なぞの盗難事件 The Incredible Theft
放送履歴
日本
オリジナル版(45分00秒)
- 1990年03月10日 22時15分〜 (NHK総合)
- 1992年04月15日 17時05分〜 (NHK総合)
- 1998年10月20日 15時10分〜 (NHK総合)
- 2003年05月23日 18時00分〜 (NHK衛星第2)
ハイビジョンリマスター版(49分00秒)
- 2015年12月12日 16時00分〜 (NHK BSプレミアム)
- 2016年05月25日 17時00分〜 (NHK BSプレミアム)
- 2016年05月23日 17時11分〜 (NHK BSプレミアム)※1
- 2021年10月20日 09時00分〜 (NHK BS4K)
- 2022年02月02日 13時00分〜 (NHK BS4K)
- 2022年07月27日 21時00分〜 (NHK BSプレミアム・BS4K)
- 2022年09月23日 23時00分〜 (NHK BSプレミアム)※2
- ※1 エンディング最後の画面下部に次回の放送時間案内の字幕表示(帯付き)あり
- ※2 エンディング後半の画面左部に次回の放送案内の字幕表示あり
海外
- 1989年02月26日 (英・ITV)
原作
邦訳
- 「謎の盗難事件」 - 『死人の鏡』 クリスティー文庫 小倉多加志訳
- 「謎の盗難事件」 - 『死人の鏡』 ハヤカワミステリ文庫 小倉多加志訳
- 「謎の盗難事件」 - 『死人の鏡』 創元推理文庫 宇野利泰訳
原書
- The Incredible Theft, Murder in the Mews, Collins, March 1937 (UK)
- The Incredible Theft, Dead Man's Mirror, Dodd Mead, June 1937 (USA)
オープニングクレジット
日本
オリジナル版
名探偵ポワロ / AGATHA CHRISTIE'S POIROT / DAVID SUCHET // HUGH FRASER / PHILIP JACKSON / PAULINE MORAN / なぞの盗難事件, THE INCREDIBLE THEFT / Dramatized by DAVID REID and CLIVE EXTON
ハイビジョンリマスター版
名探偵ポワロ / DAVID SUCHET / AGATHA CHRISTIE'S POIROT / なぞの盗難事件 // HUGH FRASER / PHILIP JACKSON / PAULINE MORAN / THE INCREDIBLE THEFT / Dramatized by DAVID REID and CLIVE EXTON
エンディングクレジット
日本
オリジナル版
原作 アガサ・クリスティー 脚本 デビッド・リード 監督 エドワード・ベネット 制作 LWT(イギリス) / 出演 ポワロ(デビッド・スーシェ) 熊倉一雄 ヘイスティングス(ヒュー・フレイザー) 富山 敬 ジャップ警部(フィリップ・ジャクソン) 坂口芳貞 ミス・レモン 翠 準子 サー・ジョージ 石田太郎 バンダリン夫人 田島令子 武藤礼子 宮川洋一 谷 育子 大塚明夫 江原正士 小山武宏 稲葉 実 / 日本語版 宇津木道子 山田悦司 福岡浩美 南部満治 金谷和美
ハイビジョンリマスター版
原作 アガサ・クリスティー 脚本 デビッド・リード クライブ・エクストン 演出 エドワード・ベネット 制作 LWT (イギリス) / 出演 ポワロ(デビッド・スーシェ) 熊倉 一雄 ヘイスティングス(ヒュー・フレイザー) 富山 敬/安原 義人 ジャップ警部(フィリップ・ジャクソン) 坂口 芳貞 ミス・レモン(ポーリン・モラン) 翠 準子 サー・ジョージ 石田 太郎 バンダリン夫人 田島 令子 武藤 礼子 宮川 洋一 谷 育子 大塚󠄀 明夫 江原 正士 小山 武宏 稲葉 実 石住 昭彦 友野 富美子 深水 由美 日本語版スタッフ 翻訳 宇津木 道子 演出 山田 悦司 音声 金谷 和美 プロデューサー 里口 千
海外
オリジナル版
Hercule Poirot: DAVID SUCHET; Captain Hastings: HUGH FRASER; Chief Inspector Japp: PHILIP JACKSON; Miss Lemon: PAULINE MORAN; Tommy Mayfield: JOHN STRIDE; Mrs. Vanderlyn: CARMEN DU SAUTOY; Lady Mayfield: CIARAN MADDEN; Sir George Carrington: JOHN CARSON; Lady Carrington: PHILLIDA LAW; Reggie Carrington: GUY SCANTLEBURY; Carlile: ALBERT WELLING; Chauffeur: DAN HILDEBRAND; Sergeant: PHILLIP MANIKUM; Stuntmen: NICK GILLARD, CHRISSIE MONK, ROY ALON, VALENTINO MUSETTI; Stunt Arranger: NICK GILLARD / Developed for Television by Picture Partnership Productions / (中略)First Assistant Director: SIMON HINKLY; Location Managers: PHILIP MORRIS, NIGEL GOSTELOW; Production Assistant and Continuity: JANET MULLINS; Production Accountant: MIKE LITTLEJOHN; Camera Operator: STEVEN ALCORN; Gaffer: PAT COLES; Art Director: PETER WENHAM; Set Dresser: CARLOTTA BARROW; Production Buyer: PETER MACFARLAN; Property Master: MICKY LENNON; Construction Manager: LES PEACH; Dubbing Editor: COLIN CHAPMAN; Dialogue Editor: BRIGITTE ARNOLD; Dubbing Mixer: RUPERT SCRIVENER; Post Production Supervisor: RAY HELM / Panaflex 16(R) Camera by Panavision(R); Made at Twickenham Studios, London, England / Costume Designer: SUE THOMSON; Make up Supervisor: CHRISTINE CANT; Sound Recordist: KEN WESTON; Titles: PAT GAVIN; Production Manager: MARTIN BOND; Casting Drector: REBECCA HOWARD; Film Editor: DEREK BAIN; Production Supervisor: DAVID FITZGERALD / Production Designer: ROB HARRIS / Director of Photography: IVAN STRASBURG / Music: CHRISTOPHER GUNNING / Executive Producers: NICK ELLIOTT, LINDA AGRAN / Producer: BRIAN EASTMAN / Director: EDWARD BENNETT
あらすじ
軍需企業の社長メイフィールドは、ドイツのスパイとされるバンダリン夫人を自邸に招待していた。夫の行動を心配するレディー・マーガレットの依頼を受け、ポワロもその場へ。はたして新型戦闘機の設計書が紛失し、当然、バンダリン夫人が盗んだと思われたが……
事件発生時期
不詳
主要登場人物
エルキュール・ポワロ | 私立探偵 |
アーサー・ヘイスティングス | ポワロの探偵事務所のパートナー、陸軍大尉 |
ジェームス・ジャップ | スコットランド・ヤード主任警部 |
フェリシティ・レモン | ポワロの秘書 |
トミー・メイフィールド | 軍需企業の社長 |
レディー・マーガレット・メイフィールド | トミーの妻 |
サー・ジョージ・キャリントン | 国防大臣 |
イザベル・キャリントン | サー・ジョージの妻 |
リジー・キャリントン | サー・ジョージ夫妻の息子 |
ジョアンナ・バンダリン | ドイツのスパイと噂のある女 |
カーライル | メイフィールドの秘書 |
解説、みたいなもの
「砂に書かれた三角形」同様、第二次大戦に向かう時代の雰囲気を感じさせる作品で、上海事変(おそらく1932年に起きた第一次のほう)に関連して日本も話題にのぼる。その背景には、当時はイギリスも上海に租界を持っており、その利権を脅かすものとして日本の侵攻をイギリスが強く問題視した史実がある。また、尺の都合で一部場面が収まりきらなかったオリジナル版ではばっさりカットされていたが、ハイビジョンリマスター版ではヒトラーやムッソリーニと並べて「日本の天皇はどうするんですか? 彼にも身の程を〔教えますか〕?」という発言まで飛び出す。ただしオリジナル版でも、この発言について「ディナーの席で誰かがムッシュウ・メイフィールドに日本のことを言いましたが」とポワロが言及するところはそのまま残っている(なお、原語の台詞だと「誰か」に対応する表現は one of the guests (招待客の一人) で、ポワロが発言者を把握していないニュアンスはない)。最後にポワロが渡す手紙も日本語らしいが、大きく映らないので画面越しでは本当に日本語かどうかもわからない。
この「なぞの盗難事件」の原作は、「ミューズ街の殺人」同様、既存の短篇「潜水艦の設計図」を拡張した中篇で、やはり元の「潜水艦の設計図」にのみヘイスティングスが登場し、このときの国家機密は題名が示すように潜水艦だった。当初の、国家機密の(潜水艦の)設計図の盗難事件という着想の元は、「ブルース・パーティントン設計書」(『シャーロック・ホームズ最後の挨拶』所収)だろうか。
事件への導入役となるレディー・マーガレット・メイフィールドはドラマで追加された人物。一方、原作の登場人物からは下院議員のマカッタ夫人とバンダリン夫人のメイドのレオニーが省かれているほか、メイフィールドとレディー・キャリントンはなぜかファーストネームが変更されている。また、レディー・キャリントンが息子を犯人と思い込む展開や、レオニーが見たという幽霊に関するくだりが、レオニーの削除に伴ってすべてカットされ、代わりに挿入されたバンダリン夫人の行き先を突き止めるシーンで、ヘイスティングスによるカーチェイスが初登場。日本のサスペンスもののドラマに、クライマックスの場面が海の近くだったり、名所・名物紹介が盛り込まれたりするというお約束があるように、イギリスのミステリドラマではカーチェイスがないと受けないという定説があるらしく、ドラマ化にあたってしばしば登場人物に車好きという性格が追加される。それにつけてもハンドルを握ったヘイスティングスの顔はほかで見られないくらいに嬉しそうだが、車を外から撮したカットでハンドルを握っている人影は、ヘイスティングス役のヒュー・フレイザーに見えず、スタントによる代役と思われる。またバンダリン夫人の車でも、外から見ると夫人が座っている位置が変わる。
ポワロがエナメル革の手入れに使っているペトロラタムとは、いわゆるワセリンのこと。
ヘイスティングスが「立方体の体積はどう出すんでしたっけ?」と言うところは、原語だと 'How do you work out cubic what-do-you-call thems? (立体の何とかはどう出すんでしたっけ?)' という台詞で cubic volume (体積) という単語を思い出せずにおり、全部の辺の長さが同じ直方体である「立方体」に限らない「立体」の体積の求め方について話している。その後に、明らかに立方体でない部屋の体積(容積)の話題になるのはそのためである。
匿名の女性の依頼人をめぐるポワロとミス・レモンのやりとりは、日本語と原語でやりとりの内容がすこし異なり、たとえばポワロがミス・レモンに「ここの主人はわたしですか? ファイルですか?」と言う台詞は、原語だと 'Life first, Miss Lemon. Filing second. (命が第一、ファイルは二の次です)' だし、ミス・レモンをからかったことをヘイスティングスにたしなめられて「むきになるからおもしろいの」と言ったところは 'She makes it irresistible. (ついからかいたくなるんですよ)' という表現で、具体的な理由には触れていない。
「レディー・マーガレット・メイフィールド」という名乗りを受けて、ポワロが夫のメイフィールドを貴族と誤解したのは、「レディー」が一般的に侯爵以下の貴族の妻への敬称であることによる(なお、貴族でない準男爵や勲爵士の妻も俗に「レディー」の敬称で呼ばれるが、より高い位を想定しておけば無難である)。しかし、それに対してレディー・マーガレットが「わたくしの父が伯爵でした」と説明したように、伯爵以上の貴族の娘も「レディー」の敬称で呼ばれる(子爵以下の貴族の娘の敬称は「ミス」「ミセス」になる)。ただしこの場合、のちにポワロやジャップ警部が呼んだように「レディー・マーガレット」、あるいは「レディー・マーガレット・メイフィールド」とファーストネームにつなげ、姓につなげて「レディー・メイフィールド」と呼ぶことはない(ので、 Agatha Christie's Poirot のエンディングクレジットでの Lady Mayfield という表記は誤りである)。対してイザベル・キャリントンは、サー・ジョージ・キャリントンの妻であることで「レディー」の称号を受けていると見られ、それゆえに姓につなげて「レディー・キャリントン」と呼ばれる。
レディー・キャリントンの到着時、執事が一同の居場所について「下のテラスのほうでございます」と答えるが、原語だとまさに 'On the lower terrace, Lady Carrington. (下のテラスでございます)' と言っている。しかし、一同が集まっていたのはテラスを下りた先の庭である。
サー・ジョージが言う外務大臣の「イーデン氏」とは、のちの第二次中東戦争の際にイギリス首相を務め、最終的にスエズ運河の権益を失って辞職することになるアントニー・イーデンのこと。彼が初めて外務大臣になったのは第3次ボールドウィン内閣の1935年末のことで、次のチェンバレン内閣も含めて1938年2月まで在任した。一方、当時のドイツ軍の主力戦闘機が、サー・ジョージの台詞にあったように〈メッサーシュミット109〉と呼ばれるようになるのは、メッサーシュミット社が再独立した1938年7月以降であり、両者の時期は重ならない。加えて、ミス・レモンの部屋やメイフィールドのデスクの上には、1日が月曜日で31日まである月のカレンダーが置いてあり、1935年前後でこの条件を満たすのは、1933年5月、1934年1月と10月、1935年7月、1937年3月、1938年8月、1939年5月。また、〈メイフィールド・ケストレル〉の銃撃パフォーマンスのあと、メイフィールドたちの背後に見える建物では蛍光灯らしき照明が使用されているが、蛍光灯の商業生産が始まったのは1937年のことである。さらに劇中は落葉の季節であり、これらの条件からは最低でも2つを無視しないと具体的な時期が定まらない。なお余談ながら、ヘイスティングス役のヒュー・フレイザーは、英国王エドワード八世とそのアメリカ人の恋人シンプソン夫人を描いたドラマ Edward & Mrs Simpson で、アントニー・イーデンの役を演じたことがある。
メイフィールド邸の食堂入り口脇に置かれた銅鑼は、このような屋敷などで、食事の準備ができたことを家人や来客に伝えるために鳴らすもの。本作ではその様子は描かれないが、「死人の鏡」や「死者のあやまち」、また場所が屋敷ではないが「もの言えぬ証人」で実際に鳴らされる様子を見ることができるほか、「ビッグ・フォー」でも食事前の銅鑼の音が聞こえる。また、「エッジウェア卿の死」でもサー・モンタギュ・コーナー邸で電話の横に銅鑼が置かれている。
ハイビジョンリマスター版で見られる、ポワロたちがブリッジをしている場面では、各人が手にしたカードの枚数がそれぞれ異なるが、ブリッジのゲームは各人に13枚ずつ配られたカードを順に1枚ずつ出していくことでおこなわれるので、手持ちのカードの枚数が1枚以上ずれることはない。また、その横でのサー・ジョージとレディー・マーガレットの会話は、日本語だと「ご主人は奮闘してるねえ」「戦争を危惧してるんです」「回避できると?」「そうですわね。実現できる可能性のある人ですから」となっていて、やりとりがすこし噛み合わないが、原語では 'Tommy's working too hard. (ご主人は働きすぎだよ)' 'He believes that we're on the brink of war. (戦争になるかの瀬戸際だと思ってるんです)' 'And that he can stop it single-handed? (そして、それを自分一人で阻止できると?)' 'Something like that. The truth is, of cource, he can do more than most people. (そんなところですわ。実際、大多数の人よりできることは多いですから)' というやりとりである。
レディー・キャリントンのブリッジについて、日本語ではヘイスティングスが「大金を賭けては負け」と言う台詞があるが、ブリッジによる金銭の授受は、各人の最終的な得点に応じて参加者間で精算するものであって、事前に賭けた金額に応じて報酬を受けるものではなく、原語だと 'she loses a lot of money at it (ブリッジで大金をすっていて)' という表現である。とはいえ、得点から金額への換算レートを高く設定したり、得点上でハイリスク・ハイリターンになる宣言をおこなったりすることを、「大金を賭け」ると言えなくもない。なお、ブリッジは2人2組によるチーム戦なのだが、パートナーがハイリスク・ハイリターンなビッド(宣言)をおこなうと、ルール上、えてして自分のプレーを完全にパートナーに委ねなければならなくなる(ビッドは基本的にもっともハイリスク・ハイリターンなものが採用され、ビッドの採用されたペアでは、〈デクレアラー〉と呼ばれる一方のプレイヤーが、〈ダミー〉と呼ばれるそのパートナーの分も含めて手札の出し方を決定し、ダミーは何もしない)上、同チームの2人は同じ得点になるので、無謀なパートナーに当たると、なす術もなく大敗させられて自分も金銭的な損害を被ることになる。であるからして、ポワロがレディー・キャリントンを「最悪のパートナー」と評したのも、劇中で描かれる、ゲームに負けたあとの当たりのきつさだけによるものではないのだろう。
電波探知機について「かなりの研究費をつぎ込んでいる」とのサー・ジョージの台詞があるように、1935年以降、イギリスがその開発に注力したのは史実であり、チャーチルも電子技術の導入に積極的であった。当初、その予算には破格の10万ポンドが計上されようとしたという。[1]
ジャップ警部が現場に到着するときに流れる劇伴は、「ジョニー・ウェイバリー誘拐事件」でもやはり警部がウェイバリー邸に到着したときに流れていた曲のバリエーションで、いわばジャップ警部登場のテーマ(といっても、使われるのはこの2箇所だけだけど)。またこのとき警部は、「ジョニー・ウェイバリー誘拐事件」では部下の配置を指示するときに言いよどんでいた「召使いの住まい (servents' quarters)」という言葉を、すんなりと言えるようになっている。ただし、「ジョニー・ウェイバリー誘拐事件」のオリジナル版では、曲のイントロが流れる部分や、部下の配置を指示する場面はカットされていた。
ハイビジョンリマスター版で、宿でのジャップ警部についてヘイスティングスが「とにかくすごいいびきなんです」と言ったあと、「靴を投げ捨てるんです」や「寝入ったあとがまた最悪で」などと話をつづけるが、そもそもいびきをかいている時点で寝入っているのではないかしら。ここのヘイスティングスが話をする場面はオリジナル版だと、「バーンって靴を投げ捨てるんです」から「信じられないくらい大声なんです」までの部分がカットされており、それでも意味が通るように、カットの前の部分に原語と意味の異なる日本語を当てていたのだが、ハイビジョンリマスター版でも、その部分まで含めて吹替音声の再収録をおこないながら、元の日本語表現をそのまま採用したため、話の流れが不自然になった。
バンダリン夫人の車がパブの前を通過する直前、橋の奥に見える家並には、窓枠などが1930年代らしからぬ色で塗られている建物があるほか、屋根の上にもテレビのアンテナが見える。一方、そのあと右に道を逸れて渡った橋の両脇にはグレーのシートが敷かれており、これは撮影にあたって現代的な白線標示を隠すためのものに思われるが、画面奥では白線がそのまま見えており、意図がよくわからない。また、バンダリン夫人の車がここで右の道を採ったことでヘイスティングスが「やられた!」と言うので、ヘイスティングスは思い込みによって左の道へ入ってしまったように聞こえるが、そのあとすぐにまたバンダリン夫人の車の後ろにつけているのもよくわからない。ちなみに、あの左右の道は、実際には橋を渡ったあとですぐ合流しているのだが、夫人の行き先の見当がつかなくなったことに鑑みると、劇中世界ではそのまま分かれているのだろう。
カーチェイスの序盤と最後に1箇所ずつある、ハイビジョンリマスター版でほかと同様のリマスター処理を施されていないカットは、のちに「負け犬」で使いまわされた部分。おそらくは原板がそちらへ持って行かれており、本作のリマスター作業時に発見できなかったのだろう。なお「負け犬」では、それらのカットはちゃんと通常どおりのリマスター処理を施されている。
メイフィールド社の新型戦闘機として撮影に使われたのは、実際にはスーパーマリン社の〈スピットファイア〉。その「いずれもっといい名前を考えます」と言われてしまった仮称〈メイフィールド・ケストレル〉の「ケストレル (kestrel)」とは、和名をチョウゲンボウという小型のハヤブサの一種のこと。
ポワロと「ミス・スミス」が待ち合わせた場所は、リージェンツ・パークのロンドン動物園ペンギン・プール前。ロンドン動物園は1828年に開園したヨーロッパでも最古の動物園で、この作品の放送後の1992年には財政難で経営が危ぶまれたが、存続運動によって閉鎖をまぬがれた[2]。ただし、2004年にペンギンたちは新たな飼育施設に移動しており、作中で見られるペンギン・プールは現在、空の建物だけが残った状態となっている。
冒頭に〈メイフィールド・ケストレル〉の試験飛行をしている飛行場は、ケント州のウェスト・モーリング王立空軍飛行場。ヘイスティングスやジャップ警部が滞在したスリー・クラウンズというパブは、バッキンガムシャーのデナム村にあるグリーン・マンおよびスワン・イン。カーチェイスがおこなわれたのはサリー州ティルフォードのティルフォード・ストリートとティルフォード・ロード、そしてグレンジ・ロード。メイフィールド邸は、サリー州コバム近郊のフォクスウォレン・パーク。
Agatha Christie's Poirot のエンディングクレジットには台詞のある役とその出演者が掲載されるのが原則のようだが、本作ではなぜか、ヘイスティングスの車の修理につきあっていた警官役や、植え込みを捜査するジャップ警部と会話した巡査役の記載がない一方、劇中に出番がないにもかかわらず、「コックを捜せ」や「ジョニー・ウェイバリー誘拐事件」にも登場した巡査部長役としてフィリップ・マニカムがクレジットされている。
レディー・マーガレット・メイフィールドを演じたシアラン・マッデンは、ジョーン・ヒクソン主演の「ミス・マープル」の一篇、「書斎の死体」ではアデレード・ジェファーソン役を演じていた。
サー・ジョージ役の石田太郎さんは、映画「ハリーとヘンダスン一家」(吹替が坂口芳貞さん主演のもの)ではデビッド・スーシェの吹替を担当。また、レディー・キャリントンと婦人警官役の谷育子さんは、のちにミセス・オリヴァーを演じるゾーイ・ワナメイカーが、ジェラルディン・マクイーワン主演「ミス・マープル」の「予告殺人」にミス・ブラックロック役で出演したときに、その吹替を担当している。さらに、バンダリン夫人の運転手のディクソンや、植え込みを捜すジャップ警部と会話する巡査を演じた稲葉実さんも、映画「ブラス!」でフィリップ・ジャクソンの吹替を担当。バンダリン夫人役の田島令子さんは、フランセスカ・アニスとジェームス・ワーウィック主演の「なぜエバンズに頼まなかったか」、「秘密組織」、「二人で探偵を」シリーズのそれぞれで、アニス演じるフランシスやタペンスの吹替を担当していた。一方、カーライルの吹替の大塚明夫さんは、デビッド・ウォリアムズとジェシカ・レイン主演の「トミーとタペンス ―2人で探偵を―」シリーズで、トミーの吹替を担当している。
ハイビジョンリマスター版では、 'RESIDENCE OF THE GERMAN AMBASSADOR' という掲示に「ドイツ大使公邸」という字幕が追加された。
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メイフィールドがわざわざ設計書を盗まれたことにした理由についてドラマでは、設計書をバンダリン夫人に渡すところを見られると破滅だからと説明されているが、その盗まれたことになった設計書は結局どうにかしてバンダリン夫人に渡さなければならないし、盗難騒ぎが起きて夫人がうたがわれれば、よけい渡しにくくなるのではないかしらん。「なぞの盗難事件」原作では、設計書をあえて盗む必要のないカーライルに疑惑が向かないようにするため、「潜水艦の設計図」では、盗難が騒ぎになることで渡した設計図が本物であると思わせるためと説明されている。「なぞの盗難事件」の「なぞの」に対応する原語 incredible は「奇妙で信じがたい」といったニュアンスで、その動機の変遷には、一見理屈に合わない事件を成立させようとする試行錯誤が窺える。
カーライルの言う「子犬を売りつける」とは、独自の比喩ではなく sell a pup という英語の慣用句で、相手を騙して、その時点ではわからない粗悪品や偽物などをつかませることを言う。また逆に、つかまされることを buy a pup (子犬を買う) とも言う。
この「なぞの盗難事件」の原作は、「ミューズ街の殺人」同様、既存の短篇「潜水艦の設計図」を拡張した中篇で、やはり元の「潜水艦の設計図」にのみヘイスティングスが登場し、このときの国家機密は題名が示すように潜水艦だった。当初の、国家機密の(潜水艦の)設計図の盗難事件という着想の元は、「ブルース・パーティントン設計書」(『シャーロック・ホームズ最後の挨拶』所収)だろうか。
事件への導入役となるレディー・マーガレット・メイフィールドはドラマで追加された人物。一方、原作の登場人物からは下院議員のマカッタ夫人とバンダリン夫人のメイドのレオニーが省かれているほか、メイフィールドとレディー・キャリントンはなぜかファーストネームが変更されている。また、レディー・キャリントンが息子を犯人と思い込む展開や、レオニーが見たという幽霊に関するくだりが、レオニーの削除に伴ってすべてカットされ、代わりに挿入されたバンダリン夫人の行き先を突き止めるシーンで、ヘイスティングスによるカーチェイスが初登場。日本のサスペンスもののドラマに、クライマックスの場面が海の近くだったり、名所・名物紹介が盛り込まれたりするというお約束があるように、イギリスのミステリドラマではカーチェイスがないと受けないという定説があるらしく、ドラマ化にあたってしばしば登場人物に車好きという性格が追加される。それにつけてもハンドルを握ったヘイスティングスの顔はほかで見られないくらいに嬉しそうだが、車を外から撮したカットでハンドルを握っている人影は、ヘイスティングス役のヒュー・フレイザーに見えず、スタントによる代役と思われる。またバンダリン夫人の車でも、外から見ると夫人が座っている位置が変わる。
ポワロがエナメル革の手入れに使っているペトロラタムとは、いわゆるワセリンのこと。
ヘイスティングスが「立方体の体積はどう出すんでしたっけ?」と言うところは、原語だと 'How do you work out cubic what-do-you-call thems? (立体の何とかはどう出すんでしたっけ?)' という台詞で cubic volume (体積) という単語を思い出せずにおり、全部の辺の長さが同じ直方体である「立方体」に限らない「立体」の体積の求め方について話している。その後に、明らかに立方体でない部屋の体積(容積)の話題になるのはそのためである。
匿名の女性の依頼人をめぐるポワロとミス・レモンのやりとりは、日本語と原語でやりとりの内容がすこし異なり、たとえばポワロがミス・レモンに「ここの主人はわたしですか? ファイルですか?」と言う台詞は、原語だと 'Life first, Miss Lemon. Filing second. (命が第一、ファイルは二の次です)' だし、ミス・レモンをからかったことをヘイスティングスにたしなめられて「むきになるからおもしろいの」と言ったところは 'She makes it irresistible. (ついからかいたくなるんですよ)' という表現で、具体的な理由には触れていない。
「レディー・マーガレット・メイフィールド」という名乗りを受けて、ポワロが夫のメイフィールドを貴族と誤解したのは、「レディー」が一般的に侯爵以下の貴族の妻への敬称であることによる(なお、貴族でない準男爵や勲爵士の妻も俗に「レディー」の敬称で呼ばれるが、より高い位を想定しておけば無難である)。しかし、それに対してレディー・マーガレットが「わたくしの父が伯爵でした」と説明したように、伯爵以上の貴族の娘も「レディー」の敬称で呼ばれる(子爵以下の貴族の娘の敬称は「ミス」「ミセス」になる)。ただしこの場合、のちにポワロやジャップ警部が呼んだように「レディー・マーガレット」、あるいは「レディー・マーガレット・メイフィールド」とファーストネームにつなげ、姓につなげて「レディー・メイフィールド」と呼ぶことはない(ので、 Agatha Christie's Poirot のエンディングクレジットでの Lady Mayfield という表記は誤りである)。対してイザベル・キャリントンは、サー・ジョージ・キャリントンの妻であることで「レディー」の称号を受けていると見られ、それゆえに姓につなげて「レディー・キャリントン」と呼ばれる。
レディー・キャリントンの到着時、執事が一同の居場所について「下のテラスのほうでございます」と答えるが、原語だとまさに 'On the lower terrace, Lady Carrington. (下のテラスでございます)' と言っている。しかし、一同が集まっていたのはテラスを下りた先の庭である。
サー・ジョージが言う外務大臣の「イーデン氏」とは、のちの第二次中東戦争の際にイギリス首相を務め、最終的にスエズ運河の権益を失って辞職することになるアントニー・イーデンのこと。彼が初めて外務大臣になったのは第3次ボールドウィン内閣の1935年末のことで、次のチェンバレン内閣も含めて1938年2月まで在任した。一方、当時のドイツ軍の主力戦闘機が、サー・ジョージの台詞にあったように〈メッサーシュミット109〉と呼ばれるようになるのは、メッサーシュミット社が再独立した1938年7月以降であり、両者の時期は重ならない。加えて、ミス・レモンの部屋やメイフィールドのデスクの上には、1日が月曜日で31日まである月のカレンダーが置いてあり、1935年前後でこの条件を満たすのは、1933年5月、1934年1月と10月、1935年7月、1937年3月、1938年8月、1939年5月。また、〈メイフィールド・ケストレル〉の銃撃パフォーマンスのあと、メイフィールドたちの背後に見える建物では蛍光灯らしき照明が使用されているが、蛍光灯の商業生産が始まったのは1937年のことである。さらに劇中は落葉の季節であり、これらの条件からは最低でも2つを無視しないと具体的な時期が定まらない。なお余談ながら、ヘイスティングス役のヒュー・フレイザーは、英国王エドワード八世とそのアメリカ人の恋人シンプソン夫人を描いたドラマ Edward & Mrs Simpson で、アントニー・イーデンの役を演じたことがある。
メイフィールド邸の食堂入り口脇に置かれた銅鑼は、このような屋敷などで、食事の準備ができたことを家人や来客に伝えるために鳴らすもの。本作ではその様子は描かれないが、「死人の鏡」や「死者のあやまち」、また場所が屋敷ではないが「もの言えぬ証人」で実際に鳴らされる様子を見ることができるほか、「ビッグ・フォー」でも食事前の銅鑼の音が聞こえる。また、「エッジウェア卿の死」でもサー・モンタギュ・コーナー邸で電話の横に銅鑼が置かれている。
ハイビジョンリマスター版で見られる、ポワロたちがブリッジをしている場面では、各人が手にしたカードの枚数がそれぞれ異なるが、ブリッジのゲームは各人に13枚ずつ配られたカードを順に1枚ずつ出していくことでおこなわれるので、手持ちのカードの枚数が1枚以上ずれることはない。また、その横でのサー・ジョージとレディー・マーガレットの会話は、日本語だと「ご主人は奮闘してるねえ」「戦争を危惧してるんです」「回避できると?」「そうですわね。実現できる可能性のある人ですから」となっていて、やりとりがすこし噛み合わないが、原語では 'Tommy's working too hard. (ご主人は働きすぎだよ)' 'He believes that we're on the brink of war. (戦争になるかの瀬戸際だと思ってるんです)' 'And that he can stop it single-handed? (そして、それを自分一人で阻止できると?)' 'Something like that. The truth is, of cource, he can do more than most people. (そんなところですわ。実際、大多数の人よりできることは多いですから)' というやりとりである。
レディー・キャリントンのブリッジについて、日本語ではヘイスティングスが「大金を賭けては負け」と言う台詞があるが、ブリッジによる金銭の授受は、各人の最終的な得点に応じて参加者間で精算するものであって、事前に賭けた金額に応じて報酬を受けるものではなく、原語だと 'she loses a lot of money at it (ブリッジで大金をすっていて)' という表現である。とはいえ、得点から金額への換算レートを高く設定したり、得点上でハイリスク・ハイリターンになる宣言をおこなったりすることを、「大金を賭け」ると言えなくもない。なお、ブリッジは2人2組によるチーム戦なのだが、パートナーがハイリスク・ハイリターンなビッド(宣言)をおこなうと、ルール上、えてして自分のプレーを完全にパートナーに委ねなければならなくなる(ビッドは基本的にもっともハイリスク・ハイリターンなものが採用され、ビッドの採用されたペアでは、〈デクレアラー〉と呼ばれる一方のプレイヤーが、〈ダミー〉と呼ばれるそのパートナーの分も含めて手札の出し方を決定し、ダミーは何もしない)上、同チームの2人は同じ得点になるので、無謀なパートナーに当たると、なす術もなく大敗させられて自分も金銭的な損害を被ることになる。であるからして、ポワロがレディー・キャリントンを「最悪のパートナー」と評したのも、劇中で描かれる、ゲームに負けたあとの当たりのきつさだけによるものではないのだろう。
電波探知機について「かなりの研究費をつぎ込んでいる」とのサー・ジョージの台詞があるように、1935年以降、イギリスがその開発に注力したのは史実であり、チャーチルも電子技術の導入に積極的であった。当初、その予算には破格の10万ポンドが計上されようとしたという。[1]
ジャップ警部が現場に到着するときに流れる劇伴は、「ジョニー・ウェイバリー誘拐事件」でもやはり警部がウェイバリー邸に到着したときに流れていた曲のバリエーションで、いわばジャップ警部登場のテーマ(といっても、使われるのはこの2箇所だけだけど)。またこのとき警部は、「ジョニー・ウェイバリー誘拐事件」では部下の配置を指示するときに言いよどんでいた「召使いの住まい (servents' quarters)」という言葉を、すんなりと言えるようになっている。ただし、「ジョニー・ウェイバリー誘拐事件」のオリジナル版では、曲のイントロが流れる部分や、部下の配置を指示する場面はカットされていた。
ハイビジョンリマスター版で、宿でのジャップ警部についてヘイスティングスが「とにかくすごいいびきなんです」と言ったあと、「靴を投げ捨てるんです」や「寝入ったあとがまた最悪で」などと話をつづけるが、そもそもいびきをかいている時点で寝入っているのではないかしら。ここのヘイスティングスが話をする場面はオリジナル版だと、「バーンって靴を投げ捨てるんです」から「信じられないくらい大声なんです」までの部分がカットされており、それでも意味が通るように、カットの前の部分に原語と意味の異なる日本語を当てていたのだが、ハイビジョンリマスター版でも、その部分まで含めて吹替音声の再収録をおこないながら、元の日本語表現をそのまま採用したため、話の流れが不自然になった。
バンダリン夫人の車がパブの前を通過する直前、橋の奥に見える家並には、窓枠などが1930年代らしからぬ色で塗られている建物があるほか、屋根の上にもテレビのアンテナが見える。一方、そのあと右に道を逸れて渡った橋の両脇にはグレーのシートが敷かれており、これは撮影にあたって現代的な白線標示を隠すためのものに思われるが、画面奥では白線がそのまま見えており、意図がよくわからない。また、バンダリン夫人の車がここで右の道を採ったことでヘイスティングスが「やられた!」と言うので、ヘイスティングスは思い込みによって左の道へ入ってしまったように聞こえるが、そのあとすぐにまたバンダリン夫人の車の後ろにつけているのもよくわからない。ちなみに、あの左右の道は、実際には橋を渡ったあとですぐ合流しているのだが、夫人の行き先の見当がつかなくなったことに鑑みると、劇中世界ではそのまま分かれているのだろう。
カーチェイスの序盤と最後に1箇所ずつある、ハイビジョンリマスター版でほかと同様のリマスター処理を施されていないカットは、のちに「負け犬」で使いまわされた部分。おそらくは原板がそちらへ持って行かれており、本作のリマスター作業時に発見できなかったのだろう。なお「負け犬」では、それらのカットはちゃんと通常どおりのリマスター処理を施されている。
メイフィールド社の新型戦闘機として撮影に使われたのは、実際にはスーパーマリン社の〈スピットファイア〉。その「いずれもっといい名前を考えます」と言われてしまった仮称〈メイフィールド・ケストレル〉の「ケストレル (kestrel)」とは、和名をチョウゲンボウという小型のハヤブサの一種のこと。
ポワロと「ミス・スミス」が待ち合わせた場所は、リージェンツ・パークのロンドン動物園ペンギン・プール前。ロンドン動物園は1828年に開園したヨーロッパでも最古の動物園で、この作品の放送後の1992年には財政難で経営が危ぶまれたが、存続運動によって閉鎖をまぬがれた[2]。ただし、2004年にペンギンたちは新たな飼育施設に移動しており、作中で見られるペンギン・プールは現在、空の建物だけが残った状態となっている。
冒頭に〈メイフィールド・ケストレル〉の試験飛行をしている飛行場は、ケント州のウェスト・モーリング王立空軍飛行場。ヘイスティングスやジャップ警部が滞在したスリー・クラウンズというパブは、バッキンガムシャーのデナム村にあるグリーン・マンおよびスワン・イン。カーチェイスがおこなわれたのはサリー州ティルフォードのティルフォード・ストリートとティルフォード・ロード、そしてグレンジ・ロード。メイフィールド邸は、サリー州コバム近郊のフォクスウォレン・パーク。
Agatha Christie's Poirot のエンディングクレジットには台詞のある役とその出演者が掲載されるのが原則のようだが、本作ではなぜか、ヘイスティングスの車の修理につきあっていた警官役や、植え込みを捜査するジャップ警部と会話した巡査役の記載がない一方、劇中に出番がないにもかかわらず、「コックを捜せ」や「ジョニー・ウェイバリー誘拐事件」にも登場した巡査部長役としてフィリップ・マニカムがクレジットされている。
レディー・マーガレット・メイフィールドを演じたシアラン・マッデンは、ジョーン・ヒクソン主演の「ミス・マープル」の一篇、「書斎の死体」ではアデレード・ジェファーソン役を演じていた。
サー・ジョージ役の石田太郎さんは、映画「ハリーとヘンダスン一家」(吹替が坂口芳貞さん主演のもの)ではデビッド・スーシェの吹替を担当。また、レディー・キャリントンと婦人警官役の谷育子さんは、のちにミセス・オリヴァーを演じるゾーイ・ワナメイカーが、ジェラルディン・マクイーワン主演「ミス・マープル」の「予告殺人」にミス・ブラックロック役で出演したときに、その吹替を担当している。さらに、バンダリン夫人の運転手のディクソンや、植え込みを捜すジャップ警部と会話する巡査を演じた稲葉実さんも、映画「ブラス!」でフィリップ・ジャクソンの吹替を担当。バンダリン夫人役の田島令子さんは、フランセスカ・アニスとジェームス・ワーウィック主演の「なぜエバンズに頼まなかったか」、「秘密組織」、「二人で探偵を」シリーズのそれぞれで、アニス演じるフランシスやタペンスの吹替を担当していた。一方、カーライルの吹替の大塚明夫さんは、デビッド・ウォリアムズとジェシカ・レイン主演の「トミーとタペンス ―2人で探偵を―」シリーズで、トミーの吹替を担当している。
ハイビジョンリマスター版では、 'RESIDENCE OF THE GERMAN AMBASSADOR' という掲示に「ドイツ大使公邸」という字幕が追加された。
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メイフィールドがわざわざ設計書を盗まれたことにした理由についてドラマでは、設計書をバンダリン夫人に渡すところを見られると破滅だからと説明されているが、その盗まれたことになった設計書は結局どうにかしてバンダリン夫人に渡さなければならないし、盗難騒ぎが起きて夫人がうたがわれれば、よけい渡しにくくなるのではないかしらん。「なぞの盗難事件」原作では、設計書をあえて盗む必要のないカーライルに疑惑が向かないようにするため、「潜水艦の設計図」では、盗難が騒ぎになることで渡した設計図が本物であると思わせるためと説明されている。「なぞの盗難事件」の「なぞの」に対応する原語 incredible は「奇妙で信じがたい」といったニュアンスで、その動機の変遷には、一見理屈に合わない事件を成立させようとする試行錯誤が窺える。
カーライルの言う「子犬を売りつける」とは、独自の比喩ではなく sell a pup という英語の慣用句で、相手を騙して、その時点ではわからない粗悪品や偽物などをつかませることを言う。また逆に、つかまされることを buy a pup (子犬を買う) とも言う。
- [1] 辻俊彦, 『レーダーの歴史 英独 暗夜の死闘』, 芸立出版, 2012, pp. 48-55
- [2] Landmarks in ZSL History | Zoological Society of London (ZSL)
ロケ地写真
カットされた場面
日本
オリジナル版
[03:07/0:39] | ヘイスティングスが想いを寄せる建築家の卵に関するポワロとの会話 |
[11:33/0:24] | メイフィールド邸の庭でリジーがメイフィールドとサー・ジョージにからむ場面 |
[14:35/0:24] | ブリッジの席上での国際政治に関する会話 |
[14:37/0:22] | レディー・キャリントンの方から向き直るメイフィールド 〜 客間でのサー・ジョージとレディー・マーガレットの会話 |
[15:27/0:18] | ポワロが庭に出ていく場面 |
[30:38/0:58] | ジャップ警部が屋根裏部屋で設計図を捜す場面 |
[30:56/0:21] | 宿でのジャップ警部に関するポワロとヘイスティングスの会話の一部 |
ハイビジョンリマスター版
なし映像ソフト
- [VHS] 「名探偵ポアロシリーズ クラブのキング, 謎の盗難事件」(字幕) TDK
- [VHS] 「名探偵エルキュール・ポアロ 第39巻 謎の盗難事件」(字幕) 日本クラウン
- [DVD] 「名探偵ポワロ 4 海上の悲劇, なぞの盗難事件」(字幕・吹替) ビームエンタテインメント(現ハピネット・ピクチャーズ)※1
- [DVD] 「名探偵ポワロ [完全版] 4 海上の悲劇, なぞの盗難事件」(字幕・吹替) ハピネット・ピクチャーズ※2
- [DVD] 「名探偵ポワロ DVDコレクション 31 なぞの盗難事件」(字幕・吹替) デアゴスティーニ・ジャパン※3
- [BD] 「名探偵ポワロ Blu-ray BOX Disc 2 4階の部屋, 砂に書かれた三角形, 海上の悲劇, なぞの盗難事件」(字幕/吹替) ハピネット・ピクチャーズ※4
- ※1 「名探偵ポワロ DVD-BOX1」にも収録
- ※2 「名探偵ポワロ [完全版] DVD-BOX1」「名探偵ポワロ [完全版] 全巻 DVD-SET」「名探偵ポワロ [完全版] DVD-SET 1」にも収録
- ※3 吹替は大塚智則さん主演の新録で、映像もイギリスで販売されているDVDと同じバリエーションを使用
- ※4 「名探偵ポワロ Blu-ray BOX vol. 1」に収録