戦勝舞踏会事件 The Affair at the Victory Ball
放送履歴
日本
オリジナル版(44分00秒)
- 1992年07月29日 20時15分〜 (NHK総合)
- 1994年03月02日 17時05分〜 (NHK総合)
- 1998年12月17日 15時10分〜 (NHK総合)
- 2003年07月17日 18時00分〜 (NHK衛星第2)
ハイビジョンリマスター版(49分00秒)
- 2016年05月14日 16時00分〜 (NHK BSプレミアム)
- 2016年10月19日 17時00分〜 (NHK BSプレミアム)
- 2020年10月17日 17時11分〜 (NHK BSプレミアム)※1
- 2021年11月18日 09時00分〜 (NHK BS4K)
- 2022年03月08日 13時00分〜 (NHK BS4K)
- 2022年12月21日 21時00分〜 (NHK BSプレミアム・BS4K)※2 ※3
- ※1 エンディング最後の画面下部に次回の放送時間案内の字幕表示(帯付き)あり
- ※2 BSプレミアムでの放送は、オープニング冒頭の画面左上にBS4K同時放送のアイコン表示あり
- ※3 エンディングの画面下部に次回の放送日案内の字幕表示(帯付き)あり
海外
- 1991年03月03日 (英・ITV)
原作
邦訳
- 「戦勝記念舞踏会事件」 - 『教会で死んだ男』 クリスティー文庫 宇野輝雄訳
- 「戦勝記念舞踏会事件」 - 『教会で死んだ男』 ハヤカワミステリ文庫 宇野輝雄訳
- 「戦勝舞踏会事件」 - 『ポワロの事件簿2』 創元推理文庫 厚木淳訳
原書
雑誌等掲載
- The Affair at the Victory Ball, The Sketch, 7 March 1923 (UK)
- The Affair at the Victory Ball, The Blue Book Magazine, September 1923 (USA)
短篇集
- The Affair at the Victory Ball, The Under Dog and Other Stories, Dodd Mead, 1951 (USA)
- The Affair at the Victory Ball, Poirot's Early Cases, Collins, September 1974 (UK)
オープニングクレジット
日本
オリジナル版
名探偵ポワロ / AGATHA CHRISTIE'S POIROT / DAVID SUCHET // HUGH FRASER / PHILIP JACKSON / PAULINE MORAN / 戦勝舞踏会事件, THE AFFAIR AT THE VICTORY BALL / Dramatized by ANDREW MARSHALL
ハイビジョンリマスター版
名探偵ポワロ / DAVID SUCHET / AGATHA CHRISTIE'S POIROT / 戦勝舞踏会事件 // HUGH FRASER / PHILIP JACKSON / PAULINE MORAN / THE AFFAIR AT THE VICTORY BALL / Dramatized by ANDREW MARSHALL
エンディングクレジット
日本
オリジナル版
原作 アガサ・クリスティー 脚本 アンドリュー・マーシャル 監督 レニー・ライ 制作 LWT(イギリス) / 出演 ポワロ(デビッド・スーシェ) 熊倉一雄 ヘイスティングス(ヒュー・フレイザー) 富山 敬 ジャップ警部(フィリップ・ジャクソン) 坂口芳貞 ミス・レモン 翠 準子 マラビー夫人 武藤礼子 デビッドソン 大塚明夫 ココ 加藤みどり ユースタス 家弓家正 デビッドソン夫人 島本須美 仲村秀生 牛山 茂 山本嘉子 西村知道 梅津秀行 藤城裕士 松岡洋子 辻󠄁 親八 / 日本語版 宇津木道子 山田悦司 福岡浩美 南部満治 金谷和美
ハイビジョンリマスター版
原作 アガサ・クリスティー 脚本 アンドリュー・マーシャル 演出 レニー・ライ 制作 LWT (イギリス) / 出演 ポワロ(デビッド・スーシェ) 熊倉 一雄 ヘイスティングス(ヒュー・フレイザー) 富山 敬/安原 義人 ジャップ警部(フィリップ・ジャクソン) 坂口 芳貞 ミス・レモン(ポーリン・モラン) 翠 準子 マラビー夫人 武藤 礼子/深水 由美 デビッドソン 大塚󠄀 明夫 ココ 加藤 みどり/松野 果音 ユースタス 家弓 家正/飯島 肇 デビッドソン夫人 島本 須美 仲村 秀生 牛山 茂 山本 嘉子 西村 知道 梅津 秀行 藤城 裕士 松岡 洋子 辻󠄁 親八 寺田 明正 船木 まひと うすい たかやす 日本語版スタッフ 翻訳 宇津木 道子 演出 山田 悦司 音声 金谷 和美 プロデューサー 里口 千
海外
オリジナル版
Hercule Poirot: DAVID SUCHET; Captain Hastings: HUGH FRASER; Chief Inspector Japp: PHILIP JACKSON; Miss Lemon: PAULINE MORAN; Viscount Cronshaw: MARK CROWDY; Eustace Beltaine: DAVID HENRY; Coco Courtney: HAYDN GWYNNE; Chris Davidson: NATHANIEL PARKER; Mrs Davidson: NATALIE SLATER; Mrs Mallaby: KATE HARPER; James Ackerley: ANDREW BURT; BBC Announcer: CHARLES COLLINGWOOD; Second Actor: BRIAN MITCHELL; Receptionist: SARAH CROWDEN; Butler: BRYAN MATHESON; Stunts: STEVE WHYMENT / Developed for Television by Carnival Films / (中略)Assistant Directors: EDWARD BRETT, ADAM GOODMAN, GILLY RADDINGS; Production Manager: KIERON PHIPPS; Production Co-ordinator: MONICA ROGERS; Accounts: JOHN BEHARRELL, PENELOPE FORRESTER; Locations: PAUL SHERSBY, SCOTT ROWLATT; Script Supervisor: SAM DONOVAN; Camera Operator: STEVEN ALCORN; Focus Puller: HUGH FAIRS; Clapper/Loader: ASHLEY BOND; Grip: JOHN ETHERINGTON; Boom Operator: MARTIN TREVIS; Sound Assistant: RICHIE FINNEY; Gaffer: JOHN HUMPHREY; Art Director: CAROLINE SMITH; Set Dresser: CHRYSOULA SOFITSI; Production Buyer: DAVID BORDEWEY; Property Master: MICKY LENNON; Construction Manager: LES PEACH; Wardrobe: JOHN SCOTT, KIRSTEN WING, VERNON WHITE, NIGEL EGERTON; Assistant Costume Designer: MICHAEL PRICE; Make up Artists: KATE BOWER, PATRICIA KIRKMAN; First Assistant Editor: NIGEL PARKES; Dubbing: ALAN KILLICK, JOHN DOWNER, RUPERT SCRIVENER; Post Production Supervisor: DEREK BAIN; Panaflex 16(R) Camera by Panavision(R); Grip Equipment by Grip House Ltd; Lighting & Generators by Samuelson Lighting Ltd; Made at Twickenham Studios, London, England; Costume Designer: ELIZABETH WALLER; Make up Supervisor: HILARY MARTIN; Sound Recordist: PETER GLOSSOP; Choreographer: CHRISTOPHER WREN; Dance Band Arrangements: NEIL RICHARDSON; Titles: PAT GAVIN; Casting: REBECCA HOWARD; Production Supervisor: DONALD TOMS; Editor: FRANK WEBB / Production Designer: MIKE OXLEY / Director of Photography: NORMAN LANGLEY / Music: CHRISTOPHER GUNNING / Executive Producer: NICK ELLIOTT / Producer: BRIAN EASTMAN / Director: RENNY RYE
あらすじ
ポワロとヘイスティングスも参加した戦勝記念の仮面舞踏会の食堂で、富裕なクロンショー卿が殺害されて発見された。卿は死の直前に婚約者のココ・コートニーと口論をしていたが、翌朝、彼女もまたコカインの多量服用で死んでいた……
事件発生時期
1935年11月上旬 ~ 中旬
主要登場人物
エルキュール・ポワロ | 私立探偵 |
アーサー・ヘイスティングス | ポワロの探偵事務所のパートナー、陸軍大尉 |
ジェームス・ジャップ | スコットランド・ヤード主任警部 |
フェリシティ・レモン | ポワロの秘書 |
クロンショー卿 | 富裕な子爵、愛称クロンチ、アルレッキーノ |
ココ・コートニー | 女優、クロンショー卿の婚約者、コロンビーナ |
ユースタス・ベルテン | クロンショー卿の叔父、パンチネルロ |
マラビー夫人 | アメリカ人の未亡人、プルチネッラ |
クリストファー・イアン・デビッドソン | ココの俳優仲間、愛称クリス、ピエロ |
デビッドソン夫人 | クリストファーの妻、ピエレット |
ジェームズ・アカリー | BBC のプロデューサー、ヘイスティングスの友人 |
解説、みたいなもの
原作の小説は発表順で言うとポワロ物で最初の短篇で、『ザ・スケッチ』紙の1923年3月7日号に掲載された。長篇第2作の「ゴルフ場殺人事件」原作の刊行は1923年5月であり、原作では、本作は「スタイルズ荘の怪事件」につづくポワロ物第2作ということになる。第一次大戦の戦勝を記念した舞踏会という事件現場の設定も、ドラマの舞台である1930年代より、その原作発表当時の時代背景を色濃く反映したもの。しかし、例のごとく事件の最初からポワロが関わり事件の現場にもいあわせる点、最後の謎解きがラジオ番組の中で行われる点以外は、比較的原作に忠実にドラマ化されている。ただし、原作でなぞめかして提示された、被害者の遺体の不自然な死後硬直については、被害者の拳から当初ポンポンを見つけられなかった理由としてさらりと触れられるだけに終わる。
第一次大戦の終戦は1918年11月11日。イギリスではこの11月11日に最も近い日曜日を Remembrance Sunday などと呼び、毎年、戦没者追悼の儀式が行われる。しかし、劇中の「勝利を祝う瞬間」は、11月9日土曜日午前0時である。
クロンショー卿一行の仮装の出典であるハーレクイネードについては冒頭でポワロが簡単に説明しているように、イタリアの古喜劇コメディア・デラルテに端を発し、イギリスで18世紀頃に流行した古典的なお伽芝居。コメディア・デラルテは決まった型のある登場人物たちが仮面をつけて演じる即興劇で、16世紀中頃にイタリアで発祥した。一方、作中に登場する、そのハーレクイネードの6人の登場人物をかたどった陶器人形は、クリスティーが子供のころ母親の煖炉の上に飾られていたという、ドレスデン製のセットがモデルになっていると見られる。そのセットは長くクリスティーを魅了し、少女時代にはその登場人物たちを題材に複数の詩をものして、そのうちの 'Harlequin's Song (アルレッキーノの歌)' という一篇は Poetry Review 誌に採録され、彼女にとって初めて出版された作品となった。[1]主役のアルレッキーノ(英語ではハーレクイン)は、短篇集『謎のクィン氏』などで活躍するハーリ・クィン氏のモデルにもなっているが、このシリーズは書きたいと思ったときだけに書きたいとして連載申し入れを断っていたことがあるほどで、クリスティーの思い入れの強さが窺える[2]。そのアルレッキーノについて、日本語では「人間の眼には見えない不思議な妖精」などと説明されるが、原語だと 'the magical sprite who can become invisible (姿を消せる魔法の妖精)' などの表現で、常時姿が見えないわけではない。撮影に使われた陶器人形のセットは、撮影終了後デビッド・スーシェに贈られ、2013年現在も彼が所持しているという[3]。
クロンショー卿が言及する「カワード」とは、劇作家・作曲家・俳優・歌手などとして多彩に活躍し、当時大人気を博していたノエル・カワードのことと見られる(が、本当に「哀れフン族よ、楽しみより戦火を好む」と言ったかは不明)。カワードについては「二重の罪」の原語音声においても、ジャップ警部が講演中に言及していたほか、ポワロの吹替を務める熊倉一雄さんも、所属劇団テアトル・エコーにおいて、カワードの戯曲『陽気な幽霊』を演出して上演したことがある。
ヘイスティングスが仮装した「怪傑紅はこべ」の出典は、〈隅の老人〉シリーズの著者としても知られるバロネス・オルツィの冒険小説『紅はこべ』。一方、アカリーのアラビア風の仮装に対してポワロが「アラビアのアカリーですね?」と言う場面があるが、アラブ独立運動を指導したイギリス軍将校トーマス・エドワード・ロレンスの人生を描いた映画「アラビアのロレンス (Lawrence of Arabia)」の公開は1962年であり、その題名を意識した発言とすれば時代に合わない。原語だとポワロの台詞は 'The Sheikh of Ackerley, I presume? (アカリー首長ですね?)' という表現で、映画の題名とは関係がない。
ココがクロンショー卿にユースタスを紹介されて「遊び人の叔父さまね」と言う台詞は、原語だと 'Dishonourable, I heard.' と言っており、これはユースタスの称号 the Honourable にかけたもの。 The Honourable は伯爵の次男以下の子息や、子爵・男爵の子につけられる敬称だが、 honourable はもともと「立派な」「尊敬すべき」という意味の形容詞で、その否定形である dishonourable が日本語のような意味になるのである。なお、イギリスの世襲貴族は原則として男系男子が爵位と資産を継承するため、独身のクロンショー卿の死後は、その父の弟と見られるユースタスが新しいクロンショー子爵となる。また、イギリス貴族の爵号は姓と別のものなので、ユースタスはその姓を維持したままクロンショー卿となり、現クロンショー卿もその姓はベルテンと見られる。しかし、冒頭にはユースタスがクロンショー卿に「クロンショー!」と呼びかける場面があり、叔父が甥を爵号で呼ぶものかしらん。
ハイビジョンリマスター版でアカリーがポワロにぼやく「まったく今日はココ・コートニーのおかげで時間どおりに番組を放送できないかとひやひやしました」という台詞は、原語だと 'I was so afraid I wasn't going to make it here on time, thanks to the antics of Coco Courtney. (ココ・コートニーのおかげで遅刻するんじゃないかとひやひやしました)' という表現で、アカリーが心配したのは舞踏会の約束に遅れること。実際、アカリーはココの到着前に番組を開始している。
舞踏会場に現れたクロンショー一行の様子をポワロが見守っているとき、原語ではココがクロンショー卿に言う 'Don't be such a bore. (つまらないことをいわないで)' という台詞や、ユースタスとココのあいだの 'Coco. (ココ)' 'Can I sit down next to you, darling? (お隣にすわってもいいかしら?)' というやりとりが小さく聞こえているが、日本語には対応する台詞がない。また、ポワロに飲み物を持ってきたお礼を言われてアカリーが 'My pleasure. (どういたしまして)' と応える台詞も日本語では落とされている。
事件発覚後に呼ばれたジャップ警部が言う「400人が浮かれ騒いでいる鼻っ先で貴族を刺し殺す。これは簡単にはホシは挙がらんでしょうな」の後半部は、原語だと 'We'll need the Albert Hall to gather the suspects on this one. (今回の容疑者を集めたらアルバート・ホールが必要ですな)' という表現で、アルバート・ホールことロイヤル・アルバート・ホールはロンドンのハイド・パークの南に位置する歌劇場。そのキャパシティは7000人以上で、舞踏会の参加者以外にスタッフや外部犯の可能性を考慮したとしても、警部は相当大げさに表現している。なお、ジャップ警部を演じるフィリップ・ジャクソンも、出演した映画「ブラス!」のクライマックスでロイヤル・アルバート・ホールの舞台に立ち、吹奏楽の演奏を披露したことがある。その建物は、このドラマシリーズでも「負け犬」や「ひらいたトランプ」の背景に映っているのが見られる。
事件翌朝にポワロのマンションの外観が映る場面は、実際の地理に照らすと影が南西から伸びており、午後に撮影されたものである。またハイビジョンリマスター版だと、画面下方の車や通行人はなめらかに動いているのに、画面右側でそよぐ木の葉は動きがかくつく。
ハイビジョンリマスター版で、事件翌朝にポワロが読んでいた新聞を見てミス・レモンが「ヘイスティングス大尉は写真写りがいいんですね」と言ったところは、原語だと 'It's a very good photo of Captain Hastings. (ヘイスティングス大尉のとてもいい写真ですわね)' という表現で、写真写り一般ではなくその写真がよく撮れていると言っている。それにしても、ヘイスティングスとポワロのうしろにはジャップ警部らしき人物も写っているが、その写真写りはさすがに……
事件翌朝、ポワロが放送局へ出かけるときに聞こえるラジオドラマの台詞は、日本語だと「ああ、あの時計…… どうしてちゃんと直さないの? あなたに指図するつもりはなかったの」「ロレッタ、それは……」「女はそういうことに敏感なのよ」というやりとりだが、原語だと 'Oh, that damnable clock, why? (ああ、あの進んだ時計) ...' 'Letty, what do you mean? (ロレッタ、何が言いたいんだ?)' 'I mean you weren't here when I had a walk, were you? (わたしが散歩しているとき、あなたはここにいなかった。ちがう?)' という会話で、「死のアリバイ」というその題名のとおり、主役のロレッタがアリバイに関する気づきを得た場面だった。
放送局を訪ねたポワロが受付の女性に「バラエティのオーディションは火曜日なんですけど」と言われてしまうが、彼女はポワロの名刺に目をやっており、「西洋の星の盗難事件」などで見られたように、そこにはちゃんと PRIVATE DETECTIVE (私立探偵) と書かれているはずである。もっとも、それを踏まえてなお、バラエティのオーディションを受けに来たと思われたのかもしれないけれど。
ハイビジョンリマスター版でのみ見られる放送局でのやりとりで、ポワロがデビッドソンに言う「男女の関係は?」「わたしは知りたいんです、昨夜のマドモワゼル・コートニーとクロンショー卿の口論の原因をご存じですか?」という台詞は、ココとデビッドソンの親密な関係が口論の原因ではないかとほのめかしているようにも聞こえるが、原語だと 'You see a great deal of each other? (ではお互い深くご存じ?)' 'I was just trying to ascertain whether you could shed any light on the argument last evening between Mademoiselle Courtney and Milord Cronshaw? (わたしはただ、昨夜のマドモワゼル・コートニーとクロンショー卿の口論について、何か教えていただくことが可能か確認しようとしただけなんです)' という表現で、ココについての理解度を確認する趣旨であって、男女関係についてはあくまでデビッドソン側がそう解釈して答えたというだけである。また、デビッドソンは「ぼくには妻がいます。ご存じでしょう?」と言うが、デビッドソンが妻帯者であることは舞踏会でアカリーから聞いており(ただしその台詞は推測混じりで、推測がデビッドソン夫人個人を判別できないからか、それともデビッドソンがそもそも妻帯者なのかを知らないからかは判然としない)、それをデビッドソンは知らないはずである。
マラビー夫人のタクシー代は日本語だと1ポンド6ペンスだが、原語だと運転手は 'One and six, guv.' と請求しており、これは1シリング6ペンスのこと。また、夫人と執事の「子爵さまはいらっしゃるの、サミュエルソン?」「はい、子爵さまは居間においででございます」というやりとりを原語で聞くと、アメリカ人でイギリスの階級に疎い夫人が「子爵さま」を His Highness (殿下) と呼びまちがえ、それを執事が His Lordship (閣下) と訂正している。
舞踏会場のコロッサス・ホールとして撮影に使われたのは、ノース・ケンジントンのバールビー・ロードにあるラドブローク・ホール(サンビーム・スタジオ)で、ジャップ警部のオフィスが撮影されたのも同ホールの一室と見られる。ココの住むマンションは、「100万ドル債券盗難事件」でエズミーが住んでいたのと同じマンション、ハイポイントI。ユースタスの家は前述のロイヤル・アルバート・ホールから遠くないエニスモア・ガーデンズ、デビッドソン夫妻の家も同様のプリンスイズ・ゲート・ミューズにある。また、 BBC のラジオ局はポートランド・プレースにある本物で、原語音声でのみ言及される Sir John Reith (サー・ジョン・リース) も当時の実際の局長の名である。 Agatha Christie's Poirot の当時の制作局である LWT は英国の民放最大手、 ITV ネットワークに連なるテレビ局で、その番組に BBC のラジオ局や局長の名前が登場するのは、日本で言えば日本テレビのドラマに NHK の建物や会長の名前が実名で出てくるようなもの。なお、こうした局をまたいだクロスオーバーはたまにあり、2009年には逆に、助けが必要な子供たちに寄付を募る BBC 制作の動画 (Part 1, Part 2) にポワロとジョージが登場し、ポワロの部屋のセットも使われている。また、ほかのドラマではたとえば、 BBC が制作したクリストファー・エクルストン主演「ドクター・フー」の「バッド・ウルフ」に、 Channel 4 の番組 Big Brother をモチーフにした場面が登場し、劇中に同番組の実際のロゴが見られたりする。
アカリー役のアンドリュー・バートは、ジョーン・ヒクソン主演の「ミス・マープル」の一篇、「パディントン発4時50分」のドクター・クインパー役でも見ることができる。その際、本作でアカリーを吹き替えた仲村秀生さんは、同作ではアルフレッド・クラッケンソープの声を担当しており、ドクター・クインパーの吹替は、本作ではユースタス・ベルテンを演じる家弓家正さんが担当した。放送局の受付を演じたセアラ・クローデンは、シェリル・キャンベル主演「七つのダイヤル」にもヘレン役で出演。ココ・コートニーを演じたヘイドン・グウィンは、ベネディクト・カンバーバッチ主演の「シャーロック」の一篇、「大いなるゲーム」にもウェンセスラス役で出演している。
舞踏会で演奏されている曲は 'The Very Thought of You' や 'What'll I Do' など。デビッドソンが家で聴いているピアノ曲はショパンのワルツ・作品69-2である。
ポワロとヘイスティングスがコロッサス・ホールに乗りつけたタクシーと、マラビー夫人がユースタスの家に乗りつけたタクシーは、同一ナンバーの同じタクシーである。
マラビー夫人に声をかけられる前、アルレッキーノは手帳の左側のページに何かを書きつけているように見えるが、ジャップ警部がポワロに見せた手帳で LOWESTOFT の字が書かれているページは右側である。また、クロンショー卿の遺体発見時、マラビー夫人は両手を肩の高さまで上げて悲鳴をあげていたが、ポワロの謎解きの際の回想では腰くらいの高さになっている。
クロンショー卿の遺体が発見されてデビッドソン家の前へ場面が切り替わる直前(オリジナル版ではフェードアウトの途中)、遺体がぴくりと動く。またハイビジョンリマスター版では、その後ヘイスティングスが「クロンショー卿は犯人に抵抗したようですね」と言ったあと、遺体が穏やかに息をしているのがわかる。一方、ココの遺体がアップになった際にも、首筋が動いているのが見える。
ユースタスの家の前へジャップ警部が乗ってきた車の側面には、現代の車が複数映り込んでいる。また、最後にポワロたちが放送局のロビーへ出てくる際にも、向かって右側の扉に、撮影のカメラとカメラマンが映ってしまっている。
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日本語だとアカリーがデビッドソンのことを「若手の俳優」と紹介するが、原語では quite a versatile actor (実に達者な俳優) と表現されており、これは彼がクロンショー卿になりすませる演技力を持つことを示す伏線であったと思われる。
デビッドソンに頭を冷やすよう言われたココが、「彼〔クロンショー卿〕は氷山みたいに冷たいのよ。これ以上冷やす必要ないわ!」と応じた台詞は、原語だと 'He's already as cold as an iceberg. With me as the Titanic! (彼は氷山みたいに冷たいのよ。わたしのほうは〔氷山にぶつかって沈没した〕タイタニック号だわ!)' という表現で後半部分が異なり、原語表現のほうが、麻薬に関して潔癖な卿に断固とした態度を取られ、ココの麻薬生活が破局を迎え(る見通しとなっ)た喩えとして対比が明瞭になっている。これに対してデビッドソン夫人が失笑したのは、いずれの表現においても「氷山」や「タイタニック号」という大仰な喩えに思わずおかしさを覚えたものか。
ココの死にまつわる状況は、実在した女優ビリー・カールトンの死に材を取ったと見られる。カールトンは1918年11月27日にひらかれた戦勝記念の舞踏会に参加した翌日、ホテルで死亡しているのを発見され、死因はコカインの過剰摂取とされた。そのコカインを供給したのは、友人で俳優のレジナルド・ド・ヴールであった。
ココの死を招いたコカインについて、日本語だとポワロが「彼女は多量のコカインを新たに入手しておりました」と説明するが、原語では 'she had obtained a new, fatally strong dose of cocaine from her supplier (彼女は命に関わるほど強いコカインの一服を新たに入手しておりました)' という表現で、ココがいつものつもりで服用したとしても死に至るように意図されていたことがわかる。
デビッドソンが左利きだと謎解き前にポワロが気づいたタイミングは台詞で言及されないが、舞踏会に現れたクロンショー卿一行をアカリーが説明している際、デビッドソンが左手でココの煙草に火をつけてやっていた。なお、この利き手に関する要素はドラマオリジナルである。
クロンショー卿の遺体に突き立てられたナイフの位置や向きは、刺した瞬間のデビッドソンとの位置関係を踏まえても、あまり左利きの人間が刺したようには見えない。また、刺されて倒れた直後と、カーテンの陰から引き出されたあととでは、ナイフの向きがわずかに変わっているのがわかる。
当時の BBC の放送は標準英語でなされており、(原語音声だと)フランス語訛りのあるポワロの英語に苦情の電話が殺到したように、アナウンサーなどが訛りのある英語を話すと、実際に聴取者から苦情や抗議が殺到したという[3]。
第一次大戦の終戦は1918年11月11日。イギリスではこの11月11日に最も近い日曜日を Remembrance Sunday などと呼び、毎年、戦没者追悼の儀式が行われる。しかし、劇中の「勝利を祝う瞬間」は、11月9日土曜日午前0時である。
クロンショー卿一行の仮装の出典であるハーレクイネードについては冒頭でポワロが簡単に説明しているように、イタリアの古喜劇コメディア・デラルテに端を発し、イギリスで18世紀頃に流行した古典的なお伽芝居。コメディア・デラルテは決まった型のある登場人物たちが仮面をつけて演じる即興劇で、16世紀中頃にイタリアで発祥した。一方、作中に登場する、そのハーレクイネードの6人の登場人物をかたどった陶器人形は、クリスティーが子供のころ母親の煖炉の上に飾られていたという、ドレスデン製のセットがモデルになっていると見られる。そのセットは長くクリスティーを魅了し、少女時代にはその登場人物たちを題材に複数の詩をものして、そのうちの 'Harlequin's Song (アルレッキーノの歌)' という一篇は Poetry Review 誌に採録され、彼女にとって初めて出版された作品となった。[1]主役のアルレッキーノ(英語ではハーレクイン)は、短篇集『謎のクィン氏』などで活躍するハーリ・クィン氏のモデルにもなっているが、このシリーズは書きたいと思ったときだけに書きたいとして連載申し入れを断っていたことがあるほどで、クリスティーの思い入れの強さが窺える[2]。そのアルレッキーノについて、日本語では「人間の眼には見えない不思議な妖精」などと説明されるが、原語だと 'the magical sprite who can become invisible (姿を消せる魔法の妖精)' などの表現で、常時姿が見えないわけではない。撮影に使われた陶器人形のセットは、撮影終了後デビッド・スーシェに贈られ、2013年現在も彼が所持しているという[3]。
クロンショー卿が言及する「カワード」とは、劇作家・作曲家・俳優・歌手などとして多彩に活躍し、当時大人気を博していたノエル・カワードのことと見られる(が、本当に「哀れフン族よ、楽しみより戦火を好む」と言ったかは不明)。カワードについては「二重の罪」の原語音声においても、ジャップ警部が講演中に言及していたほか、ポワロの吹替を務める熊倉一雄さんも、所属劇団テアトル・エコーにおいて、カワードの戯曲『陽気な幽霊』を演出して上演したことがある。
ヘイスティングスが仮装した「怪傑紅はこべ」の出典は、〈隅の老人〉シリーズの著者としても知られるバロネス・オルツィの冒険小説『紅はこべ』。一方、アカリーのアラビア風の仮装に対してポワロが「アラビアのアカリーですね?」と言う場面があるが、アラブ独立運動を指導したイギリス軍将校トーマス・エドワード・ロレンスの人生を描いた映画「アラビアのロレンス (Lawrence of Arabia)」の公開は1962年であり、その題名を意識した発言とすれば時代に合わない。原語だとポワロの台詞は 'The Sheikh of Ackerley, I presume? (アカリー首長ですね?)' という表現で、映画の題名とは関係がない。
ココがクロンショー卿にユースタスを紹介されて「遊び人の叔父さまね」と言う台詞は、原語だと 'Dishonourable, I heard.' と言っており、これはユースタスの称号 the Honourable にかけたもの。 The Honourable は伯爵の次男以下の子息や、子爵・男爵の子につけられる敬称だが、 honourable はもともと「立派な」「尊敬すべき」という意味の形容詞で、その否定形である dishonourable が日本語のような意味になるのである。なお、イギリスの世襲貴族は原則として男系男子が爵位と資産を継承するため、独身のクロンショー卿の死後は、その父の弟と見られるユースタスが新しいクロンショー子爵となる。また、イギリス貴族の爵号は姓と別のものなので、ユースタスはその姓を維持したままクロンショー卿となり、現クロンショー卿もその姓はベルテンと見られる。しかし、冒頭にはユースタスがクロンショー卿に「クロンショー!」と呼びかける場面があり、叔父が甥を爵号で呼ぶものかしらん。
ハイビジョンリマスター版でアカリーがポワロにぼやく「まったく今日はココ・コートニーのおかげで時間どおりに番組を放送できないかとひやひやしました」という台詞は、原語だと 'I was so afraid I wasn't going to make it here on time, thanks to the antics of Coco Courtney. (ココ・コートニーのおかげで遅刻するんじゃないかとひやひやしました)' という表現で、アカリーが心配したのは舞踏会の約束に遅れること。実際、アカリーはココの到着前に番組を開始している。
舞踏会場に現れたクロンショー一行の様子をポワロが見守っているとき、原語ではココがクロンショー卿に言う 'Don't be such a bore. (つまらないことをいわないで)' という台詞や、ユースタスとココのあいだの 'Coco. (ココ)' 'Can I sit down next to you, darling? (お隣にすわってもいいかしら?)' というやりとりが小さく聞こえているが、日本語には対応する台詞がない。また、ポワロに飲み物を持ってきたお礼を言われてアカリーが 'My pleasure. (どういたしまして)' と応える台詞も日本語では落とされている。
事件発覚後に呼ばれたジャップ警部が言う「400人が浮かれ騒いでいる鼻っ先で貴族を刺し殺す。これは簡単にはホシは挙がらんでしょうな」の後半部は、原語だと 'We'll need the Albert Hall to gather the suspects on this one. (今回の容疑者を集めたらアルバート・ホールが必要ですな)' という表現で、アルバート・ホールことロイヤル・アルバート・ホールはロンドンのハイド・パークの南に位置する歌劇場。そのキャパシティは7000人以上で、舞踏会の参加者以外にスタッフや外部犯の可能性を考慮したとしても、警部は相当大げさに表現している。なお、ジャップ警部を演じるフィリップ・ジャクソンも、出演した映画「ブラス!」のクライマックスでロイヤル・アルバート・ホールの舞台に立ち、吹奏楽の演奏を披露したことがある。その建物は、このドラマシリーズでも「負け犬」や「ひらいたトランプ」の背景に映っているのが見られる。
事件翌朝にポワロのマンションの外観が映る場面は、実際の地理に照らすと影が南西から伸びており、午後に撮影されたものである。またハイビジョンリマスター版だと、画面下方の車や通行人はなめらかに動いているのに、画面右側でそよぐ木の葉は動きがかくつく。
ハイビジョンリマスター版で、事件翌朝にポワロが読んでいた新聞を見てミス・レモンが「ヘイスティングス大尉は写真写りがいいんですね」と言ったところは、原語だと 'It's a very good photo of Captain Hastings. (ヘイスティングス大尉のとてもいい写真ですわね)' という表現で、写真写り一般ではなくその写真がよく撮れていると言っている。それにしても、ヘイスティングスとポワロのうしろにはジャップ警部らしき人物も写っているが、その写真写りはさすがに……
事件翌朝、ポワロが放送局へ出かけるときに聞こえるラジオドラマの台詞は、日本語だと「ああ、あの時計…… どうしてちゃんと直さないの? あなたに指図するつもりはなかったの」「ロレッタ、それは……」「女はそういうことに敏感なのよ」というやりとりだが、原語だと 'Oh, that damnable clock, why? (ああ、あの進んだ時計) ...' 'Letty, what do you mean? (ロレッタ、何が言いたいんだ?)' 'I mean you weren't here when I had a walk, were you? (わたしが散歩しているとき、あなたはここにいなかった。ちがう?)' という会話で、「死のアリバイ」というその題名のとおり、主役のロレッタがアリバイに関する気づきを得た場面だった。
放送局を訪ねたポワロが受付の女性に「バラエティのオーディションは火曜日なんですけど」と言われてしまうが、彼女はポワロの名刺に目をやっており、「西洋の星の盗難事件」などで見られたように、そこにはちゃんと PRIVATE DETECTIVE (私立探偵) と書かれているはずである。もっとも、それを踏まえてなお、バラエティのオーディションを受けに来たと思われたのかもしれないけれど。
ハイビジョンリマスター版でのみ見られる放送局でのやりとりで、ポワロがデビッドソンに言う「男女の関係は?」「わたしは知りたいんです、昨夜のマドモワゼル・コートニーとクロンショー卿の口論の原因をご存じですか?」という台詞は、ココとデビッドソンの親密な関係が口論の原因ではないかとほのめかしているようにも聞こえるが、原語だと 'You see a great deal of each other? (ではお互い深くご存じ?)' 'I was just trying to ascertain whether you could shed any light on the argument last evening between Mademoiselle Courtney and Milord Cronshaw? (わたしはただ、昨夜のマドモワゼル・コートニーとクロンショー卿の口論について、何か教えていただくことが可能か確認しようとしただけなんです)' という表現で、ココについての理解度を確認する趣旨であって、男女関係についてはあくまでデビッドソン側がそう解釈して答えたというだけである。また、デビッドソンは「ぼくには妻がいます。ご存じでしょう?」と言うが、デビッドソンが妻帯者であることは舞踏会でアカリーから聞いており(ただしその台詞は推測混じりで、推測がデビッドソン夫人個人を判別できないからか、それともデビッドソンがそもそも妻帯者なのかを知らないからかは判然としない)、それをデビッドソンは知らないはずである。
マラビー夫人のタクシー代は日本語だと1ポンド6ペンスだが、原語だと運転手は 'One and six, guv.' と請求しており、これは1シリング6ペンスのこと。また、夫人と執事の「子爵さまはいらっしゃるの、サミュエルソン?」「はい、子爵さまは居間においででございます」というやりとりを原語で聞くと、アメリカ人でイギリスの階級に疎い夫人が「子爵さま」を His Highness (殿下) と呼びまちがえ、それを執事が His Lordship (閣下) と訂正している。
舞踏会場のコロッサス・ホールとして撮影に使われたのは、ノース・ケンジントンのバールビー・ロードにあるラドブローク・ホール(サンビーム・スタジオ)で、ジャップ警部のオフィスが撮影されたのも同ホールの一室と見られる。ココの住むマンションは、「100万ドル債券盗難事件」でエズミーが住んでいたのと同じマンション、ハイポイントI。ユースタスの家は前述のロイヤル・アルバート・ホールから遠くないエニスモア・ガーデンズ、デビッドソン夫妻の家も同様のプリンスイズ・ゲート・ミューズにある。また、 BBC のラジオ局はポートランド・プレースにある本物で、原語音声でのみ言及される Sir John Reith (サー・ジョン・リース) も当時の実際の局長の名である。 Agatha Christie's Poirot の当時の制作局である LWT は英国の民放最大手、 ITV ネットワークに連なるテレビ局で、その番組に BBC のラジオ局や局長の名前が登場するのは、日本で言えば日本テレビのドラマに NHK の建物や会長の名前が実名で出てくるようなもの。なお、こうした局をまたいだクロスオーバーはたまにあり、2009年には逆に、助けが必要な子供たちに寄付を募る BBC 制作の動画 (Part 1, Part 2) にポワロとジョージが登場し、ポワロの部屋のセットも使われている。また、ほかのドラマではたとえば、 BBC が制作したクリストファー・エクルストン主演「ドクター・フー」の「バッド・ウルフ」に、 Channel 4 の番組 Big Brother をモチーフにした場面が登場し、劇中に同番組の実際のロゴが見られたりする。
アカリー役のアンドリュー・バートは、ジョーン・ヒクソン主演の「ミス・マープル」の一篇、「パディントン発4時50分」のドクター・クインパー役でも見ることができる。その際、本作でアカリーを吹き替えた仲村秀生さんは、同作ではアルフレッド・クラッケンソープの声を担当しており、ドクター・クインパーの吹替は、本作ではユースタス・ベルテンを演じる家弓家正さんが担当した。放送局の受付を演じたセアラ・クローデンは、シェリル・キャンベル主演「七つのダイヤル」にもヘレン役で出演。ココ・コートニーを演じたヘイドン・グウィンは、ベネディクト・カンバーバッチ主演の「シャーロック」の一篇、「大いなるゲーム」にもウェンセスラス役で出演している。
舞踏会で演奏されている曲は 'The Very Thought of You' や 'What'll I Do' など。デビッドソンが家で聴いているピアノ曲はショパンのワルツ・作品69-2である。
ポワロとヘイスティングスがコロッサス・ホールに乗りつけたタクシーと、マラビー夫人がユースタスの家に乗りつけたタクシーは、同一ナンバーの同じタクシーである。
マラビー夫人に声をかけられる前、アルレッキーノは手帳の左側のページに何かを書きつけているように見えるが、ジャップ警部がポワロに見せた手帳で LOWESTOFT の字が書かれているページは右側である。また、クロンショー卿の遺体発見時、マラビー夫人は両手を肩の高さまで上げて悲鳴をあげていたが、ポワロの謎解きの際の回想では腰くらいの高さになっている。
クロンショー卿の遺体が発見されてデビッドソン家の前へ場面が切り替わる直前(オリジナル版ではフェードアウトの途中)、遺体がぴくりと動く。またハイビジョンリマスター版では、その後ヘイスティングスが「クロンショー卿は犯人に抵抗したようですね」と言ったあと、遺体が穏やかに息をしているのがわかる。一方、ココの遺体がアップになった際にも、首筋が動いているのが見える。
ユースタスの家の前へジャップ警部が乗ってきた車の側面には、現代の車が複数映り込んでいる。また、最後にポワロたちが放送局のロビーへ出てくる際にも、向かって右側の扉に、撮影のカメラとカメラマンが映ってしまっている。
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日本語だとアカリーがデビッドソンのことを「若手の俳優」と紹介するが、原語では quite a versatile actor (実に達者な俳優) と表現されており、これは彼がクロンショー卿になりすませる演技力を持つことを示す伏線であったと思われる。
デビッドソンに頭を冷やすよう言われたココが、「彼〔クロンショー卿〕は氷山みたいに冷たいのよ。これ以上冷やす必要ないわ!」と応じた台詞は、原語だと 'He's already as cold as an iceberg. With me as the Titanic! (彼は氷山みたいに冷たいのよ。わたしのほうは〔氷山にぶつかって沈没した〕タイタニック号だわ!)' という表現で後半部分が異なり、原語表現のほうが、麻薬に関して潔癖な卿に断固とした態度を取られ、ココの麻薬生活が破局を迎え(る見通しとなっ)た喩えとして対比が明瞭になっている。これに対してデビッドソン夫人が失笑したのは、いずれの表現においても「氷山」や「タイタニック号」という大仰な喩えに思わずおかしさを覚えたものか。
ココの死にまつわる状況は、実在した女優ビリー・カールトンの死に材を取ったと見られる。カールトンは1918年11月27日にひらかれた戦勝記念の舞踏会に参加した翌日、ホテルで死亡しているのを発見され、死因はコカインの過剰摂取とされた。そのコカインを供給したのは、友人で俳優のレジナルド・ド・ヴールであった。
ココの死を招いたコカインについて、日本語だとポワロが「彼女は多量のコカインを新たに入手しておりました」と説明するが、原語では 'she had obtained a new, fatally strong dose of cocaine from her supplier (彼女は命に関わるほど強いコカインの一服を新たに入手しておりました)' という表現で、ココがいつものつもりで服用したとしても死に至るように意図されていたことがわかる。
デビッドソンが左利きだと謎解き前にポワロが気づいたタイミングは台詞で言及されないが、舞踏会に現れたクロンショー卿一行をアカリーが説明している際、デビッドソンが左手でココの煙草に火をつけてやっていた。なお、この利き手に関する要素はドラマオリジナルである。
クロンショー卿の遺体に突き立てられたナイフの位置や向きは、刺した瞬間のデビッドソンとの位置関係を踏まえても、あまり左利きの人間が刺したようには見えない。また、刺されて倒れた直後と、カーテンの陰から引き出されたあととでは、ナイフの向きがわずかに変わっているのがわかる。
当時の BBC の放送は標準英語でなされており、(原語音声だと)フランス語訛りのあるポワロの英語に苦情の電話が殺到したように、アナウンサーなどが訛りのある英語を話すと、実際に聴取者から苦情や抗議が殺到したという[3]。
- [1] Agatha Christie, Foreword, The Mysterious Mr Quin (Ebook Edition), HarperCollinsPublishers, 2010, p. 9
- [2] アガサ・クリスティー (訳: 乾信一郎), 『アガサ・クリスティー自伝 〔下〕』, 早川書房(ハヤカワミステリ文庫), 1995, p. 286
- [3] David Suchet and Geoffrey Wansell, Poirot and Me, headline, 2013, p. 118
- [3] 新井潤美, 『英語の階級 執事は「上流の英語」を話すのか?』, 講談社(講談社選書メチエ), 2022, pp. 171-176
ロケ地写真
カットされた場面
日本
オリジナル版
[07:05/0:48] | クロンショー卿一行がホールに到着する場面 〜 ポワロ、ヘイスティングス、アカリーがココの噂をしているところ |
[16:34/0:14] | 舞踏会場に警察が到着し、記者が質問を浴びせる場面 |
[18:00/1:07] | 食堂でのポワロ、ヘイスティングス、ジャップ警部の会話の後半 |
[18:09/0:27] | 事件を報じる新聞を読んでのポワロとヘイスティングス、ミス・レモンのやりとりの一部 |
[21:11/2:03] | 警察がココのマンションに到着する場面 〜 ジャップ警部が警官を連れて階段を駆け上がる場面 〜 ラジオ局で連絡を待つポワロとデビッドソンの会話 |
ハイビジョンリマスター版
なし映像ソフト
- [VHS, VCD] 「名探偵エルキュール・ポアロ 第8巻 戦勝記念舞踏会事件」(字幕) 日本クラウン
- [DVD] 「名探偵ポワロ 16 戦勝舞踏会事件, 猟人荘の怪事件」(字幕・吹替) ビームエンタテインメント(現ハピネット・ピクチャーズ)※1
- [DVD] 「名探偵ポワロ [完全版] 16 戦勝舞踏会事件, 猟人荘の怪事件」(字幕・吹替) ハピネット・ピクチャーズ※2
- [DVD] 「名探偵ポワロ DVDコレクション 55 戦勝舞踏会事件」(字幕・吹替) デアゴスティーニ・ジャパン※3
- [BD] 「名探偵ポワロ Blu-ray BOX Disc 8 スペイン櫃の秘密, 盗まれたロイヤル・ルビー, 戦勝舞踏会事件, 猟人荘の怪事件」(字幕/吹替) ハピネット・ピクチャーズ※4
- ※1 「名探偵ポワロ DVD-BOX2」にも収録
- ※2 「名探偵ポワロ [完全版] DVD-BOX1」「名探偵ポワロ [完全版] 全巻 DVD-SET」「名探偵ポワロ [完全版] DVD-SET 4」にも収録
- ※3 吹替は大塚智則さん主演の新録で、映像もイギリスで販売されているDVDと同じバリエーションを使用
- ※4 「名探偵ポワロ Blu-ray BOX vol. 1」に収録