盗まれたロイヤル・ルビー
The Theft of the Royal Ruby

放送履歴

日本

オリジナル版(44分00秒)

  • 1992年04月03日 22時25分〜 (NHK総合)
  • 1992年05月29日 17時05分〜 (NHK総合)
  • 1998年12月16日 15時10分〜 (NHK総合)
  • 2003年07月16日 18時00分〜 (NHK衛星第2)

ハイビジョンリマスター版(46分00秒)

  • 2016年05月07日 16時00分〜 (NHK BSプレミアム)
  • 2016年10月12日 17時00分〜 (NHK BSプレミアム)
  • 2020年10月10日 17時14分〜 (NHK BSプレミアム)※1
  • 2021年11月17日 09時00分〜 (NHK BS4K)
  • 2022年03月07日 13時00分〜 (NHK BS4K)
  • 2022年12月14日 21時00分〜 (NHK BSプレミアム・BS4K)※2
  • ※1 エンディング最後の画面下部に次回の放送時間案内の字幕表示(帯付き)あり
  • ※2 BSプレミアムでの放送は、オープニング冒頭の画面左上にBS4K同時放送のアイコン表示あり

海外

  • 1991年02月24日 (英・ITV)

原作

邦訳

  • 「クリスマス・プディングの冒険」 - 『クリスマス・プディングの冒険』 クリスティー文庫 橋本福夫訳
  • 「クリスマス・プディングの冒険」 - 『クリスマス・プディングの冒険』 ハヤカワミステリ文庫 橋本福夫訳

原書

雑誌等掲載

  • The Theft of the Royal Ruby, Women's Illustrated, 24 December 1960-7 January 1961 (UK)

短篇集

  • The Adventure of the Christmas Pudding, The Adventure of the Christmas Pudding, Collins, October 1960 (UK)
  • The Theft of the Royal Ruby, Double Sin and Other Stories, Dodd Mead, 1961 (USA)

オープニングクレジット

日本

オリジナル版

名探偵ポワロ / AGATHA CHRISTIE'S POIROT / DAVID SUCHET // 盗まれたロイヤル・ルビー, THE THEFT OF THE ROYAL RUBY / Dramatized by ANTHONY HOROWITZ and CLIVE EXTON

ハイビジョンリマスター版

名探偵ポワロ / DAVID SUCHET / AGATHA CHRISTIE'S POIROT / 盗まれたロイヤル・ルビー // THE THEFT OF THE ROYAL RUBY / Dramatized by ANTHONY HOROWITZ and CLIVE EXTON / Script Consultant CLIVE EXTON

エンディングクレジット

日本

オリジナル版

原作 アガサ・クリスティー 脚本 アンソニー・ホロウィッツ クライブ・エクストン 監督 アンドリュー・グリーブ 制作 LWT(イギリス) / 出演 ポワロ(デビッド・スーシェ) 熊倉一雄 レイシー大佐 福田豊土 デズモンド 羽佐間道夫 セアラ 藩 恵子 夫人 瀬能礼子 竹村 拓 麦  人 堀内賢雄 峰 恵研 片岡富枝 中川真由美 掛川裕彦 梅津秀行 深雪さなえ 飛田展男 亀井芳子 / 日本語版 宇津木道子  山田悦司 福岡浩美 南部満治 金谷和美
  • 正しくは「 恵子」

ハイビジョンリマスター版

原作 アガサ・クリスティー 脚本 アンソニー・ホロヴィッツ クライブ・エクストン 演出 アンドリュー・グリーブ 制作 LWT (イギリス) / 出演 ポワロ(デビッド・スーシェ) 熊倉 一雄  レイシー大佐 福田 豊土 デズモンド 羽佐間 道夫 セアラ 潘 恵子 夫人 瀬能 礼子  竹村 拓 麦 人 堀内 賢雄 峰 恵研 片岡 富枝 中川 真由美 掛川 裕彦 梅津 秀行 深雪 さなえ 飛田 展男 亀井 芳子 吉野 貴宏 堀尾 雅彦  日本語版スタッフ 翻訳 宇津木 道子 演出 山田 悦司 音声 金谷 和美 プロデューサー 里口 千

海外

オリジナル版

Hercule Poirot: DAVID SUCHET; Colonel Lacey: FREDERICK TREVES; Mrs Lacey: STEPHANIE COLE; Jesmond: DAVID HOWEY; Prince Farouk: TARIQ ALIBAI; Sarah Lacey: HELENA MICHELL; David Welwyn: JOHN VERNON; Desmond Lee-Wortley: NIGEL LE VAILLANT; Gloria: ROBYN MOORE; Peverill: JOHN DUMBAR; Bridget: ALESSIA GWYTHER; Colin: JONATHAN S. BANCROFT; Michael: EDWARD HOLMES; Annie Bates: SIOBHAN GARAHY; Mrs Ross: SUSAN FIELD; Chocolate Shop Owner: GORDON REID; Parsloe: CHRISTOPHER LEAVER; Durbridge: PETER ALDWYN; Head Waiter: IAIN RATTRAY; Waiter: JAMES TAYLOR; Stunts: ANDY BRADFORD, COLIN SKEAPING, JIM DOWDALL, ELLIE BERTRAM / Developed for Television by Carnival Films / (中略) / Production Designer: ROB HARRIS / Director of Photography: CHRIS O'DELL / Music: CHRISTOPHER GUNNING; Incidental Music: FIACHRA TRENCH / Executive Producer: NICK ELLIOTT / Producer: BRIAN EASTMAN / Director: ANDREW GRIEVE

あらすじ

 一人静かなクリスマスを予定していたポワロ。しかし、国益に関わる問題だと外務次官に言葉巧みに説得され、エジプトの王子が女性に持ち逃げされたルビーを取り戻しにキングス・レイシーへ赴くことに……

事件発生時期

1939年12月下旬?

主要登場人物

エルキュール・ポワロ私立探偵
ホレース・レイシーエジプト学者、陸軍大佐
エム・レイシーホレースの妻
セアラ・レイシーレイシー大佐夫妻の孫娘
ブリジットレイシー大佐夫妻の孫娘
コリンレイシー大佐夫妻の孫
マイケルレイシー大佐夫妻の孫
デビッド・ウェルウィンエジプト美術商
デズモンド・リーワートリーキングス・レイシーの客人
グローリア・リーワートリーキングス・レイシーの客人
ペバリルキングス・レイシーの執事
アニー・ベイツキングス・レイシーのメイド
ロス夫人キングス・レイシーのコック
ジェズモンド外務次官
ファールークエジプトの王子

解説、みたいなもの

 シリアスな展開の多い第3シリーズのなかで、今回はクリスマスを題材にしていることもあって、いちばんユーモアにあふれた作品に仕上がっている。原作の中篇小説も、クリスティー自身が子供の頃の楽しいクリスマスを思い出しながら書いたという[1]。その原作小説は日本だと、独占翻訳権を持つ早川書房による「クリスマス・プディングの冒険 (The Adventure of the Christmas Pudding)」という題名で馴染み深いが、この題名は、イギリスで出版された同名の短篇集収録時のものに由来している。その短篇集の刊行後、同一の中篇がイギリスで雑誌に分載されたときの題名がドラマと同じ 'The Theft of the Royal Ruby' であり、アメリカで出版された短篇集 Double Sin and other stories にもこの題名で採録された。この原作中篇は『マン島の黄金』所収の短篇「クリスマスの冒険 (The Christmas Adventure)」をふくらませたもの(厳密には、この短篇の初出時の題名も 'The Adventure of the Christmas Pudding' だったが、1943年に Problem at Pollensa Bay and Christmas Adventure という小冊子へ採録された際に改題されたと見られる[2])で、古い大邸宅での昔ながらのクリスマスを描いた作品だったが、ドラマのキングス・レイシーはアールデコ風のモダンな建物になった。ほかには、宝石を失くした王子の性格が無礼な「愚か者」に変更されていたり、レイシー夫人の従妹ダイアナ・ミドルトンがカットされていたり、犯行の動機に政治的な要素が添えられていたりするほか、ヘイスティングスはいないが、終盤にはお約束のカーチェイスが用意されている。
 「愚かな王子」ことファールーク殿下は、エジプトのムハンマド・アリー王朝の実質的に最後の王、ファールーク一世の王子時代と見られる。彼は1920年に生まれ、14歳で留学のために渡英、1936年に父王が崩御すると帰国してエジプト王となった。のちには乱行とその結果の肥満した体により「腐ったメロン」とまで評された人物で、劇中の人物像はそのイメージに基づいて描かれていると思われるが、実際には帰国当時の彼はまだ聡明な若者であって、国民からも即位を歓迎されたという。また「名探偵ポワロ」オリジナル版では言及の場面がカットされているが、劇中の彼は19歳とされており、史実ならすでに帰国して即位している年齢である。一方、「民族主義のワフド党」とはイギリスの支配下にあったエジプトにおいて独立や民主化を求めてきた政党で、同党が与党だった1936年、エジプト・イギリス同盟条約によってエジプトは主権を回復したが、スエズ運河に関しては引きつづきイギリス軍の駐留を認める譲歩がおこなわれていた。王子と次官の台詞の原語 'The Wafd want the British out of Egypt completely. (ワフド党はイギリス人をエジプトから完全に追い出したがっているんだ)' 'They want total Egyptian control of the Suez Canal now. (彼らは今度はスエズ運河の完全な返還を要求してるんです)' はエジプト・イギリス同盟条約締結後の情勢を背景にしているように受け取れるが、同条約締結も、史実ならやはりファールーク一世即位後の出来事である。[3]
 王家のルビーの起源である「ラムセス王朝」はおそらく、古代エジプトに複数存在するラムセス王のなかでも、国をもっとも繁栄させたと言われるラムセス二世の時代、すなわち紀元前13世紀を指す(ただし、本来「王朝」は君主の系列を指す言葉であって個々の君主の治世の意味では用いず、原語は the reign of the Pharaoh Ramesses (ラムセス王の御代) と言っている)。となれば、ルビーは3000年以上伝わったものということになり、持ち逃げなどされたら、それはもう一大事にちがいない。一方、レイシー大佐が最初に発掘に携わったという墓の主の「アメンホテップ」は、第18王朝に4人いる王の名。その最後のアメンホテップ四世はアマルナ革命と呼ばれる宗教改革や遷都をおこなったことで知られ、改宗後の名前をアクナーテンといって、それを題材に書かれたのがクリスティーの戯曲『アクナーテン』であるが、アメンホテップへの言及はドラマオリジナル(そもそも原作のレイシー大佐はエジプト学者ではなく、「愚かな王子」の国籍も具体的ではない)。王墓の場所がはっきりわかっているアメンホテップ王は二世と三世だが、三世墓の発見は1799年のことである上、発見前に盗掘の被害に遭っており、大佐が参加したのは、フランスの考古学者ヴィクトール・ロレによって1898年に発見された、アメンホテップ二世墓の発掘だろうか。なお、未確定ながらアメンホテップ四世のものと考えられている王墓も、イギリスの考古学者エドワード・エアトンによって1907年に発見されているが、当初はその母ティイの墓と見なされ、またスポンサーであったセオドア・デイビスにより、遺物の大半が毀損されてしまったという。[4]
 ミス・レモンがクリスマスを過ごすという「おばさんのところ」は原語では Torquay (トーキー) と具体的な地名を挙げられており、これはイギリス南西部デヴォン州にある海辺の保養地で、クリスティーの生まれ故郷でもある。また、「愚かな王子」が宝石を受け取りにきたロンドンの店も原語では Asprey (アスプレイ) と具体名が出ており、これはロンドンのニュー・ボンド・ストリートに本店を構える実在の宝飾店である。
 ハイビジョンリマスター版で、ポワロを乗せた車はキング・チャールズ・ストリートを西からやってきて外務省へ入っていくが、この通りの西は階段になっていて車は通れない。おそらくは、本来の東から進入すると、奥に交通量の多いパーラメント・ストリートが写り込んでしまうため、実際の地理に照らせば不自然なルートで撮影することになったのだろう。
 外務省での次官との会話で、ポワロは「あなたが名前を言わないその愚かな王子は」と言っていたはずが、その直後に王子と対面したときには、日本語音声だと「あなたですか、ファールーク殿下は?」と名前を聞いていたかのようにつぶやく。この台詞は原語だと 'You are the prince? Prince Farouk? (あなたがその殿下ですか? ファールーク殿下?)' となっており、ポワロは王子の顔ないしは出で立ちから素性を推測して確認している。また、ポワロが問題を任せるとよいと伝えた「愚か者を扱う専門家」は、原語だと Commissioners in Lunacy と言われており、これは精神障碍者福祉や精神療養所の監督を担う機関のことである。
 ウェルウィンの店があるアーケードの前で救世軍の人たちが演奏しているのは「御空にこだます (Ding Dong Merrily on High)」。クリスマス当日に教会で歌われた讃美歌は「神の御子は今宵しも (O Come All Ye Faithful)」である。
 イギリス料理における「プディング (pudding)」とは蒸し料理を広く指す言葉で、クリスマスプディングとはそのように調理されるイギリス風のクリスマスケーキのこと。材料によくプラムを使ってプラムプディングとも呼ばれる。制作過程では、家族が一人ずつ材料をかき混ぜながら願い事をし、また硬貨やボタン、指輪や指ぬきなどの小物を混ぜ込んで、それが済むと型に入れて寝かせ、その後蒸し上げる。クリスマスの当日には再度プディングを温め、食べる前にブランデーをかけて火をつけ、この火が消える前にまた願い事をする。切り分けたプディングのなかから出てくる小物の意味するところは地域や家庭によって異同があるようだが、本作品では、硬貨が出てくると金持ちになれ、指ぬきは生涯独身、逆に(原作にしか出てこないけれど)指輪が出てくれば早くに結婚できるという意味を持つようだ。コリンに当たった「ブタ (pig)」は文字通りブタをかたどった小物で、出てくると食いしん坊として認定される。
 クリスマスの朝、キッチンで何かが割れる音がしたあとに聞こえる声は、日本語だと「あ、何をなさるんですか! まあ、見てください、めちゃめちゃですよ。もう行ってください」というロス夫人ひとりの叱責だが、原語は 'What do you think you're doing? (何をなさるんですか)' 'What a mess! It's ruined, completely ruined! (たいへん! めちゃめちゃだわ)' 'Oh, look at that! (あーあ、やっちゃった!)' 'Get off with you! (君が言うなよ!)' というやりとりで、それぞれの声の主はロス夫人、アニー、コリン、マイケルである。
 ウェルウィンと発掘品を売る相談をする大佐に夫人が声をかける直前には、日本語だと「ああセアラ、頼んだわね」「ええ」という夫人とセアラの会話がなされているが、原語だと夫人が大佐に 'Horace. (あなた)' と声をかけるだけ。日本語では何か頼まれたはずのセアラも、特に何かを実行に移す様子はない。
 ポワロが「さる公爵から」教わったと言うマンゴーのさばき方は、エリザベス二世の夫君であった故エディンバラ公フィリップに、デビッド・スーシェ自身が教わったものだという。それは1990年のスーシェの誕生日に、女王からの招待を受けて非公式にひらかれた食事会の席上のことで、スーシェがマンゴーのさばき方がわからずに困っていることを告白すると、公爵が実際に手本を見せてくれたという。その帰途、スーシェは直ちにプロデューサーのブライアン・イーストマンに電話でこの逸話を伝え、ポワロがマンゴーのさばき方を披露する場面が本作品に追加されることになった。仕上がった作品をバッキンガム宮殿に送ったところ、本作はエリザベス皇太后(エリザベス二世の母)のお気に入りの作品となり、またエディンバラ公はその後スーシェと会うごとに「マンゴーの人」と呼ぶようになったという。[5][6]なお余談ながら、公爵はその奔放な発言で知られた人である。
 プディングから出てきた赤い石について、ウェルウィンが「ルビーなら大当たりだね」と言った台詞は、原語だと 'If it was a ruby, it'd worth thousands. (ルビーなら何千ポンドもするよ)' という表現。いずれにせよその言い方には気がなく、ルビーのはずがないというニュアンスである。
 クリスマスの晩にレイシー一家が興じる遊びは、身振り手振りで表現した言葉を当てる「ジェスチャーゲーム」。その正解だった「オリバー・ツイスト」とは、イギリスの国民作家と言われるチャールズ・ディケンズの、初期の代表作である長篇小説の題名であり、その主人公の少年の名。出題者のウェルウィンが表現した「ヒイラギ」「毛皮」「ひねる」は、英語ではそれぞれ holly (ホリー), fur (ファー), twist (ツイスト) となって、つなげると似た音の Oliver Twist (オリバー・ツイスト) が導かれるのである。
 クリスマスの晩にポワロが部屋へ引き取ろうとしたときのマイケルの台詞は、日本語だと「まだ十時半だよ」だが、原語では 'But it's only ten o'clock! (まだ十時だよ)' で、原語は30分早い。また、砂場の足跡を調べる際、ポワロが「足跡がある。男の足跡だ。二人が少女と一緒に来て、二人だけ、立ち去った」と言うが、足跡はブリジットのもののほかには一人分しかない。原語では 'There are footprints. The footprints of a man. They arr... They arrive with the girl. But they depart alone.' という表現で、後半に出てくる代名詞 they は the footprints of a man (一人の男の複数の足跡) を受けたもの。日本語はこれを複数の人間を表すものととらえ、足跡を両方男のものと取ってしまったのだろうが、ポワロが「何という、おそろしい!」と言った場面で映ったように、立ち去る足跡も一人分だけである。ところで、このときポワロが腰を落とす場面では、画面左下に糸のようなものが映ってしまっている。
 冒頭にファールーク王子が女性と食事をしているのは、「西洋の星の盗難事件」のホテル・マグニフィセントことフリーメイソンズ・ホール内。王子が宿泊しているホテルの部屋や、ウェルウィンの店の内部が撮影されたのも同所と見られる。ここは第3シリーズに入ってからだけでも、「あなたの庭はどんな庭?」のソ連大使館、「スズメバチの巣」のファッションショー会場につづく3度目の登場となった。ポワロがチョコレートを買ったデュプレの店が撮影されたのは、地下鉄レスター・スクエア駅に近いセント・マーティンズ・コートで、外務省の車に連れ込まれたのはセント・マーティンズ・レーンへ出たところ。ウェルウィンの店があるアーケードは、オールド・ボンド・ストリートとアルベマール・ストリートをつなぐロイヤル・アーケードである。キングス・レイシーの撮影に使われた建物は、「ダベンハイム失そう事件」でダベンハイム邸の撮影に使われたジョルドウィンズ。ロンドンでファールーク王子が泊まっているアデルフィ・ホテルは、「プリマス行き急行列車」でロシュフォール伯爵が滞在したホテルで、その外観の映像はまったくの使いまわしではないが、「プリマス行き急行列車」で伯爵とフローレンスがお茶を飲む場面の前にホテルの外観を映したカットと同時に撮影されたと思われる。撮影に使われたアデルフィ・ビルディング「二重の手がかり」にも登場。キングス・レイシー近くの宿泊先のオールド・ベルはバークシャーのハーリーにあり、クリスマスの礼拝がおこなわれた教会も、オールド・ベル前のハイ・ストリート突き当たりにあるセント・メリー教会。カーチェイスがおこなわれたのは、ジョルドウィンズから北に向かったレイクス・レーンとアビンガー・レーン。
 カーチェイスの場面では、車が近づいてくるカットでは道路に中央線がないのに、直後の車が走り去るカットでは中央線がある箇所がある。途中、飛行場に向けて右折する場面では、来た道には中央線がなく、先の道には中央線があるのだが、前者で撮影した映像と後者で撮影した映像を編集でつないだのだろうか。加えて、カーチェイス冒頭で来た方向奥に見える建物は、のちにその脇あるいは納屋を通過するクロスウェイズ農場である。また、その農場で車の誘導をする男性の台詞のうち、最初の 'All right. Back up a bit. (よし、ちょっと下がってくれ)' と最後の 'Hey, there. What's the hurry? (おい、何を急いでるんだ)' は日本語に対応する台詞がない。
 ポワロが外務省の車に連れ込まれるところで後ろに見えるパブ〈ソールズベリー〉の入り口のドアには、中を撮さないためか反射でカメラなどが映り込むのを避けるためか、不自然な黒いパネルが立てられている。
 セアラが着ている赤いワンピースと緑のスーツは、いずれも「ベールをかけた女」の依頼人が着ていたのと同じもの。
 政府に関係した場面で流れる BGM は、「誘拐された総理大臣」のテーマ曲のアレンジ。外務省の内外も、「誘拐された総理大臣」に引き続き現地ロケがおこなわれている。ただし、ポワロと次官が会談した部屋が撮影されたのはフリーメイソンズ・ホール内である。
 レイシー大佐役のフレデリック・トリーブズは、ジョーン・ヒクソン主演の「ミス・マープル」の一篇、「スリーピング・マーダー」のドクター・ケネディ役(やはり吹替は福田豊土さん)や、ジョン・ソウ主演の「主任警部モース」の一篇、「ニコラス・クインの静かな世界」のロンズデール・カレッジの学長役でも見ることができる。また、セアラ役のヘレナ・ミッチェルも、同「ミス・マープル」シリーズの「バートラム・ホテルにて」でエルビラ・ブレイク役を演じている。レイシー夫人役のステファニー・コールは、「アガサ・クリスティ・アワー」シリーズのエリザベス・ガービー主演「ジェーンの求職」にアンナ公爵夫人役で出演。コックのロス夫人役のスーザン・フィールドは、ジョン・ソウ主演「主任警部モース」シリーズ「死はわが隣人」のアダムス夫人役や、ジョン・ネトルズ主演「バーナビー警部」シリーズ「採石場にのろいの叫び」のエミリー・ビーヴィス役でも見ることができる。
 レイシー大佐の吹替の福田豊土さんとデズモンドの吹替の羽佐間道夫さんは、ピーター・ユスチノフ主演のテレビドラマでポワロとヘイスティングスの吹替をそれぞれ担当している。
 ハイビジョンリマスター版の切換式字幕では、ポワロがヘイスティングスのクリスマスの予定を答えた台詞に「ア・レコース」と表示されるが、原語は « En Écosse. (スコットランドに) » で、日本語音声でも「アネコース」と言われている。また、キングス・レイシーでのジェスチャーゲームの最中には、「ファー!」という台詞に対し、切換式字幕が「(グロリア)ファー!」と表示されるが、実際はブリジットの声である。ただ、グロリアもブリジットも、深雪さなえさんの声ではある。加えて、その次の単語への回答で、切換式字幕で「縛る。」と表示される台詞も、音声は「しぼる」である。
 ハイビジョンリマスター版で番組内容として放送データに載っているあらすじには、「エジプト王子からポワロに依頼が」「エジプト王子からの極秘の依頼で、盗まれたルビーを取り戻してほしいという」と書かれているが、すくなくとも依頼の当初の主体はジェズモンド外務次官である。また、「クリスマスの日、突然、ポワロは外務省に連行される」とも書かれているが、クリスマス当日はポワロがキングス・レイシーに到着した翌日であり、ポワロが外務省に連れていかれたのは、すくなくともその2日前と見られる。加えて、「ルビーのことを知っていたのはエジプト学者のレイシー大佐一家だけだという」と書かれているが、大佐一家のほかに「長い名前の男が一人」いたことが当初より言及されている。
 » 結末や真相に触れる内容を表示
  1. [1] アガサ・クリスティー (訳: 橋本福夫), 「はじめに」, 『クリスマス・プディングの冒険』, 早川書房(クリスティー文庫), 2004, pp. 3-5
  2. [2] 森英俊, 『EQ』 1997年1月号, 光文社, 1996, p. 43
  3. [3] 山口直彦, 『新版 エジプト近現代史 ムハンマド・アリー朝成立からムバーラク政権崩壊まで』, 明石書店, 2011, pp. 269-274, 308
  4. [4] ニコラス・リーヴス (訳: 岡村圭), 『古代エジプト探検百科』, 原書房, 2002, pp. 16, 101-104, 115-116
  5. [5] ピーター・ヘイニング (訳: 岩井田雅行, 緒方桂子), 『テレビ版 名探偵ポワロ』, 求龍堂, 1998, p. 72
  6. [6] David Suchet and Geoffrey Wansell, Poirot and Me, headline, 2013, pp. 116-118

ロケ地写真

カットされた場面

日本

オリジナル版

[03:38/0:41]ポワロが車で連れて行かれる場面 〜 外務省の中を案内されるポワロ
[05:05/0:41]王子が車に向かったあとのポワロと外務次官の会話

ハイビジョンリマスター版

なし

映像ソフト

  • [VHS, VCD] 「名探偵エルキュール・ポアロ 第4巻 クリスマス・プディングの冒険」(字幕) 日本クラウン
  • [DVD] 「名探偵ポワロ 15 スペイン櫃の秘密, 盗まれたロイヤル・ルビー」(字幕・吹替) ビームエンタテインメント(現ハピネット・ピクチャーズ※1
  • [DVD] 「名探偵ポワロ [完全版] 15 スペイン櫃の秘密, 盗まれたロイヤル・ルビー」(字幕・吹替) ハピネット・ピクチャーズ※2
  • [DVD] 「名探偵ポワロ DVDコレクション 54 盗まれたロイヤル・ルビー」(字幕・吹替) デアゴスティーニ・ジャパン※3
  • [BD] 「名探偵ポワロ Blu-ray BOX Disc 8 スペイン櫃の秘密, 盗まれたロイヤル・ルビー, 戦勝舞踏会事件, 猟人荘の怪事件」(字幕/吹替) ハピネット・ピクチャーズ※4
  • ※1 「名探偵ポワロ DVD-BOX2」にも収録
  • ※2 「名探偵ポワロ [完全版] DVD-BOX1」「名探偵ポワロ [完全版] 全巻 DVD-SET」「名探偵ポワロ [完全版] DVD-SET 4」にも収録
  • ※3 吹替は大塚智則さん主演の新録で、映像もイギリスで販売されているDVDと同じバリエーションを使用
  • ※4 「名探偵ポワロ Blu-ray BOX vol. 1」に収録

同原作の映像化作品

  • [アニメ] 「アガサ・クリスティーの名探偵ポワロとマープル 第23話〜第24話 クリスマスプディングの冒険」 2004年 監督:高橋ナオヒト 出演:里見浩太朗、折笠富美子、野島裕史
  • 中越地震による放送スケジュールの変更のため、本放送時は第19話~第20話として放送
2024年3月7日更新