メソポタミア殺人事件 Murder in Mesopotamia
放送履歴
日本
オリジナル版(99分00秒)
- 2002年01月01日 16時00分〜 (NHK総合)
- 2003年07月27日 13時05分〜 (NHK総合)※
- 2004年02月07日 26時30分〜 (NHK総合)
- ※ 高校野球地区予選がなかった地方のみ
ハイビジョンリマスター版(99分00秒)
- 2016年09月24日 16時00分〜 (NHK BSプレミアム)
- 2017年03月01日 16時00分〜 (NHK BSプレミアム)
- 2021年04月10日 16時21分〜 (NHK BSプレミアム)
- 2021年12月15日 09時00分〜 (NHK BS4K)
- 2023年05月10日 21時00分〜 (NHK BSプレミアム・BS4K)※1 ※2
- ※1 BSプレミアムでの放送は、オープニング冒頭の画面左上にBS4K同時放送のアイコン表示あり
- ※2 BSプレミアムでの放送は、56分37秒頃からNHK地震速報の字幕の表示あり
海外
- 2001年07月08日 (米・A&E)
- 2002年06月02日 (英・ITV)
原作
邦訳
- 『メソポタミヤの殺人』 クリスティー文庫 田村義進訳
- 『メソポタミヤの殺人』 クリスティー文庫 石田善彦訳
- 『メソポタミヤの殺人』 ハヤカワミステリ文庫 高橋豊訳
- 『殺人は癖になる』 創元推理文庫 厚木淳訳
- 『メソポタミア殺人事件』 新潮文庫 蕗沢忠枝訳
原書
- Murder in Mesopotamia, Collins, 6 July 1936 (UK)
- Murder in Mesopotamia, Dodd Mead, 1936 (USA)
オープニングクレジット
日本
オリジナル版
海外ドラマ // 名探偵ポワロ / AGATHA CHRISTIE'S POIROT / メソポタミア殺人事件 // DAVID SUCHET / HUGH FRASER / MURDER IN MESOPOTAMIA / Based on the novel by AGATHA CHRISTIE / Dramatized by CLIVE EXTON
ハイビジョンリマスター版
名探偵ポワロ / DAVID SUCHET / AGATHA CHRISTIE'S POIROT / メソポタミア殺人事件 // DAVID SUCHET / HUGH FRASER / MURDER IN MESOPOTAMIA / Based on the novel by AGATHA CHRISTIE / Dramatized by CLIVE EXTON
エンディングクレジット
日本
オリジナル版
原 作 アガサ・クリスティー 脚 本 クライブ・エクストン 演 出 トム・クレッグ 制 作 カーニバル・フィルム(イギリス 2000年) / 出 演 ポワロ(デビッド・スーシェ) 熊倉 一雄 ヘイスティングス(ヒュー・フレイザー) 安原 義人 ライドナー博士 小川 真司 ルイーズ・ライドナー 土井 美加 リチャード・ケアリー 小杉 十郎太 アン・ジョンソン 小宮 和枝 ラヴィニー神父 池田 勝 村治 学 野沢 由香里 内田 夕夜 福田 信昭 安藤 麻吹 目黒 未奈 廣田 行生 小野塚󠄀 貴志 宗矢 樹頼 園田 恵子 よの ひかり / 日本語版スタッフ 宇津木 道子 金谷 和美 南部 満治 浅見 盛康 佐藤 敏夫
ハイビジョンリマスター版
原作 アガサ・クリスティー 脚本 クライブ・エクストン 演出 トム・クレッグ 制作 カーニバル・フィルム (イギリス) / 出演 ポワロ(デビッド・スーシェ) 熊倉 一雄 ヘイスティングス(ヒュー・フレイザー) 安原 義人 ライドナー博士 小川 真司 ルイーズ・ライドナー 土井 美加 リチャード・ケアリー 小杉 十郎太 アン・ジョンソン 小宮 和枝 ラヴィニー神父 池田 勝 村治 学 野沢 由香里 内田 夕夜 福田 信昭 安藤 麻吹 目黒 未奈 廣田 行生 小野塚󠄀 貴志 宗矢 樹頼 園田 恵子 よの ひかり 日本語版スタッフ 翻訳 宇津木 道子 演出 佐藤 敏夫 音声 金谷 和美 プロデューサー 里口 千
海外
オリジナル版
Director: TOM CLEGG / Producer: BRIAN EASTMAN / For A&E Television Networks; Exective Producer: DELIA FINE; Supervising Producer: KRIS SLAVA; For Chorion plc; Exective Producer: PHIL CLYMER / Director of Photograohy: KEVIN ROWLEY; Production Designer: ROB HINDS; Costume Designer: CHARLOTTE HOLDICH; Make-up: SARAH GRUNDY / Music: CHRISTOPHER GUNNING; Editor: CHRIS WINBLE; Sound Recordist: SANDY MacRAE; Associate Producer: SIMON CRAWFORD COLLINS / Poirot: DAVID SUCHET; Hastings: HUGH FRASER; Dr Leidner: RON BERGLAS; Mrs Leidner: BARBARA BARNES; Anne Johnson: DINAH STABB; Amy Leatheran: GEORGINA SOWERBY; Bill Coleman: JEREMY TURNER-WELCH; Sheila Maitland: PANDORA CLIFFORD; Father Lavigny: CHRISTOPHER HUNTER / Richard Carey: CHRISTOPHER BOWEN; Superintendent Maitland: IAIN MITCHELL; Joseph Mercado: ALEXI KAYE CHAMPBELL; Mrs Mercado: DEBORAH POPLETT; Squat Man: KAMEL TOUATI; Hotel Receptionist: HICHEM ROSTOM; Police Sergeant: ZOUBEIR BORNAZ; Murdered Man: REJEB MAGRI; Workman: HAMMADI MAAROUFI; Abdullah: RAMZI BRARI / (中略)Casting: ANNE HENDERSON; 1st Assistant: ROGER SIMONS; 2nd Assistant: DANNY PRUETT; 3rd Assistant: MARIOS HAMBOULIDES; Script Supervisor: MARISSA COWELL; Accounts: JOHN BEHARRELL, PENNY BEHARRELL; Co-ordinator: KORA McNULTY / TUNISIA; Production Supervisor: CHARLES HUBBARD; CTV Production Audio Visuelle: ABDELAZIZ BEN MLOUKA; Art Director: KHALED JOULAK; Production Manager: MOEZ KAMOUN; Co-1st Asst Director: ILYESS ZRELLI; Production Co-ordinator: PHILIPPA DAY / Thanks to the Archeological Site of Oudhna / Camera Operator: TOMY WOODCOCK; Focus Puller: JASON WRENN; Loader: CHRIS SAMWORTH; Grip: IAN BUCKLEY; Boom Operator: MIKE REARDON; Gaffer: KENNY SYKES; Art Directors: HENRY JAWORSKI, NIGEL EVANS, PAUL BOOTH; Buyer: MARSHALL AVER; Property Master: MIKE KILLMAN / Make-up Artists: KATE HODGSON, JANE TYLER, TERESA KELLY; Wardrobe: PAT WILLIAMSON, DEL COLLEY, MANDY DUNN; Construction: STEVE BOHAN; Stunts: JASON WHITE; Assistant Editor: HERMIONE BYRT; Sound Editing: OLIVER TARNEY, PETER BOND; Dubbing Mixer: IAN TAPP / CARNIVAL FILMS in association with A&E TELEVISION NETWORKS and CHORION plc; © Carnival Films MM
あらすじ
ヘイスティングスの滞在する、メソポタミアの遺跡発掘現場を訪れたポワロ。しかし、調査隊には不穏な空気が漂っていた。アラブ人の殺害、調査隊の様子を窺う正体不明の男、ライドナー夫人のもとへ届けられる死んだはずの前夫からの脅迫状、そして……
事件発生時期
不詳
主要登場人物
エルキュール・ポワロ | 私立探偵 |
アーサー・ヘイスティングス | ポワロの探偵事務所のパートナー、陸軍大尉 |
エリック・ライドナー | 考古学者、調査隊隊長 |
ルイーズ・フェリシティ・エリノア・ライドナー | エリックの妻 |
リチャード・ケアリー | 調査隊員 |
アン・ジョンソン | 調査隊員、愛称アニー |
ジョゼフ・マーカード | 調査隊員、愛称ジョー |
マリー・マーカード | ジョゼフの妻 |
ウィリアム・コールマン | 調査隊員、ヘイスティングスの甥、愛称ビル |
ラヴィニー | 神父、哲学者、有名な考古学者 |
エイミー・レザラン | ライドナー夫人付の看護婦 |
メイトランド | 警察署長 |
シーラ・メイトランド | メイトランド署長の娘 |
解説、みたいなもの
クリスティーは中東を専門とする考古学者のマックス・マローワンと1930年に出会って再婚し、以降毎年、その発掘旅行に同行していた。1935年に執筆、1936年に刊行された原作小説は、マローワンが1931年まで助手を務めていたウーリー教授の発掘隊のメンバーに着想を得て書かれ[1]、「イラクおよびシリアで考古学に携わる多くの友人」に捧げられている。当時のメソポタミア地域は第一次大戦後のイギリスの委任統治を経てイラク王国が成立、独立していたが、石油や軍事の面でなおイギリスの影響下にあり、しばしば抵抗も起きていた。ただし、劇中ではそうした世情には触れられず、異国情緒にあふれた旅行ものとして仕立てられている。
原作の登場人物のうち、デビッド・エモット、カール・ライター、ドクター・ライリーがカットされる一方、ビル・コールマンの叔父としてヘイスティングスが追加されている。これまでも短篇作品で原作に登場しないヘイスティングスが登場することはあったが、長篇作品ではこのエピソードが初めて。本作が制作された時点で、ヘイスティングスが登場する原作は『ビッグ4』、『ブラック・コーヒー』、「呪われた相続人」、そして最終作の『カーテン』を残すのみ(ただし、「マーケット・ベイジングの怪事件」など、既存の映像化作品と内容が大きく被る原作は除く)となっており、ドラマでは今後ともヘイスティングスの登場が期待されたが、次シリーズで制作体制が一新されたのに伴ってヘイスティングスは姿を消し、「ビッグ・フォー」で再登場するまで13年のブランクが空くことになった。ドクター・ライリーの娘のシーラは、ドクターのカットに伴ってメイトランド署長の娘に変更された。冒頭のアラブ人殺害、マーカードの自殺などはドラマオリジナル。ロザコフ伯爵夫人に関するサイドストーリーも同様にドラマオリジナルながら、今回の伯爵夫人の性格設定は「二重の手がかり」のときよりも原作に近く、上海という行き先も「ビッグ・フォー」の原作へのつながりを思わせる。これは本作が、「二重の手がかり」と違って、原作に比較的忠実に脚色するクライブ・エクストンの脚本によるためだろうか。なお、「二重の手がかり」の日本語音声では、「ロサコフ伯爵夫人」と発音していた。
劇中ではライドナー博士がラヴィニー神父を招聘するべく電報を打った先がチュニジアだが、現在のイラクは政情が不安定であることから、撮影はそのチュニジアの首都チュニスの周辺で2週間にわたっておこなわれた。発掘現場の撮影地はチュニス南郊のウティナ遺跡、バグダッドのパレス・ホテルはチュニス南東ハマム・リフのホテル・カジノ、東方電信社のある通りはチュニス旧市街のシャトー通り、ホテル向かいの庭園はチュニスのアフリカ広場で、警察署前の椰子の木が立ち並ぶ通りはカルタゴのアンフィテアトル通りか。撮影中の気温は摂氏40度近くにまで達したといい、体型を太く見せるパッドを体に巻きつけ、カラーにメイクを移さないためのティッシュを首に巻いて、ポワロの出で立ちに扮したデビッド・スーシェの苦労は、相当なものだったようだ。実際、普段よりも軽く、背中にアイスパックを2つ入れられる特別なパッドを用いていたにもかかわらず、撮影中にスーシェが倒れるトラブルもあったという。そのため、ポワロの出番は早朝や夕方に撮影するなどの配慮がされているということで、劇中の一日のなかで不自然に影が長くなったり短くなったりする。また暑さ以外にも、実質的な砂嵐が常時吹いているような環境下での撮影となったため、撮影が進むにつれて皆がすこしずつ薄汚れていってしまい、ポワロの靴やスパッツを汚れなく保つために、スタッフによる定期的な手入れがおこなわれているという。撮影全体としては2000年8月の第2週にイギリスのブレイ・スタジオから始まり、6週間を要している。[2][3][4]
冒頭、ヘイスティングスがロザコフ伯爵夫人のことをビルに「〔ポワロの〕旧知の女性」と説明するところは、原語だと an old flame of his という表現で、これには単なる旧知の女性ではなく昔の恋人というニュアンスがあり、そのためにいっそうポワロの迷惑そうな皮肉のこもった礼につながる。
集合写真を撮る際、ハイビジョンリマスター版では、カメラのそばに立つライドナー博士を映したカットで、画面左側に割と大きな糸のようなものが映り込んでしまっている。またそのあと、ポワロの「ウスというのは?」という質問に対してライドナー夫人が「石臼ですわ」と答えるのは、結局「臼」という言葉を使っていて説明になっていないように聞こえるが、原語では quern という単語を mill stone (製粉石) というまったく別の言葉で説明している。加えて、この質問の際、臼を動かす音がしているが、ポワロの後ろには臼を動かしているはずのヘイスティングスが直立している。
ヘイスティングスが「イラクのこのあたりが昔なぜメソポタミアと呼ばれたか」と言うが、1932年にイラク王国の独立が承認されるまで同地は英国委任領メソポタミアと呼ばれていて、当時としてはさほど昔のことではなく、原語では明示的に「昔」に対応する表現はない。
脅迫状の送り主の心当たりについて、ライドナー夫人が前の夫の弟のウィリアムの名前を挙げ、「彼にとっては、わたしがほかの男性とつきあうことが兄に対する裏切り行為だと思えたんでしょうね」と、ほぼ決めてかかっているように日本語で言うところは、原語だと 'Parhaps he feels that any involvement I have with another man is somehow betraying his brother's memory. (彼にとっては、わたしがほかの男性とつきあうことは、兄の思い出への裏切りのようなものと感じられたかもしれないわ)' と可能性を呈示するニュアンスで、だからその後の「あなたはそのウィリアム・ボズナーがいまだに復讐の機会を狙っていると?」というポワロの質問にかぶりを振る。
ライドナー夫人がニューヨークへ定期購読の申し込みと見られる手紙を出した Vanity Fair (ヴァニティ・フェア) は実在したアメリカの社交誌で、同誌には幾度か、クリスティーの姉のマッジが書いた短篇小説が掲載されたこともあった[5]。その宛先の住所も、実際に同誌のオフィスがあった場所のようだ。なお、この手紙の宛名書きを見て、ヘイスティングスが「この筆跡はあの手紙と……」と言うのは日本語のみである。
発掘現場を訪れたシーラがケアリーから「ずいぶん遠出してきたね」と言われたのに対し、「遠出っていうほどでもないわ」と答えるところは、原語だと 'If Mahomet won't go to the mountain... (もしマホメットが山へ行こうとしないなら……)' という表現で、これは If Mahomet won't go to the mountain, the mountain must come to Mahomet. (もしマホメットが山へ行こうとしないなら、山がマホメットのところまで来ざるをえない) ということわざの一部。つまり、「遠出」という評価を否定するよりもむしろ、ケアリーが来てくれないなら、遠かろうと自分から出向くしかないと言っている。
ポワロがラヴィニー神父に「先日誰かと話されているのをヘイスティングスが見かけましたが、同じ男が以前宿舎の窓を覗いていたのが目撃されています」と言ったところは、日本語だと「誰か」と言いながら、すぐ「同じ男」と個人を識別しているように言うが、原語では 'a man (男)', 'this very same man (そのまさに同じ男)' という言い方である。また、「以前」という言葉もあって時間の離れた2つの出来事に言及しているように聞こえるが、実際には、窓を覗こうとしていた男が見とがめられて立ち去る際、神父が知りあいのように声をかけたが、ヘイスティングスたちに見られていることに気づいて態度を変えた一連の出来事を指している。なお原作では、男が宿舎の窓を覗こうとしていたのと、その男に神父が話しかけたのは、日本語の台詞のように別のタイミングでの出来事だった。
ミス・ジョンソンのポケットから落ちた紙玉をレザラン看護婦が広げて内容を確認する際、紙面がアップになったカットでは、明らかに紙の皺がすくない。また、その内容を「おれは来たぞ。情事はやめろ」とレザラン看護婦が読み上げるのは日本語音声のみである。
ポワロがレザラン看護婦に「腹蔵なく、ですか?」と言う際に両手を動かすのは、原語で 'the gloves removed, eh? (手袋を取り除いて、ですか?)' という表現をしているため。ただしこれは、 the gloves off (手袋をはずして) という英語の慣用句を、ポワロがまちがえたものである。
ヘイスティングスの甥、コールマンのファーストネームは、日本語だと一貫してビルと呼ばれているが、ビルはウィリアムの愛称で、原語だとポワロがヘイスティングスに彼の人物評を聞く場面などでウィリアムと呼ばれている。すなわち、彼はライドナー夫人と同じアメリカ出身で、養子のため不詳な旧姓と、フレドリック・ボズナーの弟と同じファーストネームを持つのである。
シーラがライドナー夫人について「悪いけど、彼女自身も〔夫人が殺されても仕方がないと〕認めてたんじゃない? ほかの人たちもそう」と言ったところは、原語だと 'Nurse Leatheran, I'm afraid, was quite taken in by her, as many other people were. (悪いけど、レザランさんは夫人に丸め込まれていたのよ。ほかの大勢の人と同じに)' という台詞で、レザラン看護婦や「ほかの人たち」の夫人の評価が逆転している。
バグダッドの警察署からヤリンジャ遺跡へ場面が移った際、発掘現場を広く映した映像は、エピソードタイトルバックで使われていたのと同じものである。
ポワロがケアリーにライドナー夫人との関係を質問する場面では、ポワロを正面から写したカットと、ケアリーを正面から写したカットで、太陽の高さや風の強さが大きく異なっており、それぞれ時間的に(おそらくは地理的にも)離れて撮影されたことがわかる。
ヘイスティングスが家を離れた理由について「彼女〔妻〕も息抜きが必要です」と言うところは、日本語だとヘイスティングスが妻の体調を汲んだ結果のようにも聞こえるが、原語では 'She felt she needed a bit of a break. (彼女に息抜きが必要だというので)' という表現で、その前のやりとりから一貫してヘイスティングスがいると休めないと夫人から伝えられた趣旨なので、「女性心理の専門家として説教しようなどと考えないでください」というポワロの要求につながる。
塩酸によって毛織りらしき絨緞に穴があいている場面があるが、ウールは濃塩酸でもあのように腐食されることはないはずである。
シーラがポワロ宛の電報を持って調査隊の宿舎へやってきた際、ポワロとヘイスティングスがシーラのほうを振り向くカットは映像が左右反転されている。これはおそらく、そのままだとカメラの切り替わりでイマジナリーライン(対面する相手同士をつなぐ仮想の線のことで、これを越えるカットの切り替えは視聴者に違和感を与える。ここではシーラと、前のカットからわかるポワロたちの立ち位置をつなぐ線に当たる)を越えてしまうためで、左右反転によってその違和感を減じたのだろう。
ルイーズ・ライドナー役のバーバラ・バーンズは、「消えた廃坑」のレスター夫人役(このときの吹替は弘中くみ子さん)につづく「名探偵ポワロ」2度目の出演。また、ジョーン・ヒクソン主演の「ミス・マープル」の一篇、「カリブ海の秘密」にもエスター・ウォルターズ役(このときの吹替は本作と同じ土井美加さん)で出演している。ラヴィニー神父役のクリストファー・ハンターは、ベネディクト・カンバーバッチ主演「シャーロック2」の「ライヘンバッハ・ヒーロー」にもペントンビル刑務所長役で出演。
ラヴィニー神父の吹替の池田勝さんは、ピーター・ユスチノフ主演のドラマ「エッジウェア卿の死」でデビッド・スーシェ(ジャップ警部役)の吹替をしていたほか、映画「ダイヤルM」(吹替が船越英一郎さん主演のもの、および小川真司さん・田中敦子さん主演のもの)でもスーシェの吹替を担当している。
最初の晩のディナーの席や、ミス・ジョンソンを捜していたときにレザラン看護婦が来ていた花柄のワンピースは、「イタリア貴族殺害事件」でヘイスティングスが車の購入を決めたときにミス・ファブリが着ていたのと同じ服である。
ポワロがライドナー博士に「ディナーは8時です、ポワロさん」と言われて「はい」と答えたり、ホテルの受付に「〔ロザコフ伯爵夫人は〕まだお戻りになっていません」と言われて「そう……」と応じたり、ミス・ジョンソンに「シーラ・メイトランド?」と訊かれて「うん」と答えたりするのは日本語のみの台詞である。
ライドナー夫人のファーストネームは Louise (ルイーズ) だが、かつての結婚式のカードには Louisa (ルイーザ) と書かれている。また、マーカードが自殺した部屋へ警察が到着した場面で、メイトランド署長が「人を入れるな」と言った直後、マーカードの遺体にカメラが移ってすぐ、死んでいるはずのマーカードが瞬きをする。
ドラマ本篇とは関係ないが、ハピネット・ピクチャーズの映像ソフトでは、冒頭のエピソードタイトルからポワロたちを乗せた車が調査隊の宿舎に到着するまでのチャプターに「バグダッドへ」というタイトルがつけられている。そのなかでは確かにポワロがバグダッドへ出向いた理由も説明されるが、直接にはバグダッドからヤリンジャ遺跡へ向かう場面である。
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劇中の時期については、フレドリック・ボズナー処刑の新聞記事の日付が NOVEMBER 11, 1918 (1918年11月11日)、ライドナー夫人との再会まで15年、ライドナー夫妻の結婚から1年以内と見られるところからは、早ければ1934年頃と考えられる。一方、ヘイスティングスの夫人との出逢いは1936年5月で、それが結婚して数年経っているとなると、どんなに早くとも1938年以降ということになる。しかし、ライドナー夫人が手紙を出した『ヴァニティ・フェア』誌は、1936年3月に『ヴォーグ』誌に統合される形で休刊している。
マーカードが麻薬を常習していたことについてポワロが、「そして〔ライドナー〕夫人の性格からしてたぶんそれを匂わせたんでしょう、いつでも彼の秘密を暴露できるってことを」と言うが、支配力を好む夫人の性格に関する描写や言及は、ドラマだとシーラによる人物評くらいしかなく(しかもメイトランド署長の保留つき)、納得感が乏しいかもしれない。また、このポワロの台詞は原語だと 'And perhaps it would have suited the temperament of Madame Leidner to feel that she knew a secret which she could reveal at any minute—with the effects most disastrous, eh? (そして、いつでも暴露できる重大な秘密を知っているという気分は、たぶん夫人の性格に合ったでしょう)' という表現で、匂わせたとまでは言っていない。もちろん、「ですからマーカード氏としては当然、動機があったわけです」とつづけるには、マーカードがそれを察せる必要があるわけだけれど。
謎解きのなかでポワロが「今回の捜査の過程ですでに何度か申し上げましたが、この事件はライドナー夫人の人柄が大きく関わっています」とか、「最初からこれは痴情による犯罪だと言いました」(原語は 'Have I not said all along that this was a crime passionel? (わたしはずっと、これは痴情による犯罪だと言いませんでしたか?)' という表現で、もっと継続的なニュアンスがある)と言うが、これに類することを言った場面は存在しない。
シーラが事件当日に発掘現場へ来た理由を答えて言う「こっちに来たのは誰かと話したかったからよ」という台詞の「誰か」に相当する原語 someone は、「誰か」のような不特定の人以外にも、「ある人」のように特定の人を想定しながらそれが誰かをぼかしたニュアンスで用いることができ、ここではケアリーを想定して言っていると受け取れる。
謎解きのなかでポワロが言う「ある人の話では、ケアリーさんとライドナー夫人は仲が悪かったそうです。ところが、シーラさんによれば、二人のよそよそしい態度について、まったく正反対の見方もできるというのです。ケアリーさん自身もそのことを裏打ちしてくれました」という台詞の最後の部分は、原語だと 'And Monsieur Carey himself told me something different again. (ケアリーさん自身がまた正反対のことを言いました)' という表現で、これは最初の「ある人」の意見に対してシーラ同様に正反対という意味ではなく、シーラの見解からまた正反対(つまり、最初の意見と同じ)ということであり、「大嫌いだった」というケアリーの発言を言葉どおりに受けたものだった。しかし、ケアリーのライドナー夫人への思いが実際には愛憎が相半ばしていることをポワロはすでに見抜いており、その文脈で評したととらえれば、日本語の表現でも齟齬はない。
日本語音声だと、謎解きのなかでポワロが「〔ライドナー博士は〕凶器の石臼を部屋に置き、〔ミス・ジョンソンが〕良心の呵責で自殺したと見せかけた」と言うが、原語では 'by planting in her room the very quern with which you had killed your wife. (あなたが妻を殺すのに使ったその石臼を部屋に置いて〔罪を着せようとした〕)' としか言っておらず、自殺に見せかけようとしたとまでは言っていない。
ライドナー博士がケアリーに「二人の友情を裏切った」となじる台詞は、原語だと 'You betrayed both of us. (君はわたしたちを二人とも裏切った)' という表現で、日本語はその二人を博士とケアリーととらえて訳されているが、これは博士と夫人のことを言っていると受け取れ、そのほうが「あなたがルイーズを知っていたなら、〔どういうことか〕わかってもらえたでしょう」という述懐にも素直につながる。もっとも、その後続の台詞は原作から存在するのに対し、ケアリーを責める部分はドラマで追加・挿入された台詞であり、博士の述懐は原作だと、夫人を愛し殺したという一見矛盾した自分の行為への理解を求めるものだった。また、原作ではポワロの登場がライドナー夫人の死後であったためにこの述懐があったのだが、ドラマだと事件前からポワロが発掘現場に滞在してライドナー夫人とも交流するので、発言の背景に不整合が生じている。
原作の登場人物のうち、デビッド・エモット、カール・ライター、ドクター・ライリーがカットされる一方、ビル・コールマンの叔父としてヘイスティングスが追加されている。これまでも短篇作品で原作に登場しないヘイスティングスが登場することはあったが、長篇作品ではこのエピソードが初めて。本作が制作された時点で、ヘイスティングスが登場する原作は『ビッグ4』、『ブラック・コーヒー』、「呪われた相続人」、そして最終作の『カーテン』を残すのみ(ただし、「マーケット・ベイジングの怪事件」など、既存の映像化作品と内容が大きく被る原作は除く)となっており、ドラマでは今後ともヘイスティングスの登場が期待されたが、次シリーズで制作体制が一新されたのに伴ってヘイスティングスは姿を消し、「ビッグ・フォー」で再登場するまで13年のブランクが空くことになった。ドクター・ライリーの娘のシーラは、ドクターのカットに伴ってメイトランド署長の娘に変更された。冒頭のアラブ人殺害、マーカードの自殺などはドラマオリジナル。ロザコフ伯爵夫人に関するサイドストーリーも同様にドラマオリジナルながら、今回の伯爵夫人の性格設定は「二重の手がかり」のときよりも原作に近く、上海という行き先も「ビッグ・フォー」の原作へのつながりを思わせる。これは本作が、「二重の手がかり」と違って、原作に比較的忠実に脚色するクライブ・エクストンの脚本によるためだろうか。なお、「二重の手がかり」の日本語音声では、「ロサコフ伯爵夫人」と発音していた。
劇中ではライドナー博士がラヴィニー神父を招聘するべく電報を打った先がチュニジアだが、現在のイラクは政情が不安定であることから、撮影はそのチュニジアの首都チュニスの周辺で2週間にわたっておこなわれた。発掘現場の撮影地はチュニス南郊のウティナ遺跡、バグダッドのパレス・ホテルはチュニス南東ハマム・リフのホテル・カジノ、東方電信社のある通りはチュニス旧市街のシャトー通り、ホテル向かいの庭園はチュニスのアフリカ広場で、警察署前の椰子の木が立ち並ぶ通りはカルタゴのアンフィテアトル通りか。撮影中の気温は摂氏40度近くにまで達したといい、体型を太く見せるパッドを体に巻きつけ、カラーにメイクを移さないためのティッシュを首に巻いて、ポワロの出で立ちに扮したデビッド・スーシェの苦労は、相当なものだったようだ。実際、普段よりも軽く、背中にアイスパックを2つ入れられる特別なパッドを用いていたにもかかわらず、撮影中にスーシェが倒れるトラブルもあったという。そのため、ポワロの出番は早朝や夕方に撮影するなどの配慮がされているということで、劇中の一日のなかで不自然に影が長くなったり短くなったりする。また暑さ以外にも、実質的な砂嵐が常時吹いているような環境下での撮影となったため、撮影が進むにつれて皆がすこしずつ薄汚れていってしまい、ポワロの靴やスパッツを汚れなく保つために、スタッフによる定期的な手入れがおこなわれているという。撮影全体としては2000年8月の第2週にイギリスのブレイ・スタジオから始まり、6週間を要している。[2][3][4]
冒頭、ヘイスティングスがロザコフ伯爵夫人のことをビルに「〔ポワロの〕旧知の女性」と説明するところは、原語だと an old flame of his という表現で、これには単なる旧知の女性ではなく昔の恋人というニュアンスがあり、そのためにいっそうポワロの迷惑そうな皮肉のこもった礼につながる。
集合写真を撮る際、ハイビジョンリマスター版では、カメラのそばに立つライドナー博士を映したカットで、画面左側に割と大きな糸のようなものが映り込んでしまっている。またそのあと、ポワロの「ウスというのは?」という質問に対してライドナー夫人が「石臼ですわ」と答えるのは、結局「臼」という言葉を使っていて説明になっていないように聞こえるが、原語では quern という単語を mill stone (製粉石) というまったく別の言葉で説明している。加えて、この質問の際、臼を動かす音がしているが、ポワロの後ろには臼を動かしているはずのヘイスティングスが直立している。
ヘイスティングスが「イラクのこのあたりが昔なぜメソポタミアと呼ばれたか」と言うが、1932年にイラク王国の独立が承認されるまで同地は英国委任領メソポタミアと呼ばれていて、当時としてはさほど昔のことではなく、原語では明示的に「昔」に対応する表現はない。
脅迫状の送り主の心当たりについて、ライドナー夫人が前の夫の弟のウィリアムの名前を挙げ、「彼にとっては、わたしがほかの男性とつきあうことが兄に対する裏切り行為だと思えたんでしょうね」と、ほぼ決めてかかっているように日本語で言うところは、原語だと 'Parhaps he feels that any involvement I have with another man is somehow betraying his brother's memory. (彼にとっては、わたしがほかの男性とつきあうことは、兄の思い出への裏切りのようなものと感じられたかもしれないわ)' と可能性を呈示するニュアンスで、だからその後の「あなたはそのウィリアム・ボズナーがいまだに復讐の機会を狙っていると?」というポワロの質問にかぶりを振る。
ライドナー夫人がニューヨークへ定期購読の申し込みと見られる手紙を出した Vanity Fair (ヴァニティ・フェア) は実在したアメリカの社交誌で、同誌には幾度か、クリスティーの姉のマッジが書いた短篇小説が掲載されたこともあった[5]。その宛先の住所も、実際に同誌のオフィスがあった場所のようだ。なお、この手紙の宛名書きを見て、ヘイスティングスが「この筆跡はあの手紙と……」と言うのは日本語のみである。
発掘現場を訪れたシーラがケアリーから「ずいぶん遠出してきたね」と言われたのに対し、「遠出っていうほどでもないわ」と答えるところは、原語だと 'If Mahomet won't go to the mountain... (もしマホメットが山へ行こうとしないなら……)' という表現で、これは If Mahomet won't go to the mountain, the mountain must come to Mahomet. (もしマホメットが山へ行こうとしないなら、山がマホメットのところまで来ざるをえない) ということわざの一部。つまり、「遠出」という評価を否定するよりもむしろ、ケアリーが来てくれないなら、遠かろうと自分から出向くしかないと言っている。
ポワロがラヴィニー神父に「先日誰かと話されているのをヘイスティングスが見かけましたが、同じ男が以前宿舎の窓を覗いていたのが目撃されています」と言ったところは、日本語だと「誰か」と言いながら、すぐ「同じ男」と個人を識別しているように言うが、原語では 'a man (男)', 'this very same man (そのまさに同じ男)' という言い方である。また、「以前」という言葉もあって時間の離れた2つの出来事に言及しているように聞こえるが、実際には、窓を覗こうとしていた男が見とがめられて立ち去る際、神父が知りあいのように声をかけたが、ヘイスティングスたちに見られていることに気づいて態度を変えた一連の出来事を指している。なお原作では、男が宿舎の窓を覗こうとしていたのと、その男に神父が話しかけたのは、日本語の台詞のように別のタイミングでの出来事だった。
ミス・ジョンソンのポケットから落ちた紙玉をレザラン看護婦が広げて内容を確認する際、紙面がアップになったカットでは、明らかに紙の皺がすくない。また、その内容を「おれは来たぞ。情事はやめろ」とレザラン看護婦が読み上げるのは日本語音声のみである。
ポワロがレザラン看護婦に「腹蔵なく、ですか?」と言う際に両手を動かすのは、原語で 'the gloves removed, eh? (手袋を取り除いて、ですか?)' という表現をしているため。ただしこれは、 the gloves off (手袋をはずして) という英語の慣用句を、ポワロがまちがえたものである。
ヘイスティングスの甥、コールマンのファーストネームは、日本語だと一貫してビルと呼ばれているが、ビルはウィリアムの愛称で、原語だとポワロがヘイスティングスに彼の人物評を聞く場面などでウィリアムと呼ばれている。すなわち、彼はライドナー夫人と同じアメリカ出身で、養子のため不詳な旧姓と、フレドリック・ボズナーの弟と同じファーストネームを持つのである。
シーラがライドナー夫人について「悪いけど、彼女自身も〔夫人が殺されても仕方がないと〕認めてたんじゃない? ほかの人たちもそう」と言ったところは、原語だと 'Nurse Leatheran, I'm afraid, was quite taken in by her, as many other people were. (悪いけど、レザランさんは夫人に丸め込まれていたのよ。ほかの大勢の人と同じに)' という台詞で、レザラン看護婦や「ほかの人たち」の夫人の評価が逆転している。
バグダッドの警察署からヤリンジャ遺跡へ場面が移った際、発掘現場を広く映した映像は、エピソードタイトルバックで使われていたのと同じものである。
ポワロがケアリーにライドナー夫人との関係を質問する場面では、ポワロを正面から写したカットと、ケアリーを正面から写したカットで、太陽の高さや風の強さが大きく異なっており、それぞれ時間的に(おそらくは地理的にも)離れて撮影されたことがわかる。
ヘイスティングスが家を離れた理由について「彼女〔妻〕も息抜きが必要です」と言うところは、日本語だとヘイスティングスが妻の体調を汲んだ結果のようにも聞こえるが、原語では 'She felt she needed a bit of a break. (彼女に息抜きが必要だというので)' という表現で、その前のやりとりから一貫してヘイスティングスがいると休めないと夫人から伝えられた趣旨なので、「女性心理の専門家として説教しようなどと考えないでください」というポワロの要求につながる。
塩酸によって毛織りらしき絨緞に穴があいている場面があるが、ウールは濃塩酸でもあのように腐食されることはないはずである。
シーラがポワロ宛の電報を持って調査隊の宿舎へやってきた際、ポワロとヘイスティングスがシーラのほうを振り向くカットは映像が左右反転されている。これはおそらく、そのままだとカメラの切り替わりでイマジナリーライン(対面する相手同士をつなぐ仮想の線のことで、これを越えるカットの切り替えは視聴者に違和感を与える。ここではシーラと、前のカットからわかるポワロたちの立ち位置をつなぐ線に当たる)を越えてしまうためで、左右反転によってその違和感を減じたのだろう。
ルイーズ・ライドナー役のバーバラ・バーンズは、「消えた廃坑」のレスター夫人役(このときの吹替は弘中くみ子さん)につづく「名探偵ポワロ」2度目の出演。また、ジョーン・ヒクソン主演の「ミス・マープル」の一篇、「カリブ海の秘密」にもエスター・ウォルターズ役(このときの吹替は本作と同じ土井美加さん)で出演している。ラヴィニー神父役のクリストファー・ハンターは、ベネディクト・カンバーバッチ主演「シャーロック2」の「ライヘンバッハ・ヒーロー」にもペントンビル刑務所長役で出演。
ラヴィニー神父の吹替の池田勝さんは、ピーター・ユスチノフ主演のドラマ「エッジウェア卿の死」でデビッド・スーシェ(ジャップ警部役)の吹替をしていたほか、映画「ダイヤルM」(吹替が船越英一郎さん主演のもの、および小川真司さん・田中敦子さん主演のもの)でもスーシェの吹替を担当している。
最初の晩のディナーの席や、ミス・ジョンソンを捜していたときにレザラン看護婦が来ていた花柄のワンピースは、「イタリア貴族殺害事件」でヘイスティングスが車の購入を決めたときにミス・ファブリが着ていたのと同じ服である。
ポワロがライドナー博士に「ディナーは8時です、ポワロさん」と言われて「はい」と答えたり、ホテルの受付に「〔ロザコフ伯爵夫人は〕まだお戻りになっていません」と言われて「そう……」と応じたり、ミス・ジョンソンに「シーラ・メイトランド?」と訊かれて「うん」と答えたりするのは日本語のみの台詞である。
ライドナー夫人のファーストネームは Louise (ルイーズ) だが、かつての結婚式のカードには Louisa (ルイーザ) と書かれている。また、マーカードが自殺した部屋へ警察が到着した場面で、メイトランド署長が「人を入れるな」と言った直後、マーカードの遺体にカメラが移ってすぐ、死んでいるはずのマーカードが瞬きをする。
ドラマ本篇とは関係ないが、ハピネット・ピクチャーズの映像ソフトでは、冒頭のエピソードタイトルからポワロたちを乗せた車が調査隊の宿舎に到着するまでのチャプターに「バグダッドへ」というタイトルがつけられている。そのなかでは確かにポワロがバグダッドへ出向いた理由も説明されるが、直接にはバグダッドからヤリンジャ遺跡へ向かう場面である。
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劇中の時期については、フレドリック・ボズナー処刑の新聞記事の日付が NOVEMBER 11, 1918 (1918年11月11日)、ライドナー夫人との再会まで15年、ライドナー夫妻の結婚から1年以内と見られるところからは、早ければ1934年頃と考えられる。一方、ヘイスティングスの夫人との出逢いは1936年5月で、それが結婚して数年経っているとなると、どんなに早くとも1938年以降ということになる。しかし、ライドナー夫人が手紙を出した『ヴァニティ・フェア』誌は、1936年3月に『ヴォーグ』誌に統合される形で休刊している。
マーカードが麻薬を常習していたことについてポワロが、「そして〔ライドナー〕夫人の性格からしてたぶんそれを匂わせたんでしょう、いつでも彼の秘密を暴露できるってことを」と言うが、支配力を好む夫人の性格に関する描写や言及は、ドラマだとシーラによる人物評くらいしかなく(しかもメイトランド署長の保留つき)、納得感が乏しいかもしれない。また、このポワロの台詞は原語だと 'And perhaps it would have suited the temperament of Madame Leidner to feel that she knew a secret which she could reveal at any minute—with the effects most disastrous, eh? (そして、いつでも暴露できる重大な秘密を知っているという気分は、たぶん夫人の性格に合ったでしょう)' という表現で、匂わせたとまでは言っていない。もちろん、「ですからマーカード氏としては当然、動機があったわけです」とつづけるには、マーカードがそれを察せる必要があるわけだけれど。
謎解きのなかでポワロが「今回の捜査の過程ですでに何度か申し上げましたが、この事件はライドナー夫人の人柄が大きく関わっています」とか、「最初からこれは痴情による犯罪だと言いました」(原語は 'Have I not said all along that this was a crime passionel? (わたしはずっと、これは痴情による犯罪だと言いませんでしたか?)' という表現で、もっと継続的なニュアンスがある)と言うが、これに類することを言った場面は存在しない。
シーラが事件当日に発掘現場へ来た理由を答えて言う「こっちに来たのは誰かと話したかったからよ」という台詞の「誰か」に相当する原語 someone は、「誰か」のような不特定の人以外にも、「ある人」のように特定の人を想定しながらそれが誰かをぼかしたニュアンスで用いることができ、ここではケアリーを想定して言っていると受け取れる。
謎解きのなかでポワロが言う「ある人の話では、ケアリーさんとライドナー夫人は仲が悪かったそうです。ところが、シーラさんによれば、二人のよそよそしい態度について、まったく正反対の見方もできるというのです。ケアリーさん自身もそのことを裏打ちしてくれました」という台詞の最後の部分は、原語だと 'And Monsieur Carey himself told me something different again. (ケアリーさん自身がまた正反対のことを言いました)' という表現で、これは最初の「ある人」の意見に対してシーラ同様に正反対という意味ではなく、シーラの見解からまた正反対(つまり、最初の意見と同じ)ということであり、「大嫌いだった」というケアリーの発言を言葉どおりに受けたものだった。しかし、ケアリーのライドナー夫人への思いが実際には愛憎が相半ばしていることをポワロはすでに見抜いており、その文脈で評したととらえれば、日本語の表現でも齟齬はない。
日本語音声だと、謎解きのなかでポワロが「〔ライドナー博士は〕凶器の石臼を部屋に置き、〔ミス・ジョンソンが〕良心の呵責で自殺したと見せかけた」と言うが、原語では 'by planting in her room the very quern with which you had killed your wife. (あなたが妻を殺すのに使ったその石臼を部屋に置いて〔罪を着せようとした〕)' としか言っておらず、自殺に見せかけようとしたとまでは言っていない。
ライドナー博士がケアリーに「二人の友情を裏切った」となじる台詞は、原語だと 'You betrayed both of us. (君はわたしたちを二人とも裏切った)' という表現で、日本語はその二人を博士とケアリーととらえて訳されているが、これは博士と夫人のことを言っていると受け取れ、そのほうが「あなたがルイーズを知っていたなら、〔どういうことか〕わかってもらえたでしょう」という述懐にも素直につながる。もっとも、その後続の台詞は原作から存在するのに対し、ケアリーを責める部分はドラマで追加・挿入された台詞であり、博士の述懐は原作だと、夫人を愛し殺したという一見矛盾した自分の行為への理解を求めるものだった。また、原作ではポワロの登場がライドナー夫人の死後であったためにこの述懐があったのだが、ドラマだと事件前からポワロが発掘現場に滞在してライドナー夫人とも交流するので、発言の背景に不整合が生じている。
- [1] ジャネット・モーガン (訳: 深町真理子, 宇佐川晶子), 『アガサ・クリスティーの生涯 下』, 早川書房, 1987, pp. 64-65
- [2] Hilary Bonner, 'David Suchet as Poirot', Sherlock Holmes: The Detective Magazine Issue 40, SHERLOCK Magazine, 2000, p. 11
- [3] Hercule Poirot Huitieme Saison
- [4] Think Poirot's an eccentric obsessive? A revealing portrait of actor David Suchet as he kills his greatest creation | Daily Mail Online
- [5] ジャレッド・ケイド (訳: 中村妙子), 『なぜアガサ・クリスティーは失踪したのか? 七十年後に明かされた真実』, 早川書房, 1999, pp. 58-59
カットされた場面
日本
オリジナル版
[1:08:09/0:23] | 寝んでいたポワロが蚊の羽音に気づいて起き上がり、蝋燭を灯すまで |
ハイビジョンリマスター版
なし映像ソフト
- [DVD] 「名探偵ポワロ [完全版] 30 メソポタミア殺人事件」(字幕・吹替) ハピネット・ピクチャーズ※1
- [DVD] 「名探偵ポワロ DVDコレクション 21 メソポタミア殺人事件」(字幕・吹替) デアゴスティーニ・ジャパン※2
- [BD] 「名探偵ポワロ Blu-ray BOX Disc 15 エッジウェア卿の死, メソポタミア殺人事件」(字幕/吹替) ハピネット・ピクチャーズ※3
- ※1 「名探偵ポワロ [完全版] DVD-BOX2」「名探偵ポワロ [完全版] 全巻 DVD-SET」「名探偵ポワロ [完全版] DVD-SET 8」にも収録
- ※2 吹替は大塚智則さん主演の新録で、映像もイギリスで販売されているDVDと同じバリエーションを使用
- ※3 「名探偵ポワロ Blu-ray BOX vol. 2」に収録