安いマンションの事件 The Adventure of the Cheap Flat
放送履歴
日本
オリジナル版(44分30秒)
- 1991年02月05日 22時00分〜 (NHK総合)
- 1992年04月29日 17時05分〜 (NHK総合)
- 1998年11月04日 15時10分〜 (NHK総合)
- 2003年06月17日 18時00分〜 (NHK衛星第2)
ハイビジョンリマスター版(49分00秒)
- 2016年02月20日 16時00分〜 (NHK BSプレミアム)
- 2016年07月27日 16時00分〜 (NHK BSプレミアム)
- 2020年07月25日 17時11分〜 (NHK BSプレミアム)※
- 2021年11月02日 09時00分〜 (NHK BS4K)
- 2022年02月25日 13時00分〜 (NHK BS4K)
- 2022年09月28日 21時00分〜 (NHK BSプレミアム・BS4K)
- ※ エンディング最後の画面下部に次回の放送時間案内の字幕表示(帯付き)あり
海外
- 1990年02月18日 (英・ITV)
原作
邦訳
- 「安アパート事件」 - 『ポアロ登場』 クリスティー文庫 真崎義博訳
- 「安アパート事件」 - 『ポアロ登場』 ハヤカワミステリ文庫 小倉多加志訳
- 「安いマンションの事件」 - 『ポワロの事件簿1』 創元推理文庫 厚木淳訳
- 「安アパートの冒険」 - 『クリスティ短編集2』 新潮文庫 井上宗次・石田英二訳
原書
雑誌等掲載
- The Adventure of the Cheap Flat, The Sketch, 9 May 1923 (UK)
- The Adventure of the Cheap Flat, The Blue Book Magazine, May 1924 (USA)
短篇集
- The Adventure of the Cheap Flat, Poirot Investigates, The Bodley Head, 21 March 1924 (UK)
- The Adventure of the Cheap Flat, Poirot Investigates, Dodd Mead, 1925 (USA)
オープニングクレジット
日本
オリジナル版
名探偵ポワロ / AGATHA CHRISTIE'S POIROT / DAVID SUCHET // HUGH FRASER / PHILIP JACKSON / PAULINE MORAN / 安いマンションの事件, THE ADVENTURE OF THE CHEAP FLAT / Dramatized by RUSSELL MURRAY / Script Consultant CLIVE EXTON
ハイビジョンリマスター版
名探偵ポワロ / DAVID SUCHET / AGATHA CHRISTIE'S POIROT / 安いマンションの事件 // HUGH FRASER / PHILIP JACKSON / PAULINE MORAN / THE ADVENTURE OF THE CHEAP FLAT / Dramatized by RUSSELL MURRAY / Script Consultant CLIVE EXTON
エンディングクレジット
日本
オリジナル版
原作 アガサ・クリスティー 脚本 クライブ・エクストン ラッセル・マレイ 監督 リチャード・スペンス 制作 LWT(イギリス) / 出演 ポワロ(デビッド・スーシェ) 熊倉一雄 ヘイスティングス(ヒュー・フレイザー) 富山 敬 ジャップ警部(フィリップ・ジャクソン) 坂口芳貞 ミス・レモン 翠 準子 カーラ・ロメロ 戸田恵子 バート捜査官 滝口順平 頓宮恭子 江原正士 郷里大輔 秋元羊介 矢田 稔 田村錦人 中田譲治 青森 伸 山岡葉子 / 日本語版 宇津木道子 山田悦司 福岡浩美 南部満治 金谷和美
ハイビジョンリマスター版
原作 アガサ・クリスティー 脚本 クライブ・エクストン ラッセル・マレイ 演出 リチャード・スペンス 制作 LWT (イギリス) / 出演 ポワロ(デビッド・スーシェ) 熊倉 一雄 ヘイスティングス(ヒュー・フレイザー) 富山 敬/安原 義人 ジャップ警部(フィリップ・ジャクソン) 坂口 芳貞 ミス・レモン(ポーリン・モラン) 翠 準子 カーラ・ロメロ 戸田 恵子 バート捜査官 滝口 順平 頓宮 恭子 江原 正士 郷里 大輔 秋元 羊介 矢田 稔 田村 錦人 中田 譲治 青森 伸 山岡 葉子 倉持 良子 日本語版スタッフ 翻訳 宇津木 道子 演出 山田 悦司 音声 金谷 和美 プロデューサー 里口 千
海外
オリジナル版
Hercule Poirot: DAVID SUCHET; Captain Hastings: HUGH FRASER; Chief Inspector Japp: PHILIP JACKSON; Miss Lemon: PAULINE MORAN; Stella Robinson: SAMANTHA BOND; James Robinson: JOHN MICHIE; Elsie: JEMMA CHURCHILL; Mr Paul: PETER HOWELL; Carla Romero: JENIFER LANDOR; Teddy Parker: IAN PRICE; FBI Agent Burt: WILLIAM HOOTKINS; Records Agent: GORDON WHARMBY; Bernie Cole: NICK MALONEY; Luigi Valdarno: NIGEL WHITMEY; Assasin: ANTHONY PEDLEY; Romero's Husband: LUKE HAYDEN / Developed for Television by Picture Partnership Productions / (中略)Assistant Director: GUY TRAVERS; Location Manager: DENNIS FIRMINGER; Script Supervisor: SAM DONOVAN; Production Co-ordinator: MONICA ROGERS; Accountant: JOHN BEHARRELL; Camera Operator: JAMIE HARCOURT; Focus Puller: HUGH FAIRS; Grip: JOHN ETHERINGTON; Boom Operators: MARTIN TREVIS, RUDI BUCKLE; Gaffer: DEREK RYMER; Art Director: CAROLINE SMITH; Production Buyer: DAVID BORDEWEY; Property Master: MICKY LENNON; Construction Manager: LES PEACH; Dubbing: ALAN KILLICK, ANNE PARSONS, RUPERT SCRIVENER; Post Production Superviser: RAY HELM; Panaflex 16(R) Camera by Panavision(R); Grip Equipment by Grip House Ltd; Lighting & Generators by Samuelson Lighting Ltd; Made at Twickenham Studios, London, England; 'The G Men' Courtesy of Turner Entertainment; Costume Designer: LINDA MATTOCK; Make up Supervisor: HILARY MARTIN; Sound Recordist: KEN WESTON; Titles: PAT GAVIN; Night Club Music: NEIL RICHARDSON; Production Manager: MARTIN BOND; Casting: REBECCA HOWARD, LUCY ABERCROMBIE; Editor: FRANK WEBB; Production Supervisor: DONALD TOMS / Production Designer: MIKE OXLEY / Directors of Photography: PETER BARTLETT, VERNON LAYTON / Theme Music: CHRISTOPHER GUNNING; Incidental Music: RICHARD HEWSON; Conductor: DAVID SNELL / Executive Producer: NICK ELLIOTT / Producer: BRIAN EASTMAN / Director: RICHARD SPENCE
あらすじ
若いロビンソン夫妻が借りた高級マンションの家賃はなぜか格安だった。この奇妙な事実に興味を惹かれたポワロは調査に乗り出すが、どうやらジャップ警部の調べる国際的スパイ事件と関係が……
事件発生時期
1935年?
主要登場人物
エルキュール・ポワロ | 私立探偵 |
アーサー・ヘイスティングス | ポワロの探偵事務所のパートナー、陸軍大尉 |
ジェームス・ジャップ | スコットランド・ヤード主任警部 |
フェリシティ・レモン | ポワロの秘書 |
バート | FBI 捜査官 |
テディ・パーカー | ヘイスティングスの友人 |
ジェームス・ロビンソン | パーカーの知人 |
ステラ・ロビンソン | ジェームスの妻 |
バーニー・コール | 〈ブラックキャット〉支配人 |
エルサ・ハート | 〈ブラックキャット〉で歌う歌手 |
ルイジ・バルダーノ | アメリカ海軍本部職員 |
解説、みたいなもの
サスペンス風の展開と気だるいジャズの BGM が印象的なエピソード。話の着想はやはり『シャーロック・ホームズの冒険』所収の〔» 小説の題名を表示〕「赤毛組合」などに似る。
劇中に具体的な日付は出てこないものの、今回の舞台は色づいた木々の葉が美しい晩秋のロンドン(原作の舞台は3月末頃)。エルサ・ハートが歌手を務めるナイトクラブ〈ブラックキャット〉(名前の由来はおそらく、原作でエルサ・ハートが持っていた黒猫のぬいぐるみから)の要素が追加されているほか、原作では最後のちょっとだけしか登場しなかったバート捜査官が前半から登場し、かなりあくの強いキャラクターに仕立て上げられている。また、原作だと機密書類の売り込み先は日本と目されていたが、ドラマでは「組織」に揃えたのかイタリアに変更され、日本に関する言及はなくなった。ロビンソン夫妻が借りた「安いマンション」も、ナイツブリッジのモンタギュー・マンション3階4号室から、ケンジントンに実在するカムデン・ヒル・ゲート2階6号室へ変更されたが、ハイビジョンリマスター版の原語音声にはヘイスティングスがブロンプトン・ロードでの仕事のついでに立ち寄ったと言う箇所があり、これはナイツブリッジを走る大通りなので、マンションの所在は変わらずナイツブリッジという設定のようだ。一方、エルサ・ハートの原語での綴りは、原作だと Elsa Hardt だったが、クラブ入り口のポスターや楽屋のドアには Elsa Hart と書かれている。
冒頭、ポワロたちが観た映画は、ウィリアム・キーリー監督、ジェームス・キャグニー主演で1935年に公開された「Gメン」。映画館のロビーで「Gメン」のポスターと並んで掲示されているのは、やはり1935年に公開された、フレッド・アステアとジンジャー・ロジャースが共演した「トップ・ハット」のポスター。エルサ・ハートが歌うという「ブロードウェイの子守唄」も、1935年公開のミュージカル映画「ゴールド・ディガーズ1935」の著名な劇中曲で、その年のアカデミー歌曲賞を受賞しているが[1]、映画の公開は3月のことなので[2]、その楽譜の出版が「今年の1月」なら、劇中は1936年以降だろうか。一方、記録室のオブライエンがアメリカ中西部で逃亡中(とは原語でないと明確に言っていないけれど)と言及する「ボニーとクライド」という二人組は、映画「俺たちに明日はない」のモデルにもなった実在の強盗カップルで、1930年代前半にアメリカを荒らしまわった。二人は1934年に警官隊との銃撃戦により死亡しており[3]、オブライエンの台詞をもって劇中の時代設定をそれより前と見ると、その他の状況と矛盾する。エルサ・ハートが歌う歌は、ニューヨークで歌っていたのが 'Sugar' で、〈ブラックキャット〉で歌ったのが 'If I Had You'。
バート捜査官が所属する FBI はその正式名称を Federal Bureau of Investigation (連邦捜査局) といい、捜査・逮捕権限を有するアメリカ司法省の一部局で、1935年7月に同省の捜査局から改組されて成立した。冒頭の映画のタイトルにもなっている「Gメン (G-Men)」は Government men の略で、この FBI の捜査官を指す。バート捜査官がアメリカにマフィアなどの犯罪組織が存在することを頑なに認めようとしないのは、実際の FBI もかつて犯罪組織の存在について否定的で、組織犯罪の取り締まりに対しても消極的な態度を長く取っていた史実に基づくと見られる。これは、 FBI の前身の捜査局時代から50年近くにわたってその長を務めたジョン・エドガー・フーバーの意向によるもので、フーバーは犯罪捜査機関の長でありながら、犯罪組織やその有力者と親しい関係にあったことが後年明らかになっている。ただ、それは1930年代の終わり以降の話で、劇中の1935年頃にはまだ組織犯罪の積極的な取り締まりをおこなっていたようだ。[4][5]
ハイビジョンリマスター版で、ミス・レモンに「昨日、パーカーさんのパーティーですばらしい推理をなさったそうじゃありません?」と言われてヘイスティングスが「たまには褒めてくれてもいいじゃないですか」と応じるのは、そのときのポワロの微妙な表情はさておき、皮相的にはヘイスティングスの明快な推理を褒める流れで、ヘイスティングスの反応は僻みが過ぎるように聞こえるかもしれない。原語は 'You know, Poirot, I sometimes think you don't give me credit where it's due. (ポワロさんはときどき、認めるべきところでぼくを認めてくれないんだから)' という表現で、褒めてくれないというより、自分があえてとった言動の真意を汲んでくれない、あるいはそうした配慮のできる人間だと思われていないことへの不満である。つづく「確かにお粗末でしたけど、あれはぼくなりの思いやりだったんです」という台詞も、日本語だと褒めてほしがりながら自分の対応を「お粗末」と低く評価しているようにも聞こえるが、原語は 'I know it all sounded rather simplistic to you, but I was merely being tactful. (ポワロさんにはずいぶん安易〔な推理〕に聞こえたかもしれないけど、あれはただ気を利かせただけですよ)' という表現で、対応自体が安易であったと卑下するニュアンスはない。ちなみに、原作のヘイスティングスも、ポワロにときどき過小評価されていると不満を抱いているが、自負の対象は単にロビンソン夫妻の疑問を見事に解き明かしてみせたことであって、ドラマでは前後の状況が若干変わったせいか、不満の内容にアレンジが入っている。
バート捜査官が言った「カポネもそのうち大統領に出るだろう」の「カポネ」とは、禁酒法時代にシカゴで台頭したギャングのアル・カポネのこと。バート捜査官の台詞は原語だと 'And I suppose Al Capone's running for President. (それならカポネも大統領選に出るだろう)' という表現で、 and (それなら) とは、その前のジャップ警部の台詞を受けたもの。日本語で「ポワロさんは私立探偵として抜きんでた存在なんです」となっている警部のその台詞は、原語だと 'And if you must know, Mr Poirot here has an outstanding reputation. (それに、こちらのポワロさんは抜きんでた評判の持ち主なんです)' と言っており、つまりバート捜査官が言っているのは、抜きんでた評判ならカポネにもあり、それが評価されるならギャングのカポネだって大統領になれるということであって、すなわちポワロの評判など何の価値もないということである。
バート捜査官がカーラ・ロメロのことを言ったという「歌うたい」の原語 chantoosie は、女性歌手を表すフランス語の chanteuse が転訛した単語で、大衆音楽の女性歌手を指す。ポワロには「今はそういう言い方は流行りませんよ」と言われてしまうが、この単語の用例があるのは1940年代以降である由[6]。
カムデン・ヒル・ゲートにポワロが借りた部屋の家賃、週6ギニーは、年間に直すと330ポンド弱。これと比較すると、ロビンソン夫妻の年間80ポンドという家賃がいかに「安い」かがよくわかる。なお、家賃の週払いは(特に当時の)イギリスでは一般的な商慣習である。
ハイビジョンリマスター版で、ヘイスティングスがロビンソン夫妻の注意を引きつけるためにする「木目模様」の話は、原語だと dragging and combing という表現で、これは木目自体の模様ではなく、木工品などに塗ったニスをブラシや櫛でこすって模様をつける加工のこと。また、「この手の経験は、フランスで発掘現場に防腐剤を塗ったくらいなんですよ」とも言うが、「発掘現場」の原語 dugout は防空壕や塹壕を指す言葉で、これは第一次世界大戦に従軍した際の経験を語ったものと思われる。ドラマだと明確には言及されないが、原作によればヘイスティングスは、塹壕戦となったことで知られるソンムの戦いに従軍して負傷しており、ポワロと再会した「スタイルズ荘の怪事件」は、その療養休暇中の出来事だった。
バーニー・コールが言う「五つ子のディオンヌ姉妹」とは、1934年にカナダのオンタリオ州に生まれた一卵性の五つ子姉妹のこと。当時、その動向は世界的な注目を集めたという。
ハイビジョンリマスター版では、エルサ・ハートの楽屋についてバーニー・コールから「廊下をまっすぐ行った、2番目の部屋ですから」と言われる場面があり、原語だと 'Straight down the corridor, second on the left. (廊下をまっすぐ行って、左手の2番目ですから)' となっているが、目的のドアは進行方向右側にある。
演じるポーリーン・モランの影響もあってか原作と比べて多趣味なミス・レモンだが、今回はアメリカの歌にも詳しいことが判明する。ただし、日本語で「この方面には詳しいんですけど」と言った箇所は、原語だと 'I have it on good authority, (確かな筋に聞いたんですけど)' という表現で、自分が直接に詳しいという趣旨はなく、だからメモを示しながらポワロに伝えている。なお余談ながら、モラン自身はかつてザ・シー・トリニティというガールズバンドでベースギターを担当していた。
ポワロの「教会のネズミのように音を立てないで (we must be quiet as a chapel mouse)」という台詞は、「とても静かな」という意味の quiet as a mouse と、「ひどく貧乏な」という意味の poor as a church mouse とをポワロが混同したものである。
殺し屋との格闘の際、殺し屋があげるうめき声は日本語音声も原語音声も同一のもの。「消えた廃坑」での悲鳴同様、これは BGM や効果音と分離できないトラックに入っていたものと思われ、それらとの音量バランスの都合か、日本語音声ではポワロやヘイスティングスの声よりも音量が小さくなっている。また、ポワロが殺し屋からナイフをもぎ取ろうと「よこせ」と言ったところは、原語だと 'Allez. (今です)' という表現で、殺し屋に襲いかかるタイミングをヘイスティングスに合図している。ただ、 allez の発音は本来 /ale/ なのだが、語末に「エ」の音が来ることのない英語の癖を受けて、 /aleɪ/ と発音されてしまっている。そして、銃を奪われたあとも、原語音声ではポワロが 'Be careful, Hastings! (気をつけて、ヘイスティングス!) Allons-y! (行きましょう!)' と言うが、なぜか日本語ではヘイスティングスが「ピストルを取られた! 早く追いましょう!」と言っており、台詞のタイミングも異なる。状況説明などのために日本語音声で台詞が補われたり、あるいは別の内容に変えられたりすることはしばしばあるが、このように別の人物の台詞に置き換えられることはめずらしい。また、〈ブラックキャット〉に警察が踏み込む際、ジャップ警部が「ようし、行こう」と言ったあとに「行こう (Come on, lads.)」と言うのも、日本語だとバート捜査官の声だが、原語ではジャップ警部の部下の巡査部長の台詞で、 lads という部下への呼びかけもイギリス風である。
冒頭の映画館は1929年オープンの、ブリクストンにあったアストリア劇場(現 O2 アカデミー・ブリクストン)[7]。ナイトクラブ〈ブラックキャット〉の入り口がある建物も実は O2 アカデミー・ブリクストンで、前の通りは同横手のアストリア・ウォーク。しかし、〈ブラックキャット〉の楽屋やその前の廊下は、「二重の罪」でジャップ警部が講演をしたウィットコム女子大ホールと同じ、ラングドン・ダウン・センターのノーマンズフィールド・シアターで撮影された。「安いマンション」ことカムデン・ヒル・ゲートは前述のとおりケンジントンに実在するマンションだが、6号室前の廊下の壁に設えられたオブジェは、「24羽の黒つぐみ」で、ホワイトヘイブン・マンションのポワロの玄関の向かいの壁に設置されていたのと同じもので、1階廊下以外の内部はスタジオ内セットと見られる。ジャップ警部たちがイタリア大使館の張り込みをしていたのはセント・ジェームス・パークの北にあるセント・ジェームス・スクエアだが、大使館として映される建物は本物ではなく、実際のイタリア大使館は、そこよりすこし北西のスリー・キングス・ヤードにある。また、そのすこし前にヘイスティングスがパーカーと歩いていた公園も同じセント・ジェームス・スクエアで、画面奥には「イタリア大使館」も映っているが、後の場面ではイタリア国旗が(実は奥のほうは上下逆さまに)下げられているポールに何も下がっていないのは、早朝ゆえか、それとも別の場所という設定なのだろうか。なお、バート捜査官に占拠されたジャップ警部のオフィスの黒板に書かれたイタリア大使館周辺の地図は、地名なども含めて実際のセント・ジェームス・スクエア周辺をほぼそのまま描写している。
ロビンソン夫人役のサマンサ・ボンドは、ジョーン・ヒクソン主演の「ミス・マープル」では「予告殺人」のジュリア・シモンズ役、ジュリア・マッケンジー主演の「ミス・マープル4」では「なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?」のシルビア・サベッジ役を演じているほか、ピアース・ブロスナン主演「007」シリーズのマネーペニー役としても知られる。
〈ロビンソン夫妻〉をつけ狙う殺し屋の声を演じた青森伸さんは、エイドリアン・レスター主演「華麗なるペテン師たち」シリーズの「庶民の敵」に出演したフィリップ・ジャクソンの吹替も担当している。
ハイビジョンリマスター版では、スコットランド・ヤードの外観が映るカットに「ロンドン警視庁」という字幕が追加された。
冒頭の映画館の2階天井に蛍光灯らしき照明が見えるが、蛍光灯の商業生産が始まったのは1937年のことで、劇中の厳密な時期は不明ながら、おそらくわずかに時代に合わない。
ロビンソン夫妻がカムデン・ヒル・ゲートで出会った女性が立ち去りかけて振り返った際、玄関のガラスドアの向こうを、おそらく現代の通行人と自動車が横切るのが見える。また、ヘイスティングスが殺し屋を追いかけてマンションから駆け出す際には、玄関のドアの横に、おそらくは現代の電子錠の操作盤をマスキングした白い箱が見え、その傍らの植木も、建物正面からの撮影時にそれを隠すために置かれたと推察される。加えて、ミス・レモンが〈ブラックキャット〉にタクシーで乗りつける場面では、壁面に設置された監視カメラが映ってしまっている。また、その同じ場面と、〈ブラックキャット〉前でジャップ警部が待っているところへポワロたちがやってくる場面では、画面奥を現代の自動車のバックライトが横切るのが見える。
ニューヨークの場面のセットはいくら何でも……ねえ。ひょっとして、劇中当時の映画セットの雰囲気を出そうという演出意図なのかしらん。
» 結末や真相に触れる内容を表示
公園でポワロが「不動産屋の言ったロビンソン夫人の特徴は、わたしたちの知っているロビンソン夫人とちがいます」と言うが、不動産屋がロビンソン夫人の特徴に言及した場面は事前になく、話が食いちがったのはロビンソン夫妻の入居時期だけである。脚本段階ではロビンソン夫妻の特徴を確認するやりとりでもあって、それが編集でカットされたのだろうか。ちなみに、原作のエルサ・ハート(カーラ・ロメロという別名義はドラマオリジナルの設定)はロビンソン夫人と外見的特徴(というか、金髪で、かつ特段の特徴がないこと)が一致しており、名前と特徴が一致する借り手が現れるのを待っていた。
クラブでのカーラ・ロメロの逮捕や殺し屋の襲撃に際して、冒頭の映画を踏まえてジャップ警部が「映画とはちがうんですよ!」と言ったり、またポワロが「私はアメリカのギャング映画の真似をするつもりはありません。スクリーンでもう十分見ましたからね」と言ったりするのは、日本語音声のみの趣向。原語だとこれらはそれぞれ 'What do you think you're playing at? (いったい何の真似ですか?)' 'I have no time for these so-called mobsters of America. (こんな、いわゆるアメリカのギャングの相手をしている暇はありません) I have seen enough of this charade. (この茶番劇はもう十分見ましたからね)' という表現で、冒頭の映画で描かれたようなギャングの一般的なイメージを踏まえてはいるものの、映画との直接の対比はない。また、その襲撃を脱したあと、ポワロが「ヘイスティングス、君をびっくりさせて悪かったですね」と謝る台詞は、原語だと 'So, Hastings, never will you trust your old friend, eh? (ヘイスティングス、君は長年の友だちを信用しないんですか?)' とヘイスティングスをやんわり責めるもので、日本語のほうがヘイスティングスに対するポワロの態度がマイルドになっている。なお、原語の台詞は、原作とほぼ同じ表現である。
ロビンソン夫妻の家に盗難の被害がなくて済んだ理由について、ポワロが「ヘイスティングスが気づいてくれたおかげですよ。ゴミ出し用のドアをいじった形跡に気がつかなかったら……」と言うが、ひらいたドアを見つけたのはヘイスティングスだとしても、その前に物音に気づいたのはロビンソン夫人だし、ヘイスティングスはドアの錠をかけただけだし、結局ポワロの細工でゴミ出し用のドアは開けられていたし(そのあとにポワロが細工を元に戻し、ロビンソン夫妻には細工のあったことに気づかれていないのかもしれないけど)、侵入者が表のドアから入ってきたことはロビンソン夫妻も知っているはず。原語だとポワロの台詞の後半は 'Because if he had not noticed that the door for the dustbins had been tampered with... (ゴミ出し用のドアをいじっているのに気がつかなかったら……)' という表現で、「形跡に気がついた」というニュアンスはないのだが、それにしてもポワロの論理はよくわからない。キッチンからの侵入を阻止されたために泥棒が表から入らざるをえず、それで物音を立てる羽目になって逃走したので被害がなかった、ということだろうか。
劇中に具体的な日付は出てこないものの、今回の舞台は色づいた木々の葉が美しい晩秋のロンドン(原作の舞台は3月末頃)。エルサ・ハートが歌手を務めるナイトクラブ〈ブラックキャット〉(名前の由来はおそらく、原作でエルサ・ハートが持っていた黒猫のぬいぐるみから)の要素が追加されているほか、原作では最後のちょっとだけしか登場しなかったバート捜査官が前半から登場し、かなりあくの強いキャラクターに仕立て上げられている。また、原作だと機密書類の売り込み先は日本と目されていたが、ドラマでは「組織」に揃えたのかイタリアに変更され、日本に関する言及はなくなった。ロビンソン夫妻が借りた「安いマンション」も、ナイツブリッジのモンタギュー・マンション3階4号室から、ケンジントンに実在するカムデン・ヒル・ゲート2階6号室へ変更されたが、ハイビジョンリマスター版の原語音声にはヘイスティングスがブロンプトン・ロードでの仕事のついでに立ち寄ったと言う箇所があり、これはナイツブリッジを走る大通りなので、マンションの所在は変わらずナイツブリッジという設定のようだ。一方、エルサ・ハートの原語での綴りは、原作だと Elsa Hardt だったが、クラブ入り口のポスターや楽屋のドアには Elsa Hart と書かれている。
冒頭、ポワロたちが観た映画は、ウィリアム・キーリー監督、ジェームス・キャグニー主演で1935年に公開された「Gメン」。映画館のロビーで「Gメン」のポスターと並んで掲示されているのは、やはり1935年に公開された、フレッド・アステアとジンジャー・ロジャースが共演した「トップ・ハット」のポスター。エルサ・ハートが歌うという「ブロードウェイの子守唄」も、1935年公開のミュージカル映画「ゴールド・ディガーズ1935」の著名な劇中曲で、その年のアカデミー歌曲賞を受賞しているが[1]、映画の公開は3月のことなので[2]、その楽譜の出版が「今年の1月」なら、劇中は1936年以降だろうか。一方、記録室のオブライエンがアメリカ中西部で逃亡中(とは原語でないと明確に言っていないけれど)と言及する「ボニーとクライド」という二人組は、映画「俺たちに明日はない」のモデルにもなった実在の強盗カップルで、1930年代前半にアメリカを荒らしまわった。二人は1934年に警官隊との銃撃戦により死亡しており[3]、オブライエンの台詞をもって劇中の時代設定をそれより前と見ると、その他の状況と矛盾する。エルサ・ハートが歌う歌は、ニューヨークで歌っていたのが 'Sugar' で、〈ブラックキャット〉で歌ったのが 'If I Had You'。
バート捜査官が所属する FBI はその正式名称を Federal Bureau of Investigation (連邦捜査局) といい、捜査・逮捕権限を有するアメリカ司法省の一部局で、1935年7月に同省の捜査局から改組されて成立した。冒頭の映画のタイトルにもなっている「Gメン (G-Men)」は Government men の略で、この FBI の捜査官を指す。バート捜査官がアメリカにマフィアなどの犯罪組織が存在することを頑なに認めようとしないのは、実際の FBI もかつて犯罪組織の存在について否定的で、組織犯罪の取り締まりに対しても消極的な態度を長く取っていた史実に基づくと見られる。これは、 FBI の前身の捜査局時代から50年近くにわたってその長を務めたジョン・エドガー・フーバーの意向によるもので、フーバーは犯罪捜査機関の長でありながら、犯罪組織やその有力者と親しい関係にあったことが後年明らかになっている。ただ、それは1930年代の終わり以降の話で、劇中の1935年頃にはまだ組織犯罪の積極的な取り締まりをおこなっていたようだ。[4][5]
ハイビジョンリマスター版で、ミス・レモンに「昨日、パーカーさんのパーティーですばらしい推理をなさったそうじゃありません?」と言われてヘイスティングスが「たまには褒めてくれてもいいじゃないですか」と応じるのは、そのときのポワロの微妙な表情はさておき、皮相的にはヘイスティングスの明快な推理を褒める流れで、ヘイスティングスの反応は僻みが過ぎるように聞こえるかもしれない。原語は 'You know, Poirot, I sometimes think you don't give me credit where it's due. (ポワロさんはときどき、認めるべきところでぼくを認めてくれないんだから)' という表現で、褒めてくれないというより、自分があえてとった言動の真意を汲んでくれない、あるいはそうした配慮のできる人間だと思われていないことへの不満である。つづく「確かにお粗末でしたけど、あれはぼくなりの思いやりだったんです」という台詞も、日本語だと褒めてほしがりながら自分の対応を「お粗末」と低く評価しているようにも聞こえるが、原語は 'I know it all sounded rather simplistic to you, but I was merely being tactful. (ポワロさんにはずいぶん安易〔な推理〕に聞こえたかもしれないけど、あれはただ気を利かせただけですよ)' という表現で、対応自体が安易であったと卑下するニュアンスはない。ちなみに、原作のヘイスティングスも、ポワロにときどき過小評価されていると不満を抱いているが、自負の対象は単にロビンソン夫妻の疑問を見事に解き明かしてみせたことであって、ドラマでは前後の状況が若干変わったせいか、不満の内容にアレンジが入っている。
バート捜査官が言った「カポネもそのうち大統領に出るだろう」の「カポネ」とは、禁酒法時代にシカゴで台頭したギャングのアル・カポネのこと。バート捜査官の台詞は原語だと 'And I suppose Al Capone's running for President. (それならカポネも大統領選に出るだろう)' という表現で、 and (それなら) とは、その前のジャップ警部の台詞を受けたもの。日本語で「ポワロさんは私立探偵として抜きんでた存在なんです」となっている警部のその台詞は、原語だと 'And if you must know, Mr Poirot here has an outstanding reputation. (それに、こちらのポワロさんは抜きんでた評判の持ち主なんです)' と言っており、つまりバート捜査官が言っているのは、抜きんでた評判ならカポネにもあり、それが評価されるならギャングのカポネだって大統領になれるということであって、すなわちポワロの評判など何の価値もないということである。
バート捜査官がカーラ・ロメロのことを言ったという「歌うたい」の原語 chantoosie は、女性歌手を表すフランス語の chanteuse が転訛した単語で、大衆音楽の女性歌手を指す。ポワロには「今はそういう言い方は流行りませんよ」と言われてしまうが、この単語の用例があるのは1940年代以降である由[6]。
カムデン・ヒル・ゲートにポワロが借りた部屋の家賃、週6ギニーは、年間に直すと330ポンド弱。これと比較すると、ロビンソン夫妻の年間80ポンドという家賃がいかに「安い」かがよくわかる。なお、家賃の週払いは(特に当時の)イギリスでは一般的な商慣習である。
ハイビジョンリマスター版で、ヘイスティングスがロビンソン夫妻の注意を引きつけるためにする「木目模様」の話は、原語だと dragging and combing という表現で、これは木目自体の模様ではなく、木工品などに塗ったニスをブラシや櫛でこすって模様をつける加工のこと。また、「この手の経験は、フランスで発掘現場に防腐剤を塗ったくらいなんですよ」とも言うが、「発掘現場」の原語 dugout は防空壕や塹壕を指す言葉で、これは第一次世界大戦に従軍した際の経験を語ったものと思われる。ドラマだと明確には言及されないが、原作によればヘイスティングスは、塹壕戦となったことで知られるソンムの戦いに従軍して負傷しており、ポワロと再会した「スタイルズ荘の怪事件」は、その療養休暇中の出来事だった。
バーニー・コールが言う「五つ子のディオンヌ姉妹」とは、1934年にカナダのオンタリオ州に生まれた一卵性の五つ子姉妹のこと。当時、その動向は世界的な注目を集めたという。
ハイビジョンリマスター版では、エルサ・ハートの楽屋についてバーニー・コールから「廊下をまっすぐ行った、2番目の部屋ですから」と言われる場面があり、原語だと 'Straight down the corridor, second on the left. (廊下をまっすぐ行って、左手の2番目ですから)' となっているが、目的のドアは進行方向右側にある。
演じるポーリーン・モランの影響もあってか原作と比べて多趣味なミス・レモンだが、今回はアメリカの歌にも詳しいことが判明する。ただし、日本語で「この方面には詳しいんですけど」と言った箇所は、原語だと 'I have it on good authority, (確かな筋に聞いたんですけど)' という表現で、自分が直接に詳しいという趣旨はなく、だからメモを示しながらポワロに伝えている。なお余談ながら、モラン自身はかつてザ・シー・トリニティというガールズバンドでベースギターを担当していた。
ポワロの「教会のネズミのように音を立てないで (we must be quiet as a chapel mouse)」という台詞は、「とても静かな」という意味の quiet as a mouse と、「ひどく貧乏な」という意味の poor as a church mouse とをポワロが混同したものである。
殺し屋との格闘の際、殺し屋があげるうめき声は日本語音声も原語音声も同一のもの。「消えた廃坑」での悲鳴同様、これは BGM や効果音と分離できないトラックに入っていたものと思われ、それらとの音量バランスの都合か、日本語音声ではポワロやヘイスティングスの声よりも音量が小さくなっている。また、ポワロが殺し屋からナイフをもぎ取ろうと「よこせ」と言ったところは、原語だと 'Allez. (今です)' という表現で、殺し屋に襲いかかるタイミングをヘイスティングスに合図している。ただ、 allez の発音は本来 /ale/ なのだが、語末に「エ」の音が来ることのない英語の癖を受けて、 /aleɪ/ と発音されてしまっている。そして、銃を奪われたあとも、原語音声ではポワロが 'Be careful, Hastings! (気をつけて、ヘイスティングス!) Allons-y! (行きましょう!)' と言うが、なぜか日本語ではヘイスティングスが「ピストルを取られた! 早く追いましょう!」と言っており、台詞のタイミングも異なる。状況説明などのために日本語音声で台詞が補われたり、あるいは別の内容に変えられたりすることはしばしばあるが、このように別の人物の台詞に置き換えられることはめずらしい。また、〈ブラックキャット〉に警察が踏み込む際、ジャップ警部が「ようし、行こう」と言ったあとに「行こう (Come on, lads.)」と言うのも、日本語だとバート捜査官の声だが、原語ではジャップ警部の部下の巡査部長の台詞で、 lads という部下への呼びかけもイギリス風である。
冒頭の映画館は1929年オープンの、ブリクストンにあったアストリア劇場(現 O2 アカデミー・ブリクストン)[7]。ナイトクラブ〈ブラックキャット〉の入り口がある建物も実は O2 アカデミー・ブリクストンで、前の通りは同横手のアストリア・ウォーク。しかし、〈ブラックキャット〉の楽屋やその前の廊下は、「二重の罪」でジャップ警部が講演をしたウィットコム女子大ホールと同じ、ラングドン・ダウン・センターのノーマンズフィールド・シアターで撮影された。「安いマンション」ことカムデン・ヒル・ゲートは前述のとおりケンジントンに実在するマンションだが、6号室前の廊下の壁に設えられたオブジェは、「24羽の黒つぐみ」で、ホワイトヘイブン・マンションのポワロの玄関の向かいの壁に設置されていたのと同じもので、1階廊下以外の内部はスタジオ内セットと見られる。ジャップ警部たちがイタリア大使館の張り込みをしていたのはセント・ジェームス・パークの北にあるセント・ジェームス・スクエアだが、大使館として映される建物は本物ではなく、実際のイタリア大使館は、そこよりすこし北西のスリー・キングス・ヤードにある。また、そのすこし前にヘイスティングスがパーカーと歩いていた公園も同じセント・ジェームス・スクエアで、画面奥には「イタリア大使館」も映っているが、後の場面ではイタリア国旗が(実は奥のほうは上下逆さまに)下げられているポールに何も下がっていないのは、早朝ゆえか、それとも別の場所という設定なのだろうか。なお、バート捜査官に占拠されたジャップ警部のオフィスの黒板に書かれたイタリア大使館周辺の地図は、地名なども含めて実際のセント・ジェームス・スクエア周辺をほぼそのまま描写している。
ロビンソン夫人役のサマンサ・ボンドは、ジョーン・ヒクソン主演の「ミス・マープル」では「予告殺人」のジュリア・シモンズ役、ジュリア・マッケンジー主演の「ミス・マープル4」では「なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?」のシルビア・サベッジ役を演じているほか、ピアース・ブロスナン主演「007」シリーズのマネーペニー役としても知られる。
〈ロビンソン夫妻〉をつけ狙う殺し屋の声を演じた青森伸さんは、エイドリアン・レスター主演「華麗なるペテン師たち」シリーズの「庶民の敵」に出演したフィリップ・ジャクソンの吹替も担当している。
ハイビジョンリマスター版では、スコットランド・ヤードの外観が映るカットに「ロンドン警視庁」という字幕が追加された。
冒頭の映画館の2階天井に蛍光灯らしき照明が見えるが、蛍光灯の商業生産が始まったのは1937年のことで、劇中の厳密な時期は不明ながら、おそらくわずかに時代に合わない。
ロビンソン夫妻がカムデン・ヒル・ゲートで出会った女性が立ち去りかけて振り返った際、玄関のガラスドアの向こうを、おそらく現代の通行人と自動車が横切るのが見える。また、ヘイスティングスが殺し屋を追いかけてマンションから駆け出す際には、玄関のドアの横に、おそらくは現代の電子錠の操作盤をマスキングした白い箱が見え、その傍らの植木も、建物正面からの撮影時にそれを隠すために置かれたと推察される。加えて、ミス・レモンが〈ブラックキャット〉にタクシーで乗りつける場面では、壁面に設置された監視カメラが映ってしまっている。また、その同じ場面と、〈ブラックキャット〉前でジャップ警部が待っているところへポワロたちがやってくる場面では、画面奥を現代の自動車のバックライトが横切るのが見える。
ニューヨークの場面のセットはいくら何でも……ねえ。ひょっとして、劇中当時の映画セットの雰囲気を出そうという演出意図なのかしらん。
» 結末や真相に触れる内容を表示
公園でポワロが「不動産屋の言ったロビンソン夫人の特徴は、わたしたちの知っているロビンソン夫人とちがいます」と言うが、不動産屋がロビンソン夫人の特徴に言及した場面は事前になく、話が食いちがったのはロビンソン夫妻の入居時期だけである。脚本段階ではロビンソン夫妻の特徴を確認するやりとりでもあって、それが編集でカットされたのだろうか。ちなみに、原作のエルサ・ハート(カーラ・ロメロという別名義はドラマオリジナルの設定)はロビンソン夫人と外見的特徴(というか、金髪で、かつ特段の特徴がないこと)が一致しており、名前と特徴が一致する借り手が現れるのを待っていた。
クラブでのカーラ・ロメロの逮捕や殺し屋の襲撃に際して、冒頭の映画を踏まえてジャップ警部が「映画とはちがうんですよ!」と言ったり、またポワロが「私はアメリカのギャング映画の真似をするつもりはありません。スクリーンでもう十分見ましたからね」と言ったりするのは、日本語音声のみの趣向。原語だとこれらはそれぞれ 'What do you think you're playing at? (いったい何の真似ですか?)' 'I have no time for these so-called mobsters of America. (こんな、いわゆるアメリカのギャングの相手をしている暇はありません) I have seen enough of this charade. (この茶番劇はもう十分見ましたからね)' という表現で、冒頭の映画で描かれたようなギャングの一般的なイメージを踏まえてはいるものの、映画との直接の対比はない。また、その襲撃を脱したあと、ポワロが「ヘイスティングス、君をびっくりさせて悪かったですね」と謝る台詞は、原語だと 'So, Hastings, never will you trust your old friend, eh? (ヘイスティングス、君は長年の友だちを信用しないんですか?)' とヘイスティングスをやんわり責めるもので、日本語のほうがヘイスティングスに対するポワロの態度がマイルドになっている。なお、原語の台詞は、原作とほぼ同じ表現である。
ロビンソン夫妻の家に盗難の被害がなくて済んだ理由について、ポワロが「ヘイスティングスが気づいてくれたおかげですよ。ゴミ出し用のドアをいじった形跡に気がつかなかったら……」と言うが、ひらいたドアを見つけたのはヘイスティングスだとしても、その前に物音に気づいたのはロビンソン夫人だし、ヘイスティングスはドアの錠をかけただけだし、結局ポワロの細工でゴミ出し用のドアは開けられていたし(そのあとにポワロが細工を元に戻し、ロビンソン夫妻には細工のあったことに気づかれていないのかもしれないけど)、侵入者が表のドアから入ってきたことはロビンソン夫妻も知っているはず。原語だとポワロの台詞の後半は 'Because if he had not noticed that the door for the dustbins had been tampered with... (ゴミ出し用のドアをいじっているのに気がつかなかったら……)' という表現で、「形跡に気がついた」というニュアンスはないのだが、それにしてもポワロの論理はよくわからない。キッチンからの侵入を阻止されたために泥棒が表から入らざるをえず、それで物音を立てる羽目になって逃走したので被害がなかった、ということだろうか。
- [1] 1936 | Oscars.org | Academy of Motion Picture Arts and Sciences
- [2] AFI|Catalog
- [3] Bonnie and Clyde — FBI
- [4] The FBI and the American Gangster, 1924-1938 — FBI
- [5] アンソニー・サマーズ (訳: 水上峰雄), 『大統領たちが恐れた男―FBI長官 フーヴァーの秘密の生涯』, 新潮社, 1995, pp. 261-277
- [6] Chantoosie | Definition of Chantoosie by Oxford Dictionary on Lexico.com also meaning of Chantoosie
- [7] O2 Academy Brixton in London, GB - Cinema Treasures
ロケ地写真
カットされた場面
日本
オリジナル版
[02:21/0:10] | ポワロら3人が映写室から出てくる直前の映画館のロビー |
[05:59/1:20] | パーティー翌朝のポワロ、ヘイスティングス、ミス・レモンの会話 |
[16:11/1:23] | ヘイスティングスがロビンソン夫妻の注意を引きつけている場面 |
[21:32/0:37] | ポワロがブラックキャットを訪ねる場面の前半 |
[25:09/0:31] | ミス・レモンとバーニー・コールの会話 |
[27:23/0:09] | 夜のカムデン・ヒル・ゲート外観 |
ハイビジョンリマスター版
なし映像ソフト
- [VHS, LD] 「名探偵ポアロシリーズ Vol.4 ダヴンハイム失踪事件, 安アパート事件」(字幕) ハミングバード
- [VHS] 「名探偵エルキュール・ポアロ 第19巻 安アパート事件」(字幕) 日本クラウン
- [DVD] 「名探偵ポワロ 9 二重の罪, 安いマンションの事件」(字幕・吹替) ビームエンタテインメント(現ハピネット・ピクチャーズ)※1
- [DVD] 「名探偵ポワロ [完全版] 9 二重の罪, 安いマンションの事件」(字幕・吹替) ハピネット・ピクチャーズ※2
- [DVD] 「名探偵ポワロ DVDコレクション 41 安いマンションの事件」(字幕・吹替) デアゴスティーニ・ジャパン※3
- [BD] 「名探偵ポワロ Blu-ray BOX Disc 5 二重の罪, 安いマンションの事件, 誘拐された総理大臣, 西洋の星の盗難事件」(字幕/吹替) ハピネット・ピクチャーズ※4
- ※1 「名探偵ポワロ DVD-BOX1」にも収録
- ※2 「名探偵ポワロ [完全版] DVD-BOX1」「名探偵ポワロ [完全版] 全巻 DVD-SET」「名探偵ポワロ [完全版] DVD-SET 3」にも収録
- ※3 吹替は大塚智則さん主演の新録で、映像もイギリスで販売されているDVDと同じバリエーションを使用
- ※4 「名探偵ポワロ Blu-ray BOX vol. 1」に収録
同原作の映像化作品
- [アニメ] 「アガサ・クリスティーの名探偵ポワロとマープル 第2話 安マンションの謎」 2004年 監督:高橋ナオヒト 出演:里見浩太朗、折笠富美子、野島裕史、屋良有作、田中敦子