コーンワルの毒殺事件 The Cornish Mystery
放送履歴
日本
オリジナル版(44分30秒)
- 1990年08月01日 20時00分〜 (NHK総合)
- 1992年04月24日 17時05分〜 (NHK総合)
- 1998年10月28日 15時10分〜 (NHK総合)
- 2003年06月11日 18時00分〜 (NHK衛星第2)
ハイビジョンリマスター版(47分00秒)
- 2016年01月30日 16時00分〜 (NHK BSプレミアム)
- 2016年07月06日 17時00分〜 (NHK BSプレミアム)
- 2020年07月04日 17時13分〜 (NHK BSプレミアム)※1
- 2021年10月28日 09時00分〜 (NHK BS4K)※2
- 2022年02月23日 13時00分〜 (NHK BS4K)※2
- 2022年09月07日 21時00分〜 (NHK BSプレミアム・BS4K)※2
- 2022年09月24日 24時39分〜 (NHK BSプレミアム)※2 ※3
- ※1 エンディング最後の画面下部に次回の放送時間案内の字幕表示(帯付き)あり
- ※2 日本語音声の「銀行休日」をすべて「休日」に修正した音源を使用
- ※3 エンディング後半の画面左部に次回の放送案内の字幕表示あり
海外
- 1990年01月28日 (英・ITV)
原作
邦訳
- 「コーンウォールの毒殺事件」 - 『教会で死んだ男』 クリスティー文庫 宇野輝雄訳
- 「コーンウォールの毒殺事件」 - 『教会で死んだ男』 ハヤカワミステリ文庫 宇野輝雄訳
- 「コーンウォールの謎」 - 『ポワロの事件簿2』 創元推理文庫 厚木淳訳
原書
雑誌等掲載
- The Cornish Mystery, The Sketch, 28 November 1923 (UK)
- The Cornish Mystery, The Blue Book Magazine, October 1925 (USA)
短篇集
- The Cornish Mystery, The Under Dog and Other Stories, Dodd Mead, 1951 (USA)
- The Cornish Mystery, Poirot's Early Cases, Collins, September 1974 (UK)
オープニングクレジット
日本
オリジナル版
名探偵ポワロ / AGATHA CHRISTIE'S POIROT / DAVID SUCHET // HUGH FRASER / PHILIP JACKSON / PAULINE MORAN / コーンワルの毒殺事件, THE CORNISH MYSTERY / Dramatized by CLIVE EXTON
ハイビジョンリマスター版
名探偵ポワロ / DAVID SUCHET / AGATHA CHRISTIE'S POIROT / コーンワルの毒殺事件 // HUGH FRASER / PHILIP JACKSON / PAULINE MORAN / THE CORNISH MYSTERY / Dramatized by CLIVE EXTON
エンディングクレジット
日本
オリジナル版
原作 アガサ・クリスティー 脚本 クライブ・エクストン 監督 エドワード・ベネット 制作 LWT(イギリス) / 出演 ポワロ(デビッド・スーシェ) 熊倉一雄 ヘイスティングス(ヒュー・フレイザー) 富山 敬 ジャップ警部(フィリップ・ジャクソン) 坂口芳貞 ミス・レモン 翠 準子 ラドナー 堀 勝之祐 ペンゲリー夫人 公卿󠄂敬子 弥永和子 大木民夫 一城みゆ希 潘 恵子 松岡文雄 仁内建之 藤城裕士 森 一 竹口安芸子 辻󠄁谷耕史 / 日本語版 宇津木道子 山田悦司 福岡浩美 南部満治 金谷和美
ハイビジョンリマスター版
原作 アガサ・クリスティー 脚本 クライブ・エクストン 演出 エドワード・ベネット 制作 LWT (イギリス) / 出演 ポワロ(デビッド・スーシェ) 熊倉 一雄 ヘイスティングス(ヒュー・フレイザー) 富山 敬/安原 義人 ジャップ警部(フィリップ・ジャクソン) 坂口 芳貞 ミス・レモン(ポーリン・モラン) 翠 準子 ラドナー 堀 勝之祐 ペンゲリー夫人 公卿󠄂 敬子 弥永 和子 大木 民夫 一城 みゆ希 潘 恵子 松岡 文雄 仁内 建之 藤城 裕士 森 一 竹口 安芸子 辻󠄀谷 耕史 日本語版スタッフ 翻訳 宇津木 道子 演出 山田 悦司 音声 金谷 和美 プロデューサー 里口 千
海外
オリジナル版
Hercule Poirot: DAVID SUCHET; Captain Hastings: HUGH FRASER; Chief Inspector Japp: PHILIP JACKSON; Miss Lemon: PAULINE MORAN; Freda Stanton: CHLOE SALAMAN; Jacob Radnor: JOHN BOWLER; Edward Pengelley: JEROME WILLIS; Mrs Pengelley: AMANDA WALKER; Jessie Dawlish: TILLY VOSBURGH; Dr Adams: DEREK BENFIELD; Edwina Marks: LAURA GIRLING; Prosecutor: JOHN ROWE; Judge: HUGH MUNRO; Solicitor: GRAHAM CALLAN; Landlady: EDWINA DAY; Shop Assistant: RICHARD BRAIN; Vicar: HUGH SULLIVAN; Policeman: JONATHAN WHALEY / Developed for Television by Picture Partnership Productions / (中略)First Assistant Director: SIMON HINKLY; Location Manager: NIGEL GOSTELOW; Script Supervisor: SHEILA WILSON; Production Co-ordinator: MONICA ROGERS; Accountant: JOHN BEHARRELL; Camera Operator: STEVEN ALCORN; Focus Puller: DERMOT HICKEY; Grip: JOHN ETHERINGTON; Boom Operator: MARTIN TREVIS; Gaffer: DEREK RYMER; Art Director: PETER WENHAM; Production Buyer: PETER MacFARLAN; Property Master: MICKY LENNON; Construction Manager: LES PEACH; Dubbing: PETER LENNARD, MIKE MURR, RUPERT SCRIVENER; Post Production Superviser: RAY HELM; Panaflex 16(R) Camera by Panavision(R); Grip Equipment by Grip House Ltd; Lighting & Generators by Samuelson Lighting Ltd; Made at Twickenham Studios, London, England; Costume Designer: SHARON LEWIS; Make up Supervisor: ROSEANN SAMUEL; Sound Recordist: KEN WESTON; Titles: PAT GAVIN; Production Manager: MARTIN BOND; Casting: REBECCA HOWARD, LUCY ABERCROMBIE; Editor: DEREK BAIN; Production Supervisor: DONALD TOMS / Production Designer: ROB HARRIS / Director of Photography: IVAN STRASBURG / Theme Music: CHRISTOPHER GUNNING; Incidental Music: FIACHRA TRENCH; Conductor: DAVID SNELL / Executive Producer: NICK ELLIOTT / Producer: BRIAN EASTMAN / Director: EDWARD BENNETT
あらすじ
夫に毒を盛られているのではないかというペンゲリー夫人の訴えを受けて、ポワロとヘイスティングスは彼女が住むコーンワルの村、ポルガーウィズを訪ねる。しかし、二人が村に到着したときにはすでに遅く、夫人は1時間前に死んだという……
事件発生時期
1935年7月上旬 〜 下旬
主要登場人物
エルキュール・ポワロ | 私立探偵 |
アーサー・ヘイスティングス | ポワロの探偵事務所のパートナー、陸軍大尉 |
ジェームス・ジャップ | スコットランド・ヤード主任警部 |
フェリシティ・レモン | ポワロの秘書 |
アリス・ペンゲリー | 依頼人 |
エドワード・ペンゲリー | アリスの夫、歯科医 |
フリーダ・スタントン | エドワードの姪 |
ジェイコブ・ラドナー | フリーダの婚約者 |
エドウィナ・マークス | ペンゲリーのアシスタント |
ジェシー・ドーリッシュ | ペンゲリー家のメイド |
アダムズ | 医師 |
解説、みたいなもの
ペンゲリー夫人が裕福な婦人になっている点と、ポワロの犯人の供述書に対する扱いが異なる以外、話の大筋に目立った変更はないが、原作でのポワロの台詞の一部をヘイスティングスに割り振ることで、ヘイスティングスに重要な活躍どころが提供されている。
事件の舞台はグレート・ブリテン島南西端コーンワルだが、撮影はそのやや東に位置するサマーセット北部の町、ダンスターで行われた。当地での撮影に当たっては、1930年代の雰囲気を出すために家からテレビのアンテナをはずし、現代的な街灯や道路標示を隠すといった対応がとられたほか(しかし、州裁判所の向かって左手奥に見える煙突には、テレビのアンテナがそのまま立っている)、非番の警官に交通整理を依頼したり、道路沿いの店に一日分の売り上げを補償することまでおこなわれたそうで、地元の人たちもエキストラとして多数出演しているという[1]。そのダンスターは14世紀後半からラトレル家の城下町として栄えてきた町。しかし、画面奥に見えるダンスター城は19世紀に改築されたもので、現在はナショナルトラストの管理下にある。目抜き通りにある、最後にジャップ警部が前に立ってパイを食べたりする建物は、ハイ・ストリートのヤーン・マーケット。ポワロたちが滞在したブル・ホテルは、実際にはラトレル・アームズというホテルだが、窓の大きさや配置が内外で異なるので、屋内は別の場所での撮影と見られる。フリーダが部屋を借りているハイ・ハウスは実名での登場。ペンゲリーの裁判がひらかれた州裁判所の建物外観はダンスターの元礼拝堂であるティールームで、パネルを隠したと見られる茶色の箱状のものが壁面に見られるほか、入り口の上に見えるのは看板の留め具である。一方、州裁判所の内部は、「消えた廃坑」でスコットランド・ヤード内部として使われた、ロンドン郊外のチジック・タウン・ホールで撮影された。また、ペンゲリーの診察室入り口はいかにもな後付けで、外からは真っ暗でよく見えないその内部も別の場所で撮影されたと見られるほか、ペンゲリー家自宅のジェシーが泣いていた部屋も、玄関前の廊下とのつながりを考えると窓の向きなどが不自然で、やはり別の場所での撮影と見られる。ポルガーウィズの駅として使われたのは、ダンスターからやや東にある、西サマーセット鉄道のブルー・アンカー駅である。
撮影時期については(1989年の)11月とする資料もあるが[2]、スーシェの自伝によれば「消えた廃坑」に次ぐ第2シリーズ4話目の撮影だったようで[3]、木々の葉や花の様子からしても、11月の撮影とは思われない。
ヘイスティングスが言及する「インドの哲学者タゴール」とは、詩集『ギーターンジャリ』でノーベル文学賞を受賞し、アジアで初のノーベル賞受賞者となったラビンドラナート・タゴールのこと。実際に彼が「コメはすべての病を癒やすものとして推奨して」いたかは浅学寡聞にして知らないけれど、「コメは、我々が何世代にもわたって、健康や強さ、活力、知性の多くを授かってきた主要な食べ物である」と書いてコメを重要視し、機械による近代的な精米の拡がりを批判したりはしていたようだ。ただ、その文章は1935年12月28日付で、劇中の時期より半年弱あとのもの。[4]
雨の降りしきる公園で、さしていた傘をわざわざ閉じるポワロ。天気の変わりやすい気候ゆえか、西洋では傘をさす習慣が日本ほど強くなく、多少の雨なら傘をささない人が多い。しかし、日本人の感覚からすると、潔癖性のポワロらしからぬ行動に見えるかもしれない。
コーンワルへ向かう汽車の中でポワロが「わたしの勘が当たれば」と言うが、「ABC殺人事件」の原作では自分宛の手紙に覚える違和感について、「勘 (instinct) ではありません、ヘイスティングス。勘というのは悪い言葉です。わたしの知識が――わたしの経験が――あの手紙はどこかおかしいと告げるんですよ」と言っており、直感的な判断の根拠を「勘」と表現するのを否定している。なお、原語だとポワロは 'if I mistake not, (わたしのまちがいでなければ)' と言っており、「勘」に相当する語は使っていない。
ヘイスティングスが日本語で「ペンゲリー夫人のいとこの息子という触れ込みで乗り込むんですからね」と言う箇所の「いとこ」に対応する原語は second cousin で、これは「はとこ」のこと。また、ヘイスティングス家の出身地とされた「ウィットシャー」の原語は Wiltshire (ウィルトシャー) で、これはコーンワルとロンドンのあいだ、南イングランドの中央に位置する地域である。ポワロがアダムズ医師を評して言う「ブタのように強情 (obstinate as a pig)」とは、 obstinate/stubborn as a donkey (ロバのように強情) あるいは obstinate/stubborn as a mule (ラバのように強情) という英語の定型表現をポワロがまちがえたもの。英語には同じく強情を意味する pig-headed (ブタ頭の) という表現があり、ポワロはこれと混同したものと思われる。フリーダが「ジェイコブは三十になったばかり」と言った箇所は、原語だと 'and he's no thirty yet (ジェイコブはまだ三十にもなっていないのに)' ですこしだけ若い。なお、ジェイコブ・ラドナーを演じるジョン・ボウラーは1952年9月13日生まれだそうで、撮影当時は36歳か37歳である。
ポワロが(ハイビジョンリマスター版ではヘイスティングスも)口にする「銀行休日 (bank holiday)」とは、日本で言うところの祝祭日に当たる公休日のこと。現在のイングランドの8月の銀行休日は8月最後の月曜日だが、1935年当時は8月最初の月曜日だった。ただし、2021年10月28日以降の放送だと、日本語で「銀行休日」と言っていた箇所はすべて、音声を詰めたり消したりして「休日」に修正されている。
ペンゲリー夫人からフリーダへの遺贈について、弁護士が「ペンゲリー夫人は2000ポンドを姪のフリーダさんに。これは信託になってまして、40歳までは受け取れません」と言った最後のところでラドナーがフリーダへ笑顔を向けるのには、違和感を覚えるかもしれない。原語だと弁護士は 'Mrs Pengelley leaves... two thousand pounds—in trust—for her niece, Miss Freda Stanton, until she is forty. (ペンゲリー夫人は……2000ポンドを――信託で――姪のフリーダさんに、これは40歳までです)' と言っており、確かに信託の存続期間中はフリーダがその遺産を自由にすることができないものの、それが文意の中心ではない。また、信託が終了するまで何も受け取れないわけでもなく、信託の定めに応じて分配を受けられるのが通例である。
ポワロたちが裁判所でペンゲリーの弁護士に面会した際、原語では最初に法廷から検事の声が聞こえているが、日本語音声では特に台詞がない。
市場でジャップ警部が「こういうのはよそにはないねえ」と言う台詞は、原語だと 'Don't get many of that in Peckham. (ペッカムではそうは手に入らないねえ)' と言っており、「よそ」ことペッカムとは南ロンドンの町の名前。当時は、ジョーンズ・アンド・ヒギンズというデパートをはじめとした店が建ち並ぶショッピング街として知られていた。
最後にジャップ警部が食べているのはコーニッシュ・パスティと呼ばれるコーンワルの名物料理で(「コーニッシュ (Cornish)」は「コーンワルの」という意味の形容詞)、パイ生地のなかに牛肉や野菜をつめて包み焼きにしたもの。ジャップ警部は「ロンドンじゃこれは食べられませんよ」と言うが、「夢」のニュース映画によればファーリーズ食品が生産している(日本語音声では「ミートパイ」と訳されていたけれど)ので、味にこだわらなければたぶんロンドンでも食べられる。
ハイビジョンリマスター版でヘイスティングスとミス・レモンが興じている「イー・チン (I Ching)」とは『易経』のこと。占いによって選ばれた「ヘキサグラム (hexagram)」とは一般に六芒星を言う言葉で、日本語音声でも「星」と訳されている箇所があるが、原義としては6つの要素で成り立った図形を指し、ここでは6本の爻 (陰陽を表す破線あるいは実線の横棒)で構成された六十四卦の図形のこと。その15番である ䷎ の「チーエン (Ch'ien)」とは漢字で書けば「謙」のことで、上半分の ☷ が「地」、下半分の ☶ が「山」を表すことから「地山謙」と呼ばれる。しかし、「でも、つづきが重要なんです。いいですか、聞いててください」とヘイスティングスがつづけるところは原語だと 'Yes, but it's the lines that are important. You see, your second line says... (ええ、でも爻が大事なんです。いいですか、ポワロさんの二爻は……)' と言っているのだが、その先は「地山謙」の二爻の爻辞(爻が示す占いの言葉)ではなく、「二十匹の亀も彼には逆らえない」は41番の「山澤損」の五爻あるいは42番の「風雷益」の二爻の、「赤い膝バンドの男が現れる」は47番の「澤水困」の二爻の爻辞の一部。ただ、「二十匹の亀も彼には逆らえない (Ten pairs of tortoises cannot oppose him.)」は、中国語だと「十朋之亀弗克違」となっている一節で、「朋」に pair の意味はなくこれは貨幣の単位であって、本来は「十朋もする高価な亀で占いをしても異なる結果を出すことができないほど確実である」という意味である由。また、「赤い膝バンド (scarlet knee bands)」こと朱紱 はかつて天子の礼服で膝に巻いたもので、「赤い膝バンドの男」とはすなわち天子のこと。それが現るとはつまり、「天子の目に留まって取り立てられる」という意味である。ただ、朱紱に対して赤紱 だと諸侯を表すのだが、「赤い膝バンド」という日本語では両者の訳し分けができない。[5][6]
オリジナル版の、公園でポワロたちがペンゲリー夫人に歩み寄る場面では、画面左上(上から約4分の1、左から約2分の1)だけ映像のぶれがなく、遠景に写り込んだ何かを合成で消したことが窺える。ハイビジョンリマスター版では画面のぶれはないが、明らかに色合いが異なる部分が存在し、やはり合成の形跡が見える。
ダンスターの駅では、到着時と帰りのときとでプラットフォームは異なるが、なぜか汽車はいずれも同じ向きに発車する。また、到着時に下車して画面が切り替わったあと、客車の窓に、おそらく見えることを想定していない、鮮やかな青色の何かが映り込んでいる。一方、帰りの際には、動き出す汽車の車輪が映ったあとに画面が車内へと切り替わったのに、最初は車窓の向こうの景色が動いていない。
ジョン・ネトルズ主演の「バーナビー警部」シリーズでは、エドワード・ペンゲリー役のジェローム・ウィリスを「流浪の馬車がやってくる」のジョン・スミス役で、アリス・ペンゲリー役のアマンダ・ウォーカーを「採石場にのろいの叫び」のエドウィナ役で見ることができる。
ハイビジョンリマスター版で番組内容として放送データに載っているあらすじでは、ペンゲリーの逮捕を夫人の死去から「数か月後」と書いているが、夫人の死が1935年7月10日なのに対し、ペンゲリーの逮捕は8月の銀行休日が「再来週の月曜日」である日なので、その間は1か月にも満たない。
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ハイビジョンリマスター版の切換式字幕では、「マダム・ペンゲリーは裕福なふじんでした」というポワロの台詞に「マダム ペンゲリーは 裕福な夫人でした。」と表示されるが、ここでの「ふじん」に妻であることを示すニュアンスはなく、ポワロが言いたかったのは「婦人」だと思われる。
ポワロがラドナーに「たぶん二日以内に逮捕されるでしょう」と言うのは、24時間の猶予を約束しているのを踏まえるとやや違和感のある物言いだが、原語は 'In two days you will be in the prison cell. (二日後には牢屋の中でしょう)' という表現で、このような場合の in に「~以内に」の意味はなく、未来の時間一点を指す。つまり、猶予が明けたらすぐに逮捕されると言っているのである。
最後にポワロたちが乗った馬車は、ホテルの入り口前を横切ってから駐まって待っていたはずだが、ポワロたちが乗り込んで走り出したあと、もう一度ホテルの入り口前を通過する。また、市場の建物前でポワロたちやジャップ警部がアップになっているカットでは、それなりの雨が降っているように見受けられるが、そのあと屋根もない馬車の座席にポワロが平気で腰を下ろすものかしらん。
事件の舞台はグレート・ブリテン島南西端コーンワルだが、撮影はそのやや東に位置するサマーセット北部の町、ダンスターで行われた。当地での撮影に当たっては、1930年代の雰囲気を出すために家からテレビのアンテナをはずし、現代的な街灯や道路標示を隠すといった対応がとられたほか(しかし、州裁判所の向かって左手奥に見える煙突には、テレビのアンテナがそのまま立っている)、非番の警官に交通整理を依頼したり、道路沿いの店に一日分の売り上げを補償することまでおこなわれたそうで、地元の人たちもエキストラとして多数出演しているという[1]。そのダンスターは14世紀後半からラトレル家の城下町として栄えてきた町。しかし、画面奥に見えるダンスター城は19世紀に改築されたもので、現在はナショナルトラストの管理下にある。目抜き通りにある、最後にジャップ警部が前に立ってパイを食べたりする建物は、ハイ・ストリートのヤーン・マーケット。ポワロたちが滞在したブル・ホテルは、実際にはラトレル・アームズというホテルだが、窓の大きさや配置が内外で異なるので、屋内は別の場所での撮影と見られる。フリーダが部屋を借りているハイ・ハウスは実名での登場。ペンゲリーの裁判がひらかれた州裁判所の建物外観はダンスターの元礼拝堂であるティールームで、パネルを隠したと見られる茶色の箱状のものが壁面に見られるほか、入り口の上に見えるのは看板の留め具である。一方、州裁判所の内部は、「消えた廃坑」でスコットランド・ヤード内部として使われた、ロンドン郊外のチジック・タウン・ホールで撮影された。また、ペンゲリーの診察室入り口はいかにもな後付けで、外からは真っ暗でよく見えないその内部も別の場所で撮影されたと見られるほか、ペンゲリー家自宅のジェシーが泣いていた部屋も、玄関前の廊下とのつながりを考えると窓の向きなどが不自然で、やはり別の場所での撮影と見られる。ポルガーウィズの駅として使われたのは、ダンスターからやや東にある、西サマーセット鉄道のブルー・アンカー駅である。
撮影時期については(1989年の)11月とする資料もあるが[2]、スーシェの自伝によれば「消えた廃坑」に次ぐ第2シリーズ4話目の撮影だったようで[3]、木々の葉や花の様子からしても、11月の撮影とは思われない。
ヘイスティングスが言及する「インドの哲学者タゴール」とは、詩集『ギーターンジャリ』でノーベル文学賞を受賞し、アジアで初のノーベル賞受賞者となったラビンドラナート・タゴールのこと。実際に彼が「コメはすべての病を癒やすものとして推奨して」いたかは浅学寡聞にして知らないけれど、「コメは、我々が何世代にもわたって、健康や強さ、活力、知性の多くを授かってきた主要な食べ物である」と書いてコメを重要視し、機械による近代的な精米の拡がりを批判したりはしていたようだ。ただ、その文章は1935年12月28日付で、劇中の時期より半年弱あとのもの。[4]
雨の降りしきる公園で、さしていた傘をわざわざ閉じるポワロ。天気の変わりやすい気候ゆえか、西洋では傘をさす習慣が日本ほど強くなく、多少の雨なら傘をささない人が多い。しかし、日本人の感覚からすると、潔癖性のポワロらしからぬ行動に見えるかもしれない。
コーンワルへ向かう汽車の中でポワロが「わたしの勘が当たれば」と言うが、「ABC殺人事件」の原作では自分宛の手紙に覚える違和感について、「勘 (instinct) ではありません、ヘイスティングス。勘というのは悪い言葉です。わたしの知識が――わたしの経験が――あの手紙はどこかおかしいと告げるんですよ」と言っており、直感的な判断の根拠を「勘」と表現するのを否定している。なお、原語だとポワロは 'if I mistake not, (わたしのまちがいでなければ)' と言っており、「勘」に相当する語は使っていない。
ヘイスティングスが日本語で「ペンゲリー夫人のいとこの息子という触れ込みで乗り込むんですからね」と言う箇所の「いとこ」に対応する原語は second cousin で、これは「はとこ」のこと。また、ヘイスティングス家の出身地とされた「ウィットシャー」の原語は Wiltshire (ウィルトシャー) で、これはコーンワルとロンドンのあいだ、南イングランドの中央に位置する地域である。ポワロがアダムズ医師を評して言う「ブタのように強情 (obstinate as a pig)」とは、 obstinate/stubborn as a donkey (ロバのように強情) あるいは obstinate/stubborn as a mule (ラバのように強情) という英語の定型表現をポワロがまちがえたもの。英語には同じく強情を意味する pig-headed (ブタ頭の) という表現があり、ポワロはこれと混同したものと思われる。フリーダが「ジェイコブは三十になったばかり」と言った箇所は、原語だと 'and he's no thirty yet (ジェイコブはまだ三十にもなっていないのに)' ですこしだけ若い。なお、ジェイコブ・ラドナーを演じるジョン・ボウラーは1952年9月13日生まれだそうで、撮影当時は36歳か37歳である。
ポワロが(ハイビジョンリマスター版ではヘイスティングスも)口にする「銀行休日 (bank holiday)」とは、日本で言うところの祝祭日に当たる公休日のこと。現在のイングランドの8月の銀行休日は8月最後の月曜日だが、1935年当時は8月最初の月曜日だった。ただし、2021年10月28日以降の放送だと、日本語で「銀行休日」と言っていた箇所はすべて、音声を詰めたり消したりして「休日」に修正されている。
ペンゲリー夫人からフリーダへの遺贈について、弁護士が「ペンゲリー夫人は2000ポンドを姪のフリーダさんに。これは信託になってまして、40歳までは受け取れません」と言った最後のところでラドナーがフリーダへ笑顔を向けるのには、違和感を覚えるかもしれない。原語だと弁護士は 'Mrs Pengelley leaves... two thousand pounds—in trust—for her niece, Miss Freda Stanton, until she is forty. (ペンゲリー夫人は……2000ポンドを――信託で――姪のフリーダさんに、これは40歳までです)' と言っており、確かに信託の存続期間中はフリーダがその遺産を自由にすることができないものの、それが文意の中心ではない。また、信託が終了するまで何も受け取れないわけでもなく、信託の定めに応じて分配を受けられるのが通例である。
ポワロたちが裁判所でペンゲリーの弁護士に面会した際、原語では最初に法廷から検事の声が聞こえているが、日本語音声では特に台詞がない。
市場でジャップ警部が「こういうのはよそにはないねえ」と言う台詞は、原語だと 'Don't get many of that in Peckham. (ペッカムではそうは手に入らないねえ)' と言っており、「よそ」ことペッカムとは南ロンドンの町の名前。当時は、ジョーンズ・アンド・ヒギンズというデパートをはじめとした店が建ち並ぶショッピング街として知られていた。
最後にジャップ警部が食べているのはコーニッシュ・パスティと呼ばれるコーンワルの名物料理で(「コーニッシュ (Cornish)」は「コーンワルの」という意味の形容詞)、パイ生地のなかに牛肉や野菜をつめて包み焼きにしたもの。ジャップ警部は「ロンドンじゃこれは食べられませんよ」と言うが、「夢」のニュース映画によればファーリーズ食品が生産している(日本語音声では「ミートパイ」と訳されていたけれど)ので、味にこだわらなければたぶんロンドンでも食べられる。
ハイビジョンリマスター版でヘイスティングスとミス・レモンが興じている「イー・チン (I Ching)」とは『易経』のこと。占いによって選ばれた「ヘキサグラム (hexagram)」とは一般に六芒星を言う言葉で、日本語音声でも「星」と訳されている箇所があるが、原義としては6つの要素で成り立った図形を指し、ここでは6本の
オリジナル版の、公園でポワロたちがペンゲリー夫人に歩み寄る場面では、画面左上(上から約4分の1、左から約2分の1)だけ映像のぶれがなく、遠景に写り込んだ何かを合成で消したことが窺える。ハイビジョンリマスター版では画面のぶれはないが、明らかに色合いが異なる部分が存在し、やはり合成の形跡が見える。
ダンスターの駅では、到着時と帰りのときとでプラットフォームは異なるが、なぜか汽車はいずれも同じ向きに発車する。また、到着時に下車して画面が切り替わったあと、客車の窓に、おそらく見えることを想定していない、鮮やかな青色の何かが映り込んでいる。一方、帰りの際には、動き出す汽車の車輪が映ったあとに画面が車内へと切り替わったのに、最初は車窓の向こうの景色が動いていない。
ジョン・ネトルズ主演の「バーナビー警部」シリーズでは、エドワード・ペンゲリー役のジェローム・ウィリスを「流浪の馬車がやってくる」のジョン・スミス役で、アリス・ペンゲリー役のアマンダ・ウォーカーを「採石場にのろいの叫び」のエドウィナ役で見ることができる。
ハイビジョンリマスター版で番組内容として放送データに載っているあらすじでは、ペンゲリーの逮捕を夫人の死去から「数か月後」と書いているが、夫人の死が1935年7月10日なのに対し、ペンゲリーの逮捕は8月の銀行休日が「再来週の月曜日」である日なので、その間は1か月にも満たない。
» 結末や真相に触れる内容を表示
ハイビジョンリマスター版の切換式字幕では、「マダム・ペンゲリーは裕福なふじんでした」というポワロの台詞に「マダム ペンゲリーは 裕福な夫人でした。」と表示されるが、ここでの「ふじん」に妻であることを示すニュアンスはなく、ポワロが言いたかったのは「婦人」だと思われる。
ポワロがラドナーに「たぶん二日以内に逮捕されるでしょう」と言うのは、24時間の猶予を約束しているのを踏まえるとやや違和感のある物言いだが、原語は 'In two days you will be in the prison cell. (二日後には牢屋の中でしょう)' という表現で、このような場合の in に「~以内に」の意味はなく、未来の時間一点を指す。つまり、猶予が明けたらすぐに逮捕されると言っているのである。
最後にポワロたちが乗った馬車は、ホテルの入り口前を横切ってから駐まって待っていたはずだが、ポワロたちが乗り込んで走り出したあと、もう一度ホテルの入り口前を通過する。また、市場の建物前でポワロたちやジャップ警部がアップになっているカットでは、それなりの雨が降っているように見受けられるが、そのあと屋根もない馬車の座席にポワロが平気で腰を下ろすものかしらん。
- [1] ピーター・ヘイニング (訳: 岩井田雅行, 緒方桂子), 『テレビ版 名探偵ポワロ』, 求龍堂, 1998, p. 51
- [2] Mark Aldridge, Agatha Christie on Screen, Palgrave Macmillan, 2016, p. 252
- [3] David Suchet and Geoffrey Wansell, Poirot and Me, headline, 2013, p. 84
- [4] Rabindranath Tagore, 'The Rice We Eat', The English Writings of Rabindranath Tagore, Sahitya Akademi, 2006, pp. 812-813
- [5] 高田真治・後藤基巳訳, 『易経 上』, 岩波文庫(岩波書店), 1969, pp. 27-38, 177-182
- [6] 高田真治・後藤基巳訳, 『易経 下』, 岩波文庫(岩波書店), 1969, pp. 68-79, 105-111
カットされた場面
日本
オリジナル版
[27:39/1:57] | ヘイスティングスとミス・レモンが中国の占いをしている最中にポワロが帰宅し、ペンゲリー夫人の遺体発掘を報じる新聞を見せる場面 〜 ジャップ警部に連れられて家を出るペンゲリー |
[28:24/0:20] | 再びポルガーウィズへ向かう汽車内の場面の後半 |
[31:41/0:02] | 地方裁判所前でのポワロたち3人の会話の一部 |
ハイビジョンリマスター版
なし映像ソフト
- [VHS, LD] 「名探偵ポアロシリーズ Vol.3 コーンウォールの毒殺事件, 二重の罪」(字幕) ハミングバード
- [VHS] 「名探偵エルキュール・ポアロ 第14巻 コーンウォールの毒殺事件」(字幕) 日本クラウン
- [DVD] 「名探偵ポワロ 8 コーンワルの毒殺事件, ダベンハイム失そう事件」(字幕・吹替) ビームエンタテインメント(現ハピネット・ピクチャーズ)※1
- [DVD] 「名探偵ポワロ [完全版] 8 コーンワルの毒殺事件, ダベンハイム失そう事件」(字幕・吹替) ハピネット・ピクチャーズ※2
- [DVD] 「名探偵ポワロ DVDコレクション 36 コーンウォールの毒殺事件」(字幕・吹替) デアゴスティーニ・ジャパン※3
- [BD] 「名探偵ポワロ Blu-ray BOX Disc 4 ベールをかけた女, 消えた廃坑, コーンワルの毒殺事件, ダベンハイム失そう事件」(字幕/吹替) ハピネット・ピクチャーズ※4
- ※1 「名探偵ポワロ DVD-BOX1」にも収録
- ※2 「名探偵ポワロ [完全版] DVD-BOX1」「名探偵ポワロ [完全版] 全巻 DVD-SET」「名探偵ポワロ [完全版] DVD-SET 2」にも収録
- ※3 吹替は大塚智則さん主演の新録で、映像もイギリスで販売されているDVDと同じバリエーションを使用
- ※4 「名探偵ポワロ Blu-ray BOX vol. 1」に収録