死との約束 Appointment with Death
放送履歴
日本
オリジナル版(94分00秒)
- 2010年09月16日 21時00分〜 (NHK衛星第2)
- 2012年08月16日 17時00分〜 (NHK BSプレミアム)※
- ※ エンディング途中の画面上部にNHKオンデマンドでの配信案内の字幕表示あり
ハイビジョンリマスター版(94分00秒)
- 2016年12月24日 16時00分〜 (NHK BSプレミアム)
- 2017年06月07日 16時00分〜 (NHK BSプレミアム)
- 2021年07月10日 16時26分〜 (NHK BSプレミアム)※1
- 2022年01月03日 09時00分〜 (NHK BS4K)
- 2023年08月16日 21時00分〜 (NHK BSプレミアム・BS4K)※2
- ※1 エンディングの画面下部に次回の放送時間案内の字幕表示(帯付き)あり
- ※2 BSプレミアムでの放送は、オープニング冒頭の画面左上にBS4K同時放送のアイコン表示あり
海外
- 2008年09月22日 20時00分〜 (典・TV4)
- 2009年12月25日 21時00分〜 (英・ITV1)
- 2010年07月25日 21時00分〜 (米・WGBH)
原作
邦訳
- 『死との約束』 クリスティー文庫 高橋豊訳
- 『死との約束』 ハヤカワミステリ文庫 高橋豊訳
原書
- Appointment with Death, Collins, 2 May 1938 (UK)
- Appointment with Death, Dodd Mead, 1938 (USA)
オープニングクレジット
日本
オリジナル版
名探偵ポワロ / AGATHA CHRISTIE'S POIROT / 死との約束 // DAVID SUCHET / Agatha Christie POIROT / APPOINTMENT WITH DEATH based on the novel by Agatha Christie / Screenplay GUY ANDREWS / ZOE BOYLE, CHERYL CAMPBELL / CHRISTINA COLE, EMMA CUNNIFFE / PAUL FREEMAN, MARK GATISS / BETH GODDARD, JOHN HANNAH / ELIZABETH MCGOVERN, CHRISTIAN MCKAY / ANGELA PLEASENCE, TOM RILEY / and TIM CURRY / Producer KAREN THRUSSELL / Director ASHLEY PEARCE
ハイビジョンリマスター版
名探偵ポワロ / DAVID SUCHET / AGATHA CHRISTIE'S POIROT / 死との約束 // DAVID SUCHET / Agatha Christie POIROT / APPOINTMENT WITH DEATH based on the novel by Agatha Christie / Screenplay GUY ANDREWS / ZOE BOYLE, CHERYL CAMPBELL / CHRISTINA COLE, EMMA CUNNIFFE / PAUL FREEMAN, MARK GATISS / BETH GODDARD, JOHN HANNAH / ELIZABETH MCGOVERN, CHRISTIAN MCKAY / ANGELA PLEASENCE, TOM RILEY / and TIM CURRY / Producer KAREN THRUSSELL / Director ASHLEY PEARCE
エンディングクレジット
日本
オリジナル版
原作 アガサ・クリスティー 脚本 ガイ・アンドリュース 演出 アシュレイ・ピアース 制作 ITV プロダクション/WGBHボストン アガサ・クリスティー・リミテッド (イギリス・アメリカ 2008年) 声の出演 ポワロ(デビッド・スーシェ) 熊倉 一雄 グレビル・ボイントン卿󠄁(ティム・カリー) 廣田 行正※ サラ・キング医師(クリスティーナ・コール) 魏 涼子 ボイントン夫人(シェリル・キャンベル) 立石 凉子 カーバリ大佐(ポール・フリーマン) 穂積 隆信 ジェラール医師 世古 陽丸 セリア・ウェストホルム卿󠄁夫人 堀江 真理子 シスター・アニエシュカ 幸田 直子 ジニー・ボイントン 加藤 忍 大滝 寛 浅野 雅博 安奈 ゆかり 根本 泰彦 楠見 尚己 平 ますみ 樋渡 宏嗣 外谷 勝由 藤吉 浩二 <日本語版制作スタッフ> 翻訳・台本 中村 久世 演出 佐藤 敏夫 調整 田中 直也 録音 岡部 直紀 プロデューサー 武士俣 公佑 間瀬 博美 制作統括 柴田 幸裕 小坂 聖
- ※ 正しくは「廣田 行生」
ハイビジョンリマスター版
原作 アガサ・クリスティー 脚本 ガイ・アンドルーズ 演出 アシュレイ・ピアース 制作 ITVプロダクション WGBHボストン アガサ・クリスティー Ltd. (イギリス・アメリカ) 出演 ポワロ(デビッド・スーシェ) 熊倉 一雄 グレビル・ボイントン卿󠄁(ティム・カリー) 廣田 行生 サラ・キング医師(クリスティーナ・コール) 魏 涼子 ボイントン夫人(シェリル・キャンベル) 立石 涼子 カーバリ大佐(ポール・フリーマン) 穂積 隆信 ジェラール医師 世古 陽丸 セリア・ウェストホルム卿󠄁夫人 堀江 真理子 シスター・アニエシュカ 幸田 直子 ジニー・ボイントン 加藤 忍 大滝 寛 浅野 雅博 安奈 ゆかり 根本 泰彦 真田 五郎 楠見 尚己 平 ますみ 樋渡 宏嗣 外谷 勝由 藤吉 浩二 日本語版スタッフ 翻訳 中村 久世 演出 佐藤 敏夫 音声 田中 直也 プロデューサー 武士俣 公佑 間瀬 博美
海外
オリジナル版
Hercule Poirot: DAVID SUCHET; Lord Boynton: TIM CURRY; Labourer: JAWAD ELALAMI; Sarah: CHRISTINA COLE; Raymond: TOM RILEY; Lady Boynton: CHERYL CAMPBELL / Jinny: ZOE BOYLE; Carol: EMMA CUNNIFFE; Nanny: ANGELA PLEASENCE; Concierge: ABDELKADER ALIZOUN; Carbury: PAUL FREEMAN; Sister Agnieszka: BETH GODDARD / Cope: CHRISTIAN McKAY; Leonard: MARK GATISS; Taxi Driver: BADRI MANSOUR; Dr Gerard: JOHN HANNAH; Mahmoud: ZAKARIA ATIFI; Dame Celia Westholme: ELIZABETH McGOVERN / (中略)1st Assistant Director: PAUL JUDGES; 2nd Assistant Director: SEAN CLAYTON; 3rd Assistant Director: DANIELLE SOMERFIELD; Location Manager: ROBIN PIM; Script Supervisor: SUE HILLS; Production Services in Morocco provided by: DUNE FILMS LTD; No animals were hurt in the making of this film / Script Edior: BEN NEWMAN; Production Accountant: CAROLINE RUSSELL; Asst Production Accountant: JOANNA SANDERS; Production Co-ordinator: FAIZA HOSENIE; Production Secretary: HANNAH IRELAND / Camera Operators: PAUL DONACHIE, STEVE MURRAY; Focus Pullers: NATHAN MANN, DAVID HEDGES; Clapper Loaders: BEN GIBB, WOODY GREGSON; Camera Grip: PAUL HATCHMAN; Gaffer: GAVIN WALTERS; Best Boy: LEE WALTERS / Supervising Art Director: PAUL GILPIN; Art Directors: NIC PALLACE, MIRANDA CULL; Standby Art Director: ANDREW LAVIN; Production Buyer: TIM BONSTOW; SFX Co-ordinator: GRAHAM LONGHURST; Construction Manager: GUS WOOKEY / Sound Recordist: ANDREW SISSONS; Boom Operator: ASHLEY REYNOLDS; Property Master: JIM GRINDLEY; Dressing Props: TONY GIBBS, MIKE SYSON; Standby Props: RICHARD MACMILLIAN, PAUL MITCHELL / Assistant Costume Designer: NADINE POWELL; Costume Supervisor: TRACY McGREGOR; Make-up Artists: NATALIE REID, MARC PILCHER; Mr Suchet's Dresser: PHIL O'CONNOR; Mr Suchet's Make-up Artist: EVA MARIEGES MOORE; Picture Publicist: PATRICK SMITH; Press Officer: LUKE MORRISON / Assistant Editor: AMAR INGREJI; Supervising Sound Editor: JOHN DOWNER; Dialogue Editor: SARAH MORTON; Re-recording Mixer: NIGEL SQUIBBS; Colourist: CHRIS BEETON; Online Editor: SIMON GIBLIN / Associate Producer: DAVID SUCHET; Post Production Supervisor: KATE STANNARD; Hair and Make-up Designers: ALISON ELLIOTT, JULIE KENDRICK; Costume Designer: SHEENA NAPIER; Composer: STEPHEN McKEON; Production Executive: JULIE BURNELL / Casting: SUSIE PARRISS; Editor: PAUL GARRICK; Production Designer: JEFF TESSLER; Director of Photography: PETER GREENHALGH BSC; Line Producer: MATTHEW HAMILTON; Co-Producer: GABRIEL SILVER / Executive Producer for WGBH Boston: REBECCA EATON / Executive Producer for Chorion: PHIL CLYMER / Executive Producer: MICHELE BUCK; Executive Producer: DAMIEN TIMMER; © Agatha Christie Ltd. (a Chorion company) 2008 / A Co-Production of Granada and WGBH BOSTON in association with Agatha Christie Ltd (a Chorion Company)
あらすじ
ポワロがシリアで出会ったボイントン卿の一家。父親の卿は遺跡発掘に夢中で家族を顧みず、母親の夫人は子供たちを過酷に虐げていた。そんな中、発掘現場を訪れていた夫人が、皆の気づかぬうちに何者かによって刺殺された……
事件発生時期
1937年
主要登場人物
エルキュール・ポワロ | 私立探偵 |
グレビル・ボイントン卿 | 考古学者 |
レオノラ・ボイントン | ボイントン卿の妻 |
レナード・ボイントン | ボイントン卿の息子 |
レイモンド・ボイントン | ボイントン夫人の養子 |
キャロル・ボイントン | ボイントン夫人の養女 |
ジニー・ボイントン | ボイントン夫人の養女 |
テイラー | ボイントン家の乳母 |
ジェファーソン・コープ | アメリカ人 |
アニエシュカ | 修道女、ポーランド人 |
サラ・キング | 医師 |
テオドール・ジェラール | 精神科医、愛称テオ |
セリア・ウェストホルム卿夫人 | 旅行家 |
カーバリ | 陸軍大佐 |
解説、みたいなもの
「ナイルに死す」以来のピーター・ユスチノフ主演で映画化された作品の再映像化。これでユスチノフ主演で映画化された3作品がすべてスーシェ主演で再映像化されたことになる。撮影時期は2008年5〜6月頃、ロケ地はモロッコのカサブランカやエル・ジャディーダなどで、ホテル・コンスタンチンはカサブランカのマーカマ・アル・パシャ、発掘現場のアイン・ムザ遺跡はカスバ・ブーラウーアンである。
「青列車の秘密」や「満潮に乗って」を手がけたガイ・アンドリュースの脚本らしく、人を精神的に虐げることに悦びを見出すボイントン夫人とそれを取り巻く家族、という物語の骨子以外は大きく原作をアレンジしており、中でも被害者ボイントン夫人の夫である考古学者のボイントン卿の追加が目を惹く。これにあわせて、ペトラ(当時イギリス委任統治領パレスチナ、現ヨルダン領内)の遺跡見物旅行だった事件の舞台が、「メソポタミア殺人事件」を思わせるシリアの遺跡発掘現場に変更され、ひとえにボイントン夫人の人格に集約されていた物語の興味に、聖ヨハネの遺骨探索という横糸が追加された。ほかに、登場人物としては乳母のテイラーばあやとシスター・アニエシュカが追加され、物語には奴隷商人の影も垣間見える。一方、原作の登場人物では、ボイントン夫人の息子の一人レノックスはレナードに名前が変わってボイントン卿側の息子となり、レノックス夫人のネイディーンも姿を消したため、ジェファーソン・コープの事件への関わり方は大きく変更されている。代議士だったウェストホルム卿夫人、ジェラール医師も同様に大きく立場を変えることとなった。原作で旅行の同行者だったミス・ピアスは、テイラーばあやのキャラクターにその片鱗が窺えなくもないが、その名前がボイントン夫人の旧姓として使われるにとどまった。なお、原作小説がクリスティー自身によって戯曲化された際にも結末を含む大きな改変がおこなわれているが、ドラマでの脚色と戯曲版での改変の内容に共通性はない。ところで余談ながら、 BBC のドラマシリーズでミス・マープルを演じたジョーン・ヒクソンが、以前にクリスティーから「いつかミス・マープルを演じてほしい」という手紙をもらっていたという逸話は、その『死との約束』の舞台への出演がきっかけで結ばれた交誼による(手紙が送られたタイミングについては、資料や証言により異同がある)[1][2][3][4]。ただし、ヒクソン自身はミス・マープル役を引き受けてからもしばらく、手紙のことはすっかり忘れていたという[2]。
ホテルの中庭でポワロが「レモンティーをひとつ」と注文したのに対してウェイターは「ウィ、ムッシュウ」とフランス語で答えるように、1937年当時のシリアはフランスの委任統治下にあった。しかし、ほかの場面のシリア人はアラビア語か英語を話しており、ここでの応対がフランス語になったのは、ポワロの注文が原語だとフランス語だったのを受けたためか。ところで、「杉の柩」のポワロは「実は、私は嫌いで、飲んだことがないんです、お茶 (tea) は」と言っており、またスーシェの、ポワロを演じるにあたっての93項目のメモでも2番目に「紅茶 (tea) はまず飲まない」と書かれているが[5]、イギリスでの tea は一般にミルクティーを指す。「マギンティ夫人は死んだ」では紅茶からミルクだけを断っていたように、ポワロも、ミルクティーでなければ紅茶を飲むようだ。
ポワロとボイントン卿が話す商人と死神の逸話は、サマセット・モームが戯曲『シェピー』のなかで紹介したことでも知られるメソポタミアの伝承。「死との約束」という本作品のタイトルを象徴するもののように聞こえるが、この逸話への言及はドラマオリジナルである。また、ウェストホルム卿夫人がジニーに語ろうとする「ギルガメシュの伝説」とは、人類史上最古の物語のひとつ『ギルガメシュ叙事詩』に謳われる、古代メソポタミアの王ギルガメシュの英雄譚のこと。
事件の日に一同が見物に行く「カスバ」とはアラビアの城塞、またはその城壁に囲まれた市街のこと。「海上の悲劇」でも少女たちが行こうとしていたように、その歴史的な景観がしばしば観光の対象とされる。
ボイントン夫人の死が明らかになる場面でかかるのは、ヘンリー・パーセルのオペラ「ディドとエネアス」の最後に歌われる 'Dido's Lament' ないしは 'When I Am Laid in Earth' として知られる曲である。
事件のあとポワロがカーバリ大佐に、日本語だと「警官でもないのに、なぜ事件が起きることを知っていたんです?」と、大佐がボイントン卿夫人殺害を予期していたかのように詰め寄るが、原語では 'You are not a policeman, yet you know a crime it has been committed before it had been reported. (あなたは警官じゃない。なのに、報道前から事件の起きたことを知っている)' という台詞で、事件発生後にそれを知るのが早すぎることを問題視している。
ボイントン夫人の死後、ウェストホルム卿夫人がボイントン卿に読み聞かせている「ある古典文学」は原語で聞くとアラビア語で、 The Perfumed Garden からの抜粋とウェストホルム卿夫人は答えている。一方、日本語では旧約聖書ヨブ記の一節になっており、聖書であれば「ある古典文学」とウェストホルム卿夫人がぼかしたり、作品中でカトリック教徒としての立場を強調されているポワロがその内容を訊ねるのは不自然に思える。また、その後、シスター・アニエシュカのうわごとについてポワロがジェラール医師に「聖書の一節?」と訊くところも、原語ではそもそもシスターの言葉が英語ではなく、ポワロの質問も 'You have Polish, monsieur? (ポーランド語がわかるんですか?)' となっている。一方、遺跡のなかでジニーとシスター・アニエシュカが話題にしているのはルカ伝14章23節で、これは日本語も原語も同様である。
事件翌朝、シリア人が影の伸びる方向へ礼拝しているが、シリアから見たメッカは南にあり、シリアは北半球にあるので、時刻がいつであっても影が伸びる方向に礼拝することはないはずである。実際には撮影地のモロッコから見てメッカがある東の方向へ礼拝しており、そちらへ影が伸びるということは、朝という劇中の時刻設定にもかかわらず、太陽が西に来る夕方に撮影されたことがわかる。
テントの捜索を受けたあとにレナードが「ポワロさん、さっきは申し訳なかったです」と事件後に質問を受けた際の態度を詫びるが、カーバリ大佐の部下が到着していることからすでに事件翌日になっていることがわかり、前日のやりとりについて「さっき」と言うのは不自然である。原語では特に時期についての言及はない。
ホテルでポワロを見かけたボイントン卿が「クリスマスのご祝儀をもらいに来る牛飼いみたいにもみ手をしながら〔ポワロが来たぞ〕」と言ったのに対し、レナードが「あれは礼儀作法のひとつだよ」と言ったのは、原語だと 'He's been respectful, Father. (あの人は礼儀を守ってくれましたよ、お父さん)' という表現で、事件後のやりとりや、それを踏まえてボイントン卿への聞き取りを控えてくれていたことを言っており、もみ手は別に礼儀作法ではない。また、その後ポワロが、レナードにボイントン卿への態度を「いくらなんでもあんな言い方はないんじゃないですか」と抗議されたのに対して「ポワロはどんなときでも、物事を公平に見ますよ」と答えるのは若干話が噛み合っていないように聞こえるが、原語だとポワロは 'The methods of Poirot, monsieur, cannot always be agréable. (ポワロの方法は、常に人当たりよくとはいきません)' と言っている。
謎解きの冒頭、ポワロが「さて皆さん、自分の嗅覚を鈍らせるものは何でしょう?」と切り出したのにジェラール医師が「ニシンの、燻製か?」と答えるところは、原語だと 'This case, mes amis, it is full of the red fish. (この事件は赤い魚でいっぱいでした)' 'Herrings, possibly? (ひょっとして、ニシンのことか?)' というやりとりで、 red herring (赤いニシン) という言葉をポワロがまちがえたのを、ジェラール医師が修正している。この red herring は赤く変色したニシンの燻製のことで、きついにおいを放ち、猟犬の注意をそちらに向けてしまうことから、「本来の目的や真相から人の注意をそらすもの」という慣用的意味を持つ。
謎解きの場面でキャロルが着ているワンピースは、「メソポタミア殺人事件」で事件発生時にライドナー夫人が着ていたり、「ナイルに死す」でルクソール神殿を訪れた日にコーネリアが着ていたりしたのと同じもの。また、そこでウェストホルム卿夫人が着ているブラウスも、「葬儀を終えて」の謎解きの場面でロザムンドが着ていたのと同じものである。一方、折檻の場にある L の部屋のドアは、「第三の女」のデビッドのアトリエと同じもの。それ以外のドアや鏡板も、ノーマやシーグラムばあやの部屋に使ったものを塗り直して使用しているようだ。
ボイントン夫人を演じるシェリル・キャンベルは、「二人で探偵を」シリーズでトミーを演じたジェームズ・ワーウィックと競演した「七つのダイヤル」でレディー・バンドル、ジョーン・ヒクソン主演の「ミス・マープル」の「牧師館の殺人」でグリゼルダを演じたほか、ジェレミー・ブレット主演の「シャーロック・ホームズの冒険」の「レディー・フランシスの失踪」のレディー・フランシス役、ジョン・ネトルズ主演の「バーナビー警部」の「古城の鐘が亡霊を呼ぶ」のサンドラ・マキロップ役などでも見ることができる。また、ジェラルディン・マクイーワン主演の「ミス・マープル」シリーズでは、「牧師館の殺人」にサラ・キング役のクリスティーナ・コールがレティス・プロズロウ役、レナード・ボイントン役のマーク・ゲイティスがホーズ副牧師役、テイラーばあや役のアンジェラ・プレザンスがミス・ハートネル役で出演しているほか、「パディントン発4時50分」にジェラール医師役のジョン・ハナがキャンベル警部役、「無実はさいなむ」にレイモンド役のトム・ライリーがボビー・アーガイル役で出演。クリスティーナ・コールは、デビッド・ウォリアムズとジェシカ・レイン主演「トミーとタペンス ―2人で探偵を―」の「NかMか」にもスプロット夫人役で出演している。マーク・ゲイティスは、ベネディクト・カンバーバッチ主演の「シャーロック」シリーズでは、マイクロフト・ホームズ役のほか、脚本やエグゼクティブ・プロデューサーも務める。アンジェラ・プレザンスはジョーン・ヒクソン主演の「ミス・マープル」シリーズ「カリブ海の秘密」でラフィール氏、映画「サファリ殺人事件」でウォーグレイブ判事を演じたドナルド・プレザンスの娘で、ジョン・ハナは「検死医マッカラム」や「リーバス警部」シリーズの主演でも知られる。カーバリ大佐役のポール・フリーマンは、ジョン・ソウ主演の「主任警部モース」の一篇、「悔恨の日」のフランク・ハリスン役のほか、「ER」シリーズのチャールズ・コーデイ役でも見ることができる。ジェファーソン・コープ役のクリスチャン・マッケイは、マックス・アイアンズ主演「ねじれた家」にロジャー・レオニダス役で出演。「名探偵ポワロ」内では、シスター・アニエシュカ役のベス・ゴダードが「なぞの遺言書」のバイオレット役につづく再出演(吹替は島本須美さんから幸田直子さんに交代)をしているほか、レナード・ボイントン役マーク・ゲイティスは「鳩のなかの猫」や「ハロウィーン・パーティー」、「ビッグ・フォー」では脚本を担当している。
2021年の舞台「検察側の証人」には、レイモンドの吹替を担当した浅野雅博さんがカーター役と判事役の二役、レナードの吹替を担当した大滝寛さんがサー・ウィルフリッド役で出演している。
カーバリ大佐に「君はいいやつだから信用しよう」と言われてポワロが「うむ」と言うのは日本語音声のみの台詞。カーバリ大佐がポワロの「ウィ」という回答を受けて「よし」と言うのも同様。その後ポワロが、道具箱を開けようとかがみ込んだり、カーバリ大佐に「灰色の脳細胞がささやきはじめたんです」と言ったあとの微笑で声を立てたり、ジェラール医師がテイラーばあやに与えたシロップを確かめて「ん」と言ったり、その後廊下でよろめいた際に声を出したり、コープとの会話のあとに眼鏡を外して息をついたり、テイラーばあやが死んだのに自分は遺跡へ戻ると言いかけたボイントン卿に「ん?」と言ったりするのもやはり日本語音声のみ。一方、ホテルでシスター・アニエシュカがポーランド語の祈りを捧げている声は日本語音声でも原語音声をそのまま使用しており、その都合か、ベッドに腰を下ろす際のポワロが息をつく音や、テイラーばあやの浴室に駆け込んだポワロがもらす声も、吹き替えられずに原語音声がそのまま使用されている。
ジェラール医師が発掘現場に連れて帰られたときには肩にかけていた鞄が、テントに運ばれたときにはなくなっている。レナードがジニーと交代した際にはずされたのだろうか。あと、発掘現場に向かうトラックの荷台上で並ぶポワロとジェラール医師を映したカットで、車の揺れに対する遠景の空と中景の山肌の動きが合っていないような……
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謎解きのなかポワロが、「その子が見せたのは、これです」と金で詰め物をした跡のある臼歯を示すが、ヨハネのものとするのに明らかに不都合な歯を見せてレナードの興味を惹くのはおかしい。ポワロの台詞は原語だと 'And from it, he extracted this. (そしてそれから、抜き取ったのがこれです)' という表現で、日本語は he (彼) を少年、 it (それ) を少年が持っていた袋ととらえ、袋から何かを取り出した動作を言ったものとして訳されたと思われるが、原語の he はポワロ、 it はレナードが買い取った袋の中身すなわち髑髏を指している(ポワロが自分のことを「ポワロ」と呼ぶとき、それを受ける代名詞は I ではなく he になる)。そして、その髑髏に対してポワロは「作り物」だと言うが、作り物であればその歯に金で詰め物はしないのではないかしら。「作り物」に対応する原語の rubbish は「ごみ」「がらくた」という意味で、考古学的価値のない、おそらくは誰とも知れぬ現代人の(本物の)頭蓋骨なのだろう。
「レスリー」というファーストネームに関してコープが、「性別がはっきりしないからです。綴りはちがいますが女性にも使われるので」と言ったのは、特にイギリスでは Leslie が男性名なのに対して Lesley が女性名としてつけられることを言っている(ただし例外もあり、クリスティー作品でも「ハロウィーン・パーティー」に登場するレスリー・フェリアは Lesley とつづるが男性である)。そして、それを受けてポワロが「当時、夫人の命令で手ひどい折檻を受けていたのは女の子ではありません。キャロルさんの記憶がまちがっていたんです」と言うが、日本語だと以前のポワロとキャロルの会話ではその子の性別はわからず、それが女の子と明言されていたのは原語だけである。また、日本語では最終的にボイントン夫人の元に残った養子の話に聞こえる「運良く残った子は3人、レイモンドとジニーとわたしだけ」というキャロルの台詞も、原語では 'So there we were, we lucky few: Raymond, Carol and Jinny. (だから、そこにいたのは運のいいわたしたち3人、レイモンドとジニーとわたし)' となっていて、折檻の場にいあわせた子供の話だった。
謎解きのなかでカーバリ大佐の追う事件の話をポワロが切り出す際、「さて、最後にもう一匹、ニシンが残っています。そしてこれが、いちばん本質的なのです」と言うが、これもやはり red herring であり、実際にはボイントン夫人の殺害とは関係がない。日本語の「本質的」に対応する原語 substantial は、ここでは「大物の」といった意味である。
ポワロがウェストホルム卿夫人に訊く「ボイントン夫人がまだピアス夫人だったころ、あなたは何をしていましたか?」という質問は、原語だと 'What was your position in the household of Lady Boynton in the days when she was Mrs Pierce? Hm? (ボイントン夫人がピアス夫人だったころ、その家でのあなたの立場は何でしたか?)' という表現で、ウェストホルム卿夫人が答えた「屋敷のメイド」とは単なる職業の話ではなく、ボイントン夫人すなわちピアス家の屋敷にメイドとして勤めていたと言っている。したがって、「主人の客」ことジェラール医師はピアス家の人々と面識があったと思われ、そのためにテイラーばあやは、彼がジニーの父親であると気づけたのだろう。しかし、ジェラール医師が仮にボイントン夫人ではなくピアス氏側の知人であったとしても、ばあやよりも交友が深かったであろう夫人が彼に気づかなかったのは不自然にも思われる。なお、このウェストホルム卿夫人とジェラール医師の過去はドラマオリジナルの設定で、原作のジェラール医師はそもそも犯人ではない。
セリア・ウェストホルム卿夫人の原語の称号 Dame (デイム) は、一等ないしは二等勲爵士に叙せられた女性に冠せられる敬称で、男性の Sir (サー) に相当する。正式な場面では Sir の称号を持つ男性の妻への敬称としても用いられるが、デイム・セリアはジニーを手放したあと結婚した様子はなく、自由人として成功を収めたと語られたところから 'Dame Celia Westholme! (デイム・セリア・ウェストホルム!)' と呼ばれる場面の回想へつながるので、彼女の称号は自身の受勲によるものと思われる。原作のウェストホルム卿夫人の原語の称号は Lady (レディー) で、貴族のウェストホルム卿の妻であることによる敬称だった。なお、 Dame の日本でのなじみの薄さからか、日本語音声でのポワロからの呼びかけはすべて「マダム」に置き換えられたが、ファーストネームないしはフルネームにつなげて用いられる Dame の名残を残し、「マダム・ウェストホルム」ではなく「マダム・セリア」という表現になっている。
カスバ見物の出先でジェラール医師がフロイトに会った際の逸話を話していたが、フロイトはウィーン在住のオーストリア人であり、ウェストホルム卿夫人が「めずらしい旅行先」であるウィーンに行った逸話との関連を示唆する伏線であったと見られる。
日本語だと、ポワロがジェラール医師の専門について「エジンバラの法廷で証言台に立ったとき、書記官はあなたの経歴を読み上げていますよ――麻酔科医だと。そもそも麻酔学が専門のあなたは」と言うので、ジェラール医師が実際は麻酔科医なのにポワロに嘘の自己紹介をしたように聞こえるが、原語は 'For when you took the witness stand in Edinburgh to speak on the life of the mind, the clerk of the court, he read out your qualifications. (あなたがエジンバラで証言台に立って心の生命について証言したとき、法廷吏はあなたの資格を読み上げましたよ) And anaesthesia, Dr, was your dicipline long before psychiatry. (精神医学を専門とするずっと前に麻酔学の博士だったと)' と言っており、エジンバラでの証言も精神科医としてのものだったが、精神科医になるずっと前に麻酔学を専門としていた経歴が言及されたのを憶えていたという趣旨である。したがって、「そもそも麻酔学が専門」というのも、本当の専門が麻酔学という趣旨ではなく、医学者としての当初の専門が麻酔学だったと言っている。
ジェラール医師がテイラーばあやに与えた幻覚剤の強さについてポワロが「すこしなめただけで頭がくらくらするほどの」と言ったところは、原語だと 'that the very speck of it made the head of Poirot to spin (すこしなめただけでポワロの頭をくらくらさせたほどの)' という表現でポワロの実際の体験を語っており、つまりホテルの廊下でコープに声をかけられる前にポワロがふらついていたのは、暑さではなく直前になめたシロップのせいだったと明らかにされている。
砂漠にくずおれる際のシスター・アニエシュカの声も日本語音声のみである。
最後にポワロがジニーに「その信念がなければ人は、死んだも同じなのです」と助言を与えるところは、原語だと 'because without this certainty, we should all of us—be mad (その確信がなければ人は、おかしくなってしまいます)' という表現で、ジニーの心の傷を直接的におもんぱかったものになっている。
「青列車の秘密」や「満潮に乗って」を手がけたガイ・アンドリュースの脚本らしく、人を精神的に虐げることに悦びを見出すボイントン夫人とそれを取り巻く家族、という物語の骨子以外は大きく原作をアレンジしており、中でも被害者ボイントン夫人の夫である考古学者のボイントン卿の追加が目を惹く。これにあわせて、ペトラ(当時イギリス委任統治領パレスチナ、現ヨルダン領内)の遺跡見物旅行だった事件の舞台が、「メソポタミア殺人事件」を思わせるシリアの遺跡発掘現場に変更され、ひとえにボイントン夫人の人格に集約されていた物語の興味に、聖ヨハネの遺骨探索という横糸が追加された。ほかに、登場人物としては乳母のテイラーばあやとシスター・アニエシュカが追加され、物語には奴隷商人の影も垣間見える。一方、原作の登場人物では、ボイントン夫人の息子の一人レノックスはレナードに名前が変わってボイントン卿側の息子となり、レノックス夫人のネイディーンも姿を消したため、ジェファーソン・コープの事件への関わり方は大きく変更されている。代議士だったウェストホルム卿夫人、ジェラール医師も同様に大きく立場を変えることとなった。原作で旅行の同行者だったミス・ピアスは、テイラーばあやのキャラクターにその片鱗が窺えなくもないが、その名前がボイントン夫人の旧姓として使われるにとどまった。なお、原作小説がクリスティー自身によって戯曲化された際にも結末を含む大きな改変がおこなわれているが、ドラマでの脚色と戯曲版での改変の内容に共通性はない。ところで余談ながら、 BBC のドラマシリーズでミス・マープルを演じたジョーン・ヒクソンが、以前にクリスティーから「いつかミス・マープルを演じてほしい」という手紙をもらっていたという逸話は、その『死との約束』の舞台への出演がきっかけで結ばれた交誼による(手紙が送られたタイミングについては、資料や証言により異同がある)[1][2][3][4]。ただし、ヒクソン自身はミス・マープル役を引き受けてからもしばらく、手紙のことはすっかり忘れていたという[2]。
ホテルの中庭でポワロが「レモンティーをひとつ」と注文したのに対してウェイターは「ウィ、ムッシュウ」とフランス語で答えるように、1937年当時のシリアはフランスの委任統治下にあった。しかし、ほかの場面のシリア人はアラビア語か英語を話しており、ここでの応対がフランス語になったのは、ポワロの注文が原語だとフランス語だったのを受けたためか。ところで、「杉の柩」のポワロは「実は、私は嫌いで、飲んだことがないんです、お茶 (tea) は」と言っており、またスーシェの、ポワロを演じるにあたっての93項目のメモでも2番目に「紅茶 (tea) はまず飲まない」と書かれているが[5]、イギリスでの tea は一般にミルクティーを指す。「マギンティ夫人は死んだ」では紅茶からミルクだけを断っていたように、ポワロも、ミルクティーでなければ紅茶を飲むようだ。
ポワロとボイントン卿が話す商人と死神の逸話は、サマセット・モームが戯曲『シェピー』のなかで紹介したことでも知られるメソポタミアの伝承。「死との約束」という本作品のタイトルを象徴するもののように聞こえるが、この逸話への言及はドラマオリジナルである。また、ウェストホルム卿夫人がジニーに語ろうとする「ギルガメシュの伝説」とは、人類史上最古の物語のひとつ『ギルガメシュ叙事詩』に謳われる、古代メソポタミアの王ギルガメシュの英雄譚のこと。
事件の日に一同が見物に行く「カスバ」とはアラビアの城塞、またはその城壁に囲まれた市街のこと。「海上の悲劇」でも少女たちが行こうとしていたように、その歴史的な景観がしばしば観光の対象とされる。
ボイントン夫人の死が明らかになる場面でかかるのは、ヘンリー・パーセルのオペラ「ディドとエネアス」の最後に歌われる 'Dido's Lament' ないしは 'When I Am Laid in Earth' として知られる曲である。
事件のあとポワロがカーバリ大佐に、日本語だと「警官でもないのに、なぜ事件が起きることを知っていたんです?」と、大佐がボイントン卿夫人殺害を予期していたかのように詰め寄るが、原語では 'You are not a policeman, yet you know a crime it has been committed before it had been reported. (あなたは警官じゃない。なのに、報道前から事件の起きたことを知っている)' という台詞で、事件発生後にそれを知るのが早すぎることを問題視している。
ボイントン夫人の死後、ウェストホルム卿夫人がボイントン卿に読み聞かせている「ある古典文学」は原語で聞くとアラビア語で、 The Perfumed Garden からの抜粋とウェストホルム卿夫人は答えている。一方、日本語では旧約聖書ヨブ記の一節になっており、聖書であれば「ある古典文学」とウェストホルム卿夫人がぼかしたり、作品中でカトリック教徒としての立場を強調されているポワロがその内容を訊ねるのは不自然に思える。また、その後、シスター・アニエシュカのうわごとについてポワロがジェラール医師に「聖書の一節?」と訊くところも、原語ではそもそもシスターの言葉が英語ではなく、ポワロの質問も 'You have Polish, monsieur? (ポーランド語がわかるんですか?)' となっている。一方、遺跡のなかでジニーとシスター・アニエシュカが話題にしているのはルカ伝14章23節で、これは日本語も原語も同様である。
事件翌朝、シリア人が影の伸びる方向へ礼拝しているが、シリアから見たメッカは南にあり、シリアは北半球にあるので、時刻がいつであっても影が伸びる方向に礼拝することはないはずである。実際には撮影地のモロッコから見てメッカがある東の方向へ礼拝しており、そちらへ影が伸びるということは、朝という劇中の時刻設定にもかかわらず、太陽が西に来る夕方に撮影されたことがわかる。
テントの捜索を受けたあとにレナードが「ポワロさん、さっきは申し訳なかったです」と事件後に質問を受けた際の態度を詫びるが、カーバリ大佐の部下が到着していることからすでに事件翌日になっていることがわかり、前日のやりとりについて「さっき」と言うのは不自然である。原語では特に時期についての言及はない。
ホテルでポワロを見かけたボイントン卿が「クリスマスのご祝儀をもらいに来る牛飼いみたいにもみ手をしながら〔ポワロが来たぞ〕」と言ったのに対し、レナードが「あれは礼儀作法のひとつだよ」と言ったのは、原語だと 'He's been respectful, Father. (あの人は礼儀を守ってくれましたよ、お父さん)' という表現で、事件後のやりとりや、それを踏まえてボイントン卿への聞き取りを控えてくれていたことを言っており、もみ手は別に礼儀作法ではない。また、その後ポワロが、レナードにボイントン卿への態度を「いくらなんでもあんな言い方はないんじゃないですか」と抗議されたのに対して「ポワロはどんなときでも、物事を公平に見ますよ」と答えるのは若干話が噛み合っていないように聞こえるが、原語だとポワロは 'The methods of Poirot, monsieur, cannot always be agréable. (ポワロの方法は、常に人当たりよくとはいきません)' と言っている。
謎解きの冒頭、ポワロが「さて皆さん、自分の嗅覚を鈍らせるものは何でしょう?」と切り出したのにジェラール医師が「ニシンの、燻製か?」と答えるところは、原語だと 'This case, mes amis, it is full of the red fish. (この事件は赤い魚でいっぱいでした)' 'Herrings, possibly? (ひょっとして、ニシンのことか?)' というやりとりで、 red herring (赤いニシン) という言葉をポワロがまちがえたのを、ジェラール医師が修正している。この red herring は赤く変色したニシンの燻製のことで、きついにおいを放ち、猟犬の注意をそちらに向けてしまうことから、「本来の目的や真相から人の注意をそらすもの」という慣用的意味を持つ。
謎解きの場面でキャロルが着ているワンピースは、「メソポタミア殺人事件」で事件発生時にライドナー夫人が着ていたり、「ナイルに死す」でルクソール神殿を訪れた日にコーネリアが着ていたりしたのと同じもの。また、そこでウェストホルム卿夫人が着ているブラウスも、「葬儀を終えて」の謎解きの場面でロザムンドが着ていたのと同じものである。一方、折檻の場にある L の部屋のドアは、「第三の女」のデビッドのアトリエと同じもの。それ以外のドアや鏡板も、ノーマやシーグラムばあやの部屋に使ったものを塗り直して使用しているようだ。
ボイントン夫人を演じるシェリル・キャンベルは、「二人で探偵を」シリーズでトミーを演じたジェームズ・ワーウィックと競演した「七つのダイヤル」でレディー・バンドル、ジョーン・ヒクソン主演の「ミス・マープル」の「牧師館の殺人」でグリゼルダを演じたほか、ジェレミー・ブレット主演の「シャーロック・ホームズの冒険」の「レディー・フランシスの失踪」のレディー・フランシス役、ジョン・ネトルズ主演の「バーナビー警部」の「古城の鐘が亡霊を呼ぶ」のサンドラ・マキロップ役などでも見ることができる。また、ジェラルディン・マクイーワン主演の「ミス・マープル」シリーズでは、「牧師館の殺人」にサラ・キング役のクリスティーナ・コールがレティス・プロズロウ役、レナード・ボイントン役のマーク・ゲイティスがホーズ副牧師役、テイラーばあや役のアンジェラ・プレザンスがミス・ハートネル役で出演しているほか、「パディントン発4時50分」にジェラール医師役のジョン・ハナがキャンベル警部役、「無実はさいなむ」にレイモンド役のトム・ライリーがボビー・アーガイル役で出演。クリスティーナ・コールは、デビッド・ウォリアムズとジェシカ・レイン主演「トミーとタペンス ―2人で探偵を―」の「NかMか」にもスプロット夫人役で出演している。マーク・ゲイティスは、ベネディクト・カンバーバッチ主演の「シャーロック」シリーズでは、マイクロフト・ホームズ役のほか、脚本やエグゼクティブ・プロデューサーも務める。アンジェラ・プレザンスはジョーン・ヒクソン主演の「ミス・マープル」シリーズ「カリブ海の秘密」でラフィール氏、映画「サファリ殺人事件」でウォーグレイブ判事を演じたドナルド・プレザンスの娘で、ジョン・ハナは「検死医マッカラム」や「リーバス警部」シリーズの主演でも知られる。カーバリ大佐役のポール・フリーマンは、ジョン・ソウ主演の「主任警部モース」の一篇、「悔恨の日」のフランク・ハリスン役のほか、「ER」シリーズのチャールズ・コーデイ役でも見ることができる。ジェファーソン・コープ役のクリスチャン・マッケイは、マックス・アイアンズ主演「ねじれた家」にロジャー・レオニダス役で出演。「名探偵ポワロ」内では、シスター・アニエシュカ役のベス・ゴダードが「なぞの遺言書」のバイオレット役につづく再出演(吹替は島本須美さんから幸田直子さんに交代)をしているほか、レナード・ボイントン役マーク・ゲイティスは「鳩のなかの猫」や「ハロウィーン・パーティー」、「ビッグ・フォー」では脚本を担当している。
2021年の舞台「検察側の証人」には、レイモンドの吹替を担当した浅野雅博さんがカーター役と判事役の二役、レナードの吹替を担当した大滝寛さんがサー・ウィルフリッド役で出演している。
カーバリ大佐に「君はいいやつだから信用しよう」と言われてポワロが「うむ」と言うのは日本語音声のみの台詞。カーバリ大佐がポワロの「ウィ」という回答を受けて「よし」と言うのも同様。その後ポワロが、道具箱を開けようとかがみ込んだり、カーバリ大佐に「灰色の脳細胞がささやきはじめたんです」と言ったあとの微笑で声を立てたり、ジェラール医師がテイラーばあやに与えたシロップを確かめて「ん」と言ったり、その後廊下でよろめいた際に声を出したり、コープとの会話のあとに眼鏡を外して息をついたり、テイラーばあやが死んだのに自分は遺跡へ戻ると言いかけたボイントン卿に「ん?」と言ったりするのもやはり日本語音声のみ。一方、ホテルでシスター・アニエシュカがポーランド語の祈りを捧げている声は日本語音声でも原語音声をそのまま使用しており、その都合か、ベッドに腰を下ろす際のポワロが息をつく音や、テイラーばあやの浴室に駆け込んだポワロがもらす声も、吹き替えられずに原語音声がそのまま使用されている。
ジェラール医師が発掘現場に連れて帰られたときには肩にかけていた鞄が、テントに運ばれたときにはなくなっている。レナードがジニーと交代した際にはずされたのだろうか。あと、発掘現場に向かうトラックの荷台上で並ぶポワロとジェラール医師を映したカットで、車の揺れに対する遠景の空と中景の山肌の動きが合っていないような……
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謎解きのなかポワロが、「その子が見せたのは、これです」と金で詰め物をした跡のある臼歯を示すが、ヨハネのものとするのに明らかに不都合な歯を見せてレナードの興味を惹くのはおかしい。ポワロの台詞は原語だと 'And from it, he extracted this. (そしてそれから、抜き取ったのがこれです)' という表現で、日本語は he (彼) を少年、 it (それ) を少年が持っていた袋ととらえ、袋から何かを取り出した動作を言ったものとして訳されたと思われるが、原語の he はポワロ、 it はレナードが買い取った袋の中身すなわち髑髏を指している(ポワロが自分のことを「ポワロ」と呼ぶとき、それを受ける代名詞は I ではなく he になる)。そして、その髑髏に対してポワロは「作り物」だと言うが、作り物であればその歯に金で詰め物はしないのではないかしら。「作り物」に対応する原語の rubbish は「ごみ」「がらくた」という意味で、考古学的価値のない、おそらくは誰とも知れぬ現代人の(本物の)頭蓋骨なのだろう。
「レスリー」というファーストネームに関してコープが、「性別がはっきりしないからです。綴りはちがいますが女性にも使われるので」と言ったのは、特にイギリスでは Leslie が男性名なのに対して Lesley が女性名としてつけられることを言っている(ただし例外もあり、クリスティー作品でも「ハロウィーン・パーティー」に登場するレスリー・フェリアは Lesley とつづるが男性である)。そして、それを受けてポワロが「当時、夫人の命令で手ひどい折檻を受けていたのは女の子ではありません。キャロルさんの記憶がまちがっていたんです」と言うが、日本語だと以前のポワロとキャロルの会話ではその子の性別はわからず、それが女の子と明言されていたのは原語だけである。また、日本語では最終的にボイントン夫人の元に残った養子の話に聞こえる「運良く残った子は3人、レイモンドとジニーとわたしだけ」というキャロルの台詞も、原語では 'So there we were, we lucky few: Raymond, Carol and Jinny. (だから、そこにいたのは運のいいわたしたち3人、レイモンドとジニーとわたし)' となっていて、折檻の場にいあわせた子供の話だった。
謎解きのなかでカーバリ大佐の追う事件の話をポワロが切り出す際、「さて、最後にもう一匹、ニシンが残っています。そしてこれが、いちばん本質的なのです」と言うが、これもやはり red herring であり、実際にはボイントン夫人の殺害とは関係がない。日本語の「本質的」に対応する原語 substantial は、ここでは「大物の」といった意味である。
ポワロがウェストホルム卿夫人に訊く「ボイントン夫人がまだピアス夫人だったころ、あなたは何をしていましたか?」という質問は、原語だと 'What was your position in the household of Lady Boynton in the days when she was Mrs Pierce? Hm? (ボイントン夫人がピアス夫人だったころ、その家でのあなたの立場は何でしたか?)' という表現で、ウェストホルム卿夫人が答えた「屋敷のメイド」とは単なる職業の話ではなく、ボイントン夫人すなわちピアス家の屋敷にメイドとして勤めていたと言っている。したがって、「主人の客」ことジェラール医師はピアス家の人々と面識があったと思われ、そのためにテイラーばあやは、彼がジニーの父親であると気づけたのだろう。しかし、ジェラール医師が仮にボイントン夫人ではなくピアス氏側の知人であったとしても、ばあやよりも交友が深かったであろう夫人が彼に気づかなかったのは不自然にも思われる。なお、このウェストホルム卿夫人とジェラール医師の過去はドラマオリジナルの設定で、原作のジェラール医師はそもそも犯人ではない。
セリア・ウェストホルム卿夫人の原語の称号 Dame (デイム) は、一等ないしは二等勲爵士に叙せられた女性に冠せられる敬称で、男性の Sir (サー) に相当する。正式な場面では Sir の称号を持つ男性の妻への敬称としても用いられるが、デイム・セリアはジニーを手放したあと結婚した様子はなく、自由人として成功を収めたと語られたところから 'Dame Celia Westholme! (デイム・セリア・ウェストホルム!)' と呼ばれる場面の回想へつながるので、彼女の称号は自身の受勲によるものと思われる。原作のウェストホルム卿夫人の原語の称号は Lady (レディー) で、貴族のウェストホルム卿の妻であることによる敬称だった。なお、 Dame の日本でのなじみの薄さからか、日本語音声でのポワロからの呼びかけはすべて「マダム」に置き換えられたが、ファーストネームないしはフルネームにつなげて用いられる Dame の名残を残し、「マダム・ウェストホルム」ではなく「マダム・セリア」という表現になっている。
カスバ見物の出先でジェラール医師がフロイトに会った際の逸話を話していたが、フロイトはウィーン在住のオーストリア人であり、ウェストホルム卿夫人が「めずらしい旅行先」であるウィーンに行った逸話との関連を示唆する伏線であったと見られる。
日本語だと、ポワロがジェラール医師の専門について「エジンバラの法廷で証言台に立ったとき、書記官はあなたの経歴を読み上げていますよ――麻酔科医だと。そもそも麻酔学が専門のあなたは」と言うので、ジェラール医師が実際は麻酔科医なのにポワロに嘘の自己紹介をしたように聞こえるが、原語は 'For when you took the witness stand in Edinburgh to speak on the life of the mind, the clerk of the court, he read out your qualifications. (あなたがエジンバラで証言台に立って心の生命について証言したとき、法廷吏はあなたの資格を読み上げましたよ) And anaesthesia, Dr, was your dicipline long before psychiatry. (精神医学を専門とするずっと前に麻酔学の博士だったと)' と言っており、エジンバラでの証言も精神科医としてのものだったが、精神科医になるずっと前に麻酔学を専門としていた経歴が言及されたのを憶えていたという趣旨である。したがって、「そもそも麻酔学が専門」というのも、本当の専門が麻酔学という趣旨ではなく、医学者としての当初の専門が麻酔学だったと言っている。
ジェラール医師がテイラーばあやに与えた幻覚剤の強さについてポワロが「すこしなめただけで頭がくらくらするほどの」と言ったところは、原語だと 'that the very speck of it made the head of Poirot to spin (すこしなめただけでポワロの頭をくらくらさせたほどの)' という表現でポワロの実際の体験を語っており、つまりホテルの廊下でコープに声をかけられる前にポワロがふらついていたのは、暑さではなく直前になめたシロップのせいだったと明らかにされている。
砂漠にくずおれる際のシスター・アニエシュカの声も日本語音声のみである。
最後にポワロがジニーに「その信念がなければ人は、死んだも同じなのです」と助言を与えるところは、原語だと 'because without this certainty, we should all of us—be mad (その確信がなければ人は、おかしくなってしまいます)' という表現で、ジニーの心の傷を直接的におもんぱかったものになっている。
- [1] Peter Haining, Agatha Christie: Murder in Four Acts, Virgin Books, 1990, p. 140
- [2] リン・アンダーウッド (訳: 大村美根子), 「穏やかで意思堅固な婦人」, 『アガサ・クリスティー 生誕100年記念ブック』, 早川書房, 1990, p. 43
- [3] ウェスタン・アプローチ, ミス・マープル [完全版] DVD-BOX 2 特典ディスク, ハピネット・ピクチャーズ, 2006
- [4] Mark Aldridge, Agatha Christie on Screen, Palgrave Macmillan, 2016, p. 223
- [5] David Suchet and Geoffrey Wansell, Poirot and Me, headline, 2013, p. 291
カットされた場面
なし
映像ソフト
- [DVD] 「名探偵ポワロ 43 死との約束」(字幕・吹替) ハピネット・ピクチャーズ※1
- [DVD] 「名探偵ポワロ DVDコレクション 8 死との約束」(字幕・吹替) デアゴスティーニ・ジャパン※2
- ※1 「名探偵ポワロ NEW SEASON DVD-BOX 3」に収録
- ※2 吹替は大塚智則さん主演の新録で、映像もイギリスで販売されているDVDと同じバリエーションを使用
同原作の映像化作品
- [映画] 「死海殺人事件」 1988年 監督:マイケル・ウィナー 出演:ピーター・ユスチノフ(田中明夫)
- [TV] 「死との約束」 2021年 演出:城宝秀則 出演:野村萬斎