ハロウィーン・パーティー
Hallowe'en Party

放送履歴

日本

オリジナル版(90分00秒)

  • 2012年02月08日 22時00分〜 (NHK BSプレミアム)※1
  • 2014年01月23日 16時00分〜 (NHK BSプレミアム)
  • 2017年01月14日 16時00分〜 (NHK BSプレミアム)
  • 2017年06月21日 16時00分〜 (NHK BSプレミアム)
  • 2021年07月24日 16時30分〜 (NHK BSプレミアム)
  • 2022年01月05日 09時00分〜 (NHK BS4K)
  • 2023年08月30日 21時00分〜 (NHK BSプレミアム・BS4K)※2
  • ※1 エンディング途中の画面上部に「オリエント急行の殺人」放送予告およびNHKオンデマンドでの配信案内の字幕表示、エンディング末尾に「オリエント急行の殺人」放送予告の全画面表示あり
  • ※2 BSプレミアムでの放送は、オープニング冒頭の画面左上にBS4K同時放送のアイコン表示あり

海外

  • 2010年05月26日 20時00分〜 (典・TV4)
  • 2010年10月27日 20時00分〜 (英・ITV1)
  • 2011年07月03日 21時00分〜 (米・PBS)

原作

邦訳

  • 『ハロウィーン・パーティ』 クリスティー文庫 山本やよい訳
  • 『ハロウィーン・パーティ』 クリスティー文庫 中村能三訳
  • 『ハロウィーン・パーティ』 ハヤカワミステリ文庫 中村能三訳

原書

  • Hallowe'en Party, Collins, November 1969 (UK)
  • Hallowe'en Party, Dodd Mead, 1969 (USA)

オープニングクレジット

日本

オリジナル版

名探偵ポワロ / AGATHA CHRISTIE'S POIROT / ハロウィーン・パーティー // DAVID SUCHET / Agatha Christie POIROT / HALLOWE'EN PARTY based on the novel by Agatha Christie / Screenplay MARK GATISS / AMELIA BULLMORE, PAOLA DIONISOTTI, DEBORAH FINDLAY / IAN HALLARD, GEORGIA KING, PHYLLIDA LAW / JULIAN RHIND-TUTT, ERIC SYKES, SOPHIE THOMPSON / PAUL THORNLEY, TIMOTHY WEST, FENELLA WOOLGAR / and ZOË WANAMAKER as ARIADNE OLIVER / Producer KAREN THRUSSELL / Director CHARLES PALMER

エンディングクレジット

日本

オリジナル版

原作 アガサ・クリスティー  脚本 マーク・ゲイティス 演出 チャールズ・パーマー 制作 ITVスタジオズ/WGBHボストン アガサ・クリスティー・リミテッド (イギリス・アメリカ2010年)  声の出演 ポワロ(デビッド・スーシェ) 熊倉 一雄  アリアドニ・オリヴァ(ゾーイ・ワナメイカー) 山本 陽子  ロウィーナ・ドレイク(デボラ・フィンドレイ) 久保田 民絵 マイケル・ガーフィールド(ジュリアン・リンド・タッド) 田中 正彦  ジュディス・バトラー(アメリア・ブルモア) 寺内 よりえ グッドボディ(パオラ・ディオニソティ) 藤  夏子  コットレル牧師 稲垣 隆史 ラグラン警部 林  次樹  フラトン弁護士 水谷 貞雄 ウィチカー先生 水野 千夏  フランシス・ドレイク 本名 陽子 エドムンド・ドレイク 居谷 四郎  レイノルズ夫人 泉  裕子 ミランダ・バトラー うえだ 星子 ジョージ 坂本 大地  三浦 綾乃 早志 勇紀 えもり えりこ  吉田 聖子 安田 奈緒子 奥原  彩  <日本語版制作スタッフ> 翻訳 日笠 千晶 演出 佐藤 敏夫 音声 田中 直也

DVD版

原作 アガサ・クリスティー  脚本 マーク・ゲイティス 演出 チャールズ・パーマー 制作 ITVスタジオズ/WGBHボストン アガサ・クリスティー・リミテッド (イギリス・アメリカ2010年)  声の出演 ポワロ(デビッド・スーシェ) 熊倉 一雄  アリアドニ・オリヴァ(ゾーイ・ワナメイカー) 山本 陽子  ロウィーナ・ドレイク(デボラ・フィンドレイ) 久保田 民絵 マイケル・ガーフィールド(ジュリアン・リンド・タッド) 田中 正彦  ジュディス・バトラー(アメリア・ブルモア) 寺内 よりえ グッドボディ(パオラ・ディオニソティ) 藤  夏子  コットレル牧師 稲垣 隆史 ラグラン警部 林  次樹  フラトン弁護士 水谷 貞雄 ウィチカー先生 水野 千夏  フランシス・ドレイク 本名 陽子 エドムンド・ドレイク 居谷 四郎  レイノルズ夫人 泉  裕子 ミランダ・バトラー うえだ 星子 ジョージ 坂本 大地  三浦 綾乃 早志 勇紀 えもり えりこ  吉田 聖子 安田 奈緒子 奥原  彩  <日本語版制作スタッフ> 翻訳・台本 日笠 千晶 演出 佐藤 敏夫 調整 田中 直也 録音 岡部 直樹 プロデューサー 武士俣 公佑 間瀬 博美  制作統括 小坂  聖 山本 玄一

海外

オリジナル版

Hercule Poirot: DAVID SUCHET; Judith Butler: AMELIA BULLMORE; Ariadne Oliver: ZOË WANAMAKER; Rowena Drake: DEBORAH FINDLAY; Miranda Butler: MARY HIGGINS; Mrs Reynolds: SOPHIE THOMPSON / Frances Drake: GEORGIA KING; Edmund Drake: IAN HALLARD; Reverend Cottrell: TIMOTHY WEST; Miss Whittaker: FENELLA WOOLGAR; Joyce Reynolds: MACY NYMAN; Leopold Reynolds: RICHARD BREISLIN / George: DAVID YELLAND; Mrs Goodbody: PAOLA DIONISOTTI; Michael Garfield: JULIAN RHIND-TUTT; Inspector Raglan: PAUL THORNLEY; Olga Seminoff: VERA FILATOVA; Mrs Llewellyn-Smythe: PHYLLIDA LAW; Mr Fullerton: ERIC SYKES / (中略) / Composer: CHRISTIAN HENSON; Poirot Theme: CHRISTOPHER GUNNING; Editor: MATTHEW TABERN; Production Designer: JEFF TESSLER; Director of Photography: CINDERS FORSHAW BSC; Line Producer: MATTHEW HAMILTON / Executive Producer for WGBH Boston: REBECCA EATON / Executive Producers for Chorion: MATHEW PRICHARD, MARY DURKAN / Executive Producer: MICHELE BUCK; Executive Producer: DAMIEN TIMMER; © Agatha Christie Ltd. (a Chorion Company) 2010 / A Co-Production of itv STUDIOS and WGBH BOSTON in association with Agatha Christie Ltd (a Chorion Company)

あらすじ

 ハロウィーン・パーティーの席上、ある少女が殺人を見たことがあると言い出した。そのときは誰も本気にしなかったが、やがて少女は死体となって発見される。事件の謎を追うポワロは少女が見たという殺人をたどって過去へと遡っていく……

事件発生時期

某年10月下旬 〜 11月上旬

主要登場人物

エルキュール・ポワロ私立探偵
アリアドニ・オリヴァ推理作家
ジュディス・バトラーオリヴァ夫人の友人
ミランダ・バトラージュディスの娘
ロウィーナ・ドレイクハロウィーン・パーティー主催者
フランシス・ドレイクロウィーナの娘
エドムンド・ドレイクロウィーナの息子
ジョイス・レイノルズ殺人を見たという少女
レオポルド・レイノルズジョイスの兄
レイノルズ夫人ジョイスの母
コットレル牧師
エリザベス・ウィチカー教師、教会のオルガン奏者
グッドボディ夫人掃除婦
マイケル・ガーフィールド造園師
ルイーズ・ルウェリン・スマイスドレイク夫人の伯母、故人
オルガ・セミノフルウェリン・スマイス夫人のオー・ペア・ガール、チェコ・スロバキア人、失踪
レスリー・フェリア法律事務所事務員、故人
ベアトリス・ホワイト教師、故人
フラトン弁護士
ラグラン警部
ジョージポワロの執事

解説、みたいなもの

 ハロウィーンは、ケルト文化の流れを汲むと言われる、英国発祥の万聖節の前夜祭で、毎年10月31日におこなわれる。ただ、英国、特にイングランド南部ではずっと「ミューズ街の殺人」でも描かれる11月5日のガイ・フォークス・デイの方が盛んで、近年、米国から逆輸入されるまで、さほど大きなイベントではなかったという。そうしたハロウィーンの風習をクリスティーが作中に採りあげたのは、考古学者である夫の講演旅行に随伴して1966年に訪米し、その際4日を過ごしたニュー・イングランドでの経験が元にある[1]。劇中では、ハロウィーンの風物詩として、有名なカボチャのランタンや仮装のほか、火をつけたブランデーの中から干し葡萄をつまみ出す〈スナップドラゴン〉、手を使わずにバケツに浮いたリンゴを食べる〈アップルボビング〉などが描かれる一方、ガイ・フォークス・デイのほうは、花火の音と、ガーフィールドの台詞「今日は祝日、花火を上げる日だ」で言及される(英国で祝日一般に花火を上げる習慣があるわけではなく、ガイ・フォークス・デイの夜に花火を上げる習慣がある)程度にとどまる。ちなみに、その台詞は原語だと 'Guy Fawkes Night is almost upon us, Mrs Drake. (もうすぐガイ・フォークス・ナイトだよ、ドレイクさん)' で、まだガイ・フォークス・デイになっていない。
 原作の発表は1969年と、1970年代を目前に発表された最晩年の作品で、「満潮に乗って」「マギンティ夫人は死んだ」に登場したスペンス警視が引退後の姿を見せていたが、ドラマではかつてのジャップ警部のようにラグラン警部と置き換えられることもなく、妹のエルスペスとともに完全にカットされてしまった。そのほかの登場人物でも、パーティーの出席者や過去の事件の関係者が何人か整理されている一方、原作では名前だけの登場だったコットレル牧師や、原作に登場しないドレイク夫人の子供たちが登場し、現在の人間模様を濃密にしている。ルウェリン・スマイス夫人の庭は、原作の、ケルト民族の地であるアイルランドの自然を切り出したかのようなクオリ・ガーデン(石切場庭園)とは対照的に、きわめて人工的に整備されたヨーロッパ風の庭園となった。
 ポワロが言及した「古の罪は長い影を落とす」という言葉は後期のクリスティーが好んで取り上げたテーマで、本作につづく「象は忘れない」の原作では章題にもなっている。世間ではすでに過ぎ去ったとされる事件へと遡っていく物語の展開は、私立探偵やアマチュア探偵という立場が時代と乖離していくなかで、ポワロやミス・マープルたちを変わらず活躍させるためにクリスティーが見出した方法論であったとも言われる。
 冒頭でミランダが読んでいるオリヴァ夫人の本は原作に出てこないものだが、その題名 With Vinegar and Brown Paper はマザーグースの一節で、自作にマザーグースをよく使用したクリスティーを意識したものと思われる。なお、同書の初出はゲイティスの小説 The Devil in Amber に掲載された架空の本の広告で、ゲイティスはその小説を書くなかでも、広告部分を考えるのは楽しかったと述べていた[2]。また、オリヴァ夫人が編集者に求められている「新作」も原語では I'll Huff and I'll Puff という題名が挙げられているが、こちらは童話『三匹の子豚』の狼の台詞として知られ、「五匹の子豚」へのオマージュでもあろうか(もっとも、語られるそのあらすじは、いかにもマーク・ゲイティスらしい荒唐無稽な内容だけど)。
 上に何か羽織るよう言われたウィチカー先生がコットレル牧師に「マントはいいわねえ。下にどんなに厚着をしててもわからないんだもの」と言ったところは、原語だと 'It's all right for you in that cassock. (牧師さんはその修道服だからいいでしょうよ) Bet you're got up like Scott of the bloody Antarctic under that lot. (どうせ南極のスコットみたいに下に着込んでるんでしょ)' という表現だが、牧師が着ているのはマントでも修道服でもない。また、原語で言及されている Scott of the Antarctic (南極のスコット) とは、世界初の南極点到達を目指した探検家のロバート・スコットのことであり、その探検を描いた映画のタイトルでもある。しかし、映画の公開は1948年のことで、その映画のタイトルを意識した発言ととらえると、劇中の1930年代には合わない。
 エドムンドが読んでいる本は、エドガー・アラン・ポーの「アッシャー家の崩壊」、ウィリアム・ホープ・ホジスンの『幽霊狩人カーナッキの事件簿』、そして台詞でも言及される『魔女狩り将軍』は実在の人物であるマシュー・ホプキンスに関する本のようだが、実在の書籍かは寡聞にして不明。
 ポワロがグッドボディ夫人を訪ねる際に画面に映るカラスと黒猫は、ともに魔女のモチーフである。
 ランチの席でフランシスが「ウドリーコモンはいかが、ポワロさん? お好き?」と訊いたあとにポワロとドレイク夫人が顔を見あわせて笑うのは、「お好き?」の原語が 'Common? (ありきたり?)' と村の名前に引っかけた質問だったためで、ポワロが「ユニーク (uncommon) な場所ですな」と応じたのも、それを受けたもの。また、フランシスが言う「フランシス・ドレイクなんて海賊みたいで嫌」に始まる会話は、16世紀にアルマダの海戦でスペインの無敵艦隊を破った同音の提督(男性)の存在を踏まえたやりとりである。そして、フランシスが昔言われたという「女王のお通りだ。水たまりにレインコートを敷けよ」に対するエドムンドの「それはローリー卿だ、ドレイクじゃない」という台詞で言及される「ローリー卿」とは、エリザベス一世の寵臣として知られるサー・ウォルター・ローリーのこと。彼はドレイク提督とほぼ同時代人で、アメリカ大陸への航海や入植でも知られることから、ドレイク提督との混同が起きたということだろう。なお、フランシス・ドレイク提督の父親の名前はエドムンドであり、この姉弟の名前はそこにちなんだと見られる。一方、エドムンドがフランシスに「でもあの頃は、相当やきもちを焼いてたよねえ」という台詞の原語 'You spent most of the time consumed by the green-eyed monster, didn't you, sis? (あの頃はしょっちゅう緑目の怪物にとりつかれていたよねえ)' は、シェークスピアの『オセロー』で嫉妬が緑色の目をした怪物に喩えられているのを受けた発言である。
 コットレル牧師が礼拝で引用したのは、新約聖書のルカによる福音書15章。レオポルドも失ったレイノルズ夫人が口にする天の炎に関する逸話は、旧約聖書ヨブ記1章16節の引用である。
 全貌に気づいたポワロが言う「同じことを三度も見過ごしました」という台詞は原語だと 'I have been an imbecile three times over! (わたしは〔普通のばかの〕三倍どころではないばかでした!)' という表現で、だから「見過ごし」た回想は一度しか流れない。これは本作の原作にはない台詞だが、初期の原作でポワロがしばしば口にする 'Imbecile that I have been! Triple imbecile!' や 'I was thirty-six times an idiot!' といった表現を踏まえた言いまわしで、「杉の柩」でも同様の台詞が用いられている。
 ポワロが謎解きの最初に口にする「真っ暗な嵐の夜でした (It was a dark and stormy night.)」という一文(冒頭にミランダが聴いているラジオにも、これを意識した一節が含まれる)は、英語圏でもっともお定まりの書き出しとして有名なフレーズで、『ピーナッツ』でスヌーピーがいつも書く小説の書き出しとして知っている人もあるかもしれないが、その原典はエドワード・ブルワー・リットンの『ポール・クリフォード』。そのエドワード・ブルワー・リットンは、戯曲『リシュリュー』に登場する「ペンは剣よりも強し」という台詞でも知られるほか、満州事変の調査に国際連盟が派遣したリットン調査団の団長を務めたヴィクター・ブルワー・リットンの祖父であり、「三幕の殺人」でメルフォート療養所の撮影に使われたネブワース・ハウスは、彼が母の一族から受け継いだ邸宅である。
 以上のほかにも、近作のドラマや後期原作では影を潜める「世界一優秀な探偵」を自称するポワロや、ポワロのエナメル靴への言及など、細かすぎるほどのこだわりやオマージュの数々は、「ドクター・フー」や「シャーロック」の脚本家としても知られるマーク・ゲイティスの好みを如実に反映している。
 パーティー翌日にフランシスが「すごく憂鬱」な理由は、日本語だと「だってそうでしょ? パーティーだけならまだしも、殺人の後始末まで背負い込んじゃったのよ」と説明されるが、原語は 'I mean, clearing up after a party is always a bit of a chore, but when one's had a murder it feels so very parochial. (だって、パーティーの後始末はいつだって面倒だけど、殺人事件が起きると、それがひどく偏狭な感じがするじゃない)' という表現で、パーティーの後始末が面倒なのは変わらないのに、悲劇を目の当たりにして、それくらいのことを面倒くさがることへの自責の念が上乗せされると言っている。そして、そのあとの「そんな言い方するなよ」「冷静に言ってるだけ」というやりとりも、原語は 'Stop trying to be clever. (切れ者ぶるのはやめろよ)' 'I don't have to try, Edmund. (ぶる必要はないの)' となっていて、殺人をただの厄介事のように言い放つフランシスをエドムンドがいさめたニュアンスはない。
 ポワロがジュディスに「しかし娘さんはきっとお父さまを誇りに〔思っているでしょう〕」と言ったところは、原語だと 'But he would have been of her most proud, I am sure. (きっとご主人は娘さんを誇りに思ったことでしょう)' という表現で、誇りに思うのはジュディスの死んだという夫から娘に対してであり、つまりポワロは、ジュディスが娘を立派に育てていると言っている。
 ミランダが教会で壁のパネルを見て「ここに眠る――ほんとかな、ママ?」と訊いたのは、壁に 'NOT DEAD ONLY SLEEPING (死なず、ただ眠るのみ)' と書かれているように、眠る場所ではなく、死んだのではなくただ眠っているだけだという考え方を本当と思うかと訊ねている。
 ビアトリス・ホワイトの死に不審な点はなかったとウィチカー先生が言ったのに対し、ポワロが「今となっては誰にも何とも言えません」と言ったところは、原語だと 'But at this present time no one is suggesting otherwise. (現時点では誰もそれに異論をはさもうというわけではありません)' と言っており、ほぼ逆の意味の台詞である。
 本作の撮影は ITVプレスリリースにオックスフォードシャーで進行中と発表されていたとおり、ウドリーコモンのセント・ウルフリック教会内部はグレート・ハムデンのセント・メリー・マグダレーナ教会、ドレイク夫人の邸宅アップル・ツリーズの庭はベックリー・パークの庭園で撮影された。しかし、教会の外やフラトン弁護士の事務所外観が撮影されたのは、ハートフォードシャーのハットフィールドにあるセント・エセルドレダ教会およびその前のフォア・ストリート。バトラー家やフラトン弁護士の事務所内部も、「スタイルズ荘の怪事件」では検死審問がひらかれたパブの内部として使われたバッキンガムシャーのチェニーズ・マナーハウスで撮影された。アップル・ツリーズの建物とその周辺が撮影されたのは、サリー州チルワースにあるタングリー・ミア。このタングリー・ミアは、ジェラルディン・マクイーワン主演の「ミス・マープル」の「動く指」でもシミントンの家として使われた。撮影時期は2009年10月〜11月頃で、まさにハロウィーンの時期の撮影である。
 オルガ・セミノフの名前は原作どおりだが、「二重の手がかり」に登場したロサコフ伯爵夫人同様、この型の名字は本来性別によって変化し、女性の場合は末尾に a がついて「セミノワ」となるところ。また、彼女がしていた「オー・ペア・ガール (au pair girl)」とは、日本語だとグッドボディ夫人から「住み込み家政婦」と説明されるが、より詳しくは、家事などをおこなう代わりにホームステイさせてもらって、語学などを学ぶ若い女性のこと。これも原作の設定をそのまま引き継いだものだが、オー・ペアが一般的になったのは第二次大戦後のことで、劇中の時期は不明ながら、その舞台と見られる1930年代にはそぐわない。
 ウドリーコモンへ向かう汽車の映像のうち、最初の線路のそばから写したものは、「マギンティ夫人は死んだ」でキルチェスターからブロードヒニーへ向かう汽車の映像の使いまわし。また、その次の牧草地越しに写したものは、ジュリア・マッケンジー主演「ミス・マープル4」の「なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?」でボビーとフランキーが汽車で出会った直後の映像から、手前の麦畑の合成を廃し、草木の色合いを秋らしく調整して、さらに左右反転したもの。そのため、連続した二つの場面で、空の明るさや木々の色づき具合が異なる。
 エドムンド・ドレイクを演じるイアン・ハラードは、マーク・ゲイティスが脚本を手がけた本作と「鳩のなかの猫」においては脚本助手を、「ビッグ・フォー」ではゲイティスと共同脚本を手がけており、私生活においてはゲイティスのシビル・パートナーでもある。2人の結婚は2008年のことで、当時ゲイティスが出演していた「死との約束」の撮影現場では、スーシェからも祝福の言葉を受けたという[3]
 ジョーン・ヒクソン主演の「ミス・マープル」シリーズでは、コットレル牧師役のティモシー・ウェストを「ポケットにライ麦を」のレックス・フォーテスキュー役、グッドボディ夫人役のパオラ・ディオニソティを「予告殺人」のミス・ヒンチクリフ役、ジェラルディン・マクイーワン主演の「ミス・マープル」シリーズでは、マイケル・ガーフィールド役のジュリアン・リンド・タットを「無実はさいなむ」のドクター・キャルガリ役、エドムンド・ドレイク役のイアン・ハラードを「シタフォードの秘密」の記者役で見ることができる。また、ジェレミー・ブレット主演「シャーロック・ホームズの冒険」シリーズには、ロウィーナ・ドレイク役のデボラ・フィンドレイが「ボール箱」のサラ・カッシング役、レイノルズ夫人役のソフィー・トンプソンが「犯人は二人」のアガサ役、フラトン弁護士役のエリック・サイクスが「六つのナポレオン」のホレース・ハーカー役で出演しているほか、ジョン・ネトルズ主演の「バーナビー警部」シリーズには、前述のティモシー・ウェストとデボラ・フィンドレイがそれぞれ、「人形の手に血のナイフ」のマーカス・ディビア役と「ラストダンスは天国で」のヒラリー・リチャーズ役で出演している。加えてティモシー・ウェストは、ビル・ビクスビー主演の「ロンドン殺人事件」のイースターフィールド卿役でも見ることができる。ベネディクト・カンバーバッチ主演「シャーロック2」には、ジュディス・バトラー役のアミリア・ブルモアが「バスカヴィルのハウンド」のステープルトン博士役、エドムンド・ドレイク役のイアン・ハラードが「ライヘンバッハ・ヒーロー」の弁護士役で出演。ルウェリン・スマイス夫人役のフィリダ・ロウは「なぞの盗難事件」のレディー・キャリントン役以来、ウィチカー先生役のフェノラ・ウルガーは「エッジウェア卿の死」のエリス役以来の「名探偵ポワロ」再出演で、フィリダ・ロウはレイノルズ夫人役のソフィー・トンプソンと母娘共演。ただし、フィリダ・ロウの吹替は谷育子さんからえもりえりこさんへ、フェノラ・ウルガーの吹替は寺内よりえさんから水野千夏さんへ交代し、寺内よりえさんは本作ではジュディス・バトラー役の吹替を務めている。
 汽車の中でマイケルに「ぼくは庭に美を生み出している」と言われてポワロが笑い声を立てたり、ドレイク夫人に食後の庭の散策を提案されて愛想笑いで声を立てたり、発見した遺言補足書が偽造に見えないと言われて「ほう? ふっ」と声を出したり、「〔解決まで〕長くはかかりません」とドレイク夫人に請けあったあとの笑みで声を立てたりするのは日本語音声のみである。
 » 結末や真相に触れる内容を表示
  1. [1] ジャネット・モーガン (訳: 深町真理子, 宇佐川晶子), 『アガサ・クリスティーの生涯 下』, 早川書房, 1987, pp. 279, 285
  2. [2] Interview: Mark Gatiss | Books | The Guardian
  3. [3] Gatiss: Poirot blessed my wedding - BelfastTelegraph.co.uk

カットされた場面

なし

映像ソフト

  • ※1 「名探偵ポワロ NEW SEASON DVD-BOX 4」に収録
  • ※2 吹替は大塚智則さん主演の新録で、映像もイギリスで販売されているDVDと同じバリエーションを使用

同原作の映像化作品

  • [映画] 「名探偵ポアロ:ベネチアの亡霊」 2023年 監督:ケネス・ブラナー 出演:ケネス・ブラナー
2024年3月8日更新