4階の部屋 The Third Floor Flat
放送履歴
日本
オリジナル版(45分00秒)
- 1990年02月17日 22時15分〜 (NHK総合)
- 1992年04月10日 17時05分〜 (NHK総合)
- 1998年10月14日 15時10分〜 (NHK総合)
- 2000年07月27日 15時10分〜 (NHK総合)
- 2003年05月16日 18時00分〜 (NHK衛星第2)
ハイビジョンリマスター版(48分00秒)
- 2015年11月21日 16時00分〜 (NHK BSプレミアム)
- 2016年05月04日 17時00分〜 (NHK BSプレミアム)
- 2020年05月02日 17時12分〜 (NHK BSプレミアム)※1
- 2021年10月15日 09時00分〜 (NHK BS4K)
- 2022年01月28日 13時00分〜 (NHK BS4K)
- 2022年07月06日 21時00分〜 (NHK BSプレミアム・BS4K)
- 2022年09月17日 27時19分〜 (NHK BSプレミアム)※2
- ※1 エンディング最後の画面下部に次回の放送時間案内の字幕表示(帯付き)あり
- ※2 エンディング後半の画面左部に次回の放送案内の字幕表示あり
海外
- 1989年02月05日 (英・ITV)
原作
邦訳
- 「四階のフラット」 - 『愛の探偵たち』 クリスティー文庫 宇佐川晶子訳
- 「四階の部屋」 - 『愛の探偵たち』 ハヤカワミステリ文庫 小倉多加志訳
- 「四階の部屋」 - 『二十四羽の黒ツグミ』 創元推理文庫 宇野利泰訳
原書
雑誌等掲載
- The Third-Floor Flat, Hutchinson's Story Magazine, January 1929 (UK)
- The Third-Floor Flat, Detective Story Magazine, 5 January 1929 (USA)
短篇集
- The Third-Floor Flat, Three Blind Mice and Other Stories, Dodd Mead, 1950 (USA)
- The Third-Floor Flat, Poirot's Early Cases, Collins, September 1974 (UK)
オープニングクレジット
日本
オリジナル版
名探偵ポワロ / AGATHA CHRISTIE'S POIROT / DAVID SUCHET // HUGH FRASER / PHILIP JACKSON / PAULINE MORAN / 4階の部屋, THE THIRD FLOOR FLAT / Dramatized by MICHAEL BAKER, Script Consultant CLIVE EXTON
ハイビジョンリマスター版
名探偵ポワロ / DAVID SUCHET / AGATHA CHRISTIE'S POIROT / 4階の部屋 // HUGH FRASER / PHILIP JACKSON / PAULINE MORAN / THE THIRD FLOOR FLAT / Dramatized by MICHAEL BAKER, Script Consultant CLIVE EXTON
エンディングクレジット
日本
オリジナル版
原作 アガサ・クリスティー 脚本 マイケル・ベイカー 監督 エドワード・ベネット 制作 LWT(イギリス) / 出演 ポワロ(デビッド・スーシェ) 熊倉一雄 ヘイスティングス(ヒュー・フレイザー) 富山 敬 ジャップ警部(フィリップ・ジャクソン) 坂口芳貞 ミス・レモン 翠 準子 パトリシア 小山茉美 ドノバン 神谷 明 島本須美 大塚芳忠 宗形智子 藤本 譲 岸野一彦 島田 敏 浅井淑子 竹口安芸子 西川幾雄 / 日本語版 宇津木道子 山田悦司 福岡浩美 南部満治 金谷和美
ハイビジョンリマスター版
原作 アガサ・クリスティー 脚本 マイケル・ベイカー 演出 エドワード・ベネット 制作 LWT (イギリス) / 出演 ポワロ(デビッド・スーシェ) 熊倉 一雄 ヘイスティングス(ヒュー・フレイザー) 富山 敬/安原 義人 ジャップ警部(フィリップ・ジャクソン) 坂口 芳貞 ミス・レモン(ポーリン・モラン) 翠 準子 パトリシア 小山 茉美 ドノバン 神谷 明/平川 大輔 島本 須美 大塚󠄀 芳忠 宗形 智子 藤本 譲 岸野 一彦 島田 敏 浅井 淑子 竹口 安芸子 西川 幾雄 日本語版スタッフ 翻訳 宇津木 道子 演出 山田 悦司 音声 金谷 和美 プロデューサー 里口 千
海外
オリジナル版
Hercule Poirot: DAVID SUCHET; Captain Hastings: HUGH FRASER; Chief Inspector Japp: PHILIP JACKSON; Miss Lemon: PAULINE MORAN; Patricia Mathews: SUZANNE BURDEN; Donovan: NICHOLAS PRITCHARD; Jimmy: ROBERT HINES; Mildred: AMANDA ELWES; Mrs. Grant: JOSIE LAWRENCE; Trotter: SUSAN PORRETT; Inspector Flint: ALAN PARTINGTON; Major Sadler: JAMES AIDAN; Mrs. Sadler: GILLIAN BUSH BAILEY; Vicar: NORMAN LUMSDEN; Dicker: GEORGE LITTLE; Police Constable: JONA JONES; Removal Men: JOHN GOLINGHTLY, PETER AUBREY; Coffee Stall Owner: HELENA McCARTHY; Stuntmen: VALENTINO MUSETTI, TOM LUCY; Stunt Arranger: NICK GILLARD / Developed for Television by Picture Partnership Productions / (中略)First Assistant Director: SIMON HINKLY; Location Managers: PHILIP MORRIS, NIGEL GOSTELOW; Production Assistant and Continuity: JANET MULLINS; Production Accountant: MIKE LITTLEJOHN; Camera Operator: STEVEN ALCORN; Gaffer: PAT COLES; Production Buyer: PETER MACFARLAN; Property Master: MICKY LENNON; Construction Manager: LES PEACH; Dubbing Editor: GRAHAM HARRIS / Panaflex 16(R) Camera by Panavision(R); Made at Twickenham Studios, London, England; Our thanks to Regalian Properties for Poirot's Apartment Block / Costume Designer: SUE THOMSON; Make up Supervisor: CHRISTINE CANT; Sound Recordist: KEN WESTON; Titles: PAT GAVIN; Production Manager: MARTIN BOND; Casting Drector: REBECCA HOWARD; Film Editor: DEREK BAIN; Production Supervisor: DAVID FITZGERALD / Production Designer: ROB HARRIS / Director of Photography: IVAN STRASBURG / Music: CHRISTOPHER GUNNING / Executive Producers: NICK ELLIOTT, LINDA AGRAN / Producer: BRIAN EASTMAN / Director: EDWARD BENNETT
あらすじ
ポワロの真下の部屋に住むパトリシア(パット)は、劇場からの帰りに部屋の鍵をなくしてしまった。そこで、友人のドノバンとジミーが荷物用のリフトから彼女の部屋へ侵入を試みることに。ところが、二人が下りたのは1階下の4階の部屋で……
事件発生時期
1935年10月上旬
主要登場人物
エルキュール・ポワロ | 私立探偵 |
アーサー・ヘイスティングス | ポワロの探偵事務所のパートナー、陸軍大尉 |
ジェームス・ジャップ | スコットランド・ヤード主任警部 |
フェリシティ・レモン | ポワロの秘書 |
パトリシア・マシューズ | 46B号室の住人、愛称パット |
ドノバン・ベイリー | パトリシアの友人 |
ジミー・フォークナー | パトリシアの友人 |
ミルドレッド | パトリシアの友人 |
アーネスティン・グラント | 36B号室の住人 |
ミス・トロッター | グラント夫人のメイド |
解説、みたいなもの
ポワロの「お膝元」であるホワイトヘイブン・マンションのなかで起こった事件を扱ったエピソード。マンションの撮影に使われたフローリン・コートは、1936年のオープンながらロンドンのバービカンで今も使われている建物で、その内外が多く描かれる本作は、建物のリフォームのために住民が一時全退去していたあいだに撮影をおこなえた第1シリーズならではの一篇。しかしながら当初案では本作は第1シリーズのドラマ化対象に含まれず、代わりに候補とされていたのは、結局最後までドラマ化されずに終わった「呪われた相続人」(『教会で死んだ男』所収)だったという[1]。
ホワイトヘイブン・マンションの劇中描写からは、上下の関係にある部屋は間取りや内装が同じであること、エレベーターやごみ出し用リフトがあること、ポワロの部屋が向かって左側にあることなどがわかる。一方で不思議な部分も多く、たとえば「24羽の黒つぐみ」のポワロの部屋は廊下に面しており、向かいは壁だったのに、この話では踊り場に面しており、向かいには54号室のドアが見えたり(本作以降のエピソードでは、56B号室の向かいは54号室となる)、36B号室を犯人が訪れる場面のみ、廊下の床に青い絨毯が敷かれていなかったり、荷物用のリフトをポワロとヘイスティングスが覗き込む場面で、ポワロの部屋(6階)とグラント夫人の部屋(4階)のあいだにはパットの部屋(5階)があるはずだが、なぜかドアが見あたらなかったり、46B号室だけ廊下の突き当たりのドアが異なったり、時折、部屋番号のパネルが妙に上寄りについていたり、地上階ではリビングや屋外となるはずの位置に地下室ではリフトの扉が存在したり――などなど。さらには、36B号室のミス・トロッターが寝ていた部屋は、のちの「あなたの庭はどんな庭?」や「スズメバチの巣」によれば、2階上の56B号室ではあろうことかバスルーム。こうしたことが起きたのは、おそらくは単一のスタジオ内セットを別の階の部屋として使いまわしていたり、また逆に、複数の場所で撮影した映像をつなぎ合わせて一つの建物内のように見せたりしているためで、ホワイトヘイブン・マンション内部のうち、エレベーターとその周辺は実はフローリン・コートではなく、救世軍のウィリアム・ブース・カレッジで撮影されている(にもかかわらず、エレベーター側から見える部屋の中に、スタジオ内セットと同様の廊下が組まれているのが細やかである)。また、エントランスの内側の扉両脇に不自然に四角く出っ張った箇所があるのは、フローリン・コートの本来の案内板を隠していると見られる。
原作のミルドレッドは外見のみならず性格的にもパットと対比されていたが、ドラマではそれがあまり明瞭でなく、後半にほとんど出番がないこともあって、印象が薄くなったかもしれない。また原作では、ドノバンとジミーが一度パットの部屋まで行ってから手についた血に気づいて4階に引き返し死体を発見するのだが、ドラマでは最初にグラント夫人の部屋に入ったときにすぐ死体を発見する展開に圧縮されており、メイドが郵便を置いたときに死体に気づかなかったのが原作よりも不自然になっている。そのほかの変更点では、パットの名字はドラマではマシューズだが、原作ではガーネット。また、細かい点だが、原作ではハンカチにジョン・フレイザーの名前があり、手紙のほうが頭文字だった。ところで、この頭文字 J. F. はジミー・フォークナーの頭文字とも一致しているが、ドラマでも原作でも、特にそのことには言及されない。
本作の原題 'The Third Floor Flat (3番目のフロアの部屋)' は逐語訳すると「3階の部屋」になりそうだが、イギリスでは地面と同じ高さの階を ground floor (地面のフロア) と呼び、日本で言うところの2階が first floor (1番目のフロア) になるため、 third floor (3番目のフロア) は日本語の4階に当たる。日本語での階数と部屋番号の十の位がずれているのもこのため。また、(このエピソードでは台詞で言及されないけれど)日本語の建物名の「ホワイトヘイブン・マンション」は英語の Whitehaven Mansions をほぼそのままカタカナに起こしたものだが、英語の mansion は本来、壮麗な大邸宅を指す言葉で、集合住宅の各戸は一般に flat と言い、その建物全体のことは block of flats や apartment block と言う。その mansion という単語が Whitehaven Mansions のように建物名に用いられるのは、その各戸(つまり、一つ一つの flat)を壮麗な住居であると見なした表現で、だから英語では複数形になっている。
ポワロがミス・レモンにやらされている「無様な方法」は、洗面器のお湯に精油系の薬を溶かしてその蒸気を吸入する、イギリスで古くからおこなわれる風邪の治療法で、そこで使われていた「特効薬」こと friar's balsam (言及はハイビジョンリマスター版のみ)は、安息香チンキのこと。類縁のヴイックス ヴェポラッブにおいても、日本などでは塗布での用法しか記載されていないが[2][3][4]、イギリスではお湯に溶かしての吸入も案内されている[5]。
「あなたの庭はどんな庭?」の原作には、ミス・レモンが「ちぎって」きたと言った紙片が、実際にはハサミで切ってあったことにポワロが満足する描写があり、そのポワロが劇場でパンフレットの端をちぎってヘイスティングスに渡すのは、ドラマオリジナルの場面と行動である。また、その紙片は、ヘイスティングスがポケットから取り出したときにはポワロがちぎったときよりも大きく、その内容を大写しにしたときには折り目の向きが変わる。
階段でパットとミルドレットが歌っているのは 'Life is Just a Bowl of Cherries' という歌である。
ポワロが現場におもむく直前のカットなどでは、遺体が穏やかに息をしているのがわかる。
ジミーに名前を知られていたことを受けてポワロが、「ほらね、ヘイスティングス。わたしもまだ忘れられてはいませんよ」とヘイスティングスに声をかけるのはやや唐突に感じられるが、帰宅時にポワロが言った「ああ、今夜はもう休みますよ」という台詞は、原語だと 'Perhaps it is time I retire, Hastings. (わたしは引退時かもしれませんね、ヘイスティングス)' という表現で、推理劇の犯人を当て損なったことで弱気になったポワロの心情が吐露されており、ヘイスティングスの「気がとがめ」たのもそのせいだった。なお、前述のポワロの台詞の「ほらね」の部分も、原語だと 'You see, (聞きましたか)' で、ジミーの反応がポワロの主張に沿っていたというより気づきを得たニュアンスである。
被害者の死亡時刻に関し、ジャップ警部が「検死官の話では」と言うが、検死官 (coroner) とは本来、検死審問をひらくなどして変死の事件性の精査を主導する司法官吏を指す言葉で、原語では doctor (医師) から伝えられたと言っている。
ミス・トロッターが「郵便受けから郵便を取ってきましたので」と言うが、マンション内各戸の玄関のドアに郵便受けはなく、またイギリスの集合住宅では日本のような集合ポストもないのが通例である。ミス・トロッターの台詞は原語だと 'I collected the evening post on my way up (途中で宵の郵便を回収したので)' と言っており、特に「郵便受けから」とは言っていない。「ABC殺人事件」では、今回のグラント夫人がパットに宛てた手紙のように、郵便物が玄関のドアの下から差し込まれて配達されているのを見ることができ、ミス・トロッターもおそらくそのように配達された郵便物をひろい集め、居間のテーブルに置いたのだろう。郵便配達の時刻をドアマンに確認するようポワロが指示したのも、「砂に書かれた三角形」冒頭に見られるように、郵便物はまずドアマンが受け取り、彼が各戸へ届けるためと思われる。
犯行に使われた凶器を、原語だとジャップ警部が 'a small-caliber automatic pistol (小口径のオートマチック)' と言うが、のちに犯行の場面で映るのはリボルバーである。また、劇場から帰ってきた時刻を「10時半頃です」とジミーがジャップ警部に伝えるが、二人が荷物用のリフトからパットの部屋への侵入を試みていたとき、ポワロの部屋のキッチンの時計はすでに11時過ぎを指していた。
序盤に推理劇の芝居を観劇したウィンダム劇場の撮影がおこなわれたのは、ウィンザーのシアター・ロイヤル。この劇場では、ジェラルディン・マクイーワン主演「ミス・マープル」シリーズ「牧師館の殺人」で、ヘイドック医師を演じたロバート・パウエルがポワロ役を務めた「ブラック・コーヒー」の初演もおこなわれている。
ミス・トロッターのことをジャップ警部に伝えに来るなどした警官は、「コックを捜せ」「ジョニー・ウェイバリー誘拐事件」につづく登場で、その今回の吹替は岸野一彦さん。なお、岸野一彦さんは、今回初登場したドアマンのディッカー氏の吹替も担当している。
ミルドレッド役のアマンダ・エルウェスは、ジョーン・ヒクソン主演の「ミス・マープル」の一篇、「鏡は横にひび割れて」のマーゴット・ベンス役でも見ることができる。また、グラント夫人役のジョシー・ローレンスは、ジェラルディン・マクイーワン主演の「ミス・マープル」の一篇、「親指のうずき」にハンナ・ベレスフォード役で出演。ドノバン役のニコラス・プリチャードは、ジョン・ソウ主演の「主任警部モース」の一篇、「キドリントンから消えた娘」のジョン・マグワイア役でも見ることができる。
オリジナル版ではエンディングクレジットに台本(翻訳)の宇津木道子さんと演出(音響監督)の山田悦司さん以外の日本語版スタッフが表示されるようになり、ようやくエンディングクレジットのスタイルが確立する。
ハイビジョンリマスター版では、グラント夫人がパトリシアの部屋のドアの下から差し込んだ手紙のアップに、「パトリシア・マシューズ様」という字幕が追加された。また、ハイビジョンリマスター版の切換式字幕では、被害者のドレスのポケットに入っていた手紙を「君の方がよければ」と読み上げた箇所の表示が、「君が方がよければ」となっている。
» 結末や真相に触れる内容を表示
イギリスでは現在も協議離婚が認められておらず、離婚に当たっては裁判での承認が必要になる。その際、1935年当時に離婚事由として認められたのは相手の不貞のみであり[6]、グラント夫人側に不貞の事実がない状況では、ドノバンから離婚を求めることは不可能だった。
ドノバンたちが36B号室に入ったときに室内の照明は消えているが、ポワロが劇場へ出かける直前にマンションの外観が映った際には、36B号室の居間には明かりがともっていた。グラント夫人が殺されたのはまだ明るいうちと見え、暗くなってから明かりがついたり、またそれが消えたりするのは不自然である。それとも、ドノバンがわざわざつけていった照明を、ミス・トロッターが帰宅した際に消し忘れと思って消したのだろうか。
グラント夫妻の結婚証明書を、ポワロは「日付は1930年」と言って差し出すが、結婚の日付はその下に書かれた zweiten Juni tausendneunhundertzweiunddreißig (1932年6月2日) のほうであって、「1930」という数字を含む Jahr 1930 Band II, Seite 791, Nr. 1343 (1930年第2巻、791ページ、1343号) の部分は、婚姻簿への収録位置か(とはいえ、1932年の証明書を1930年の婚姻簿へ収録するのも不自然だけど)。また、その結婚証明書の縦の折り目は、ポワロが手にしているときなどは上半分で左から山・谷・谷だが、アップになったときだけ谷・山・山に変わる。
ハイビジョンリマスター版で2021年以降の放送データに載っているあらすじでは、ドノバンたちがグラント夫人の部屋に入った経緯を「部屋を間違えて」と表現しているが、ドノバンは手紙の回収のために意図して侵入していたことがあとでわかる。
ホワイトヘイブン・マンションの劇中描写からは、上下の関係にある部屋は間取りや内装が同じであること、エレベーターやごみ出し用リフトがあること、ポワロの部屋が向かって左側にあることなどがわかる。一方で不思議な部分も多く、たとえば「24羽の黒つぐみ」のポワロの部屋は廊下に面しており、向かいは壁だったのに、この話では踊り場に面しており、向かいには54号室のドアが見えたり(本作以降のエピソードでは、56B号室の向かいは54号室となる)、36B号室を犯人が訪れる場面のみ、廊下の床に青い絨毯が敷かれていなかったり、荷物用のリフトをポワロとヘイスティングスが覗き込む場面で、ポワロの部屋(6階)とグラント夫人の部屋(4階)のあいだにはパットの部屋(5階)があるはずだが、なぜかドアが見あたらなかったり、46B号室だけ廊下の突き当たりのドアが異なったり、時折、部屋番号のパネルが妙に上寄りについていたり、地上階ではリビングや屋外となるはずの位置に地下室ではリフトの扉が存在したり――などなど。さらには、36B号室のミス・トロッターが寝ていた部屋は、のちの「あなたの庭はどんな庭?」や「スズメバチの巣」によれば、2階上の56B号室ではあろうことかバスルーム。こうしたことが起きたのは、おそらくは単一のスタジオ内セットを別の階の部屋として使いまわしていたり、また逆に、複数の場所で撮影した映像をつなぎ合わせて一つの建物内のように見せたりしているためで、ホワイトヘイブン・マンション内部のうち、エレベーターとその周辺は実はフローリン・コートではなく、救世軍のウィリアム・ブース・カレッジで撮影されている(にもかかわらず、エレベーター側から見える部屋の中に、スタジオ内セットと同様の廊下が組まれているのが細やかである)。また、エントランスの内側の扉両脇に不自然に四角く出っ張った箇所があるのは、フローリン・コートの本来の案内板を隠していると見られる。
原作のミルドレッドは外見のみならず性格的にもパットと対比されていたが、ドラマではそれがあまり明瞭でなく、後半にほとんど出番がないこともあって、印象が薄くなったかもしれない。また原作では、ドノバンとジミーが一度パットの部屋まで行ってから手についた血に気づいて4階に引き返し死体を発見するのだが、ドラマでは最初にグラント夫人の部屋に入ったときにすぐ死体を発見する展開に圧縮されており、メイドが郵便を置いたときに死体に気づかなかったのが原作よりも不自然になっている。そのほかの変更点では、パットの名字はドラマではマシューズだが、原作ではガーネット。また、細かい点だが、原作ではハンカチにジョン・フレイザーの名前があり、手紙のほうが頭文字だった。ところで、この頭文字 J. F. はジミー・フォークナーの頭文字とも一致しているが、ドラマでも原作でも、特にそのことには言及されない。
本作の原題 'The Third Floor Flat (3番目のフロアの部屋)' は逐語訳すると「3階の部屋」になりそうだが、イギリスでは地面と同じ高さの階を ground floor (地面のフロア) と呼び、日本で言うところの2階が first floor (1番目のフロア) になるため、 third floor (3番目のフロア) は日本語の4階に当たる。日本語での階数と部屋番号の十の位がずれているのもこのため。また、(このエピソードでは台詞で言及されないけれど)日本語の建物名の「ホワイトヘイブン・マンション」は英語の Whitehaven Mansions をほぼそのままカタカナに起こしたものだが、英語の mansion は本来、壮麗な大邸宅を指す言葉で、集合住宅の各戸は一般に flat と言い、その建物全体のことは block of flats や apartment block と言う。その mansion という単語が Whitehaven Mansions のように建物名に用いられるのは、その各戸(つまり、一つ一つの flat)を壮麗な住居であると見なした表現で、だから英語では複数形になっている。
ポワロがミス・レモンにやらされている「無様な方法」は、洗面器のお湯に精油系の薬を溶かしてその蒸気を吸入する、イギリスで古くからおこなわれる風邪の治療法で、そこで使われていた「特効薬」こと friar's balsam (言及はハイビジョンリマスター版のみ)は、安息香チンキのこと。類縁のヴイックス ヴェポラッブにおいても、日本などでは塗布での用法しか記載されていないが[2][3][4]、イギリスではお湯に溶かしての吸入も案内されている[5]。
「あなたの庭はどんな庭?」の原作には、ミス・レモンが「ちぎって」きたと言った紙片が、実際にはハサミで切ってあったことにポワロが満足する描写があり、そのポワロが劇場でパンフレットの端をちぎってヘイスティングスに渡すのは、ドラマオリジナルの場面と行動である。また、その紙片は、ヘイスティングスがポケットから取り出したときにはポワロがちぎったときよりも大きく、その内容を大写しにしたときには折り目の向きが変わる。
階段でパットとミルドレットが歌っているのは 'Life is Just a Bowl of Cherries' という歌である。
ポワロが現場におもむく直前のカットなどでは、遺体が穏やかに息をしているのがわかる。
ジミーに名前を知られていたことを受けてポワロが、「ほらね、ヘイスティングス。わたしもまだ忘れられてはいませんよ」とヘイスティングスに声をかけるのはやや唐突に感じられるが、帰宅時にポワロが言った「ああ、今夜はもう休みますよ」という台詞は、原語だと 'Perhaps it is time I retire, Hastings. (わたしは引退時かもしれませんね、ヘイスティングス)' という表現で、推理劇の犯人を当て損なったことで弱気になったポワロの心情が吐露されており、ヘイスティングスの「気がとがめ」たのもそのせいだった。なお、前述のポワロの台詞の「ほらね」の部分も、原語だと 'You see, (聞きましたか)' で、ジミーの反応がポワロの主張に沿っていたというより気づきを得たニュアンスである。
被害者の死亡時刻に関し、ジャップ警部が「検死官の話では」と言うが、検死官 (coroner) とは本来、検死審問をひらくなどして変死の事件性の精査を主導する司法官吏を指す言葉で、原語では doctor (医師) から伝えられたと言っている。
ミス・トロッターが「郵便受けから郵便を取ってきましたので」と言うが、マンション内各戸の玄関のドアに郵便受けはなく、またイギリスの集合住宅では日本のような集合ポストもないのが通例である。ミス・トロッターの台詞は原語だと 'I collected the evening post on my way up (途中で宵の郵便を回収したので)' と言っており、特に「郵便受けから」とは言っていない。「ABC殺人事件」では、今回のグラント夫人がパットに宛てた手紙のように、郵便物が玄関のドアの下から差し込まれて配達されているのを見ることができ、ミス・トロッターもおそらくそのように配達された郵便物をひろい集め、居間のテーブルに置いたのだろう。郵便配達の時刻をドアマンに確認するようポワロが指示したのも、「砂に書かれた三角形」冒頭に見られるように、郵便物はまずドアマンが受け取り、彼が各戸へ届けるためと思われる。
犯行に使われた凶器を、原語だとジャップ警部が 'a small-caliber automatic pistol (小口径のオートマチック)' と言うが、のちに犯行の場面で映るのはリボルバーである。また、劇場から帰ってきた時刻を「10時半頃です」とジミーがジャップ警部に伝えるが、二人が荷物用のリフトからパットの部屋への侵入を試みていたとき、ポワロの部屋のキッチンの時計はすでに11時過ぎを指していた。
序盤に推理劇の芝居を観劇したウィンダム劇場の撮影がおこなわれたのは、ウィンザーのシアター・ロイヤル。この劇場では、ジェラルディン・マクイーワン主演「ミス・マープル」シリーズ「牧師館の殺人」で、ヘイドック医師を演じたロバート・パウエルがポワロ役を務めた「ブラック・コーヒー」の初演もおこなわれている。
ミス・トロッターのことをジャップ警部に伝えに来るなどした警官は、「コックを捜せ」「ジョニー・ウェイバリー誘拐事件」につづく登場で、その今回の吹替は岸野一彦さん。なお、岸野一彦さんは、今回初登場したドアマンのディッカー氏の吹替も担当している。
ミルドレッド役のアマンダ・エルウェスは、ジョーン・ヒクソン主演の「ミス・マープル」の一篇、「鏡は横にひび割れて」のマーゴット・ベンス役でも見ることができる。また、グラント夫人役のジョシー・ローレンスは、ジェラルディン・マクイーワン主演の「ミス・マープル」の一篇、「親指のうずき」にハンナ・ベレスフォード役で出演。ドノバン役のニコラス・プリチャードは、ジョン・ソウ主演の「主任警部モース」の一篇、「キドリントンから消えた娘」のジョン・マグワイア役でも見ることができる。
オリジナル版ではエンディングクレジットに台本(翻訳)の宇津木道子さんと演出(音響監督)の山田悦司さん以外の日本語版スタッフが表示されるようになり、ようやくエンディングクレジットのスタイルが確立する。
ハイビジョンリマスター版では、グラント夫人がパトリシアの部屋のドアの下から差し込んだ手紙のアップに、「パトリシア・マシューズ様」という字幕が追加された。また、ハイビジョンリマスター版の切換式字幕では、被害者のドレスのポケットに入っていた手紙を「君の方がよければ」と読み上げた箇所の表示が、「君が方がよければ」となっている。
» 結末や真相に触れる内容を表示
イギリスでは現在も協議離婚が認められておらず、離婚に当たっては裁判での承認が必要になる。その際、1935年当時に離婚事由として認められたのは相手の不貞のみであり[6]、グラント夫人側に不貞の事実がない状況では、ドノバンから離婚を求めることは不可能だった。
ドノバンたちが36B号室に入ったときに室内の照明は消えているが、ポワロが劇場へ出かける直前にマンションの外観が映った際には、36B号室の居間には明かりがともっていた。グラント夫人が殺されたのはまだ明るいうちと見え、暗くなってから明かりがついたり、またそれが消えたりするのは不自然である。それとも、ドノバンがわざわざつけていった照明を、ミス・トロッターが帰宅した際に消し忘れと思って消したのだろうか。
グラント夫妻の結婚証明書を、ポワロは「日付は1930年」と言って差し出すが、結婚の日付はその下に書かれた zweiten Juni tausendneunhundertzweiunddreißig (1932年6月2日) のほうであって、「1930」という数字を含む Jahr 1930 Band II, Seite 791, Nr. 1343 (1930年第2巻、791ページ、1343号) の部分は、婚姻簿への収録位置か(とはいえ、1932年の証明書を1930年の婚姻簿へ収録するのも不自然だけど)。また、その結婚証明書の縦の折り目は、ポワロが手にしているときなどは上半分で左から山・谷・谷だが、アップになったときだけ谷・山・山に変わる。
ハイビジョンリマスター版で2021年以降の放送データに載っているあらすじでは、ドノバンたちがグラント夫人の部屋に入った経緯を「部屋を間違えて」と表現しているが、ドノバンは手紙の回収のために意図して侵入していたことがあとでわかる。
- [1] Mark Aldridge, Agatha Christie's Poirot: The Greatest Detective in the World, HarperCollinsPublishers, 2020, pp. 372-373
- [2] 胸・喉・背中に塗ってください。使用方法【ヴイックスヴェポラッブ】 | 大正製薬
- [3] Vicks VapoRub Topical Ointment Children's Cough Medicine - Vicks
- [4] Pommade Vicks Vaporub | VICKS
- [5] Vicks VapoRub Ointment for Sore Throat, Blocked Nose | Vicks UK
- [6] Divorce since 1900 - UK Parliament
ロケ地写真
カットされた場面
日本
オリジナル版
[08:24/0:21] | 劇場での幕間、ヘイスティングスが「サドラー夫人が怪しい」という場面 |
[10:44/0:28] | 推理劇の脚本に不満を言うポワロ 〜 エレベーターで上がってくるパットたち |
[14:48/0:35] | ドノバンたちがグラント夫人の死をパットたちに伝える場面 |
[44:21/1:01] | 事件翌朝、すっかり風邪が治ったポワロとミス・レモンのやりとり |
ハイビジョンリマスター版
なし映像ソフト
- [VHS] 「名探偵ポアロシリーズ 船上の怪事件, 四階の部屋」(字幕) TDK
- [VHS] 「名探偵エルキュール・ポアロ 第37巻 4階の部屋」(字幕) 日本クラウン
- [DVD] 「名探偵ポワロ 3 4階の部屋, 砂に書かれた三角形」(字幕・吹替) ビームエンタテインメント(現ハピネット・ピクチャーズ)※1
- [DVD] 「名探偵ポワロ [完全版] 3 4階の部屋, 砂に書かれた三角形」(字幕・吹替) ハピネット・ピクチャーズ※2
- [DVD] 「名探偵ポワロ DVDコレクション 28 4階の部屋」(字幕・吹替) デアゴスティーニ・ジャパン※3
- [BD] 「名探偵ポワロ Blu-ray BOX Disc 2 4階の部屋, 砂に書かれた三角形, 海上の悲劇, なぞの盗難事件」(字幕/吹替) ハピネット・ピクチャーズ※4
- ※1 「名探偵ポワロ DVD-BOX1」にも収録
- ※2 「名探偵ポワロ [完全版] DVD-BOX1」「名探偵ポワロ [完全版] 全巻 DVD-SET」「名探偵ポワロ [完全版] DVD-SET 1」にも収録
- ※3 吹替は大塚智則さん主演の新録で、映像もイギリスで販売されているDVDと同じバリエーションを使用
- ※4 「名探偵ポワロ Blu-ray BOX vol. 1」に収録