ホロー荘の殺人 The Hollow
放送履歴
日本
オリジナル版(94分00秒)
- 2005年08月26日 22時00分〜 (NHK衛星第2)
- 2006年01月12日 24時30分〜 (NHK衛星第2)
ハイビジョンリマスター版(94分00秒)
- 2016年10月29日 16時00分〜 (NHK BSプレミアム)
- 2017年04月05日 16時00分〜 (NHK BSプレミアム)
- 2021年05月15日 16時26分〜 (NHK BSプレミアム)※1
- 2021年12月22日 09時00分〜 (NHK BS4K)
- 2023年06月14日 21時00分〜 (NHK BSプレミアム・BS4K)※2
- ※1 エンディングの画面下部に次回の放送時間案内の字幕表示(帯付き)あり
- ※2 BSプレミアムでの放送は、オープニング冒頭の画面左上にBS4K同時放送のアイコン表示あり
海外
- 2004年07月25日 20時30分〜 (豪・ABC)
- 2004年08月30日 21時00分〜 (英・ITV1)
- 2004年09月26日 20時00分〜 (米・A&E)
原作
邦訳
- 『ホロー荘の殺人』 クリスティー文庫 中村能三訳
- 『ホロー荘の殺人』 ハヤカワミステリ文庫 中村能三訳
原書
- The Hollow, Dodd Mead, 1946 (USA)
- The Hollow, Collins, November 1946 (UK)
オープニングクレジット
日本
オリジナル版
名探偵ポワロ / AGATHA CHRISTIE'S POIROT / ホロー荘の殺人 // DAVID SUCHET / Agatha Christie POIROT / THE HOLLOW based on the novel by Agatha Christie / Screenplay NICK DEAR / JONATHAN CAKE, MEGAN DODDS / CLAIRE PRICE, CAROLINE MARTIN, EDWARD HARDWICKE / TOM GEORGESON, JAMIE DE COURCEY, LYSETTE ANTHONY / with SARAH MILES / and EDWARD FOX / Producer MARGARET MITCHELL / Director SIMON LANGTON
ハイビジョンリマスター版
名探偵ポワロ / DAVID SUCHET / AGATHA CHRISTIE'S POIROT / ホロー荘の殺人 // DAVID SUCHET / Agatha Christie POIROT / THE HOLLOW based on the novel by Agatha Christie / Screenplay NICK DEAR / JONATHAN CAKE, MEGAN DODDS / CLAIRE PRICE, CAROLINE MARTIN, EDWARD HARDWICKE / TOM GEORGESON, JAMIE DE COURCEY, LYSETTE ANTHONY / with SARAH MILES / and EDWARD FOX / Producer MARGARET MITCHELL / Director SIMON LANGTON
エンディングクレジット
日本
オリジナル版
原作 アガサ・クリスティー 脚本 ニック・ディア 演出 サイモン・ラングトン 制作 LWT A&E テレビジョン ネットワークス アガサ・クリスティー Ltd. (イギリス 2004年) / 出演 ポワロ(デビッド・スーシェ) 熊倉 一雄 ルーシー(サラ・マイルズ) 藤田 弓子 ヘンリエッタ(メーガン・ドッズ) 日野 由利加 ジョン(ジョナサン・ケイク) 原 康義 ガーダ(クレア・プライス) 相沢 恵子 サー・ヘンリー 有川 博 グレンジ警部 たかお 鷹 ヴェロニカ 一柳 みる ガジョン 小林 勝也 エルシー 雨蘭 咲木子 吉川 亜紀子 根本 泰彦 北條 文栄 花形 恵子 楠見 尚己 高宮 武郎 望月 健一 根本 圭子 笹本 翔也 前田 瀬奈 / 日本語版スタッフ 宇津木 道子 金谷 和美 賀古 勝利 里口 千 西亀 泰 蕨南 勝之
ハイビジョンリマスター版
原作 アガサ・クリスティー 脚本 ニック・ディア 演出 サイモン・ラングトン 制作 LWT A&E テレビジョン ネットワークス アガサ・クリスティー Ltd. (イギリス) 出演 ポワロ(デビッド・スーシェ) 熊倉 一雄 ルーシー(サラ・マイルズ) 藤田 弓子 ヘンリエッタ(メーガン・ドッズ) 日野 由利加 ジョン(ジョナサン・ケイク) 原 康義 ガーダ(クレア・プライス) 相沢 恵子 サー・ヘンリー 有川 博 グレンジ警部 たかお 鷹 ヴェロニカ 一柳 みる ガジョン 小林 勝也 エルシー 雨蘭 咲木子 吉川 亜紀子 根本 泰彦 北條 文栄 花形 恵子 楠見 尚己 高宮 武郎 望月 健一 根本 圭子 笹本 翔也 前田 瀬奈 日本語版スタッフ 翻訳 宇津木 道子 演出 蕨南 勝之 音声 金谷 和美 プロデューサー 里口 千
海外
オリジナル版
Hercule Poirot: DAVID SUCHET; John Christow: JONATHAN CAKE; Henrietta Savernake: MEGAN DODDS; Lucy Angkatell: SARAH MILES; Gudgeon: EDWARD FOX / Gerda Christow: CLAIRE PRICE; Veronica Cray: LYSETTE ANTHONY; Inspector Grange: TOM GEORGESON; Sir Henry Angkatell: EDWARD HARDWICKE; Midge Hardcastle: CAROLINE MARIN / Edward Engkatell: JAMIE DE COURCEY; Victor Simms: IAN TALBOT; Beryl Collins: LUCY BRIERS; Sergeant Coombes: DALE RAPLEY / Elsie Patterson: THERESA CHURCHER; Simmons: HARRIET COBBOLD; Young Officer: ANDREW WATSON; Mrs Pearstock: PAULA JACOBS / (中略)Location Manager: TOM STOURTON; 1st Assistant Director: DAVID CRABTREE; 2nd Assistant Director: DANNY PRUETT; Script Editor: KAREN THRUSSELL; Production Co-ordinator: DIANE CHITTELL; Script Supervisor: CAROLINE O'REILLY / Camera Operator: MIKE MILLER; Focus Puller: MICHAEL GREEN; Grip: JIM BOORER; Lighting Gaffer: LARRY PRINZ, PHIL PENFOLD; Best Boy: PETER HARRIS / Art Director: RICHARD HOGAN; Set Decorator: MARK RIMMELL; Prop Master: MIKE FOWLIE; Construction Manager: KEN HAMBLING; Make-Up Artists: SIAN TURNER, RUPERT SIMON; Asst Costume Designer: TAMAR ZAIG / Sound Recordist: TONY JACKSON; Sound Maintenance: MIKE REARDON; Dubbing Mixer: BILLY MAHONEY; Supervising Sound Editor: JOHN DOWNER; Dialogue Editor: SARAH MORTON / Post Production Supervisor: KATE STANNARD; Assistant Editor: ANYA DILLON; Assistant Co-ordinator: PHOEBE MASTERS; Telecine Colourist: CHRIS BEETON; Title Design: SIMON GILES / Publicist: MARIETTE MASTERS; Picture Publicist: PATRICK SMITH; A & E Senior Publicist: GINA NOCERO; Casting Assistant: CLARIE SAUNDERS / Production Accountant: NUALA ALEN-BUCKLEY; Script Executive: DEREK WAX; Associate Producer: DAVID SUCHET; Executive in Charge of Production: FIONA McGUIRE / Casting: GAIL STEVENS, MAUREEN DUFF; Costume Designer: SHEENA NAPIER; Make-Up Designer: CAROL COOPER; Line Producer: LEILA KIRKPATRICK / Director of Photography: JAMES ASPINALL; Production Designer: MICHAEL PICKWOAD; Editor: ANDREW JOHN McCLELLAND; Composer: CHRISTOPHER GUNNING / Executive Producer for A & E Television Networks: DELIA FINE; Supervising Producer for A & E Television Networks: EMILIO NUNEZ / Executive Producer for Chorion plc: PHIL CLYMER / Executive Producer: MICHELE BUCK; Executive Producer: DAMIEN TIMMER; © Agatha Christie Ltd (a Chorion Company) 2004 / LWT in association with A & E Television Networks and Agatha Christie Ltd (a Chorion Company) GRANADA
あらすじ
田舎の別荘に来ていたポワロは、隣家のホロー荘から招待を受けた。しかし、2度目の訪問でポワロが見たのは、血を流して横たわる男と、傍らで拳銃を手に立ちつくす妻だった。最初、それをゲームかと思ったポワロだったが、男は本当に死にかけていた……
事件発生時期
1938年9月中旬 〜 下旬
主要登場人物
エルキュール・ポワロ | 私立探偵 |
ルーシー・アンカテル | ホロー荘の女主人 |
サー・ヘンリー・アンカテル | ルーシーの夫 |
ガーダ・クリストウ | アンカテル家親類 |
ジョン・クリストウ | ガーダの夫、医師 |
ヘンリエッタ・サバナーク | アンカテル家親類、彫刻家 |
エドワード・アンカテル | アンカテル家親類 |
ミッジ・ハードカスル | アンカテル家親類 |
ガジョン | ホロー荘の執事 |
シモンズ | ホロー荘のキッチンメイド |
ヴェロニカ・クレイ | 女優、ジョンの元婚約者 |
ベリル・コリンズ | クリストウ医院の秘書、愛称コリー |
エルシー・パターソン | ガーダの友人 |
ビクター・シムズ | ポワロのコテージの管理人 |
フランシス・シムズ | ポワロのコテージの管理人、ビクターの妻 |
グレンジ | 警部 |
クームズ | 巡査部長 |
解説、みたいなもの
1946年発表の原作は、『アガサ・クリスティー自伝』の中で「ポアロの登場が失敗の小説だった」、「彼を抜きにしたらもっとよくなるのではなかろうか、とわたしは思いつづけていた」(乾信一郎訳)と書かれている作品で、「ナイルに死す」や「五匹の子豚」同様、のちにクリスティー自身によってポワロをはずした形で戯曲に翻案されているが、実際、ポワロによる殺人事件の解決とは別に、皆がどこかに欠落や空虚 (hollow) を抱えた事件関係者の人物描写が作品の大きな核となっていた。しかしながらドラマではあまりそうした描写に踏み込まず、真実を求めるポワロと、真実を隠そうとする関係者との対照を物語の中心に据えている。そのため、原題 The Hollow に対する「ホロー荘の殺人」という邦題も、原作の場合ほどには限定的でなくなっている。登場人物の変更では、ホロー荘の客からデビッド・アンカテルが削られたほか、エルシー・パターソンがガーダの姉から友人へ変更された。
ホロー荘として撮影に使われたのは、サリー州ファーナムにあるハンプトン・エステイト。ただ、邸内の複数の場面は、ロンドン北部にあるハイ・カノンズでも撮影されている。このハイ・カノンズの屋内は、ジュリア・マッケンジー主演「ミス・マープル5」の「青いゼラニウム」でもジョージ・プリチャード邸内として撮影に使われた。ホロー荘の〈ご近所〉であるポワロの別荘のレストヘイブン荘は、同じくサリー州ハンブルドンのクリケット・グリーン前にあるアドマーズ・コテージ、そのお隣であるダヴコーツは、実際に隣ではないもののやはりハンブルドンのヴァン・ハウス、最寄り駅はサリー州ラジウィック近郊の元ベイナーズ駅で撮影されている。ジョンの医院兼自宅は、医師の集まる通りとして有名なハーリー街にあり、「愛国殺人」のモーリー歯科医院はお隣。ホロー荘に向かう途中、青信号なのにガーダが車を停めてしまったのは、ハーリー街のすぐ東側にあるマンスフィールド・ストリートとダッチェス・ストリート、マンスフィールド・ミューズの交差点である。チェルシーにあることになっているヘンリエッタのアトリエ(チェルシーは、芸術家が好んで住んだ地域として知られる)も、実はハーリー街に程近いデボンシャー・クローズで撮影されている。人々が検死法廷をあとにする場面は、サリー州ウィトリーにあるキング・エドワーズ・スクールのクイーン・メリー・ハウス前で撮影された。
ルーシーからの招待状に書かれた日付の Saturday 17th September (9月17日土曜日) から、劇中は1938年9月と推定される(ただし、ハイビジョンリマスター版だと招待状の曜日は Thursday (木曜日) になっており、のちの台詞との整合性から、オリジナル版では映像を加工して修正していたものと思われる)。一方、客間でヘンリエッタが手にしていた Play Pictorial 誌は1937年2月号で、その表紙に写っているのは、ハムレットを演じるローレンス・オリヴィエである。撮影時期は2003年10月頃。
ヘンリエッタが落書きをする「イグドラシル」とは、原作によればエインズウィックにかつて生えていた大きな楢の木のことで、少女時代の彼女がその木をそう名づけたことになっている。その由来は、北欧神話で9つの世界をつなぐと言われる世界樹の名である。
ルーシーがミッジに言う、ポワロがバグダッドで解決した事件とは、おそらく「メソポタミア殺人事件」のこと。これは、発せられる場面こそ異なれど、原作にもある台詞だが、原作でもドラマでも「メソポタミア殺人事件」にアンカテル家の登場はない。また、ディナーの席でガーダが言いかけた、ポワロがドービルを訪れたという話は、「ゴルフ場殺人事件」のことか。こちらは原作にない台詞で、「ゴルフ場殺人事件」の原作の舞台もドービルではなかった。
ジョンが言う「ショベル・ダウンの丘」の「ショベル・ダウン (Shovel Down)」は地名で、ここでの down は「下」ではなく「高原」の意味である。
銃の射撃練習でサー・ヘンリーが「そう、そして引き金を引く」と言っているとき、原語ではジョンが 'I sprained my bloody wrist. (手首をくじいちまったよ)' と言っており、エドワードはその声を耳にして振り向いている。
ガーダが息子のテレンスについて言う「何でも実験したがるの」という台詞は、原語だと 'Always trying to blow things up. (何でも爆破しようとするの)' という表現で、そのためにニトログリセリンの話題を持ち出すより前にヘンリエッタの大きなリアクションがある。
ルーシーがポワロの口癖を「緑色の脳細胞」とまちがえたのは、原語だと green (緑色) と grey (灰色) に音の類似があるためか。
ガジョンがディナーの用意ができたことを知らせに来たとき、日本語では「その話もぜひ聞かせていただきたいですな」と、ポワロに言っているかのようなサー・ヘンリーの声が聞こえるが、映像だとサー・ヘンリーはガーダやミッジと話している。またそのあと、外から入ってきたジョンの声も、日本語音声では大半が笑っているが、映像では明らかにヘンリエッタと話している。
ルーシーがいつもディナーのあとにするゲームとして挙げる「ジェスチャー (charades)」とは、身振りを元に正解の言葉を当てるゲームのこと。「盗まれたロイヤル・ルビー」では、実際にレイシー一家が遊んでいるのを見ることができる。また、日本語でもう一つ挙げられるのはブリッジだが、原語では flip the kipper というゲームで、これは紙でつくった魚を扇いで動かして競争させる遊びである。
ヴェロニカが言った「こちらの劇場関係」の原語 Shaftesbury Avenue は、劇場街として名高い、ロンドンのウェストエンドを走る通りの名である。
ジョンとの別れ際のヴェロニカの台詞は、日本語だと「あんたなんか殺してやりたいわ! 死ねばいい! 嫌い!」と殺意を直接的に表現したもので、そのあとの「ジョンを殺す? 誰がそんなことを考えられるの?」というガーダの台詞とも呼応するものになっている。しかし原語は 'I hate you more than I thought I could hate anyone! (わたし、ここまで人を憎めると思えなかったほどあなたが憎いわ!)' という表現で、殺意の直接的な表明はない。
ホロー荘へ向かうジョンやポワロが通っていたのは、フットパスと呼ばれる徒歩用の道と見られる。昔から人々の利用に供されてきた道は、その土地の所有者であっても他者の利用を制限できるべきではないという考え方に基づいて、私有地内であってもフットパスは法律で通行権が保障されている。そのために、家畜を逃がさないなどの目的で途中に柵が設けられる場合でも、それを乗り越えるための足場が劇中のように用意されているのである。なお、本作のポワロはそれでも結局迂回するが、「スタイルズ荘の怪事件」では、同様の柵を(服装や柵の高さに違いはあるものの)特にためらいなく乗り越えていた。
殺人をゲームだと思ったポワロが言う「アロウ。トレ・ビアン」の「アロウ」の原語は « Allô. (もしもし) » ではなく « Alors. (なんとまあ) » で、その発音は /alɔːr/ である。
ルーシーが想像するガーダの友だちは、日本語だと「勉強はそっちのけでスポーツに熱中しているタイプ」「そうねえ、お嬢さま学校でテニスでもいいけど」とされているが、原語は 'You know, strapping hockey-playing types, from Tunbridge Wells. (タンブリッジ・ウェルズから来た、体格のいい、ホッケーをしているタイプ)' 'Very well, Eastbourne and lacrosse, if you insist. (そうねえ、イーストボーン出身のラクロスでもいいけど)' となっていて、これは日本人にもっとタフなイメージを喚起するかもしれない。しかし、のちにドラマ化された「鳩のなかの猫」のメドウバンク学園や「第三の女」のメドウフィールド学園でラクロスがおこなわれ、学校対抗の大会まで存在しているように、ホッケーやラクロスはそうした私立女子校で奨励されていたスポーツであった。一方、劇中当時の私立女子校は主に上層中産階級の女子が通うところで、上流階級では女子を学校に通わせるのは一般的なことではなかった。[1]つまり、ルーシーのこの発言には、ガーダが自分たちと同じ上流階級の人間ではないと見なしているニュアンスがある。なお、タンブリッジ・ウェルズとイーストボーンはいずれも南東イングランドの地名で、イーストボーンは「グランド・メトロポリタンの宝石盗難事件」の撮影地でもある。
ポワロとグレンジ警部がロンドンから汽車で戻った際、日本語だと駅員が「おーい、急げ! さっさと降ろすんだ!」と言っているが、その前には汽車の走り去る音がしており、荷物を汽車から降ろすのだとしたら、急いでももうまにあわない。原語は 'Where do you want these, Fred? (フレッド、これはどこに持っていく?)' 'Over here! Over here! (こっちだ、こっち)' という二人の駅員の会話で、すでに汽車から降ろした荷物の運び先の話をしていると思われる。なお、駅の場面が撮影された元ベイナーズ駅の線路はすでに撤去されており、そのために劇中では蒸気(正確には湯気)は見えども汽車は一切見られない。
ポワロが事件前夜のジョンの帰宅時間を知っていた理由について「メイドが歯痛を起こして」と言ったのに対し、日本語ではヘンリエッタが「あなたも眠れなかったわけね」と受けるが、原語だと 'Lucy has far too many servants. (ルーシーのところは使用人が多すぎるわ)' という表現である。つまり、日本語だと「メイド」はポワロの別荘の住み込みと受け取れるが、原語ではホロー荘のスタッフへの聞き込みで知ったことがわかる。
エドワードのことをルーシーは「いとこの子供」、ヘンリエッタは「またいとこ」と言うので、ヘンリエッタから見てルーシーは親のいとこになるはずだが、ルーシーを「おば」と言われたヘンリエッタは「いとこ (cousin)」だと訂正する。しかし、英語の cousin は必ずしも「いとこ」に限らず、同世代の親族や特定の呼び方がない関係の遠戚の人間を含む。また、「またいとこ (second cousin)」も cousin に含まれ、そのためにヘンリエッタはエドワードを「別のいとこ (also a cousin)」と言われても訂正しない。
ヘンリエッタが「はっきり言えば、身内だからみんな〔ガーダのことを〕大目に見てたのよ」と言ったのに対し、ポワロが「で、ガーダさんの夫と寝ることも大目に見られたんですね」と、ヘンリエッタとジョンの関係がアンカテル一族公認のように言うが、原語のポワロの台詞は 'And your understanding of tolerance, that would be to sleep with her husband? (すると、あなたの言う大目に見るとは、その夫と寝ることなんですね)' という表現で、そのようなニュアンスはない。確かに実際、ヘンリエッタとジョンの関係は一族の公然の秘密のように見受けられるが、それをポワロも共有していると思わせる要素は、ほかの場面にもない。
検死法廷から一同が出てくる場面では、日本語だと記者の「サバナークさん、一言お願いしますよ!」などという声が聞こえるが、原語では 'There she is! (彼女が来たぞ!)' と固有名詞の言及はなく、その声のあとに記者がつきまとっているのは女優のヴェロニカである。
ヘンリエッタが馬の彫刻をつくっている場面でかかっているのは 'By the Fireside' という曲で、ハイビジョンリマスター版では「もの言えぬ証人」でもモーター・ボート・クラブ内で同じ曲が流れている場面があった。
ポワロがヘンリエッタと話したあと、ポワロの別荘でグレンジ警部が「検死審問はいよいよ明日ですよ」と言うが、前に関係者が検死法廷から出てきた場面があったように、検死審問はすでに開催されている。原語は 'The inquest resumes tomorrow, (検死審問の再開は明日ですよ)' で、検死審問はおそらく追加捜査が必要と判断されて中断されていた。また、そのあと凶器を発見して警部が「血がついているようですよ」と言った台詞は、原語だと 'Looks a bit bloody likely. (それらしく見えますがね)' となっており、ここでの bloody は強調の副詞であって、ナイフなどならともかく、拳銃にあまり血はつかないのではないかしらん。
ガジョン役のエドワード・フォックスは「ナイルに死す」でレイス大佐を演じたジェームス・フォックスの兄で、アンジェラ・ランズベリー主演の映画「クリスタル殺人事件」ではクラドック警部役を演じている。また、サー・ヘンリー・アンカテル役のエドワード・ハードウィックは、ジェレミー・ブレット主演の「シャーロック・ホームズの冒険」シリーズにおいて、「空き家の怪事件」以降の「金縁の鼻眼鏡」を除く27作品でドクター・ワトスン役を演じている。ちなみに、ワトスン役でのハードウィックの髪の毛は一部カツラで、よく見ると頭頂部とそれ以外で髪の色が違うのがわかる。ジェラルディン・マクイーワンおよびジュリア・マッケンジー主演の「ミス・マープル」シリーズには、ジョン・クリストウ役のジョナサン・ケイクが「蒼ざめた馬」のマーク・イースターブルック役、ガジョン役のエドワード・フォックスが「チムニーズ館の秘密」のケイタラム卿役、シムズ夫人役のアンジェラ・カランが「動く指」のミス・ギンチ役で出演。同「ミス・マープル4」の「なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?」でウィルソン役を演じたリチャード・ブライアーズは、本作でミス・コリンズ役を演じるルーシー・ブライアーズの父である。また、「ミス・マープル6」の「グリーンショウ氏の阿房宮」でグレース役、ジョーン・ヒクソン主演の「ミス・マープル」シリーズ「パディントン発4時50分」でエマ・クラッケンソープ役を演じたジョアンナ・デビッドもエドワード・フォックスの妻であり、マクイーワン主演「ミス・マープル2」の「動く指」でジョアナ・バートン役を演じたエミリア・フォックスは二人の娘、マッケンジー主演「なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?」でトム・サベッジを演じたフレディ・フィックスは二人の息子である。ルーシー・アンカテル役のサラ・マイルズは、ドナルド・サザーランド主演の映画「ドーバー海峡殺人事件」ではメアリ・ダラント役を演じていた。
ルーシーの吹替の藤田弓子さんは、シェリル・キャンベル主演「七つのダイヤル」でのレディー・バンドルの吹替や、ジュリア・マッケンジー主演「ミス・マープル」シリーズでのミス・マープルの吹替も担当している。また、ジョンの吹替の原康義さんは、2023年の舞台「検察側の証人」ではメイヒュー弁護士役を演じている。
レストヘイブン荘の横を通り抜けるガーダの車の音に気づいたポワロが「ん?」と言ったり、ホロー荘へランチに訪れたポワロがガジョンの応対を受けて「あ」と言ったり、撃たれたジョンの血に触れて「ん?」と言ったり、四阿 のテーブルに描かれたイグドラシルに気づいて「んん?」と言ったり、サー・ヘンリーの線条痕に関する見解を聞いて「ふむ」と言ったり、そのすぐあとルーシーの笑顔に答えて笑い声を立てたり、ヘンリエッタにイグドラシルを「ただのいたずら描きよ」と言われて「ふむ」と言ったりするのは、すべて日本語音声のみである。
ヘンリエッタが「あらこれ、イグドラシルじゃない。誰が書いたの?」と言ったのにエドワードが「君だよ」と答える場面では、画面左上にマイクの風防と思しきものが写ってしまっている。また、ポワロたちがヘンリエッタのアトリエを訪れた際には、車の車体に現代の道路標示のラインが映り込んでしまっている。一方ハイビジョンリマスター版では、ガーダが交差点で車を止めてしまう場面で、青信号の映るカットの画面右上奥に高層ビルが見える。これはロンドン・カレッジ・オブ・ファッションのキャンパスで、1960年頃に建てられたものである。また、レストヘイブン荘の玄関前からダヴコーツを見た際、その屋根にテレビのアンテナが立っている。
ハイビジョンリマスター版ではオリジナル版よりも映像が明るくなっているのが通例だが、冒頭の夜の路地をジョンの車がやってくる場面では、オリジナル版のほうが空や明かりの色が明るい。また、画面奥の屋根の上にはテレビのアンテナが見える。
Agatha Christie: Poirot のエンディングクレジットには台詞のある役のキャストが全員掲載されるのが通例だが、シムズ夫人役のアンジェラ・カラン (Angela Curran) は、オリジナル版だとなぜかノンクレジット。ハイビジョンリマスター版では掲載されている。
» 結末や真相に触れる内容を表示
ヘンリエッタがプールのそばの四阿でイグドラシルを描いたタイミングについて、「あなた、日曜日の12時過ぎ、執事がシェリーを持ってきたあと、四阿にいた。テーブルのそばに立って、誰かを見張りながら、いたずら描きをしたんです」とポワロが結論づけるが、その過程の「執事がシェリーを運んだときには〔イグドラシルは〕なかった」という発言を、事件直後にポワロがテーブルを観察した結果ととらえてしまうと時系列が矛盾する。特に真相を知っていると、その時点では実際にイグドラシルが描かれていなかったことがわかる(ヘンリエッタが事件後に自分へ容疑を向けるための偽装として、ポワロが発見した日の朝に描いたと思われる)ので、ポワロの論理と結論がいっそう不自然に感じられるかもしれない。しかし原作によれば、事件直後のテーブルでポワロが目に留めたのは不自然なマッチのみであって、ガジョンがシェリーを運んだときにイグドラシルがなかったことは別途聞いて知ったことになっており、この時点のポワロはヘンリエッタに疑惑を向けているので、事件直後にイグドラシルに気づかなかったのは、テーブルの上のものに隠れていたためと考えたのだろう。また日本語音声では、ヘンリエッタがあれこれと回答をするなかで「日曜日のディナーのあとよ」と言うが、このとき原語では Saturday (土曜日) と言っており、これはポワロも参加したディナーのあとであって、そのためにポワロに時刻と暗さの程がわかる。
ガーダが犯人だと気づいた理由としてポワロが「でも、グレンジ警部が二度目に革製のホルスターに言及したとき、それを見たことがあるのを思い出したんです」と言うが、劇中で警部がホルスターに言及するのはポワロの別荘での一度だけで、ポワロが思い出したタイミングはよくわからない。ホロー荘での捜査中、切り刻まれたホルスターに対して「おい、そりゃ何だ?」と訊いたのを一度と数えるのだろうか。
ハイビジョンリマスター版で番組情報として放送データに載っているあらすじには「田舎のホロー荘で起きた殺人事件。背景には一族の複雑な人間関係があった」と書かれているが、殺人自体の原因はガーダがジョンの浮気の現場を目撃してその幻想が破れたことであって、「一族の複雑な人間関係」は一切関係ない。
ホロー荘として撮影に使われたのは、サリー州ファーナムにあるハンプトン・エステイト。ただ、邸内の複数の場面は、ロンドン北部にあるハイ・カノンズでも撮影されている。このハイ・カノンズの屋内は、ジュリア・マッケンジー主演「ミス・マープル5」の「青いゼラニウム」でもジョージ・プリチャード邸内として撮影に使われた。ホロー荘の〈ご近所〉であるポワロの別荘のレストヘイブン荘は、同じくサリー州ハンブルドンのクリケット・グリーン前にあるアドマーズ・コテージ、そのお隣であるダヴコーツは、実際に隣ではないもののやはりハンブルドンのヴァン・ハウス、最寄り駅はサリー州ラジウィック近郊の元ベイナーズ駅で撮影されている。ジョンの医院兼自宅は、医師の集まる通りとして有名なハーリー街にあり、「愛国殺人」のモーリー歯科医院はお隣。ホロー荘に向かう途中、青信号なのにガーダが車を停めてしまったのは、ハーリー街のすぐ東側にあるマンスフィールド・ストリートとダッチェス・ストリート、マンスフィールド・ミューズの交差点である。チェルシーにあることになっているヘンリエッタのアトリエ(チェルシーは、芸術家が好んで住んだ地域として知られる)も、実はハーリー街に程近いデボンシャー・クローズで撮影されている。人々が検死法廷をあとにする場面は、サリー州ウィトリーにあるキング・エドワーズ・スクールのクイーン・メリー・ハウス前で撮影された。
ルーシーからの招待状に書かれた日付の Saturday 17th September (9月17日土曜日) から、劇中は1938年9月と推定される(ただし、ハイビジョンリマスター版だと招待状の曜日は Thursday (木曜日) になっており、のちの台詞との整合性から、オリジナル版では映像を加工して修正していたものと思われる)。一方、客間でヘンリエッタが手にしていた Play Pictorial 誌は1937年2月号で、その表紙に写っているのは、ハムレットを演じるローレンス・オリヴィエである。撮影時期は2003年10月頃。
ヘンリエッタが落書きをする「イグドラシル」とは、原作によればエインズウィックにかつて生えていた大きな楢の木のことで、少女時代の彼女がその木をそう名づけたことになっている。その由来は、北欧神話で9つの世界をつなぐと言われる世界樹の名である。
ルーシーがミッジに言う、ポワロがバグダッドで解決した事件とは、おそらく「メソポタミア殺人事件」のこと。これは、発せられる場面こそ異なれど、原作にもある台詞だが、原作でもドラマでも「メソポタミア殺人事件」にアンカテル家の登場はない。また、ディナーの席でガーダが言いかけた、ポワロがドービルを訪れたという話は、「ゴルフ場殺人事件」のことか。こちらは原作にない台詞で、「ゴルフ場殺人事件」の原作の舞台もドービルではなかった。
ジョンが言う「ショベル・ダウンの丘」の「ショベル・ダウン (Shovel Down)」は地名で、ここでの down は「下」ではなく「高原」の意味である。
銃の射撃練習でサー・ヘンリーが「そう、そして引き金を引く」と言っているとき、原語ではジョンが 'I sprained my bloody wrist. (手首をくじいちまったよ)' と言っており、エドワードはその声を耳にして振り向いている。
ガーダが息子のテレンスについて言う「何でも実験したがるの」という台詞は、原語だと 'Always trying to blow things up. (何でも爆破しようとするの)' という表現で、そのためにニトログリセリンの話題を持ち出すより前にヘンリエッタの大きなリアクションがある。
ルーシーがポワロの口癖を「緑色の脳細胞」とまちがえたのは、原語だと green (緑色) と grey (灰色) に音の類似があるためか。
ガジョンがディナーの用意ができたことを知らせに来たとき、日本語では「その話もぜひ聞かせていただきたいですな」と、ポワロに言っているかのようなサー・ヘンリーの声が聞こえるが、映像だとサー・ヘンリーはガーダやミッジと話している。またそのあと、外から入ってきたジョンの声も、日本語音声では大半が笑っているが、映像では明らかにヘンリエッタと話している。
ルーシーがいつもディナーのあとにするゲームとして挙げる「ジェスチャー (charades)」とは、身振りを元に正解の言葉を当てるゲームのこと。「盗まれたロイヤル・ルビー」では、実際にレイシー一家が遊んでいるのを見ることができる。また、日本語でもう一つ挙げられるのはブリッジだが、原語では flip the kipper というゲームで、これは紙でつくった魚を扇いで動かして競争させる遊びである。
ヴェロニカが言った「こちらの劇場関係」の原語 Shaftesbury Avenue は、劇場街として名高い、ロンドンのウェストエンドを走る通りの名である。
ジョンとの別れ際のヴェロニカの台詞は、日本語だと「あんたなんか殺してやりたいわ! 死ねばいい! 嫌い!」と殺意を直接的に表現したもので、そのあとの「ジョンを殺す? 誰がそんなことを考えられるの?」というガーダの台詞とも呼応するものになっている。しかし原語は 'I hate you more than I thought I could hate anyone! (わたし、ここまで人を憎めると思えなかったほどあなたが憎いわ!)' という表現で、殺意の直接的な表明はない。
ホロー荘へ向かうジョンやポワロが通っていたのは、フットパスと呼ばれる徒歩用の道と見られる。昔から人々の利用に供されてきた道は、その土地の所有者であっても他者の利用を制限できるべきではないという考え方に基づいて、私有地内であってもフットパスは法律で通行権が保障されている。そのために、家畜を逃がさないなどの目的で途中に柵が設けられる場合でも、それを乗り越えるための足場が劇中のように用意されているのである。なお、本作のポワロはそれでも結局迂回するが、「スタイルズ荘の怪事件」では、同様の柵を(服装や柵の高さに違いはあるものの)特にためらいなく乗り越えていた。
殺人をゲームだと思ったポワロが言う「アロウ。トレ・ビアン」の「アロウ」の原語は « Allô. (もしもし) » ではなく « Alors. (なんとまあ) » で、その発音は /alɔːr/ である。
ルーシーが想像するガーダの友だちは、日本語だと「勉強はそっちのけでスポーツに熱中しているタイプ」「そうねえ、お嬢さま学校でテニスでもいいけど」とされているが、原語は 'You know, strapping hockey-playing types, from Tunbridge Wells. (タンブリッジ・ウェルズから来た、体格のいい、ホッケーをしているタイプ)' 'Very well, Eastbourne and lacrosse, if you insist. (そうねえ、イーストボーン出身のラクロスでもいいけど)' となっていて、これは日本人にもっとタフなイメージを喚起するかもしれない。しかし、のちにドラマ化された「鳩のなかの猫」のメドウバンク学園や「第三の女」のメドウフィールド学園でラクロスがおこなわれ、学校対抗の大会まで存在しているように、ホッケーやラクロスはそうした私立女子校で奨励されていたスポーツであった。一方、劇中当時の私立女子校は主に上層中産階級の女子が通うところで、上流階級では女子を学校に通わせるのは一般的なことではなかった。[1]つまり、ルーシーのこの発言には、ガーダが自分たちと同じ上流階級の人間ではないと見なしているニュアンスがある。なお、タンブリッジ・ウェルズとイーストボーンはいずれも南東イングランドの地名で、イーストボーンは「グランド・メトロポリタンの宝石盗難事件」の撮影地でもある。
ポワロとグレンジ警部がロンドンから汽車で戻った際、日本語だと駅員が「おーい、急げ! さっさと降ろすんだ!」と言っているが、その前には汽車の走り去る音がしており、荷物を汽車から降ろすのだとしたら、急いでももうまにあわない。原語は 'Where do you want these, Fred? (フレッド、これはどこに持っていく?)' 'Over here! Over here! (こっちだ、こっち)' という二人の駅員の会話で、すでに汽車から降ろした荷物の運び先の話をしていると思われる。なお、駅の場面が撮影された元ベイナーズ駅の線路はすでに撤去されており、そのために劇中では蒸気(正確には湯気)は見えども汽車は一切見られない。
ポワロが事件前夜のジョンの帰宅時間を知っていた理由について「メイドが歯痛を起こして」と言ったのに対し、日本語ではヘンリエッタが「あなたも眠れなかったわけね」と受けるが、原語だと 'Lucy has far too many servants. (ルーシーのところは使用人が多すぎるわ)' という表現である。つまり、日本語だと「メイド」はポワロの別荘の住み込みと受け取れるが、原語ではホロー荘のスタッフへの聞き込みで知ったことがわかる。
エドワードのことをルーシーは「いとこの子供」、ヘンリエッタは「またいとこ」と言うので、ヘンリエッタから見てルーシーは親のいとこになるはずだが、ルーシーを「おば」と言われたヘンリエッタは「いとこ (cousin)」だと訂正する。しかし、英語の cousin は必ずしも「いとこ」に限らず、同世代の親族や特定の呼び方がない関係の遠戚の人間を含む。また、「またいとこ (second cousin)」も cousin に含まれ、そのためにヘンリエッタはエドワードを「別のいとこ (also a cousin)」と言われても訂正しない。
ヘンリエッタが「はっきり言えば、身内だからみんな〔ガーダのことを〕大目に見てたのよ」と言ったのに対し、ポワロが「で、ガーダさんの夫と寝ることも大目に見られたんですね」と、ヘンリエッタとジョンの関係がアンカテル一族公認のように言うが、原語のポワロの台詞は 'And your understanding of tolerance, that would be to sleep with her husband? (すると、あなたの言う大目に見るとは、その夫と寝ることなんですね)' という表現で、そのようなニュアンスはない。確かに実際、ヘンリエッタとジョンの関係は一族の公然の秘密のように見受けられるが、それをポワロも共有していると思わせる要素は、ほかの場面にもない。
検死法廷から一同が出てくる場面では、日本語だと記者の「サバナークさん、一言お願いしますよ!」などという声が聞こえるが、原語では 'There she is! (彼女が来たぞ!)' と固有名詞の言及はなく、その声のあとに記者がつきまとっているのは女優のヴェロニカである。
ヘンリエッタが馬の彫刻をつくっている場面でかかっているのは 'By the Fireside' という曲で、ハイビジョンリマスター版では「もの言えぬ証人」でもモーター・ボート・クラブ内で同じ曲が流れている場面があった。
ポワロがヘンリエッタと話したあと、ポワロの別荘でグレンジ警部が「検死審問はいよいよ明日ですよ」と言うが、前に関係者が検死法廷から出てきた場面があったように、検死審問はすでに開催されている。原語は 'The inquest resumes tomorrow, (検死審問の再開は明日ですよ)' で、検死審問はおそらく追加捜査が必要と判断されて中断されていた。また、そのあと凶器を発見して警部が「血がついているようですよ」と言った台詞は、原語だと 'Looks a bit bloody likely. (それらしく見えますがね)' となっており、ここでの bloody は強調の副詞であって、ナイフなどならともかく、拳銃にあまり血はつかないのではないかしらん。
ガジョン役のエドワード・フォックスは「ナイルに死す」でレイス大佐を演じたジェームス・フォックスの兄で、アンジェラ・ランズベリー主演の映画「クリスタル殺人事件」ではクラドック警部役を演じている。また、サー・ヘンリー・アンカテル役のエドワード・ハードウィックは、ジェレミー・ブレット主演の「シャーロック・ホームズの冒険」シリーズにおいて、「空き家の怪事件」以降の「金縁の鼻眼鏡」を除く27作品でドクター・ワトスン役を演じている。ちなみに、ワトスン役でのハードウィックの髪の毛は一部カツラで、よく見ると頭頂部とそれ以外で髪の色が違うのがわかる。ジェラルディン・マクイーワンおよびジュリア・マッケンジー主演の「ミス・マープル」シリーズには、ジョン・クリストウ役のジョナサン・ケイクが「蒼ざめた馬」のマーク・イースターブルック役、ガジョン役のエドワード・フォックスが「チムニーズ館の秘密」のケイタラム卿役、シムズ夫人役のアンジェラ・カランが「動く指」のミス・ギンチ役で出演。同「ミス・マープル4」の「なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?」でウィルソン役を演じたリチャード・ブライアーズは、本作でミス・コリンズ役を演じるルーシー・ブライアーズの父である。また、「ミス・マープル6」の「グリーンショウ氏の阿房宮」でグレース役、ジョーン・ヒクソン主演の「ミス・マープル」シリーズ「パディントン発4時50分」でエマ・クラッケンソープ役を演じたジョアンナ・デビッドもエドワード・フォックスの妻であり、マクイーワン主演「ミス・マープル2」の「動く指」でジョアナ・バートン役を演じたエミリア・フォックスは二人の娘、マッケンジー主演「なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?」でトム・サベッジを演じたフレディ・フィックスは二人の息子である。ルーシー・アンカテル役のサラ・マイルズは、ドナルド・サザーランド主演の映画「ドーバー海峡殺人事件」ではメアリ・ダラント役を演じていた。
ルーシーの吹替の藤田弓子さんは、シェリル・キャンベル主演「七つのダイヤル」でのレディー・バンドルの吹替や、ジュリア・マッケンジー主演「ミス・マープル」シリーズでのミス・マープルの吹替も担当している。また、ジョンの吹替の原康義さんは、2023年の舞台「検察側の証人」ではメイヒュー弁護士役を演じている。
レストヘイブン荘の横を通り抜けるガーダの車の音に気づいたポワロが「ん?」と言ったり、ホロー荘へランチに訪れたポワロがガジョンの応対を受けて「あ」と言ったり、撃たれたジョンの血に触れて「ん?」と言ったり、
ヘンリエッタが「あらこれ、イグドラシルじゃない。誰が書いたの?」と言ったのにエドワードが「君だよ」と答える場面では、画面左上にマイクの風防と思しきものが写ってしまっている。また、ポワロたちがヘンリエッタのアトリエを訪れた際には、車の車体に現代の道路標示のラインが映り込んでしまっている。一方ハイビジョンリマスター版では、ガーダが交差点で車を止めてしまう場面で、青信号の映るカットの画面右上奥に高層ビルが見える。これはロンドン・カレッジ・オブ・ファッションのキャンパスで、1960年頃に建てられたものである。また、レストヘイブン荘の玄関前からダヴコーツを見た際、その屋根にテレビのアンテナが立っている。
ハイビジョンリマスター版ではオリジナル版よりも映像が明るくなっているのが通例だが、冒頭の夜の路地をジョンの車がやってくる場面では、オリジナル版のほうが空や明かりの色が明るい。また、画面奥の屋根の上にはテレビのアンテナが見える。
Agatha Christie: Poirot のエンディングクレジットには台詞のある役のキャストが全員掲載されるのが通例だが、シムズ夫人役のアンジェラ・カラン (Angela Curran) は、オリジナル版だとなぜかノンクレジット。ハイビジョンリマスター版では掲載されている。
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ヘンリエッタがプールのそばの四阿でイグドラシルを描いたタイミングについて、「あなた、日曜日の12時過ぎ、執事がシェリーを持ってきたあと、四阿にいた。テーブルのそばに立って、誰かを見張りながら、いたずら描きをしたんです」とポワロが結論づけるが、その過程の「執事がシェリーを運んだときには〔イグドラシルは〕なかった」という発言を、事件直後にポワロがテーブルを観察した結果ととらえてしまうと時系列が矛盾する。特に真相を知っていると、その時点では実際にイグドラシルが描かれていなかったことがわかる(ヘンリエッタが事件後に自分へ容疑を向けるための偽装として、ポワロが発見した日の朝に描いたと思われる)ので、ポワロの論理と結論がいっそう不自然に感じられるかもしれない。しかし原作によれば、事件直後のテーブルでポワロが目に留めたのは不自然なマッチのみであって、ガジョンがシェリーを運んだときにイグドラシルがなかったことは別途聞いて知ったことになっており、この時点のポワロはヘンリエッタに疑惑を向けているので、事件直後にイグドラシルに気づかなかったのは、テーブルの上のものに隠れていたためと考えたのだろう。また日本語音声では、ヘンリエッタがあれこれと回答をするなかで「日曜日のディナーのあとよ」と言うが、このとき原語では Saturday (土曜日) と言っており、これはポワロも参加したディナーのあとであって、そのためにポワロに時刻と暗さの程がわかる。
ガーダが犯人だと気づいた理由としてポワロが「でも、グレンジ警部が二度目に革製のホルスターに言及したとき、それを見たことがあるのを思い出したんです」と言うが、劇中で警部がホルスターに言及するのはポワロの別荘での一度だけで、ポワロが思い出したタイミングはよくわからない。ホロー荘での捜査中、切り刻まれたホルスターに対して「おい、そりゃ何だ?」と訊いたのを一度と数えるのだろうか。
ハイビジョンリマスター版で番組情報として放送データに載っているあらすじには「田舎のホロー荘で起きた殺人事件。背景には一族の複雑な人間関係があった」と書かれているが、殺人自体の原因はガーダがジョンの浮気の現場を目撃してその幻想が破れたことであって、「一族の複雑な人間関係」は一切関係ない。
- [1] 新井潤美, 『パブリック・スクール ――イギリス的紳士・淑女のつくられかた』, 岩波書店(岩波新書), 2016, pp. 124-132
ロケ地写真
カットされた場面
なし
映像ソフト
- [DVD] 「名探偵ポワロ 35 ホロー荘の殺人」(字幕・吹替) ハピネット・ピクチャーズ※1
- [DVD] 「名探偵ポワロ DVDコレクション 10 ホロー荘の殺人」(字幕・吹替) デアゴスティーニ・ジャパン※2
- ※1 「名探偵ポワロ NEW SEASON DVD-BOX 1」に収録
- ※2 吹替は大塚智則さん主演の新録で、映像もイギリスで販売されているDVDと同じバリエーションを使用
同原作の映像化作品
- [映画] 「危険な女たち」 1985年 監督:野村芳太郎 出演:石坂浩二