死人の鏡 Dead Man's Mirror
放送履歴
日本
オリジナル版(44分00秒)
- 1994年05月28日 21時30分〜 (NHK総合)
- 1995年09月07日 17時15分〜 (NHK総合)
- 1996年03月28日 17時15分〜 (NHK総合)
- 1999年01月25日 15時10分〜 (NHK総合)
- 2003年09月24日 18時00分〜 (NHK衛星第2)
ハイビジョンリマスター版(50分00秒)
- 2016年07月30日 16時00分〜 (NHK BSプレミアム)
- 2017年01月04日 17時00分〜 (NHK BSプレミアム)
- 2021年01月09日 17時10分〜 (NHK BSプレミアム)
- 2021年12月03日 09時00分〜 (NHK BS4K)※1
- 2023年03月15日 21時00分〜 (NHK BSプレミアム・BS4K)※2
- ※1 28分42秒頃から緊急地震速報の地図およびNHK地震情報の字幕の表示あり
- ※2 BSプレミアムでの放送は、オープニング冒頭の画面左上にBS4K同時放送のアイコン表示あり
海外
- 1993年02月28日 (英・ITV)
原作
邦訳
- 「死人の鏡」 - 『死人の鏡』 クリスティー文庫 小倉多加志訳
- 「死人の鏡」 - 『死人の鏡』 ハヤカワミステリ文庫 小倉多加志訳
- 「死人の鏡」 - 『死人の鏡』 創元推理文庫 宇野利泰訳
原書
- Dead Man's Mirror, Murder in the Mews, Collins, March 1937 (UK)
- Dead Man's Mirror, Dead Man's Mirror, Dodd Mead, June 1937 (USA)
オープニングクレジット
日本
オリジナル版
名探偵ポワロ / DAVID SUCHET // HUGH FRASER / PHILIP JACKSON / 死人の鏡, DEAD MAN'S MIRROR / Dramatized by ANTHONY HOROWITZ
ハイビジョンリマスター版
名探偵ポワロ / DAVID SUCHET / AGATHA CHRISTIE'S POIROT / 死人の鏡 // HUGH FRASER / PHILIP JACKSON / DEAD MAN'S MIRROR / Dramatized by ANTHONY HOROWITZ
エンディングクレジット
日本
オリジナル版
原作 アガサ・クリスティー 脚本 アンソニー・ホロウィッツ 監督 ブライアン・ファーナム 制作 LWT(イギリス) / 出演 ポワロ(デビッド・スーシェ) 熊倉一雄 ヘイスティングス(ヒュー・フレイザー) 富山 敬 ジャップ警部(フィリップ・ジャクソン) 坂口芳貞 ルース・シェブニックス 戸田恵子 ジャベイス・シェブニックス 富田耕生 リンガード 北村昌子 大塚󠄀芳忠 潘 恵子 堀内賢雄 中村紀子子 津田英三 西川幾雄 石井敏郎 / 日本語版 宇津木道子 山田悦司 福岡浩美 南部満治 金谷和美
ハイビジョンリマスター版
原作 アガサ・クリスティー 脚本 アンソニー・ホロヴィッツ 演出 ブライアン・ファーナム 制作 LWT (イギリス) 出演 ポワロ(デビッド・スーシェ) 熊倉 一雄 ヘイスティングス(ヒュー・フレイザー) 富山 敬/安原 義人 ジャップ警部(フィリップ・ジャクソン) 坂口 芳貞 ルース・シェブニックス 戸田 恵子 ジャベイス・シェブニックス 富田 耕生 リンガード 北村 昌子 大塚󠄀 芳忠 潘 恵子 堀内 賢雄 中村 紀子子 津田 英三 西川 幾雄 石井 敏郎 真山 亜子 野瀬 育二 斉藤 信行 日本語版スタッフ 翻訳 宇津木 道子 演出 山田 悦司 音声 金谷 和美 プロデューサー 里口 千
海外
オリジナル版
Hercule Poirot: DAVID SUCHET; Captain Hastings: HUGH FRASER; Chief Inspector Japp: PHILIP JACKSON; Gervase Chevenix: IAIN CUTHBERTSON; Ruth Chevenix: EMMA FIELDING; Miss Lingard: FIONA WALKER; Vanda Chevenix: ZENA WALKER; John Lake: RICHARD LINTERN; Hugo Trent: JEREMY NORTHAM; Susan Cardwell: TUSHKA BERGEN; Snell: JAMES GREENE; Lawrence: JON CROFT; Registrar: JOHN ROLFE; Auctioneer: DEREK SMEE; Stunts: ANDY BRADFORD, BILL WESTON, DAVID CRONNELLY, GABE CRONNELLY / Developed for Television by Carnival Films; (中略)Made at Twickenham Studios, London, England / Assistant Directors: GARY WHITE, TIM LEWIS, DOMINIC FYSH; Production Manager: GUY TANNAHILL; Production Co-ordinator: LEILA KIRKPATRICK; Accounts: JOHN BEHARRELL, PENELOPE FORRESTER; Locations: JEREMY OLDFIELD, JEREMY JOHNS; Script Supervisor: JOSIE FULFORD; Camera Operator: STEVEN ALCORN; Focus Puller: DANNY SHELMERDINE; Clapper/Loader: RAY COOPER; Grip: JOHN ETHERINGTON; Boom Operator: PAUL BOTHAM; Sound Assistant: IAN COLES; Gaffer: VINCE GODDARD; Art Director: MARK RAGGETT; Set Decorator: DESMOND CROWE; Production Buyer: MIKE SMITH; Property Master: MICKY LENNON; Construction Manager: ALAN BOOTH; Wardrobe: LISA JOHNSON, ADRIAN SIMMONS, JILL AVERY, VERNON WHITE; Make Up Artists: KATE BOWER, PATRICIA KIRKMAN; Assistant Editor: CHRISTOPHER WHEELER; Dubbing: JOHN DOWNER, SARAH MORTON, RUPERT SCRIVENER; Costume Designer: BARBARA KRONIG; Make Up Supervisor: JANIS GOULD; Sound Recordist: JEFF HAWKINS; Titles: PAT GAVIN; Casting: REBECCA HOWARD, KATE DAY; Associate Producer: CHRISTOPHER HALL; Editor: CHRIS WIMBLE; Production Designer: TIM HUTCHINSON; Director of Photography: NORMAN LANGLEY B.S.C.; Music: CHRISTOPHER GUNNING; Executive Producer: NICK ELLIOTT; Producer: BRIAN EASTMAN; Director: BRIAN FARNHAM
あらすじ
競売所で知りあった横柄な人物、ジャベイス・シェブニックスの依頼で、ポワロは詐欺事件の調査にあたることに。しかし、その直後にジャベイスは死体となって発見された。死体のそばの鏡は粉々に砕け、自殺時に頭部を貫通した弾が当たったかに見えたが……
事件発生時期
1936年3月下旬
主要登場人物
エルキュール・ポワロ | 私立探偵 |
アーサー・ヘイスティングス | ポワロの探偵事務所のパートナー、陸軍大尉 |
ジェームス・ジャップ | スコットランド・ヤード主任警部 |
ジャベイス・シェブニックス | 依頼人、美術品コレクター |
バンダ・シェブニックス | ジャベイスの妻 |
ルース・シェブニックス | シェブニックス夫妻の養女 |
ヒューゴー・トレント | シェブニックスの甥 |
スーザン・カードウェル | トレントの婚約者 |
ジョン・レイク | 建築家 |
リンガード | シェブニックスの秘書 |
スネル | シェブニックス家の執事 |
解説、みたいなもの
原作の「死人の鏡」は短篇「二度目のゴング」をふくらませた作品で、それぞれの題名が示すように、割れた鏡と銅鑼の音が事件の鍵となる。その、ポワロ物の短篇の中でも長い部類に入る原作をいつもの枠に収めるためか、事件関係者から秘書のバローズと弁護士のフォーブスが省略、ジャベイスの友人であるベリー大佐の要素はジョン・レイクに盛り込まれた。そして存在自体は省略されなかった関係者でも全般的に性格づけが削られており、ジャベイスの奇癖、バンダが時折見せる鋭さ、ルースの小悪魔的な部分などは明確に描かれない。さらに「死人の鏡」という題名に対しても、鏡の象徴的な意味について触れずに終わる。原作でジャベイスの人となりをポワロに紹介していた、『謎のクィン氏』などでハーリ・クィン氏のワトソン役を務めるサタスウェイト氏の登場もない。一方、ジャベイスが被害に遭ったという詐欺の具体的内容や、ジャベイスの利き手、ミス・リンガードが美術館で撮影している絵、ノースゲート開発での一幕などの要素はドラマで追加されたものである。最後の犯人の行動が原作と異なるのは、「なぞの遺言書」との重複を避けるためか。なお、ディナーやその前の着替えの時刻を報せるために銅鑼を鳴らすのは、シェブニックス家特有ではない一般の慣習で、「死者のあやまち」にやはり執事が銅鑼を鳴らす場面があるほか、「なぞの盗難事件」でも食堂の外に銅鑼が置かれているのを見ることができる。
競売にかけられた鏡の作者として言及されるエドガー・ウィリアム・ブラントは、実在のフランス人金属装飾家。第一次大戦期に迫撃砲を開発し、その標準化に大きな影響を与えたことでも知られる。
ハイビジョンリマスター版では、シェブニックスの無礼な態度にポワロが「このポワロはそれなりに地位があり、多忙な人間だっていうのに」と、めずらしく自尊をすこし抑えた言い方をするが、原語では 'Poirot is also a man of importance, a man of affairs. (ポワロもやはり重要人物で、多忙な人間だっていうのに)' という表現で、「それなりに」と控えめにするニュアンスはない。
ポワロたちの到着時にジャベイスが確認していた原稿に印刷された絵は、ピカソの「アヴィニョンの娘たち」である。
シェブニックス夫人の〈魂の案内人〉サフラが仕えていたという「アメンホテプ」は、古代エジプトの王の名。サフラの首飾りは「3000年も昔の」ものということだが、アメンホテプという名を持つ王は第18王朝に4人おり、もっとも時代の新しいアメンホテプ四世でも、劇中から3200年以上前の人物とされる。なお、アメンホテプ四世の改名後の名前はアクナーテンであり、クリスティーの戯曲『アクナーテン』で描かれる人物だが、アメンホテプへの言及は原作にはないドラマオリジナル。やはりドラマでアメンホテプの名が言及された「盗まれたロイヤル・ルビー」も(そちらでは「アメンホテップ」と発音していたけど)、本作と同じアンソニー・ホロウィッツによる脚本だった。またホロウィッツは、本作と「盗まれたロイヤル・ルビー」に加えて「スペイン櫃の秘密」の脚本も手がけており、短篇をほぼそのまま中篇に拡張した3原作すべての脚本を担当したことになる。
ハイビジョンリマスター版で、シェブニックス夫人から「わたしと主人はね、同じプレーンで会ったんです」と言われて、ジャップ警部が「プレーンとは?」と訊き返すところは、原語だと 'On holiday? (旅行中に?)' と言っており、 plane を「飛行機」の意味でとらえてしまっている。
ポワロが弾道を検証するのに描いている見取り図には筆記体で文字が書かれているが、これは「エンドハウスの怪事件」や「負け犬」などで見られるポワロ(スーシェ)の筆跡とは異なる。弾道の破線だけインクの色が濃いので、それ以外の部分はあらかじめ描かれた状態で用意された小道具なのだろう。しかし、図の左側にある廊下下方にはルースとミス・リンガードがやってきた廊下が、銅鑼の向かって右隣の壁にはドアがあるはずである。なお、原作小説にも現場の見取り図が掲載されており、この場面はそれを意識したものだろうか。
ルースの「わたしは俗に言う私生児だったんです」という台詞は、日本語だと「私生児」という言葉があまり俗語に聞こえないかもしれないが、原語は love child という表現で、非嫡出子の正式な表現は illegitimate child という。また、彼女が語るシェブニックス家に引き取られた経緯は、日本語だと「〔本当の〕父が亡くなったあと、〔母は〕手紙を書いて、わたしをシェブニックス家に引き渡したんです」という表現で、母親のほうから引き渡しを持ちかけたニュアンスだが、原語は 'When my father died, she wrote to Gervace. (父が亡くなったとき、母はジャベイスに手紙を書きました) He couldn't have any children of his own, so he adopted me. (ジャベイスは自分の子供ができなかったので、それでわたしを引き取ったんです)' という表現で、日本語ほどにはそのニュアンスは強くない。なお、ルースはここ以外でも、原語だと義理の両親を Gervace (ジャベイス), Vanda (バンダ) と名前で呼んでおり、このような呼び方は上流階級の流儀である。
ウィンパリーに向かう汽車の窓の向こうに映る道路には、センターラインが引かれているのが見える。他作品では、撮影時、現代的な道路標示は隠されることが多い。また、ハムバラ・クロースのポワロの部屋で銃声らしき音を聞く場面では、ドアの上方右横に、おそらくは現代的な設備をマスキングで隠した白い箱が見える。そして、ノースゲート開発での爆発の直前、2階の画面手前を向いた窓にはビニールのようなものが張られているのが見える。キャストやカメラのいる側に窓ガラスや屋内のものの破片が飛散するのを避けるためのものだろうか。
遺体発見時、ジャベイスのデスクの上の、ペーパースタンドのいちばん手前(部屋の入り口側)にはリストを印刷した紙が立てられていたが、ジャップ警部到着以降にはなくなっている。また、ポワロの謎解き中のプレイバックで鏡が割れた瞬間に入ったひびは、ジャベイスの書斎にかけられている鏡のひびとは入り方が異なり、ずっと派手に割れる。
ヒューゴーの車の MG TC は第二次大戦後に生産されたモデルで、実際には1946年製のようである[1]。
遺体発見後、ヘイスティングスに注意をうながされたポワロが鏡を見て「割れてる」と言ったり、外から窓の掛け金を下ろしてみせて「ほら」と言ったりするのは日本語のみ。また、ジャップ警部に同行を求められた犯人に呼びかけられて、ポワロが「はい」と応じる返事も日本語のみである。
ハイビジョンリマスター版では、冒頭のハッチンソン競売商のプレートが映るのにあわせて「競売商」という字幕が追加された。また、4K版では、モダンアート美術館から引きあげる際の「君は あのお嬢さんをどう思いましたか?」というポワロの台詞の表示が、音声に対してかなり早く消える。
ハッチンソン競売商の建物は、「消えた廃坑」でスコットランド・ヤードの内部だったり、「コーンワルの毒殺事件」でペンゲリーの裁判がひらかれたりしたチジック・タウン・ホール。レイクとルースが密かに結婚式を挙げた建物は、クラウチ・エンドのホーンジー・タウン・ホール。ハムバラ・クロースに向かう鉄道はブルーベル鉄道で、ウィンパリー駅は、「ジョニー・ウェイバリー誘拐事件」のエピローグでも撮影に使われたホーステッド・ケインズ駅。ただし、ポワロたちが乗った汽車が陸橋をくぐる場面は、「プリマス行き急行列車」でポワロとヘイスティングスが現場に向かう場面の使いまわしである。この鉄道や駅はほかに、「コックを捜せ」(車内のみ)や「スタイルズ荘の怪事件」、「西洋の星の盗難事件」(駅は元ケッチズ・ホールト駅)、「ABC殺人事件」でも撮影に使われている。ハムバラ・クロースの撮影に使われたのは、サリー州ユーハースト近郊にあるメリーランズという邸宅。劇中ではジョン・レイクの設計と見られるこの邸宅を実際にデザインしたのは、「二重の罪」に登場するミッドランド・ホテルや、「ダベンハイム失そう事件」のキンバリー・ハウスや「盗まれたロイヤル・ルビー」のキングス・レイシーとして撮影に使用されたジョルドウィンズも設計したオリバー・ヒルである[2][3][4]。ミス・リンガードが絵の写真を撮っていたモダンアート美術館の建物は、「100万ドル債券盗難事件」のエズミーや「戦勝舞踏会事件」のココの住まいとして使われたマンション、ハイポイントI。
スネル役のジェームス・グリーンは、ジョン・ソウ主演の「主任警部モース」の一篇、「死者たちの礼拝」終盤の裁判での弁護側弁護士役でも見ることができる。
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謎解きのなかでポワロがシェブニックスの机にあったメモについて「たった一言の簡単なメモが偽造され」と言うが、原語では 'The suicide note of one word is easily forged. (一言の遺書は簡単に偽造できます)' という表現で、動詞が is と現在形でもあるように、「簡単」なのは内容ではなく偽造行為の難易度を言っている。
原作では、ルースが2回庭に出たのに足跡が1組しか残っていなかったことから、その2回のあいだに誰かが足跡を消したという推理がなされるが、ドラマでは特に触れられずに終わる。一応日本語では、犯人のミス・リンガードにポワロが「もちろん、〔あなたは〕注意深く足跡を消しました」と言うが、原語では 'taking care to leave no footprints in the soil (土に足跡を残さないよう気をつけて)' という表現で、一度つけた足跡をあとから消したとは限らず、映像でも足跡を消した様子は見られない。もっともドラマでは、原作と異なり現場から弾が見つからず、他殺であることが早くから明確になっていて、足跡の不自然さを追及する必要も減じられている。
ポワロが注目した、「彼女〔ルース〕は庭から入ってきたと言わなかった」ミス・リンガードの台詞は、日本語だと「死体が発見される直前、あなたと一緒でした?」というポワロの質問に対し、「ええ。お嬢さんはわたくしがいた居間に入ってきて、一緒にいましたわ」と答えていたが、原語では 'I understand that you saw her just before the body was discovered. (死体が発見される直前、彼女に会ったそうですね)' 'It was just after we all heard the shot. She was with me in the living room. (ええ。銃声を聞いたすぐあとですわ。お嬢さんは居間でわたくしと一緒でした)' というやりとりで、どちらが先に居間にいたのかも曖昧な表現になっており、日本語以上にルースへ疑いが向かないよう配慮した形になっている。
競売にかけられた鏡の作者として言及されるエドガー・ウィリアム・ブラントは、実在のフランス人金属装飾家。第一次大戦期に迫撃砲を開発し、その標準化に大きな影響を与えたことでも知られる。
ハイビジョンリマスター版では、シェブニックスの無礼な態度にポワロが「このポワロはそれなりに地位があり、多忙な人間だっていうのに」と、めずらしく自尊をすこし抑えた言い方をするが、原語では 'Poirot is also a man of importance, a man of affairs. (ポワロもやはり重要人物で、多忙な人間だっていうのに)' という表現で、「それなりに」と控えめにするニュアンスはない。
ポワロたちの到着時にジャベイスが確認していた原稿に印刷された絵は、ピカソの「アヴィニョンの娘たち」である。
シェブニックス夫人の〈魂の案内人〉サフラが仕えていたという「アメンホテプ」は、古代エジプトの王の名。サフラの首飾りは「3000年も昔の」ものということだが、アメンホテプという名を持つ王は第18王朝に4人おり、もっとも時代の新しいアメンホテプ四世でも、劇中から3200年以上前の人物とされる。なお、アメンホテプ四世の改名後の名前はアクナーテンであり、クリスティーの戯曲『アクナーテン』で描かれる人物だが、アメンホテプへの言及は原作にはないドラマオリジナル。やはりドラマでアメンホテプの名が言及された「盗まれたロイヤル・ルビー」も(そちらでは「アメンホテップ」と発音していたけど)、本作と同じアンソニー・ホロウィッツによる脚本だった。またホロウィッツは、本作と「盗まれたロイヤル・ルビー」に加えて「スペイン櫃の秘密」の脚本も手がけており、短篇をほぼそのまま中篇に拡張した3原作すべての脚本を担当したことになる。
ハイビジョンリマスター版で、シェブニックス夫人から「わたしと主人はね、同じプレーンで会ったんです」と言われて、ジャップ警部が「プレーンとは?」と訊き返すところは、原語だと 'On holiday? (旅行中に?)' と言っており、 plane を「飛行機」の意味でとらえてしまっている。
ポワロが弾道を検証するのに描いている見取り図には筆記体で文字が書かれているが、これは「エンドハウスの怪事件」や「負け犬」などで見られるポワロ(スーシェ)の筆跡とは異なる。弾道の破線だけインクの色が濃いので、それ以外の部分はあらかじめ描かれた状態で用意された小道具なのだろう。しかし、図の左側にある廊下下方にはルースとミス・リンガードがやってきた廊下が、銅鑼の向かって右隣の壁にはドアがあるはずである。なお、原作小説にも現場の見取り図が掲載されており、この場面はそれを意識したものだろうか。
ルースの「わたしは俗に言う私生児だったんです」という台詞は、日本語だと「私生児」という言葉があまり俗語に聞こえないかもしれないが、原語は love child という表現で、非嫡出子の正式な表現は illegitimate child という。また、彼女が語るシェブニックス家に引き取られた経緯は、日本語だと「〔本当の〕父が亡くなったあと、〔母は〕手紙を書いて、わたしをシェブニックス家に引き渡したんです」という表現で、母親のほうから引き渡しを持ちかけたニュアンスだが、原語は 'When my father died, she wrote to Gervace. (父が亡くなったとき、母はジャベイスに手紙を書きました) He couldn't have any children of his own, so he adopted me. (ジャベイスは自分の子供ができなかったので、それでわたしを引き取ったんです)' という表現で、日本語ほどにはそのニュアンスは強くない。なお、ルースはここ以外でも、原語だと義理の両親を Gervace (ジャベイス), Vanda (バンダ) と名前で呼んでおり、このような呼び方は上流階級の流儀である。
ウィンパリーに向かう汽車の窓の向こうに映る道路には、センターラインが引かれているのが見える。他作品では、撮影時、現代的な道路標示は隠されることが多い。また、ハムバラ・クロースのポワロの部屋で銃声らしき音を聞く場面では、ドアの上方右横に、おそらくは現代的な設備をマスキングで隠した白い箱が見える。そして、ノースゲート開発での爆発の直前、2階の画面手前を向いた窓にはビニールのようなものが張られているのが見える。キャストやカメラのいる側に窓ガラスや屋内のものの破片が飛散するのを避けるためのものだろうか。
遺体発見時、ジャベイスのデスクの上の、ペーパースタンドのいちばん手前(部屋の入り口側)にはリストを印刷した紙が立てられていたが、ジャップ警部到着以降にはなくなっている。また、ポワロの謎解き中のプレイバックで鏡が割れた瞬間に入ったひびは、ジャベイスの書斎にかけられている鏡のひびとは入り方が異なり、ずっと派手に割れる。
ヒューゴーの車の MG TC は第二次大戦後に生産されたモデルで、実際には1946年製のようである[1]。
遺体発見後、ヘイスティングスに注意をうながされたポワロが鏡を見て「割れてる」と言ったり、外から窓の掛け金を下ろしてみせて「ほら」と言ったりするのは日本語のみ。また、ジャップ警部に同行を求められた犯人に呼びかけられて、ポワロが「はい」と応じる返事も日本語のみである。
ハイビジョンリマスター版では、冒頭のハッチンソン競売商のプレートが映るのにあわせて「競売商」という字幕が追加された。また、4K版では、モダンアート美術館から引きあげる際の「君は あのお嬢さんをどう思いましたか?」というポワロの台詞の表示が、音声に対してかなり早く消える。
ハッチンソン競売商の建物は、「消えた廃坑」でスコットランド・ヤードの内部だったり、「コーンワルの毒殺事件」でペンゲリーの裁判がひらかれたりしたチジック・タウン・ホール。レイクとルースが密かに結婚式を挙げた建物は、クラウチ・エンドのホーンジー・タウン・ホール。ハムバラ・クロースに向かう鉄道はブルーベル鉄道で、ウィンパリー駅は、「ジョニー・ウェイバリー誘拐事件」のエピローグでも撮影に使われたホーステッド・ケインズ駅。ただし、ポワロたちが乗った汽車が陸橋をくぐる場面は、「プリマス行き急行列車」でポワロとヘイスティングスが現場に向かう場面の使いまわしである。この鉄道や駅はほかに、「コックを捜せ」(車内のみ)や「スタイルズ荘の怪事件」、「西洋の星の盗難事件」(駅は元ケッチズ・ホールト駅)、「ABC殺人事件」でも撮影に使われている。ハムバラ・クロースの撮影に使われたのは、サリー州ユーハースト近郊にあるメリーランズという邸宅。劇中ではジョン・レイクの設計と見られるこの邸宅を実際にデザインしたのは、「二重の罪」に登場するミッドランド・ホテルや、「ダベンハイム失そう事件」のキンバリー・ハウスや「盗まれたロイヤル・ルビー」のキングス・レイシーとして撮影に使用されたジョルドウィンズも設計したオリバー・ヒルである[2][3][4]。ミス・リンガードが絵の写真を撮っていたモダンアート美術館の建物は、「100万ドル債券盗難事件」のエズミーや「戦勝舞踏会事件」のココの住まいとして使われたマンション、ハイポイントI。
スネル役のジェームス・グリーンは、ジョン・ソウ主演の「主任警部モース」の一篇、「死者たちの礼拝」終盤の裁判での弁護側弁護士役でも見ることができる。
» 結末や真相に触れる内容を表示
謎解きのなかでポワロがシェブニックスの机にあったメモについて「たった一言の簡単なメモが偽造され」と言うが、原語では 'The suicide note of one word is easily forged. (一言の遺書は簡単に偽造できます)' という表現で、動詞が is と現在形でもあるように、「簡単」なのは内容ではなく偽造行為の難易度を言っている。
原作では、ルースが2回庭に出たのに足跡が1組しか残っていなかったことから、その2回のあいだに誰かが足跡を消したという推理がなされるが、ドラマでは特に触れられずに終わる。一応日本語では、犯人のミス・リンガードにポワロが「もちろん、〔あなたは〕注意深く足跡を消しました」と言うが、原語では 'taking care to leave no footprints in the soil (土に足跡を残さないよう気をつけて)' という表現で、一度つけた足跡をあとから消したとは限らず、映像でも足跡を消した様子は見られない。もっともドラマでは、原作と異なり現場から弾が見つからず、他殺であることが早くから明確になっていて、足跡の不自然さを追及する必要も減じられている。
ポワロが注目した、「彼女〔ルース〕は庭から入ってきたと言わなかった」ミス・リンガードの台詞は、日本語だと「死体が発見される直前、あなたと一緒でした?」というポワロの質問に対し、「ええ。お嬢さんはわたくしがいた居間に入ってきて、一緒にいましたわ」と答えていたが、原語では 'I understand that you saw her just before the body was discovered. (死体が発見される直前、彼女に会ったそうですね)' 'It was just after we all heard the shot. She was with me in the living room. (ええ。銃声を聞いたすぐあとですわ。お嬢さんは居間でわたくしと一緒でした)' というやりとりで、どちらが先に居間にいたのかも曖昧な表現になっており、日本語以上にルースへ疑いが向かないよう配慮した形になっている。
ロケ地写真
カットされた場面
日本
オリジナル版
[03:06/0:37] | 競売所でジャベイスと別れたあとのポワロとヘイスティングスの会話後半 |
[07:48/0:28] | ポワロたちを乗せた車がハムバラ・クロースに到着する場面 〜 執事にとりつがれるポワロとヘイスティングス |
[09:41/0:18] | 中庭でのレイクとポワロの会話 |
[15:35/0:41] | 警察がハムバラ・クロースに到着する場面 〜 ポワロとヘイスティングスがジャップ警部を迎える場面 〜 死体をジャップ警部に見せるポワロ |
[18:34/1:13] | ジャップ警部とシェブニックス夫人の会見 |
[19:25/1:08] | 引きあげようとするジャップ警部と、ポワロ、ヘイスティングスの玄関での会話 〜 書斎でポワロがジャップ警部に2つの疑問を呈する場面 |
[23:49/0:43] | リンガードと別れたあと、美術館でのポワロとヘイスティングスの会話 〜 スコットランド・ヤードでのジャップ警部との会話前半 |
[25:48/0:12] | ノースゲート開発のドアを開けるジャップ警部 〜 3人が中に入った直後 |
[36:45/0:34] | ヒューゴーとスーザンがハムバラ・クロースをあとにする場面 |
ハイビジョンリマスター版
なし映像ソフト
- [VHS] 「名探偵エルキュール・ポアロ 第30巻 死人の鏡」(字幕) 日本クラウン
- [DVD] 「名探偵ポワロ 23 死人の鏡, グランド・メトロポリタンの宝石盗難事件」(字幕・吹替) ビームエンタテインメント(現ハピネット・ピクチャーズ)※1
- [DVD] 「名探偵ポワロ [完全版] 23 死人の鏡, グランド・メトロポリタンの宝石盗難事件」(字幕・吹替) ハピネット・ピクチャーズ※2
- [DVD] 「名探偵ポワロ DVDコレクション 64 死人の鏡」(字幕・吹替) デアゴスティーニ・ジャパン※3
- [BD] 「名探偵ポワロ Blu-ray BOX Disc 12 死人の鏡, グランド・メトロポリタンの宝石盗難事件, ポワロのクリスマス」(字幕/吹替) ハピネット・ピクチャーズ※4
- ※1 「名探偵ポワロ DVD-BOX3」にも収録
- ※2 「名探偵ポワロ [完全版] DVD-BOX2」「名探偵ポワロ [完全版] 全巻 DVD-SET」「名探偵ポワロ [完全版] DVD-SET 6」にも収録
- ※3 吹替は大塚智則さん主演の新録で、映像もイギリスで販売されているDVDと同じバリエーションを使用
- ※4 「名探偵ポワロ Blu-ray BOX vol. 2」に収録