第三の女 Third Girl
放送履歴
日本
オリジナル版(94分00秒)
- 2010年09月15日 21時00分〜 (NHK衛星第2)
- 2012年08月15日 17時00分〜 (NHK BSプレミアム)※
- ※ エンディング途中の画面上部に「死との約束」放送予告、画面左下にNHKオンデマンドでの配信案内の字幕表示あり
ハイビジョンリマスター版(94分00秒)
- 2016年12月17日 16時00分〜 (NHK BSプレミアム)
- 2017年05月31日 16時00分〜 (NHK BSプレミアム)
- 2021年07月03日 16時26分〜 (NHK BSプレミアム)
- 2021年12月31日 09時00分〜 (NHK BS4K)
- 2023年08月09日 21時00分〜 (NHK BSプレミアム・BS4K)※1 ※2
- ※1 BSプレミアムでの放送は、オープニング冒頭の画面左上にBS4K同時放送のアイコン表示あり
- ※2 27分27秒頃に映像の欠落あり
海外
- 2008年09月15日 20時00分〜 (典・TV4)
- 2008年09月28日 21時00分〜 (英・ITV1)
- 2010年07月18日 21時00分〜 (米・WGBH)
原作
邦訳
- 『第三の女』 クリスティー文庫 小尾芙佐訳
- 『第三の女』 ハヤカワミステリ文庫 小尾芙佐訳
原書
- Third Girl, Collins, November 1966 (UK)
- Third Girl, Dodd Mead, 1967 (USA)
オープニングクレジット
日本
オリジナル版
名探偵ポワロ / AGATHA CHRISTIE'S POIROT / 第三の女 // DAVID SUCHET / Agatha Christie POIROT / THIRD GIRL based on the novel by Agatha Christie / Screenplay PETER FLANNERY / PETER BOWLES, CLEMENCY BURTON-HILL, HAYDN GWINNE / LUCY LIEMANN, TOM MISON, CAROLINE O'NEIL / JEMIMA ROOPER, MATILDA STURRIDGE, TIM STERN / JOHN WARNABY, JAMES WILBY, DAVID YELLAND / and ZOË WANAMAKER as ARIADNE OLIVER / Producer KAREN THRUSSELL / Director DAN REED
ハイビジョンリマスター版
名探偵ポワロ / DAVID SUCHET / AGATHA CHRISTIE'S POIROT / 第三の女 // DAVID SUCHET / Agatha Christie POIROT / THIRD GIRL based on the novel by Agatha Christie / Screenplay PETER FLANNERY / PETER BOWLES, CLEMENCY BURTON-HILL, HAYDN GWINNE / LUCY LIEMANN, TOM MISON, CAROLINE O'NEIL / JEMIMA ROOPER, MATILDA STURRIDGE, TIM STERN / JOHN WARNABY, JAMES WILBY, DAVID YELLAND / and ZOË WANAMAKER as ARIADNE OLIVER / Producer KAREN THRUSSELL / Director DAN REED
エンディングクレジット
日本
オリジナル版
原作 アガサ・クリスティー 脚本 ピーター・フラナリー 演出 ダン・リード 制作 ITV プロダクション/WGBHボストン アガサ・クリスティー・リミテッド (イギリス・アメリカ 2008年) 声の出演 ポワロ(デビッド・スーシェ) 熊倉 一雄 オリヴァ(ゾーイ・ワナメイカー) 山本 陽子 アンドリュー・レスタリック(ジェームズ・ウィルビー) てらそま まさき ノーマ・レスタリック(ジェミマ・ルーパー) 林 真理花 クローディア 安藤 麻吹 フランシス 岡村 明美 デビッド みやざこ 夏穂 ロデリック卿󠄁 金子 達 大川 透 桜井 明美 野沢 由香里 坂本 大地 鈴森 勘司 真田 五郎 安芸 けい子 えもり えりこ 真矢野 靖人 岡 哲也 安永 亜季 楠見 藍子 <日本語版制作スタッフ> 翻訳・台本 中村 久世 演出 佐藤 敏夫 調整 田中 直也 録音 三田 英登 プロデューサー 武士俣 公佑 間瀬 博美 制作統括 柴田 幸裕 小坂 聖
ハイビジョンリマスター版
原作 アガサ・クリスティー 脚本 ピーター・フラナリー 演出 ダン・リード 制作 ITVプロダクション WGBHボストン アガサ・クリスティー Ltd. (イギリス・アメリカ) 出演 ポワロ(デビッド・スーシェ) 熊倉 一雄 オリヴァ(ゾーイ・ワナメイカー) 山本 陽子 アンドリュー・レスタリック(ジェームズ・ウィルビー) てらそま まさき ノーマ・レスタリック(ジェミマ・ルーパー) 林 真理花 クローディア 安藤 麻吹 フランシス 岡村 明美 デビッド みやざこ 夏穂 ロデリック卿󠄁 金子 達 大川 透 桜井 明美 野沢 由香里 坂本 大地 鈴森 勘司 真田 五郎 安芸 けい子 えもり えりこ 真矢野 靖人 岡 哲也 安永 亜季 楠見 藍子 日本語版スタッフ 翻訳 中村 久世 演出 佐藤 敏夫 音声 田中 直也 プロデューサー 武士俣 公佑 間瀬 博美
海外
オリジナル版
Hercule Poirot: DAVID SUCHET; George: DAVID YELLAND; Norma Restarick: JEMIMA ROOPER; Ariadne Oliver: ZOË WANAMAKER; Claudia Reece-Holland: CLEMENCY BURTON-HILL / Frances Cary: MATILDA STURRIDGE; David Barker※: TIM MISON; Inspector Nelson: JOHN WARNABY; Nanny Lavinia Seagram: CAROLINE O'NEILL; Andrew Restarick: JAMES WILBY / Sir Roderick Horsfield: PETER BOWLES; Sonia: LUCY LIEMANN; Alf Renny: TIM STERN; Bus Ticket Inspector: SIMON HILL; Daphne the Waitress: TESSA BELL-BRIGGS / Nurse: YSOBEL GONZALEZ; Policeman: SEAN KINGSLEY; Young Norma Restarick: JADE LONGLEY; Mary Restarick: JULIET HOWLAND; Miss Battersby: HAYDN GWYNNE / (中略)1st Assistant Director: GARETH TANDY; 2nd Assistant Director: SEAN CLAYTON; 3rd Assistant Director: DANIELLE SOMERFIELD; Location Managers: CHRIS WHITE, MARK WALLEDGE; Stunt Co-ordinator: TOM LUCY; Script Supervisor: KIM ARMITAGE / Production Co-ordinator: FAIZA HOSENIE; Production Secretary: HANNAH IRELAND; Production Accountant: CAROLINE RUSSELL; Asst Production Accountant: JOANNA SANDERS; Script Editor: BEN NEWMAN / Camera Operator: PAUL DONACHIE; Focus Pullers: NATHAN MANN, ANDY BANWELL; Clapper Loaders: BEN GIBB, WOODY GREGSON; Camera Grip: RONAN MURPHY; Gaffer: GAVIN WALTERS; Best Boy: JIM HARRIS / Supervising Art Director: PAUL GILPIN; Art Directors: NIC PALLACE, MIRANDA CULL; Standby Art Director: ANDREW LAVIN; Production Buyer: TIM BONSTOW; Construction Manager: GUS WOOKEY / Sound Recordist: ANDREW SISSONS; Boom Operator: ASHLEY REYNOLDS; Property Master: JIM GRINDLEY; Dressing Props: TONY GIBBS, MIKE SYSON; Standby Props: RICHARD MACMILLIAN, PAUL MITCHELL / Assistant Costume Designer: NADINE POWELL; Costume Supervisor: MIRANDA KING; Make-up Artists: JULIE KENDRICK, MARC PILCHER; Dresser to David Suchet: PHIL O'CONNOR; Make-up Artist to David Suchet: EVA MARIEGES MOORE; Picture Publicist: PATRICK SMITH; Press Officer: LUKE MORRISON / Assistant Editor: AMAR INGREJI; Supervising Sound Editor: JOHN DOWNER; Dialogue Editor: SARAH MORTON; Re-recording Mixer: NIGEL SQUIBBS; Colourist: CHRIS BEETON; Online Editor: SHANE WARDEN / Associate Producer: DAVID SUCHET; Post Production Supervisor: KATE STANNARD; Hair and Make-up Designer: ALISON ELLIOTT; Costume Designer: ANDREA GALER; Composer: STEPHEN McKEON; Production Executive: JULIE BURNELL / Casting: SUSIE PARRISS; Editor: LOIS BYGRAVE; Production Designer: JEFF TESSLER; Director of Photography: PAUL BOND; Line Producer: MATTHEW HAMILTON; Co Producer: GABRIEL SILVER / Executive Producer for WGBH Boston: REBECCA EATON / Executive Producer for Chorion: PHIL CLYMER / Executive Producer: MICHELE BUCK; Executive Producer: DAMIEN TIMMER; © Agatha Christie Ltd. (a Chorion Company) 2008 / A Co-Production of Granada and WGBH BOSTON in association with Agatha Christie Ltd (a Chorion Company)
- ※ Baker の誤記
あらすじ
ポワロを訪ね、殺人を犯したかもしれないと告白した娘。しかし彼女はそれ以上何も告げずに去ってしまう。そして、彼女の住むマンションで死体が見つかった。心に深い傷を負った娘を救うため、ポワロは調査に乗り出す……
事件発生時期
1937年
主要登場人物
エルキュール・ポワロ | 私立探偵 |
アリアドニ・オリヴァ | 推理作家 |
ノーマ・レスタリック | 殺人を犯したかもしれないと告げた娘 |
クローディア・リース・ホランド | ノーマのルームメイト、秘書 |
フランシス・キャリー | ノーマのルームメイト、女優 |
デビッド・ベイカー | ノーマのボーイフレンド、画家 |
アンドリュー・レスタリック | ノーマの父 |
ロデリック・ホースフィールド卿 | ノーマの大伯父、愛称ロディ |
ソニア・ベンソン | ロデリック卿の秘書 |
ラビニア・シーグラム | ノーマの元乳母 |
A・J・バタスビー | ノーマの元家庭教師 |
アルフ・レニー | ボロディン・コート管理人 |
ネルソン | 警部補 |
ジョージ | ポワロの執事 |
解説、みたいなもの
原作は1966年刊行。1960年代も半ばを過ぎてからの作品で、当時の現代風の若者の風俗が多く描かれているのが特徴だった。一方、ドラマの舞台は例のごとく1930年代で、そうした要素は影を潜めているが、タイトルの背景にもなっている若い女性3人がルームシェアしているという設定や、1960年代風のファッションなどから連想された「孔雀」というデビッドの渾名は、そのまま用いられている。撮影時期は2008年4月~5月頃。
原作では最初のノーマの訪問のあと死体が見つからない期間がつづき、事件そのものがはたしてあったのかという後期原作に特徴的な謎が提示されていたが、ドラマでは早々に死体が見つかってノーマとの関係も浮かび上がる。登場人物の変更では、スティリングフリート医師が削られた(同名の医師は「夢」にも登場し、こちらはドラマでも見られる)ほか、メアリ・レスタリックがノーマの現在の継母からノーマの幼少期に自殺した実母に変更され、その自殺がノーマの心に深い傷を負わせている。これに連動して、関係する人物の設定も大きく変更された。このほか、原作では登場していたミス・レモンや情報屋のゴビイ氏といった準レギュラー陣の登場もなく、またミス・マープル物の『ポケットにライ麦を』にも登場するニール警部はネルソン警部補に置き換えられた。ドラマではノーマたちの住まいがオリヴァ夫人と同じマンションという設定で、建物は「ひらいたトランプ」でもオリヴァ夫人の住まいだったアレクサンドラ・コートだが、名前だけボロディン・コートに変更された。ただ、原作では、「ひらいたトランプ」でも本作でもオリヴァ夫人の住まいには名前の言及がなく、ボロディン・コートは原作でノーマたちが住んでいたほうのマンションの名前である。また、オリヴァ夫人の部屋のデスク周辺は「ひらいたトランプ」とおおむね同じだが、向かって右奥が「ひらいたトランプ」では隣の部屋へのドアだったのに、今回は窓に変わっているほか、壁紙も異なるようだ。
冒頭でポワロが検めている著書は、原作では前作に当たる『複数の時計』の中でポワロが展開したミステリ作家への批評をまとめたものだったが、ドラマでは前触れのない登場となった。後に制作された「複数の時計」でも、ポワロがミステリ作家に対する自論を披露する場面は映像化されていない。
相談に訪れたノーマが、ポワロの「さ、犯したかもしれない殺人について――」という言葉を受けて心変わりしたのは、原語のポワロの言葉が 'So would you like to tell me about this murder that you imagine you may— (それでは、あなたが犯したかもしれないと思っているその殺人について――)' という表現で、殺人が実際に起きたものと信じていないことを感じさせたからである。そのため、ノーマの「あなたならわかってくれる、救ってくれるって思ったけど」という台詞がある。
シーグラムばあやの部屋の、上部にガラスのはまった木製の壁は、「鳩のなかの猫」の学生寮の部屋と同じものである。
ポワロが最初にロデリック卿を訪ねたとき、以前に会ったのを「第一次大戦のとき」と答えるが、劇中の1937年はまだ第二次大戦前であり、この表現は時代に合わない。英語では 'During the Great War.' と言っており、「第一次」に相当する表現は入っていない。また、ここで名前が挙がるレイス大佐は、「ナイルに死す」に登場していた人物と思われる。
ジョシュア・レスタリック&サンズ株式会社の看板には 1ST FLOOR と書かれているが、オフィスまでポワロは階段をのぼっていく。これは別に入り口が地下にあったわけではなく、イギリスでは地面と同じ高さの階を ground floor と呼び、日本で言う2階が first floor になるためである。
オリヴァ夫人が尾行中にバスの中で読んでいる本はヴァージニア・ウルフの『自分だけの部屋』で、これは女性と小説をテーマにした講演を元にしたエッセイ。また、カフェに入ったオリヴァ夫人が注文した「バス・バン (Bath bun)」は、イギリスのバース (Bath) 地方に由来する甘いロールパンである。
「満潮に乗って」でキャシーがポワロの部屋に訪ねてきたとき、玄関のドアの外にはペールグリーンの壁が見えたが、今作ではライトモスグリーンになっている。また、新居の(来客用の?)寝室が初登場し、廊下をはさんで書斎のほぼ向かい、すなわち建物の裏側に位置するらしく見えるが、やはり曲面を描いた窓が存在したり、外光が差し込んでいる窓のある向きへ廊下が延びていたり、間取りがよくわからない。
ノーマがネルソン警部補に連行されていった際にジョージが「ノーマさんを初めて見たときから、変わった方だと思っていました」と言ったところは、原語だと 'If you will, sir, the first time I clapped eyes on her, I thought the yound lady had birds in her attic. (もしお訊きになるのでしたら、ノーマさんを初めて見たとき、屋根裏に鳥がいるようだと思いました)' という表現で、これは、自分では容易に直接対処できない悩みを抱えている様子を表した比喩と受け取れる。また、日本語では尺の都合かそのニュアンスが訳し落とされているが、これは以前にポワロがソニアの印象をジョージに訊ねたことを受けての発言で、優秀な使用人のジョージは、理由もなく自分の感想を独白したりはしていない。
バタスビー先生の部屋の、窓の脇のテーブルに飾られているのは、「鳩のなかの猫」でポワロがその授与式に呼ばれたペンバートン楯 。ポワロたちが学園に到着した際にはラクロスのクロス(ネットのついたスティック)を手にした生徒がおり、メドウフィールド学園もやはりペンバートン・ラクロス・シールドの大会で優勝したことがあるのだろう。なお、ラクロスやその大会に関する言及はいずれの原作にも登場しないドラマオリジナルの要素だが、メドウバンク学園やメドウフィールド学園のような私立女子校において、ラクロスは男子のクリケットやラグビーに相当する奨励されたスポーツだった[1]。
アルフからミス・シーグラムが手紙を滅多に出さなかったと聞いてポワロが「なら一通一通に込める意味は重い」と言ったところは、原語だと 'Ah, so for her they were memorable perhaps. (ああ、それなら彼女の場合、手紙を出せば記憶に残るのでは)' という表現で、アルフの記憶に残る話をしている。そのため、その宛先を憶えていないか訊ねる次のやりとりにつながる。
ポワロがデビッド・ベイカー来訪時に食事の席で聴いていたのは、バッハ作曲ゴルトベルク変奏曲 (BWV 988) の第一変奏である。
謎解きの途中、マントルピースに置かれた時計の指す時刻が前後する。
ロデリック卿の邸宅、クロスヘッジズとして撮影に使われたのは、「ジョニー・ウェイバリー誘拐事件」のウェイバリー館と同じルータム・パーク。ただし、クロスヘッジズへ向かうポワロの車が走っていた道は、オックスフォードシャーにあるシャバーン城の敷地内で撮影されている。少女時代のノーマがアイスクリームをねだったのも、シャバーン城門前のカースル・ロード。ジョシュア・レスタリック&サンズ株式会社のオフィスは、ロンドン北部ハイゲートにあるウィタンハーストという邸宅の内部で撮影された。後半に登場するメドウフィールド学園の建物も、このウィタンハーストの外観が使用されているが、ポワロとオリヴァ夫人がメドウフィールド学園をあとにする場面では、建物の入り口を離れてからはルータム・パークで撮影されているようだ。オリヴァ夫人がノーマを尾行して入ったメリー・シャムロック・カフェは、実際にはエセックス・ストリートにあるエドガー・ウォレスというパブで、その後にデビッド・ベイカーを追って迷い込んだのは、そのすぐ東にあるテンプル地区。また、ホワイトヘイブン・マンションを出たロデリック卿たちがタクシーに乗った場面もテンプル地区のミドル・テンプル・レーンで撮影されている。ポワロがノーマと歩いたチューリップの美しい公園はホランド・パークで、「二重の罪」ではヘイスティングスとも歩いていた場所だが、まったく同じ場所を歩く場面は「名探偵ポワロ」オリジナル版だとカットされていた。
ロデリック卿の秘書ソニアを演じるルーシー・リーマンは、「ひらいたトランプ」でミス・バージェスを演じたばかり。また、バタスビー先生を演じるヘイドン・グウィンは、「戦勝舞踏会事件」のココ・コートニー役、オリヴァ夫人の「大ファン」アルフを演じたティム・スターンは、「グランド・メトロポリタンの宝石盗難事件」のホテルのボーイ役以来の再出演。ただしそれぞれの吹替は、ルーシー・リーマンが小林優子さんから桜井明美さんへ、ヘイドン・グウィンが加藤みどりさんから野沢由香里さんへ、ティム・スターンが八代駿さんから鈴森勘司さんへ交代している。また、ポワロの車の運転手も「葬儀を終えて」と同じショーン・オコーナー氏か。アンドリュー・レスタリック役のジェームス・ウィルビーは、ジェラルディン・マクイーワン主演「ミス・マープル2」の一篇、「シタフォードの謎」のカークウッド役でも見ることができる。
デビッド・ベイカーのアトリエでベッドの奥に置かれていた絵は「死人の鏡」でミス・リンガードが写真撮影をしていたのと同じ絵で、「アクロイド殺人事件」につづく3度目の出演である。
ポワロがクロスヘッジズから引きあげる際、車のドアを開けてくれた運転手に「どうも」と言ったり、アンドリューのオフィスで電話機を引き寄せて息をついたりするのは日本語音声のみである。
デジタル放送の切換式字幕では、カフェを出ようとするオリヴァ夫人がウェイトレスを呼び止める台詞に「(小声で)ちょっと あなた。」と表示されるが、実際の音声に「ちょっと」の部分はない。
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ノーマたちの部屋を訪れたアンドリュー(ということになっているオーウェル)は、日本語だとフランシスに「やあ、フランシス。いつも娘に親切にしてくれて」と声をかけるが、原語は 'How do you do, Frances. (はじめまして、フランシス) Claudia says you've been very kind to my daughter. (娘にとても親切にしてくれているそうだね)' という表現で、初対面であることを明確にした表現が用いられている。
シーグラムばあやへの来客について訊ねられたアルフが、「ああ、あのノーマって子がよくシーグラムさんに会いに来ていました。時にはお父さんのレスタリックさんと」と答えるが、ノーマと父親(ということになっているオーウェル)は仲違いしていたはずだし、またノーマが一緒ではオーウェルとシーグラムばあやが内密の取引をすることができない。原語では 'Well, that funny girl, Norma, she used to be up there quite a lot. Sometimes her father, Mr Restarick. (ああ、あのノーマっておかしな子がよく来ていましたよ。お父さんのレスタリックさんも時々)' という表現で、両者の訪問は別々である。
クロスヘッジズのパーティーにノーマが現れた際、アンドリュー(ということになっているオーウェル)は中年の婦人に「本当にお久しぶりです」と言っているが、彼が現在の立場に収まったのはほんの1年前のことだし、(本物の)アンドリューと昔に面識があった相手なら、顔を合わせれば別人であることが露見してしまうはずなので、この挨拶は不自然である。なお、原語音声だとこの場面の声は音量がとても小さく、日本語音声の台詞の内容は日本で独自に補ったと思われる。
「でも、ノーマはもう戻ってこない」と言ったフランシスに対し、ポワロが「確かに。マドモワゼル・ノーマは戻ってきません」と応じてノーマを招じ入れるところは、原語だと 'But nothing can bring Norma back, can it? (でも、何物もノーマを連れ戻すことはできない。でしょう?)' 'No, nothing can bring back Mademoiselle Norma. (確かに、何物もマドモワゼル・ノーマを連れ戻すことはできません)' というやりとりで、フランシスは日本語同様に死んだノーマを生き返らせることはできないと言っているのに対し、ポワロは一見それに同意したように見せて、ノーマを過去の孤独な苦しみに戻すことはもはやできない、ないしはもっと散文的に、死んでもいないノーマを連れ戻すことは原理的にできないと言っていると思われる。
クローディアがノーマを警察に告発したのはオリヴァ夫人が襲われた日ということだったが、クローディアはそれをディナーの席でオーウェルに頼まれたと言う。オーウェルがクローディアをディナーに誘ったのはオリヴァ夫人が襲われた日なので、すでに夜であろうディナーのあとに警察へ行ったのだろうか。
バタスビー先生がアンドリューと深い関係になり、フランシスがその娘であるのはドラマオリジナルの設定。この脚色によりバタスビー先生が現アンドリューの正体を知る立場になったが、犯人でも被害者でもなく、またその事実をポワロに伝えるわけでもない、不思議な立ち位置になっている。
原作では最初のノーマの訪問のあと死体が見つからない期間がつづき、事件そのものがはたしてあったのかという後期原作に特徴的な謎が提示されていたが、ドラマでは早々に死体が見つかってノーマとの関係も浮かび上がる。登場人物の変更では、スティリングフリート医師が削られた(同名の医師は「夢」にも登場し、こちらはドラマでも見られる)ほか、メアリ・レスタリックがノーマの現在の継母からノーマの幼少期に自殺した実母に変更され、その自殺がノーマの心に深い傷を負わせている。これに連動して、関係する人物の設定も大きく変更された。このほか、原作では登場していたミス・レモンや情報屋のゴビイ氏といった準レギュラー陣の登場もなく、またミス・マープル物の『ポケットにライ麦を』にも登場するニール警部はネルソン警部補に置き換えられた。ドラマではノーマたちの住まいがオリヴァ夫人と同じマンションという設定で、建物は「ひらいたトランプ」でもオリヴァ夫人の住まいだったアレクサンドラ・コートだが、名前だけボロディン・コートに変更された。ただ、原作では、「ひらいたトランプ」でも本作でもオリヴァ夫人の住まいには名前の言及がなく、ボロディン・コートは原作でノーマたちが住んでいたほうのマンションの名前である。また、オリヴァ夫人の部屋のデスク周辺は「ひらいたトランプ」とおおむね同じだが、向かって右奥が「ひらいたトランプ」では隣の部屋へのドアだったのに、今回は窓に変わっているほか、壁紙も異なるようだ。
冒頭でポワロが検めている著書は、原作では前作に当たる『複数の時計』の中でポワロが展開したミステリ作家への批評をまとめたものだったが、ドラマでは前触れのない登場となった。後に制作された「複数の時計」でも、ポワロがミステリ作家に対する自論を披露する場面は映像化されていない。
相談に訪れたノーマが、ポワロの「さ、犯したかもしれない殺人について――」という言葉を受けて心変わりしたのは、原語のポワロの言葉が 'So would you like to tell me about this murder that you imagine you may— (それでは、あなたが犯したかもしれないと思っているその殺人について――)' という表現で、殺人が実際に起きたものと信じていないことを感じさせたからである。そのため、ノーマの「あなたならわかってくれる、救ってくれるって思ったけど」という台詞がある。
シーグラムばあやの部屋の、上部にガラスのはまった木製の壁は、「鳩のなかの猫」の学生寮の部屋と同じものである。
ポワロが最初にロデリック卿を訪ねたとき、以前に会ったのを「第一次大戦のとき」と答えるが、劇中の1937年はまだ第二次大戦前であり、この表現は時代に合わない。英語では 'During the Great War.' と言っており、「第一次」に相当する表現は入っていない。また、ここで名前が挙がるレイス大佐は、「ナイルに死す」に登場していた人物と思われる。
ジョシュア・レスタリック&サンズ株式会社の看板には 1ST FLOOR と書かれているが、オフィスまでポワロは階段をのぼっていく。これは別に入り口が地下にあったわけではなく、イギリスでは地面と同じ高さの階を ground floor と呼び、日本で言う2階が first floor になるためである。
オリヴァ夫人が尾行中にバスの中で読んでいる本はヴァージニア・ウルフの『自分だけの部屋』で、これは女性と小説をテーマにした講演を元にしたエッセイ。また、カフェに入ったオリヴァ夫人が注文した「バス・バン (Bath bun)」は、イギリスのバース (Bath) 地方に由来する甘いロールパンである。
「満潮に乗って」でキャシーがポワロの部屋に訪ねてきたとき、玄関のドアの外にはペールグリーンの壁が見えたが、今作ではライトモスグリーンになっている。また、新居の(来客用の?)寝室が初登場し、廊下をはさんで書斎のほぼ向かい、すなわち建物の裏側に位置するらしく見えるが、やはり曲面を描いた窓が存在したり、外光が差し込んでいる窓のある向きへ廊下が延びていたり、間取りがよくわからない。
ノーマがネルソン警部補に連行されていった際にジョージが「ノーマさんを初めて見たときから、変わった方だと思っていました」と言ったところは、原語だと 'If you will, sir, the first time I clapped eyes on her, I thought the yound lady had birds in her attic. (もしお訊きになるのでしたら、ノーマさんを初めて見たとき、屋根裏に鳥がいるようだと思いました)' という表現で、これは、自分では容易に直接対処できない悩みを抱えている様子を表した比喩と受け取れる。また、日本語では尺の都合かそのニュアンスが訳し落とされているが、これは以前にポワロがソニアの印象をジョージに訊ねたことを受けての発言で、優秀な使用人のジョージは、理由もなく自分の感想を独白したりはしていない。
バタスビー先生の部屋の、窓の脇のテーブルに飾られているのは、「鳩のなかの猫」でポワロがその授与式に呼ばれたペンバートン
アルフからミス・シーグラムが手紙を滅多に出さなかったと聞いてポワロが「なら一通一通に込める意味は重い」と言ったところは、原語だと 'Ah, so for her they were memorable perhaps. (ああ、それなら彼女の場合、手紙を出せば記憶に残るのでは)' という表現で、アルフの記憶に残る話をしている。そのため、その宛先を憶えていないか訊ねる次のやりとりにつながる。
ポワロがデビッド・ベイカー来訪時に食事の席で聴いていたのは、バッハ作曲ゴルトベルク変奏曲 (BWV 988) の第一変奏である。
謎解きの途中、マントルピースに置かれた時計の指す時刻が前後する。
ロデリック卿の邸宅、クロスヘッジズとして撮影に使われたのは、「ジョニー・ウェイバリー誘拐事件」のウェイバリー館と同じルータム・パーク。ただし、クロスヘッジズへ向かうポワロの車が走っていた道は、オックスフォードシャーにあるシャバーン城の敷地内で撮影されている。少女時代のノーマがアイスクリームをねだったのも、シャバーン城門前のカースル・ロード。ジョシュア・レスタリック&サンズ株式会社のオフィスは、ロンドン北部ハイゲートにあるウィタンハーストという邸宅の内部で撮影された。後半に登場するメドウフィールド学園の建物も、このウィタンハーストの外観が使用されているが、ポワロとオリヴァ夫人がメドウフィールド学園をあとにする場面では、建物の入り口を離れてからはルータム・パークで撮影されているようだ。オリヴァ夫人がノーマを尾行して入ったメリー・シャムロック・カフェは、実際にはエセックス・ストリートにあるエドガー・ウォレスというパブで、その後にデビッド・ベイカーを追って迷い込んだのは、そのすぐ東にあるテンプル地区。また、ホワイトヘイブン・マンションを出たロデリック卿たちがタクシーに乗った場面もテンプル地区のミドル・テンプル・レーンで撮影されている。ポワロがノーマと歩いたチューリップの美しい公園はホランド・パークで、「二重の罪」ではヘイスティングスとも歩いていた場所だが、まったく同じ場所を歩く場面は「名探偵ポワロ」オリジナル版だとカットされていた。
ロデリック卿の秘書ソニアを演じるルーシー・リーマンは、「ひらいたトランプ」でミス・バージェスを演じたばかり。また、バタスビー先生を演じるヘイドン・グウィンは、「戦勝舞踏会事件」のココ・コートニー役、オリヴァ夫人の「大ファン」アルフを演じたティム・スターンは、「グランド・メトロポリタンの宝石盗難事件」のホテルのボーイ役以来の再出演。ただしそれぞれの吹替は、ルーシー・リーマンが小林優子さんから桜井明美さんへ、ヘイドン・グウィンが加藤みどりさんから野沢由香里さんへ、ティム・スターンが八代駿さんから鈴森勘司さんへ交代している。また、ポワロの車の運転手も「葬儀を終えて」と同じショーン・オコーナー氏か。アンドリュー・レスタリック役のジェームス・ウィルビーは、ジェラルディン・マクイーワン主演「ミス・マープル2」の一篇、「シタフォードの謎」のカークウッド役でも見ることができる。
デビッド・ベイカーのアトリエでベッドの奥に置かれていた絵は「死人の鏡」でミス・リンガードが写真撮影をしていたのと同じ絵で、「アクロイド殺人事件」につづく3度目の出演である。
ポワロがクロスヘッジズから引きあげる際、車のドアを開けてくれた運転手に「どうも」と言ったり、アンドリューのオフィスで電話機を引き寄せて息をついたりするのは日本語音声のみである。
デジタル放送の切換式字幕では、カフェを出ようとするオリヴァ夫人がウェイトレスを呼び止める台詞に「(小声で)ちょっと あなた。」と表示されるが、実際の音声に「ちょっと」の部分はない。
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ノーマたちの部屋を訪れたアンドリュー(ということになっているオーウェル)は、日本語だとフランシスに「やあ、フランシス。いつも娘に親切にしてくれて」と声をかけるが、原語は 'How do you do, Frances. (はじめまして、フランシス) Claudia says you've been very kind to my daughter. (娘にとても親切にしてくれているそうだね)' という表現で、初対面であることを明確にした表現が用いられている。
シーグラムばあやへの来客について訊ねられたアルフが、「ああ、あのノーマって子がよくシーグラムさんに会いに来ていました。時にはお父さんのレスタリックさんと」と答えるが、ノーマと父親(ということになっているオーウェル)は仲違いしていたはずだし、またノーマが一緒ではオーウェルとシーグラムばあやが内密の取引をすることができない。原語では 'Well, that funny girl, Norma, she used to be up there quite a lot. Sometimes her father, Mr Restarick. (ああ、あのノーマっておかしな子がよく来ていましたよ。お父さんのレスタリックさんも時々)' という表現で、両者の訪問は別々である。
クロスヘッジズのパーティーにノーマが現れた際、アンドリュー(ということになっているオーウェル)は中年の婦人に「本当にお久しぶりです」と言っているが、彼が現在の立場に収まったのはほんの1年前のことだし、(本物の)アンドリューと昔に面識があった相手なら、顔を合わせれば別人であることが露見してしまうはずなので、この挨拶は不自然である。なお、原語音声だとこの場面の声は音量がとても小さく、日本語音声の台詞の内容は日本で独自に補ったと思われる。
「でも、ノーマはもう戻ってこない」と言ったフランシスに対し、ポワロが「確かに。マドモワゼル・ノーマは戻ってきません」と応じてノーマを招じ入れるところは、原語だと 'But nothing can bring Norma back, can it? (でも、何物もノーマを連れ戻すことはできない。でしょう?)' 'No, nothing can bring back Mademoiselle Norma. (確かに、何物もマドモワゼル・ノーマを連れ戻すことはできません)' というやりとりで、フランシスは日本語同様に死んだノーマを生き返らせることはできないと言っているのに対し、ポワロは一見それに同意したように見せて、ノーマを過去の孤独な苦しみに戻すことはもはやできない、ないしはもっと散文的に、死んでもいないノーマを連れ戻すことは原理的にできないと言っていると思われる。
クローディアがノーマを警察に告発したのはオリヴァ夫人が襲われた日ということだったが、クローディアはそれをディナーの席でオーウェルに頼まれたと言う。オーウェルがクローディアをディナーに誘ったのはオリヴァ夫人が襲われた日なので、すでに夜であろうディナーのあとに警察へ行ったのだろうか。
バタスビー先生がアンドリューと深い関係になり、フランシスがその娘であるのはドラマオリジナルの設定。この脚色によりバタスビー先生が現アンドリューの正体を知る立場になったが、犯人でも被害者でもなく、またその事実をポワロに伝えるわけでもない、不思議な立ち位置になっている。
- [1] 新井潤美, 『パブリック・スクール ――イギリス的紳士・淑女のつくられかた』, 岩波書店(岩波新書), 2016, p. 129
ロケ地写真
カットされた場面
なし
映像ソフト
- [DVD] 「名探偵ポワロ 42 第三の女」(字幕・吹替) ハピネット・ピクチャーズ※1
- [DVD] 「名探偵ポワロ DVDコレクション 18 第三の女」(字幕・吹替) デアゴスティーニ・ジャパン※2
- ※1 「名探偵ポワロ NEW SEASON DVD-BOX 3」に収録
- ※2 吹替は大塚智則さん主演の新録で、映像もイギリスで販売されているDVDと同じバリエーションを使用