ベールをかけた女 The Veiled Lady
放送履歴
日本
オリジナル版(44分30秒)
- 1990年07月18日 20時00分〜 (NHK総合)
- 1992年04月22日 17時05分〜 (NHK総合)
- 1998年10月26日 15時10分〜 (NHK総合)
- 2003年06月02日 18時00分〜 (NHK衛星第2)
ハイビジョンリマスター版(48分00秒)
- 2016年01月16日 16時00分〜 (NHK BSプレミアム)
- 2016年06月22日 17時00分〜 (NHK BSプレミアム)
- 2020年06月20日 17時12分〜 (NHK BSプレミアム)※1
- 2021年10月26日 09時00分〜 (NHK BS4K)
- 2022年02月22日 13時00分〜 (NHK BS4K)
- 2022年08月24日 21時00分〜 (NHK BSプレミアム・BS4K)
- 2022年09月24日 23時00分〜 (NHK BSプレミアム)※2
- ※1 エンディング最後の画面下部に次回の放送時間案内の字幕表示(帯付き)あり
- ※2 エンディング後半の画面左部に次回の放送案内の字幕表示あり
海外
- 1990年01月14日 (英・ITV)
原作
邦訳
- 「ヴェールをかけた女」 - 『ポアロ登場』 クリスティー文庫 真崎義博訳
- 「ヴェールをかけた女」 - 『ポアロ登場』 ハヤカワミステリ文庫 小倉多加志訳
- 「ヴェールをかけた貴婦人」 - 『ポワロの事件簿2』 創元推理文庫 厚木淳訳
原書
雑誌等掲載
- The Case of the Veiled Lady, The Sketch, 3 October 1923 (UK)
- The Veiled Lady, The Blue Book Magazine, March 1925 (USA)
短篇集
- The Veiled Lady, Poirot Investigates, Dodd Mead, 1925 (USA)
- The Veiled Lady, Poirot's Early Cases, Collins, September 1974 (UK)
オープニングクレジット
日本
オリジナル版
名探偵ポワロ / AGATHA CHRISTIE'S POIROT / DAVID SUCHET // HUGH FRASER / PHILIP JACKSON / PAULINE MORAN / ベールをかけた女, THE VEILED LADY / Dramatized by CLIVE EXTON
ハイビジョンリマスター版
名探偵ポワロ / DAVID SUCHET / AGATHA CHRISTIE'S POIROT / ベールをかけた女 // HUGH FRASER / PHILIP JACKSON / PAULINE MORAN / THE VEILED LADY / Dramatized by CLIVE EXTON
エンディングクレジット
日本
オリジナル版
原作 アガサ・クリスティー 脚本 クライブ・エクストン 監督 エドワード・ベネット 制作 LWT(イギリス) / 出演 ポワロ(デビッド・スーシェ) 熊倉一雄 ヘイスティングス(ヒュー・フレイザー) 富山 敬 ジャップ警部(フィリップ・ジャクソン) 坂口芳貞 ミス・レモン 翠 準子 小原乃梨子 有川 博 寺島信子 関根信昭 辻󠄁谷耕史 平井隆博 小関 一 / 日本語版 宇津木道子 山田悦司 福岡浩美 南部満治 金谷和美
ハイビジョンリマスター版
原作 アガサ・クリスティー 脚本 クライブ・エクストン 演出 エドワード・ベネット 制作 LWT (イギリス) / 出演 ポワロ(デビッド・スーシェ) 熊倉 一雄 ヘイスティングス(ヒュー・フレイザー) 富山 敬/安原 義人 ジャップ警部(フィリップ・ジャクソン) 坂口 芳貞 ミス・レモン(ポーリン・モラン) 翠 準子 レディ・ミリセント(ガーティ) 小原 乃梨子 ラビントン(ジョーイ) 有川 博 寺島 信子 関根 信昭 辻󠄁谷 耕史 平井 隆博 小関 一 日本語版スタッフ 翻訳 宇津木 道子 演出 山田 悦司 音声 金谷 和美 プロデューサー 里口 千
海外
オリジナル版
Hercule Poirot: DAVID SUCHET; Captain Hastings: HUGH FRASER; Chief Inspector Japp: PHILIP JACKSON; Miss Lemon: PAULINE MORAN; Lady Millicent: FRANCES BARBER; Lavington: TERENCE HARVEY; Mrs Godber: CAROLE HAYMAN; Sergeant: TONY STEPHENS; Constable: DON WILLIAMS; Museum Guards: LLOYD McGUIRE, PETER GEDDIS; Stunts: VALENTINO MUSETTI; Brass Band: THE BRITISH CONCERT WINDS; Conductor: PETER CRAEN / Developed for Television by Picture Partnership Productions / (中略)First Assistant Director: SIMON HINKLY; Location Manager: NIGEL GOSTELOW; Script Supervisor: SHEILA WILSON; Production Co-ordinator: MONICA ROGERS; Accountant: JOHN BEHARRELL; Camera Operator: STEVEN ALCORN; Focus Puller: DERMOT HICKEY; Grip: JOHN ETHERINGTON; Boom Operator: TONY BELL; Gaffer: DEREK RYMER; Art Director: PETER WENHAM; Production Buyer: LUDMILLA BARRAS; Property Master: MICKY LENNON; Construction Manager: LES PEACH; Dubbing: PETER LENNARD, MIKE MURR, RUPERT SCRIVENER; Post Production Superviser: RAY HELM; Panaflex 16(R) Camera by Panavision(R); Grip Equipment by Grip House Ltd; Lighting & Generators by Samuelson Lighting Ltd; Made at Twickenham Studios, London, England; Costume Designer: SHARON LEWIS; Make up Supervisor: ROSEANN SAMUEL; Sound Recordist: KEN WESTON; Titles: PAT GAVIN; Production Manager: MARTIN BOND; Casting: REBECCA HOWARD, LUCY ABERCROMBIE; Editor: DEREK BAIN; Production Supervisor: DONALD TOMS / Production Designer: ROB HARRIS / Director of Photography: PETER BARTLETT / Theme Music: CHRISTOPHER GUNNING; Incidental Music: FIACHRA TRENCH; Conductor: DAVID SNELL / Executive Producer: NICK ELLIOTT / Producer: BRIAN EASTMAN / Director: EDWARD BENNETT
あらすじ
依頼がなくてご機嫌斜めなポワロのもとへ、レディー・ミリセントと名乗る女性から、恐喝者の手にある手紙を取り戻してほしいと依頼があった。彼女の言う恐喝者に会ったポワロとヘイスティングスは、その家へ手紙を盗みに入ることにしたが……
事件発生時期
1935年7月
主要登場人物
エルキュール・ポワロ | 私立探偵 |
アーサー・ヘイスティングス | ポワロの探偵事務所のパートナー、陸軍大尉 |
ジェームス・ジャップ | スコットランド・ヤード主任警部 |
フェリシティ・レモン | ポワロの秘書 |
レディー・ミリセント・カースル・ボーン | キラニー伯爵令嬢 |
ラビントン | 恐喝者 |
ゴッドバー夫人 | ラビントンの家政婦 |
解説、みたいなもの
ポワロが高貴な依頼人の窮地を救おうと恐喝者の家へ盗みに入るという、『シャーロック・ホームズの帰還』の「犯人は二人」を思わせるエピソードだが、最後には何ともクリスティーらしい茶目っ気あふれる真相が待っている。「名探偵ポワロ」オリジナル版では全作品中で唯一、エンディングクレジットのゲストキャストに一切役名の表示がないのがミソ。全体的に原作に忠実な映像化だが、原作で「金髪碧眼のすごい美人」だった依頼人は、ドラマでは色の濃い焦茶色の髪の毛の女性になった。また、ラビントンの家への侵入の結末はドラマオリジナルである。
イギリスでの制作単位としては、本作から第2シリーズに入る(イギリスでの放送順では「エンドハウスの怪事件」が先行)。第2シリーズではレギュラーメンバーの関係に個人的な友人としての面が強くなっており、本作でもジャップ警部が日中にポワロやヘイスティングスと公園で談笑しているように、警部がプライベートでもポワロたちと交流する場面が増えていく。また、ヘイスティングスもポワロについてまわるだけでない、独立した人格としての描写が増えており、本作で彼が見せる機転と活躍は、そうした脚本の新しい方針を端的に表している。
劇中の時期は、ゴッドバー夫人が言う「フレッド・ペリーが連続優勝してからよけいひどいのよ (It's been beyond all since that Fred Perry won again this year.)」という台詞から1935年[1]、ポワロの「今7月ですよ」という台詞から7月であることがわかり、ポワロの机の上にあるカレンダーも1935年7月のものである。ペリーは1935年6月に全仏オープン・テニス・トーナメントで優勝して史上初の4大大会制覇を実現したばかりで、ゴッドバー夫人の台詞はその人気の過熱ぶりを窺わせる。ところで、序盤、ポワロの留守中に匿名の依頼人の来訪があったことをミス・レモンが報せるが、「なぞの盗難事件」の彼女は匿名の依頼人を取り次ごうとしなかったはず。「なぞの盗難事件」の劇中の時期は明確ではないものの、アントニー・イーデンが外務大臣である旨の会話などからは1935年末以降であると考えられ、それより前に時代設定された本作で、ミス・レモンが匿名の依頼人をあっさり取り次ぐと時系列上の矛盾を来す。
冒頭の宝石強盗の手口に対するポワロの評価は、日本語だと「なるほどね。それは確かに、頭を使ってます。でも、感心するほどのことでは」という表現で、上げて落とすニュアンスだが、原語では 'Yes, very good. Mais pas de finesse, seulement de l'audace! But yes, it is not badly imagined. (確かに見事です。でも、精巧じゃなく大胆なだけですよ。とはいえ、なかなか考えてありますね)' という台詞で、最後にもう一度上げている。
ポワロたちが依頼人に呼び出されて向かったアシーナ・ホテルの「アシーナ (Athena)」とは、ギリシャ神話の女神「アテナ」の英語読みである。
日本語だと依頼人は「ボーン城のレディー・ミリセント」と名乗るが、原語は Lady Millicent Castle Vaughn で、ここの Castle Vaughn は「カースル・ボーン」という複合姓(複数の単語で構成される、ひとつながりの姓)と受け取れる。彼女はキラニー伯爵令嬢とのことだが、イギリスの爵号と姓は別のもので、伯爵の娘には爵号は用いず、姓名あるいはファーストネームにレディーをつけて呼ぶ。また、キラニーという爵号が明言されるのはドラマオリジナルだが、子爵以上の爵号にはもっぱら所縁のある地名が用いられるところ、キラニーはアイルランド南西部の地名であり、そこには「アイルランドの貧乏貴族」という原作の設定が反映されている。
日本語音声では初めてポワロの住むマンションの名前が言及され、「ホワイトヘブン・マンション」と言われるが、そのように発音されるのは(ハイビジョンリマスター版での追加吹替を除けば)ここだけで、ほかのエピソードでは「ホワイトヘイブン・マンション」と呼ばれる。このマンション名は、ハピネット・ピクチャーズの映像ソフトなどでもしばしば「ホワイトヘヴン」ないしは「ホワイトヘブン」と書かれることがあるが、その原語でのつづりは Whitehaven であって、後半部は heaven (天国) ではなく、租税回避地を言う「タックスヘイブン (tax haven)」と同じ haven (避難所, 安息所) である。
やや唐突な印象がする台詞、「彼女、おれの気が変とでも思ってるのかな」は、原語では 'Does she think I'm going to change my mind?' となっており、本来は「彼女、おれの気が変わるとでも思ってるのかな」だったと思われるのだが、台本印刷時の誤植か、吹替収録時の読み間違いだろうか。さらにその後、取り引きの対象がレディー・ミリセントの手紙であるのは共通理解であるはずなのに「おれはあるものを売りに出してるが」とぼかした表現になるところは、原語だと 'I have something for sale' と言っている。英語の something には、日本語の「あるもの」のように意図的に明言を避けるニュアンスは必ずしもなく、ここは「おれは物を売りに出してる」くらいのニュアンスである。また、彼の帰り際、手にはさんだ煙草がその前より長くなる。
ゴッドバー夫人がそこまで帰るというストリートハムこと Streatham は、ウィンブルドンから直線距離で5キロメートルほど東に位置する南ロンドンの町で、英語での発音は /stɹέtəm/ (ストレータム) である。
ポワロとジャップ警部が警察署から出てくるところを車の中から男が見ている場面では、男が一度煙草を捨てたかに見えたあと、特に次の煙草に火をつける描写のないまま、ふたたび残り短い煙草を吸ってまた捨てる。
「中国の魔法の小箱」に書かれた〈経営位置〉とは、位置を経営する、すなわち構図をうまく構成することで、南斉の謝赫が著作『古画品録』の中で絵画に必要な六法の第五として挙げたもの、らしい。
オリジナル版では映像が不鮮明だが、ポワロが「中国の魔法の小箱」を開けようとする際、ハイビジョンリマスター版ではポワロの机に置かれた電話のダイヤルに TRAFALGAR 8317 と書かれているのが判読できる。しかし、「夢」ではポワロの部屋の電話番号はトラファルガー局の8137番だったはず。「死者のあやまち」原作の設定でも、ポワロの電話番号は8137番である。
オリジナル版の日本語音声では音が小さく聴き取りにくいが、事件解決後の公園でブラスバンドが演奏している曲は、ヨハン・シュトラウス二世作曲の「朝刊」。ハイビジョンリマスター版ではその演奏風景をよく見ることができるが、ポワロたちが現れるカットになると、演奏の様子と音が合っていない。
冒頭のバーリントン・アーケードはロンドンに実在の、王室御用達の高級店が並ぶショッピング・アーケード。中国風の四阿 の浮かぶ池が印象的な公園はロンドン西部郊外にあるオスタリー・パークだが、劇中に見られる四阿は現在は撤去されている。最初にポワロたちが呼び出された先の、アシーナ・ホテルとして撮影に使われたのは、ロンドン大学のセナト・ハウス内クラッシュ・ホール。ウィンブルドン警察の建物は、ガラット・レーンにある元アールスフィールド警察署。手紙を取り戻したポワロたちが出向いた自然史博物館はロンドンのサウス・ケンジントンに実在する本物だが、厳密に言えば、当時は字幕にあるような「自然史博物館」という独立した組織ではなく、大英博物館の分館という位置づけだった。また、ホールに置かれた巨大な恐竜の複製骨格標本も現地のものだが、この標本も1979年に設置されたもので、劇中の時代にはここに存在しなかった。なお、この標本は2017年に撤去され、現在の同じ場所にはシロナガスクジラの骨格が飾られている。ウィンブルドンのラビントンの家周辺はセント・マーガレッツのエイルサ・ロードおよびセント・ジョージズ・ロードで撮影されており、ポワロが自転車でラビントンの家に向かう場面では「スズメバチの巣」のクロード・ラングトンの家の前を通過する。しかし、そのお隣の家の壁には黄色い警報装置がついているほか、現代的な車が駐まっているのが見える。さらに、ラビントンの家の前に差しかかった際、その画面左奥にも、カバーを掛けられているが現代の車が駐まっているように見受けられる。
オリジナル版では、公園から戻った直後のポワロの台詞は、日本語の「こう依頼がなくては、さすがのポワロも手の施しようがありません」に対して、原語では 'Read all about it! Monsieur Big reveals everything! (さあ、詳しく出てるよ! ムッシュウ・ビッグがすべてを暴露!)' とぜんぜん別の台詞。これは直前にカットされた場面があり、元はそこからつながった台詞だった。ハイビジョンリマスター版ではカットされていた場面が補われたため、別の台詞に吹き替え直されている。また、そのハイビジョンリマスター版で補われた場面では、ポワロが「ポワロには灰色の脳細胞がある」と言うが、「灰色の脳細胞」は脳の灰白質を指し、知力や思考力を司るものという趣旨で使われる言葉で、ポワロだけにあるものではない。原語では 'He uses the grey cells. (ポワロは灰色の脳細胞を使います)' という表現である。
ガーティ役のフランシス・バーバーは、ジェラルディン・マクイーワン主演の「ミス・マープル」の一篇、「予告殺人」ではリジー・ヒンチクリフ役を演じている。
ジョーイ・ウェザリーの吹替の有川博さんは、映画「エグゼクティブ・デシジョン」(吹替の主演が原康義さんのもの)で、デビッド・スーシェの吹替を担当している。
初回放送時のテレビ番組表には、「盗まれた恋文の行方」という短いあらすじが併記されていたが、レディー・ミリセントの手紙がラビントンの手に落ちたのが盗まれたためかどうかは、本篇を見るかぎりでははっきりしない。一方、ハイビジョンリマスター版で2020年まで番組内容として放送データに載っていたあらすじには、本来「侵入」と書くべきところを「浸入」とした誤記がある。対して、2021年以降のあらすじには「過去の手紙で伯爵令嬢をゆする謎の男」と書かれているが、その名前も自宅の(大まかな)所在も最初から告げられており、別になぞではない(もっとも、ずっとポワロたちを見張っている目的はなぞめいているけど)。加えて、レディー・ミリセントのハイビジョンリマスター版のエンディングクレジットでの表記は「レディ・ミリセント」だが、本篇中の切換式字幕では「レディー・ミリセント」と長音記号付きで表示される。
ドラマ本篇とは関係ないが、下で紹介している DVD の解説文の「をして」の用法は誤用。解説文では「をして」を使役の主体に使っているが、本来は使役の客体(使役される動作の主体)につけてそれを強調する。
» 結末や真相に触れる内容を表示
冒頭で男が宝石店から盗んだアクセサリーについていた宝石と、あとで「中国の魔法の小箱」から出てきたばらの宝石は、あまり同じもののようには見えない。さらに、ジャップ警部が取り返した宝石には、「中国の魔法の小箱」からは出てこなかった真珠が含まれている。
冒頭の強盗事件の宝石をラビントンが入手した手口は、日本語だとラビントンが全体の指揮を執り、強盗をつかまえた通行人のなかに彼の手下がいて、その手下が宝石をラビントンに渡したということになっているが、原語だとラビントン本人が通行人に混じって、強盗から宝石を受け取る役を務めたことになっている。
隠れ場所から逃げたガーティとジョーイを追うジャップ警部が「ジョーイ!」と叫んだあと、日本語では脚立の倒れる直前にジョーイが「急げ!」と言うが、原語だとジャップ警部の声にすぐつづけて 'Go on!' と言っている。
原作だとポワロが真相を見抜いたきっかけは「オランダでなぞの死を遂げたイギリス人」の正体ではなく、依頼人の履いていた靴だった。ドラマでは特に靴のことには触れられず、謎解きにも関係しないが、依頼人の靴に注目して観ていると、隠れ場所を見つけられたあとの場面で、靴の色がなぜかそれまでと変わっていることに気づく。
最後に、船乗りに憧れたことはないかと訊かれたポワロが「おもちゃの船で十分です」(原語では 'This is as close (to sea) as I like to get. (これ以上〔海に〕近づきたいとは思いませんね)' という表現)と答えるのはドラマオリジナルのやりとりだが、これは、ポワロは船が苦手だという初期原作の設定を受けたもの。ドラマで先行する「海上の悲劇」のポワロは悠然と船旅を愉しんでいたが、その原作は1936年に発表されたもので、その頃には船に弱い設定が言及されることはなくなっていた。
イギリスでの制作単位としては、本作から第2シリーズに入る(イギリスでの放送順では「エンドハウスの怪事件」が先行)。第2シリーズではレギュラーメンバーの関係に個人的な友人としての面が強くなっており、本作でもジャップ警部が日中にポワロやヘイスティングスと公園で談笑しているように、警部がプライベートでもポワロたちと交流する場面が増えていく。また、ヘイスティングスもポワロについてまわるだけでない、独立した人格としての描写が増えており、本作で彼が見せる機転と活躍は、そうした脚本の新しい方針を端的に表している。
劇中の時期は、ゴッドバー夫人が言う「フレッド・ペリーが連続優勝してからよけいひどいのよ (It's been beyond all since that Fred Perry won again this year.)」という台詞から1935年[1]、ポワロの「今7月ですよ」という台詞から7月であることがわかり、ポワロの机の上にあるカレンダーも1935年7月のものである。ペリーは1935年6月に全仏オープン・テニス・トーナメントで優勝して史上初の4大大会制覇を実現したばかりで、ゴッドバー夫人の台詞はその人気の過熱ぶりを窺わせる。ところで、序盤、ポワロの留守中に匿名の依頼人の来訪があったことをミス・レモンが報せるが、「なぞの盗難事件」の彼女は匿名の依頼人を取り次ごうとしなかったはず。「なぞの盗難事件」の劇中の時期は明確ではないものの、アントニー・イーデンが外務大臣である旨の会話などからは1935年末以降であると考えられ、それより前に時代設定された本作で、ミス・レモンが匿名の依頼人をあっさり取り次ぐと時系列上の矛盾を来す。
冒頭の宝石強盗の手口に対するポワロの評価は、日本語だと「なるほどね。それは確かに、頭を使ってます。でも、感心するほどのことでは」という表現で、上げて落とすニュアンスだが、原語では 'Yes, very good. Mais pas de finesse, seulement de l'audace! But yes, it is not badly imagined. (確かに見事です。でも、精巧じゃなく大胆なだけですよ。とはいえ、なかなか考えてありますね)' という台詞で、最後にもう一度上げている。
ポワロたちが依頼人に呼び出されて向かったアシーナ・ホテルの「アシーナ (Athena)」とは、ギリシャ神話の女神「アテナ」の英語読みである。
日本語だと依頼人は「ボーン城のレディー・ミリセント」と名乗るが、原語は Lady Millicent Castle Vaughn で、ここの Castle Vaughn は「カースル・ボーン」という複合姓(複数の単語で構成される、ひとつながりの姓)と受け取れる。彼女はキラニー伯爵令嬢とのことだが、イギリスの爵号と姓は別のもので、伯爵の娘には爵号は用いず、姓名あるいはファーストネームにレディーをつけて呼ぶ。また、キラニーという爵号が明言されるのはドラマオリジナルだが、子爵以上の爵号にはもっぱら所縁のある地名が用いられるところ、キラニーはアイルランド南西部の地名であり、そこには「アイルランドの貧乏貴族」という原作の設定が反映されている。
日本語音声では初めてポワロの住むマンションの名前が言及され、「ホワイトヘブン・マンション」と言われるが、そのように発音されるのは(ハイビジョンリマスター版での追加吹替を除けば)ここだけで、ほかのエピソードでは「ホワイトヘイブン・マンション」と呼ばれる。このマンション名は、ハピネット・ピクチャーズの映像ソフトなどでもしばしば「ホワイトヘヴン」ないしは「ホワイトヘブン」と書かれることがあるが、その原語でのつづりは Whitehaven であって、後半部は heaven (天国) ではなく、租税回避地を言う「タックスヘイブン (tax haven)」と同じ haven (避難所, 安息所) である。
やや唐突な印象がする台詞、「彼女、おれの気が変とでも思ってるのかな」は、原語では 'Does she think I'm going to change my mind?' となっており、本来は「彼女、おれの気が変わるとでも思ってるのかな」だったと思われるのだが、台本印刷時の誤植か、吹替収録時の読み間違いだろうか。さらにその後、取り引きの対象がレディー・ミリセントの手紙であるのは共通理解であるはずなのに「おれはあるものを売りに出してるが」とぼかした表現になるところは、原語だと 'I have something for sale' と言っている。英語の something には、日本語の「あるもの」のように意図的に明言を避けるニュアンスは必ずしもなく、ここは「おれは物を売りに出してる」くらいのニュアンスである。また、彼の帰り際、手にはさんだ煙草がその前より長くなる。
ゴッドバー夫人がそこまで帰るというストリートハムこと Streatham は、ウィンブルドンから直線距離で5キロメートルほど東に位置する南ロンドンの町で、英語での発音は /stɹέtəm/ (ストレータム) である。
ポワロとジャップ警部が警察署から出てくるところを車の中から男が見ている場面では、男が一度煙草を捨てたかに見えたあと、特に次の煙草に火をつける描写のないまま、ふたたび残り短い煙草を吸ってまた捨てる。
「中国の魔法の小箱」に書かれた〈経営位置〉とは、位置を経営する、すなわち構図をうまく構成することで、南斉の謝赫が著作『古画品録』の中で絵画に必要な六法の第五として挙げたもの、らしい。
オリジナル版では映像が不鮮明だが、ポワロが「中国の魔法の小箱」を開けようとする際、ハイビジョンリマスター版ではポワロの机に置かれた電話のダイヤルに TRAFALGAR 8317 と書かれているのが判読できる。しかし、「夢」ではポワロの部屋の電話番号はトラファルガー局の8137番だったはず。「死者のあやまち」原作の設定でも、ポワロの電話番号は8137番である。
オリジナル版の日本語音声では音が小さく聴き取りにくいが、事件解決後の公園でブラスバンドが演奏している曲は、ヨハン・シュトラウス二世作曲の「朝刊」。ハイビジョンリマスター版ではその演奏風景をよく見ることができるが、ポワロたちが現れるカットになると、演奏の様子と音が合っていない。
冒頭のバーリントン・アーケードはロンドンに実在の、王室御用達の高級店が並ぶショッピング・アーケード。中国風の
オリジナル版では、公園から戻った直後のポワロの台詞は、日本語の「こう依頼がなくては、さすがのポワロも手の施しようがありません」に対して、原語では 'Read all about it! Monsieur Big reveals everything! (さあ、詳しく出てるよ! ムッシュウ・ビッグがすべてを暴露!)' とぜんぜん別の台詞。これは直前にカットされた場面があり、元はそこからつながった台詞だった。ハイビジョンリマスター版ではカットされていた場面が補われたため、別の台詞に吹き替え直されている。また、そのハイビジョンリマスター版で補われた場面では、ポワロが「ポワロには灰色の脳細胞がある」と言うが、「灰色の脳細胞」は脳の灰白質を指し、知力や思考力を司るものという趣旨で使われる言葉で、ポワロだけにあるものではない。原語では 'He uses the grey cells. (ポワロは灰色の脳細胞を使います)' という表現である。
ガーティ役のフランシス・バーバーは、ジェラルディン・マクイーワン主演の「ミス・マープル」の一篇、「予告殺人」ではリジー・ヒンチクリフ役を演じている。
ジョーイ・ウェザリーの吹替の有川博さんは、映画「エグゼクティブ・デシジョン」(吹替の主演が原康義さんのもの)で、デビッド・スーシェの吹替を担当している。
初回放送時のテレビ番組表には、「盗まれた恋文の行方」という短いあらすじが併記されていたが、レディー・ミリセントの手紙がラビントンの手に落ちたのが盗まれたためかどうかは、本篇を見るかぎりでははっきりしない。一方、ハイビジョンリマスター版で2020年まで番組内容として放送データに載っていたあらすじには、本来「侵入」と書くべきところを「浸入」とした誤記がある。対して、2021年以降のあらすじには「過去の手紙で伯爵令嬢をゆする謎の男」と書かれているが、その名前も自宅の(大まかな)所在も最初から告げられており、別になぞではない(もっとも、ずっとポワロたちを見張っている目的はなぞめいているけど)。加えて、レディー・ミリセントのハイビジョンリマスター版のエンディングクレジットでの表記は「レディ・ミリセント」だが、本篇中の切換式字幕では「レディー・ミリセント」と長音記号付きで表示される。
ドラマ本篇とは関係ないが、下で紹介している DVD の解説文の「をして」の用法は誤用。解説文では「をして」を使役の主体に使っているが、本来は使役の客体(使役される動作の主体)につけてそれを強調する。
» 結末や真相に触れる内容を表示
冒頭で男が宝石店から盗んだアクセサリーについていた宝石と、あとで「中国の魔法の小箱」から出てきたばらの宝石は、あまり同じもののようには見えない。さらに、ジャップ警部が取り返した宝石には、「中国の魔法の小箱」からは出てこなかった真珠が含まれている。
冒頭の強盗事件の宝石をラビントンが入手した手口は、日本語だとラビントンが全体の指揮を執り、強盗をつかまえた通行人のなかに彼の手下がいて、その手下が宝石をラビントンに渡したということになっているが、原語だとラビントン本人が通行人に混じって、強盗から宝石を受け取る役を務めたことになっている。
隠れ場所から逃げたガーティとジョーイを追うジャップ警部が「ジョーイ!」と叫んだあと、日本語では脚立の倒れる直前にジョーイが「急げ!」と言うが、原語だとジャップ警部の声にすぐつづけて 'Go on!' と言っている。
原作だとポワロが真相を見抜いたきっかけは「オランダでなぞの死を遂げたイギリス人」の正体ではなく、依頼人の履いていた靴だった。ドラマでは特に靴のことには触れられず、謎解きにも関係しないが、依頼人の靴に注目して観ていると、隠れ場所を見つけられたあとの場面で、靴の色がなぜかそれまでと変わっていることに気づく。
最後に、船乗りに憧れたことはないかと訊かれたポワロが「おもちゃの船で十分です」(原語では 'This is as close (to sea) as I like to get. (これ以上〔海に〕近づきたいとは思いませんね)' という表現)と答えるのはドラマオリジナルのやりとりだが、これは、ポワロは船が苦手だという初期原作の設定を受けたもの。ドラマで先行する「海上の悲劇」のポワロは悠然と船旅を愉しんでいたが、その原作は1936年に発表されたもので、その頃には船に弱い設定が言及されることはなくなっていた。
ロケ地写真
カットされた場面
日本
オリジナル版
[03:28/0:43] | 公園でジャップ警部と別れたあと、ポワロが犯罪者の自分を空想する場面 |
[15:07/1:03] | ラビントンの住所の判明後、その家に盗みに入ることを決める場面 |
[29:28/0:24] | 留置所のポワロを、ジャップ警部が追跡中の犯罪者のように言う場面 |
[42:43/0:47] | 公園でブラスバンドが演奏している場面 |
ハイビジョンリマスター版
なし映像ソフト
- [VHS, LD] 「名探偵ポアロシリーズ ヴェールをかけた女, 消えた廃坑」(字幕) ハミングバード
- [VHS] 「名探偵エルキュール・ポアロ 第12巻 ヴェールをかけた女」(字幕) 日本クラウン
- [DVD] 「名探偵ポワロ 7 ベールをかけた女, 消えた廃坑」(字幕・吹替) ビームエンタテインメント(現ハピネット・ピクチャーズ)※1
- [DVD] 「名探偵ポワロ [完全版] 7 ベールをかけた女, 消えた廃坑」(字幕・吹替) ハピネット・ピクチャーズ※2
- [DVD] 「名探偵ポワロ DVDコレクション 34 ベールをかけた女」(字幕・吹替) デアゴスティーニ・ジャパン※3
- [BD] 「名探偵ポワロ Blu-ray BOX Disc 4 ベールをかけた女, 消えた廃坑, コーンワルの毒殺事件, ダベンハイム失そう事件」(字幕/吹替) ハピネット・ピクチャーズ※4
- ※1 「名探偵ポワロ DVD-BOX1」にも収録
- ※2 「名探偵ポワロ [完全版] DVD-BOX1」「名探偵ポワロ [完全版] 全巻 DVD-SET」「名探偵ポワロ [完全版] DVD-SET 2」にも収録
- ※3 吹替は大塚智則さん主演の新録で、映像もイギリスで販売されているDVDと同じバリエーションを使用
- ※4 「名探偵ポワロ Blu-ray BOX vol. 1」に収録