthia Murdoch: ALLIE BYRNE; Dorcas: LALA LLOYD; Dr Wilkins: MICHAEL GODLEY; Mr Wells: MORRIS PERRY; Mrs Raikes: PENELOPE BEAUMONT; Summerhaye: DAVID SAVILE; Edwin Mace: TIM MUNRO; Phillips, K. C.: TIM PREECE; Mrs Dainty: MERELINA KENDALL; Vicar: BRIAN COLEMAN / Chemist: ERIC STOVELL; Judge: DONALD PELMEAR; Nurse: CAROLINE SWIFT; Army Officer: KEN ROBERTSON; Tindermans: MICHAEL ROBERTS; Clerk of the Court: GORDON DULIEU; Foreman of the Jury: JEFFREY ROBERT; Hire Car Driver: ROBERT VOWLES; Soldier: DAVID MICHAELS / DEVELOPED FOR TELEVISION BY CARNIVAL FILMS / (中略) / Editor: DEREK BAIN / Production Designer: ROB HARRIS / Director of Photography: VERNON LAYTON / Music: CHRISTOPHER GUNNING / Executive Producer: NICK ELLIOTT / Producer: BRIAN EASTMAN / Director: ROSS DEVENISH

あらすじ

 第一次世界大戦の最中、療養休暇でスタイルズ・セント・メリーを訪れたヘイスティングス中尉は、かつてベルギーで知りあったエルキュール・ポワロと嬉しい再会をはたした。しかし、ヘイスティングスの滞在先であるスタイルズ荘の女主人であり、ポワロらベルギー人亡命者の恩人でもあるイングルソープ夫人が殺され、二人は一緒に捜査を始める……

事件発生時期

1917年6月中旬 〜 7月下旬

主要登場人物

エルキュール・ポワロベルギー人亡命者、元警察官
アーサー・ヘイスティングスポワロの友人、陸軍中尉
ジェームス・ジャップスコットランド・ヤード警部
エミリー・ローズ・イングルソープスタイルズ荘の女主人
アルフレッド・イングルソープエミリーの夫
ジョン・ウェンドバー・カベンディッシュエミリーと前夫の息子、ヘイスティングスの友人
メアリ・カベンディッシュジョンの妻
ローレンス・カベンディッシュジョンの弟
シンシア・マードックエミリーの友人の娘、薬剤師
イブリン・ハワードエミリーの話し相手、愛称イビー
ドーカススタイルズ荘の老メイド
ウィルキンズ医師
ウェルズ弁護士
レイクススタイルズ荘近くに住む未亡人
サマーヘイ警視

解説、みたいなもの

 ポワロ、ヘイスティングス、ジャップ警部の3人の、イギリスでの出会いを描いたエピソード。1920年に週刊版タイムズ紙へ発表され[1]、同年アメリカで先行して書籍化された原作は、第一次大戦中にクリスティーが病院で調剤の仕事をしていたころ、その経験も活かして書かれた作品で[2]、ポワロのデビュー作であると同時にクリスティー自身のデビュー作でもある。第一次大戦中のイギリスは、対ドイツの戦意高揚を目的にベルギー人難民の積極的な受け入れをおこなっており、ベルギーからの亡命者というポワロの設定も、クリスティーの故郷トーキーに多く滞在していたベルギー人難民に着想を得たという[2]。ドラマはクリスティーの生誕100周年を記念して初の完全な長篇枠を想定して制作され(初の長篇原作作品であった「エンドハウスの怪事件」は、短篇2話形式への分割を想定して制作されていた)、イギリスではクリスティーの誕生日翌日である9月16日に単発放送された。日本でもイギリス放送からあまり間を置かず、さらに初のオープニング以降ノーカット(ただし、エンディングクレジットの内容は置き換え)で放送されている。ポワロの吹替を担当した熊倉一雄さんも、「メソポタミア殺人事件」アテレコ直後という時点では、いちばん気に入っているエピソードとして本作を挙げていた[3]。撮影時期は1990年5月頃で[4]、放送は第2シリーズ諸作と同年だが、制作・撮影のくくりとしては第3シリーズの1作目にあたる。
 時はほかの作品よりも約20年前の第一次世界大戦中。ヘイスティングスの階級は大尉の一つ下の中尉、ジャップ警部の階級も主任警部ではないヒラの警部となっているが、警部の階級が原作準拠なのに対し、ヘイスティングスの階級への言及は原作になく、このとき中尉なのはドラマオリジナルの設定である。ポワロを含めた3人の姿はさすがに20年前と見るのは厳しいものの、ポワロの髪の毛が多少豊かでお腹周りがスリムになっているなど、3人ともほかの作品より若々しく見える。また、道ゆく車(自動車の型も古いが、まだ馬車も多く見られる)や登場人物たちの服装など、大道具小道具が20年前の様子を再現しているほか、冒頭で表示されるキャストやタイトルにセリフ体のフォントを使っていたり(Agatha Christie's Poirot ではエンディングクレジットも)、全体にほかの作品よりもクラシカルな雰囲気が演出されている。なお、具体的な時期は原作だと1917年7月〜9月という設定だったが、撮影時期を考慮してか、ドラマでは同年6月〜7月に微調整されている(ただし、「カーテン 〜ポワロ最後の事件〜」では、原作でもドラマでも1916年のことと回顧される)。
 台詞の言葉に至るまでかなり原作に忠実にドラマ化されているが、時間の都合からか、いくつかの要素が落とされた。たとえば、毒物学の権威バウエルスタイン博士はウィルキンズ医師にまとめられて存在自体が省略されているし、何人かの人物に嫌疑が向くくだりは丸々なくなっている。また、ジョンとローレンスが、イングルソープ夫人の義理の息子(前夫とその先妻のあいだの子)から実子へ設定が変更されているため、夫人の再婚によって彼らに遺産が行かなくなるという状況の現実味が乏しく感じられるかもしれない。
 ヘイスティングスが見ているニュース映画の字幕では、ダグラス・ヘイグ司令官のことを General Haig (ヘイグ将軍) と書いているが、1917年時点の彼はすでに元帥へ昇進している[5]
 日本語だとイングルソープはイビーのいとこということだが、原語音声では second cousin (はとこ) である。
 スタイルズ荘へ向かう途中、レイクス夫人の横を通過していく際、横手の家の煙突にテレビアンテナが見える。
 ローレンスとシンシアがスタイルズ荘前でバスから降りる際、日本語音声ではなぜかシンシアが「さよなら、ローレンス」とローレンスに別れの挨拶をする。原語音声や日本語台本の指定では、その次の「じゃあね」という台詞まで含めて、バスの中の女性の声になっている。
 ヘイスティングスがベルギーでのポワロとの出会いについて語る際、日本語で「まあ、そんなこともあって、彼と親しくなったんです」というところは、原語だと 'My system's based on his, though of course I've progressed rather further. (ぼくのやり方は彼に倣ってるんです。まあもちろん、ぼくなりにだいぶ進展させてますけどね)' とちゃっかり見栄を張っている。なお、原語の台詞はほぼ原作どおりである。
 ポワロがベルギー人の仲間に指し示す「ルリハコベ」は、原語だと anagallis arvensis あるいは scarlet pimpernel と言っており、これはルリハコベの一種ながらアカバナルリハコベという品種で、その花の色は瑠璃色(青)ではなく赤。ベニハコベとも言われ、その花を紋章とする一味の活躍を描いたバロネス・オルツィの小説『紅はこべ』の題名としても知られる。
 ポワロらベルギー人の一行が村に戻ってくるときに歌う It's a long way to Tipperary は、第一次大戦の際に英軍の行軍歌として使われ広まったというアイルランドの歌で、ティペラリーとはアイルランド南部の町の名である。
 「冷たいレモネードでも飲みたいですね」と言ったヘイスティングスにメアリが「レモンなんてもう3年も見たことありませんわ」と応じる台詞があるが、舞台である1917年の3年前とはすなわち第一次大戦が勃発した1914年で、つまり戦争が始まって以来という趣旨である。原語では 'I haven't seen a lemon since 1914! (レモンなんて1914年以来見ていませんわ)' という表現で、年が直接言及される。
 ジョンから書斎に呼ばれたメアリがふりかえりざまに「何ですの?」と言うが、原語音声にも日本語台本にもこのとき台詞はなく、幸田直子さんによるアドリブか、現場での追加と見られる。またそのあと、メアリの「〔イビーが〕出ていく?」に対してジョンが「何と言っても聞かないんだ」と応じるところは、台詞をかぶせないためか、ジョンの口の動きに対して日本語の台詞が大きく遅れている。
 村の郵便局兼雑貨屋でポワロがココアを買ったときに言われる「2ポンド3ペンスになります」は、原語だと 'That'll be two and three pence, please, sir.' で、本来の会計は2シリング3ペンス。なお、シリングとは1971年まで使われていた古い通貨単位で、12ペンスで1シリング、20シリング(240ペンス)で1ポンドだった。現在は100ペンスで1ポンド。
 カベンディッシュ家とポワロの関係について、ヘイスティングスがシンシアに「そういうおつきあいとは知りませんでしたね」と言うところは、原語だと 'You've been entertaining a celebrity unawares. (知らずに名士をもてなしていたわけですね)' という台詞で、知らなかったのはシンシア(たち)のほうである。
 火曜日の晩、メアリが「〔コーヒーは〕居間のほうでいただきましょうか」と言ったときの「居間」に対応する部分は原語だと drawing room と言っており、これはもともと食事のあとに下がってお茶を飲んだりする部屋のことで、一般には「客間」や「応接間」という訳語が当てられるが、来客の応接に限らず、家の主人たちがくつろぐ場としても使われる。
 シンシアが夫人からランプをつけていくように言われたとき、彼女は「もう暗いですわね」と言うが、部屋のなかにはまだ窓からと見られる光が差し込んでおり、次の場面でもほかの家人が明かりをつけずにカードをやったり新聞を読んだりしている。確かに日が落ちて屋内は暗くなりかけているが、原語だとシンシアは 'It will be dark soon. (もうすぐ暗くなりますわね)' と言っており、字義上はほぼ逆の意味の台詞である。また、そのまだ明るさが残る状況でジョンが「こんな夜遅く」と言うが、イギリスは日本とくらべて緯度が高く、また当時も夏時間が実施されていたため、夏至前後の日没は午後9時20分を過ぎ、明るさの程度から見て、おそらく夜10時に近い時刻と思われる。しかし、そこからせいぜい数週間後と思われる謎解きの日には、夜7時に来るように言われたジャップ警部が現れた際、外はすっかり暗くなっている。
 スタイルズ・セント・メリーのポワロの部屋の壁には、ホワイトヘイブン・マンション56B号室で果物の鉢が置かれたサイドボードの上の壁にかけられているのと同じ絵が飾られている。なお、その絵はプラハのカレル橋東詰の風景画だが、絵の右下に描かれた建物は、現在は失われている。
 '...ll and' と書かれた紙の燃え残りを見てヘイスティングスが「これは遺言状の頭の決まり文句です」と言ったのは、原語では 'That could be "will and testament." (ひょっとすると will and testament かも)' と言っているように、それを will and testament (遺言) という表現の一部と判断したため。「エンドハウスの怪事件」のニックの遺言状も原語だと 'This is the last will and testament of Magdara Buckley. (これはマグダラ・バックリーの最新の遺言状です)' と書き始められており、バイスには「きわめて略式」と評価されていたが、その書き出しは定型どおりである。
 ポワロとヘイスティングスが交わす「君はこの事件をよくつかんでますね」「ええ、がっちり」というやりとりは、原語だと 'You have a good grip on this affair, Hastings. (ああ、君はこの事件をよく握ってますね)' 'Grasp. (つかむ)' という会話で、ポワロが grip と grasp の使い分けをまちがえたのをヘイスティングスが訂正している。
 ストリキニーネの量を表すのに使われる「グレイン (grain)」とは、ヤード・ポンド法における重さの最小単位で、常衡ポンドの7000分の1の重さを表し、メートル法では約64.8ミリグラム。 grain には穀物の一粒という意味があり、もともと麦一粒の重さとして定義されたという。
 検死審問でウェルズ弁護士が、薬局でストリキニーネが売られた6月18日のことを「先週月曜日の晩」と言うが、イングルソープ夫人殺害が翌6月19日火曜日、検死審問がその週の金曜日なので、「先週」という表現はおかしい。原語だと 'Monday evening last (先の月曜日の晩)' という表現で、「先週」とは限らない。
 検死審問のあとにポワロとヘイスティングスが歩いていたのは、フットパス (footpath) と呼ばれる徒歩用の道。昔から人々の利用に供されてきた道は、その土地の所有者であっても他者の利用を制限できるべきではないという考え方に基づいて、私有地内であってもフットパスの通行権は法律で保障されており、これにかかる柵は、ポワロたちが乗り越えた部分のように乗り越えやすく作られる。
 カベンディッシュ家のロンドンの住まいでポワロがトランプの塔を建てているとき、カードの内側の模様と数字がカットによって複数回変わる。
 日本語音声において、序盤の駅の構内放送は Styles St. Mary を「スタイルズ・セント・メリー」と発音しているが、検死審問でのウェルズ弁護士は「スタイルズ・セント・メアリ」と発音。これはそもそも日本語版の台本がそうなっている。ちなみに、宇津木道子さんによる「名探偵ポワロ」の日本語台本では原則、人名の Mary は「メアリ」、地名などの Mary は「メリー」と区別されており、後の「二重の手がかり」ではポワロが「スタイルズ・セント・メリー」と発音している。
 ヘイスティングスがシンシアに「いとこも看護婦ですが」と言った際、ハイビジョンリマスター版の切換式字幕では「従兄弟も看護婦ですが」と字幕が出るが、看護婦ならその「いとこ」は女性のはず。
 物語の主な舞台のスタイルズ荘はエセックスにある設定だが、撮影が行われた建物はグロスターシャーのホースレイにあるチャベネージ・ハウス。序盤に登場するスタイルズ・セント・メリーの駅は、「ジョニー・ウェイバリー誘拐事件」でも撮影に使われた、サセックスを走るブルーベル鉄道のホーステッド・ケインズ駅。同鉄道の車内は「コックを捜せ」にも登場している。スタイルズ・セント・メリーの村は、チャベネージ・ハウスに近いウィルトシャーのイーストン・グレイで撮影されたが、ポワロたちベルギー人亡命者が住むリーストウェイズ・コテージの内部はウィンザー近郊のドーニー・コート、検死審問のひらかれたパブ〈J・バーンズ〉の内部はバッキンガムシャーのアマシャム近郊にあるチェニーズ・マナーハウスで撮影されている(『テレビ版 名探偵ポワロ』でチェニーズ・マナーハウスがスタイルズ荘の部屋の撮影に使われたと書かれているのはおそらく誤り[6])。冒頭でジョンがヘイスティングスに面会に来たのは、シャーロック・ホームズとドクター・ワトソンの出会いの場所としても知られるセント・バーソロミュー病院。ジョンの裁判が行われる中央刑事裁判所は、外観は現地だが、内部はオックスフォード・タウン・ホール内で撮影されている。カベンディッシュ家のロンドンの住まいがあるのはミドルトン・スクエアだが、屋内のポワロがカードの家を建てていた部屋や、謎解きがおこなわれる部屋はセット。階段のあるホールも、玄関のドアの上に明かり取りの窓がないので、外観とは別の場所で撮影したと見られる。ラストシーンでカベンディッシュ家を後にしたポワロとヘイスティングスが歩いているのは、ミドルトン・スクエアから程近いロイド・スクエア。
 スタイルズ荘に場面が切り替わる際に用いられる、スタイルズ荘を門の横手から斜めに撮した映像は、劇中が午前でも午後でも、ほぼ同じ向きから光が当たっている。なお、建物の光が当たっている面は実際には東北東を向いており、撮影はすべて午前中におこなわれたと見られる。また、謎解きの場面の前後に挿入される、カベンディッシュ家のロンドンの家の外観を写した映像は、まったく同じではないものの、同じ3人がほぼ同じように歩いているように見える。
 ジョーン・ヒクソン主演の「ミス・マープル」シリーズでは、イングルソープ夫人役のジリアン・バーグを「魔術の殺人」のミルドレッド・ストリート役、デインティ夫人役のメレリナ・ケンドールを「ポケットにライ麦を」のクランプ夫人役で見ることができる。また、イビー役のジョアンナ・マカラムはジェレミー・ブレット主演の「シャーロック・ホームズの冒険」の一篇、「未婚の貴族」のフローラ・ミラー役で、レイクス夫人役のペネロープ・ビューモントはジョン・ネトルズ主演の「バーナビー警部」の一篇、「採石場にのろいの叫び」のウィルソン夫人役でも見ることができる。
 アルフレッド・イングルソープの吹替を担当した銀河万丈さんは、アルフレッド・モリナ主演の「オリエント急行殺人事件 ~死の片道切符~」では、モリナ演じるポワロの吹替を担当していた。
 » 結末や真相に触れる内容を表示
  1. [1] News UK Archives on Twitter: "#OTD in 1920 The Times Weekly Edition began an 18-part serialisation of The Mysterious Affair at Styles, the first novel by @agathachristie which ran before it was published by @TheBodleyHead. See the 2-page spread in @thetimes Saturday Review this weekend for the full story. https://t.co/gBLP3KPqXG" / Twitter
  2. [2] アガサ・クリスティー (訳: 乾信一郎), 『アガサ・クリスティー自伝 〔上〕』, 早川書房(ハヤカワミステリ文庫), 1995, pp. 470-478
  3. [3] 熊倉一雄, 「ポアロとわたし」, 『ゴルフ場殺人事件』, 早川書房(クリスティー文庫), 2004, pp. 416-417
  4. [4] Mark Aldridge, Agatha Christie on Screen, Palgrave Macmillan, 2016, p. 254
  5. [5] Page 15 | Supplement 29886, 29 December 1916 | London Gazette | The Gazette
  6. [6] ピーター・ヘイニング (訳: 岩井田雅行, 緒方桂子), 『テレビ版 名探偵ポワロ』, 求龍堂, 1998, pp. 32-33

ロケ地写真

カットされた場面

なし

映像ソフト

  • ※1 「名探偵ポワロ DVD-BOX1」にも収録
  • ※2 「名探偵ポワロ [完全版] DVD-BOX1」「名探偵ポワロ [完全版] 全巻 DVD-SET」「名探偵ポワロ [完全版] DVD-SET 3」にも収録
  • ※3 吹替は大塚智則さん主演の新録で、映像もイギリスで販売されているDVDと同じバリエーションを使用
  • ※4 「名探偵ポワロ Blu-ray BOX vol. 1」に収録
2024年3月8日更新