消えた廃坑 The Lost Mine
放送履歴
日本
オリジナル版(44分30秒)
- 1990年07月25日 20時00分〜 (NHK総合)
- 1992年04月23日 17時05分〜 (NHK総合)
- 1998年10月27日 15時10分〜 (NHK総合)
- 2003年06月03日 18時00分〜 (NHK衛星第2)
ハイビジョンリマスター版(50分30秒)
- 2016年01月23日 16時00分〜 (NHK BSプレミアム)
- 2016年06月29日 17時00分〜 (NHK BSプレミアム)
- 2020年06月27日 17時09分〜 (NHK BSプレミアム)※1
- 2021年10月27日 09時00分〜 (NHK BS4K)
- 2022年08月31日 21時00分〜 (NHK BSプレミアム・BS4K)
- 2022年09月24日 23時48分〜 (NHK BSプレミアム)※2
- ※1 エンディング最後の画面下部に次回の放送時間案内の字幕表示(帯付き)あり
- ※2 エンディング後半の画面左部に次回の放送案内の字幕表示あり
海外
- 1990年01月21日 (英・ITV)
原作
邦訳
- 「消えた廃坑」 - 『ポアロ登場』 クリスティー文庫 真崎義博訳
- 「消えた廃坑」 - 『ポアロ登場』 ハヤカワミステリ文庫 小倉多加志訳
- 「消えた鉱山」 - 『ポワロの事件簿2』 創元推理文庫 厚木淳訳
原書
雑誌等掲載
- The Lost Mine, The Sketch, 21 November 1923 (UK)
- The Lost Mine, The Blue Book Magazine, April 1925 (USA)
短篇集
- The Lost Mine, Poirot Investigates, Dodd Mead, 1925 (USA)
- The Lost Mine, Poirot's Early Cases, Collins, September 1974 (UK)
オープニングクレジット
日本
オリジナル版
名探偵ポワロ / AGATHA CHRISTIE'S POIROT / DAVID SUCHET // HUGH FRASER / PHILIP JACKSON / PAULINE MORAN / 消えた廃坑, THE LOST MINE / Dramatized by MICHAEL BAKER and DAVID RENWICK
ハイビジョンリマスター版
名探偵ポワロ / DAVID SUCHET / AGATHA CHRISTIE'S POIROT / 消えた廃坑 // HUGH FRASER / PHILIP JACKSON / PAULINE MORAN / THE LOST MINE / Dramatized by MICHAEL BAKER and DAVID RENWICK
エンディングクレジット
日本
オリジナル版
原作 アガサ・クリスティー 脚本 マイケル・ベイカー デビッド・レンウィック 監督 エドワード・ベネット 制作 LWT(イギリス) / 出演 ポワロ(デビッド・スーシェ) 熊倉一雄 ヘイスティングス(ヒュー・フレイザー) 富山 敬 ジャップ警部(フィリップ・ジャクソン) 坂口芳貞 ミス・レモン 翠 準子 レスター 中田浩二 ピアソン頭取 村松康雄 弘中くみ子 島香 裕 谷口 節 仲木隆司 江原正士 石森達幸 沢木郁也 西村知道 有馬瑞香 松岡洋子 北村弘一 佐藤正治 / 日本語版 宇津木道子 山田悦司 福岡浩美 南部満治 金谷和美
ハイビジョンリマスター版
原作 アガサ・クリスティー 脚本 マイケル・ベイカー デビッド・レンウィック 演出 エドワード・ベネット 制作 LWT (イギリス) / 出演 ポワロ(デビッド・スーシェ) 熊倉 一雄 ヘイスティングス(ヒュー・フレイザー) 富山 敬/安原 義人 ジャップ警部(フィリップ・ジャクソン) 坂口 芳貞 ミス・レモン(ポーリン・モラン) 翠 準子 レスター 中田 浩二 ピアソン頭取 村松 康雄 弘中 くみ子 島香 裕 谷口 節 仲木 隆司 江原 正士 石森 達幸 沢木 郁也 西村 知道 有馬 瑞香 松岡 洋子 北村 弘一 佐藤 正治 平川 大輔 日本語版スタッフ 翻訳 宇津木 道子 演出 山田 悦司 音声 金谷 和美 プロデューサー 里口 千
海外
オリジナル版
Hercule Poirot: DAVID SUCHET; Captain Hastings: HUGH FRASER; Chief Inspector Japp: PHILIP JACKSON; Miss Lemon: PAULINE MORAN; Lord Pearson: ANTHONY BATE; Charles Lester: COLIN STINTON; Mrs Lester: BARBARA BARNES; Reggie Dyer: JAMES SAXON; Chinaman: VINCENT WONG; Lobby Clerk: RICHARD ALBRECHT; Jameson: JOHN CORDING; Miss Devenish: GLORIA CONNELL; Bank Teller: JULIAN FIRTH; Wilkins: PETER BARNES; Chow Feng: HI CHING; Restaurant Manager: OZZIE YUE; First Officer: CHRISTOPHER WALKER; Second Officer: JOE FRAZER; Oriental Gentleman: DARYL KWAN; Chinese Tart: SUZAN LEONG; Stunts: NICK GILLARD / Developed for Television by Picture Partnership Productions / (中略)First Assistant Director: SIMON HINKLY; Location Manager: NIGEL GOSTELOW; Script Supervisor: SHEILA WILSON; Production Co-ordinator: MONICA ROGERS; Accountant: JOHN BEHARRELL; Camera Operator: STEVEN ALCORN; Focus Puller: DERMOT HICKEY; Grip: JOHN ETHERINGTON; Boom Operator: TONY BELL; Gaffer: DEREK RYMER; Art Director: PETER WENHAM; Production Buyer: LUDMILLA BARRAS; Property Master: MICKY LENNON; Construction Manager: LES PEACH; Dubbing: PETER LENNARD, MIKE MURR, RUPERT SCRIVENER; Post Production Superviser: RAY HELM; Panaflex 16(R) Camera by Panavision(R); Grip Equipment by Grip House Ltd; Lighting & Generators by Samuelson Lighting Ltd; Made at Twickenham Studios, London, England; Costume Designer: SHARON LEWIS; Make up Supervisor: ROSEANN SAMUEL; Sound Recordist: KEN WESTON; Titles: PAT GAVIN; Production Manager: MARTIN BOND; Casting: REBECCA HOWARD, LUCY ABERCROMBIE; Editor: DEREK BAIN; Production Supervisor: DONALD TOMS / Production Designer: ROB HARRIS / Director of Photography: IVAN STRASBURG / Theme Music: CHRISTOPHER GUNNING; Incidental Music: FIACHRA TRENCH; Conductor: DAVID SNELL / Executive Producer: NICK ELLIOTT / Producer: BRIAN EASTMAN / Director: EDWARD BENNETT
あらすじ
深夜、ポワロは銀行のピアソン頭取の訪問を受けた。商談相手の中国人がホテルを出たまま行方が知れないので調べてほしいという。しかし、はたして中国人は死体で見つかり、彼が携えていたはずの銀鉱山の地図が消えていた……
事件発生時期
1935年8月上旬
主要登場人物
エルキュール・ポワロ | 私立探偵 |
アーサー・ヘイスティングス | ポワロの探偵事務所のパートナー、陸軍大尉 |
ジェームス・ジャップ | スコットランド・ヤード主任警部 |
フェリシティ・レモン | ポワロの秘書 |
ピアソン | ロンドン上海銀行頭取 |
ハン・ウー・リン | 銀鉱山の地図の所有者、中国人 |
チャールズ・レスター | 株式仲買人 |
レスター夫人 | チャールズの妻 |
レジナルド・ダイアー | ウー・リンと同船だった男、前科2犯 |
チャウ・フェン | クラブ〈レッドドラゴン〉従業員 |
解説、みたいなもの
アメリカ探偵作家クラブ主宰エドガー賞の、1992年 TV エピソード部門受賞作品。
ポワロがヘイスティングスに昔の事件を話して聞かせる形だった原作に対して、ドラマではリアルタイムに事件が進行するほか、原作が短めだったこともあって、調査の過程を大きく膨らませている。また、細かい点での変更も多く、ピアソン氏がビルマ鉱業の重役からロンドン上海銀行の頭取になっていたり、鉱山の地図の目的が銀を掘り終えたあとに残った鉛から銀そのものになっていたり、鉱山の閉鎖年が1868年から1878年になっていたり(日本語では「19世紀末」としか表現されないけれど)、ウー・リンが泊まったホテルの名前がラッセル・スクエア・ホテルからセントジェームス・ホテルになっていたり(ただし、セントジェームス・ホテルのロケ地はラッセル・スクエアに程近い)、ウー・リンがホテルを出た時間が10時半から10時になっていたりする。
ポワロとヘイスティングスが興じるゲームは、現在の日本でも販売されている〈モノポリー〉のロンドン版。その〈モノポリー〉は1930年頃、アメリカのペンシルバニア州に住むチャールズ・B・ダロウによってつくられたゲームで、ドラマの舞台の1935年、アメリカでもっとも売れたゲームと言われている。本作のポワロが全エピソードで唯一トップハットを着用しているのも、〈モノポリー〉のカードなどに描かれたミスター・モノポリーのイメージを重ねたものか。ただ、「名探偵ポワロ」オリジナル版では最初の頃にポワロが負けている場面が多くカットされたので、ポワロのゲームの上達ぶりと、それに伴う態度の変化がハイビジョンリマスター版ほど鮮明ではなくなっている。またハイビジョンリマスター版では、冒頭の場面で、靴と帽子の形をしたゲームのコマと、ホテルに到着する中国人の靴や帽子を対比する演出がわかるが、オリジナル版だと、中国人の靴の場面と帽子の形のコマを進める場面の組み合わせでカットされており、この演出が分断されている。加えてこのとき、サイコロでは 11 が出ているのになぜかコマを7マスしか進めず、その次も 9 が出ているのに8マスしか進めない。
本作では、上述のゲームとともに、ヘイスティングスとミス・レモンの株式投資のやりとりがサイドストーリーとして展開される。「夢」までの第1シリーズでは、主として仕事に関することに強い関心を持ち、やや融通の利かないミス・レモンが描かれてきたが、第2シリーズ以降では本作の株式投資をはじめとして、仕事以外のことにも幅広く興味や知識を示す彼女が描かれていく。
中国人実業家ウー・リンの出身地ラングーンは、ミャンマーの都市ヤンゴンの旧称。当時のミャンマー、旧称ビルマはイギリスの植民地で、ラングーンはその首都だった。当時のビルマでは移民である華僑やインド系住民が商工業を掌握しており[1]、ラングーンの中国系実業家というウー・リンの設定は、そうした背景を反映している。
ロンドンのソーホーにある現在のチャイナタウンは第二次世界大戦後に形成されたもので、劇中当時のチャイナタウンは、ダイアー追跡場面の地図に見られるとおり、ロンドン東部ライムハウスにあった[2](「ベールをかけた女」でヘイスティングスが日本語で「チャイナタウン」と言ったときも、原語では Limehouse (ライムハウス) と言っていた)。ライムハウスは現在ドックランズと呼ばれる地域にあり、かつては水上運輸の施設が密集した、船員や水夫が多く見られる場所であって、原作ではピアソン氏とポワロがそうした姿に変装して潜入捜査をするくだりもあったが、変装に関して直前の「ベールをかけた女」との重複を避けるためか、ドラマではピアソン頭取の捜査への積極的な参加はなくなっている。なお、ライムハウスにあったチャイナタウンは、第二次大戦の空襲による破壊と戦後の復興、さらには流通革命による廃墟化、そしてその後の再開発という変遷を経た結果、撮影当時にはすでに戦間期の面影を残しておらず、撮影はベスナル・グリーンのコロンビア・ロードとエズラ・ストリートでおこなわれた。ヘイスティングスを演じるヒュー・フレイザーの発言では、ここはミック・ジャガーとデビッド・ボウイのビデオクリップ「ダンシング・イン・ザ・ストリート」を撮影した場所とされているが[3]、同クリップは実際にはかつてチャイナタウンのあったドックランズで撮影されたようで、映像を見ても同じ場所には見えない。
ジャップ警部の部下のジェームソンが「ミューズ街の殺人」以来の再登場。しかし、「ミューズ街の殺人」での彼は警部 (Inspector) だったのが、今回の原語音声では Sergeant (巡査部長) と呼ばれている。「ミューズ街の殺人」の舞台は1935年11月だが、今回は同年8月なので、3か月のあいだに昇格したと見られる。なお、ジェームソンの吹替は、変わらず仲木隆司さんが担当している。
冒頭、中国人がホテルに現れる際、フロントに向かって右側からやってくるが、その後の場面では、フロントの左側にあるガラスドアの向こうが入り口であるように見える。
ポワロが日本語で「また自殺者が出たんですか」と言った台詞は、原語だと 'Another tragedy on the Serpentine? (またサーペンタイン池で悲劇ですか)' という表現。その the Serpentine (サーペンタイン池) とはロンドンのハイド・パークにある人工池のこと。ここでサーペンタイン池への入水は定番の自殺の方法ととらえられており、ポワロの台詞は、現代日本で言えば「また誰か電車に飛び込んだんですか」といったところか。
ポワロがピアソン頭取に言う「遅くても何もしないよりまし」は Better late than never. という英語のことわざ。また、原語音声では「きわめて純度の高い、良質の銀」をピアソン頭取が top-grade 24-carat silver と表現するが、 carat は本来、金の純度に関してのみ用いる単位。その値は24分率で、 24 carats は純度100パーセントを表す。
ウー・リンの死体を発見した女性があげる悲鳴は、日本語音声でも原語音声でも同じ声をしている。吹替音声の制作は一般に、「ME」と呼ばれる音楽 (Music) と効果音 (Effect) だけが入った音源の提供を受け、それに吹替の台詞を重ねることでなされるが、悲鳴はしばしば ME 側に収録されていることがあるという[4]。この場面では、直前の台詞があるところからつづけて BGM も鳴っており、日本側で原音を使う判断をしたのではなく、やはり ME に悲鳴が含まれていたのだろう。なお、その、女性が「お兄さん」に声をかける台詞は、日本語ではそのニュアンスが落とされているが、原語音声では外国人らしい片言の英語になっている。
遺体置き場の場面でウー・リンの遺体がアップになる箇所では、死んでいるはずのウー・リンの首筋が動く。
「警察の最新のやり方」において、本部から8号車へ指示を出す前後で映る地図上のコマを動かす場面は、同じ映像の使いまわしではないものの、コマを動かす起点と終点が同じである。また、容疑者を捕らえたあとメンバーが口々に讃辞を述べるところは、日本語音声だと男性と女性が2人ずつの計4人だが、原語では男性4人女性1人で計5人の声がする。加えて、ハイビジョンリマスター版では地図上のコマを動かす様子をジャップ警部が「張り込みです (Surveillance.)」と説明するが、日本語の「張り込み」はある固定の場所に拠点を据えて見張りをすることを言い、移動する対象を追跡しての見張りは含まない。
ダイアーを確保するべく、髪を剃っている中国人の前を警察車両が通過する際、複数の現代的な出で立ちの西洋人がその車体に映っている。また、ハイビジョンリマスター版ではその前に、ダイアーがタクシーから下りたところへ7号車が接近する際、青いシャツの人物が横切るのが車体に映っているほか、8号車が「所定の位置」へついた際にも、デニム生地らしきズボンを穿いた脚が車体に映っている。そして、確保後にジャップ警部が「こっちはこれから大物の料理ですよ」と建物から出ていく際、画面左上をおそらく現代の車が通過していくのが、明かり取りのガラス越しに見える。
レスターのオフィスへの最初の訪問時の別れ際、日本語ではレスターが「それじゃ、ポワロさん」と挨拶したところは、原語だと 'So long, Hercule. (それじゃ、エルキュール)' とポワロにファーストネームで呼びかけており、その馴れ馴れしさにポワロは表情を硬化させている。また、原語のレスターが話していたのはアメリカ英語で('So long' もアメリカ風の挨拶である)、のちにポワロが、ホテルに現れた中国人がアメリカ訛りで話していたと見抜いたところは、その中国人とレスターの関係を示唆する。
「日付を書くとき、月を先に書くのはアメリカ式です。アメリカ人は変わってますね」というポワロの台詞があるが、のちの「負け犬」では、ほかならぬポワロ自身が宿帳にその順序で日付を書いている。なお、イギリスで制作され、主にイギリスを舞台にするこのドラマシリーズでも、「コックを捜せ」の新聞や「ABC殺人事件」の予告状など、アメリカ式で書かれた日付はたまに登場する。
レスター夫人の訪問前、ミス・レモンが株の買い替えをヘイスティングスと検討している場面は、「名探偵ポワロ」オリジナル版だとカットされて見られないが、のちにヘイスティングスがこの場面のやりとりに言及して、「ぼくは昨日売れと言ったのに?」と言う箇所はそのまま残っている。また、検討時にミス・レモンが見ていた新聞には、本来 American Sugar Refining (アメリカ精糖) と思しき会社名が Amercan Sugar Refining とつづられている。
ハイビジョンリマスター版でレスター夫人がポワロの部屋を訪ねた際に押す呼び鈴は、向かいの54号室のドア横にあるものとはデザインが異なり、また「二重の罪」で見られるポワロの部屋のものとも、「4階の部屋」で見られた2階下の36B号室のものとも異なる。
ジャップ警部が中華料理店のホーに「そこではっきり言うがね、ホーさん、この店の営業許可を更新したいんだろう?」と言う場面があるが、「はっきり言う」と言っている割には迂遠な言い方をしているように聞こえる。原語では 'So let me put it this way (そこでこんな風に言わせてもらうがね)' という表現で、「はっきり」というニュアンスはない。
ハン・ウー・リン (Han Wu Ling) のパスポートの「姓名」の欄には漢字で「郁安康」と書かれているが、これは中国語読みすると「ユー・アン・カン (Yu An Kang)」。実業家のはずの「職業」の欄には「海員」。そして「年歳〔年齢〕」の欄には「廾五歳〔25歳〕」。……25歳!?
ジャップ警部がクラブ〈レッドドラゴン〉のドアをたたく際、原語音声でのみドア板の揺れる音がする。一方、ジャップ警部の拳が当たる前からドアをたたく音がするのは、日本語音声も原語音声も同様である。
ポワロに「口の堅い人物です」と太鼓判を押されていたはずのジャップ警部だが、〈レッドドラゴン〉では、「中国料理店のホーが言ったことを憶えてるか」と情報提供者の名前を出してしまう。原語では 'What did our friend across the road tell us, Jameson? (通りの向かいの友人は何と言っていた、ジェームソン?)' という台詞で、さすがにもうすこしぼかしているが、それでもすぐにばれそう。
冒頭のゲームで、ヘイスティングスが「共同募金。美人コンテスト2位に入賞で……賞金10ポンド」と言うところは、募金から美人コンテスト、さらには賞金の入手という流れが不思議に感じられるかもしれない。「共同募金 (Community Chest)」とは〈モノポリー〉日本語版では「共同基金」と訳されているマスのことで、ここに止まると〈共同基金カード〉を1枚引き、それに書かれた効果を受けるのだが、〈美人コンテスト2位に入賞で、賞金10ポンド〉もその効果の一つ。本来の Community Chest は、「基金」とも訳されているように単なる「募金」(集金活動)ではなく、慈善活動等を目的に共同体からの募金を積み立てて運用するもので、共同基金カードは、いわば日本の町内会の活動や行事のような、それにまつわるイベントを表したものなのだろう。
ハイビジョンリマスター版において、ポワロがゲームで家を建てようとして駅には建てられないと言われる「フェンチャーチ」こと Fenchurch Street (フェンチャーチ・ストリート) とは、ロンドン塔のすこし北西を東西に走る通りの名であると同時に、そのすぐ近くにある鉄道駅の名である。フェンチャーチ・ストリート駅はロンドンのターミナル駅の一つで、すくなくとも現在は駅併設のホテルはないようだが、やはりロンドンのターミナル駅であるパディントン駅やセント・パンクラス駅、ビクトリア駅などには実際に駅併設のホテルが存在し、それがポワロの不服の背景になっている。なお、「プリマス行き急行列車」や「二重の手がかり」では、現地ロケではないものの、そのパディントン駅併設のホテルを見ることができる。また、「イタリア貴族殺害事件」原作でアスカニオが宿泊したグローブナー・ホテルも、ビクトリア駅併設のホテルである。
ポワロが読み上げる「家とホテルは抵当に入れることができない。敷地内のすべての建物は、抵当に入れる前に銀行に売却される」というルールの後半部は、前半部で抵当に入れることができないと言った家やホテルを抵当に入れる前のことを定義しているようにも聞こえるが、原語だと後半部で抵当に入れるのは property (土地) と明示されており、土地を抵当に入れる場合、その土地の敷地内にある建物は一緒に抵当に入れることができないので事前に銀行へ売却されると言っている。もちろん、現実には家やホテルを抵当に入れることはできるので、「これは馬鹿げてますよ」というポワロの評価につながる。
ヘイスティングスがゲームで「ダブル〔ぞろ目〕」を出したあと、日本語だと「ついてない」と言って「刑務所行き」に転落する場面があるが、「ついてない」の原語 'Chance.' は、〈チャンスカード〉を引く〈チャンス (Chance)〉のマスに止まったことを言っている。このチャンスカードにもさまざまな効果が定義されており、それを引いた結果、最悪の効果の〈刑務所行き〉のカードが出てしまったのである。日本語はこの 'Chance.' を、直後の 'Wonderful. (すてきだ)' 同様、反語的な皮肉表現と取ったものと思われるが、チャンスカードとは別に直接〈刑務所行き〉のマスを踏むこともあるので、日本語の流れでもゲームとしておかしいわけではない。なお、サイコロでぞろ目を出すと、1回コマを動かしたあとに再度サイコロを振ることができるのだが、1回目で刑務所行きになった場合は追加でサイコロを振る権利も失われてしまうので、そうした点でもヘイスティングスは「ついてない」。
オリジナル版ではピアソン頭取がチャイナタウンへ車で乗りつける場面にビデオテープが傷んだような画像の乱れがあったが、ハイビジョンリマスター版では修復された。また、ハイビジョンリマスター版では、スコットランド・ヤードの外観が映る場面に「ロンドン警視庁」、ジャップ警部が〈レッドドラゴン〉に踏み込む場面に「クラブ レッドドラゴン」という字幕が追加された。加えて、ダイアーの取り調べの場面で、オリジナル版では「取り調べ室」となっていた字幕が「取調室」と変更されている。
ロンドン上海銀行の建物は、ロンドン東部郊外にあるダグナム市民センター(現在はCUロンドンのダグナム・キャンパス)。また、ルパート通りのチャウキャットサウナからチャイナタウンへ向かうダイアーのタクシーが撮影された場所は、大英博物館近くのギルバート・プレース、ブルームズベリ・スクエア、グレート・ラッセル・ストリート。セント・ジェームス・ホテルおよびレスターのオフィスもともにブルームズベリ・スクエアとグレート・ラッセル・ストリートの交差点にある。ただし、セント・ジェームス・ホテルの建物は実際にはドイツ歴史協会であり、そのため、ホテルの向かって右の窓の内側には、いささかホテルらしからぬ本棚が見える。また、レスターのオフィスは、窓同士の間隔がその内外で異なり、内部は別の場所で撮影したと見られる。スコットランド・ヤードの屋内は、チジック・タウン・ホール内。クラブ〈レッドドラゴン〉内部は、トゥイッケナム・スタジオ内に組まれたセットである[5]。
7号車の運転手は、「クラブのキング」のオグランダー氏。また、ピアソン頭取役のアンソニー・ベイトは、ジョン・ソウ主演の「主任警部モース」の一篇、「ウッドストック行最終バス」のバーナード・クローザー役でも見ることができる。
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〈レッドドラゴン〉の阿片窟でジャップ警部は、日本語では「東洋から阿片というとんだ土産を持ち帰ったな、ダイアー」と、阿片と先に認識してからそのにおいを嗅いでいるが、原語だと 'Brought back one or two holiday souvenir from the Far East, I see. (東洋からちょっとばかり土産を持ち帰ったらしいな)' という台詞で事前の認識は明言せず、確認のために粉末のにおいを嗅いでいる。
ヘイスティングスがゲームで「ダブル」と言ったのを聞いてポワロが事件の全容に気づいたのは、「ダブル」すなわち double に「代役」「替え玉」の意味があるためで、それによって、ホテルに現れた「ウー・リン」が本人でなかったことに思い至ったのである。
ポワロがエイブリー卿の小切手を確認した際、最初は左手の人差し指を小切手と封筒のあいだに入れて持っていたのが、小切手の表のアップに切り替わると小切手の上に人差し指を当てている。その際、当初添えていなかった右手も小切手をつかんでいるので、すばやく持ち替えたのだろうか。また、小切手の記載からわかるように「エイブリー」の原語の綴りは Avebury で、順当にカタカナに直せば「エイブブリー」になるはず。この頃の日本語音声だと原語の v 音にはバ行の音を当てるのが通例で、「ブ」の音が連続してしまうために名前を改変したのだろうか。
謎解きにあたってピアソン頭取が〈レッドドラゴン〉にやってきた際、ポワロたちは真っ暗ななかで何をしていたのかしらね。
ポワロがヘイスティングスに昔の事件を話して聞かせる形だった原作に対して、ドラマではリアルタイムに事件が進行するほか、原作が短めだったこともあって、調査の過程を大きく膨らませている。また、細かい点での変更も多く、ピアソン氏がビルマ鉱業の重役からロンドン上海銀行の頭取になっていたり、鉱山の地図の目的が銀を掘り終えたあとに残った鉛から銀そのものになっていたり、鉱山の閉鎖年が1868年から1878年になっていたり(日本語では「19世紀末」としか表現されないけれど)、ウー・リンが泊まったホテルの名前がラッセル・スクエア・ホテルからセントジェームス・ホテルになっていたり(ただし、セントジェームス・ホテルのロケ地はラッセル・スクエアに程近い)、ウー・リンがホテルを出た時間が10時半から10時になっていたりする。
ポワロとヘイスティングスが興じるゲームは、現在の日本でも販売されている〈モノポリー〉のロンドン版。その〈モノポリー〉は1930年頃、アメリカのペンシルバニア州に住むチャールズ・B・ダロウによってつくられたゲームで、ドラマの舞台の1935年、アメリカでもっとも売れたゲームと言われている。本作のポワロが全エピソードで唯一トップハットを着用しているのも、〈モノポリー〉のカードなどに描かれたミスター・モノポリーのイメージを重ねたものか。ただ、「名探偵ポワロ」オリジナル版では最初の頃にポワロが負けている場面が多くカットされたので、ポワロのゲームの上達ぶりと、それに伴う態度の変化がハイビジョンリマスター版ほど鮮明ではなくなっている。またハイビジョンリマスター版では、冒頭の場面で、靴と帽子の形をしたゲームのコマと、ホテルに到着する中国人の靴や帽子を対比する演出がわかるが、オリジナル版だと、中国人の靴の場面と帽子の形のコマを進める場面の組み合わせでカットされており、この演出が分断されている。加えてこのとき、サイコロでは 11 が出ているのになぜかコマを7マスしか進めず、その次も 9 が出ているのに8マスしか進めない。
本作では、上述のゲームとともに、ヘイスティングスとミス・レモンの株式投資のやりとりがサイドストーリーとして展開される。「夢」までの第1シリーズでは、主として仕事に関することに強い関心を持ち、やや融通の利かないミス・レモンが描かれてきたが、第2シリーズ以降では本作の株式投資をはじめとして、仕事以外のことにも幅広く興味や知識を示す彼女が描かれていく。
中国人実業家ウー・リンの出身地ラングーンは、ミャンマーの都市ヤンゴンの旧称。当時のミャンマー、旧称ビルマはイギリスの植民地で、ラングーンはその首都だった。当時のビルマでは移民である華僑やインド系住民が商工業を掌握しており[1]、ラングーンの中国系実業家というウー・リンの設定は、そうした背景を反映している。
ロンドンのソーホーにある現在のチャイナタウンは第二次世界大戦後に形成されたもので、劇中当時のチャイナタウンは、ダイアー追跡場面の地図に見られるとおり、ロンドン東部ライムハウスにあった[2](「ベールをかけた女」でヘイスティングスが日本語で「チャイナタウン」と言ったときも、原語では Limehouse (ライムハウス) と言っていた)。ライムハウスは現在ドックランズと呼ばれる地域にあり、かつては水上運輸の施設が密集した、船員や水夫が多く見られる場所であって、原作ではピアソン氏とポワロがそうした姿に変装して潜入捜査をするくだりもあったが、変装に関して直前の「ベールをかけた女」との重複を避けるためか、ドラマではピアソン頭取の捜査への積極的な参加はなくなっている。なお、ライムハウスにあったチャイナタウンは、第二次大戦の空襲による破壊と戦後の復興、さらには流通革命による廃墟化、そしてその後の再開発という変遷を経た結果、撮影当時にはすでに戦間期の面影を残しておらず、撮影はベスナル・グリーンのコロンビア・ロードとエズラ・ストリートでおこなわれた。ヘイスティングスを演じるヒュー・フレイザーの発言では、ここはミック・ジャガーとデビッド・ボウイのビデオクリップ「ダンシング・イン・ザ・ストリート」を撮影した場所とされているが[3]、同クリップは実際にはかつてチャイナタウンのあったドックランズで撮影されたようで、映像を見ても同じ場所には見えない。
ジャップ警部の部下のジェームソンが「ミューズ街の殺人」以来の再登場。しかし、「ミューズ街の殺人」での彼は警部 (Inspector) だったのが、今回の原語音声では Sergeant (巡査部長) と呼ばれている。「ミューズ街の殺人」の舞台は1935年11月だが、今回は同年8月なので、3か月のあいだに昇格したと見られる。なお、ジェームソンの吹替は、変わらず仲木隆司さんが担当している。
冒頭、中国人がホテルに現れる際、フロントに向かって右側からやってくるが、その後の場面では、フロントの左側にあるガラスドアの向こうが入り口であるように見える。
ポワロが日本語で「また自殺者が出たんですか」と言った台詞は、原語だと 'Another tragedy on the Serpentine? (またサーペンタイン池で悲劇ですか)' という表現。その the Serpentine (サーペンタイン池) とはロンドンのハイド・パークにある人工池のこと。ここでサーペンタイン池への入水は定番の自殺の方法ととらえられており、ポワロの台詞は、現代日本で言えば「また誰か電車に飛び込んだんですか」といったところか。
ポワロがピアソン頭取に言う「遅くても何もしないよりまし」は Better late than never. という英語のことわざ。また、原語音声では「きわめて純度の高い、良質の銀」をピアソン頭取が top-grade 24-carat silver と表現するが、 carat は本来、金の純度に関してのみ用いる単位。その値は24分率で、 24 carats は純度100パーセントを表す。
ウー・リンの死体を発見した女性があげる悲鳴は、日本語音声でも原語音声でも同じ声をしている。吹替音声の制作は一般に、「ME」と呼ばれる音楽 (Music) と効果音 (Effect) だけが入った音源の提供を受け、それに吹替の台詞を重ねることでなされるが、悲鳴はしばしば ME 側に収録されていることがあるという[4]。この場面では、直前の台詞があるところからつづけて BGM も鳴っており、日本側で原音を使う判断をしたのではなく、やはり ME に悲鳴が含まれていたのだろう。なお、その、女性が「お兄さん」に声をかける台詞は、日本語ではそのニュアンスが落とされているが、原語音声では外国人らしい片言の英語になっている。
遺体置き場の場面でウー・リンの遺体がアップになる箇所では、死んでいるはずのウー・リンの首筋が動く。
「警察の最新のやり方」において、本部から8号車へ指示を出す前後で映る地図上のコマを動かす場面は、同じ映像の使いまわしではないものの、コマを動かす起点と終点が同じである。また、容疑者を捕らえたあとメンバーが口々に讃辞を述べるところは、日本語音声だと男性と女性が2人ずつの計4人だが、原語では男性4人女性1人で計5人の声がする。加えて、ハイビジョンリマスター版では地図上のコマを動かす様子をジャップ警部が「張り込みです (Surveillance.)」と説明するが、日本語の「張り込み」はある固定の場所に拠点を据えて見張りをすることを言い、移動する対象を追跡しての見張りは含まない。
ダイアーを確保するべく、髪を剃っている中国人の前を警察車両が通過する際、複数の現代的な出で立ちの西洋人がその車体に映っている。また、ハイビジョンリマスター版ではその前に、ダイアーがタクシーから下りたところへ7号車が接近する際、青いシャツの人物が横切るのが車体に映っているほか、8号車が「所定の位置」へついた際にも、デニム生地らしきズボンを穿いた脚が車体に映っている。そして、確保後にジャップ警部が「こっちはこれから大物の料理ですよ」と建物から出ていく際、画面左上をおそらく現代の車が通過していくのが、明かり取りのガラス越しに見える。
レスターのオフィスへの最初の訪問時の別れ際、日本語ではレスターが「それじゃ、ポワロさん」と挨拶したところは、原語だと 'So long, Hercule. (それじゃ、エルキュール)' とポワロにファーストネームで呼びかけており、その馴れ馴れしさにポワロは表情を硬化させている。また、原語のレスターが話していたのはアメリカ英語で('So long' もアメリカ風の挨拶である)、のちにポワロが、ホテルに現れた中国人がアメリカ訛りで話していたと見抜いたところは、その中国人とレスターの関係を示唆する。
「日付を書くとき、月を先に書くのはアメリカ式です。アメリカ人は変わってますね」というポワロの台詞があるが、のちの「負け犬」では、ほかならぬポワロ自身が宿帳にその順序で日付を書いている。なお、イギリスで制作され、主にイギリスを舞台にするこのドラマシリーズでも、「コックを捜せ」の新聞や「ABC殺人事件」の予告状など、アメリカ式で書かれた日付はたまに登場する。
レスター夫人の訪問前、ミス・レモンが株の買い替えをヘイスティングスと検討している場面は、「名探偵ポワロ」オリジナル版だとカットされて見られないが、のちにヘイスティングスがこの場面のやりとりに言及して、「ぼくは昨日売れと言ったのに?」と言う箇所はそのまま残っている。また、検討時にミス・レモンが見ていた新聞には、本来 American Sugar Refining (アメリカ精糖) と思しき会社名が Amercan Sugar Refining とつづられている。
ハイビジョンリマスター版でレスター夫人がポワロの部屋を訪ねた際に押す呼び鈴は、向かいの54号室のドア横にあるものとはデザインが異なり、また「二重の罪」で見られるポワロの部屋のものとも、「4階の部屋」で見られた2階下の36B号室のものとも異なる。
ジャップ警部が中華料理店のホーに「そこではっきり言うがね、ホーさん、この店の営業許可を更新したいんだろう?」と言う場面があるが、「はっきり言う」と言っている割には迂遠な言い方をしているように聞こえる。原語では 'So let me put it this way (そこでこんな風に言わせてもらうがね)' という表現で、「はっきり」というニュアンスはない。
ハン・ウー・リン (Han Wu Ling) のパスポートの「姓名」の欄には漢字で「郁安康」と書かれているが、これは中国語読みすると「ユー・アン・カン (Yu An Kang)」。実業家のはずの「職業」の欄には「海員」。そして「年歳〔年齢〕」の欄には「廾五歳〔25歳〕」。……25歳!?
ジャップ警部がクラブ〈レッドドラゴン〉のドアをたたく際、原語音声でのみドア板の揺れる音がする。一方、ジャップ警部の拳が当たる前からドアをたたく音がするのは、日本語音声も原語音声も同様である。
ポワロに「口の堅い人物です」と太鼓判を押されていたはずのジャップ警部だが、〈レッドドラゴン〉では、「中国料理店のホーが言ったことを憶えてるか」と情報提供者の名前を出してしまう。原語では 'What did our friend across the road tell us, Jameson? (通りの向かいの友人は何と言っていた、ジェームソン?)' という台詞で、さすがにもうすこしぼかしているが、それでもすぐにばれそう。
冒頭のゲームで、ヘイスティングスが「共同募金。美人コンテスト2位に入賞で……賞金10ポンド」と言うところは、募金から美人コンテスト、さらには賞金の入手という流れが不思議に感じられるかもしれない。「共同募金 (Community Chest)」とは〈モノポリー〉日本語版では「共同基金」と訳されているマスのことで、ここに止まると〈共同基金カード〉を1枚引き、それに書かれた効果を受けるのだが、〈美人コンテスト2位に入賞で、賞金10ポンド〉もその効果の一つ。本来の Community Chest は、「基金」とも訳されているように単なる「募金」(集金活動)ではなく、慈善活動等を目的に共同体からの募金を積み立てて運用するもので、共同基金カードは、いわば日本の町内会の活動や行事のような、それにまつわるイベントを表したものなのだろう。
ハイビジョンリマスター版において、ポワロがゲームで家を建てようとして駅には建てられないと言われる「フェンチャーチ」こと Fenchurch Street (フェンチャーチ・ストリート) とは、ロンドン塔のすこし北西を東西に走る通りの名であると同時に、そのすぐ近くにある鉄道駅の名である。フェンチャーチ・ストリート駅はロンドンのターミナル駅の一つで、すくなくとも現在は駅併設のホテルはないようだが、やはりロンドンのターミナル駅であるパディントン駅やセント・パンクラス駅、ビクトリア駅などには実際に駅併設のホテルが存在し、それがポワロの不服の背景になっている。なお、「プリマス行き急行列車」や「二重の手がかり」では、現地ロケではないものの、そのパディントン駅併設のホテルを見ることができる。また、「イタリア貴族殺害事件」原作でアスカニオが宿泊したグローブナー・ホテルも、ビクトリア駅併設のホテルである。
ポワロが読み上げる「家とホテルは抵当に入れることができない。敷地内のすべての建物は、抵当に入れる前に銀行に売却される」というルールの後半部は、前半部で抵当に入れることができないと言った家やホテルを抵当に入れる前のことを定義しているようにも聞こえるが、原語だと後半部で抵当に入れるのは property (土地) と明示されており、土地を抵当に入れる場合、その土地の敷地内にある建物は一緒に抵当に入れることができないので事前に銀行へ売却されると言っている。もちろん、現実には家やホテルを抵当に入れることはできるので、「これは馬鹿げてますよ」というポワロの評価につながる。
ヘイスティングスがゲームで「ダブル〔ぞろ目〕」を出したあと、日本語だと「ついてない」と言って「刑務所行き」に転落する場面があるが、「ついてない」の原語 'Chance.' は、〈チャンスカード〉を引く〈チャンス (Chance)〉のマスに止まったことを言っている。このチャンスカードにもさまざまな効果が定義されており、それを引いた結果、最悪の効果の〈刑務所行き〉のカードが出てしまったのである。日本語はこの 'Chance.' を、直後の 'Wonderful. (すてきだ)' 同様、反語的な皮肉表現と取ったものと思われるが、チャンスカードとは別に直接〈刑務所行き〉のマスを踏むこともあるので、日本語の流れでもゲームとしておかしいわけではない。なお、サイコロでぞろ目を出すと、1回コマを動かしたあとに再度サイコロを振ることができるのだが、1回目で刑務所行きになった場合は追加でサイコロを振る権利も失われてしまうので、そうした点でもヘイスティングスは「ついてない」。
オリジナル版ではピアソン頭取がチャイナタウンへ車で乗りつける場面にビデオテープが傷んだような画像の乱れがあったが、ハイビジョンリマスター版では修復された。また、ハイビジョンリマスター版では、スコットランド・ヤードの外観が映る場面に「ロンドン警視庁」、ジャップ警部が〈レッドドラゴン〉に踏み込む場面に「クラブ レッドドラゴン」という字幕が追加された。加えて、ダイアーの取り調べの場面で、オリジナル版では「取り調べ室」となっていた字幕が「取調室」と変更されている。
ロンドン上海銀行の建物は、ロンドン東部郊外にあるダグナム市民センター(現在はCUロンドンのダグナム・キャンパス)。また、ルパート通りのチャウキャットサウナからチャイナタウンへ向かうダイアーのタクシーが撮影された場所は、大英博物館近くのギルバート・プレース、ブルームズベリ・スクエア、グレート・ラッセル・ストリート。セント・ジェームス・ホテルおよびレスターのオフィスもともにブルームズベリ・スクエアとグレート・ラッセル・ストリートの交差点にある。ただし、セント・ジェームス・ホテルの建物は実際にはドイツ歴史協会であり、そのため、ホテルの向かって右の窓の内側には、いささかホテルらしからぬ本棚が見える。また、レスターのオフィスは、窓同士の間隔がその内外で異なり、内部は別の場所で撮影したと見られる。スコットランド・ヤードの屋内は、チジック・タウン・ホール内。クラブ〈レッドドラゴン〉内部は、トゥイッケナム・スタジオ内に組まれたセットである[5]。
7号車の運転手は、「クラブのキング」のオグランダー氏。また、ピアソン頭取役のアンソニー・ベイトは、ジョン・ソウ主演の「主任警部モース」の一篇、「ウッドストック行最終バス」のバーナード・クローザー役でも見ることができる。
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〈レッドドラゴン〉の阿片窟でジャップ警部は、日本語では「東洋から阿片というとんだ土産を持ち帰ったな、ダイアー」と、阿片と先に認識してからそのにおいを嗅いでいるが、原語だと 'Brought back one or two holiday souvenir from the Far East, I see. (東洋からちょっとばかり土産を持ち帰ったらしいな)' という台詞で事前の認識は明言せず、確認のために粉末のにおいを嗅いでいる。
ヘイスティングスがゲームで「ダブル」と言ったのを聞いてポワロが事件の全容に気づいたのは、「ダブル」すなわち double に「代役」「替え玉」の意味があるためで、それによって、ホテルに現れた「ウー・リン」が本人でなかったことに思い至ったのである。
ポワロがエイブリー卿の小切手を確認した際、最初は左手の人差し指を小切手と封筒のあいだに入れて持っていたのが、小切手の表のアップに切り替わると小切手の上に人差し指を当てている。その際、当初添えていなかった右手も小切手をつかんでいるので、すばやく持ち替えたのだろうか。また、小切手の記載からわかるように「エイブリー」の原語の綴りは Avebury で、順当にカタカナに直せば「エイブブリー」になるはず。この頃の日本語音声だと原語の v 音にはバ行の音を当てるのが通例で、「ブ」の音が連続してしまうために名前を改変したのだろうか。
謎解きにあたってピアソン頭取が〈レッドドラゴン〉にやってきた際、ポワロたちは真っ暗ななかで何をしていたのかしらね。
- [1] 根本敬, 『物語 ビルマの歴史』, 中央公論新社, 2014, pp. 84-87
- [2] CHINATOWN - LONDON W1 | Through the ages
- [3] ピーター・ヘイニング (訳: 岩井田雅行, 緒方桂子), 『テレビ版 名探偵ポワロ』, 求龍堂, 1998, pp. 49-50
- [4] 吹替の帝王 -日本語吹替版専門映画サイト-| 20世紀フォックス ホーム エンターテイメント
- [5] David Suchet and Geoffrey Wansell, Poirot and Me, headline, 2013, p. 83
ロケ地写真
カットされた場面
日本
オリジナル版
[01:07/0:17] | タクシーから降りる中国人 〜 コマを進めるポワロ |
[02:52/0:30] | ポワロがゲームで駅にホテルを建てられないと言われて憤慨する場面 |
[16:49/1:00] | ポワロがゲームで600ポンド支払わされて憤慨する場面 |
[11:52/0:15] | ウー・リンの遺体確認後、事件の印象を話すポワロとジャップ警部 |
[13:37/0:31] | 司令本部に入り、ジャップ警部が「警察の最新のやり方」を説明する場面 |
[15:45/1:33] | チャイナタウンで取引をするダイアーを包囲していく場面 |
[19:53/0:05] | ダイアーの方へ目をやるジャップ警部 〜 ホテルの外観前半 |
[26:37/1:52] | 電話会社への小切手を銀行に返されて、ポワロの部屋の電話が止められる場面 〜 レスター夫人の来訪 〜 ジャップ警部がホーの店に入っていく場面 |
ハイビジョンリマスター版
なし映像ソフト
- [VHS, LD] 「名探偵ポアロシリーズ ヴェールをかけた女, 消えた廃坑」(字幕) ハミングバード
- [VHS] 「名探偵エルキュール・ポアロ 第13巻 消えた廃坑」(字幕) 日本クラウン
- [DVD] 「名探偵ポワロ 7 ベールをかけた女, 消えた廃坑」(字幕・吹替) ビームエンタテインメント(現ハピネット・ピクチャーズ)※1
- [DVD] 「名探偵ポワロ [完全版] 7 ベールをかけた女, 消えた廃坑」(字幕・吹替) ハピネット・ピクチャーズ※2
- [DVD] 「名探偵ポワロ DVDコレクション 35 消えた廃坑」(字幕・吹替) デアゴスティーニ・ジャパン※3
- [BD] 「名探偵ポワロ Blu-ray BOX Disc 4 ベールをかけた女, 消えた廃坑, コーンワルの毒殺事件, ダベンハイム失そう事件」(字幕/吹替) ハピネット・ピクチャーズ※4
- ※1 「名探偵ポワロ DVD-BOX1」にも収録
- ※2 「名探偵ポワロ [完全版] DVD-BOX1」「名探偵ポワロ [完全版] 全巻 DVD-SET」「名探偵ポワロ [完全版] DVD-SET 2」にも収録
- ※3 吹替は大塚智則さん主演の新録で、映像もイギリスで販売されているDVDと同じバリエーションを使用
- ※4 「名探偵ポワロ Blu-ray BOX vol. 1」に収録