エンドハウスの怪事件 Peril at End House
放送履歴
日本
オリジナル版(90分00秒)
- 1990年08月11日 22時40分〜 (NHK総合)
- 1992年06月06日 15時35分〜 (NHK総合)
- 1998年12月12日 26時00分〜 (NHK総合)
ハイビジョンリマスター版(98分30秒)
- 2016年01月09日 15時00分〜 (NHK BSプレミアム)
- 2016年06月15日 16時00分〜 (NHK BSプレミアム)
- 2020年06月13日 16時21分〜 (NHK BSプレミアム)※1
- 2021年10月25日 09時00分〜 (NHK BS4K)
- 2022年08月17日 21時00分〜 (NHK BSプレミアム・BS4K)
- 2022年09月23日 25時23分〜 (NHK BSプレミアム)※2
- ※1 エンディング最後の画面下部に次回の放送時間案内の字幕表示(帯付き)あり
- ※2 エンディング後半の画面左部に一挙再放送次回の放送案内の字幕表示あり
海外
- 1990年01月07日 (英・ITV)
原作
邦訳
- 『邪悪の家』 クリスティー文庫 真崎義博訳
- 『邪悪の家』 クリスティー文庫 田村隆一訳
- 『邪悪の家』 ハヤカワミステリ文庫 田村隆一訳
- 『エンド・ハウスの怪事件』 創元推理文庫 厚木淳訳
- 『エンド・ハウス殺人事件』 新潮文庫 中村妙子訳
原書
- Peril at End House, Dodd Mead, February 1932 (USA)
- Peril at End House, Collins, March 1932 (UK)
オープニングクレジット
日本
オリジナル版
名探偵ポワロ / AGATHA CHRISTIE'S POIROT / DAVID SUCHET // HUGH FRASER / PHILIP JACKSON / エンドハウスの怪事件, PERIL AT END HOUSE / Dramatized by CLIVE EXTON
ハイビジョンリマスター版
名探偵ポワロ / DAVID SUCHET / AGATHA CHRISTIE'S POIROT / エンドハウスの怪事件 // HUGH FRASER / PHILIP JACKSON / PERIL AT END HOUSE / Dramatized by CLIVE EXTON
エンディングクレジット
日本
オリジナル版
原作 アガサ・クリスティー 脚本 クライブ・エクストン 監督 レニー・ライ 制作 LWT(イギリス) / 出演 ポワロ(デビッド・スーシェ) 熊倉一雄 ヘイスティングス(ヒュー・フレイザー) 富山 敬 ジャップ警部(フィリップ・ジャクソン) 坂口芳貞 ミス・レモン 翠 準子 ニック(ポリー・ウォーカー) 中村晃子 チャレンジャー中佐(ジョン・ハーディング) 前田昌明 加藤みどり 小川真司 大塚芳忠 増岡 弘 前田敏子 安達 忍 吉田理保子 藤本 譲 峰 恵研 有本欽隆 津田英三 横尾まり ならはしみき 島田 敏 / 日本語版 宇津木道子 山田悦司 福岡浩美 南部満治 金谷和美
ハイビジョンリマスター版
原作 アガサ・クリスティー 脚本 クライブ・エクストン 演出 レニー・ライ 制作 LWT (イギリス) / 出演 ポワロ(デビッド・スーシェ) 熊倉 一雄 ヘイスティングス(ヒュー・フレイザー) 富山 敬/安原 義人 ジャップ警部(フィリップ・ジャクソン) 坂口 芳貞 ミス・レモン(ポーリン・モラン) 翠 準子 ニック(ポリー・ウォーカー) 中村 晃子 チャレンジャー中佐(ジョン・ハーディング) 前田 昌明 加藤 みどり 小川 真司 大塚 芳忠 増岡 弘 前田 敏子 安達 忍 吉田 理保子 藤本 譲 峰 恵研 有本 欽隆 津田 英三 横尾 まり ならはし みき 島田 敏 平川 大輔 松乃 薫 佐々木 省三 日本語版スタッフ 翻訳 宇津木 道子 演出 山田 悦司 音声 金谷 和美 プロデューサー 里口 千
海外
オリジナル版(前篇)
Hercule Poirot: DAVID SUCHET; Captain Hastings: HUGH FRASER; Chief Inspector Japp: PHILIP JACKSON; Nick Buckley: POLLY WALKER; Commander George Challenger: JOHN HARDING; Bert Croft: JEREMY YOUNG; Ellen: MARY CUNNINGHAM; Jim Lazarus: PAUL GEOFFREY; Freddie Rice: ALISON STERLING; Charles Vyse: CHRISTOPHER BAINES; Milly Croft: CAROL MACREADY; Maggie Buckley: ELIZABETH DOWNES; Inspector: GODFREY JAMES; Dr Graham: JOHN CROCKER / Developed for Television by Picture Partnership Productions / (中略)Assistant Directors: GUY TRAVERS, NICK LAWS, ADAM GOODMAN; Locations: RICHARD DOBSON, PAUL SHERSBY, SCOTT ROWLATT; Script Supervisor: SAM DONOVAN; Production Co-ordinator: MONICA ROGERS; Accounts: JOHN BEHARRELL, PENELOPE FORRESTER; Camera Operator: JAMIE HARCOURT; Focus Puller: DERMOT HICKEY; Clapper/Loader: DAVID HEDGES; Grip: JOHN ETHERINGTON; Boom Operator: TONY BELL; Sound Assistant: COLIN CODNER; Gaffers: DEREK RYMER, BRIAN SMITH; Art Director: CAROLINE SMITH; Set Dresser: CHRYSOULA SOFITSI; Production Buyer: DAVID BORDEWEY; Property Master: MICKY LENNON; Construction Manager: LES PEACH; Wardobe※: TONY OTERO, MARION DRING, MELVILLE FREEDMAN, NIGEL EGERTON; Dubbing: ALAN KILLICK, ANNE PARSONS, RUPERT SCRIVENER; Post Production Superviser: RAY HELM; Panaflex 16(R) Camera by Panavision(R); Grip Equipment by Grip House Ltd; Lighting & Generators by Samuelson Lighting Ltd; Made at Twickenham Studios, London, England; Costume Designer: LNDA MATTOCK; Assistant Costume Designer: GILLY HEBDEN; Make up Supervisor: HILARY MARTIN; Make up Artist: KATE BOWER; Sound Recordist: KEN WESTON; Dance Band Arrangements: NEIL RICHARDSON; Titles: PAT GAVIN; Production Manager: MARTIN BOND; Casting: REBECCA HOWARD, LUCY ABERCROMBIE; Editor: FRANK WEBB; Production Supervisor: DONALD TOMS / Production Designer: MIKE OXLEY / Director of Photography: PETER BARTLETT / Theme Music: CHRISTOPHER GUNNING; Incidental Music: RECHARD HEWSON; Conductor: DAVID SNELL / Executive Producer: NICK ELLIOTT / Producer: BRIAN EASTMAN / Director: RENNY RYE
- ※ Wardrobe の誤記
オリジナル版(後篇)
Hercule Poirot: DAVID SUCHET; Captain Hastings: HUGH FRASER; Chief Inspector Japp: PHILIP JACKSON; Miss Lemon: PAULINE MORAN; Wilson: GEOFFREY GREENHILL; Alfred: JOE BATES; Ellen: MARY CUNNINGHAM; Nick Buckley: POLLY WALKER; Charles Vyse: CHRISTOPHER BAINES; Inspector: GODFREY JAMES; Bert Croft: JEREMY YOUNG; Milly Croft: CAROL MACREADY; Commander George Challenger: JOHN HARDING; Freddie Rice: ALISON STERLING; Hotel Receptionist: JANE PATON; Dr Graham: JOHN CROCKER; Hood: FERGUS McLARNON; Nurse Andrews: JENNY FUNNELL; Jim Lazarus: PAUL GEOFFREY; Maid: JANICE CRAMER; Pageboy: EDWARD PINNER / Developed for Television by Picture Partnership Productions / (中略)Assistant Directors: GUY TRAVERS, NICK LAWS, ADAM GOODMAN; Locations: RICHARD DOBSON, PAUL SHERSBY, SCOTT ROWLATT; Script Supervisor: SAM DONOVAN; Production Co-ordinator: MONICA ROGERS; Accounts: JOHN BEHARRELL, PENELOPE FORRESTER; Camera Operator: JAMIE HARCOURT; Focus Puller: DERMOT HICKEY; Clapper/Loader: DAVID HEDGES; Grip: JOHN ETHERINGTON; Boom Operator: TONY BELL; Sound Assistant: COLIN CODNER; Gaffers: DEREK RYMER, BRIAN SMITH; Art Director: CAROLINE SMITH; Set Dresser: CHRYSOULA SOFITSI; Production Buyer: DAVID BORDEWEY; Property Master: MICKY LENNON; Construction Manager: LES PEACH; Wardobe※: TONY OTERO, MARION DRING, MELVILLE FREEDMAN, NIGEL EGERTON; Dubbing: ALAN KILLICK, ANNE PARSONS, RUPERT SCRIVENER; Post Production Superviser: RAY HELM; Panaflex 16(R) Camera by Panavision(R); Grip Equipment by Grip House Ltd; Lighting & Generators by Samuelson Lighting Ltd; Made at Twickenham Studios, London, England; Costume Designer: LNDA MATTOCK; Assistant Costume Designer: GILLY HEBDEN; Make up Supervisor: HILARY MARTIN; Make up Artist: KATE BOWER; Sound Recordist: KEN WESTON; Dance Band Arrangements: NEIL RICHARDSON; Titles: PAT GAVIN; Production Manager: MARTIN BOND; Casting: REBECCA HOWARD, LUCY ABERCROMBIE; Editor: FRANK WEBB; Production Supervisor: DONALD TOMS / Production Designer: MIKE OXLEY / Director of Photography: PETER BARTLETT / Theme Music: CHRISTOPHER GUNNING; Incidental Music: RECHARD HEWSON; Conductor: DAVID SNELL / Executive Producer: NICK ELLIOTT / Producer: BRIAN EASTMAN / Director: RENNY RYE
- ※ Wardrobe の誤記
あらすじ
セント・ルーのエンドハウスに住むニック・バックリーは三日間で三度死にかけたという。目前でその四度目に遭遇したポワロは、ニックの命を守るべく調査を始めるが、その矢先、ニックのショールを羽織った従妹のマギーが殺されてしまう……
事件発生時期
1935年8月下旬 〜
主要登場人物
エルキュール・ポワロ | 私立探偵 |
アーサー・ヘイスティングス | ポワロの探偵事務所のパートナー、陸軍大尉 |
ジェームス・ジャップ | スコットランド・ヤード主任警部 |
フェリシティ・レモン | ポワロの秘書 |
ニック・バックリー | エンドハウスに住む娘、本名マグダラ |
ジョージ・チャレンジャー | ニックの友人、海軍中佐 |
フレデリカ・ライス | ニックの友人、愛称フレディー |
ジム・ラザラス | ニックの友人、美術商 |
チャールズ・バイス | ニックの従兄、弁護士 |
マギー・バックリー | ニックの従妹 |
バート・クロフト | エンドハウスの別棟の住人 |
ミルドレッド・クロフト | エンドハウスの別棟の住人、バートの妻 |
エレン・ウィルソン | エンドハウスのメイド |
ウィルソン | エンドハウスの庭師、エレンの夫 |
グレアム | 医師 |
マイケル・シートン | 冒険飛行家、大尉 |
解説、みたいなもの
「名探偵ポワロ」初の長篇。原作は1932年に刊行されたクリスティー初期の代表作の一つで、随所に張り巡らされた伏線と、最後のどんでん返しの連続が冴える。短篇の数倍の長さがあるその原作を普段の短篇2話分の時間に押し込んでいるものの、原作の主要な要素はほとんど落としておらず、ばっさりと落とされたのは未知の容疑者〈J〉に関する要素くらい。しかしその分、普段の短篇に見られるドラマオリジナルのサイドストーリーがすくなく、また「名探偵ポワロ」オリジナル版でカットされた場面も原作に含まれたくだりが多くなった。そして、その多くが前半部分に偏っているので、オリジナル版では前半に駆け足の感を覚えるかもしれない。
舞台は「コーニッシュ・リビエラの女王」と称するコーンワルのセント・ルーという設定だが、町の撮影が行われたのはコーンワルの隣のデボンシャーにあるソルコムという町で、エンドハウスは実際にはモールトという邸宅である。このソルコムは『ゼロ時間へ』の舞台であるソルトクリークのモデルとされ[1]、警察が凶器を捜したり、最後にポワロたちがくつろいだりするサウス・サンズは、ジェラルディン・マクイーワン主演「ミス・マープル3」の「ゼロ時間へ」でも実際にロケ地になっている(ガルズポイントからサウス・サンズを望んだ際にはモールトも見える)。ただし、セント・ルーの駅の撮影がおこなわれたのは、ダートマス蒸気鉄道のキングスウェア駅。この鉄道はかつてクリスティーの別荘であったグリーンウェイ・エステイトの最寄り駅も通る保存鉄道で、ジョーン・ヒクソン主演「ミス・マープル」シリーズの「スリーピング・マーダー」でもグエンダたちがサナトリウムの帰りに乗った汽車として撮影に使われたが、 NHK の放送ではその場面はすべてカットされた。また、冒頭に飛行機が飛んでいたのは東デボンのゴールデン・キャップ付近上空でソルコムからはすこし離れており、そのために崖の地質がエンドハウス周辺とは異なる。なお、架空の町であるセント・ルーの本来のモデルはクリスティーの故郷トーキーと言われており(ただし、コーンワルに「ルー」という海沿いの町は実在する)、マジェスティック・ホテルも実在のインペリアル・ホテルがモデルとされる[2]。また、フレディーが滞在したと言うタビストックはデボンシャーに実在する町だが、同様のシュラコームはやはり実在しない。
劇中の時期は、1935年2月末のニックの手術が半年ほど前と言われるので1935年8月下旬頃と考えられるが、撮影時期は1989年6月[3]。劇中では午後9時40分過ぎに空がまだうっすらと明るさを残している場面があるが、これは日没が午後9時を過ぎる撮影時期ならではの様子であって、8月下旬だとしたら午後8時頃には日が沈むはず。しかし、ちゃんと午後9時20分にとっぷりと日が暮れている場面もあり、劇中の時期と撮影時期の差に、気を遣っているのかいないのかよくわからない(なお、劇中各所で咲き誇っているアジサイは、イギリスでは8月末でも咲く)。また、飛行家のマイケル・シートンが世界一周飛行に挑戦中という設定だが、リンドバーグが世界で初めて単身の大西洋横断無着陸飛行に成功したのが1927年、同じくポストが単身の世界一周飛行に成功したのが1933年。原作執筆・発表時は単身による世界一周飛行は未達成だったが、ドラマの舞台の1935年にはすでに成功例があったことになる。
ヘイスティングスが「ひどいな」と評した、「〔行方不明のシートンは〕太平洋の小島に不時着しているのかもしれない」に対するポワロの「無人島にね」という台詞は、原語では 'Cannibals (人食い人種)' と言っていてもっとひどい。また、それにつづくヘイスティングスの「でも、イギリス人はたいしたものですね」という台詞は、原語では 'Makes you proud to be an Englishman, though. (イギリス人であることが誇らしくなるでしょう)' という台詞で、そのために「私はイギリスに生まれなかったことを悲しいとは思っていませんからね」というポワロの台詞につながる。またこの際、奥の木々のあいだを現代の自動車が通り過ぎるのが写ってしまっている。
ニックが最初の事故(ベッドの上の絵が落ちてきたという件)を説明したあと、日本語ではポワロが「二度目の事故は?」と訊くが、これは原語だと 'And the other accidents? (それ以外の事故は?)' という質問で、一度目以外の事故すべてについて訊いている。そのため、ニックは車のブレーキが効かなかった話と崖から岩が崩れ落ちた話を立て続けにする。内容からすればその二つが別々の事故であることは明らかだが、日本語ではポワロの質問やニックの口調から、一連の一つの事故の話をしているように聞こえてしまうかもしれない。また、岩が落ちてきたとき、ニックはちょうど下の「砂浜」にいたと言うが、のちにヘイスティングスが調べていた現場は岩場であり、原語音声でも rocks (岩場) と言っていた。
日本語音声ではニックが自身のニックネームについて「ニックって悪魔のことよ」と説明するが、一般的に、英語で「悪魔」の意味で使われるのは Nick (ニック) 単体ではなく Old Nick (オールド・ニック)。つづけて彼女が「わたしの祖父は、悪魔に魂を売ったっていうので有名なの。わたし、祖父と住んでたの。それでオールド・ニックとヤング・ニックと呼ばれたのよ」と説明するように、まず悪魔にちなんで「オールド・ニック」と渾名された祖父がいて、その対比として(おそらくは小さな悪魔的なニュアンスも込めて)彼女のニックネームが決められた。なお、原語だと最初のニックの台詞は 'That's where I got my name. (わたしの名前はそこ〔悪魔〕からきてるのよ)' という表現で、必ずしも Nick がそのまま「悪魔」だとは言っていない。
クロフト夫妻がお互いの呼びかけに使った「クーイー (cooee)」とは日本語の「おーい」に近いニュアンスの言葉で、もともとオーストラリア原住民が用い、入植者のあいだでも使われるようになった。そのため、この言葉を使うことは、いかにもなオーストラリア人らしさを感じさせる。
ニックがマイケル・シートンに会ったという「パーティー」は、原語だと Le Touquet と言われており、これはフランス北部にある海沿いの行楽地の名。また、マイケルの伯父は「マシュー・シートン卿」あるいは「シートン卿」と呼ばれるが、「卿」に対応する原語 Sir はフルネームかファーストネームにつける敬称で、原語では Sir Matthew Seton あるいは Sir Matthew と呼ばれている。
ニックは「〔エンドハウスに〕使える寝室は一つきり。だからお友だちはホテルに泊まってるわ」と言っていたはずなのに、花火を見ているとき、フレディーがマギーにコートを取ってくるよう頼んで「〔わたしの〕お部屋にあるわ」と言う。前者の台詞と設定はドラマオリジナルのもので(原作だとフレディーは週末をラザラスとホテルで過ごし、花火の日にはエンドハウスに滞在していることになっていた)、そのため原作どおりの後者の台詞に矛盾が生じている。
ハイビジョンリマスター版で見られる療養所でのヘイスティングスとポワロの会話では、日本語だと警察は犯行を浮浪者の仕業と見ていると言われるが、さすがにただの浮浪者が何度も銃撃するとは思わないのではないかしらん。なお、「浮浪者」に対応する部分の原語は some wandering lunatic (あたりをうろついている精神異常者) である。
事件翌朝、ホテルの外観を撮したカットでは建物の入り江側が影になっているが、実際には入り江側が東なので、これは午後に撮影されたものである。なお、午前中であったと見られるホテル到着時には、入り江から陸の方向へ影が伸びていた。
ポワロたちがチャレンジャー中佐を訪ねて港へ赴いた際、港の風景を映した最初のカットで、建物の上にテレビアンテナが複数見える。また、チャレンジャー中佐から「前進しましたか?」と訊かれたポワロが聞き返したのは、原語だと中佐が 'Are you any forrader?' と言っていて、 forwarder の方言である forrader をポワロが聞き取れなかったためである。
ハイビジョンリマスター版のポワロたちがニックの遺言状を捜す場面で、ヘイスティングスが「電気代の請求書」と言う直前に見ていた便箋には、毛皮を巻いたお洒落な女性のイラストとともに THE COURT FUR STORES (宮廷毛皮店) と書かれており、原語では 'Dressmaker's bill. (服屋の請求書)' と言っている。また、その次の書類を「配当金領収書」と言うが、ニックの立場では普通、配当金は受け取る側であり、その領収書は出す側のはず。原語の dividend warrant は、会社側から発行される、配当金の支払証や支払いの小切手のことである。
ニックの遺言状について、日本語では「正式」なものかどうかが話題になるが、原語だとこれは will form (遺言状用紙) を使ったものか否かが確認されている。しかし、イギリスで一般に流通している、空欄に必要事項を埋めるだけで遺言状を作成できる既製の遺言状用紙は、遺言状として必要な形式を簡便に満たすためのもので、既製の用紙を用いることが「正式」であるわけではない。クロフト氏がしたという「正式なものにすると危険だ」という指摘も、遺言状として正式だから危険なのではなく、既製の用紙に必要事項を埋めただけの遺言状は、すべて自筆のものより偽造や改竄が容易になるという趣旨と思われる。
警察が浜辺で凶器を捜している場面で、ジャップ警部が地元の警部に日本語で「ポワロとは長年いい関係でやってますよ」と言った台詞は、原語だと 'Cource, he's picked up a lot from me over the years. (そりゃあポワロは長年わたしから多くのものを得てきたわけですがね)' とちゃっかり見栄を張っている。
ジャップ警部が売り子から買って舐める濃いピンク色の棒状のものは、「ロック」と呼ばれる日本の千歳飴のようなキャンデー。売り子が原語で 'Peppermint rock! (ハッカ味のロックだよ!)' と言っているように多くはハッカ味で、イギリスの海辺のリゾート地でよく売られている。またそのあと、バイスの事務所から出てきたと思われるポワロとヘイスティングスが画面奥から歩いてくるが、バイスの事務所をポワロが最初に訪ねた場面では、事務所の入り口はこの通りの画面手前側にあったはず。ただ、ポワロが最初に訪ねた場面では通りの右手側を映さず、またここでは画面左手にあるはずの事務所入り口を映していないので、撮影場所は同じでも、劇中では別の場所の設定なのかもしれない。
ミス・レモンが「それで彼〔マカリスター博士〕のクリニックに行ったんです。附属の診療所も備えてます」と言う台詞があるが、「クリニック」と「診療所」はいずれも同じもので、主として外来患者の診療をおこない、入院設備はあっても小規模な施設を指す。後者の「診療所」の原語 nursing home は療養所のことで、滞在型の介護・治療施設を言う。なお、事件のあとにニックが入ったのも nursing home だが、こちらは吹替でも「療養所」と言われている。
日本語音声では、マイケル・シートンの弁護士である Whitfield のことを、ヘイスティングスがシートンの手紙を読み上げたときは「ウィットフィールド」と言うが、駅でポワロがヘイスティングスに訪ねるよう指示した際には「ホイットフィールド」と言う。なお、ハイビジョンリマスター版では、前者の部分は吹替の再収録がおこなわれているにもかかわらず発音はそのままである一方、切換式字幕は発音と異なり「ホイットフィールド」と表示される。
ヘイスティングスがロンドンから戻った翌朝、グレンジ療養所の外観が映る場面では、オリジナル版だと途中で映像が静止する。
ニック殺害の企てについてポワロが「犯人は四度やって失敗し」と口にする場面があるが、その時点では、ニックが死にかけたと言っていた3回、帽子に穴が空いていた件、そしてマギーが殺された件を合計して「失敗」は5回になるはず。ただし、この数えちがいは原作からで、原作に準拠した台詞ではある(邦訳では修正されているものもある)。また、ハイビジョンリマスター版ではその前にも、「このポワロがマドモワゼル・ニックを危険から守ると約束したんですよ。今回は運良く難を逃れましたが、マドモワゼル・マギーが身代わりになったんです」という台詞が原語だと 'After three attempts have been made on the life of Mademoiselle Nick, Poirot gave his word he would protect her. (マドモワゼル・ニックの殺害未遂が三度あって、ポワロは彼女を守ると約束したんです) The fourth attempt apparently misfired, and Mademoiselle Maggie Buckly was killed. (四度目も表面的には失敗ですが、マドモワゼル・マギーが殺されたんですよ)' と言われており、ここでも回数が1回すくない。
ポワロが「フレディー」という略称を「若い女性には向いてませんね」(原語は 'Ce n'est pas joli for a young lady. (若い女性にしてはかわいらしくないですね)' という表現)と評したのは、「フレディー」がアルフレッドやフレデリックの略称として一般的であり、男性名に聞こえるからである。また、マーガレットの略称に、頭の子音が異なる「ペギー」があるのは、いずれも両唇を閉じて発音される m と p の音がいつしか置き換わったものと考えられる。
ハイビジョンリマスター版では、最初にポワロがバイスの事務所を訪ねた際に「バイス法律事務所」という字幕が追加されている。また、ハイビジョンリマスター版の切換式字幕では、ホテルの庭でポワロがヘイスティングスにニックを紹介した際、ヘイスティングスへの呼びかけが「ヘスティングス」となっている。さらに、フレディーの滞在先のシュラコームも「シュラックホーム」となっているが、シュラコームの原語のつづりは Shellacombe なので「ホ」の入る余地はない。ちなみに、その Shellacombe やセント・ルーのロケ地である Salcombe に含まれる combe とはケルト語に語源を持つ「谷」を意味する言葉で、南西イングランドの海沿いの地名にしばしば見られ、そのイメージを喚起する。
マジェスティック・ホテルの庭からエンドハウスが見えるが、それぞれの撮影地は実は離れており、海の側を背景にテーブルについたポワロたちを映したカットのみ、別の場所で撮影したものを編集でつないでいる。このため、それぞれで影の向きが変わったり、手すりの下の塀部分の造りが異なったり、対岸の景色が変わったりする。花火の夜、エンドハウスから眺める砂浜の奥が暗闇で、ホテルや町の明かりが見えないのもそのためである。また、マジェスティック・ホテルの、フレディーの滞在する部屋の前にあるエレベーターには階数の表示が 8 まであるが、外から見たホテルの建物はどう見ても5階建てであり、加えてホテル入り口のドアの上のデザインも内外で異なるので、ホテル屋内も別の場所(おそらくはスタジオ内セット)で撮影したと見られる。遺言状の出現からポワロが真相に気づくまでの流れで、ポワロのブローチに挿したバラの花のひらき具合が場面によって変わるのも、それぞれの撮影地と撮影タイミングが異なるためである。ほかにも、エンドハウスに向かう崖沿いの道とエンドハウスの門は、実は門のほうが手前にあったり、グレンジ療養所とその入り口の坂道はそれぞれ別の場所で撮影されていたりする。
ポワロたちがエンドハウスに着いたときにラザラスとフレディーが踊っている曲は 'Isle of Capri'、その次のチャレンジャー中佐向きと言われる曲は 'Red Sails in the Sunset'、ヘイスティングスがニックとの出会いを説明する場面でかかっているインストゥルメンタルの曲(正確には、歌の後奏部分)は 'Love is the Sweetest Thing'、そのあとハイビジョンリマスター版でだけ聴けるフレディーが無理と言う曲は 'Who's Been Polishing the Sun' である。また、花火を見ているときにエンドハウスの庭で流れている曲は 'I Won't Dance'、ヘイスティングスがロンドンから戻ったあとホテルで演奏されている曲は 'She Didn't Say Yes' である。
初の長篇原作作品のメインゲストとなったニック役のポリー・ウォーカーは、シルベスター・スタローン主演の「D-TOX」、ジャン・レノ主演の「ロザンナのために」、グウィネス・パルトロウ主演の「エマ」、ハリソン・フォード主演の「パトリオット・ゲーム」などの映画に出演しているほか(「パトリオット・ゲーム」にはヘイスティングス役のヒュー・フレイザーも出演)、後年、ジェラルディン・マクイーワン主演の「ミス・マープル3」の一篇「バートラム・ホテルにて」にもベス・セジウィック役で出演。また、ジム・ラザラス役のポール・ジョフリーは、ジョン・ソウ主演の「主任警部モース」の一篇、「ウッドストック行最終バス」のピーター・ニューラブ役で、エレン役のメアリ・カニンガムは、ジェレミー・ブレット主演の「シャーロック・ホームズの冒険」の一篇、「レディー・フランシスの失踪」のミス・コルダー役で見ることができる。クロフト夫人役のキャロル・マクレディは、ビル・ビクスビー主演の「ロンドン殺人事件」にピアス夫人役で出演。
「名探偵ポワロ」では長尺の長篇作品1話として放送されているが、本作は短篇2話構成への分割も想定して制作されており、その2話構成の場合、事件の動機が明らかになってポワロたちが療養所をあとにしたところで前後篇に分割される。その際、後篇序盤になる箇所には前篇部分の展開を復習するような場面が複数配置されており、動機判明に対するポワロの興奮にもかかわらずすぐにその調査へ赴かなかったり(原作では即座に調査へ向かい、チャレンジャー中佐やフレディーへの聞き込みはそのあとでおこなわれる)、事前にニックから聞いていた話をそのとき初めて聞いたかのようにフレディーたちに確認したりするなど、物語の流れに不自然さを生じている。日本で流通している大半の映像ソフトでは英国オリジナル版として前後篇構成のものが収録されており、イギリスではこの形式で放送されたとの資料もあるが[4][5]、実際には分割されていない長篇1話形式のものが放送されたようで[6]、イギリスで流通している一部の映像ソフトにもこの形式のものが収録されている(ただし、映像ソフトに収録されたバージョンはクレジットの字体が異なり、収録までに改変を加えられた形跡が見られる)。これには、後篇冒頭部分に当たる、ホテルのロビーでヘイスティングスがゴルフに行こうとしてポワロに怒られる場面が存在しない。一方、日本の「名探偵ポワロ」オリジナル版でも同じ場面がカットされて長篇1話構成になっているが、後篇相当部分にしか登場しないミス・レモン役のポーリーン・モランが冒頭にクレジットされないことから、前後篇2話構成のものを素材に、日本で1話にまとめたと見られる。「名探偵ポワロ」ハイビジョンリマスター版も同様に1話構成だが、やはり短篇2話構成のものを素材にしていると見られ、オープニングクレジットにポーリーン・モランの名前はなく、後篇冒頭の場面が含まれる(ただし、前篇最後に表示される TO BE CONTINUED... (次回へつづく) という字幕や、後篇のオープニングクレジットの字幕は消去されている)。また、日本の CS 放送やインターネット配信で使われている字幕版も1話構成だが、エンディングクレジットは長篇1話形式のものではなく後篇用のものが使われていて、前篇にしか登場しないキャストの情報が記載されていない。
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ニックの帽子に穴が空いていた件の真相は原作でも詳細な説明がなされないものの、実際には蜂も発砲もなく、帽子にはあらかじめ穴を空けてあって、さも何かが飛んできたような芝居をした上で銃弾を近くに落としたと考えられるが、劇中でニックがかぶっている帽子には、その帽子をはずしたときも含めて、まだ穴が空いていないように見える。その後、ニックが立ち去るまでは帽子が小さくしか映らず、帽子に穴が空いていることが初めてはっきりわかるのは、ポワロが何かをひろおうとかがみ込む場面である。
原作で、ニックが最初からポワロのことを知って近づいたことを示す伏線であった、ポワロがセント・ルーに滞在していることを報じた新聞記事について、ドラマでは特に言及されないまま終わるが、最初にポワロたちがエンドハウスを訪問した際、腕時計と一緒にテーブルに置かれた新聞に 'FAMOUS DETECTIVE VISITS ST. LOOE (名探偵、セント・ルーを訪問)' という見出しが見える。一方、ニックがポワロの助言にかかわらず元からマギーを招待していたこと、そしてそれをポワロに伏せていたことについては、ドラマだと完全に省略されてわからない。
フレディーの腕時計について、ハイビジョンリマスター版では「いい時計ですね」「世界一楽しい時を刻んでくれるの」というヘイスティングスとフレディーの会話があるが、これは原語だと 'Keep good time, do they? (いい時間を維持しますか?)' 'They keep the best time in the world. (世界一いい時間を維持してくれるわ)' というやりとりで、 keep good time (いい時間を維持する) は、時計が「正確に時を刻む」「指す時刻がずれない」という意味で使われる、ごく一般的な表現である。しかし、のちに時計にコカインを隠していたことが明らかになり、フレディーが暗に日本語のような趣旨を込めていたことがわかるのである。また、あとでフレディーがその時計を「しょっちゅう故障するの」と言ってしまってから、あわてて「〔故障箇所は〕バンドなのよ」と言い添えるのも、当初のやりとりの表面的な意味を踏まえてのもの。その際、フレディーをあわてさせたヘイスティングスの「さわるなって言ったあの時計ですね」という台詞も、原語では 'You said it kept wonderful time. (すばらしい時間を維持するって言ってましたね)' と、より直接的にフレディーの矛盾を衝く表現だったのだが、オリジナル版では当初のやりとりがカットされていたために、別の不審を招くやりとりへの言及に置き換えたのだろう。加えて、その前のチャレンジャー中佐の「〔時計は〕直ってるよ」という台詞も、原語だと 'Yes, I got it done this morning. (ああ、今朝すませておいたよ)' と言っていて、特に故障が直ったとは言っておらず、コカインの補充をすませたと受け取れる表現になっていた。また、フレディーがニックに宛てた手紙で「いま彼に早く届けてくれって手紙を書いてるの」と書いたところは、原語だと 'I'm writing the boyfriend to hurry up the supply. (いま彼に早く補充してって手紙を書いてるの)' という表現で、「届ける」とは言っておらず、これも時計を介した受け渡しと取れる。のちにマカリスター博士のクリニックについてミス・レモンが「診療時間はたったの5分なんですよ?」と言った台詞も、日本語だと単に自分の診療時間が短かったことへの不服のようにも聞こえるが、原語では直前に名を挙げたレディー・ローストフトやビンドーフ夫人などの診療時間の話であることが明確であって、彼女たちも診療の名目で麻薬を受け取りに通っている可能性が示唆されている。
ニックは手術の「前の日」に遺言状をつくったと言っていたはずだが、のちに現れた遺言状の日付は1935年2月25日なのに対し、ポワロは手術の日を2月27日と言う。なお、双方の具体的な日付(年を除く)は原作どおりなのだが、原作では遺言状をつくったのを手術の「直前」と言っており、前日とまでは限定していなかった。まあ、いずれにしたところで、現れた遺言状は偽造なのだけど。
降霊会を始めるにあたってミス・レモンが「ではどうぞお静かに」と言ったところは、原語だとミス・レモンは思わず吹き出したラザラスへ 'Do you think— (あなたは――)' と言いかけ、そこにヘイスティングスが 'Quiet, please. (お静かに)' とかぶせているのだが、日本語にはヘイスティングスの台詞がない。
ニックが死んだことにするというポワロの計略は、原作では最初から読者やヘイスティングスに明かされている。一方のドラマでは当初伏せられており、2021年以降、ハイビジョンリマスター版の放送データに載っているあらすじに書かれた「ポワロは、起死回生の一芝居を打つ」という箇所はネタバレである。ただし、ヘイスティングスやミス・レモンには、視聴者より早く、解決篇の前に明かされているようだ。
ジャップ警部が「書斎のカーテンの陰に隠れました」と言った場面で警部が隠れているのはどう見ても「カーテン」ではなく、原語のとおり screen (衝立) である。
日本語だとバイスが「いずれにしろ、ニックのために弁護をしなければならんでしょうから」と言うが、イギリスでは遺言など法廷外での手続きを扱う事務弁護士と、法廷で弁論をおこなう法廷弁護士が分かれており、前者であるバイスが法廷で直接弁護をすることはない。ただし、法廷弁護士への依頼や、法廷弁護士と共同で訴訟への準備をするのも事務弁護士の仕事で、原語のバイスは 'I must see about some kind of defence for her, I suppose. (何かしらニックの弁護の面倒を見なければならんでしょうから)' という言い方をしている。
最後にポワロとジャップ警部が腰を下ろしているデッキチェア周辺は、二人を正面から写したときと横から写したときとで足下の砂の様子が明らかに異なるほか、影の向きもちがうので、それぞれ別の場所で撮影されたことがわかる。また、ポワロが飲み物でないアイスクリームを掲げて、「乾杯」と言うのに違和感を覚えるかもしれない。原語であるフランス語の santé や英語の cheers などは、日本語で「乾杯」と言うのと同様の状況で用いられ、その定訳となっているが、その原義は「健康〔を祈って〕」であり、杯を干す行為に主眼がない。
舞台は「コーニッシュ・リビエラの女王」と称するコーンワルのセント・ルーという設定だが、町の撮影が行われたのはコーンワルの隣のデボンシャーにあるソルコムという町で、エンドハウスは実際にはモールトという邸宅である。このソルコムは『ゼロ時間へ』の舞台であるソルトクリークのモデルとされ[1]、警察が凶器を捜したり、最後にポワロたちがくつろいだりするサウス・サンズは、ジェラルディン・マクイーワン主演「ミス・マープル3」の「ゼロ時間へ」でも実際にロケ地になっている(ガルズポイントからサウス・サンズを望んだ際にはモールトも見える)。ただし、セント・ルーの駅の撮影がおこなわれたのは、ダートマス蒸気鉄道のキングスウェア駅。この鉄道はかつてクリスティーの別荘であったグリーンウェイ・エステイトの最寄り駅も通る保存鉄道で、ジョーン・ヒクソン主演「ミス・マープル」シリーズの「スリーピング・マーダー」でもグエンダたちがサナトリウムの帰りに乗った汽車として撮影に使われたが、 NHK の放送ではその場面はすべてカットされた。また、冒頭に飛行機が飛んでいたのは東デボンのゴールデン・キャップ付近上空でソルコムからはすこし離れており、そのために崖の地質がエンドハウス周辺とは異なる。なお、架空の町であるセント・ルーの本来のモデルはクリスティーの故郷トーキーと言われており(ただし、コーンワルに「ルー」という海沿いの町は実在する)、マジェスティック・ホテルも実在のインペリアル・ホテルがモデルとされる[2]。また、フレディーが滞在したと言うタビストックはデボンシャーに実在する町だが、同様のシュラコームはやはり実在しない。
劇中の時期は、1935年2月末のニックの手術が半年ほど前と言われるので1935年8月下旬頃と考えられるが、撮影時期は1989年6月[3]。劇中では午後9時40分過ぎに空がまだうっすらと明るさを残している場面があるが、これは日没が午後9時を過ぎる撮影時期ならではの様子であって、8月下旬だとしたら午後8時頃には日が沈むはず。しかし、ちゃんと午後9時20分にとっぷりと日が暮れている場面もあり、劇中の時期と撮影時期の差に、気を遣っているのかいないのかよくわからない(なお、劇中各所で咲き誇っているアジサイは、イギリスでは8月末でも咲く)。また、飛行家のマイケル・シートンが世界一周飛行に挑戦中という設定だが、リンドバーグが世界で初めて単身の大西洋横断無着陸飛行に成功したのが1927年、同じくポストが単身の世界一周飛行に成功したのが1933年。原作執筆・発表時は単身による世界一周飛行は未達成だったが、ドラマの舞台の1935年にはすでに成功例があったことになる。
ヘイスティングスが「ひどいな」と評した、「〔行方不明のシートンは〕太平洋の小島に不時着しているのかもしれない」に対するポワロの「無人島にね」という台詞は、原語では 'Cannibals (人食い人種)' と言っていてもっとひどい。また、それにつづくヘイスティングスの「でも、イギリス人はたいしたものですね」という台詞は、原語では 'Makes you proud to be an Englishman, though. (イギリス人であることが誇らしくなるでしょう)' という台詞で、そのために「私はイギリスに生まれなかったことを悲しいとは思っていませんからね」というポワロの台詞につながる。またこの際、奥の木々のあいだを現代の自動車が通り過ぎるのが写ってしまっている。
ニックが最初の事故(ベッドの上の絵が落ちてきたという件)を説明したあと、日本語ではポワロが「二度目の事故は?」と訊くが、これは原語だと 'And the other accidents? (それ以外の事故は?)' という質問で、一度目以外の事故すべてについて訊いている。そのため、ニックは車のブレーキが効かなかった話と崖から岩が崩れ落ちた話を立て続けにする。内容からすればその二つが別々の事故であることは明らかだが、日本語ではポワロの質問やニックの口調から、一連の一つの事故の話をしているように聞こえてしまうかもしれない。また、岩が落ちてきたとき、ニックはちょうど下の「砂浜」にいたと言うが、のちにヘイスティングスが調べていた現場は岩場であり、原語音声でも rocks (岩場) と言っていた。
日本語音声ではニックが自身のニックネームについて「ニックって悪魔のことよ」と説明するが、一般的に、英語で「悪魔」の意味で使われるのは Nick (ニック) 単体ではなく Old Nick (オールド・ニック)。つづけて彼女が「わたしの祖父は、悪魔に魂を売ったっていうので有名なの。わたし、祖父と住んでたの。それでオールド・ニックとヤング・ニックと呼ばれたのよ」と説明するように、まず悪魔にちなんで「オールド・ニック」と渾名された祖父がいて、その対比として(おそらくは小さな悪魔的なニュアンスも込めて)彼女のニックネームが決められた。なお、原語だと最初のニックの台詞は 'That's where I got my name. (わたしの名前はそこ〔悪魔〕からきてるのよ)' という表現で、必ずしも Nick がそのまま「悪魔」だとは言っていない。
クロフト夫妻がお互いの呼びかけに使った「クーイー (cooee)」とは日本語の「おーい」に近いニュアンスの言葉で、もともとオーストラリア原住民が用い、入植者のあいだでも使われるようになった。そのため、この言葉を使うことは、いかにもなオーストラリア人らしさを感じさせる。
ニックがマイケル・シートンに会ったという「パーティー」は、原語だと Le Touquet と言われており、これはフランス北部にある海沿いの行楽地の名。また、マイケルの伯父は「マシュー・シートン卿」あるいは「シートン卿」と呼ばれるが、「卿」に対応する原語 Sir はフルネームかファーストネームにつける敬称で、原語では Sir Matthew Seton あるいは Sir Matthew と呼ばれている。
ニックは「〔エンドハウスに〕使える寝室は一つきり。だからお友だちはホテルに泊まってるわ」と言っていたはずなのに、花火を見ているとき、フレディーがマギーにコートを取ってくるよう頼んで「〔わたしの〕お部屋にあるわ」と言う。前者の台詞と設定はドラマオリジナルのもので(原作だとフレディーは週末をラザラスとホテルで過ごし、花火の日にはエンドハウスに滞在していることになっていた)、そのため原作どおりの後者の台詞に矛盾が生じている。
ハイビジョンリマスター版で見られる療養所でのヘイスティングスとポワロの会話では、日本語だと警察は犯行を浮浪者の仕業と見ていると言われるが、さすがにただの浮浪者が何度も銃撃するとは思わないのではないかしらん。なお、「浮浪者」に対応する部分の原語は some wandering lunatic (あたりをうろついている精神異常者) である。
事件翌朝、ホテルの外観を撮したカットでは建物の入り江側が影になっているが、実際には入り江側が東なので、これは午後に撮影されたものである。なお、午前中であったと見られるホテル到着時には、入り江から陸の方向へ影が伸びていた。
ポワロたちがチャレンジャー中佐を訪ねて港へ赴いた際、港の風景を映した最初のカットで、建物の上にテレビアンテナが複数見える。また、チャレンジャー中佐から「前進しましたか?」と訊かれたポワロが聞き返したのは、原語だと中佐が 'Are you any forrader?' と言っていて、 forwarder の方言である forrader をポワロが聞き取れなかったためである。
ハイビジョンリマスター版のポワロたちがニックの遺言状を捜す場面で、ヘイスティングスが「電気代の請求書」と言う直前に見ていた便箋には、毛皮を巻いたお洒落な女性のイラストとともに THE COURT FUR STORES (宮廷毛皮店) と書かれており、原語では 'Dressmaker's bill. (服屋の請求書)' と言っている。また、その次の書類を「配当金領収書」と言うが、ニックの立場では普通、配当金は受け取る側であり、その領収書は出す側のはず。原語の dividend warrant は、会社側から発行される、配当金の支払証や支払いの小切手のことである。
ニックの遺言状について、日本語では「正式」なものかどうかが話題になるが、原語だとこれは will form (遺言状用紙) を使ったものか否かが確認されている。しかし、イギリスで一般に流通している、空欄に必要事項を埋めるだけで遺言状を作成できる既製の遺言状用紙は、遺言状として必要な形式を簡便に満たすためのもので、既製の用紙を用いることが「正式」であるわけではない。クロフト氏がしたという「正式なものにすると危険だ」という指摘も、遺言状として正式だから危険なのではなく、既製の用紙に必要事項を埋めただけの遺言状は、すべて自筆のものより偽造や改竄が容易になるという趣旨と思われる。
警察が浜辺で凶器を捜している場面で、ジャップ警部が地元の警部に日本語で「ポワロとは長年いい関係でやってますよ」と言った台詞は、原語だと 'Cource, he's picked up a lot from me over the years. (そりゃあポワロは長年わたしから多くのものを得てきたわけですがね)' とちゃっかり見栄を張っている。
ジャップ警部が売り子から買って舐める濃いピンク色の棒状のものは、「ロック」と呼ばれる日本の千歳飴のようなキャンデー。売り子が原語で 'Peppermint rock! (ハッカ味のロックだよ!)' と言っているように多くはハッカ味で、イギリスの海辺のリゾート地でよく売られている。またそのあと、バイスの事務所から出てきたと思われるポワロとヘイスティングスが画面奥から歩いてくるが、バイスの事務所をポワロが最初に訪ねた場面では、事務所の入り口はこの通りの画面手前側にあったはず。ただ、ポワロが最初に訪ねた場面では通りの右手側を映さず、またここでは画面左手にあるはずの事務所入り口を映していないので、撮影場所は同じでも、劇中では別の場所の設定なのかもしれない。
ミス・レモンが「それで彼〔マカリスター博士〕のクリニックに行ったんです。附属の診療所も備えてます」と言う台詞があるが、「クリニック」と「診療所」はいずれも同じもので、主として外来患者の診療をおこない、入院設備はあっても小規模な施設を指す。後者の「診療所」の原語 nursing home は療養所のことで、滞在型の介護・治療施設を言う。なお、事件のあとにニックが入ったのも nursing home だが、こちらは吹替でも「療養所」と言われている。
日本語音声では、マイケル・シートンの弁護士である Whitfield のことを、ヘイスティングスがシートンの手紙を読み上げたときは「ウィットフィールド」と言うが、駅でポワロがヘイスティングスに訪ねるよう指示した際には「ホイットフィールド」と言う。なお、ハイビジョンリマスター版では、前者の部分は吹替の再収録がおこなわれているにもかかわらず発音はそのままである一方、切換式字幕は発音と異なり「ホイットフィールド」と表示される。
ヘイスティングスがロンドンから戻った翌朝、グレンジ療養所の外観が映る場面では、オリジナル版だと途中で映像が静止する。
ニック殺害の企てについてポワロが「犯人は四度やって失敗し」と口にする場面があるが、その時点では、ニックが死にかけたと言っていた3回、帽子に穴が空いていた件、そしてマギーが殺された件を合計して「失敗」は5回になるはず。ただし、この数えちがいは原作からで、原作に準拠した台詞ではある(邦訳では修正されているものもある)。また、ハイビジョンリマスター版ではその前にも、「このポワロがマドモワゼル・ニックを危険から守ると約束したんですよ。今回は運良く難を逃れましたが、マドモワゼル・マギーが身代わりになったんです」という台詞が原語だと 'After three attempts have been made on the life of Mademoiselle Nick, Poirot gave his word he would protect her. (マドモワゼル・ニックの殺害未遂が三度あって、ポワロは彼女を守ると約束したんです) The fourth attempt apparently misfired, and Mademoiselle Maggie Buckly was killed. (四度目も表面的には失敗ですが、マドモワゼル・マギーが殺されたんですよ)' と言われており、ここでも回数が1回すくない。
ポワロが「フレディー」という略称を「若い女性には向いてませんね」(原語は 'Ce n'est pas joli for a young lady. (若い女性にしてはかわいらしくないですね)' という表現)と評したのは、「フレディー」がアルフレッドやフレデリックの略称として一般的であり、男性名に聞こえるからである。また、マーガレットの略称に、頭の子音が異なる「ペギー」があるのは、いずれも両唇を閉じて発音される m と p の音がいつしか置き換わったものと考えられる。
ハイビジョンリマスター版では、最初にポワロがバイスの事務所を訪ねた際に「バイス法律事務所」という字幕が追加されている。また、ハイビジョンリマスター版の切換式字幕では、ホテルの庭でポワロがヘイスティングスにニックを紹介した際、ヘイスティングスへの呼びかけが「ヘスティングス」となっている。さらに、フレディーの滞在先のシュラコームも「シュラックホーム」となっているが、シュラコームの原語のつづりは Shellacombe なので「ホ」の入る余地はない。ちなみに、その Shellacombe やセント・ルーのロケ地である Salcombe に含まれる combe とはケルト語に語源を持つ「谷」を意味する言葉で、南西イングランドの海沿いの地名にしばしば見られ、そのイメージを喚起する。
マジェスティック・ホテルの庭からエンドハウスが見えるが、それぞれの撮影地は実は離れており、海の側を背景にテーブルについたポワロたちを映したカットのみ、別の場所で撮影したものを編集でつないでいる。このため、それぞれで影の向きが変わったり、手すりの下の塀部分の造りが異なったり、対岸の景色が変わったりする。花火の夜、エンドハウスから眺める砂浜の奥が暗闇で、ホテルや町の明かりが見えないのもそのためである。また、マジェスティック・ホテルの、フレディーの滞在する部屋の前にあるエレベーターには階数の表示が 8 まであるが、外から見たホテルの建物はどう見ても5階建てであり、加えてホテル入り口のドアの上のデザインも内外で異なるので、ホテル屋内も別の場所(おそらくはスタジオ内セット)で撮影したと見られる。遺言状の出現からポワロが真相に気づくまでの流れで、ポワロのブローチに挿したバラの花のひらき具合が場面によって変わるのも、それぞれの撮影地と撮影タイミングが異なるためである。ほかにも、エンドハウスに向かう崖沿いの道とエンドハウスの門は、実は門のほうが手前にあったり、グレンジ療養所とその入り口の坂道はそれぞれ別の場所で撮影されていたりする。
ポワロたちがエンドハウスに着いたときにラザラスとフレディーが踊っている曲は 'Isle of Capri'、その次のチャレンジャー中佐向きと言われる曲は 'Red Sails in the Sunset'、ヘイスティングスがニックとの出会いを説明する場面でかかっているインストゥルメンタルの曲(正確には、歌の後奏部分)は 'Love is the Sweetest Thing'、そのあとハイビジョンリマスター版でだけ聴けるフレディーが無理と言う曲は 'Who's Been Polishing the Sun' である。また、花火を見ているときにエンドハウスの庭で流れている曲は 'I Won't Dance'、ヘイスティングスがロンドンから戻ったあとホテルで演奏されている曲は 'She Didn't Say Yes' である。
初の長篇原作作品のメインゲストとなったニック役のポリー・ウォーカーは、シルベスター・スタローン主演の「D-TOX」、ジャン・レノ主演の「ロザンナのために」、グウィネス・パルトロウ主演の「エマ」、ハリソン・フォード主演の「パトリオット・ゲーム」などの映画に出演しているほか(「パトリオット・ゲーム」にはヘイスティングス役のヒュー・フレイザーも出演)、後年、ジェラルディン・マクイーワン主演の「ミス・マープル3」の一篇「バートラム・ホテルにて」にもベス・セジウィック役で出演。また、ジム・ラザラス役のポール・ジョフリーは、ジョン・ソウ主演の「主任警部モース」の一篇、「ウッドストック行最終バス」のピーター・ニューラブ役で、エレン役のメアリ・カニンガムは、ジェレミー・ブレット主演の「シャーロック・ホームズの冒険」の一篇、「レディー・フランシスの失踪」のミス・コルダー役で見ることができる。クロフト夫人役のキャロル・マクレディは、ビル・ビクスビー主演の「ロンドン殺人事件」にピアス夫人役で出演。
「名探偵ポワロ」では長尺の長篇作品1話として放送されているが、本作は短篇2話構成への分割も想定して制作されており、その2話構成の場合、事件の動機が明らかになってポワロたちが療養所をあとにしたところで前後篇に分割される。その際、後篇序盤になる箇所には前篇部分の展開を復習するような場面が複数配置されており、動機判明に対するポワロの興奮にもかかわらずすぐにその調査へ赴かなかったり(原作では即座に調査へ向かい、チャレンジャー中佐やフレディーへの聞き込みはそのあとでおこなわれる)、事前にニックから聞いていた話をそのとき初めて聞いたかのようにフレディーたちに確認したりするなど、物語の流れに不自然さを生じている。日本で流通している大半の映像ソフトでは英国オリジナル版として前後篇構成のものが収録されており、イギリスではこの形式で放送されたとの資料もあるが[4][5]、実際には分割されていない長篇1話形式のものが放送されたようで[6]、イギリスで流通している一部の映像ソフトにもこの形式のものが収録されている(ただし、映像ソフトに収録されたバージョンはクレジットの字体が異なり、収録までに改変を加えられた形跡が見られる)。これには、後篇冒頭部分に当たる、ホテルのロビーでヘイスティングスがゴルフに行こうとしてポワロに怒られる場面が存在しない。一方、日本の「名探偵ポワロ」オリジナル版でも同じ場面がカットされて長篇1話構成になっているが、後篇相当部分にしか登場しないミス・レモン役のポーリーン・モランが冒頭にクレジットされないことから、前後篇2話構成のものを素材に、日本で1話にまとめたと見られる。「名探偵ポワロ」ハイビジョンリマスター版も同様に1話構成だが、やはり短篇2話構成のものを素材にしていると見られ、オープニングクレジットにポーリーン・モランの名前はなく、後篇冒頭の場面が含まれる(ただし、前篇最後に表示される TO BE CONTINUED... (次回へつづく) という字幕や、後篇のオープニングクレジットの字幕は消去されている)。また、日本の CS 放送やインターネット配信で使われている字幕版も1話構成だが、エンディングクレジットは長篇1話形式のものではなく後篇用のものが使われていて、前篇にしか登場しないキャストの情報が記載されていない。
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ニックの帽子に穴が空いていた件の真相は原作でも詳細な説明がなされないものの、実際には蜂も発砲もなく、帽子にはあらかじめ穴を空けてあって、さも何かが飛んできたような芝居をした上で銃弾を近くに落としたと考えられるが、劇中でニックがかぶっている帽子には、その帽子をはずしたときも含めて、まだ穴が空いていないように見える。その後、ニックが立ち去るまでは帽子が小さくしか映らず、帽子に穴が空いていることが初めてはっきりわかるのは、ポワロが何かをひろおうとかがみ込む場面である。
原作で、ニックが最初からポワロのことを知って近づいたことを示す伏線であった、ポワロがセント・ルーに滞在していることを報じた新聞記事について、ドラマでは特に言及されないまま終わるが、最初にポワロたちがエンドハウスを訪問した際、腕時計と一緒にテーブルに置かれた新聞に 'FAMOUS DETECTIVE VISITS ST. LOOE (名探偵、セント・ルーを訪問)' という見出しが見える。一方、ニックがポワロの助言にかかわらず元からマギーを招待していたこと、そしてそれをポワロに伏せていたことについては、ドラマだと完全に省略されてわからない。
フレディーの腕時計について、ハイビジョンリマスター版では「いい時計ですね」「世界一楽しい時を刻んでくれるの」というヘイスティングスとフレディーの会話があるが、これは原語だと 'Keep good time, do they? (いい時間を維持しますか?)' 'They keep the best time in the world. (世界一いい時間を維持してくれるわ)' というやりとりで、 keep good time (いい時間を維持する) は、時計が「正確に時を刻む」「指す時刻がずれない」という意味で使われる、ごく一般的な表現である。しかし、のちに時計にコカインを隠していたことが明らかになり、フレディーが暗に日本語のような趣旨を込めていたことがわかるのである。また、あとでフレディーがその時計を「しょっちゅう故障するの」と言ってしまってから、あわてて「〔故障箇所は〕バンドなのよ」と言い添えるのも、当初のやりとりの表面的な意味を踏まえてのもの。その際、フレディーをあわてさせたヘイスティングスの「さわるなって言ったあの時計ですね」という台詞も、原語では 'You said it kept wonderful time. (すばらしい時間を維持するって言ってましたね)' と、より直接的にフレディーの矛盾を衝く表現だったのだが、オリジナル版では当初のやりとりがカットされていたために、別の不審を招くやりとりへの言及に置き換えたのだろう。加えて、その前のチャレンジャー中佐の「〔時計は〕直ってるよ」という台詞も、原語だと 'Yes, I got it done this morning. (ああ、今朝すませておいたよ)' と言っていて、特に故障が直ったとは言っておらず、コカインの補充をすませたと受け取れる表現になっていた。また、フレディーがニックに宛てた手紙で「いま彼に早く届けてくれって手紙を書いてるの」と書いたところは、原語だと 'I'm writing the boyfriend to hurry up the supply. (いま彼に早く補充してって手紙を書いてるの)' という表現で、「届ける」とは言っておらず、これも時計を介した受け渡しと取れる。のちにマカリスター博士のクリニックについてミス・レモンが「診療時間はたったの5分なんですよ?」と言った台詞も、日本語だと単に自分の診療時間が短かったことへの不服のようにも聞こえるが、原語では直前に名を挙げたレディー・ローストフトやビンドーフ夫人などの診療時間の話であることが明確であって、彼女たちも診療の名目で麻薬を受け取りに通っている可能性が示唆されている。
ニックは手術の「前の日」に遺言状をつくったと言っていたはずだが、のちに現れた遺言状の日付は1935年2月25日なのに対し、ポワロは手術の日を2月27日と言う。なお、双方の具体的な日付(年を除く)は原作どおりなのだが、原作では遺言状をつくったのを手術の「直前」と言っており、前日とまでは限定していなかった。まあ、いずれにしたところで、現れた遺言状は偽造なのだけど。
降霊会を始めるにあたってミス・レモンが「ではどうぞお静かに」と言ったところは、原語だとミス・レモンは思わず吹き出したラザラスへ 'Do you think— (あなたは――)' と言いかけ、そこにヘイスティングスが 'Quiet, please. (お静かに)' とかぶせているのだが、日本語にはヘイスティングスの台詞がない。
ニックが死んだことにするというポワロの計略は、原作では最初から読者やヘイスティングスに明かされている。一方のドラマでは当初伏せられており、2021年以降、ハイビジョンリマスター版の放送データに載っているあらすじに書かれた「ポワロは、起死回生の一芝居を打つ」という箇所はネタバレである。ただし、ヘイスティングスやミス・レモンには、視聴者より早く、解決篇の前に明かされているようだ。
ジャップ警部が「書斎のカーテンの陰に隠れました」と言った場面で警部が隠れているのはどう見ても「カーテン」ではなく、原語のとおり screen (衝立) である。
日本語だとバイスが「いずれにしろ、ニックのために弁護をしなければならんでしょうから」と言うが、イギリスでは遺言など法廷外での手続きを扱う事務弁護士と、法廷で弁論をおこなう法廷弁護士が分かれており、前者であるバイスが法廷で直接弁護をすることはない。ただし、法廷弁護士への依頼や、法廷弁護士と共同で訴訟への準備をするのも事務弁護士の仕事で、原語のバイスは 'I must see about some kind of defence for her, I suppose. (何かしらニックの弁護の面倒を見なければならんでしょうから)' という言い方をしている。
最後にポワロとジャップ警部が腰を下ろしているデッキチェア周辺は、二人を正面から写したときと横から写したときとで足下の砂の様子が明らかに異なるほか、影の向きもちがうので、それぞれ別の場所で撮影されたことがわかる。また、ポワロが飲み物でないアイスクリームを掲げて、「乾杯」と言うのに違和感を覚えるかもしれない。原語であるフランス語の santé や英語の cheers などは、日本語で「乾杯」と言うのと同様の状況で用いられ、その定訳となっているが、その原義は「健康〔を祈って〕」であり、杯を干す行為に主眼がない。
- [1] Max Edgar Lucien Mallowan, Mallowan's Memoirs, Dodd Mead, 1977, p. 222
- [2] 早川書房編集部編, 『アガサ・クリスティー99の謎』, 早川書房(クリスティー文庫), 2004, pp. 170-171
- [3] Mark Aldridge, Agatha Christie on Screen, Palgrave Macmillan, 2016, p. 251
- [4] 北島明弘, 『映画で読むアガサ・クリスティー』, 近代映画社, 2010, p. 149
- [5] 英国テレビ文庫itvコレクション 名探偵ポワロ 徹底解説 エンドハウスの怪事件
- [6] Mark Aldridge, Agatha Christie on Screen, Palgrave Macmillan, 2016, p. 282
ロケ地写真
カットされた場面
日本
オリジナル版
[0:03:19/0:23] | ホテル到着後の部屋でのポワロとヘイスティングス 〜 ホテルの庭の情景 〜 庭でくつろぐポワロとヘイスティングス |
[0:12:36/0:32] | 揃いの時計についてのヘイスティングスとフレディーの会話 〜 フレディーとラザラスのダンス |
[0:17:32/1:15] | ポワロとヘイスティングスが町でニックの友人たちについて話しあう場面 |
[0:20:07/0:35] | ホテルのラウンジにおける、車の修理工場を訪ねたヘイスティングスの話 |
[0:22:00/0:21] | エンドハウス前のポワロとヘイスティングス |
[0:28:55/0:33] | 花火の場面前半の一部、ニックとクロフトの会話 |
[0:34:17/1:10] | ベッドのニック 〜 夜の療養所でのポワロとヘイスティングスの会話 〜 夜の病室のニック |
[0:44:00/0:07] | 療養所をあとにするポワロとヘイスティングス( 〜 前篇エンディング) |
[0:44:00/1:45] | (後篇オープニング 〜 )ヘイスティングスがゴルフに行こうとしてポワロに怒られる場面 |
[0:49:11/0:40] | ポワロとヘイスティングスがニックの寝室で遺言状を捜す場面の前半 |
[1:02:04/0:41] | 部屋で物思いに沈むポワロのアップ 〜 ホテルのラウンジでポワロを気遣うヘイスティングスとミス・レモンの会話 |
[1:11:28/0:06] | 夜のエンドハウス外観 〜 車でやってくるラザラスとフレディー冒頭 |
ハイビジョンリマスター版
[0:49:01/0:00] | (前篇エンディング) |
[0:49:01/0:00] | (後篇オープニング) |
映像ソフト
- [VHS, LD] 「名探偵ポアロシリーズ Vol.2 エンドハウスの怪事件」(字幕) ハミングバード
- [VHS] 「名探偵エルキュール・ポアロ 第9巻 邪悪の家」(字幕) 日本クラウン
- [DVD] 「名探偵ポワロ 6 エンドハウスの怪事件」(字幕・吹替) ビームエンタテインメント(現ハピネット・ピクチャーズ)※1
- [DVD] 「名探偵ポワロ [完全版] 6 エンドハウスの怪事件」(字幕・吹替) ハピネット・ピクチャーズ※2
- [DVD] 「名探偵ポワロ DVDコレクション 23 エンドハウスの怪事件」(字幕・吹替) デアゴスティーニ・ジャパン※3
- [BD] 「名探偵ポワロ Blu-ray BOX Disc 3 クラブのキング, 夢, エンドハウスの怪事件」(字幕/吹替) ハピネット・ピクチャーズ※4
- ※1 「名探偵ポワロ DVD-BOX1」にも収録
- ※2 「名探偵ポワロ [完全版] DVD-BOX1」「名探偵ポワロ [完全版] 全巻 DVD-SET」「名探偵ポワロ [完全版] DVD-SET 2」にも収録
- ※3 吹替は大塚智則さん主演の新録で、映像もイギリスで販売されているDVDと同じバリエーションを使用
- ※4 「名探偵ポワロ Blu-ray BOX vol. 1」に収録
同原作の映像化作品
- [アニメ] 「アガサ・クリスティーの名探偵ポワロとマープル 第16話〜第18話 エンドハウス怪事件」 2004年 監督:高橋ナオヒト 出演:里見浩太朗、折笠富美子、野島裕史、屋良有作、田中敦子