誘拐された総理大臣 The Kidnapped Prime Minister
放送履歴
日本
オリジナル版(44分30秒)
- 1991年02月26日 22時00分〜 (NHK総合)
- 1992年04月30日 17時05分〜 (NHK総合)
- 1998年11月05日 15時10分〜 (NHK総合)
- 2003年06月19日 18時00分〜 (NHK衛星第2)
ハイビジョンリマスター版(50分00秒)
- 2016年02月27日 16時00分〜 (NHK BSプレミアム)
- 2016年08月03日 17時00分〜 (NHK BSプレミアム)
- 2020年08月01日 17時10分〜 (NHK BSプレミアム)
- 2021年11月03日 09時00分〜 (NHK BS4K)
- 2022年02月28日 13時00分〜 (NHK BS4K)
- 2022年10月05日 21時00分〜 (NHK BSプレミアム・BS4K)
海外
- 1990年02月25日 (英・ITV)
原作
邦訳
- 「首相誘拐事件」 - 『ポアロ登場』 クリスティー文庫 真崎義博訳
- 「総理大臣の失踪」 - 『ポアロ登場』 ハヤカワミステリ文庫 小倉多加志訳
- 「誘拐された総理大臣」 - 『ポワロの事件簿1』 創元推理文庫 厚木淳訳
- 「首相誘拐事件」 - 『クリスティ短編集2』 新潮文庫 井上宗次・石田英二訳
原書
雑誌等掲載
- The Kidnapped Prime Minister, The Sketch, 25 April 1923 (UK)
- The Kidnapped Premier, The Blue Book Magazine, July 1924 (USA)
短篇集
- The Kidnapped Prime Minister, Poirot Investigates, The Bodley Head, 21 March 1924 (UK)
- The Kidnapped Prime Minister, Poirot Investigates, Dodd Mead, 1925 (USA)
オープニングクレジット
日本
オリジナル版
名探偵ポワロ / AGATHA CHRISTIE'S POIROT / DAVID SUCHET // HUGH FRASER / PHILIP JACKSON / PAULINE MORAN / 誘拐された総理大臣, THE KIDNAPPED PRIME MINISTER / Dramatized by CLIVE EXTON
ハイビジョンリマスター版
名探偵ポワロ / DAVID SUCHET / AGATHA CHRISTIE'S POIROT / 誘拐された総理大臣 // HUGH FRASER / PHILIP JACKSON / PAULINE MORAN / THE KIDNAPPED PRIME MINISTER / Dramatized by CLIVE EXTON
エンディングクレジット
日本
オリジナル版
原作 アガサ・クリスティー 脚本 クライブ・エクストン 監督 アンドリュー・グリーブ 制作 LWT(イギリス) / 出演 ポワロ(デビッド・スーシェ) 熊倉一雄 ヘイスティングス(ヒュー・フレイザー) 富山 敬 ジャップ警部(フィリップ・ジャクソン) 坂口芳貞 ミス・レモン 翠 準子 ドッジ 内田 稔 ダニエルズ中佐 外山高士 ダニエルズ夫人 中西妙子 大木民夫 八木光生 中村秀利 滝 雅也 沢木郁也 水鳥鉄夫 田浦 環 広瀬正志 / 日本語版 宇津木道子 山田悦司 福岡浩美 南部満治 金谷和美
ハイビジョンリマスター版
原作 アガサ・クリスティー 脚本 クライブ・エクストン 演出 アンドリュー・グリーブ 制作 LWT (イギリス) / 出演 ポワロ(デビッド・スーシェ) 熊倉 一雄 ヘイスティングス(ヒュー・フレイザー) 富山 敬/安原 義人 ジャップ警部(フィリップ・ジャクソン) 坂口 芳貞 ミス・レモン(ポーリン・モラン) 翠 準子 ドッジ 内田 稔 ダニエルズ中佐 外山 高士 ダニエルズ夫人 中西 妙子 大木 民夫 八木 光生 中村 秀利 滝 雅也 沢木 郁也 水鳥 鐵夫 田浦 環 広瀬 正志 倉持 良子 田中 英樹 日本語版スタッフ 翻訳 宇津木 道子 演出 山田 悦司 音声 金谷 和美 プロデューサー 里口 千
海外
オリジナル版
Hercule Poirot: DAVID SUCHET; Captain Hastings: HUGH FRASER; Chief Inspector Japp: PHILIP JACKSON; Miss Lemon: PAULINE MORAN; Mrs Daniels: LISA HARROW; Commander Daniels: DAVID HOROVITCH; Sir Bernard Dodge: RONALD HINES; Lord Estair: PATRICK GODFREY; Major Norman: TIMOTHY BLOCK; Egan: JACK ELLIOTT; Landlady: KATE BINCHY; Fingler: MILO SPERBER; Prime Minister: HENRY MOXON; Sergeant Hopper: OLIVER BEAMISH; Shi Mong: ANTHONY CHINN; Transport Superintendent: ROY HEATHER; Urchins: DANIEL JOHN, SAM CLIFTON; Stunts: NICK GILLARD / Developed for Television by Picture Partnership Productions / (中略)Assistant Director: SIMON HINKLY; Location Manager: NIGEL GOSTELOW; Script Supervisor: SHEILA WILSON; Production Co-ordinator: MONICA ROGERS; Accountant: JOHN BEHARRELL; Camera Operator: JAMIE HARCOURT; Focus Puller: HUGH FAIRS; Grip: JOHN ETHERINGTON; Boom Operator: RUDI BUCKLE; Gaffer: DEREK RYMER; Art Director: PETER WENHAM; Set Dresser: CARLOTTA BARROW; Production Buyer: LUDMILLA BARRAS; Property Master: MICKY LENNON; Construction Manager: LES PEACH; Dubbing: PETER LENNARD, MIKE MURR, RUPERT SCRIVENER; Post Production Superviser: RAY HELM; Panaflex 16(R) Camera by Panavision(R); Grip Equipment by Grip House Ltd; Lighting & Generators by Samuelson Lighting Ltd; Made at Twickenham Studios, London, England; Costume Designer: LINDA MATTOCK; Make up Supervisor: ROSEANN SAMUEL; Sound Recordist: KEN WESTON; Titles: PAT GAVIN; Production Manager: MARTIN BOND; Casting: REBECCA HOWARD, LUCY ABERCROMBIE; Editor: DEREK BAIN; Production Supervisor: DONALD TOMS / Production Designer: ROB HARRIS / Director of Photography: IVAN STRASBURG / Theme Music: CHRISTOPHER GUNNING; Incidental Music: FIACHRA TRENCH; Conductor: DAVID SNELL / Executive Producer: NICK ELLIOTT / Producer: BRIAN EASTMAN / Director: ANDREW GRIEVE
あらすじ
国際連盟の会議に出席するべく渡仏した首相が誘拐されたという。会議までに残された時間は32時間と15分。この差し迫った状況にもかかわらず、ポワロは渡仏前の首相がイギリスで受けた襲撃事件ばかりを調べて、一向にフランスへ渡る気配を見せないのだが……
事件発生時期
1935年11月中旬
主要登場人物
エルキュール・ポワロ | 私立探偵 |
アーサー・ヘイスティングス | ポワロの探偵事務所のパートナー、陸軍大尉 |
ジェームス・ジャップ | スコットランド・ヤード主任警部 |
フェリシティ・レモン | ポワロの秘書 |
マカダム | 誘拐された総理大臣 |
エステア卿 | 閣僚 |
サー・バーナード・ドッジ | 外務省の事務次官 |
トニー・ダニエルズ | 首相の秘書官、海軍中佐 |
イモジャン・ダニエルズ | ダニエルズ中佐の元妻 |
ジョン・パトリック・イーガン | 首相の車の運転手、愛称ジャック |
ノーマン | 陸軍少佐 |
解説、みたいなもの
第一次大戦中の事件の打ち明け話というスタイルの原作に対してドラマでは、話題になるドイツの「軍備拡大」問題が原語だと rearming (再軍備) と言われているように、1935年3月になされたドイツの再軍備宣言後となる1935年11月を舞台にしている。そのため、犯行の手口などは原作と同じだが、時代背景や事件の動機に大きな変更が加えられ、ポワロをして「敵にまわしたくない」と言わしめるダニエルズ夫人もドラマで追加された登場人物である。また、政府高官2人が直にポワロを訪ねて国家的重大事件を持ち込むというホームズ譚の「第二の汚点」(『シャーロック・ホームズの帰還』所収)を思わせる冒頭の展開や、ベルギー国王からの推薦にポワロが感激する場面なども、大時代的と判断されたのか劇中では描かれなかった。フランスへ渡った直後にとんぼ返りしたり、空路を選んだりするダイナミックな展開もなくなり、総理大臣の誘拐という重大事件の割には、淡々とした印象を残すかもしれない。会議開始までの猶予が24時間から32時間(プラス15分)に延びているのは、依頼の時刻を昼間に変更した関係か。なお、〈誘拐された総理大臣〉ことマカダム首相は時代設定の異なる原作から登場する架空の人物であり、1935年11月当時の実際の首相はスタンリー・ボールドウィンである。
フィングラー氏が言う「有名なお店でつくりたければどうぞつくってください、みんな私の弟子ですよ」の「有名なお店」は、原語だと Savile Row (サビル・ロウ) という地名が挙げられている。これはロンドンにある、有名な紳士服の仕立屋が立ち並ぶ通りの名前で、日本語の背広はこの「サビル・ロウ」が転訛したとも言われる。日本に置き換えると、「銀座でつくりたければ……」といったイメージだろうか。
ポワロが外務省を訪ねた際に聞こえるのは、国会議事堂の時計塔の鐘、通称ビッグ・ベンの音。オリジナル版では一部がカットされているが、劇中の設定どおりに12時を打っている。外務省の建物は国会議事堂のすこし北に位置し、実際に現地で撮影がおこなわれている。
ポワロがイーガンの部屋でマリア像を見てアイルランド出身と見抜いたのは、聖母マリアを飾るのはカトリックの慣習であり、かつプロテスタント(英国国教会)が主流のイギリスに対し、アイルランドの多くの地域ではカトリックが多数派のためである。
ハイビジョンリマスター版でのみ見られる、ポワロがイーガンの自宅をあとにする場面では、手前に駐まっている車の車体に、マイクや撮影スタッフとおぼしき映り込みが見える。
イーガンの自宅の時計が3時を指しているので、ドーバーに着く頃には時刻も4時半をまわっていると思われるが、11月なら南東イングランドの日の入りは午後4時過ぎなので、劇中は明るすぎる。ドーバーは南東を海に接した町で、車が海沿いを走る場面やポワロがホテルの前を歩く場面では太陽が海側にあるので、夕方という劇中の時刻設定にもかかわらず、午前中の撮影だったことが窺える。また、のちにダニエルズ中佐がナンポン・サン・マルタンで日が昇った時刻を「6時頃」と言うが、こちらも日の出は早くて午前7時頃になるはずである。
ポワロが海沿いのホテルで考え事を終えたあと、ドッジ次官が「港に戻るんだ」と言うが、「名探偵ポワロ」のオリジナル版では港の場面はまるまるカットされてしまっており、一行は一度も港に立ち寄らないので、違和感を覚えた人があるかもしれない。ハイビジョンリマスター版で見られるその場面では、海兵の行進に対する「左! 右! 左! 右!」という号令が聞こえるが、日本語音声だと号令と海兵の出す足が合っていない。また、ジャップ警部がそこで「このままじゃわたしの年給はパアですよ」とぼやくが、「年給」は1年あたりの給料のことなのに対し、原語でパアになるのは pension (年金) である(なお、のちにジャップ警部がもう一度ぼやいたときには、その場面がオリジナル版から存在したこともあり、日本語でもちゃんと「年金」がパアになる)。そして、ポワロが港からホテルへ向かう途中、郵便ポストを通過するあたりで車の窓ガラスに映り込む看板は、現代的なデザインに見える。なお、これらの海沿いの場面はケント州のドーバーにおける現地ロケだが、ホテル・シー・ビューに使われた建物は、実際にはドーバー港湾局のもの。また、冒頭でジャップ警部が首相を待っているチャリング・クロス駅も、ドーバーの旧ドーバー・マリン駅で撮影されている。
ドーバーから病院めぐりへ向かう際、ジャップ警部が「前の車を見失うな。誘拐はもうたくさんだ」と言った次の場面では、ポワロとヘイスティングス、ドッジ次官が乗っているはずの前の車の中に運転手しか見えず、車は見失っていなくても肝腎の乗員を見失っている。
イギリスでは現在に至るまで協議離婚が認められておらず、離婚にあたっては裁判での承認が必要になる。ダニエルズ中佐夫妻の離婚裁判がおこなわれたのは「去年」ということなので1934年のことと考えられるが、1923年から1937年のあいだに離婚事由として認められたのは相手の不貞のみであった[1]。したがって、不貞の事実がない婚姻関係の破綻だけでは離婚できないはずで、「離婚裁判で大騒ぎした」際に「夫人の申し立てはすべて根拠のない出鱈目だった」とすると、離婚が成立している様子なのが不思議に思われるかもしれない。しかし、原語だと夫人の「申し立て」は countersuit (応訴) と言われているので、中佐が夫人の不貞を理由に離婚訴訟を提起したのに対し、夫人が反論として中佐の仕打ちを持ち出して糾弾したが認められず、中佐の訴えが通って離婚が成立したと受け取れる。なお(特にかつての)イギリスでは、離婚した女性は、再婚までは離婚前の姓あるいは姓名に「夫人 (Mrs)」をつけて呼ばれるのが通例である。
ハイビジョンリマスター版で病院めぐりをしている際にポワロが行き先として告げる「ヘルトハム」こと Feltham (フェルタム) は、ロンドンとウィンザーのあいだに実在する町。 Buckingham (バッキンガム) や Clapham (クラパム) などに見られるように、この形の地名は本来 h を発音しないのだが、英語が堪能でないポワロは、原語でも「フェルトハム」と h の音を入れて発音している。
ボクソール自動車の場面では、電話ボックスや建物のガラスに、おそらくは現代の警告灯や、前の道を行き交う自動車のライトが映ってしまっている。
ダニエルズ中佐の家を辞去したあと、ドッジ次官が「わざわざロンドンに引き返してダニエルズに会ったところで」と言うが、その前にいた Vauxhall Cars (ボクソール自動車) が名前のとおりロンドンのテムズ川南岸ボクソールにあるとしたら、その時点でもうロンドンに戻っている。なお、「ボクソール」はその地名に由来する自動車メーカーの名前でもある(カタカナでは「ボクスホール」とも表記される)が、ショールーム内に展示されていたのはオースチン社製の車であり、ここでは地名と受け取るのが妥当か。
ダニエルズ夫人の家の、窓のあいだの壁に掛けられた絵は、レンブラントによる象のスケッチを左右反転して模写したものか。
ヘイスティングスの愛車、ラゴンダが久しぶりに登場し、カーチェイスを繰り広げる。ヘイスティングスによるカーチェイスの場面はこれまでにも何度かあったが、ラゴンダでのカーチェイスは初めて。しかし、分かれ道で進むべき道がわからなくなって追跡を断念したふうなのに、その先を二手に分かれて捜索するのではなく、相手に気づかれた場所へ戻って捜査をおこなうのはいささか不自然に思われる。なお、このカーチェイスに関連して言及される地名のうち、ベージングストークとアンドーバーは実在の地名だが、撮影はサリー州ウォーキング郊外のオッカム(余談ながら、この Ockham も h を発音しない地名)から始まるオッカム・レーンでおこなわれている。ただし、ヘイスティングスたちの車はこのオッカム・レーンのあちこちを西へ向かったり東へ向かったりしている上、のちにヘイスティングスがダニエルズ夫人に撒かれる場所や、ポワロに連絡を入れる電話ボックスの前は(ハイビジョンリマスター版でないとカットされているが)その前に同じ場所を通過していたりする。
冒頭に首相がチャリング・クロス駅に到着したときの劇伴や、ダニエルズ中佐宅の訪問を終えたポワロが「ベッドに」向かう場面の劇伴は、「消えた廃坑」のダイアー追跡場面で使われていたのと同じ曲。中盤の病院めぐりをしているときの劇伴や、終盤のサマースコート館を軍が包囲していく場面の劇伴も同じモチーフをアレンジしている。また、ポワロがダニエルズ夫人の家の前をあとにする場面やカーチェイスの劇伴は「ダベンハイム失そう事件」のテーマ曲のアレンジで、同作品のレース場でジャップ警部の財布がひったくられる場面でも使われていた。
ヘイスティングスがダニエルズ夫人の家の前に車を駐めた際、緑地をはさんで反対側の家の2階の壁に警報装置らしき設備が見える。また、ダニエルズ夫人の家の前にはスピードバンプ(車の減速をうながすための路面の突起)があるが、1930年代にはまだ導入されていないはず。その前にクレセントの入り口で車を一時停止させるところでも、スピードバンプ自体は見えないが、スピードバンプを乗り越えたように車が上下動している。
フィングラー氏の仕立屋やイーガンのフラットの撮影がおこなわれたのは、ベスナル・グリーンのバーネット・グローブおよびキルター・ストリート。ウィンザーからダチェットへの幹線道路は、カーチェイスも撮影されたオッカム・レーンの東側終点の三叉路。首相の手当てをした病院を捜している途中で立ち寄り、ドッジ次官が電話で連絡を取っていたボクソール自動車は、エガム(さらに余談ながら、この Egham も h を発音しない地名)にあるタワー・ガレージという建物で、現在はフェラーリ社店舗。ダニエルズ中佐のマンションのある路地はフィッツロヴィアのウェルズ・ミューズだが、屋内はサリー州チャートシーにあるセント・アンズ・コートという戸建ての住宅で撮影されており、マンション内各戸の玄関のドアに鍵がかかりそうに見えないのはそのため。なお、中佐の部屋は劇中だと階段をのぼった先にあるが、部屋の中が撮影されたのは家の1階と見られる。ダニエルズ夫人の家の所在はクラパムのクレセント・グローブ。バークシャーにあるというサマースコート館は、ケント州グリーンハイスにあるイングレス・パークのイングレス・アビー。「名探偵ポワロ」ではハイビジョンリマスター版だけで見られる、ヘルトハムもといフェルタムの病院は、実はロンドン市街クラーケンウェルにあるフィンズベリー・ヘルス・センターである。
ダニエルズ中佐役のデビッド・ホロビッチは、ジョーン・ヒクソン主演の「ミス・マープル」シリーズでスラック警部を演じている。また、エステア卿役のパトリック・ゴドフリーは、「コーンワルの毒殺事件」でペンゲリー夫人を演じたアマンダ・ウォーカーの夫である。
ジャップ警部のオフィスにポワロが入っていく際、警部が電話口で言う 'No, sir. (いいえ)' や、ヘイスティングスから電話を受けてポワロが「もしもし?」と言ったあとにヘイスティングスが言う 'Poirot? (ポワロさん?)' は、日本語音声には台詞がない。また逆に、イーガンの住所録に書かれた Mayfair 2537 という電話番号をポワロが心のなかで読み上げる台詞は、日本語音声のみのもの。このように、外国語で書かれた書面について、説明のためにそれを読み上げる台詞を日本語音声で追加するのは、吹替作品でしばしば見られる手法。また、ハイビジョンリマスター版でヘイスティングスからの電話を待っている際にジャップ警部が紅茶に口をつけて言う「うまい」は、原語だと息をついているだけである。
ハイビジョンリマスター版ではポワロの部屋の電話がアップになる場面を見ることができ、「ベールをかけた女」に引きつづいてダイヤルに TRAFALGAR 8317 と書かれているのが見える。ドラマのこの電話以外や、「死者のあやまち」原作でのポワロの電話番号はトラファルガーの8137番である。
ハイビジョンリマスター版では、スコットランド・ヤードの外観が映るカットに「ロンドン警視庁」という字幕が追加された。一方、ハイビジョンリマスター版の切換式字幕では、ジャップ警部のオフィスでの会話で「泥試合」という言葉が出てくるが、これは「泥仕合」と書くのが一般的ではないかしら。また、ハイビジョンリマスター版には、ポワロの部屋で電話を受けたジャップ警部が「ジャップだ。ギャントウェル、何があったって?」と言う場面があるが、このときの切換式字幕には「ギャントウェル」という呼びかけの部分が含まれない。なお、そのジャップ警部の部下の名前は原語だと Cantwell で、オリジナル版から存在するその後の場面では「カントウェル」と呼ばれており、追加吹替部分の切換式字幕から呼びかけの部分が除かれたのは、日本語での名前の揺れに配慮したためだろうか。
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原作の舞台となっていた第一次大戦末期は、復活祭蜂起鎮圧後の処断への反発からアイルランド独立の気運が高まっていた頃で、そうした背景がアイルランド系の名字を持つ運転手のオマーフィ(ドラマでのイーガンに当たる役どころ)に疑いの目を向けさせたが、真相はドイツ人スパイの暗躍だった。しかし大戦間に時代設定を移したドラマではドイツ人スパイにそこまで直接的な行動をとらせるわけにもいかなかったのか、原作でミスリードに過ぎなかったアイルランド問題が犯行の動機として取って代わっている(ただし、イーガンの持っていた拳銃はドイツ製のルガーP08であり、そこにドイツの関与の可能性を見ることもできなくはない)。劇中当時のアイルランドは独立を果たして10年以上が経っていたものの、現在もブリテン島と連合王国を構成する北東部(北アイルランド)は、イギリスの一部として残っていた。これは、北東部ではイギリスからの入植者であるプロテスタントが主流派として社会的に優位に立っており、アイルランド全体としての独立となると、全島では多数派を占めるカトリックに対して、自分たちが少数派に転落してしまうのを恐れたのが理由だった。当時の北アイルランドのカトリックはプロテスタントの優位を脅かさないよう被差別的な扱いを受けており、それがしばしばアイルランドの統一を求める勢力の過激な行動を誘発する一方、プロテスタント側からも苛烈な報復がおこなわれ、1933年から1935年にかけては暴動がつづいていた。[2][3][4]
ダニエルズ中佐の父親がアスキス首相と袂を分かつ原因になったというアイルランド自治法案は、グラッドストン内閣の頃より自由党の懸案だった法案で、数度の否決を経て1914年に成立の見通しとなった。しかし、自治を望まないアイルランド北東部からの強硬な反対によりアイルランド情勢が不安定化したため部分的な内容となった上、第一次大戦の勃発を受けて実施が延期された。[2][3][4]その後の中佐の行動に鑑みると、アイルランド自治法に激しく反対したという父親はおそらく、アイルランド自治に反対だったのではなく、その妥協的対応を批判し、むしろもっと自治を推進するべきと主張したのだろう。なお、マカダム首相と異なりアスキス首相は実在の人物で、「チョコレートの箱」でビルジニーを演じるアンナ・チャンセラーはその子孫である。
イギリスの伯爵以上の爵位号にはたいてい、その所領など由縁のある土地の地名が用いられる。ダニエルズ夫人の生家であるコニマラ伯爵家のコニマラとはアイルランド西部の地名であり、ここはカトリックが主流の地域である。
ダニエルズ夫人が最後に叫ぶ「エリン・ゴ・ブラー (Éirinn go brách)」はアイルランドへの忠誠を示す際に用いられるフレーズで、アイルランド語で Éirinn が「アイルランド」、 go が「~まで」、 brách が「永遠」「時の果て」を表し、全体で「アイルランドよ、永遠なれ」という意味になる。そのため、ポワロも「そう、『アイルランド万歳 (Ireland forever)』」とつぶやく。
フィングラー氏が言う「有名なお店でつくりたければどうぞつくってください、みんな私の弟子ですよ」の「有名なお店」は、原語だと Savile Row (サビル・ロウ) という地名が挙げられている。これはロンドンにある、有名な紳士服の仕立屋が立ち並ぶ通りの名前で、日本語の背広はこの「サビル・ロウ」が転訛したとも言われる。日本に置き換えると、「銀座でつくりたければ……」といったイメージだろうか。
ポワロが外務省を訪ねた際に聞こえるのは、国会議事堂の時計塔の鐘、通称ビッグ・ベンの音。オリジナル版では一部がカットされているが、劇中の設定どおりに12時を打っている。外務省の建物は国会議事堂のすこし北に位置し、実際に現地で撮影がおこなわれている。
ポワロがイーガンの部屋でマリア像を見てアイルランド出身と見抜いたのは、聖母マリアを飾るのはカトリックの慣習であり、かつプロテスタント(英国国教会)が主流のイギリスに対し、アイルランドの多くの地域ではカトリックが多数派のためである。
ハイビジョンリマスター版でのみ見られる、ポワロがイーガンの自宅をあとにする場面では、手前に駐まっている車の車体に、マイクや撮影スタッフとおぼしき映り込みが見える。
イーガンの自宅の時計が3時を指しているので、ドーバーに着く頃には時刻も4時半をまわっていると思われるが、11月なら南東イングランドの日の入りは午後4時過ぎなので、劇中は明るすぎる。ドーバーは南東を海に接した町で、車が海沿いを走る場面やポワロがホテルの前を歩く場面では太陽が海側にあるので、夕方という劇中の時刻設定にもかかわらず、午前中の撮影だったことが窺える。また、のちにダニエルズ中佐がナンポン・サン・マルタンで日が昇った時刻を「6時頃」と言うが、こちらも日の出は早くて午前7時頃になるはずである。
ポワロが海沿いのホテルで考え事を終えたあと、ドッジ次官が「港に戻るんだ」と言うが、「名探偵ポワロ」のオリジナル版では港の場面はまるまるカットされてしまっており、一行は一度も港に立ち寄らないので、違和感を覚えた人があるかもしれない。ハイビジョンリマスター版で見られるその場面では、海兵の行進に対する「左! 右! 左! 右!」という号令が聞こえるが、日本語音声だと号令と海兵の出す足が合っていない。また、ジャップ警部がそこで「このままじゃわたしの年給はパアですよ」とぼやくが、「年給」は1年あたりの給料のことなのに対し、原語でパアになるのは pension (年金) である(なお、のちにジャップ警部がもう一度ぼやいたときには、その場面がオリジナル版から存在したこともあり、日本語でもちゃんと「年金」がパアになる)。そして、ポワロが港からホテルへ向かう途中、郵便ポストを通過するあたりで車の窓ガラスに映り込む看板は、現代的なデザインに見える。なお、これらの海沿いの場面はケント州のドーバーにおける現地ロケだが、ホテル・シー・ビューに使われた建物は、実際にはドーバー港湾局のもの。また、冒頭でジャップ警部が首相を待っているチャリング・クロス駅も、ドーバーの旧ドーバー・マリン駅で撮影されている。
ドーバーから病院めぐりへ向かう際、ジャップ警部が「前の車を見失うな。誘拐はもうたくさんだ」と言った次の場面では、ポワロとヘイスティングス、ドッジ次官が乗っているはずの前の車の中に運転手しか見えず、車は見失っていなくても肝腎の乗員を見失っている。
イギリスでは現在に至るまで協議離婚が認められておらず、離婚にあたっては裁判での承認が必要になる。ダニエルズ中佐夫妻の離婚裁判がおこなわれたのは「去年」ということなので1934年のことと考えられるが、1923年から1937年のあいだに離婚事由として認められたのは相手の不貞のみであった[1]。したがって、不貞の事実がない婚姻関係の破綻だけでは離婚できないはずで、「離婚裁判で大騒ぎした」際に「夫人の申し立てはすべて根拠のない出鱈目だった」とすると、離婚が成立している様子なのが不思議に思われるかもしれない。しかし、原語だと夫人の「申し立て」は countersuit (応訴) と言われているので、中佐が夫人の不貞を理由に離婚訴訟を提起したのに対し、夫人が反論として中佐の仕打ちを持ち出して糾弾したが認められず、中佐の訴えが通って離婚が成立したと受け取れる。なお(特にかつての)イギリスでは、離婚した女性は、再婚までは離婚前の姓あるいは姓名に「夫人 (Mrs)」をつけて呼ばれるのが通例である。
ハイビジョンリマスター版で病院めぐりをしている際にポワロが行き先として告げる「ヘルトハム」こと Feltham (フェルタム) は、ロンドンとウィンザーのあいだに実在する町。 Buckingham (バッキンガム) や Clapham (クラパム) などに見られるように、この形の地名は本来 h を発音しないのだが、英語が堪能でないポワロは、原語でも「フェルトハム」と h の音を入れて発音している。
ボクソール自動車の場面では、電話ボックスや建物のガラスに、おそらくは現代の警告灯や、前の道を行き交う自動車のライトが映ってしまっている。
ダニエルズ中佐の家を辞去したあと、ドッジ次官が「わざわざロンドンに引き返してダニエルズに会ったところで」と言うが、その前にいた Vauxhall Cars (ボクソール自動車) が名前のとおりロンドンのテムズ川南岸ボクソールにあるとしたら、その時点でもうロンドンに戻っている。なお、「ボクソール」はその地名に由来する自動車メーカーの名前でもある(カタカナでは「ボクスホール」とも表記される)が、ショールーム内に展示されていたのはオースチン社製の車であり、ここでは地名と受け取るのが妥当か。
ダニエルズ夫人の家の、窓のあいだの壁に掛けられた絵は、レンブラントによる象のスケッチを左右反転して模写したものか。
ヘイスティングスの愛車、ラゴンダが久しぶりに登場し、カーチェイスを繰り広げる。ヘイスティングスによるカーチェイスの場面はこれまでにも何度かあったが、ラゴンダでのカーチェイスは初めて。しかし、分かれ道で進むべき道がわからなくなって追跡を断念したふうなのに、その先を二手に分かれて捜索するのではなく、相手に気づかれた場所へ戻って捜査をおこなうのはいささか不自然に思われる。なお、このカーチェイスに関連して言及される地名のうち、ベージングストークとアンドーバーは実在の地名だが、撮影はサリー州ウォーキング郊外のオッカム(余談ながら、この Ockham も h を発音しない地名)から始まるオッカム・レーンでおこなわれている。ただし、ヘイスティングスたちの車はこのオッカム・レーンのあちこちを西へ向かったり東へ向かったりしている上、のちにヘイスティングスがダニエルズ夫人に撒かれる場所や、ポワロに連絡を入れる電話ボックスの前は(ハイビジョンリマスター版でないとカットされているが)その前に同じ場所を通過していたりする。
冒頭に首相がチャリング・クロス駅に到着したときの劇伴や、ダニエルズ中佐宅の訪問を終えたポワロが「ベッドに」向かう場面の劇伴は、「消えた廃坑」のダイアー追跡場面で使われていたのと同じ曲。中盤の病院めぐりをしているときの劇伴や、終盤のサマースコート館を軍が包囲していく場面の劇伴も同じモチーフをアレンジしている。また、ポワロがダニエルズ夫人の家の前をあとにする場面やカーチェイスの劇伴は「ダベンハイム失そう事件」のテーマ曲のアレンジで、同作品のレース場でジャップ警部の財布がひったくられる場面でも使われていた。
ヘイスティングスがダニエルズ夫人の家の前に車を駐めた際、緑地をはさんで反対側の家の2階の壁に警報装置らしき設備が見える。また、ダニエルズ夫人の家の前にはスピードバンプ(車の減速をうながすための路面の突起)があるが、1930年代にはまだ導入されていないはず。その前にクレセントの入り口で車を一時停止させるところでも、スピードバンプ自体は見えないが、スピードバンプを乗り越えたように車が上下動している。
フィングラー氏の仕立屋やイーガンのフラットの撮影がおこなわれたのは、ベスナル・グリーンのバーネット・グローブおよびキルター・ストリート。ウィンザーからダチェットへの幹線道路は、カーチェイスも撮影されたオッカム・レーンの東側終点の三叉路。首相の手当てをした病院を捜している途中で立ち寄り、ドッジ次官が電話で連絡を取っていたボクソール自動車は、エガム(さらに余談ながら、この Egham も h を発音しない地名)にあるタワー・ガレージという建物で、現在はフェラーリ社店舗。ダニエルズ中佐のマンションのある路地はフィッツロヴィアのウェルズ・ミューズだが、屋内はサリー州チャートシーにあるセント・アンズ・コートという戸建ての住宅で撮影されており、マンション内各戸の玄関のドアに鍵がかかりそうに見えないのはそのため。なお、中佐の部屋は劇中だと階段をのぼった先にあるが、部屋の中が撮影されたのは家の1階と見られる。ダニエルズ夫人の家の所在はクラパムのクレセント・グローブ。バークシャーにあるというサマースコート館は、ケント州グリーンハイスにあるイングレス・パークのイングレス・アビー。「名探偵ポワロ」ではハイビジョンリマスター版だけで見られる、ヘルトハムもといフェルタムの病院は、実はロンドン市街クラーケンウェルにあるフィンズベリー・ヘルス・センターである。
ダニエルズ中佐役のデビッド・ホロビッチは、ジョーン・ヒクソン主演の「ミス・マープル」シリーズでスラック警部を演じている。また、エステア卿役のパトリック・ゴドフリーは、「コーンワルの毒殺事件」でペンゲリー夫人を演じたアマンダ・ウォーカーの夫である。
ジャップ警部のオフィスにポワロが入っていく際、警部が電話口で言う 'No, sir. (いいえ)' や、ヘイスティングスから電話を受けてポワロが「もしもし?」と言ったあとにヘイスティングスが言う 'Poirot? (ポワロさん?)' は、日本語音声には台詞がない。また逆に、イーガンの住所録に書かれた Mayfair 2537 という電話番号をポワロが心のなかで読み上げる台詞は、日本語音声のみのもの。このように、外国語で書かれた書面について、説明のためにそれを読み上げる台詞を日本語音声で追加するのは、吹替作品でしばしば見られる手法。また、ハイビジョンリマスター版でヘイスティングスからの電話を待っている際にジャップ警部が紅茶に口をつけて言う「うまい」は、原語だと息をついているだけである。
ハイビジョンリマスター版ではポワロの部屋の電話がアップになる場面を見ることができ、「ベールをかけた女」に引きつづいてダイヤルに TRAFALGAR 8317 と書かれているのが見える。ドラマのこの電話以外や、「死者のあやまち」原作でのポワロの電話番号はトラファルガーの8137番である。
ハイビジョンリマスター版では、スコットランド・ヤードの外観が映るカットに「ロンドン警視庁」という字幕が追加された。一方、ハイビジョンリマスター版の切換式字幕では、ジャップ警部のオフィスでの会話で「泥試合」という言葉が出てくるが、これは「泥仕合」と書くのが一般的ではないかしら。また、ハイビジョンリマスター版には、ポワロの部屋で電話を受けたジャップ警部が「ジャップだ。ギャントウェル、何があったって?」と言う場面があるが、このときの切換式字幕には「ギャントウェル」という呼びかけの部分が含まれない。なお、そのジャップ警部の部下の名前は原語だと Cantwell で、オリジナル版から存在するその後の場面では「カントウェル」と呼ばれており、追加吹替部分の切換式字幕から呼びかけの部分が除かれたのは、日本語での名前の揺れに配慮したためだろうか。
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原作の舞台となっていた第一次大戦末期は、復活祭蜂起鎮圧後の処断への反発からアイルランド独立の気運が高まっていた頃で、そうした背景がアイルランド系の名字を持つ運転手のオマーフィ(ドラマでのイーガンに当たる役どころ)に疑いの目を向けさせたが、真相はドイツ人スパイの暗躍だった。しかし大戦間に時代設定を移したドラマではドイツ人スパイにそこまで直接的な行動をとらせるわけにもいかなかったのか、原作でミスリードに過ぎなかったアイルランド問題が犯行の動機として取って代わっている(ただし、イーガンの持っていた拳銃はドイツ製のルガーP08であり、そこにドイツの関与の可能性を見ることもできなくはない)。劇中当時のアイルランドは独立を果たして10年以上が経っていたものの、現在もブリテン島と連合王国を構成する北東部(北アイルランド)は、イギリスの一部として残っていた。これは、北東部ではイギリスからの入植者であるプロテスタントが主流派として社会的に優位に立っており、アイルランド全体としての独立となると、全島では多数派を占めるカトリックに対して、自分たちが少数派に転落してしまうのを恐れたのが理由だった。当時の北アイルランドのカトリックはプロテスタントの優位を脅かさないよう被差別的な扱いを受けており、それがしばしばアイルランドの統一を求める勢力の過激な行動を誘発する一方、プロテスタント側からも苛烈な報復がおこなわれ、1933年から1935年にかけては暴動がつづいていた。[2][3][4]
ダニエルズ中佐の父親がアスキス首相と袂を分かつ原因になったというアイルランド自治法案は、グラッドストン内閣の頃より自由党の懸案だった法案で、数度の否決を経て1914年に成立の見通しとなった。しかし、自治を望まないアイルランド北東部からの強硬な反対によりアイルランド情勢が不安定化したため部分的な内容となった上、第一次大戦の勃発を受けて実施が延期された。[2][3][4]その後の中佐の行動に鑑みると、アイルランド自治法に激しく反対したという父親はおそらく、アイルランド自治に反対だったのではなく、その妥協的対応を批判し、むしろもっと自治を推進するべきと主張したのだろう。なお、マカダム首相と異なりアスキス首相は実在の人物で、「チョコレートの箱」でビルジニーを演じるアンナ・チャンセラーはその子孫である。
イギリスの伯爵以上の爵位号にはたいてい、その所領など由縁のある土地の地名が用いられる。ダニエルズ夫人の生家であるコニマラ伯爵家のコニマラとはアイルランド西部の地名であり、ここはカトリックが主流の地域である。
ダニエルズ夫人が最後に叫ぶ「エリン・ゴ・ブラー (Éirinn go brách)」はアイルランドへの忠誠を示す際に用いられるフレーズで、アイルランド語で Éirinn が「アイルランド」、 go が「~まで」、 brách が「永遠」「時の果て」を表し、全体で「アイルランドよ、永遠なれ」という意味になる。そのため、ポワロも「そう、『アイルランド万歳 (Ireland forever)』」とつぶやく。
- [1] Divorce since 1900 - UK Parliament
- [2] 波多野裕造, 『物語 アイルランドの歴史』, 中央公論新社, 1994, pp. 212-213, 217-225, 251-252
- [3] W・A・スペック (訳: 月森左知, 水戸尚子), 『イギリスの歴史』, 創土社, 2004, pp. 203-205, 213-214
- [4] 堀越智, 『北アイルランド紛争の歴史』, 論創社, 1996, pp. 68-76, 105-116
ロケ地写真
カットされた場面
日本
オリジナル版
[04:17/0:19] | ヘイスティングスが車に群がっていた子供たちを追い払う場面 |
[05:50/0:36] | 外務省の内外をポワロが歩く場面 |
[13:24/1:54] | イーガンの部屋をあとにするポワロ一行 〜 海沿いの道路を走り抜ける車 〜 港で船に乗るのを嫌がるポワロ 〜 ホテルへ向かうポワロと併走する車 |
[16:26/0:40] | ポワロが病院めぐりをする場面の一部 |
[32:03/1:45] | ヘイスティングスとダニエルズ夫人のカーチェイス 〜 ヘイスティングスからの連絡を待つポワロたち 〜 再びカーチェイス 〜 ジャップ警部が浮浪者逮捕・釈放の報を受ける場面 |
ハイビジョンリマスター版
なし映像ソフト
- [VHS, LD] 「名探偵ポアロシリーズ Vol.5 総理大臣の失踪, 〈西部の星〉盗難事件」(字幕) ハミングバード
- [VHS] 「名探偵エルキュール・ポアロ 第18巻 総理大臣の失踪」(字幕) 日本クラウン
- [DVD] 「名探偵ポワロ 10 誘拐された総理大臣, 西洋の星の盗難事件」(字幕・吹替) ビームエンタテインメント(現ハピネット・ピクチャーズ)※1
- [DVD] 「名探偵ポワロ [完全版] 10 誘拐された総理大臣, 西洋の星の盗難事件」(字幕・吹替) ハピネット・ピクチャーズ※2
- [DVD] 「名探偵ポワロ DVDコレクション 42 首相誘拐事件」(字幕・吹替) デアゴスティーニ・ジャパン※3
- [BD] 「名探偵ポワロ Blu-ray BOX Disc 5 二重の罪, 安いマンションの事件, 誘拐された総理大臣, 西洋の星の盗難事件」(字幕/吹替) ハピネット・ピクチャーズ※4
- ※1 「名探偵ポワロ DVD-BOX1」にも収録
- ※2 「名探偵ポワロ [完全版] DVD-BOX1」「名探偵ポワロ [完全版] 全巻 DVD-SET」「名探偵ポワロ [完全版] DVD-SET 3」にも収録
- ※3 吹替は大塚智則さん主演の新録で、映像もイギリスで販売されているDVDと同じバリエーションを使用
- ※4 「名探偵ポワロ Blu-ray BOX vol. 1」に収録
同原作の映像化作品
- [アニメ] 「アガサ・クリスティーの名探偵ポワロとマープル 第9話〜第10話 総理大臣の失踪」 2004年 監督:高橋ナオヒト 出演:里見浩太朗、折笠富美子、野島裕史、屋良有作、田中敦子