登場人物・キャスト Characters and Cast
ポワロ
ムッシュウ・エルキュール・ポワロ。かつてはベルギー警察の一員だったが、第一次大戦のドイツ軍侵攻のためにイギリスへ亡命。その亡命先の村で起こった「スタイルズ荘の怪事件」を私立探偵として解決し、その後ロンドンのホワイトヘイブン・マンションに探偵事務所をひらく。卵形の頭をした小男。「秩序と方法」をモットーとする几帳面な性格で、曲がっているものがあればまっすぐに直さずにはいられない。世界一有名な探偵を自称するたいへんな自信家でもあり、ご自慢は「灰色の脳細胞」と口髭。
デビッド・スーシェ (David Suchet)
1946年5月2日生まれ、ロンドン出身。ロンドン演劇学校で演劇を学ぶ。ポワロの小太りな体型は服の下に巻いたパッドによるもので、身長も原作の設定よりは高く、また地声もポワロよりだいぶ低い。しかし、撮影時にはポワロに関するメモのつまったファイルを手放さないという彼の演じるポワロは、まさにクリスティーの想像したとおりにちがいないと評され、「ナイルに死す」に始まる第9シリーズからはアソシエイト・プロデューサーも務めた。日本でも比較的簡単に見られる作品では、「ハリーとヘンダスン一家」、「エグゼクティブ・デシジョン」、「ダイヤルM」、「バンク・ジョブ」などに出演。また、ピーター・ユスチノフ主演の「エッジウェア卿の死」にもジャップ警部役で出演。趣味は写真撮影。敬虔なキリスト教徒として知られ、聖書の朗読などの活動にも勤しんでいる。2011年に CBE を受勲。ポワロ役を務めあげた2013年には、自伝 Poirot and Me を上梓した。2020年、ナイトに叙せられた。[1](Twitter)- [1] ピーター・ヘイニング (訳: 岩井田雅行, 緒方桂子), 『テレビ版 名探偵ポワロ』, 求龍堂, 1998, pp. 21-22, 54-71
熊倉 一雄 (くまくら かずお)
1927年1月30日生まれ、東京都出身。テアトル・エコー所属(当時)。劇団テアトル・エコーの再建に参加、舞台俳優・演出家として活躍し、代表作に「日本人のへそ」「サンシャイン・ボーイズ」など。勧誘や後進の育成にも熱心で、故井上ひさしさんを劇作の世界へ引き込んだことは特に有名。劇団外では、アニメ「パンダコパンダ」のパパンダ、人形劇「ひょっこりひょうたん島」のトラヒゲ、洋画「ヒッチコック劇場」のヒッチコック、ペンタックスのカメラのナレーションなどの声の仕事のほか、子供番組の「ばくさんのかばん」のばくさん役や TV ドラマへの出演も。歌の仕事もすくなくなく、前述の「ひょっこりひょうたん島」の劇中曲をはじめ、「ゲゲゲの鬼太郎」の主題歌(初代)や「みんなのうた」の「わたしはとうふです」などで歌声を披露している。1991年紫綬褒章、1998年勲四等旭日小綬章受章。1998年紀伊國屋演劇賞、2015年 NHK 放送文化賞受賞。2015年10月12日午後3時24分、直腸癌で逝去、享年88歳。ヘイスティングス
アーサー・J・M・ヘイスティングス元英国陸軍大尉。ポワロの親友にして探偵事務所のパートナー。ポワロとは第一次大戦前、ベルギー旅行中に知りあう。そして大戦中に負傷、療養休暇中に滞在していたスタイルズ・セント・メリー村でポワロと再会し、彼の探偵業におけるワトソン役を務めるようになった。しかし、住まいはポワロとは別のようで、一人で長期間イギリスを離れることも多く、中国や南米、中東など、世界各地に滞在経験がある。ゴルフと車が大好きで、きれいな女性にも弱いけれど、少年のように純粋で正義感の強い好人物。ある事件で知りあった女性と結婚し、「カーテン ~ポワロ最後の事件~」には娘ジュディスが登場。
ヒュー・フレイザー (Hugh Fraser)
1945年10月23日生まれ、ロンドン出身。ウェバー・ダグラス・アカデミーの演劇学校で演劇を学ぶ。12、3歳の頃にクリスティー作品を愛読し、中でもポワロ物を好んだという彼は、ヘイスティングス役の打診を受けて原作を読み直したものの、ドラマの脚本は原作よりもヘイスティングスに個性とユーモアを付加しようとしていると感じ、主に脚本を元に役作りをおこなったという。日本でも比較的簡単に見られる作品では、「英国式庭園殺人事件」、「ファイヤーフォックス」、「101」などに出演。かつてはロックバンドを組んでいたことがあり、子供番組 Rainbow のオープニングテーマを共同で作曲、演奏していたことでも知られる。さらに、2015年には小説家として第一作 Harm を上梓し、以降も続刊中。[2][3]- [2] ピーター・ヘイニング (訳: 岩井田雅行, 緒方桂子), 『テレビ版 名探偵ポワロ』, 求龍堂, 1998, pp. 74-79
- [3] Poirot and me: Hugh Fraser | Television & radio | The Guardian
富山 敬 (とみやま けい)
1938年10月31日生まれ、旧満州出身。ぷろだくしょんバオバブ所属(当時)。本名、冨山邦親。アニメでは「宇宙戦艦ヤマト」の古代進、「ゲゲゲの鬼太郎」のネズミ男(2代目)、「タイムボカン」シリーズのナレーター、「銀河英雄伝説」のヤン・ウェンリー(初代)、「ちびまる子ちゃん」のおじいちゃん(初代)、洋画ではエディ・マーフィーやダスティン・ホフマン、海外ドラマ「特攻野郎Aチーム」のモンキーなど、多種多彩な役をこなした。1995年9月25日21時07分、膵臓癌で逝去、享年56歳。安原 義人 (やすはら よしと)
1949年11月17日生まれ、兵庫県出身。テアトル・エコー所属。劇団テアトル・エコーで舞台俳優として活躍し、「ら抜きの殺意」や「サンシャイン・ボーイズ」など熊倉一雄さんとの共演も多数。劇団外の客演では、「蜘蛛の巣」(2001年)や「ナイル殺人事件」(2004年)などのクリスティー作品の舞台にも出演している。声の仕事でも、アニメでは「宇宙戦艦ヤマト」の太田健二郎、「銀河英雄伝説」のボリス・コーネフ、「キャッツ・アイ」の内海俊夫、「るろうに剣心」の四乃森蒼紫、洋画では「特攻野郎Aチーム」のフェイスマンや「愉快なシーバー家」のジェイソン、ミッキー・ロークなどの吹替で活躍。「名探偵ポワロ」では、ヘイスティングス役を引き継ぐ前に「コックを捜せ」と「ポワロのクリスマス」にゲスト出演していた。夫人は、ジュリア・マッケンジー主演「ミス・マープル4」の「魔術の殺人」でキャリー・ルイーズの吹替も担当した、劇団NLT所属の木村有里さん。(公式)ジャップ警部
ジェームス・ハロルド・ジャップ主任警部。スコットランド・ヤード(ロンドン警視庁)の警察官で、手がける事件は殺人、盗難、誘拐、失踪と実に幅広く、ポワロとは彼のベルギー警察時代にアバークロンビー事件という国際的偽造事件を共同捜査して以来の知り合い。理屈より直感と行動の人であるジャップ警部は、ポワロの推理をからかいながらいつも後塵を拝してしまうものの、それだけに実はポワロの才能を高く評価している。家族は、エミリーというウェールズ出身の夫人がいるらしいが、コロンボのカミさんよろしく画面には決して登場しない。「ビッグ・フォー」では警視監に出世している。
フィリップ・ジャクソン (Philip Jackson)
1948年6月18日生まれ、ノッティンガム出身。学校と地元の教会で演劇を始め、ブリストル大学では演劇とドイツ語を学ぶ。原作のジャップ警部はイタチ顔の小男という設定ながら、ジャクソン自身はなかなかの長身。そんな彼が警部役を演じることになったきっかけは、初期シリーズで監督を務めたエドワード・ベネットによる紹介だった。9歳の頃からクリスティーのファンだったというジャクソンだが、役柄を台本だけから捉え、現場の進行に合わせて臨機応変に演じるのを好むため、スーシェとは対照的に役の研究もほとんどしなかったという。日本でも比較的簡単に見られる作品では、映画「ブラス!」のほか、ドラマ「華麗なるペテン師たち」や「刑事フォイル」などにゲスト出演している。[4][5]- [4] ピーター・ヘイニング (訳: 岩井田雅行, 緒方桂子), 『テレビ版 名探偵ポワロ』, 求龍堂, 1998, pp. 86-91
- [5] An Inspector Calls: Interview with Hercule Poirot's Philip Jackson | TMR
坂口 芳貞 (さかぐち よしさだ)
1939年10月2日生まれ、東京都出身。文学座所属(当時)、桜美林大学名誉教授。文学座の作品に限らず広く俳優・演出家として活躍するほか、教育者として後進の育成にも尽力し、文学座では演劇研究所所長を、桜美林大学では総合文化学群演劇専修長を務めた。声の仕事では、モーガン・フリーマンやショーン・コネリーの吹替をはじめ、数多くの映画や海外ドラマの吹替を手がけるほか、アニメでも「ロードス島戦記」のギム役などを務めている。1990年京都十三夜会賞、2002年久保田万太郎賞受賞。夫人は、クリスティー文庫『おしどり探偵』も手がけた、翻訳家の故坂口玲子さん。2020年2月13日午前10時09分、大腸癌により逝去、享年80歳。(公式)ミス・レモン
ミス・フェリシティ・レモン。ポワロの有能な秘書。ポワロに負けない几帳面な性格の持ち主で、独自のファイリングシステムでポワロの仕事を管理している。さらに、秘書業以外のことには関心を示さない原作と違って、フィットネスや催眠術、中国の占い、アメリカの音楽など、秘書業以外にも多彩な分野に興味と知識を示す。初期のシリーズで特に特徴的な彼女の前髪は、ドラマの舞台である1930年代に実際に流行ったものだという。「ヒッコリー・ロードの殺人」では、ヒッコリー・ロードの学生寮で管理人をしている姉が登場。
ポーリーン・モラン (Pauline Moran)
ブラックプール出身。RADA(王立演劇学校)で演劇を学ぶ。モラン自身、秘書の仕事をしていたことがあり、その経験はミス・レモンを演じるのに役立っているという。一方で、かつてはザ・シー・トリニティというガールズバンドでベースギターを担当していたほか、服飾や占いにも秀で、プロの占星術師としても活動している。「名探偵ポワロ」におけるミス・レモンのキャラクターには、彼女のそうした部分も大きな影響を与えているようだ。[6]- [6] ピーター・ヘイニング (訳: 岩井田雅行, 緒方桂子), 『テレビ版 名探偵ポワロ』, 求龍堂, 1998, pp. 81-85
翠 準子 (みどり じゅんこ)
1933年1月1日生まれ、東京都出身。ぷろだくしょんバオバブ所属。多くの洋画や海外ドラマの吹替を務め、特にエヴァ・ガードナー出演作品の大半で彼女の吹替を担当していたことが有名。ピーター・ユスチノフ主演の映画「地中海殺人事件」では、シルビア・マイルズ演じるガードナー夫人役の吹替を担当している。かつては熊倉一雄さんや安原義人さんと同じ劇団テアトル・エコーに在籍し、「四人の隊長の恋」「青年がみな死ぬ時」などで熊倉さんと共演、「水のほとりの女」では熊倉さんの演出を受けた。1965年に翠潤子から現在の名義に改名した。[7](公式)- [7] 『―70年の歩み― 1950~2019』, 株式会社テアトル・エコー, 株式会社スタジオ・エコー, 2020, pp. 13-23
ミセス・オリヴァー
ミセス・アリアドニ・オリヴァー。フィンランド人探偵スヴェン・ヤルセンを主人公とする人気シリーズを擁する探偵小説家で、スヴェンへの不満を口にする様子やリンゴが好物という設定は、クリスティー自身の投影と言われる。女性の勘を信じ、女性がスコットランド・ヤードの総監であれば、というのが口癖。ヘイスティングスが南米に移住したあとポワロのもっとも親しい友人となり、成人女性としては数すくない、彼がファーストネームで呼びかける相手でもある。
ゾーイ・ワナメイカー (Zoë Wanamaker)
1949年5月13日生まれ、ニューヨーク出身。2005年にジェラルディン・マクイーワン主演の「予告殺人」へミス・ブラックロック役で出演し、クリスティーの小説はその際に初めて読んだという。その後ミセス・オリヴァー役の打診を受けると、ミセス・オリヴァーの登場する小説すべてに目を通し、またクリスティーの自伝や伝記も熟読して役作りをおこなった。主演のスーシェとはお互いにロイヤル・シェークスピア・カンパニーに所属していた旧知の仲で、2010年にも舞台 All My Sons で夫婦役として共演して好評を博している。日本で簡単に観られる出演は、「ハリー・ポッターと賢者の石」のマダム・フーチ役や、ドラマ「ドクター・フー」のカサンドラ役など。2001年に CBE を受勲。夫は「クラブのキング」でラルフ・ウォルトンを演じたゴーン・グレインジャー。父親のサム・ワナメイカーはロンドンのグローブ座再建で知られ、ピーター・ユスチノフ主演の映画「ナイル殺人事件」にはロックフォード役で出演しているほか、「刑事コロンボ」シリーズの「殺しの序曲」や「迷子の兵隊」の監督なども務めた。(公式)[8][9]- [8] 'Behind-the-Scenes,' Cards on the Table (Poirot tie-in edition*), HarperCollinsPublishers, 2005, p. 341
- [9] Poirot and me: Zoë Wanamaker | Poirot | The Guardian
- * 本書内の書誌情報には Marple tie-in edition と誤記されている
藤波 京子 (ふじなみ きょうこ)
1935年1月3日生まれ、東京都出身。東京俳優生活協同組合所属。ピーター・ユスチノフ主演の「死者のあやまち」でもジーン・ステープルトン演じるミセス・オリヴァーの吹替を担当したほか、ユスチノフ主演の映画「死海殺人事件」でのウェストホルム卿夫人役や「新弁護士ペリー・メイスン」での秘書デラ・ストリート役、女優ではマギー・スミスやシャーリー・マクレーンなど、多くの洋画や海外ドラマで吹替を手がける。「名探偵ポワロ」では、ミセス・オリヴァー役の前に「二重の罪」と「なぞの遺言書」にゲスト出演。(公式)山本 陽子 (やまもと ようこ)
1942年3月17日生まれ、東京都出身。株式会社三陽企画所属(当時)。第7期日活ニューフェイスとしてデビューしたあと、「七人の孫」「白い影」「となりの芝生」「付き馬屋おえん事件帳」などの TV ドラマで活躍。長年務めた山本海苔店の CM でも知られる。声の仕事では、「ER」シリーズのエレノア・カーター役の吹替のほか、「名探偵モンク7」の「堕ちた偶像」にもゲスト出演している。1993年度菊田一夫演劇賞受賞。2024年2月20日、急性心不全により逝去、享年81歳。※ 本ページに掲載のイラスト(版画)は、「複数の時計」でコリン・レース役の吹替も担当された、浜野基彦さんよりご提供いただきました。