ミューズ街の殺人
Murder in the Mews

放送履歴

日本

オリジナル版(45分00秒)

  • 1990年01月13日 22時00分〜 (NHK総合)
  • 1991年07月28日 15時10分〜 (NHK総合)
  • 1992年04月06日 17時05分〜 (NHK総合)
  • 1998年09月30日 15時10分〜 (NHK総合)
  • 2003年05月07日 18時00分〜 (NHK衛星第2)

ハイビジョンリマスター版(50分00秒)

  • 2015年10月31日 16時00分〜 (NHK BSプレミアム)
  • 2016年04月13日 17時00分〜 (NHK BSプレミアム)
  • 2020年04月11日 17時10分〜 (NHK BSプレミアム)
  • 2021年10月12日 09時00分〜 (NHK BS4K)
  • 2022年01月25日 13時00分〜 (NHK BS4K)
  • 2022年06月15日 21時00分〜 (NHK BSプレミアム・BS4K)
  • 2022年09月17日 24時50分〜 (NHK BSプレミアム)
  • エンディング後半の画面左部に次回の放送案内の字幕表示あり

海外

  • 1989年01月15日 (英・ITV)

原作

邦訳

  • 「厩舎街の殺人」 - 『死人の鏡』 クリスティー文庫 小倉多加志訳
  • 「厩舎街の殺人」 - 『死人の鏡』 ハヤカワミステリ文庫 小倉多加志訳
  • 「厩舎街の殺人」 - 『死人の鏡』 創元推理文庫 宇野利泰訳

原書

雑誌等掲載

  • Murder in the Mews, Redbook Magazine, September/October 1936 (USA)
  • Mystery of the Dressing Case, Woman's Journal, December 1936 (UK)

短篇集

  • Murder in the Mews, Murder in the Mews, Collins, March 1937 (UK)
  • Murder in the Mews, Dead Man's Mirror, Dodd Mead, June 1937 (USA)

オープニングクレジット

日本

オリジナル版

名探偵ポワロ / AGATHA CHRISTIE'S POIROT / DAVID SUCHET // HUGH FRASER / PHILIP JACKSON / ミューズ街の殺人, MURDER IN THE MEWS / Dramatized by CLIVE EXTON

ハイビジョンリマスター版

名探偵ポワロ / DAVID SUCHET / AGATHA CHRISTIE'S POIROT / ミューズ街の殺人 // HUGH FRASER / PHILIP JACKSON / PAULINE MORAN / MURDER IN THE MEWS / Dramatized by CLIVE EXTON

エンディングクレジット

日本

オリジナル版

原作 アガサ・クリスティー 脚本 クライブ・エクストン 監督 エドワード・ベネット 制作 LWT(イギリス) / 出演 ポワロ(デビッド・スーシェ) 熊倉一雄 ヘイスティングス(ヒュー・フレイザー) 富山 敬 ジャップ警部(フィリップ・ジャクソン) 坂口芳貞 ミス・レモン 翠 準子  ジェーン 鈴木弘子 ウェスト下院議員 小川真司  麦  人 仲木隆司 京田尚子 秋元羊介 浪川大輔 ならはしみき 合野琢真 / 日本語版 宇津木道子 山田悦司

ハイビジョンリマスター版

原作 アガサ・クリスティー 脚本 クライブ・エクストン 演出 エドワード・ベネット 制作 LWT (イギリス) / 出演 ポワロ(デビッド・スーシェ) 熊倉 一雄 ヘイスティングス(ヒュー・フレイザー) 富山 敬/安原 義人 ジャップ警部(フィリップ・ジャクソン) 坂口 芳貞 ミス・レモン(ポーリン・モラン) 翠 準子  ジェーン 鈴木 弘子 ウェスト下院議員 小川 真司  麦 人 仲木 隆司 京田 尚子 秋元 羊介 浪川 大輔 ならはし みき 合野 琢真 飯島 肇  日本語版スタッフ 翻訳 宇津木 道子 演出 山田 悦司 音声 金谷 和美 プロデューサー 里口 千

海外

オリジナル版

Hercule Poirot: DAVID SUCHET; Captain Hastings: HUGH FRASER; Chief Inspector Japp: PHILIP JACKSON; Miss Lemon: PAULINE MORAN; Jane Plenderleith: JULIETTE MOLE; Laverton West: DAVID YELLAND; Major Eustace: JAMES FAULKNER; Mrs. Pierce: GABRIELLE BLUNT; Div. Insp. Jameson: JOHN CORDING; Dr. Brett: BARRIE COOKSON; Golfer: CHRISTOPHER BROWN; Barman: BOB BRYAN; Maid: BECCY WRIGHT; Freddie: NICHOLAS DELVE; Singer: MOYA RUSKIN / Developed for Television by Picture Partnership Productions / (中略) / Production Designer: ROB HARRIS / Director of Photography: IVAN STRASBURG / Music: CHRISTOPHER GUNNING / Executive Producers: NICK ELLIOTT, LINDA AGRAN / Producer: BRIAN EASTMAN / Director: EDWARD BENNETT

あらすじ

 ガイ・フォークス・デイの夜、こんな晩なら銃声が花火の音にまぎれてしまうので殺人にはもってこいだとヘイスティングスは言う。その翌日、実際に女性が射殺体で発見され、自殺と思われたが、状況に不審な点が……

事件発生時期

1935年11月上旬

主要登場人物

エルキュール・ポワロ私立探偵
アーサー・ヘイスティングスポワロの探偵事務所のパートナー、陸軍大尉
ジェームス・ジャップスコットランド・ヤード主任警部
フェリシティ・レモンポワロの秘書
バーバラ・アレンミューズ街在住の未亡人、射殺体で発見
ジェーン・ブレンダーリースアレン夫人の同居人、女性カメラマン
チャールズ・レイバトン・ウェストアレン夫人の婚約者、下院議員
ロバート・アースキン・ユースタスアレン夫人の知人、陸軍少佐
フレッド・ホッグミューズ街在住の少年、愛称フレディ

解説、みたいなもの

 本国イギリスでは第2話として放送されたこのエピソードが、日本では第1話に持ってこられた。比較的原作に忠実なつくりだが、原作には登場しないヘイスティングスやミス・レモンがさっそく登場し、車とゴルフが好きなヘイスティングスとそれに興味のないポワロ、決して姿を見せないジャップ夫人といった、今後たびたび見られるモチーフが展開される。おそらくはそうした要素が、巧みなミスリードによる意外な真相とあわせ、このドラマシリーズの顔見せとして適切と判断されたのだろう。この「ミューズ街の殺人」のプロットは別のポワロ物の短篇「マーケット・ベイジングの怪事件」をふくらませたもので、本作の原作にはヘイスティングスは登場しないが、「マーケット・ベイジングの怪事件」には登場していた。
 11月5日のガイ・フォークス・デイについては、日本語音声でのみ冒頭で解説されているように、1605年の「火薬陰謀事件」で国会爆破をもくろんだ実行犯のガイ・フォークスが捕らえられた記念日。当時は国王ジェームス一世によってカトリックやピューリタンが弾圧されており、これに対してカトリック過激派のロバート・ケイツビーらが国会議事堂を爆破する計画を立てた。こうした事件の事情が、「罪悪か、それとも気高い行為かね?」というポワロの台詞の背景になっている。現在にはお祭りの日として残っており、子供たちはガイ・フォークス・デイに向けてガイ・フォークスの人形を引きまわし、「ガイに1ペニーください」と言って小銭を集め、最後の夜には人形を火あぶりにして花火をあげる(本篇開始直後に燃えているのがガイの人形であり、子供たちが小銭を集める様子は、子供たちの嘘ではあるけれど「二重の罪」で見ることができる)。また、日本語では同時にポワロがベルギー人であることにも触れられており、日本人にはなじみが薄いであろうガイ・フォークス・デイの説明と一緒に、ポワロの設定についても明示的に言及しておく意図があったと思われる。なお、その台詞は、オリジナル版だと「ベルギー人のわたしにもよくわかりませんなあ」となっていたのが、ハイビジョンリマスター版では「ベルギー人のわたしにはよくわかりませんなあ」に変わった。
 11月にしては劇中の木々の葉が蒼々としているが、撮影順では「コックを捜せ」「ジョニー・ウェイバリー誘拐事件」につづく3番目の作品だったそうで[1]、撮影時期は1988年の7月ないしは8月頃と思われる。撮影開始から数週間が経ち、デビッド・スーシェとヒュー・フレイザーやフィリップ・ジャクソンのあいだには絆が築かれつつあったといい[1]、劇中のポワロとジャップ警部の間柄も、撮影順に見るとだんだん捜査のパートナーかつ個人的な友人としての側面が強くなっていくのを感じさせる。
 ハイビジョンリマスター版ではバーズリー・ガーデン・ミューズの看板が映るのにあわせて「きゅう舎ミューズ街」という字幕が追加されているように、ミューズ街の「ミューズ (mews)」とはもともと立ち並んだうまやのこと。転じて、えてして住宅の裏側に配置された厩から表通りまでの路地を言い、現在では厩を改造したスタイルのフラットが並ぶ。劇中のバーズリー・ガーデン・ミューズもそうであるように、しばしばその入り口にはアーチがかかり、路面にはやや凹凸のある細かな石畳が敷きつめられている。
 冒頭でヘイスティングスが「二人して足引っ張るんですから」と言うが、「足を引っ張る」の原語 pull one's leg は「からかう」、「ばかにする」の意。おそらくはポワロの「でも、そーっと引っ張ってますよ」につなげるために逐語訳したと思われるが、日本語の「足を引っ張る」には別の慣用的意味があるので、ここは「あげ足をとる」とでも訳した方がよいのではないかしら。なお、「西洋の星の盗難事件」でジャップ警部がポワロに言う 'You're pulling my leg.' は、原語の字義的な表現にはこだわらず、「ごまかさんでくださいよ」と訳されている。
 劇中の台詞によると、通報を受けて警官がアレン夫人の遺体を発見したのは10時45分。ポワロが11時に予約した歯医者へ出かけるまでのあいだに、警官が状況に不審を抱き、ジャップ警部に連絡が行って、そこからポワロに電話が来るのはだいぶ駆け足に思える。なお、遺体の発見時刻は原作どおりなのだが、ポワロの歯医者の予定はドラマオリジナルの要素で、原作だとポワロが電話を受けたのは11時30分のことだった。
 ポワロとジャップ警部が遺体発見現場を調べる場面の最後、ジャップ警部が「鍵さえあればためらいなく自殺と断定しますよ」と言った直後に、死んでいるはずのアレン夫人の左手の小指が動くのが見える。また、謎解きの途中で遺体が映る場面では、捜査中と違って遺体が目を開けているほか、姿勢もすこし異なる。
 アレン夫人の同居人のジェーンの名字を、日本語ではジャップ警部が「ブレンダーリース」と言うが、原語は原作どおりに Plenderleith (プレンダーリース) である。また、アレン夫人の婚約者であるチャールズ・レイバトン・ウェスト下院議員のことを、日本語ではレイバトンをミドルネームと見なしたのか「ウェスト下院議員」と呼ぶことがあり、クレジットの誤りを複数修正しているハイビジョンリマスター版のエンディングでもそのように表記されているが、原作によればレイバトン・ウェストは Laverton-West とハイフンで結んだひとつながりの名字(複合姓)である。 Agatha Christie's Poirot のエンディングでは Laverton West とスペースで分かち書きされているが、複合姓のつなぎ方に厳密なルールはなく、劇中の原語音声でも常に Mr Laverton West などとつなげて呼ばれており、やはり Laverton West で一つの名字として扱われている。
 チャールズ・レイバトン・ウェストが議員を務める英下院は庶民院で、その議員は非貴族の候補者に対する普通選挙で選ばれており、劇中の1935年時点ですでに女性を含めた21歳以上の非貴族全員に選挙権と被選挙権があった。一方の上院は貴族院で、原則として世襲貴族が終身議員を務めた。
 ジャップ警部がフレディに6ペンスのお駄賃をあげようとしたところ、1シリングにしてもらえないかと言われる場面があるが、シリングとは1971年まで使われていた古い通貨単位で、12ペンスで1シリングだった。つまり、フレディは倍額をねだったことになる。なお、当時の1ポンドは20シリング(240ペンス)で、現在は100ペンスである。
 ウェスト議員のオフィスへ向かうタクシーが交差点を曲がる際、撮影を見物する現代の人たちが車体に映り込んでいる。
 ポワロからお悔やみを言われてウェスト議員が言った「まあ、歯を食いしばって耐えるしかなさそうだ」という台詞は、原語だと 'Uh, stiff upper lip, you know. That's the British way. (まあ、口を固く結ぶ、それがイギリス流だよ)' という表現で、実際、この stiff upper lip (上唇に力を込める、口を固く結ぶ) という表現は、つらいときにもそれを表に出すべきではないと考えるイギリス人の典型的な美意識を表す言葉とされている。
 ハイビジョンリマスター版でのみ描かれる、ポワロの頼むクリーニング屋が中国人であるという設定は、当時の在英中国人が多く洗濯業に従事していた史実を反映している。在英中国人の主要な職業は、「消えた廃坑」で描かれるチャイナタウンが港近くにあったように、かつては海運関連であったが、海運業の衰退によって20世紀初頭から洗濯業への移行が進み、1920年代の初めには最も従事者の多い職業になっていた。1931年には、ブリテン島全土で500から800軒の中国系クリーニング店があったという。[2]なお、ポワロのカラーを駄目にするクリーニング屋という要素は、本作ではなく「夢」の原作に登場するが、その経営者が中国人と明言されるのはドラマオリジナルである。
 ユースタス少佐の店で歌手が歌っているのは 'Hindustan' と 'Pagan Love Song' という歌である。
 ヘイスティングスが「殺人にはもってこい」だと話す場面が撮影されたのはチェスター・ゲートで、花火を打ち上げていた画面奥はリージェンツ・パーク。その殺人が実行されたバーズリー・ガーデン・ミューズは、劇中のようにチェスター・ゲートとは直接つながっていないが程近いケンブリッジ・ゲート・ミューズ。ウェスト議員の事務所外観はヘレン・ヘイズ主演「魔術の殺人」のガルブランドセン財団の2軒隣にあたるカールトン・ハウス・テラス8番地だが(ただし、「魔術の殺人」でミス・マープルがタクシーを下車する直前までは、一本南のザ・マルで撮影されている)、その屋内はカーゾン・ストリートにあるダートマス・ハウスのチャーチル・ルームで撮影されている。一方、後日聞き込みをしたスイミングプールはダートマス・ハウスに程近いランズダウン・クラブの屋内プールだが、クラブを出た場面でその外観に利用されているのは、カールトン・ハウス・テラスすぐ北側のウォータールー・プレースにあるアサニアム・クラブ。ジュリア・マッケンジー主演「ミス・マープル5」の「チムニーズ館の秘密」序盤の「ロンドンの高級クラブ」ことパル・マル・クラブの場面が撮影されたのは、このアサニアム・クラブ内である。
 ウェスト議員を演じたデビッド・イェランドは、「満潮に乗って」以降、最終回「カーテン ~ポワロ最後の事件~」まで、ポワロの執事のジョージを演じることになる。ジェーン・ブレンダーリースを演じるジュリエット・モールは、ジョーン・ヒクソン主演の「ミス・マープル」の一篇、「パディントン発4時50分」のアンナ・ストラビンスカ役、ピアス夫人を演じるガブリエル・ブラントは、フランセスカ・アニスとジェームス・ワーウィック主演の「秘密機関」のアニー役や、ジョン・ソウ主演の「主任警部モース」の一篇、「ニコラス・クインの静かな世界」のエバンズ夫人役でも見ることができる。また、ユースタス少佐を演じるジェームズ・フォークナーは、ジェレミー・ブレット主演の「シャーロック・ホームズの冒険」の一篇、「バスカビル家の犬」にステープルトン役で出演。
 ピアス夫人の吹替の京田尚子さんは、ヘレン・ヘイズ主演の「魔術の殺人」でミス・マープルの吹替を担当したほか、ジョーン・ヒクソン主演の「ミス・マープル」シリーズでもミス・マープルの追加吹替を担当した。
 » 結末や真相に触れる内容を表示
  1. [1] David Suchet and Geoffrey Wansell, Poirot and Me, headline, 2013, p. 58
  2. [2] Gregor Benton and Edmund Terence Gomez, The Chinese in Britain, 1800-Present: Economy, Transnationalism, Identity, Palgrave Macmillan, 2007, p. 89

ロケ地写真

カットされた場面

日本

オリジナル版

[00:39/0:02]舞い上がる火の粉
[00:55/0:02]たき火越しに映る人々
[01:10/0:03]PAULINE MORAN がクレジットされる前後
[15:59/2:29]ポワロがクリーニング屋に抗議の手紙を書く場面
[26:04/1:00]ユースタス少佐の店のステージで女性が歌を歌う場面
[33:01/0:53]ゴルフ場でポワロがゴルフをする場面の前半
  • 代わりに、直前のカットされた場面が挿入されている

ハイビジョンリマスター版

なし

映像ソフト

  • [VHS] 「名探偵ポアロシリーズ 厩舎街(ミューズ)の殺人, 夢」(字幕) TDK
  • [VHS] 「名探偵エルキュール・ポアロ 第35巻 厩舎(ミューズ)街の殺人」(字幕) 日本クラウン
  • [DVD] 「名探偵ポワロ 1 コックを捜せ, ミューズ街の殺人」(字幕・吹替) ビームエンタテインメント(現ハピネット・ピクチャーズ※1
  • [DVD] 「名探偵ポワロ [完全版] 1 コックを捜せ, ミューズ街の殺人」(字幕・吹替) ハピネット・ピクチャーズ※2
  • [DVD] 「名探偵ポワロ DVDコレクション 25 厩舎街の殺人」(字幕・吹替) デアゴスティーニ・ジャパン※3
  • [BD] 「名探偵ポワロ Blu-ray BOX Disc 1 コックを捜せ, ミューズ街の殺人, ジョニー・ウェイバリー誘拐事件, 24羽の黒つぐみ」(字幕/吹替) ハピネット・ピクチャーズ※4
  • ※1 「名探偵ポワロ DVD-BOX1」にも収録
  • ※2 「名探偵ポワロ [完全版] DVD-BOX1」「名探偵ポワロ [完全版] 全巻 DVD-SET」「名探偵ポワロ [完全版] DVD-SET 1」にも収録
  • ※3 吹替は大塚智則さん主演の新録で、映像もイギリスで販売されているDVDと同じバリエーションを使用
  • ※4 「名探偵ポワロ Blu-ray BOX vol. 1」に収録
2023年12月4日更新