もの言えぬ証人
Dumb Witness

放送履歴

日本

オリジナル版(99分00秒)

  • 1997年12月30日 17時05分〜 (NHK総合)

ハイビジョンリマスター版(102分00秒)

  • 2016年09月03日 15時00分〜 (NHK BSプレミアム)※1
  • 2017年02月08日 16時00分〜 (NHK BSプレミアム)
  • 2021年02月13日 16時18分〜 (NHK BSプレミアム)※2
  • 2021年12月10日 09時00分〜 (NHK BS4K)
  • 2023年04月19日 21時00分〜 (NHK BSプレミアム・BS4K)※3
  • ※1 エンディング前半の画面上部に次回の放送時間案内の字幕表示(帯付き)あり
  • ※2 エンディングの画面下部に次週および次回の放送時間案内の字幕表示(帯付き)あり
  • ※3 BSプレミアムでの放送は、オープニング冒頭の画面左上にBS4K同時放送のアイコン表示あり

海外

  • 1997年03月16日 (英・ITV)

原作

邦訳

  • 『もの言えぬ証人』 クリスティー文庫 加島祥造訳
  • 『もの言えぬ証人』 ハヤカワミステリ文庫 加島祥造訳

原書

  • Dumb Witness, Collins, 5 July 1937 (UK)
  • Dumb Witness, Dodd Mead, 1937 (USA)

オープニングクレジット

日本

オリジナル版

海外ドラマ // 名探偵ポワロ / AGATHA CHRISTIE'S POIROT / DAVID SUCHET // DAVID SUCHET / HUGH FRASER / もの言えぬ証人, DUMB WITNESS / Based on the novel by AGATHA CHRISTIE / Dramatized by DOUGLAS WATKINSON

ハイビジョンリマスター版

名探偵ポワロ / DAVID SUCHET / AGATHA CHRISTIE'S POIROT / もの言えぬ証人 // DAVID SUCHET / HUGH FRASER / DUMB WITNESS / Based on the novel by AGATHA CHRISTIE / Dramatized by DOUGLAS WATKINSON

エンディングクレジット

日本

オリジナル版

原 作 アガサ・クリスティー 脚 本 ダグラス・ワトキンソン 監 督 エドワード・ベネット 制 作 LWT(イギリス) / 声の出演 ポワロ(デビッド・スーシェ) 熊倉 一雄 ヘイスティングス(ヒュー・フレイザー) 富山 敬  チャールズ 中尾 隆聖 ベラ 藤田 淑子 ジェイコブ 屋良 有作 テリーザ 高島 雅羅 エミリー 鳯 八千卋  喜多 道枝 山野 史人 水城 蘭子 沼波 輝枝 金尾 哲夫 糸   博 藤木 聖子 関根 信昭 コヒエミオコ 松下美由紀 / 日本語版スタッフ 宇津木道子  兼子 芳博 南部 満治 畠山 和枝  山田 悦司

ハイビジョンリマスター版

原作 アガサ・クリスティー 脚本 ダグラス・ワトキンソン 演出 エドワード・ベネット 制作 LWT (イギリス) / 出演 ポワロ(デビッド・スーシェ) 熊倉 一雄 ヘイスティングス(ヒュー・フレイザー) 富山 敬/安原 義人  チャールズ 中尾 隆聖 ベラ 藤田 淑子 ジェイコブ 屋良 有作 テリーザ 高島 雅羅 エミリー 鳳 八千代  喜多 道枝 山野 史人 水城 蘭子 沼波 輝枝 金尾 哲夫 糸 博 藤木 聖子 関根 信昭 コヒエ ミオコ 松下 美由紀 佐々木 瑶子 飯島 肇 増田 淳  日本語版スタッフ 翻訳 宇津木 道子 演出 山田 悦司 音声 兼子 芳博 プロデューサー 里口 千

海外

オリジナル版

Directed by: EDWARD BENNETT / Produced by: BRIAN EASTMAN / Exective Producer: SARAH WILSON / Assosicate Producer: CHRISTOPHER HALL; Music: CHRISTOPHER GUNNING / Director of Photography: SIMON KOSSOOFF B.S.C.; Editor: ANDREW McCLELLAND; Sound Recordist: RUDI BUCKLE / Production Designer: ROB HARRIS; Costume Designer: ANDREA GALER; Make up: SUZAN BROAD / Hercule Poirot: DAVID SUCHET; Hastings: HUGH FRASER; Emily Arundel: ANN MORRISH; Charles: PATRICK RYECART; Theresa: KATE BUFFERY; Jacob: PAUL HERZBERG; Bella: JULIA ST JOHN; Wilhemina: NORMA WEST; Dr Grainger: JONATHAN NEWTH; Isabel Tripp: PAULINE JAMESON; Julia Tripp: MURIEL PAVLOW; Sarah: PAT O'TOOLE; Sgt Keeley: GEOFFREY FRESHWATER; Steward: JESTYN PHILLIPS; Alexis: TOBIAS SAWNDERS; Katya: LAYLA HARRISON; Vicar: STEPHEN TOMLIN; American: TIM WILLIAMS; Mrs Finch: SARAH STEPHENSON; Starter: GEOFFREY BANKS; Bob: 'SNUBBY' / (中略) / A CARNIVAL FILMS PRODUCTION in assosiation with LWTP; © LWT PRODUCTIONS MCMXCIV

あらすじ

 裕福な老婦人エミリー・アランデルは、親族の誰かが自分の命を狙っていると感じ、ポワロの助言を容れて遺言状を書きかえる。しかし、その後まもなく彼女は死に、その遺産はすべて話し相手のウィルミーナへ。はたして〈もの言えぬ証人〉ボブの見たものとは……

事件発生時期

1936年4月上旬 ~

主要登場人物

エルキュール・ポワロ私立探偵
アーサー・ヘイスティングスポワロの探偵事務所のパートナー、陸軍大尉
エミリー・アランデルリトルグリーン・ハウスの女主人
チャールズ・アランデルエミリーの甥、ヘイスティングスの友人
テリーザ・アランデルエミリーの姪、チャールズの妹
ベラ・タニオスエミリーの姪
ジェイコブ・タニオスベラの夫、医師、ギリシャ人
アレクシス・タニオスタニオス夫妻の息子
カティア・タニオスタニオス夫妻の娘、アレクシスの妹
ウィルミーナ・ローソンエミリーの話し相手、愛称ミニー
ジョン・グレンジャーエミリーの主治医
イザベル・トリップ霊媒
ジュリア・トリップイザベルの妹
セーラリトルグリーン・ハウスのメイド
ウォルターモーター・ボート・クラブのウェイター
キーリーホークスヘッド警察巡査部長
ボブエミリーの飼い犬

解説、みたいなもの

 ヘイスティングスの吹替を担当してきた富山敬さんの「名探偵ポワロ」最後の出演作。原作では、この作品を境にヘイスティングスが読者の前から姿を消し、「カーテン 〜ポワロ最後の事件〜」で再登場するまで約40年間のブランクが空くことになる。またドラマのほうも、イギリスで1995年の元日に放送された「ポワロのクリスマス」の視聴率が想定外に低調だったことから続篇の放送と制作が繰り延べとなり[1]、次回の「アクロイド殺人事件」まで制作にして5年、放送では日英とも約3年の期間が空くことになった。
 原作の、ポワロのもとに老婦人から手紙が届き、彼が現地へ出向いたときには依頼人はすでに死んでいるという冒頭、そして直前に書きかえられた遺言状で話し相手に全財産が行くことになったという状況設定などは短篇「あなたの庭はどんな庭?」を思わせたが、ドラマでは早々にポワロが登場し、エミリーに対して遺言状の書換えまで勧めるなど、当初から事件に深く関わるので、あまり似通った印象は受けない。登場人物の変更では、タニオス夫妻やドクター・グレンジャーの性格および設定に変更があるほか、テリーザの恋人のドクター・ドナルドソンや、エミリーの友人のミス・ピーボディはカット、トリップ姉妹やボブの役どころが増強された。また、リトルグリーン・ハウスのメイドは、名前がエレンからセーラに変更されている。話の展開では、原作終盤の大きなミスリードがなくなっている一方、二人組の侵入から第二の殺人のくだりはドラマオリジナル。「二重の罪」のように舞台が風光明媚な湖水地方に変更されていることも合わせて、英国式ご当地サスペンスといった趣になっている。
 タイトルロールである〈もの言えぬ証人〉ボブを演じたスナッビーは、 Agatha Christie's Poirot ではキャストの一員としてエンディングにクレジットされている。その姿と演技が視聴者の心をとらえたのか、本作が初回放送された以降、イギリスではワイヤーヘアードテリアの売れ行きが急上昇したという[2]。なお、ボブのモデルはクリスティーの愛犬ピーターと言われ、原作小説はそのピーターに捧げられている。
 冒頭、連絡船に乗り損ねたポワロがヘイスティングスに「君が悪いんじゃありません」と言う台詞は、原語では 'Do not blame yourself, Hastings. (自分を責めないでください)' と、ヘイスティングスに原因があるのを当然としたニュアンスが強く、そのためにヘイスティングスが、あまりの言いぐさに言葉が出ないような表情を浮かべている。また、そのあとに映る連絡船の運休を伝える黒板には、 WORLD (世界) の位置にもともと WATER SPEED (水上スピード) と書かれていた跡や、 RECORD ATTEMPT (記録挑戦) が当初収まりきらずに書き直した跡が見える。
 テリーザがモーター・ボート・クラブの面々を「みんなポワロさんの同類よ。悪党がいっぱい」と言った台詞は、原語だと 'And they're just your sort, Mr Poirot. Villains, the lot of them. (みんなポワロさんにぴったりよ。悪党がいっぱい)' という表現で、ポワロが悪党なのではなく、悪党が探偵としての職業的興味に合致するはずだという趣旨である。
 チャールズの世界記録挑戦の場面では、記録挑戦中のチャールズを主要登場人物が見守るカットで、それまで高かった日がだいぶ傾いており、一日がかりの撮影であったことが窺える。また、会場のアナウンスが言う「ケズウィック」こと Keswick は本来 w を発音せず、「コックを捜せ」の原語音声でもポワロが発音をまちがえてミス・レモンから指摘を受けていた。そのケズウィックもといケジックはダーウェントウォーター湖のほとりにある町で、会場であるウィンダミア湖からは最低でも25キロメートル以上離れている。のちにエミリーとウィルミーナが買い物に出た先はケジックのマーケット・スクエアなので、記録挑戦をウィンダミア湖でおこなっただけで、リトルグリーン・ハウスがあるのはケジックという設定なのだろうか。
 「これは祝賀会のはずでしたけど、お通夜の雰囲気になりそうね」というエミリーの台詞があるが、「お通夜」はイングランドでは北部のみの慣習で、湖水地方らしさを感じさせる表現である。また、その食事会の席上でのポワロの関節の痛みに関する会話は、日本語だと「でも、見てもらっても、もし何もなかったら?」「見つかりませんね」「では本当に見たかどうかわかりません」というやりとりで、意味がよくわからないが、原語だと 'No, but if I ask, he will find. And suppose there is nothing there? (でも、わたしが訊けば主治医は〔リウマチだと〕診断するでしょう。それで、実際には何でもなかったら?)' 'Then he won't find. (そのときはそう言いますよ)' 'But if he does not find, how can I be sure that he has looked? (でも、そう言われたら、ちゃんと見たか、どうすればわかるんです?)' という会話で、想定どおりの診断が下ればそれは自分を満足させるためではないかという疑いが残り、問題がないと言われれば見落としの可能性が残るということで、主治医にどう言われても結局満足できないという趣旨である。
 エミリーが階段から転落して、テリーザがタニオス家の兄妹に「大変、パパを呼んできて、早く!」と言った際、原語音声だとテリーザの声が口の動きから遅れて聞こえる。
 ポワロが「この湖水地方出身の詩人、ワーズワースにはいらいらしますねえ」と言って、その代表作 'Daffodils (水仙)' の一節を引用する場面があるが、この台詞は原作にないのに対し、のちの「杉の柩」では 'Lucy (ルーシー)' の一節を引用して「ワーズワース。よく読むんです」と言う。後者は原作にもある台詞である。
 モーター・ボート・クラブのテラスでベラが、「ここでは〔ジェイコブは歓迎されないので〕わたし安全ですわ」と言うが、のちに中へ入れてもらえなかったジェイコブが通されたのはそのテラスだったので、ベラの見込みちがいである。
 ハイビジョンリマスター版のみ見られる場面の、宵のモーター・ボート・クラブ内で流れているのは 'By the Fireside' という曲である。
 日本語だとキーリー巡査部長にポワロが「検死官にエミリー・アランデルの検死解剖を命じてください」と依頼するが、検死官は人間の変死に関して犯罪性の有無を精査する役職で、「スタイルズ荘の怪事件」のウェルズ氏が弁護士と兼務していたように、検死解剖を直接おこなうことはなく、また警察の命令下にあるわけでもない。ポワロの依頼は原語だと 'Get the Coroner to order a postmortem on the body of Emily Arundel. (検死官にエミリー・アランデルの遺体の検死解剖を命じるよう働きかけてください)' という表現でキーリー巡査部長から検死官に命じるニュアンスはなく、また検死解剖を命じるのは検死官からである。
 階段の上の幅木からねじ釘が抜き取られたことで「犯行が裏付けられました」とポワロが言うのはすこし論理の飛躍があるが、原語では 'Because now I know it was important. (それでねじ釘が重要なものだったとわかりました)' という表現で、ねじ釘がその場にありつづけてはいけない、エミリーの転落と関連するものだとわかったと述べている。
 モーター・ボート・クラブでの夕食の席でポワロがエミリーの死は防げたのかと自問する台詞があるが、エミリーの遺言状が発表されたあとにポワロが言った「でも二度目は…… それを防げなかったのが実に残念です」という台詞も、原語だと 'Could I have saved her? That is a question that will follow me to my grave. (わたしは彼女を救えたのか? その問いは墓までわたしについてくるでしょう)' という表現で、同様の悩みを口にしている。
 日本語でポワロが「外国への引越しは、殺人とは関係ありません。わたし自身が生き証人です」と言う台詞は、原語ではもうすこし趣旨が明確で、要するに「外国へ引越すからといって人殺しをすることにはなりません。実際にベルギーからイギリスへ移住したわたしは、人を殺してはいませんから」ということ。またそのあと、ジェイコブがエミリーに与えた薬瓶をポワロが「あれ」と言うが、その場でジュリアに言われるまでポワロはその存在を知らなかったはずで、本来は「それ」と言うべきところである。
 ボートハウスではポワロがチャールズに「亡くなられた晩、わたしもその場にいましたよ」と言いながらエミリーとチャールズの口論の話がつづくが、そのポワロの台詞は原語だと 'I was present, monsieur, on the night that she declined. (彼女が〔チャールズへの出資を〕拒絶した晩、わたしもその場にいましたよ)' という表現で、エミリーの死んだ晩ではなく世界記録挑戦の日の晩のことを言っている。
 日本語ではチャールズはテリーザの兄ということになっているが、原語では降霊会でイザベルが little brother (弟) と言っている。また、その後イザベルが殺人者を「ロバート・アランデル」と名指ししたのに対してポワロが「それはムッシュウ・ボブのことです」と言うのは、ボブがロバートの愛称であることによる。
 ボブが自分で階段から落としたボールをキャッチしてみせる芸をした3回のうち、2回目と3回目に踊り場からボールを落とす様子は同じ映像の使いまわしである。
 チャールズがヘイスティングスに「バトラー」というニックネームを付けた理由について、日本語では「バトラー (butler) の意味はご存じでしょう? 執事ということですよ」と説明されているが、英語だと 'it's Battler as in Battle-er Hastings (あれはバトラー・ヘイスティングスのバトラーですよ)' という台詞で「バトラー」ちがい。 Battle-er Hastings という音から想起されるのは、 Battle of Hastings (ヘイスティングスの戦い) という、11世紀にあった有名な戦いのこと。これは南英ヘイスティングスの近郊においてイングランド王ハロルド二世とノルマンディー公ギヨーム二世のあいだで交わされた戦いで、ギヨーム二世の勝利によりイングランドにノルマン王朝が興った――のだが、イギリス式ユーモアはポワロでなくてもちょっと…… なお、映像ソフトなどでは Battler をさらに「軍人」や「戦士」、「貧乏人」の意味で解釈した日本語字幕が当てられているが、そうした連想まで喚起する趣旨はなく、単に Battle of のくだけた発音との類似にかけただけのジョークであって、ヘイスティングスがその説明をためらうのも、ジョーク自体の陳腐さが原因のようである。
 「リンって危険なの? だってマッチに使われてるでしょ。それに肥料にも」というベラの質問に対し、ドクター・グレンジャーが「そうなんだ」と答えるのは、日本語だとリンが危険だと答えているようにも聞こえるが、原語は 'That's right. (そのとおりだよ)' で、後半のリンの使い道に関する肯定である。なお、かつてマッチに使われた黄リンは猛毒だったが、劇中当時にはすでに無害な赤リンに代替されており、肥料に含まれるリン酸も無害である。
 第二の殺人の死因がガスによる一酸化炭素中毒とされたように、石炭ガスには不完全燃焼しなくとも一酸化炭素が含まれ、ガス漏れによってその中毒が起きた。しかし、一酸化炭素中毒は気づいたときにはもう動けなくなっていたり、また睡眠中ならそのまま意識を失って死亡したりするとされ、劇中のように窒息に気づいてのたうつことはないはずである。
 第二の殺人の晩の訪問客や電話の有無を訊かれてウィルミーナが、「ジョンが遅くなって電話しました――ジェイコブに」と言うが、電話の最中にウィルミーナが夕食と見られる食事を運んでくることからは、トリップ姉妹が帰ったあと、ウィルミーナから緑色の「魂」の話を聞いてまもなく電話したと見られる。「遅くなって」に対応する原語は later で、これはある時点(ここではトリップ姉妹の退去)と比較して時系列上あとであることを示す言葉であって、絶対的に遅い時刻を意味しない。
 序盤にポワロがウィンダミア駅からモーター・ボート・クラブまで乗っていったのと、最後にモーター・ボート・クラブ前で荷物を積んでいたのは、同じ車と運転手である。また、ウィンダミア駅前でその車の奥に駐まっていたバスと、ホークスヘッド警察前を走り抜けたバスと、タニオス家の帰りにポワロたちが乗ったバスも、すべて同じ車両である。
 ジェイコブからの電話を受けてエミリーとウィルミーナが買い物に出た場面では、市場の中央の建物の左奥に、現代の街灯が写ってしまっている。また、ホークスヘッド警察の奥に見える建物には、テレビアンテナが立っているのがわかる。一方、降霊会の翌朝、ボブの散歩中にヘイスティングスが「ここからの眺め、すばらしいですよ。来てごらんなさい」と声をかけた際には、背景の谷間を、おそらく現代の自動車が2台つづけて走っていくのが見える(オリジナル版のみ)。また、モーター・ボート・クラブのテラスで、法を破って何かをしてやると申し出た理由をポワロが説明しているときにも、対岸をおそらくは現代の自動車が走っているのが見える。ボブによってポワロが事件の全貌を理解し、〈狐〉を捕まえてみせると宣言した際に湖面を移動していく水しぶきも、現代のモーターボートによるものか。
 機関車の蒸気を浴びてポワロが声を出したり、ハイビジョンリマスター版で元祝賀会の内装を見てポワロが「ああ、すばらしい」と言ったりするのは日本語のみの台詞である。
 冒頭でポワロとヘイスティングスが降り立つ駅は、ウィンダミア湖畔にあるレイクサイド・アンド・ハバースウェイト鉄道のレイクサイド駅。モーター・ボート・クラブの建物は、アーツ&クラフツ運動の代表的な建築家兼デザイナーであるチャールズ・ヴォイジーが手がけたブロード・リーズと呼ばれる建物で、実際にもウィンダミア・モーター・ボート・レーシング・クラブの本部になっている。チャールズのボートハウスはウィンダミア湖の東岸にあるラングデール・チェイス・ホテルのボート小屋で、トリップ姉妹の家は西岸にあるハマーホールというコテージ。撮影はウィンダミア湖畔以外でもおこなわれており、キーリー巡査部長が勤めるホークスヘッド警察署は実際にホークスヘッドの元警察署である。この警察署前の道路には、このドラマの劇中にはめずらしくセンターラインが引かれている。テリーザのコテージ周辺や、タニオス家からの帰りにバスで通った道、降霊会のあとボブの散歩をした湖畔はハウズ湖の南西で、ここで撮影された場面は天気がよくない。ケジックでは前述のマーケット・スクエアのほか、セント・ジョンズ教会が撮影に使われており、ホークスヘッドにある設定のタニオス家の建物も、実際はその牧師館である。一方、事件の主舞台となるリトルグリーン・ハウスは、湖水地方どころかサリー州にあるガンターズ・ミードで撮影された。
 ウィルミーナ役のノーマ・ウェストは、ジョーン・ヒクソン主演の「ミス・マープル」の一篇、「牧師館の殺人」のレストレンジ夫人役や、ジェレミー・ブレット主演の「シャーロック・ホームズの冒険」の一篇、「犯人は二人」のレディー・スウィンステッド役でも見ることができる。またドクター・グレンジャー役のジョナサン・ニュースも、同「シャーロック・ホームズの冒険」の「ブルース・パーティントン設計書」においてバレンタイン・ウォルター大佐役を演じているほか、フランセスカ・アニスとジェームス・ワーウィック主演「二人で探偵を」シリーズ「婚約者失踪の謎」のガブリエル・スターベンソン役でも見ることができる。
 トリップ姉妹の吹替の水城蘭子さんと沼波輝枝さんは、ジェレミー・ブレット主演の「シャーロック・ホームズの冒険」の一篇、「マザランの宝石」でもガリデブ姉妹の吹替をやはり二人で担当し、この姉妹を非常に印象的なキャラクターに作り上げている。なお、水城蘭子さんは1997年5月26日に68歳で亡くなり、NHK初回放送時にはすでに故人だった。
 階段を落下するエミリーの体格が、やけにがっしりしているような…… それから、落下したロバート・アランデル将軍の肖像画が、やけにツルツルペラペラしているような……
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  1. [1] Mark Aldridge, Agatha Christie's Poirot: The Greatest Detective in the World, HarperCollinsPublishers, 2020, p. 388
  2. [2] David Suchet and Geoffrey Wansell, Poirot and Me, headline, 2013, p. 165

カットされた場面

日本

オリジナル版

[0:12:46/0:10]ポワロたちがリトルグリーン・ハウスの食堂に通される場面
[0:16:00/1:35]ヘイスティングスがポワロの部屋を訪れて、降霊術について話す場面
[0:25:41/0:35]宵のモーター・ボート・クラブ 〜 ラウンジのポワロがウォルターにドクター・タニオス来訪を告げられる場面
[1:06:26/0:41]チャールズにユタ州行きを勧める男が帰り、入れちがいにポワロとヘイスティングスが現れる場面

ハイビジョンリマスター版

なし

映像ソフト

  • ※1 「名探偵ポワロ DVD-BOX3」にも収録
  • ※2 「名探偵ポワロ [完全版] DVD-BOX2」「名探偵ポワロ [完全版] 全巻 DVD-SET」「名探偵ポワロ [完全版] DVD-SET 7」にも収録
  • ※3 吹替は大塚智則さん主演の新録で、映像もイギリスで販売されているDVDと同じバリエーションを使用
  • ※4 「名探偵ポワロ Blu-ray BOX vol. 2」に収録
2024年10月13日更新