ダベンハイム失そう事件 The Disappearance of Mr. Davenheim
放送履歴
日本
オリジナル版(44分30秒)
- 1991年01月29日 22時00分〜 (NHK総合)
- 1992年04月28日 17時05分〜 (NHK総合)
- 1998年11月02日 15時10分〜 (NHK総合)
- 2003年06月16日 18時00分〜 (NHK衛星第2)
ハイビジョンリマスター版(50分30秒)
- 2016年02月06日 16時00分〜 (NHK BSプレミアム)
- 2016年07月13日 17時00分〜 (NHK BSプレミアム)
- 2020年07月11日 17時09分〜 (NHK BSプレミアム)※1
- 2021年10月29日 09時00分〜 (NHK BS4K)
- 2022年09月14日 21時00分〜 (NHK BSプレミアム・BS4K)
- 2022年09月24日 25時26分〜 (NHK BSプレミアム)※2
- ※1 エンディング最後の画面下部に次回の放送時間案内の字幕表示(帯付き)あり
- ※2 エンディング後半の画面左部に次回の放送案内の字幕表示あり
海外
- 1990年02月04日 (英・ITV)
原作
邦訳
- 「ミスタ・ダヴンハイムの失踪」 - 『ポアロ登場』 クリスティー文庫 真崎義博訳
- 「ダヴンハイム失踪事件」 - 『ポアロ登場』 ハヤカワミステリ文庫 小倉多加志訳
- 「ダヴンハイム氏の失踪」 - 『ポワロの事件簿1』 創元推理文庫 厚木淳訳
- 「ダヴェンハイム氏の失踪」 - 『クリスティ短編集1』 新潮文庫 井上宗次・石田英二訳
原書
雑誌等掲載
- The Disappearance of Mr Davenheim, The Sketch, 28 March 1923 (UK)
- Mr Davenby Disappears, The Blue Book Magazine, December 1923 (USA)
短篇集
- The Disappearance of Mr Davenheim, Poirot Investigates, The Bodley Head, 21 March 1924 (UK)
- The Disappearance of Mr Davenheim, Poirot Investigates, Dodd Mead, 1925 (USA)
オープニングクレジット
日本
オリジナル版
名探偵ポワロ / AGATHA CHRISTIE'S POIROT / DAVID SUCHET // HUGH FRASER / PHILIP JACKSON / PAULINE MORAN / ダベンハイム失そう事件, THE DISAPPEARANCE OF MR. DAVENHEIM / Dramatized by DAVID RENWICK
ハイビジョンリマスター版
名探偵ポワロ / DAVID SUCHET / AGATHA CHRISTIE'S POIROT / ダベンハイム失そう事件 // HUGH FRASER / PHILIP JACKSON / PAULINE MORAN / THE DISAPPEARANCE OF MR. DAVENHEIM / Dramatized by DAVID RENWICK
エンディングクレジット
日本
オリジナル版
原作 アガサ・クリスティー 脚本 デビッド・レンウィック 監督 アンドリュー・グリーブ 制作 LWT(イギリス) / 出演 ポワロ(デビッド・スーシェ) 熊倉一雄 ヘイスティングス(ヒュー・フレイザー) 富山 敬 ジャップ警部(フィリップ・ジャクソン) 坂口芳貞 ミス・レモン 翠 準子 ダベンハイム 納谷悟朗 喜多道枝 家弓家正 藤本 譲 大竹 宏 中江真司 松岡洋子 田口 昴 梅津秀行 掛川裕彦 / 日本語版 宇津木道子 山田悦司 福岡浩美 南部満治 金谷和美
ハイビジョンリマスター版
原作 アガサ・クリスティー 脚本 デビッド・レンウィック 演出 アンドリュー・グリーブ 制作 LWT (イギリス) / 出演 ポワロ(デビッド・スーシェ) 熊倉 一雄 ヘイスティングス(ヒュー・フレイザー) 富山 敬/安原 義人 ジャップ警部(フィリップ・ジャクソン) 坂口 芳貞 ミス・レモン(ポーリン・モラン) 翠 準子 ダベンハイム 納谷 悟朗 喜多 道枝 家弓 家正 藤本 譲 大竹 宏 中江 真司 松岡 洋子 田口 昴 梅津 秀行 掛川 裕彦 坂口 候一 大林 洋平 日本語版スタッフ 翻訳 宇津木 道子 演出 山田 悦司 音声 金谷 和美 プロデューサー 里口 千
海外
オリジナル版
Hercule Poirot: DAVID SUCHET; Captain Hastings: HUGH FRASER; Chief Inspector Japp: PHILIP JACKSON; Miss Lemon: PAULINE MORAN; Charlotte Davenheim: MEL MARTIN; Mathew Davenheim: KENNETH COLLEY; Gerald Lowen: TONY MATHEWS; Maid: FIONA McARTHUR; Merritt: RICHARD BEALE; Sergeant: BOB MASON; Policeman: PETER DORAN; Delivery Man: STEWART HARWOOD; Mechanic: JONTY MILLER; Chief Engineer: MALCOLM MUDIE; Illusionist & Magic Consultant: PATRICK PAGE; Stunts: COLIN SKEAPING / Developed for Television by Picture Partnership Productions / (中略)First Assistant Director: SIMON HINKLY; Location Manager: NIGEL GOSTELOW; Script Supervisor: SHEILA WILSON; Production Co-ordinator: MONICA ROGERS; Accountant: JOHN BEHARRELL; Camera Operator: JAMIE HARCOURT; Focus Puller: HUGH FAIRS; Grip: JOHN ETHERINGTON; Boom Operator: MARTIN TREVIS; Gaffer: DEREK RYMER; Art Director: PETER WENHAM; Production Buyer: LUDMILLA BARRAS; Property Master: MICKY LENNON; Construction Manager: LES PEACH; Dubbing: PETER LENNARD, MIKE MURR, RUPERT SCRIVENER; Post Production Superviser: RAY HELM; Panaflex 16(R) Camera by Panavision(R); Grip Equipment by Grip House Ltd; Lighting & Generators by Samuelson Lighting Ltd; Made at Twickenham Studios, London, England; Costume Designer: LINDA MATTOCK; Make up Supervisor: ROSEANN SAMUEL; Sound Recordist: KEN WESTON; Titles: PAT GAVIN; Production Manager: MARTIN BOND; Casting: REBECCA HOWARD, LUCY ABERCROMBIE; Editor: DEREK BAIN; Production Supervisor: DONALD TOMS / Production Designer: ROB HARRIS / Director of Photography: IVAN STRASBURG / Theme Music: CHRISTOPHER GUNNING; Incidental Music: FIACHRA TRENCH; Conductor: DAVID SNELL / Executive Producer: NICK ELLIOTT / Producer: BRIAN EASTMAN / Director: ANDREW GRIEVE
あらすじ
有名な銀行家、マシュー・ダベンハイムがライバルのローウェンとの面会を目前にして失そうした。真実を導き出すのは頭だと言うポワロは、部屋から出ることなく1週間でその謎を解けるかどうか、ジャップ警部と賭けをすることにしたが……
事件発生時期
某年10月中旬
主要登場人物
エルキュール・ポワロ | 私立探偵 |
アーサー・ヘイスティングス | ポワロの探偵事務所のパートナー、陸軍大尉 |
ジェームス・ジャップ | スコットランド・ヤード主任警部 |
フェリシティ・レモン | ポワロの秘書 |
マシュー・ダベンハイム | 銀行家 |
シャーロッテ・ダベンハイム | マシューの妻 |
ジェラルド・ローウェン | ダベンハイムのライバル |
マーサ | ダベンハイム邸のメイド |
メリット | ボート小屋の番人 |
解説、みたいなもの
事件は『シャーロック・ホームズの冒険』所収の〔» 小説の題名を表示〕「唇の捩れた男」を思わせる筋書だが、ポワロが部屋にこもったままで事件を解決するという〈灰色の脳細胞〉本領発揮の一篇。とはいえ、部屋を出られないポワロは、手品の練習に勤しんだり、かなり退屈なご様子。そのポワロが演じる手品のコンサルタントを手がけたのは、冒頭のマジックショーでもステージマジシャンを演じているパトリック・ペイジ。ペイジは、映画「カジノ・ロワイヤル」でもコンサルタントを務めたという[1]。
原作で事件を担当していたのは準レギュラーであるミラー警部で、ジャップ警部がポワロへの情報提供役を務めていたが、ドラマではミラー警部はカットされてジャップ警部が直接事件を担当し、並行してヘイスティングスがポワロの指示で調査にあたる。しかし、ペンキを塗りたての椅子に座ってしまったり、つまんだ料理が鳥の餌だったり、ばつの悪い実験や質問をさせられたり、さらにハイビジョンリマスター版では人違いの挙げ句に怒鳴られまでするなど、ヘイスティングスにとっては受難の連続。また、かつてダベンハイムがローウェンにやりこめられたことがあるという原作の関係がドラマでは逆転しており、ローウェンにダベンハイム殺害の動機が与えられているほか、原作では良好と見なされていたダベンハイム夫妻の関係にも微妙な違和感を漂わせている。「今」が6月から10月に変えられていたり、ダベンハイムが旅行していたという時期が秋から冬に変更されていたりするのは、前回の「二重の罪」も10月に設定されていたことから考えて、撮影時期の季節にあわせたのだろう。
ハイビジョンリマスター版では、ダベンハイム夫人が夫に「〔ローウェンが〕朝一番の列車に乗ってこちらに向かうそうよ」と伝えるが、そのローウェンはその日の夕方に到着する。夫人との会話からは、ダベンハイムもロンドンの銀行から帰宅したところと考えられ、そのあとにやはりロンドンからやってきたと見られるローウェンが、朝一番の汽車に乗ってくるのは不自然である。また、ダベンハイム邸のあるサリー州ホームベリー・セント・メリーは実在の地名で、ロンドンからの直線距離は40キロメートルほどの場所であり、その点でも朝一番の汽車で出て、着くのが夕方になるとは考えにくい。原語だと夫人の台詞は 'He said he would be catching the earlier train after all. (結局、早いほうの汽車に乗るそうよ)' となっており、別に列車は「朝一番」とは限らない。
マジックショーでの消失マジックは、「さなぎ」が消える前後で奥の燭台の位置が変わっており、ポワロが劇中で解説したような物理的トリックではなく、映像の編集によるものと見られる。
ジャップ警部が日本語で「1時間経っても、ダベンハイム氏は依然帰らなかった」と言う際、時計は「1時間」と丸めるには長く1時間40分ほども進んでいるが、原語ではちゃんと over an hour (1時間以上) と言っている。
捜査中にヘイスティングスとジャップ警部が巡り会った際に交わす言葉は日本語だと都度変わるが、原語ではすべて 'Captain Hastings. (ヘイスティングス大尉)' 'Chief Inspector. (ジャップ警部)' と相手への呼びかけになっていて、くり返しの効果が意図されている(といっても、オリジナル版ではカットのせいで一度だけになっているけど)。なお、英語だと相手への呼びかけには敬意のニュアンスがあり、単体でこうして出会いや別れの挨拶のようにも用いることができる。日本語音声でもたまにポワロが、出会い頭や別れ際に相手を呼び止めるでもないのに「ムッシュウ」や「マダム」という呼びかけをするのは、原語で挨拶として使われたものをそのままカタカナ語に置き換えているためである。
ハイビジョンリマスター版で、ジャップ警部との賭けについてミス・レモンとポワロが交わす「ばかげているとお思いになりません?」「そうは思いませんよ、ミス・レモン」という会話は、原語だと 'Oh, are you sure that was wise? (ほんとうにそれが賢い選択だったとお思いなんですの?)' 'Perhaps not, Miss Lemon. (確かに賢くなかったかもしれませんね、ミス・レモン)' というやりとりで、ミス・レモンの指摘は、賭けの内容が馬鹿げているというより、分のない賭けを受けたことが愚かだという批判であって、ポワロの回答も、愚かだという点でミス・レモンの指摘を一見認めつつ、賭けの見通しについては真逆の評価で切り返すことを意図したもの。そのため、「いま思うと、賭け金は10ポンドにするべきでした」というポワロの台詞につながっている。
ハイビジョンリマスター版で、ブルックランズ自動車レース場でローウェンがヘイスティングスをブライトン大佐と勘違いしたのは、日本語では「大尉」と「大佐」の混同によるものとなっているが、原語では「ヘイスティングス」と「ブライトン」がいずれも保養地として知られるイングランド南海岸の町の名前であることによる。そのためにローウェンは、「ヘイスティングス大尉です」という名乗りに対し、「ヘイスティングス?」と階級でなく名前に反応していた。なお、ブライトンは「24羽の黒つぐみ」でアントニー・ガスコインが住んでいた町である。
ローウェンがダベンハイム失そうについて言った「ウサギの穴にでも落ちたんでしょう」という台詞は、ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』の冒頭で、アリスが穴に飛び込んだウサギの後を追って不思議の国へ行ってしまったことを踏まえてのもの。あえて日本語に意訳すれば、「神隠しにでもあったんでしょう」という感じだろうか。
ハイビジョンリマスター版で、ヘイスティングスがオウムにちょっかいを出そうとした際にポワロと交わされる、「お願いです、甘やかさないでください。訓練中なんです」「オウムをですか?」「わたしの話し相手です」というやりとりの最後の台詞は、原語だと 'I was talking to the parrot. (オウムに言ったんです)' となっており、ポワロに「訓練」されていたのはヘイスティングスである。
ブルックランズ自動車レース場で、レースを撮影しているカメラに書かれた PATHE とは、ニュース映画「パテ・ガゼット」の撮影であることを示すもの。しかし、劇中で使われているニュース映像はパテ・ガゼットのものではなく、複数のブリティッシュ・ムービートーン・ニュースの映像をつなぎあわせて使用しているようだ[2][3]。なお、パテ・ガゼットのロゴを含むニュース映像は「夢」で、同じくブリティッシュ・ムービートーン・ニュースのロゴを含むニュース映像は「100万ドル債券盗難事件」で見ることができる。
ヘイスティングスの推理をポワロが「それだけは考えられませんね」と言うところは、原語だと 'Like the round hole into the square peg. (四角い杭にまるい穴を入れるようなものです)' という台詞で、 square peg in a round hole (まるい穴に四角い杭) という慣用句をポワロがまちがえている。
ダベンハイムのキャビネット内にあった品としてヘイスティングスが報告した「肝油」は原語だと liver pills で、これは肝油のように肝臓から作られた錠剤ではなく、肝臓への効能を謳ったサプリメント錠のこと。また、ポワロが言う「ムッシュウ・ダベンハイムのバスルームのキャビネットにあるべきでなかったものは何か?」の「あるべきでなかった」は多義的な表現だが、事前にヘイスティングスの列挙を途中で打ち切れたことからわかるように、「あるべきだが存在しなかった」ではなく、「あってはならないが存在した」の意味である。
原作の、チングサイドという村にあるシーザーズ荘から、サリー州ホームベリー・セント・メリーにあるキンバリー・ハウスへと設定が変更されたダベンハイム邸は、実際には「二重の罪」のミッドランド・ホテルと同じくオリバー・ヒルによってデザインされた、1933年完成のジョルドウィンズという邸宅で[4](ただし、邸内の金庫は撮影のために偽の壁を張り出して設置したものである)、その劇中の住所も、建物の名前以外はジョルドウィンズの実際の所在地と一致している。一方、ブルックランズ自動車レース場も、同じくサリー州に実在する、1907年にオープンした世界初の自動車レース場で[5]、現在はブルックランズ・ミュージアムとなっている。ただし、両者は同じ州内といえど直線距離でも20キロメートル近く離れており、劇中のような徒歩圏内ではまったくない。ポワロたちがマジックショーを観たのはロンドン郊外リッチモンドにあるリッチモンド劇場で、ここはコリン・ブキャナン主演の「蒼ざめた馬」でも、冒頭に『マクベス』が上演されていたプレイハウス劇場として撮影に使われている。留置所は「ベールをかけた女」のウィンブルドン警察内と同じ場所だが、家具の配置などが変わっている。
ポワロが組み立てていたトランプの塔が崩れる際、上から吊っていた糸が見える。また、やぶいた新聞を復元する手品では、下に垂れた紙をまとめる際に手品のタネが見える。一方、ダベンハイム邸の書斎では、裸婦画の左側の壁に、現代的な設備を隠したと思われる白い箱がついている。さらにハイビジョンリマスター版では、レース場から帰ろうとするローウェンにジャップ警部が食い下がる際、建物の窓ガラスに現代のビルが映り込んでいる。
ブルックランズ自動車レース場で開催された〈ゴールド・スター・ハンディキャップ〉では、ローウェンが運転する3番の車と6番の車は、白黒の映像とカラーの映像とで車種や番号の位置が変わる。また、同じ観客が複数の異なる場所に存在するほか、ケレットを追跡するジャップ警部が同じ場所を2回走ったり、前にリタイアしていたはずの8番の車がケレットの正面から走ってきたり、ピットへ転げ込むケレットの体勢が変わったりする。一方、ポワロの部屋でのディナーでは、アップになったカットだと鶏肉の右側を左から右へ切り分けているのに、カメラが引くとポワロが左側を右から左へ切り分けている。また、ポワロが「失そうした日、ムッシュウ・ダベンハイムのバスルームのキャビネットに何が入っていたか?」と言った際だけ、なぜかポワロが前に掛けたナプキンがなくなっている。さらに、ポワロがミス・レモンに対して手品で復元してみせた新聞を机に置く際には、背面にまとめられているはずのやぶかれた新聞が見当たらず、加えて上辺の切り口の形が変わっている。
ハイビジョンリマスター版で、書類を抱えたミス・レモンに玄関のブザーに出るよう促して断られたポワロが言う「わかりましたよ」という台詞は、日本語音声のみのもの。
ハイビジョンリマスター版で番組内容として放送データに載っているあらすじでは、「ダベンハイムは、客の男性を駅まで歩いて迎えに行ったまま消息を絶っていた」と書かれているが、ローウェンに出会うことを予期してはいたものの、その外出の目的は郵便を出しに村へ行くこと(と外の空気を吸うこと)だった。
本作にはハイビジョンリマスター版でも本篇にカットされた箇所が存在し、自動車レース場でヘイスティングスがローウェンのもとへ案内される場面の一部がカットされている。ここには「あんなに速いブガッティは初めて見ました」という、実在するメーカーの名前を挙げて車の性能を評価した台詞があり、そのためにカットされたのだろう(「100万ドル債券盗難事件」にオリジナル版からある同様の台詞は、車種の同定がシナリオ上重要な台詞ながら、日本語音声ではメーカー名がぼかされている)。この部分は、その前後も含めてオリジナル版でもカットされており、 NHK では一度も放送されていない。
» 結末や真相に触れる内容を表示
ジャップ警部が「〔ダベンハイムは〕大金持ちですよ。大邸宅に住んでます」と日本語で言うところは、原語だと 'and a very wealthy man too, if his house is anything to go by (大金持ちですよ。住んでいる家を見るかぎり)' という表現で、ダベンハイムが大金持ちというのはあくまでその住居からの判断であって、内情が実際に裕福であるかについては(警部本人にその意図があるかはともかく)含みを持たせていることが明確な表現になっていた。
台詞の上ではダベンハイムが家を出たのが午後4時40分頃、メリットが二人連れの浮浪者を見たのが4時45分ということだが、ダベンハイムが家を出る前に時計はすでに4時45分を指しており、時計の時刻や証言が正確であれば、メリットが目撃した人物は変装したダベンハイムではありえなくなる。もっとも、仮に台詞どおり4時40分頃に家を出ていたとしても、せいぜい5分強の時間で浮浪者に変装し、浮浪者仲間と合流して、目の不自由なふりをしながら自動車レース場の「ちょっと先」にある湖の近くまでたどり着くのも難しそうだけど。
ダベンハイム・サモン銀行の倒産を報じる新聞の日付が火曜日で、それがヘイスティングスが「あと3日しかない」と言ってから3日目のことなので、ポワロとジャップ警部が賭けをしたのは前の週の火曜日の晩ということになる。その時点で警部はすでに事件の情報を一定量得ているものの、現場に赴いたのは翌日が初めてのように見えるのだが、金曜日の失そうから月曜日までは地元警察が調査していて、火曜日に本庁へ協力要請が来たということだろうか。
原作で事件を担当していたのは準レギュラーであるミラー警部で、ジャップ警部がポワロへの情報提供役を務めていたが、ドラマではミラー警部はカットされてジャップ警部が直接事件を担当し、並行してヘイスティングスがポワロの指示で調査にあたる。しかし、ペンキを塗りたての椅子に座ってしまったり、つまんだ料理が鳥の餌だったり、ばつの悪い実験や質問をさせられたり、さらにハイビジョンリマスター版では人違いの挙げ句に怒鳴られまでするなど、ヘイスティングスにとっては受難の連続。また、かつてダベンハイムがローウェンにやりこめられたことがあるという原作の関係がドラマでは逆転しており、ローウェンにダベンハイム殺害の動機が与えられているほか、原作では良好と見なされていたダベンハイム夫妻の関係にも微妙な違和感を漂わせている。「今」が6月から10月に変えられていたり、ダベンハイムが旅行していたという時期が秋から冬に変更されていたりするのは、前回の「二重の罪」も10月に設定されていたことから考えて、撮影時期の季節にあわせたのだろう。
ハイビジョンリマスター版では、ダベンハイム夫人が夫に「〔ローウェンが〕朝一番の列車に乗ってこちらに向かうそうよ」と伝えるが、そのローウェンはその日の夕方に到着する。夫人との会話からは、ダベンハイムもロンドンの銀行から帰宅したところと考えられ、そのあとにやはりロンドンからやってきたと見られるローウェンが、朝一番の汽車に乗ってくるのは不自然である。また、ダベンハイム邸のあるサリー州ホームベリー・セント・メリーは実在の地名で、ロンドンからの直線距離は40キロメートルほどの場所であり、その点でも朝一番の汽車で出て、着くのが夕方になるとは考えにくい。原語だと夫人の台詞は 'He said he would be catching the earlier train after all. (結局、早いほうの汽車に乗るそうよ)' となっており、別に列車は「朝一番」とは限らない。
マジックショーでの消失マジックは、「さなぎ」が消える前後で奥の燭台の位置が変わっており、ポワロが劇中で解説したような物理的トリックではなく、映像の編集によるものと見られる。
ジャップ警部が日本語で「1時間経っても、ダベンハイム氏は依然帰らなかった」と言う際、時計は「1時間」と丸めるには長く1時間40分ほども進んでいるが、原語ではちゃんと over an hour (1時間以上) と言っている。
捜査中にヘイスティングスとジャップ警部が巡り会った際に交わす言葉は日本語だと都度変わるが、原語ではすべて 'Captain Hastings. (ヘイスティングス大尉)' 'Chief Inspector. (ジャップ警部)' と相手への呼びかけになっていて、くり返しの効果が意図されている(といっても、オリジナル版ではカットのせいで一度だけになっているけど)。なお、英語だと相手への呼びかけには敬意のニュアンスがあり、単体でこうして出会いや別れの挨拶のようにも用いることができる。日本語音声でもたまにポワロが、出会い頭や別れ際に相手を呼び止めるでもないのに「ムッシュウ」や「マダム」という呼びかけをするのは、原語で挨拶として使われたものをそのままカタカナ語に置き換えているためである。
ハイビジョンリマスター版で、ジャップ警部との賭けについてミス・レモンとポワロが交わす「ばかげているとお思いになりません?」「そうは思いませんよ、ミス・レモン」という会話は、原語だと 'Oh, are you sure that was wise? (ほんとうにそれが賢い選択だったとお思いなんですの?)' 'Perhaps not, Miss Lemon. (確かに賢くなかったかもしれませんね、ミス・レモン)' というやりとりで、ミス・レモンの指摘は、賭けの内容が馬鹿げているというより、分のない賭けを受けたことが愚かだという批判であって、ポワロの回答も、愚かだという点でミス・レモンの指摘を一見認めつつ、賭けの見通しについては真逆の評価で切り返すことを意図したもの。そのため、「いま思うと、賭け金は10ポンドにするべきでした」というポワロの台詞につながっている。
ハイビジョンリマスター版で、ブルックランズ自動車レース場でローウェンがヘイスティングスをブライトン大佐と勘違いしたのは、日本語では「大尉」と「大佐」の混同によるものとなっているが、原語では「ヘイスティングス」と「ブライトン」がいずれも保養地として知られるイングランド南海岸の町の名前であることによる。そのためにローウェンは、「ヘイスティングス大尉です」という名乗りに対し、「ヘイスティングス?」と階級でなく名前に反応していた。なお、ブライトンは「24羽の黒つぐみ」でアントニー・ガスコインが住んでいた町である。
ローウェンがダベンハイム失そうについて言った「ウサギの穴にでも落ちたんでしょう」という台詞は、ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』の冒頭で、アリスが穴に飛び込んだウサギの後を追って不思議の国へ行ってしまったことを踏まえてのもの。あえて日本語に意訳すれば、「神隠しにでもあったんでしょう」という感じだろうか。
ハイビジョンリマスター版で、ヘイスティングスがオウムにちょっかいを出そうとした際にポワロと交わされる、「お願いです、甘やかさないでください。訓練中なんです」「オウムをですか?」「わたしの話し相手です」というやりとりの最後の台詞は、原語だと 'I was talking to the parrot. (オウムに言ったんです)' となっており、ポワロに「訓練」されていたのはヘイスティングスである。
ブルックランズ自動車レース場で、レースを撮影しているカメラに書かれた PATHE とは、ニュース映画「パテ・ガゼット」の撮影であることを示すもの。しかし、劇中で使われているニュース映像はパテ・ガゼットのものではなく、複数のブリティッシュ・ムービートーン・ニュースの映像をつなぎあわせて使用しているようだ[2][3]。なお、パテ・ガゼットのロゴを含むニュース映像は「夢」で、同じくブリティッシュ・ムービートーン・ニュースのロゴを含むニュース映像は「100万ドル債券盗難事件」で見ることができる。
ヘイスティングスの推理をポワロが「それだけは考えられませんね」と言うところは、原語だと 'Like the round hole into the square peg. (四角い杭にまるい穴を入れるようなものです)' という台詞で、 square peg in a round hole (まるい穴に四角い杭) という慣用句をポワロがまちがえている。
ダベンハイムのキャビネット内にあった品としてヘイスティングスが報告した「肝油」は原語だと liver pills で、これは肝油のように肝臓から作られた錠剤ではなく、肝臓への効能を謳ったサプリメント錠のこと。また、ポワロが言う「ムッシュウ・ダベンハイムのバスルームのキャビネットにあるべきでなかったものは何か?」の「あるべきでなかった」は多義的な表現だが、事前にヘイスティングスの列挙を途中で打ち切れたことからわかるように、「あるべきだが存在しなかった」ではなく、「あってはならないが存在した」の意味である。
原作の、チングサイドという村にあるシーザーズ荘から、サリー州ホームベリー・セント・メリーにあるキンバリー・ハウスへと設定が変更されたダベンハイム邸は、実際には「二重の罪」のミッドランド・ホテルと同じくオリバー・ヒルによってデザインされた、1933年完成のジョルドウィンズという邸宅で[4](ただし、邸内の金庫は撮影のために偽の壁を張り出して設置したものである)、その劇中の住所も、建物の名前以外はジョルドウィンズの実際の所在地と一致している。一方、ブルックランズ自動車レース場も、同じくサリー州に実在する、1907年にオープンした世界初の自動車レース場で[5]、現在はブルックランズ・ミュージアムとなっている。ただし、両者は同じ州内といえど直線距離でも20キロメートル近く離れており、劇中のような徒歩圏内ではまったくない。ポワロたちがマジックショーを観たのはロンドン郊外リッチモンドにあるリッチモンド劇場で、ここはコリン・ブキャナン主演の「蒼ざめた馬」でも、冒頭に『マクベス』が上演されていたプレイハウス劇場として撮影に使われている。留置所は「ベールをかけた女」のウィンブルドン警察内と同じ場所だが、家具の配置などが変わっている。
ポワロが組み立てていたトランプの塔が崩れる際、上から吊っていた糸が見える。また、やぶいた新聞を復元する手品では、下に垂れた紙をまとめる際に手品のタネが見える。一方、ダベンハイム邸の書斎では、裸婦画の左側の壁に、現代的な設備を隠したと思われる白い箱がついている。さらにハイビジョンリマスター版では、レース場から帰ろうとするローウェンにジャップ警部が食い下がる際、建物の窓ガラスに現代のビルが映り込んでいる。
ブルックランズ自動車レース場で開催された〈ゴールド・スター・ハンディキャップ〉では、ローウェンが運転する3番の車と6番の車は、白黒の映像とカラーの映像とで車種や番号の位置が変わる。また、同じ観客が複数の異なる場所に存在するほか、ケレットを追跡するジャップ警部が同じ場所を2回走ったり、前にリタイアしていたはずの8番の車がケレットの正面から走ってきたり、ピットへ転げ込むケレットの体勢が変わったりする。一方、ポワロの部屋でのディナーでは、アップになったカットだと鶏肉の右側を左から右へ切り分けているのに、カメラが引くとポワロが左側を右から左へ切り分けている。また、ポワロが「失そうした日、ムッシュウ・ダベンハイムのバスルームのキャビネットに何が入っていたか?」と言った際だけ、なぜかポワロが前に掛けたナプキンがなくなっている。さらに、ポワロがミス・レモンに対して手品で復元してみせた新聞を机に置く際には、背面にまとめられているはずのやぶかれた新聞が見当たらず、加えて上辺の切り口の形が変わっている。
ハイビジョンリマスター版で、書類を抱えたミス・レモンに玄関のブザーに出るよう促して断られたポワロが言う「わかりましたよ」という台詞は、日本語音声のみのもの。
ハイビジョンリマスター版で番組内容として放送データに載っているあらすじでは、「ダベンハイムは、客の男性を駅まで歩いて迎えに行ったまま消息を絶っていた」と書かれているが、ローウェンに出会うことを予期してはいたものの、その外出の目的は郵便を出しに村へ行くこと(と外の空気を吸うこと)だった。
本作にはハイビジョンリマスター版でも本篇にカットされた箇所が存在し、自動車レース場でヘイスティングスがローウェンのもとへ案内される場面の一部がカットされている。ここには「あんなに速いブガッティは初めて見ました」という、実在するメーカーの名前を挙げて車の性能を評価した台詞があり、そのためにカットされたのだろう(「100万ドル債券盗難事件」にオリジナル版からある同様の台詞は、車種の同定がシナリオ上重要な台詞ながら、日本語音声ではメーカー名がぼかされている)。この部分は、その前後も含めてオリジナル版でもカットされており、 NHK では一度も放送されていない。
» 結末や真相に触れる内容を表示
ジャップ警部が「〔ダベンハイムは〕大金持ちですよ。大邸宅に住んでます」と日本語で言うところは、原語だと 'and a very wealthy man too, if his house is anything to go by (大金持ちですよ。住んでいる家を見るかぎり)' という表現で、ダベンハイムが大金持ちというのはあくまでその住居からの判断であって、内情が実際に裕福であるかについては(警部本人にその意図があるかはともかく)含みを持たせていることが明確な表現になっていた。
台詞の上ではダベンハイムが家を出たのが午後4時40分頃、メリットが二人連れの浮浪者を見たのが4時45分ということだが、ダベンハイムが家を出る前に時計はすでに4時45分を指しており、時計の時刻や証言が正確であれば、メリットが目撃した人物は変装したダベンハイムではありえなくなる。もっとも、仮に台詞どおり4時40分頃に家を出ていたとしても、せいぜい5分強の時間で浮浪者に変装し、浮浪者仲間と合流して、目の不自由なふりをしながら自動車レース場の「ちょっと先」にある湖の近くまでたどり着くのも難しそうだけど。
ダベンハイム・サモン銀行の倒産を報じる新聞の日付が火曜日で、それがヘイスティングスが「あと3日しかない」と言ってから3日目のことなので、ポワロとジャップ警部が賭けをしたのは前の週の火曜日の晩ということになる。その時点で警部はすでに事件の情報を一定量得ているものの、現場に赴いたのは翌日が初めてのように見えるのだが、金曜日の失そうから月曜日までは地元警察が調査していて、火曜日に本庁へ協力要請が来たということだろうか。
ロケ地写真
カットされた場面
日本
オリジナル版
[02:01/0:30] | ダベンハイム帰宅直後の夫妻の会話 |
[04:24/0:23] | 霧の中へ消える夫を見送るダベンハイム夫人 |
[12:31/1:29] | ジャップ警部がダベンハイム夫人に聞き取りをする場面の後半 〜 ヘイスティングスとジャップ警部の話し相手の交換 〜 賭けに関するポワロとミス・レモンの会話 〜 ヘイスティングスとメリットの会話の出だし |
[16:16/0:56] | ホワイトヘイブン・マンション外観 〜 ダベンハイムの服についてのポワロとミス・レモンの会話 |
[17:00/0:16] | オウムについてのポワロとミス・レモンの会話 |
[17:14/1:43] | レース場でのヘイスティングス、ジャップ警部、ローウェンのやりとりの前半 |
[19:57/0:19] | オウムについてのポワロとヘイスティングスの会話 |
ハイビジョンリマスター版
[21:01/0:14] | レーシングカーの改造内容の話をしながらローウェンのところへ案内されるヘイスティングス |
映像ソフト
- [VHS, LD] 「名探偵ポアロシリーズ Vol.4 ダヴンハイム失踪事件, 安アパート事件」(字幕) ハミングバード
- [VHS] 「名探偵エルキュール・ポアロ 第16巻 ダヴンハイム氏失踪事件」(字幕) 日本クラウン
- [DVD] 「名探偵ポワロ 8 コーンワルの毒殺事件, ダベンハイム失そう事件」(字幕・吹替) ビームエンタテインメント(現ハピネット・ピクチャーズ)※1
- [DVD] 「名探偵ポワロ [完全版] 8 コーンワルの毒殺事件, ダベンハイム失そう事件」(字幕・吹替) ハピネット・ピクチャーズ※2
- [DVD] 「名探偵ポワロ DVDコレクション 38 ダベンハイム失踪事件」(字幕・吹替) デアゴスティーニ・ジャパン※3
- [BD] 「名探偵ポワロ Blu-ray BOX Disc 4 ベールをかけた女, 消えた廃坑, コーンワルの毒殺事件, ダベンハイム失そう事件」(字幕/吹替) ハピネット・ピクチャーズ※4
- ※1 「名探偵ポワロ DVD-BOX1」にも収録
- ※2 「名探偵ポワロ [完全版] DVD-BOX1」「名探偵ポワロ [完全版] 全巻 DVD-SET」「名探偵ポワロ [完全版] DVD-SET 2」にも収録
- ※3 吹替は大塚智則さん主演の新録で、映像もイギリスで販売されているDVDと同じバリエーションを使用
- ※4 「名探偵ポワロ Blu-ray BOX vol. 1」に収録
同原作の映像化作品
- [TV] 「Hercule Poirot」 1962年 出演:マーティン・ゲイベル
- [アニメ] 「アガサ・クリスティーの名探偵ポワロとマープル 第35話 ダブンハイム失踪事件」 2005年 監督:高橋ナオヒト 出演:里見浩太朗、折笠富美子、野島裕史、屋良有作、田中敦子